検体の溶血は検査測定値に影響を与えるため,検体の血清情報を臨床に報告することは検査値を解釈する上で重要である。今回,検体の溶血による生化学検査項目への影響の確認を行い,溶血が検査測定値に影響を与えていることを意味する,溶血コメント付加開始点を定め,生化学自動分析装置の溶血度判定値の設定を検討した。採血及び研究使用に同意を得た5人からヘパリンナトリウム血液と血清を得,10段階の血清溶血液を作成し,生化学28項目の影響を調べた。その結果,Hb既知濃度溶血試料のヘモグロビン(Hb)濃度0 mg/dLと比較した時のHb濃度400 mg/dLの平均変化率はLD,Fe,AST,D-BIL,T-BIL,Kの順に大きかった。その中で検体の溶血によるKの変動が最もデータ判読への影響が大きいと考え,Kの個体内生理的変動幅の標準偏差の1/2量(0.12 mEq/L)を許容誤差限界とした場合,これを上回る検体の溶血はHb濃度50 mg/dLであり,溶血コメント付加開始点はHb濃度50 mg/dLが適切と考えられた。その濃度の溶血試料を測定した結果,自動分析装置の溶血度判定値は1.41であった。また,LD,Fe,AST,Kは検体のHb濃度0 mg/mLとHb濃度50 mg/dL時点での増加量が,各項目の許容誤差限界を超えることから,溶血と判定され,溶血コメント付加時には,検体の溶血によって検査測定値が影響を受けていることを示す参考値報告をこの4項目に行うことが有意であると考えられた。
It is important to report the serum information of a specimen in a clinic for the hemolysis of the specimen, which affects the examination measurements and the interpretation of test results. We investigated the effect of hemolysis on biochemical laboratory data, set a hemolysis comment addition origin, and examined the setting of the grades of hemolysis judgment of an autoanalyzer. We collected blood and serum samples into sodium heparin tubes from five people who agreed to the use of their blood and to participate in this study, and then we made 10 phases of hemolysate and examined the effect of hemolysis on 28 biochemical test items. As a result, the mean rate of change of 400 mg/dL was in the order of LD, Fe, AST, D-BIL, T-BIL, and K when we compared it with the Hb concentration of 0 mg/dL. We considered that a change in K level had the biggest effect on the data reading and that half (0.12 mEq/L) of the standard deviation of the physiological band for K in individuals is the change limit of tolerance. A hemolysis grade of more than this indicates a Hb concentration of 50 mg/dL, and the grade of hemolysis judgment at that time was 1.41. Because increases in LD, Fe, AST, and K levels at the Hb concentration of 50 mg/dL were beyond the change limit of tolerance, we considered it significant to the hemolysis comment addition to report a reference level.
生化学項目を検査するにあたって検体(血清)の溶血は,赤血球からの溶出物やその色調により測定値に様々な影響を与えることがあり,臨床側に溶血の情報を伝えることは重要である。検体の溶血を判断する手段として技師の目視判定や生化学自動分析装置による判定がある。生化学自動分析装置は検体の溶血度合いを血清情報として測定し算出している。しかし現状,検体の溶血を認めると判定する血清中のヘモグロビン濃度や検体の溶血が認められた際の検査結果への溶血コメント付加,影響が認められる項目に対しての参考値報告は病院ごとに異なり,標準化はされていない。
そこで今回,検体の溶血による生化学検査値への影響と生化学自動分析装置の溶血度判定値の設定を目的として,10段階の溶血度試料を作成,各溶血度試料の生化学検査値への影響の有無を確認し,生化学検査値への影響を確認できた時点を検体の溶血と判定する判定基準値を定め,生化学自動分析装置の血清情報算出を利用した溶血度判定値を設定することを検討した。なお,本研究は下越病院倫理委員会の承認(承認番号:2020-019)を得たものである。
