医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
資料
当院における新生児重症黄疸に対する交換輸血30例の検討
田中 伸久新井 菜津子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 70 巻 3 号 p. 566-570

詳細
Abstract

交換輸血(exchange transfusion; ET)は,新生児の重症黄疸にとって有用な治療法である。2011年から2020年までに当院で行われた新生児の交換輸血事例についてまとめた。最近10年間に当院で行われた新生児のET56例のうち,重症黄疸を理由とした30例を対象に,診療録のデータから後方視的調査を行った。ET例の83.3%(25/30)が正期産児であり,86.7%(26/30)が他施設からの搬入であった。30例のうち母児間のABO不適合と診断されたのは10例で,そのうち母O型,児B型の組み合わせが8例であった。ABO不適合10例における直接抗グロブリン試験の陽性率は60.0%(6/10)であった。ETに続発して血小板減少など一時的な検査値の異常がみられたが,死亡例はもちろんのこと臨床的問題の記載は確認されなかった。

Translated Abstract

Exchange transfusion (ET) is an effective treatment for severe neonatal jaundice. In this study, we reviewed the cases of infants with ET in Gunma Children’s Medical Center from 2011–2020. Of the total of 56 infants with ETs, 30 with severe neonatal jaundice were identified. Clinical and laboratory data were collected retrospectively from their medical records. Most infants who underwent ET were full term (gestational age 37–41 weeks) (25/30; 83.3%) and were admitted to our hospital after birth (26/30; 86.7%). Out of these 30 infants, 10 were diagnosed as having ABO incompatibility. In eight of these 10 infants, the mothers’ blood group was O and the infants’ blood group was B. Six of these infants (6/10; 60.0%) showed positive results of the direct antiglobulin test. The identified adverse events secondary to ET included thrombocytopenia and others. The majority of adverse events associated with ET were laboratory abnormalities that were asymptomatic. No deaths or complications were reported arising from the treatment.

I  はじめに

交換輸血(exchange transfusion,以下ET)1)はその性質上,循環血液量の少ない新生児ならではの緊急治療手段である。様々な状況下で実施される2)が,中でも新生児重症黄疸に対しての有用性は極めて高い1)~3)。ETに関する総論あるいは技術的な報告は多いが,実態は未だ不明な点も多く,情報の集積が望まれている4),5)。そこで,最近10年間に当院で行われた新生児の交換輸血のうち重症黄疸事例について実態をまとめ,報告するとともに,ETに伴う臨床検査値の変動についても分析を試みた。

II  方法

2011年1月~2020年12月の10年間に当院の新生児科(neonatal intensive care unit; NICU)で実施されたETのうち,重症黄疸を原因としたものを対象とした。児の在胎週数,母児の血液型,使用製剤,直接抗グロブリン試験および間接抗グロブリン試験の結果,ET前後の臨床検査値を診療録(電子カルテ)から後方視的に調査した。調査項目は,血清中の総ビリルビン(total bilirubin,以下TB),アンバウンドビリルビン(unbound bilirubin,以下UB),全血グルコース(blood glucose,以下Glu),血清総カルシウム(total calcium,以下T-Ca),血中アンモニア(以下NH3),血清中のナトリウム(以下Na),カリウム(以下K),クロール(以下Cl),および血小板数(platelet count,以下PLT)とした。

統計学的検定はStatcel4(オーエムエス)によるpaired t testまたはWilcoxon signed-rank testを用い,有意水準を5%とした。

本研究は群馬県立小児医療センター倫理委員会の承認(GCMC2020-23)を得て実施した。

III  結果

ETの実施総数56例中30例が新生児重症黄疸によるものであった。

在胎週数は,正期産児(在胎37–41週)が30例中25例(83.3%)を占めていた(Table 1)。当院で出生後にETとなったのは4例で,26例は他の医療機関からの転送(転院)であった。正規産児25例中24例は他施設からの転送で,1例は当院産科からの転科であった。

Table 1  Gestational age of newborns with severe jaundice leading to exchange transfusion
Gestational age (weeks) Number
–29 0
30–36 4
37–41 25
42– 1

新生児重症黄疸30例の原因は,ABO不適合によるものが10件,不規則抗体によるもの1件,球状赤血球症2件,その他(明記なし)17件であった。ABO不適合10例の母児の血液型は,母O型,児B型が8件,母O型,児A型が2件であった。また,ABO不適合例での直接抗グロブリン試験陽性例は6例(陽性率60.0%)であった。

