2021 年 70 巻 2 号 p. 267-272
B群連鎖球菌(Group B Streptococcus;以下GBS)は垂直感染により新生児における髄膜炎および敗血症に関与する主な起炎菌である。アメリカ疾病予防管理センターの「Prevention of Perinatal Group B Streptococcal Disease Revised Guidelines from CDC, 2010」では,妊娠35~37週に増菌培養法を推奨している。6施設で合同検討する機会を得たので,GBS増菌培地の施設間の比較および有用性を報告する。また,非溶血性GBSを逃さないようにするため直接ラテックス凝集法の検討も実施し,直接培養法,増菌培養法(サブカルチャー法および直接ラテックス凝集法)の3法を用いてGBSの検出数を調査した。直接培養法と増菌培養法の比較では,6施設中5施設で増菌培養法により1.0~2.0倍陽性率が上昇し平均1.4倍であった。当院において1年間追加検討を実施した結果,1.6倍となり,差は認められなかった。サブカルチャー法と直接ラテックス凝集法では,全施設でGBSの同定結果と乖離は認められなかったため,サブカルチャー法を省略することができると示唆された。GBSスクリーニング検査の検出率向上のため,増菌培養は有用であると考えられる。
Group B streptococci (GBS) are the most common causative pathogen of neonatal meningitis and sepsis through vertical transmission. The current CDC guidelines for the prevention of perinatal GBS (“Prevention of Perinatal Group B Streptococcal Disease-Revised Guidelines from CDC, 2010”) recommends screening of all pregnant women for GBS colonization at 35–37 weeks’ gestation using enrichment cultures. We compared the enrichment medium for GBS used at six centers and discuss their usefulness. In addition, a direct latex agglutination test was introduced to identify non-hemolytic GBS that may be missed by usual procedures, and thus the GBS detection was performed using three methods: one direct culture and two enrichment cultures (subculture and direct latex agglutination). In a comparison between the direct and enrichment culture methods using the enrichment culture at five of the six centers, we found a 1.0- to 2.0-fold increase in the positivity rate of GBS with an average of 1.4-fold. An additional study was conducted at our hospital for one year, but the number increased 1.6-fold, which however was not significantly different from those from other centers. The results of the subculture and direct latex agglutination methods did not deviate from the GBS identification results in all centers, suggesting that the subculture method can be omitted. The enrichment culture method has a higher rate of detection of infection and seems to be useful in improving the accuracy of perinatal GBS screening.
B群溶血性連鎖球菌(Group B Streptococcus;以下GBS)は,膣の常在菌である。出産時に垂直感染することで,敗血症や髄膜炎を発症させる主要な起因菌となる。アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Diseases Control and Prevention)では,新生児におけるGBS疾患の予防に関するガイドライン(Prevention of Perinatal Group B Streptococcal Disease Revised Guidelines from CDC, 2010)1)を発行しており,そこでは妊娠35~37週に増菌培養法を推奨している。一方,日本産科婦人科学会のガイドライン「産婦人科診療ガイドライン―産科編2017」では,GBSスクリーニング検査を推奨しているが,増菌培養の必要性には触れていない2)。直接培養法と増菌培養法の陽性率は,国内では岩崎ら3)と渋谷ら4)が報告しており有用性が示されている。しかしながら,本邦の多くの施設では,いまだ血液寒天培地などに直接塗布して培養する直接培養法のみが用いられている。また,多施設間にわたり,比較・検討を行った報告はされてない。