1)採血及び研究使用に同意を得た5人(A~E)から採血したヘパリンナトリウム加血液と血清を得た。2)生理食塩水にて赤血球を4回洗浄後,精製水に置換し溶血させた。3)−80℃で凍結,流水融解を3回繰り返し,完全溶血させた後に,遠心にて血球膜を沈降させ上清の溶血液を得た。4)多項目自動血球分析装置XN-3100(シスメックス社)を用い,溶血液のヘモグロビン(Hb)濃度を10.0 g/dL(10,000 mg/dL)になるよう精製水にて調製し,濃厚溶血液とした。5)濃厚溶血液を精製水にてさらに希釈し,希釈溶血液1容に対し同一人物の血清9容を混合し,Hb濃度0,30,40,50,70,100,150,200,300,400 mg/dLの10段階の溶血液5人分を調製した。これを溶血による生化学項目への影響調査と溶血度判定に用いた。
2. 測定項目および測定原理,測定波長溶血の影響を確認した生化学項目としてAST,ALT,LD,AMY,CK,ChE,γGT,ALPの酵素8項目とTP,Alb,IP,Ca,Mg,T-BIL,D-BIL,UN,UA,CRE,TC,HDL-C,LDL-C,TG,CRP,Fe,UIBC,Na,K,Clの濃度20項目の計28項目とした。
各項目の測定原理,測定波長についてはTable 1に示した。
Item name | Item | Principle of measurement | Measurement wavelength(nm) (主/副) |
---|---|---|---|
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ | AST | JSCC標準化対応法 | (340/410) |
アラニンアミノトランスフェラーゼ | ALT | JSCC標準化対応法 | (340/410) |
乳酸脱水素酵素 | LD | IFCC対応法 | (340/410) |
アミラーゼ | AMY | JSCC標準化対応法・4,6エチリデン-G7-pNP | (410/658) |
クレアチン・ホスホキナーゼ | CK | JSCC標準化対応法 | (340/410) |
コリンエステラーゼ | ChE | JSCC標準化対応法 | (340/451) |
γ-グルタミールトランスペプチダーゼ | γGT | JSCC標準化対応法 | (410/505) |
アルカリフォスファターゼ | ALP | IFCC対応法 | (410/505) |
総蛋白 | TP | ビウレット法 | (545/694) |
アルブミン | Alb | BCP改良法 | (658/751) |
無機リン | IP | 酵素法 | (340/596) |
カルシウム | Ca | 酵素法 | (410/545) |
マグネシウム | Mg | 酵素法 | (340/410) |
総ビリルビン | T-BIL | 酵素法 | (451/545) |
抱合型ビリルビン | D-BIL | 酵素法 | (451/545) |
尿素窒素 | UN | アンモニア消去法 | (340/410) |
尿酸 | UA | ウリカーゼ・ペルオキシダーゼ法 | (596/805) |
クレアチニン | CRE | 酵素法 | (596/751) |
総コレステロール | TC | コレステロール酸化酵素法 | (596/805) |
HDL-コレステロール | HDL-C | 消去による直接法 | (596/694) |
LDL-コレステロール | LDL-C | 直接法 | (596/694) |
中性脂肪 | TG | 酵素比色法・遊離グリセロール消去法 | (596/805) |
C反応性蛋白 | CRP | ラテックス比濁法 | (545/***) |
鉄 | Fe | Nitroso-PSAP法 | (751/845) |
不飽和鉄結合能 | UIBC | Nitroso-PSAP法 | (751/884) |
ナトリウム | Na | イオン選択希釈法 | ― |
カリウム | K | イオン選択希釈法 | ― |
クロール | Cl | イオン選択希釈法 | ― |
1)5人(A~E)の血液から調製したHb濃度0,30,40,50,70,100,150,200,300,400 mg/dLの10段階の溶血液を試料とし,生化学自動分析装置BM-6050(日本電子社)にて生化学28項目を測定した。2)溶血による生化学検査項目への影響の有無を確認し,影響が大きかった項目の臨床のデータ判読への影響について許容誤差限界(個体内生理的変動の標準偏差1)(Table 2):SDwの1/2値)を考慮し,その許容誤差限界を超え,溶血が検査測定値に影響を与えていることを意味する,溶血コメント付加開始点(Hb濃度)を設定し,BM-6050の溶血度判定値の設定を行った。溶血による測定値の変化率は以下の計算式により算出した。
Item | Reference interval | Unit | SDw |
---|---|---|---|
AST | 10–32 | U/L | 1.8 |
ALT | 2–31 | U/L | 2.4 |
LD | 118–213 | U/L | 17.1 |
T-BIL | 0.3–1.3 | mg/dL | 0.13 |
D-BIL | 0.0–0.3 | mg/dL | 0.05 |
UN | 8.0–20.0 | mg/dL | 2.1 |
UA | 2.0–6.0 | mg/dL | 0.50 |
CRE | M 0.56–1.10 | mg/dL | 0.06 |
Fe | M 48–185 | μg/dL | 16 |
Na | 134–147 | mEq/L | 1.8 |
K | 3.4–4.8 | mEq/L | 0.23 |
Cl | 96–110 | mEq/L | 1.8 |
We modified references 1).
