2022 年 71 巻 1 号 p. 130-137
臨床検査技師等に関する法律の一部改正が2014年6月に成立し,採血以外の検体採取を臨床検査技師が行うことができるようになった。これにより,当院の臨床検査技師が担当する業務も拡大することとなった。病棟での採血はナースサポートチームの一員として臨床検査技師が既に配置され,看護師が行っていた採血業務を担当している。皮膚・爪からの検体採取は,皮膚科医が常勤していないため,白癬,疥癬疑いの患者からの検体採取は皮膚科医の診察まで待つか看護師が検体採取を行っていた。しかし,看護師が採取した皮膚は角化したものが多く観察された。2011年に病棟で疥癬患者が増えたことで検査室での鏡検件数が増え,これをきっかけに臨床検査技師が皮膚採取時点から業務を担当することになった。2020年新型コロナウイルスの流行に伴い,PCR検査,抗原検査を導入,鼻咽頭ぬぐい液の検体も開始した。臨床検査技師が検体採取することで,検査に適した検体採取,検査,報告と一連の流れを担うことになり,質の高い検査が出来るようになった。臨床検査技師の検体採取業務は,単なるタスクシフトだけでなく,専門能力を発揮したチーム医療の推進へつながると考えられる。
Following the partial amendment of the Act on Clinical Laboratory Technicians in June 2014, clinical laboratory technicians are now allowed to collect specimens other than blood. Consequently, in our hospital, they now have a wider range of duties. As clinical laboratory technicians are assigned as members of nurse-support teams, they are now in charge of ward blood collection, which was previously performed by nurses. With respect to skin and nail collection, owing to the lack of full-time dermatologists, patients with suspected scabies or ringworm had to either wait to be examined until a dermatologist is available or have their skin and nail specimens collected by nurses. Many of the skin samples collected by nurses keratinize. In 2011, an increase in the number of ward patients with scabies led to an increase in the frequency of microscopic examinations; thus, clinical laboratory technicians took charge of skin sampling. In response to the COVID-19 pandemic, our hospital began to conduct PCR and antigen tests in 2020; laboratory technicians are now in charge of taking nasopharyngeal swabs. Clinical laboratory technicians are responsible for the entire process of collecting suitable specimens for tests and data reporting, and this has improved the quality of tests. The shortage of physicians and nurses may become a serious problem in the future. Therefore, the collection of specimens by clinical laboratory technicians does not just represent a mere shift of tasks, but may also promote team-based medical care by enabling clinical laboratory technicians to utilize their specialized skills and capabilities.
