医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
症例報告
消化管出血時に大血小板の凝集を認めた2B型von Willebrand病の1例
萩原 祐至浅田 玲子間部 賢寛國澤 拓大松本 裕貴谷澤 直高 起良森島 英和
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 70 巻 2 号 p. 349-355

詳細
Abstract

症例は70代,男性。2B型von Willebrand病(von Willebrand disease Type 2B; VWD2B)で当院血液内科に通院していた。高度な貧血症状と黒色便もみられたことから当院に救急搬送され血液内科入院となった。入院時の血液検査で高度な貧血・血小板減少を認め,末梢血液像では大型血小板の凝集像を認めた。経過中に血小板が増加すると血小板凝集像は消失し,血小板減少と血小板凝集像は相関していた。VWD2Bは血小板凝集像がみられる場合があり,exon28の変異に由来するとされている。出血リスク因子である血小板減少と相関する血小板凝集像の確認はVWD2Bにおいて重要である。

Translated Abstract

A male patient in his 70s presenting with type 2B von Willebrand disease (VWD2B) visited the hematology department of our hospital. He was admitted to the department because of severe anemia and tarry stool. His blood test at the time of hospitalization revealed severe anemia and thrombocytopenia, and large platelet aggregates were observed in the peripheral blood smear. During the treatment course, the platelet aggregates disappeared as the number of platelets increased. The thrombocytopenia and platelet aggregates were found to be correlated. VWD2B may have platelet aggregation and is caused by a mutation in exon 28. Confirmation of platelet aggregation that correlates with thrombocytopenia with a bleeding risk factor is important in the diagnosis of VWD2B.

I  緒言

von Willebrand病(von Willebrand disease; VWD)は血小板膜蛋白であるGPIbと結合し血小板凝集を惹起する働きと凝固第Ⅷ因子の安定化因子としての働きを持つvon Willebrand因子(von Willebrand factor; VWF)の量的質的異常をきたす常染色体優性もしくは劣性遺伝の先天性止血異常症とされている1)。VWDは1926年にErik von Willebrandが遺伝性出血疾患として初めて報告し2),病態解明が進み現在は6病型ある。VWD1型と3型はVWFの量的異常とされており,VWD2型はVWFの質的異常で2A・2B・2M・2Nの4病型がある1)。本邦でのVWD発生頻度は2018年の血液凝固異常症全国調査で1,325例が報告されており,発生率は人口10万人あたり約1.0人である3)。2008年のVWD病型別発生頻度調査報告では1型が59%,2型が33%,3型が8%,2B型は8%と報告されており,VWDのなかでもVWD2Bはまれな病型である4)。VWD2Bは2型の中でも唯一VWF機能亢進を特徴とし,特徴的な臨床像を示す5)。VWF高分子マルチマーの欠損・血小板減少・リストセチン血小板凝集能(ristocetin induced platelet aggregation; RIPA)の亢進・血小板凝集像を認めるなどがあげられ,他のVWDとの相違点が多い5)。近年VWD2Bの病態解明が進み,遺伝子変異との関連などが明らかになっている。今回VWD2Bの患者で消化管出血時に血液像で大型血小板の凝集像を認めた1例を経験したので報告する。

II  症例提示

症例は70代,男性(A型)。家族歴は両親と長女に出血性疾患の既往はなかったが,長男が血小板減少を指摘されたことがあり,長男息子(孫)はVWD2B(他院診断)であった。既往歴として27歳時に血小板減少・出血傾向(反復性消化管出血)がみられ,他院でITPと診断を受け,約1年間入院加療していた。51歳時に当院外科の胃癌術前検査でVWD2Bと診断され,胃切除時に脾臓摘出も行った。以後血小板は増加し,消化管出血の再発を認めず経過していた。胃癌術後に伴う鉄欠乏性貧血がみられ,適宜鉄剤を投与し,外来経過観察中であった。

