患者は60歳代の男性。末梢血で汎血球減少とBlast出現があり,骨髄中にBlastを27.4%認めたためAMLと診断された。しかし左肺炎像およびCRP異常高値を認めたため,肺炎治療を優先し化学療法を延期した。約1ヶ月後,肺炎の改善および白血球と血小板の造血回復を認め,改めて行った骨髄検査の結果,Blastは2.4%と著減していた。この現象は白血病の自然寛解と呼ばれ,感染症や輸血,薬剤など様々な原因が推測されているが,詳細なメカニズムは不明である。また一過性のことが多く,再発時には病型が変化することもあるため,継続して詳細な観察が必要である。さらに,AMLに重症感染症が合併した場合は,本来のBlast割合よりも減少している可能性があるため,診断時には注意を要すると考えられた。
The patient was a male in his 60s. He was diagnosed as having acute myeloid leukemia (AML) on the basis of the finding of pancytopenia and blasts in the peripheral blood and 27.4% blasts in the bone marrow. However, because of left pneumonia and abnormally high CRP levels, chemotherapy was postponed to prioritize the treatment of pneumonia. About one month later, the pneumonia improved and the patient showed recovery of hematopoiesis of leukocytes and platelets. Moreover, another bone marrow biopsy revealed a marked decrease in the proportion of blasts to 2.4%. This phenomenon is called spontaneous remission of leukemia, and various causes such as infection, blood transfusions, and drugs have been speculated, but the detailed mechanism is unclear. In addition, this phenomenon is often transient and the disease type may change at the time of relapse; therefore, continued and detailed observation is necessary. Furthermore, when AML is associated with severe infection, the blast percentage may be lower than the baseline blast percentage, so caution is required at the time of diagnosis.
急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia; AML)は,無治療では急激に進行するため,通常は一刻も早い寛解導入療法が必要である。今回我々は,初診時AMLと診断されたものの,感染症治療を優先し化学療法を延期していたところ,Blastの著明な減少を認めた症例を経験したので報告する。
60歳代男性。
主訴:悪寒,発熱。
家族歴:特記事項なし。
既往歴:両側ブドウ膜炎,高血圧,白斑症,大腸憩室炎。
現病歴:悪寒と38℃を超える発熱を認め翌々日に前医を受診し,左肺炎像,汎血球減少,CRP高値を指摘された。Levofloxacin(LVFX)を処方後,当院紹介となった。
身体所見:身長168.9 cm,体重66.4 kg,血圧132/80 mmHg,体温35.5℃,脈拍82/分(整)。
頭頸部:眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄染なし,口腔内潰瘍なし,頸部リンパ節腫脹なし,視力障害あり。
胸部:心音(異常なし),呼吸音(肺胞音)。
腹部:平坦,軟,圧痛なし,自発痛なし,拍動なし,蠕動音(良好)。
四肢:浮腫なし,足背動脈触知良好。
初診時検査所見:CBCはHb 9.9 g/dL,MCV 106.6 fLと大球性貧血,PLT 40 × 109/L,WBC 0.92 × 109/Lと汎血球減少を呈し,Blastを2%認めた。CRPが33.98 mg/dLと異常高値であった。CTにて左肺に浸潤影を認めた。骨髄検査は細胞数0.9 × 104/μL,巨核球数0/μL,M/E = 1.66,ペルオキシダーゼ染色が陰性(フローサイトメトリーでの細胞内MPOは未実施)のBlastを27.4%認めた(Figure 1)。細胞表面マーカーはCD13,33,34,HLA-DRが陽性であり,AML with minimal differentiationと診断された。染色体は正常核型であった。