臨床検査技師等に関する法律の一部改正が,2014年6月に成立し,2015年4月1日から臨床検査技師は医師又は歯科医師の具体的な指示を受け,診療の補助として採血に加え5業務の検体採取も担うことが認められた。新たに認められた検体採取業務を当院の臨床検査技師が担当することで得たメリットや,採取するときの工夫,取り組み等を紹介する。
臨床検査技師の検体採取対応は2009年から開始し,本報告は採血,皮膚・爪の採取は2020年12月まで,鼻咽頭ぬぐい液は2020年7月までの実績を集計した。
2. 実績 1) 採血病棟採血は2009年から開始し,2020年12月までに臨床検査技師が行った採血件数は56,078件(Figure 1)。病棟採血はナースサポートチームの一員として臨床検査技師が配置され,看護師が行っていたほとんどの病棟採血を既に臨床検査技師が担当している。2020年に件数が増加したのは,職員の新型コロナウイルス感染確認のために,抗体検査を3ヶ月間導入したためである。
皮膚・爪の採取は2011年9月から開始し,2020年12月までに皮膚白癬疑いの依頼は420件,疥癬疑いの依頼は289件である(Figure 2)。
皮膚・爪の検体採取は非常勤の皮膚科医に依頼しており,白癬,疥癬疑いの患者対応は皮膚科医の診察を待つか,看護師が皮膚の検体採取を行っていた。看護師が採取した皮膚は角化したもの(Figure 3)が多く観察された。
角化した皮膚はごわごわしていて白癬菌は存在しない。
2011年に病棟で疥癬患者が増えたため検査科への鏡検件数が増え,これをきっかけに皮膚採取時点からの業務を担当することになった。
既に臨床検査技師は病棟採血を担当しており病棟へ出向くことへの抵抗はなく,看護師の業務負担の軽減につながるため業務の移行はスムーズだった。法律改正に伴う臨床検査技師の受講義務となった「検体採取等に関する厚生労働省指定講習会」が開始された後は,検体採取を担当する臨床検査技師5人中4人は2015年中に講習を受講した。さらに1人は2019年度卒業で在学中に履修して資格を取得しているため,全員検体採取等の業務に従事している。皮膚白癬疑いの依頼は年間通してあり,疥癬は季節性がないと言われているが6月から9月の湿度が高い時期に検出される頻度が高く,追跡検査等が増えるため症例数が増えている。
3) 鼻咽頭ぬぐい液鼻咽頭ぬぐい液の採取は2020年4月から開始し2021年7月までに945件。鼻咽頭ぬぐい液の採取については,2020年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により,新規入院患者や関連施設の新規利用者は,PCR検査を中心に実施した。また,面会する患者家族のスクリーニング検査は,抗原検査にて対応した。
当院入院中の患者は日常生活動作(ADL)が低いため,検体採取の際は病棟に赴くことが多い。ベッドサイドでの実施のため,必要な採血用具は持ち運びに便利なようにコンパクト化した(Figure 4)。患者の状態においては血管が細い,脆弱,体動が激しい,拘縮などにより,採血者の姿勢の保持が難しいことがある。特別な対応が必要な患者であることが事前にわかっている場合は,臨床検査技師2名で対応している。ほとんど1回で必要量を採れるが,稀に2回実施しても必要量が確保できない場合は,患者の負担を考慮し,熟練した技師に交代するようにしている。それでも難しい場合は,医師に採血を依頼している。
ベッドサイドで行うためコンパクト化している。
皮膚の採取は,ベッドサイドで行うことが多い。
1つのトレイに必要なものをセットして用いている(Figure 5)。セッシは先端がスプーン状のものを使用することで(Figure 6)爪の間の皮膚や小丘疹がきれいに採取できる。
ベッドサイドで行うためコンパクト化している。
爪の間の皮膚や小丘疹が採取できる。
白癬の特徴の一つとして,環状の紅斑がある1)。縁は炎症が強く,皮膚糸状菌の発育が活発なことから,その部分を採取する(Figure 7, 8)。
縁は炎症が強く,皮膚糸状菌の発育が活発。
縦に伸びる菌糸が確認できる。
白癬菌に侵されると爪は肥厚し,混濁する。爪が長い場合は爪を切り,爪床から採取する。白癬菌は,生きた細胞内に生息しているので,できる限り奥部から採取する(Figure 9)2),3)。
奥部の生きた細胞を採取。
出典:文献3)
爪白癬が進行すると,爪甲下は粉状になる。そのため,生きた病変細胞を採取することが難しく,疑わしい爪でも白癬菌は検出されない場合があり,注意が必要である(Figure 10)。また,鏡検時に白癬菌と間違えやすいものとしては弾性線維がある。うねうねした曲線が特徴である(Figure 11)。