200X年8月,1週間前から動作時に目眩・ふらつきがみられ,同時期から黒色便も認めた。徐々に目眩・ふらつきが強くなり,自身で受診困難になり当院へ救急搬送となり,当日に血液内科へ入院となった。入院時の血液検査(Table 1)ではヘモグロビン(hemoglobin; Hb)4.2 g/dL,血小板(platelet; PLT)31 × 109/Lと高度な貧血と著明な血小板減少がみられた。血液像では多染性赤血球及び,有核赤血球を12.0/100 WBC認め,さらに大型血小板の凝集像を認めた(Figure 1A)。EDTA依存性偽性血小板減少症を除外するためにクエン酸Na入り採血管で再採血を行った。しかし血小板数は変わらず,クエン酸血でも大型血小板の凝集像を認めたため,原疾患(VWD2B)に関係した血小板凝集であることを疑った。黒色便を認めたことから,消化管出血による貧血を疑ったが血小板が著しく減少していたこと及び原疾患(VWD2B)を考慮し,出血リスクを避けるため内視鏡検査は貧血・血小板減少が改善するまで見送られた。

Table 1  入院時検査所見
末梢血液検査 生化学・血清学検査・その他 凝血学的検査
​WBC 9.2 × 109/L ​AST 15 U/L ​PT 13.1 sec
​ Stab 2.0% ​ALT 14 U/L ​PT活性 86.0%
​ Seg 70.0% ​ALP 203 U/L ​PT-INR 1.09
​ Eo 2.0% ​LD 245 U/L ​APTT 25.7 sec
​ Baso 0.0% ​T-bil 0.6 mg/dL ​Fib 281 mg/dL
​ Mono 11.0% ​TP 5.5 g/dL ​FDP < 2.5 μg/mL
​ Lymph 15.0% ​ALB 3.3 g/dL
​ NRBC 12.0/100 WBC ​Na 137 mEq/L
​  コメント1 血小板凝集 ​K 4.1 mEq/L
​  コメント2 多染性赤血球 ​Cl 107 mEq/L
​RBC 1.57 × 1012/L ​UN 33 mg/dL
​Hb 4.2 g/dL ​Cre 0.95 mg/dL
​Hct 13.9% ​UA 5.0 mg/dL
​MCV 88.5 fL ​CK 47 U/L
​MCH 26.8 pg ​Fe 6 μg/dL
​MCHC 30.2% ​UIBC 379 μg/dL
​PLT 31 × 109/L ​TIBC 385 μg/dL
​フェリチン 7.0 ng/mL
​*Reticulo 194.4‰ ​CRP < 0.1 mg/dL
​*IPF 30.7%
​Glu 127 mg/dL

*入院10日目の検査値

Figure 1 末梢血液像 メイ・グリュンワルド・ギムザ二重染色(May-Grünwald Giemsa;MG染色)(×400(対物レンズ40×))

A:入院1日目(PLT: 31 × 109/L)の40 μm以上の血小板凝集塊がみられた血液像。

B:入院56日目(PLT: 40 × 109/L)の40 μm未満の血小板凝集塊がみられた血液像。

C:退院9ヶ月目(PLT: 113 × 109/L)の血小板凝集がみられなかった血液像。

治療は貧血改善のために含糖酸化鉄(フェジン)・赤血球製剤(red blood cells; RBC)輸血を行い,消化管出血が疑われたため乾燥濃縮人血液凝固第Ⅷ因子(コンファクトF)・新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)輸血でVWF補充を行い,同時に止血剤であるカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物(カルバゾクロムスルホン酸Na)と血小板製剤(platelet concentrate; PC)輸血を行った。入院から2ヶ月後にHb 6.5 g/dL,血小板 61 × 109/Lまで回復したため,上部・下部内視鏡検査を行った。下部内視鏡検査で大腸全域に微小な自然出血がみられ,器質的な消化管疾患性の出血は否定的であった。以上の結果からVWD2Bの増悪による消化管出血(大腸粘膜出血)と診断された。入院から約3ヶ月経過しHb 11.4 g/dL,PLT 83 × 109/Lまで回復し退院となった。以後,外来でカルバゾクロムスルホン酸Naを処方し,現在外来経過観察中である。

【血液像】入院開始から退院後外来での末梢血液像(Figure 1)を血小板凝集塊の大きさを基にGrade分けを行い評価し,臨床経過と共にまとめた(Figure 2)(血小板凝集塊のGradeはFedericiらの報告6)を参考に作成)。血小板減少時には大型血小板の凝集像はみられたが,血小板増加時には血小板凝集像はみられなかった。よって血小板減少と血小板凝集像は相関していた(Figure 2)。経過中,当院で使用している自動血球分析装置XN-3000(シスメックス(株),神戸)のPLT Flag「PLT-clumps?」は表示されず,血小板凝集は血液像のみで確認を得ることとなった。