なお,間接抗グロブリン試験が陽性となった1件は,母から移行した抗Eに起因していた。

使用製剤は,合成血液-LR「日赤」(以下合成血)が30例中10例(33.3%)であった。O型の赤血球液-LR「日赤」(red blood cells,以下RBC)とAB型の新鮮凍結血漿-LR「日赤」(fresh frozen plasma,以下FFP)を院内で調整した混合血が9例(30.0%)であった。また,児と同型(O型含む)のRBCとFFPの混合血が11例(36.7%)であった。

ET直前と直後で臨床検査値に有意な低下が認められた項目はTB,UB,Cl,PLT,有意な上昇が認められた項目は,GluとT-Caであった。各項目のET前後の平均値をTable 2に示すとともに,TB,UB,Glu,T-Ca,Cl,PLTについてはFigure 1に示した。

Table 2  Changes in chemistry and hematology in newborn before and after exchange transfusion
Variable N Before After p value
Total bilirubin, mg/dL 30 16.4 ± 4.2 9.2 ± 2.9 < 0.001
Unbound bilirubin, μg/dL 30 0.92 ± 0.40 0.32 ± 0.18 < 0.001
Blood glucose, mg/dL 26 115 ± 29 137 ± 43 0.022
Total calcium, mg/dL 25 8.9 ± 0.6 10.6 ± 1.2 < 0.001
Blood ammonia, μg/dL 11 80.6 ± 30.7 82.1 ± 39.2 0.906
Sodium, mmol//L 27 138 ± 3 139 ± 4 0.063
Potassium, mmol//L 27 4.2 ± 0.7 4.3 ± 1.0 0.664
Chlorine, mmol//L 27 106 ± 4 104 ± 4 < 0.001
Platelet count, ×103/μL 26 246 ± 140 69 ± 38 < 0.001

Mean ± SD

Figure 1 Changes in chemistry and hematology in newborn before and after exchange transfusion

The platelet count and chlorine levels as well as the total and unbound bilirubin levels decreased significantly after exchange transfusion. Total calcium and blood glucose levels increased significantly after exchange transfusion.

ET直後の検査で異常値を示した例について,直前直後の値とその次の検査値を併せてTable 36に示した。異常値は,便宜的にT-Caが11.0 mg/dL以上(8例),Gluが200 mg/dL以上(4例),Kが6.0 mmol/L以上(2例),PLTが50 × 103/μL以下(6例)とした。ET直後の異常値は,次の検査では全て回復傾向にあり,臨床上の問題が確認されたものはなかった。ただし,1例にET前からPLT値が低値だったため,ET時に血小板濃厚液 -LR「日赤」(platelet concentrate,以下PC)も併せて投与されていた。

Table 3  Changes in serum total calcium (T-Ca) level in 8 cases with T-Ca level of 11.0 mg/dL or higher immediately after exchange transfusion
Case Before After After that
1 8.5 13.3 7.6
2 8.5 13.1 7.7
3 8.9 12.5 7.8
4 9.1 12.0 8.0
5 9.6 11.7 9.1
6 9.4 11.2 8.7
7 8.9 11.1 7.7
8 8.7 11.1 7.2

mg/dL

Table 4  Changes in blood glucose (Glu) levels in 4 cases with Glu level of 200 mg/dL or higher immediately after exchange transfusion
Case Before After After that
1 98 230 96
2 115 204 144
3 144 204 81
4 108 202 119

mg/dL

Table 5  Changes in serum potassium (K) levels in 2 cases with K level of 6.0 mmol/L or higher immediately after exchange transfusion
Case Before After After that
1 4.3 7.7 3.9
2 3.9 6.9 5.0

mmol/L

Table 6  Changes in platelet count (PLT) in 6 cases with PLT of 50 × 103/μL or less immediately after exchange transfusion
Case Before After After that
1 107 18 54
2 130 34 43
3 159 37 48
4 283 41 55
5 191 41 65
6 158 47 59