爪が肥厚し,生きた細胞に到達できない。
菌糸と間違いやすい。
疥癬とはヒゼンダニが角質層に寄生する感染症で,効率よく見つけるためには疥癬トンネル(Figure 12)4)をダーモスコープ(Figure 13)5)で見ながら,その先端の小水疱や小丘疹を採取する。トンネルの好発部位として,手関節屈側,手掌,指間,指側面がある6)。目視で皮膚がめくれた部分があれば,その皮膚を採取する(Figure 14:青色矢印)7)。しかし,疥癬トンネルがはっきりわかることは珍しく,採取できそうな小丘疹(Figure 14:黄色矢印)を多く採取し,観察することで検出率を上げることができる。
ヒゼンダニの検出率が高い部位。
疥癬トンネルに当てるとヒゼンダニが確認できる。
出典:文献5)
青色矢印:皮膚がめくれている,黄色矢印:皮膚が隆起している。
ヒゼンダニは弱拡大(×100)でも確認することができる。しかし,成虫を良好に摘まめていない場合は切れていることがあり,見落とすことがある。弱拡大で顕微鏡の微動をよく動かし,薄い茶色の厚みのあるものが見えたら強拡大(×400)で確認する(Figure 15a, b)。
a:弱拡大。100倍で確認できるヒゼンダニの鋏角。b:強拡大。400倍で確認できるヒゼンダニの鋏角。
虫卵は綺麗に見える楕円形をしているが,空胞とよく似ているので辺縁が均一で綺麗な楕円形になっているか確認する必要がある(Figure 16)。
虫卵と間違いやすい。
また,顔の皮膚からニキビダニが検出されることがある(Figure 17)。当院では,見間違えや,見落とし防止の為に必ずダブルチェックをしている。
ヒゼンダニと間違いやすい。
検体採取者の感染防止のために,被験者にはマスクは全部取らず鼻だけを出してもらう。採取者はスワブを親指と人差し指で軽く持ち,水平に鼻腔へ滑らすように挿入する。抵抗がある場合は無理に押し込まずに,逆の鼻腔へ挿入する。ある程度押し進んでいくとコツンとぶつかるので,その部分をこするようにして採取する8)。また,採取時にくしゃみや咳込むことがあるので患者の正面にはたたないようにする。
感染対策の防護具は,採血,白癬疑いの依頼ではマスク,手袋,プラスチックエプロンを着用し,鼻咽頭ぬぐい液の採取と疥癬疑いの依頼の際は長袖のガウンを着用する。新型コロナウイルスの流行によりフェイスシールド,N95マスクも着用することになった。当院では易感染性患者が多いため,医療従事者から患者への感染も注意が必要である。
臨床検査技師が採血を行うことで採血管の間違えがなくなり,十分量採血できなかった場合は最低限必要量がわかっているため,採血管に分注する量を調整するなどで再採血が避けられたと思われる。また,多くの難しい採血に対応しているため,採血困難患者でも採血時間が短縮されていると感じる。熟練した技師でも難しい場合は医師に採血を依頼するが,「臨床検査技師が採れないのだから仕方ないと」快く引き受けて頂いているように思える。
皮膚・爪の検体採取は,適切な採取箇所,検査に適した検体が採取できる。不適切な検体の場合はその場で再採取ができるため時間のロスを防ぐことができることもある。発疹,水泡,肥厚などを直接確認でき,時系列で症状を観察することが可能になり経過がわかりやすい。臨床検査技師の検体採取を担当するメリットとしては,採血時に採血部位を探している際に小丘疹を発見したり,心エコーの検査時,胸部,腹部に紅色小丘疹を発見したりすることがあり,鏡検後ヒゼンダニと確認できた事例が多くあると考えられる。臨床検査技師は,複数の病棟業務で多くの症例を経験していることから,稀な疥癬の症例や好発部位を見つけるのに適しているとも考えられる。白癬,疥癬を疑う場合は,皮膚科医の診察を待たずに,主治医から直接検体採取依頼が届くことが多い。また,関連施設で疥癬疑いが多数報告された場合は,臨床検査技師が出向し検体採取をすることもあり院内外の施設間での感染防止に貢献していると考える(Figure 18)。
居室での検体採取の様子。
鼻咽頭ぬぐい液では,採取する部位を講習会で学んでいることから的確に採取することができていると思われ,医師,看護師の業務負担軽減に結び付いたと考えられる。採取方法による偽陰性を避けるためか,臨床検査技師が指名されることもあり臨床検査技師の検体採取での役割が認知されてきたと思われる。
臨床検査技師が検体を採取することで検査に適した検体の採取,検査,報告と一連の流れを担うことになり,より質の高い検査ができるようになった。また,超高齢化社会に向けて医師,看護師不足はますます深刻になると考えられる。
臨床検査技師の検体採取業務は,単なるタスクシフトだけでなく,専門能力を発揮することでチーム医療推進へつながると予想される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。