Figure 2 本例の臨床経過

PLT凝集:Grade A:最大径が40 μm以上の血小板凝集が1個以上みられた血液像(例:Figure 1A)。Grade B:最大径が40 μm未満の血小板凝集がみられた血液像(例:Figure 1B)。Grade C:血小板凝集がみられなかった血液像(例:Figure 1C)。

RBC(red blood cells):赤血球製剤。

FFP(fresh frozen plasma):新鮮凍結血漿。

PC(platelet concentrate):血小板製剤。

GF(gastrofiberscope):上部消化管内視鏡。

CF(colonofiberscope):下部消化管内視鏡。

III  考察

VWDは,VWFの量的または質的異常をきたす遺伝性出血疾患として1926年にvon Willebrand2)が初めて報告している。以降,病態の解明が進み,現在では6病型に分かれている。VWD1型はVWFの量的減少,VWD2型はVWFの質的異常で2A・2B・2M・2Nの4病型があり,VWD3型はVWFの完全欠損である。本例でみられたVWD2BはVWD中約8%とVWDの中でもまれな病型である4)。VWD2BはVWFと血小板膜糖蛋白GPIbとの結合能が異常亢進し,血管内で自然に血小板凝集が起こる1)。発生した血小板凝集は肝臓や脾臓でクリアランスされる。結果,消耗性に血小板が減少し,血小板との結合能が強いVWF高分子マルチマーの減少を引き起こし,中等度から重度の出血症状をもたらす1),5)。VWD2BはVWDの中で唯一VWFの機能亢進を特徴とするため他のVWDとの相違点が多い5)。VWD2Bの特徴として本例の様に末梢血液像でしばしば巨大血小板の出現・血小板凝集像がみられる。さらに血小板減少やVWFマルチマー解析で高分子マルチマーの減少,RIPAの亢進があげられる5)。本例でも入院時に血小板減少・巨大血小板の出現及び血小板凝集像がみられた。しかしこれらの所見を常に認めたわけではなく,血小板増加時には血小板凝集像が消失し,本例の血小板凝集像の出現模様は多様であった。

そこでVWD2Bでの血小板凝集像の多様性を検索するために医中誌でvon Willebrand病・2Bをキーワードとして検索した。検索し得た中で文献を得た14件と本例を含め,血小板数・大型血小板・血小板凝集像の有無などをまとめた(Table 2)。本例のように血小板減少・大型血小板・血小板凝集像を認めた症例が6例9),10),12),19),出血イベント時に血小板減少・大型血小板・血小板凝集像を認めなかった症例が5例あり11),14),18),20),VWD2B全例で血小板減少や血小板凝集像・大型血小板がみられる訳ではないことが分かった。VWD2Bでみられる血小板減少・血小板凝集についてはexon28の遺伝子変異と関連することが報告されている6),21)。Federiciらの報告6)ではexon28変異のなかでもR1308Cでは特に血小板減少・血小板凝集像が強くみられ,逆にP1266Q・P1266L ・R1308Lでは臨床的ストレス(感染症・妊娠・手術など)でも血小板減少や血小板凝集像もみられなかった。本邦の報告(Table 2)でもR1308S・A1461Dでは血小板減少・大型血小板・血小板凝集像がみられていたことからR1308S・A1461Dは血小板減少・血小板凝集が起こりやすい変異であると考えられる。このようにVWD2Bはexon28変異の違いによって臨床像が異なる。本例では血小板減少・血小板凝集像・大型血小板がみられた。よって本例は血小板減少・血小板凝集を起こしやすいexon28変異かもしれない。しかし,残念ながら本例では患者本人の希望によりexon28変異の検索は行えていない。