変化率(%)={(x − y)/y} × 100
(x:Hb添加時の測定値 y:Hb濃度0 mg/dL時の測定値)
4. 自動分析装置の血清情報(溶血度)算出法1)生理食塩水測定を利用して試料と第1試薬(生理食塩水)が混和された時の血清の溶血測定吸光度(主波長571 nm/副波長596 nm),乳び測定吸光度(主波長658 nm/副波長694 nm)を測定し,得られた吸光度を以下の血清情報計算式に代入し,溶血度測定値として出力した。式中のb,dは溶血度を算出するときに使用する係数で今回はBM-6050の初期値を使用した。この係数は測定条件により任意に変更可能である。
溶血=b ×(溶血測定吸光度-d × 乳び測定吸光度)
(b: 131.4 d: 0.8987)
5人(A~E)のHb既知濃度溶血試料を対象に生化学検査項目を測定し,Hb濃度0 mg/dL時とHb濃度400 mg/dL時点での測定値5人分の平均変化率を計算するとLD(+370.4%)> Fe(+238.4%)> AST(+223.6%)> D-BIL(−58.0%)> T-BIL(+39.8%)> K(+36.0%)であった(Figure 1a, b)。Hb濃度0 mg/dL時に対して変化率の大きかった上記6項目はHb濃度(x)と各項目の増加量(y)が概ね比例していることより,各項目の各Hb濃度に対する増加量の平均値を対象として切片=0の一次回帰式で表すと,LD:(y) = 1.341(x),Fe:(y) = 0.2157(x),AST:(y) = 0.0914(x) ,D-BIL:(y) = −0.0002(x),T-BIL:(y) = 0.0004(x),K:(y) = 0.0034(x)となった。
上記6項目のうち検体の溶血によるKの変動が臨床のデータ判読への影響が最も大きいと考え,Kの個体内生理的変動幅の標準偏差(SDw)1)である0.23 mEq/Lの1/2量(0.12 mEq/L)を許容誤差限界とした場合,これを上回る溶血はHb濃度50 mg/dL(0.17 mEq/L)であった(Table 3)。また,Hb既知濃度溶血試料を測定し,Hb濃度0 mg/dL時とHb濃度400 mg/dL時点での変化率が大きかったLD,Fe,AST,D-BIL,T-BIL,Kの6項目についてHb既知濃度溶血試料のHb濃度0 mg/dLを基準とした時のHb濃度50 mg/dLと400 mg/dL時点での各項目の増加量(差)をTable 4に示した。
Grade of hemolysis (mg/dL) | 0 | 30 | 40 | 50 | 70 | 100 | 150 | 200 | 300 | 400 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Mean (mEq/L) | 3.83 | 3.92 | 3.94 | 4.00 | 4.07 | 4.14 | 4.32 | 4.48 | 4.83 | 5.20 |
Difference (mEq/L) | 0.09 | 0.11 | 0.17 | 0.24 | 0.31 | 0.49 | 0.65 | 1.00 | 1.37 | |
Minimum of the difference (mEq/L) | 0.07 | 0.06 | 0.12 | 0.19 | 0.26 | 0.40 | 0.55 | 0.86 | 1.17 | |
Maximun of the defference (mEq/L) | 0.14 | 0.16 | 0.23 | 0.28 | 0.35 | 0.61 | 0.75 | 1.21 | 1.70 |
The mean expresses the mean for five (A–E). The difference is the difference of each mean when we are based on a mean of Hb concentrations 0 mg/dL. The minimum, the maximum of the difference mean the results of five (A–E).