×103/μL

IV  考察

当院におけるETには中村の適応基準8)が用いられている。TBは出生体重と生後の経過時間ごとに,UBは出生体重でETの適応が設定されており,TBもしくはUBが基準に達した場合にETが行われている。新生児の核黄疸は在胎30週未満の早産児に多く,重症黄疸のリスクは正期産児よりも高いものと考えられている6)。小児専門病院である当院新生児科は多数の早産児に対応している。TBとUBの測定により出生時から黄疸は厳格にモニタリングされているため,必要に応じて直ちに光線療法に移行し,ETまで進展することは稀である。そのため,当院のETはほとんどが他院から転送された正期産児であった。新生児黄疸は光線療法機器の進歩,普及により,ETは稀になったといわれる6)。しかし,稀に重症黄疸にまで急速に進展するケースは存在し,当院へ転送されETが行われている実態が明らかとなった。正規産児では赤血球のA抗原,B抗原の抗原発現が早産児と比較して多いために,抗Aや抗Bとの反応は早産児よりも強いものになることが考えられる。なお,黄疸のモニタリング指標としてTBだけでは不十分で,UBの測定が求められる6),7)。しかし,UBの測定には専用の分析装置が必要であるが,当該機は小児専門病院でさえ十分に普及していないのが現状である7)

新生児重症黄疸の重要な要因として母児のABO血液型不適合がある。当院ではETを実施した重症黄疸30例のうちABO血液型不適合と診断されたものは10例で,このうち8例が母O型,児B型の組み合わせであった。血液型不適合の組み合わせについては,既報9)~13)のパーセンテイジに幅がある。しかし,ABO血液型が適合でも,肝疾患や感染症,球状赤血球症など重症黄疸を生じる要因は様々であること14)に注意が必要である。

直接抗グロブリン試験の陽性率はABO不適合に限ってみると60.0%であった。当試験が陽性でも90%の児は新生児溶血性疾患には至らないとの報告15)もあり,浮田ら16)はIgGのサブクラスの重要性を指摘している。なお,間接抗グロブリン試験が陽性であった1例は,母親からの抗Eが移行したもので,O型E(−)のRBCが使用された。

使用製剤は,母児の血液型の組み合わせにも左右されるが,約2/3でO型RBCとAB型FFPが選択されていた。小山ら17)は混合血の弱点,すなわちヘマトクリット値が低いことやKが高値であることなどから合成血の使用を推奨しているが,当院の使用状況をみると,合成血と混合血とがほぼ半々であった。混合血を使用する最大の理由は入手までにかかる時間にあるが,これまで混合血の使用が原因で大きな問題を生じた例がないことも一因と考えられる。

検査値の推移では,ET後にTBとUBは有意に低下しており,重症黄疸における交換輸血の有用性が確認された。T-Caは理論的に低下するはずである9)~11)が,今回,反対に上昇が認められた。これは,予防的にカルチコールの投与が行われている影響と考えられる。同様にT-Ca値が上昇したとの報告はBallotら18)にも見受けられる。T-Ca値の上昇は一過性で,ET直後に続く測定値をみると,全例でET直前の値を下回っていた。このことから,当剤の投与がなければT-Caは大きく低下していた可能性が示唆された。PLT数の減少も想定される問題である9),10),12)が,平均でET直後は直前値の約3割に減少していた。しかし,減少はすぐに増加に転じており,ETが原因でPCを補充した例はなかった。ただし,ET時に混合血にPCを加えたケースが1例あり,これはET以前にPLTが21 × 103/μLであったため併せて投与されたものであった。GluおよびClにもET前後で測定値に統計学的な有意差が認められたが,Clではほぼ基準範囲内の変動に過ぎなかった。Gluでは直後に200 mg/dLを超えた例もあったが,次の検査では81~144 mg/dLに低下した。K値は2例でET直後に6.0 mmol/Lを超えたが,同様に3.5 mmol/dL,5.0 mmol/dLと低下した。Naについては低下したとの報告8)もあるが,有意な変動はみられなかった。ETに伴った検査値の変動については既に報告されているが,いずれも軽微な副反応と考えられており10)~12),18)~20),今回の30例についても死亡例はもちろん臨床的問題を生じた例は確認されなかった。

V  結語

新生児の重症黄疸において,ETは極めて有用かつ重要である。一方で,厳格なTBやUBの管理によってETの多くは未然に防げる可能性がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

貴重な資料および助言をいただいた群馬県立小児医療センター・丸山憲一総合周産期母子医療センター長に感謝致します。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top