JA北海道厚生連で院内に細菌検査室がある6施設(旭川・帯広・札幌・網走・遠軽・倶知安)で多施設合同検討する機会を得たのでGBS増菌培地の施設間の比較結果および増菌培養の有用性を報告する。また,GBS陰性と報告する可能性が危惧される非溶血性GBSを逃さないようにするため,増菌培養液を用いた直接ラテックス凝集法の検討も実施した。さらに単独施設と多施設で比較するため,当院において1年間の追加検討を行った。
2018年6月から10月に各施設の産婦人科を受診し,培養の依頼があった妊婦の膣分泌液擦過物455検体(旭川148件,帯広113件,網走104件,札幌・遠軽・倶知安各30件)を対象とした。
2) 当院単独検討2018年9月から2019年8月に当院産婦人科を受診し,培養の依頼があった妊婦の膣分泌液擦過物1,585件を対象とした。
2. 使用試薬・培地・GBS増菌培地(極東製薬工業株式会社)
・トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地(以下TSA,日本ベクトン・ディキットソン株式会社)
・セロアイデン ストレプトキット‘栄研’(栄研化学株式会社)
3. 方法直接培養法,増菌培養法(サブカルチャー法および直接ラテックス凝集法)の3法を用いて,GBSの検出数を調査した。操作法をFigure 1に示す。
Direct culture and enrichment cultures (subculture and direct latex agglutination)
滅菌綿棒(BD BBLカルチャースワブ,BD BBLカルチャースワブ プラス)で採取された膣分泌液擦過検体をTSAに塗布した。培養条件は,各施設ルーチンで行っている方法に基づき行った。
なお,当院単独検討の培養条件は35℃,5% CO2存在下で18~48時間培養後,集落の性状からGBSが疑われるものをTSAで純培養し,グラム陽性連鎖球菌,カタラーゼ試験陰性,連鎖球菌抗原BとなったものをGBSとした。
2) 増菌培養法直接培養法実施後,膣分泌液擦過検体をGBS増菌培地に直接挿入し,管壁に擦りつけ十分洗い出した。
35℃,18~24時間好気培養し,GBS増菌培地の色調が変化(黄色もしくは紫色と黄色の中間色)した場合は,転倒混和し,TSAに塗抹した。培養条件は35℃ 5% CO2存在下,18~24時間培養を行った。GBSを疑う集落が発育した場合は,各施設ルーチンで行っている方法に基づき同定を行った。無変化の場合はGBS陰性とし,検査終了とした。
3) 直接ラテックス凝集法増菌培養法にてGBS増菌培地の色調が変化(黄色もしくは紫色と黄色の中間色)した培地を転倒混和し,増菌培養液を試料として各群の抗体感作ラテックス液を滴下し,撹拌した。2分以内に凝集したものを陽性とし,連鎖球菌抗原Bで陽性になった検体をGBS陽性と判定した。
各施設の直接培養法と増菌培養法の結果をTable 1に示す。直接培養法の陽性率は,旭川6.1%,帯広9.7%,網走4.8%,札幌20.0%,遠軽10.0%,倶知安6.7%であり,平均7.9%であった。
direct culture GBS positive number (%) |
enrichment culture GBS positive number (%) |
GBS positive number (enrichment culture/direct culture) |
<reference> Number of deliveries (2017) |
|
---|---|---|---|---|
Asahikawa | 9 (6.1) | 14 (9.5) | 1.6 times | 829 |
Obihiro | 11 (9.7) | 15 (13.3) | 1.4 times | 984 |
Abashiri | 5 (4.8) | 10 (9.6) | 2.0 times | 356 |
Sapporo | 6 (20.0) | 7 (23.3) | 1.2 times | 149 |
Engaru | 3 (10.0) | 3 (10.0) | 1.0 times | 147 |
Kutchan | 2 (6.7) | 3 (10.0) | 1.5 times | 187 |
Average | 6 (7.9) | 8.7 (11.4) | 1.4 times | 442 |
また,増菌培養法の陽性率は旭川9.5%,帯広13.3%,網走9.6%,札幌23.3%,遠軽10.0%,倶知安10.0%であり,平均11.4%であった。
直接培養法に対し増菌培養法では,旭川1.6倍,帯広1.4倍,網走2.0倍,札幌1.2倍,遠軽1.0倍,倶知安1.5倍,平均1.4倍とGBS検出率が向上した。
Figure 2にGBS増菌培地の変色率と菌種を示す。GBS増菌培地の変色率は56.5%であり,変色した培地の中でGBSと判定された検体は,旭川13.5%,帯広36.6%,札幌30.4%,網走19.2%,遠軽12.5%,倶知安23.1%あり,平均22.5%であった。GBSを除きGBS増菌培地が変色した菌はEnterococcus spp. 29.0%,CNS 22.5%,a-Streptococcus spp. 21.2%,Lactobacillus spp. 12.7%,Candida spp. 5.2%であった。
(A) Discoloration rate. The discoloration rate was 56.5%.
(B) Discoloration bacterial species. The most bacterial species was Enterococcus spp.