ペルオキシダーゼ陰性のBlastを27.4%認めた。
入院後の経過:5/28の入院時,肺炎を合併している状況であり,まず肺炎治療を優先する方針となった。左肺浸潤影については呼吸器科にコンサルトしたところ肺癌の可能性は低いとの判断であった。Ampicillin/Sulbactam(ABPC/SBT)にて治療を開始したが改善を認めなかった。5/30にDoripenem(DRPM)に変更したが翌日も解熱しなかったためLiposomal-amphotericin B(L-AMB)を開始し,その後発熱および酸素化の改善を認めた。L-AMBが有効な印象であり,またアスペルギルス抗原陰性であったことから肺ムコール症の可能性が考えられた。6/14よりDRPMを中止したが,症状の増悪は認めなかったため,そのままL-AMBを継続した。しかしL-AMBの影響と思われる低K血症を認めたため6/17からItraconazole(ITCZ)に変更し,その後悪化なく内服薬に切り替えて6/24に退院した。7/1に再入院した際,胸部CTでは左肺浸潤影の改善を認め,CBCは貧血がやや進んだもののPLT 344 × 109/L,WBC 3.79 × 109/Lと造血回復がみられた。骨髄検査は細胞数6.8 × 104/μL,巨核球47/μL,Blastは2.4%と著減したが赤芽球系形態異常が15%みられたためMDS-SLDの範疇となった(Figure 2)。そのため白血病に対する寛解導入療法は延期となり外来でITCZを継続していたが,8/29に血小板が112 × 109/Lと減少し骨髄中Blastが9.8%と増加,10/10には骨髄中Blast 38.2%(Figure 3)となりAMLの再発と診断された(Figure 4, Table 1参照)。
Blastを2.4%,核形不整や核融解などの赤芽球系形態異常を15%認めた。
Blast 38.2%,大型で核小体や空胞を有する細胞が出現。
WBC,RBC,PLT,CRP,骨髄中のBlast割合,抗菌薬とその投与期間を示す。
【末梢血】 | 5/27初診時 | 7/1芽球減少時 | 8/29芽球増加途中 | 10/8再発時 |
---|---|---|---|---|
RBC(×1012/L) | 2.59 | 2.54 | 4.21 | 4.25 |
Hb(g/dL) | 9.9 | 9.1 | 13.8 | 13.6 |
Hct(%) | 27.6 | 26.1 | 40.1 | 38.3 |
MCV(fL) | 106.6 | 102.8 | 95.2 | 90.1 |
MCH(pg) | 38.2 | 35.8 | 32.8 | 32.0 |
MCHC(g/dL) | 35.9 | 34.9 | 34.4 | 35.5 |
PLT(×109/L) | 40 | 344 | 112 | 33 |
WBC(×109/L) | 0.92 | 3.79 | 6.36 | 2.36 |
Blast(%) | 2 | 0 | 0 | 0 |
Pro(%) | 0 | 0 | 0 | 0 |
Mye(%) | 1 | 1 | 0 | 0 |
Met(%) | 1 | 1 | 0 | 0 |
Stab(%) | 15 | 0 | 0 | 1 |
Seg(%) | 26 | 15 | 61 | 30 |
Eosino(%) | 0 | 0 | 3 | 4 |
Baso(%) | 0 | 3 | 0 | 1 |
Lymph(%) | 57 | 61 | 31 | 62 |
Mono(%) | 0 | 19 | 5 | 2 |
At-Ly(%) | 0 | 0 | 0 | 0 |
赤芽球(/100WBC) | 2 | 13 | 0 | 0 |
【骨髄】 | 5/27初診時 | 7/1芽球減少時 | 8/29芽球増加途中 | 10/8再発時 |
NCC(×104/μL) | 0.9 | 6.8 | 9.0 | 6.1 |
Megak(/μL) | — | 47 | 15 | 13 |
M/E | 1.66 | 0.32 | 3.00 | 4.37 |
Myelobl(%) | 27.4 | 2.4 | 9.8 | 38.2 |
Promyelo(%) | 2.2 | 2.4 | 4.2 | 5.8 |
Myelo(%) | 1.6 | 8.8 | 10.6 | 3.0 |
Meta(%) | 1.0 | 3.4 | 9.2 | 2.6 |
St(%) | 3.6 | 4.2 | 15.6 | 4.4 |
Seg(%) | 3.4 | 0.4 | 11.2 | 3.2 |
Eo(%) | 1.2 | 0.2 | 2.4 | 1.4 |
Ba(%) | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
Pro-Ery(%) | 0.0 | 1.0 | 1.2 | 0.2 |
Baso-Ery(%) | 1.4 | 3.2 | 1.8 | 0.2 |