Increment of each item | ||||
---|---|---|---|---|
Grade of hemolysis (mg/dL) | 0 | 50 | 400 | |
LD (U/L) | Mean | 152 | 216 | 701 |
Difference | 64 | 549 | ||
Fe (μg/dL) | Mean | 68 | 86 | 146 |
Difference | 18 | 78 | ||
AST (U/L) | Mean | 18 | 22 | 57 |
Difference | 4 | 39 | ||
D-Bil (mg/dL) | Mean | 0.13 | 0.13 | 0.06 |
Difference | 0.00 | −0.07 | ||
T-Bil (mg/dL) | Mean | 0.45 | 0.49 | 0.58 |
Difference | 0.04 | 0.13 | ||
K (mEq/L) | Mean | 3.83 | 4.00 | 5.20 |
Difference | 0.17 | 1.37 |
The mean expresses the mean for five (A–E). The difference is the difference of each mean when we are based on the mean of Hb concentrations 0 mg/dL.
さらに5人(A~E)のHb既知濃度溶血試料を測定した時にBM-6050が算出した溶血度の平均測定値はHb濃度が高くなるにつれて,漸増した(Table 5)。
Grade of hemolysis (mg/dL) | 0 | 30 | 40 | 50 | 70 | 100 | 150 | 200 | 300 | 400 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Mean | 0.12 | 0.96 | 1.20 | 1.41 | 1.96 | 2.54 | 3.98 | 5.17 | 7.94 | 10.85 |
Min | 0.04 | 0.91 | 1.07 | 1.31 | 1.84 | 2.12 | 3.83 | 4.74 | 7.69 | 10.20 |
Max | 0.17 | 1.04 | 1.28 | 1.51 | 2.10 | 2.66 | 4.10 | 5.76 | 8.05 | 11.24 |
The mean expresses the mean for five (A–E).
またHb既知濃度溶血試料の血清色調を示し(Figure 2),血清の色調変化として血清中のHb 50 mg/dL時点での高ビリルビン血清の写真を示した(Figure 3)。
検体の溶血は検査測定値に影響を与えるため,検体の血清情報を臨床に報告することは検査値を解釈する上で重要である。今回,検体の溶血による生化学検査項目への影響の確認を行った。
作成した5人分のHb既知濃度溶血試料を測定し,Hb濃度0 mg/dL時とHb濃度400 mg/dL時点での変化率で確認するとLD,Fe,AST,D-BIL,T-BIL,Kの6項目が大きかった。Hb濃度0 mg/dL時に対して変化率の大きかった上記6項目はHb濃度と各項目の増加量が概ね比例関係にあり全体の傾向としては同様だった。しかし,各項目の結果を確認すると例えばFeではHb濃度0 mg/dLと400 mg/dL時点を比較した時に,測定値の変化率としてBは+809%,Eは+75%と個体差があることを確認できた。
上記6項目のうちHb濃度に対して正の増加量が認められたLD,Fe,AST,Kは赤血球/血漿で順に160,97,20,23であり2),溶血により赤血球内の成分が溶出した影響で増加していると思われる。その中でもFeはその測定試薬において,蛋白変性剤と試薬条件の設定によりHbからのFe遊離を抑えること,2ポイントエンド法によるHbの色の差し引き(負誤差)を与えることで,溶血による影響を軽減させる工夫がされているが,別法との比較を行っていないので,その効果を評価できなかった。またT-BILとD-BILは,ビリルビンオキシダーゼ(BOD)の作用によりT-BIL,D-BILがビリベルジンに酸化され,ビリルビンに依存する450 nm付近の吸光度減少を測定し各々の濃度を算出している。ビリルビンの測定で利用しているこの450 nmはヘモグロビンの赤色(400 nm,575 nmに吸収極大を有する)と重なるため3),ビリルビンの測定に負誤差を与える。その誤差(干渉)を回避するために2波長測定(主波長451 nm,副波長545 nm)を行っているのだが,今回の検討ではHb濃度が上がるにつれて,T-BILは正の増加量,D-BILは負の増加量となった。ビリルビンの増加量の傾向が2方向(正と負)に分かれたことの原因は不明だが,今回はT-BIL,D-BILの測定値のベースが低かったため,測定値のベースが高い検体で再度同様の検討することを今後検討していきたい。