Table 2  本邦でのvWD2B報告14例
Age Sex 大型血小板 Plt Clumping Plt(109/L) エピソード A1ドメインmutation 文献
37 Female N.R. N.R. 16 妊娠 N.R. 7)
20 Female N.R. N.R. 20 妊娠 N.R. 7)
21 Female N.R. N.R. 20 妊娠 N.R. 8)
27 Female 減少 妊娠 R1308S 9)
0 Male 30 出生 R1308S 9)
0 Male 30 出生 R1308S 10)
30 Female N.R. N.R. 276 変形性股関節症 N.R. 11)
14 Male 21 鼻出血 A1461D 12)
7 Female N.R. N.R. 正常値 鼻出血 N.R. 13)
4 Female N.R. N.R. 228 鼻出血 N.R. 14)
2 Male N.R. 14 上気道炎 R1306W 15)
4 Female N.R. N.R. 228 鼻出血 N.R. 16)
44 Female N.R. N.R. N.R. 辺縁性歯周炎 N.R. 17)
2 Male N.R. N.R. 209 鼻出血 Arg543Trp 18)
37 Female N.R. N.R. 246 易出血 Arg543Trp 18)
54 Female 170→30 卵巣腫瘍手術 認めず 19)
11 Female N.R. N.R. 227 出血傾向 V553M(V1316M) 20)
7X Male 31 消化管出血 N.R. 本例

N.R.:No Report(記載無し)

本例では消化管出血(大腸粘膜)時に血小板減少と血小板凝集像がみられ,これらはHbの改善と共に回復し,血小板減少と血小板凝集像は相関していた(Figure 2)。VWD2Bでみられる血小板減少は,血管内で起こった血小板凝集が,肝・脾でクリアランスされた結果として血小板減少が起こる1),5)。Federiciら6)は血小板減少と血小板凝集像は相関し,臨床的ストレスを機に血小板減少を起こしやすく,血小板凝集像がみられることがあると報告している。本邦でも感染症(臨床的ストレス)に罹患するたびに血小板減少を起こした報告がある15)。これらは臨床的ストレスと血管内での血小板自然凝集との関連を示唆しており6),21),血小板凝集像が臨床的ストレス・血小板減少の指標になることが示唆される。本例では,黒色便の前には血液像で大型の血小板凝集塊(Figure 1A)がみられる傾向があった。さらに血液像で血小板凝集塊の小型化もしくは血小板凝集が消失(Figure 1B, C)すると普通便に改善する傾向にあった(Figure 3)。これらは血小板凝集塊の大きさと消化管出血(臨床的ストレス)との関連を示唆している。

Figure 3 入院中の血小板凝集と便の色調

PLT凝集:Figure 2と同様。

このようにVWD2Bで出血リスクと相関する血小板凝集の把握は重要である。本例では血小板凝集塊の大きさが出血の指標になり得た可能性があったため,特に血小板凝集の確認は重要であった。しかし本例ではXN-3000で血小板凝集の指標であるPLT-clumps?のエラーメッセージは経過中に一度も表示されなかった。そのため本例では血小板凝集の確認は血液像で血小板凝集像を目視確認するという方法しかなかった。そこで血小板凝集で偽高値になる幼若血小板比率(immature platelet fraction; IPF)22)が本例で血小板凝集を把握する上での指標になり得たかを検証するために経過中のIPFと血小板凝集像の比較を行った。しかしIPFは血小板凝集像の有無に関わらず,常に高値であり,IPFは血小板凝集を把握する指標にならなかった。VWD2Bでは血小板寿命が健常人より短いために21),23),幼若な血小板が多く,本例のIPFは常に高値であったと推察する。

PLT-Fモードで算出するIPF及び血小板は大きさと蛍光強度(核酸量)を一定のアルゴリズムで算出している24)。本例でみられた大型の血小板凝集塊(Figure 1A)は大きすぎ,且つ蛍光強度が強すぎたためにPLT-Fモードのアルゴリズムの範囲外となり,本例の血小板凝集塊はXN-3000が血小板と認識せず,PLT-clumps?のエラーメッセージが表示されなかったことが示唆される。

VWD2Bでは出血リスクの重要因子である血小板減少と相関する血小板凝集の把握は極めて重要である。しかし,本例ではPLT-clumps?などの血小板凝集の指標になるものはXN-3000で確認出来なかった。故に血液像で血小板凝集像を目視確認することはVWD2Bにおいて重要である。

IV  結語

VWD2Bにおいて血小板凝集の把握は重要である。しかし血算測定機では血小板凝集を見逃すことがあるため,血液像で血小板凝集像を目視確認する必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top