Poly-Ery(%) | 19.0 | 60.6 | 18.0 | 13.0 |
Ortho-Ery(%) | 4.0 | 0.8 | 0.0 | 0.0 |
Lymph(%) | 29.2 | 6.6 | 12.6 | 24.2 |
Mono(%) | 1.0 | 4.4 | 0.4 | 0.6 |
Plasma(%) | 1.8 | 0.6 | 0.6 | 0.8 |
Megak(%) | 0.0 | 0.4 | 0.0 | 0.0 |
Reticulum(%) | 3.2 | 0.6 | 2.4 | 2.4 |
AMLは分化・成熟能が障害された幼若骨髄系細胞のクローナルな自律性増殖を特徴とし,適切な治療がなされない場合は短期間で致死的となる重篤な疾患である。初発AMLに対する基本的な治療戦略は治癒を目指した強力な化学療法であり,多剤併用療法が基本となる1)。無治療イコール早期の死を意味するため,現在ほとんどの症例は診断後即時治療導入されると考えられるが,今回我々は,AMLと診断されたものの感染症治療を優先してAMLに対する治療を延期していたところ,Blastの著減を認めた症例を経験した。
このような症例は白血病の自然寛解例として多数報告がある。古いものではTivey2)が102症例を解析した報告があり,それによるとこの現象はあらゆる年齢,性別,白血病のタイプに起こり,原因として内因性の副腎皮質ホルモンを挙げている。我々が収集した参考文献でも,先天性白血病3),急性リンパ性白血病4),成人T細胞性白血病5)など様々なタイプの白血病の自然寛解報告があったが,最も多いのは急性骨髄性白血病であった。極端に古い報告は白血病や寛解の定義もあいまいと考えられるため,FAB分類が発表された1976年以降のAML自然寛解に関する報告結果をTable 2に示す6)~16)。その結果,本例を含め感染症や炎症所見の強い症例が多くみられた。その機序は未だ不明ではあるが,例えばPseudomonasワクチン17)やBCG投与18)が急性白血病の完全寛解に一定の効果があるとする研究からは,何らかの免疫系の賦活化が影響している可能性が推測される。また多くの例で輸血が施行されており,GVH反応の関与が考えられる。GVH反応については,1992年に輸血・細胞治療学会が血液製剤の放射線照射ガイドラインを公表し,その後徐々に照射製剤の供給体制が整備されてきたことから,2000年以降は輸血後GVHDの確定症例の報告はない19)。従って少なくとも1990年以前の症例では,輸血が一因である可能性はある。薬剤についても推測の域を出ないが,ST合剤など血液毒性を有する抗生物質やステロイドなどが影響した可能性もある。また,本例を含め少なくとも4例が低形成白血病であった。山雄ら6)も,自然寛解例の中には経過がsmolderingであったり低形成な症例が散見され,これら非定型的な症例は病態自体が不安定で,感染や輸血などの外的要因に左右されやすいのではないかと述べている。また化学療法が未施行であるにもかかわらず,再発時に病型や染色体異常が変化した症例が数例みられたことも,病態が不安定なことを推測させる。この点での我々の反省として,未治療だから再発時も初診時と同じ病型だろうという先入観があり,再発時のペルオキシダーゼ染色や細胞表面マーカー検査,染色体検査を担当医に追加依頼しなかった。今回あらためて標本を見直すと,芽球形態が大型化し空胞形成が顕著化しているなど初診時にみられなかった特徴があり,本症例も病型や染色体が変化していた可能性があった。
No. | 年齢 | 性 | 末梢血 | 骨髄検査 | CRP (mg/dL) |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
WBC (×109/L) |
Hgb (g/dL) |
PLT (×109/L) |
末梢血中の芽球 (%) |
細胞数 (×104/μL) |
巨核球数 (/μL) |
骨髄中の芽球 (%) |
||||
1 | 18 | F | 1.60 | 6.5 | 170 | 92.0 | 2.7 | N/A | 53.2 | 9.4 |
2 | 84 | M | 12.30 | 8.6 | 24 | 幼若単球48% | N/A | N/A | 幼若単球95% | N/A |
3 | 53 | F | 1.70 | 8.5 | 216 | 8.0 | 低形成 | N/A | 65.0 | N/A |
4 | 70 | M | 64.80 | 9.9 | 15 | 98.0 | 58.5 | 0 | 98.5 | 22.6 |
5 | 54 | F | 11.80 | 7.0 | 235 | 4.0 | 57.9 | N/A | 46.4 | 陽性 |
6 | 47 | F | 40.70 | 13.3 | 71 | 幼若単球75% | 6.15 | 50 | 幼若単球42% | 3.4 |
7 | 64 | M | 23.80 | 10.7 | 60 | 98.0 | 4.3 | 0.2 | 78.0 | 18.1 |