なお,サブカルチャー法と直接ラテックス凝集法では,全施設でGBSの同定結果と乖離は認められなかった。
2. 単独施設と多施設の比較当院において1年間の追加検討を実施した(単独施設)。6施設での平均結果(多施設)との比較をTable 2に示す。当院の追加検討結果は直接培養法8.3%,増菌培養法13.4%であり,多施設の平均結果は直接培養法7.9%,増菌培養法11.4%と差は見られなかった。
direct culture GBS positive number (%) |
enrichment culture GBS positive number (%) |
GBS positive number (enrichment culture/direct culture) |
|
---|---|---|---|
single facility | 131 (8.3) | 213 (13.4) | 1.6 times |
multiple facilities | 36 (7.9) | 52 (11.4) | 1.4 times |
当院において1年間の追加検討を実施した検体のうち,非溶血性GBSは2件であった(0.1%)。
本邦の新生児のGBS感染症発症率は妊婦保菌者から出生した新生児の約1~2%とされ,約2,000分娩に1例の割合と報告がある5)。また,新生児GBS感染を発症した場合,死亡率17.8~22.2%,後遺症10.8~20.4%と極めて予後不良となる5)。日本産科婦人科学会では,GBSスクリーニング検査陽性の妊婦にペニシリン系などの抗菌薬を,分娩の4時間以上前から点滴静注するとガイドラインに記載されており2),妊婦のGBSスクリーニング検査は非常に重要である。
今回,直接培養法および増菌培養法におけるGBS検出率,連鎖球菌抗原による直接ラテックス凝集法の有用性について,北海道厚生連6施設で合同検討を行った。
合同検討において,6施設中5施設で増菌培養法により1.2~2.0倍の陽性率上昇が見られ,中でも検討検体数が100件を超えた3施設で陽性率の上昇が顕著であった。また,6施設全体でも1.4倍と明らかな向上が認められ,GBS増菌培地の有用性が示唆された。
また,我々の施設で期間を延長し,検体数を増やして検討を行ったが,直接培養法が6.1%から8.3%,増菌培養法は9.5%から13.4%と向上した。増菌培養法で差が見られなかった施設は検討検体数が30件と少なかったこともあり,件数を増やすことで陽性率が向上すると推察される。
今回の検討では,サブカルチャー法と直接ラテックス凝集法の比較で差が認められた施設はなかった。今回,GBS増菌培地を多施設で検討するにあたり,非溶血性のGBSの見落としを防ぐため直接ラテックス法を行ったが,馬殿ら6)の報告ではEnterococcus faecalisの菌量が多いほどGBSは発育抑制されるが,ラテックス法がサブカルチャー法より良好な結果が得られることを示している。以上のことから,サブカルチャー法を省略し,直接ラテックス凝集法で連鎖球菌抗原Bが陽性になった検体のみサブカルチャー法を行うことで,培地のコスト削減と業務の効率化が図れると考える。また,GBSの有無を検体受付の翌日に報告できることで迅速性が高まることも利点である。報告によりばらつきはあるが,非溶血性GBSの臨床から分離される頻度は0.3~2.3%であり7)~9),当院において追加検討を実施した検体では2件(0.1%)であった。非溶血株は血液寒天培地上で腸球菌またはγ-Streptococcus spp.に極めて類似していることから,疑いをもって釣菌しなければ見落とす可能性があり,経験と技量が必要となる。
丹野ら8)の報告では,培養24時間および48時間において,紫色や中間色を呈した増菌培地よりGBSは検出されなかったことから,GBS陰性と判定可能であることを示している。以上から,今回の検討では色調が無変化であった検体のサブカルチャー法を省略した。なお,多施設で検討を行ったため中間色については目合わせが困難であることから,今回の検討では中間色もサブカルチャー法を行った。GBS増菌培地の変色率は56.5%であった。変色した増菌培地で真にGBS陽性であった検体は12.5%~36.6%であり,平均22.5%であった。施設により差が大きく,どの程度まで中間色のサブカルチャー法を行ったかにより差が生じたのではないかと考えられる。しかし,多施設で検討を開始する際にこの点については想定可能であり,中間色の色見本を作成し各施設に配布した。色見本を配布していなければ施設間差は今回以上に大きくなっていたと推察される。多施設で検討を行う場合は色調など個人の判断に委ねられるものの検討については課題が残る。今後,多施設で検討を行う際には,色調などの個人の主観に委ねられる判定に関しての十分な事前検討が必要であることが示唆された。
単独施設と多施設検討の比較は,自施設で検討期間を延長し行ったが,多施設で行った直接培養法,増菌培養法の平均に近い値であった。今回,多施設合同検討を行ったことで他の施設の状況を把握し,自施設の結果と比較することができ,直接培養法と増菌培養法で差が少なかった施設においても参考になると考えられる。
GBSは妊婦のスクリーニング検査において,極めて重要な細菌である。より見落としを少なくするためにも,増菌培養は有用であると考えた。
本検討では,各施設ルーチンで行っている方法に基づき検討を行ったが,直接増菌法と増菌培養法で差が見られなかった施設は1施設のみであった。
また,今回の検討を受けて4施設でGBS増菌培地を導入し,残り2施設でも検討中である。
母子垂直感染予防のために,増菌培地を用いたGBSスクリーニング検査が標準化されることが望まれる。
なお,本検討に際し,各施設の倫理委員会の承認(旭川:3016,帯広:2018-025,札幌:455)を得て報告した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。