8 | 47 | M | 2.10 | 5.3 | 26 | 0.0 | 3.2 | 0.1 | 32.0 | 14.0 |
9 | 75 | F | 57.50 | 8.5 | 84 | 25.0 | N/A | N/A | N/A | 9.5 |
10 | 68 | M | 3.26 | 6.2 | 22 | 0.5 | N/A | N/A | 前赤芽球様43% | 8.3 |
11 | 77 | F | 2.10 | 8.6 | 72 | N/A | N/A | N/A | 47.0 | N/A |
12 | 67 | M | 33.00 | 11.8 | 8 | 28.0 | N/A | N/A | 幼若単球56% | 3.9 |
本例 | 60歳台 | M | 0.92 | 9.9 | 40 | 2.0 | 0.9 | 0 | 27.4 | 33.9 |
No. | 炎症の 記載 |
輸血の 有無 |
抗菌薬投与の 記載 |
寛解期間 (月) |
病型 (→再発後) |
初診時 染色体 |
再発時 染色体 |
転帰 | 文献 No. |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 記載ないが CRP上昇 |
+ | 前医で感冒薬 | 2 | AML | N/A | N/A | N/A | 6) |
2 | 肺炎 | + | 抗生剤 | 2 | M5b→AML | N/A | N/A | 死亡 | 7) |
3 | 感染症 | N/A | GM,PIPC | 4 | 低形成AML | 46, XX | N/A | 死亡 | 8) |
4 | 重症肺炎 | + | ST合剤,5FCほか | 約1 | M1→系統不明AML | 46, XY | 47, XY, +C/tetraploidy | 死亡 | 9) |
5 | 記載ないが CRP陽性 |
− | 前医で感冒薬 | 1 | M2 | 46, XX | 46, XX | N/A | 10) |
6 | 明らかでない | − | 投与なし | > 12 | M5b | +8 | N/A | N/A | 11) |
7 | 蜂窩織炎 | + | SBT/CPZ,IPM,AMK | 8 | M0 | N/A | N/A | N/A | 12) |
8 | 肛門周囲膿瘍 | + | IPM,AMK | 3 | M4Eo | inv(16), 付加的異常 |
N/A | N/A | 12) |
9 | 重症肺炎 | + | DRPM,PZFX,mPSL | > 3 | AML | N/A | N/A | N/A | 13) |
10 | 肺炎 | N/A | 抗生剤 | 3 | M6 | N/A | N/A | 死亡 | 14) |
11 | 肺炎 | + | 抗生剤 | 2 | AML | −5q,複雑核型 | 初診時+付加的異常 | N/A | 15) |
12 | 明らかでない | + | 記載なし | 約1 | M5b | +8,+18,inv(9) | 初診時+付加的異常 | 死亡 | 16) |
本例 | 重症肺炎 | + | LVFX,ABPC/SBT,DRPM,L-AMB,ITCZ | 約2 | M0 | 46,XY | N/A | N/A | 本例 |
また今回の症例を通して最も懸念するのは,本来白血病であったものが感染症を併発することでBlastが減少して白血病の診断に至らないケースがあるかもしれない,ということである。当然のことながら白血病になれば正常な白血球が減少して感染症に罹患するリスクは高くなるため,Blastが減少し病態が過小評価されてしまう危険性は存在すると考える。例えば斉藤らの症例報告20)では,骨髄中のBlastが3.2%で形態異常を伴っておりMDSが推測されたが,FISH検査でRUNX1-RUNX1T1を検出したため「特定の遺伝子異常を有する急性骨髄性白血病」の診断となった。しかし重症感染症を合併していたため化学療法を延期し感染症治療を優先したところ,1ヶ月後の骨髄ではBlastが74.8%みられたとのことである。この症例は,特定の遺伝子異常を検出したため白血病の診断が可能であったが,もしも遺伝子異常がなかった場合はMDSの診断となっていたと思われ,その後の治療も違っていた可能性がある。よって重症感染症が合併した白血病では,検査のタイミングによってはBlastの減少が既に起こっている可能性があることを認識しておく必要がある。
感染症治療後にBlastが著減したAMLを経験した。この現象のメカニズムは明らかではないが,一過性のことがほとんどで,また再発時には病型が変化することもあるため,継続して詳細な観察を怠らないことが重要である。さらに,AMLに重症感染症が合併した場合は本来のBlast割合よりも減少している可能性があるため,診断時には注意が必要と考えられた。
本論文の要旨は,第48回中四国支部医学検査学会(2015年11月,米子市)にて発表した。
また本研究計画は松山赤十字病院倫理審査委員会で承認された(受付番号:945)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。