次に検体の溶血による臨床のデータ判読への影響について許容誤差限界を考慮し,検体の溶血コメント付加開始点(Hb濃度)の検討を行った。Hb濃度0 mg/dL時に対して変化率の大きかった上記6項目のうち,Kの変動が最もデータ判読への影響が大きいと考えた。KのSDw/2である0.12 mEq/Lを許容誤差限界とした場合,これを上回る溶血はHb濃度50 mg/dL(0.17 mEq/L)であったことから,溶血が検査測定値に影響を与えていることを意味する,検体の血清情報の溶血コメント付加開始点は,血清中のHb濃度が50 mg/dL時点が妥当と考えられる。
また溶血度合いの判定について,KのSDw/2(0.12 mEq/L:溶血コメント付加開始点)からKの2 × SDw(0.46 mEq/L)まで変動するHb濃度を弱溶血(溶血度判定1+),Kの2 × SDw(0.46 mEq/L)からKの4 × SDw(0.92 mEq/L)まで変動するHb濃度を中溶血(溶血度判定2+),Kの4 × SDw(0.92 mEq/L)以上変動するHb濃度を強溶血(溶血度判定3+)とすると,今回の検討において,弱溶血はHb濃度50 mg/dLから149 mg/dL,中溶血はHb濃度150 mg/dL Hbから299 mg/dL,強溶血はHb濃度300 mg/dL以上となり,藤本ら4)が推奨している値と同様であった。
以上の検討をもとに,生化学自動分析装置の血清情報算出を利用した溶血度判定値の設定を検討した。生化学自動分析装置(BM-6050)は,生理食塩水測定を利用して血清の溶血測定吸光度(主波長571 nm/副波長596 nm),乳び測定吸光度(主波長658 nm/副波長694 nm)を測定し,血清の溶血測定吸光度から乳び測定吸光度を差し引くことで,より正確な溶血測定吸光度を得る工夫がされている。BM-6050の今回の設定において,BM-6050で測定した検体の溶血コメント付加開始点の溶血度判定値は,Hb濃度50 mg/dLにおける5人分の平均値の1.41となる。今回の血清情報(溶血度)算出式b(131.4),d(0.8987)の係数はBM-6050の初期設定値であり,各施設で検討した値を設定することも可能である。算出式の係数を変更した場合,今回検討した溶血度判定値とは異なる溶血度になることに留意する必要がある。
さらに今回の検討において,Hb既知濃度溶血試料のHb濃度0 mg/dLを基準として,Hb濃度40 mg/dL時点でKが0.16 mEq/Lの差を認め,今回検体の溶血コメント付加開始点の基準に用いたKのSDw/2である0.12 mEq/Lを超えた値も認めた。また検体の溶血コメント付加開始点の溶血度として定めた溶血度判定値1.41を超える溶血度は,Hb既知濃度溶血試料のHb濃度40 mg/dL時点ではないが,Hb濃度50 mg/dL時点での溶血度は最小値1.31,最大値1.51となっており,溶血度判定値である1.41を下回る場合もある。以上2点について,溶血試料作成時の手技による影響も否定はできないが,個体差による影響も考えられる。生化学自動分析装置の血清情報算出を利用した溶血度判定値を設定した場合,そのことにも留意して使用する必要がある。
そしてHb既知濃度溶血試料の血清色調について,検体の溶血の判定方法として血清色調を技師が目視判定した場合,溶血と判定する血清のHb濃度には個人差があり5),ベースとなる血清の色調(黄疸),混濁(乳び)によっても検体の溶血の判定に差が出ると考えられる。さらに黄疸についてみてみると,血清のHb濃度50 mg/dLにおいて同じHb濃度でもT-BIL濃度0.7 mg/dLと10 mg/dLを比較するとその色調に差があることが分かり,技師による検体の溶血の目視判定に影響を与えることが推測される。このような技師による検体の溶血の目視判定における不安定さを埋め,その判定の標準化を行う手段の1つとして,生化学自動分析装置の血清情報算出を利用した溶血度判定が有用になることもあると考える。
最後に,検体が溶血していると判定した際に溶血による影響が認められた項目に対して,参考値報告の必要性について検討した。Hb既知濃度溶血試料を測定し,Hb濃度0 mg/dL時とHb濃度400 mg/dL時点での変化率が大きかったLD,Fe,AST,D-BIL,T-BIL,Kの6項目について,Hb濃度0 mg/dLを基準とした時,検体の溶血コメント付加開始点であるHb濃度50 mg/dLの増加量と各項目の許容誤差限界(SDwの1/2量1))を比較すると(増加量,許容誤差限界),LD(64U/L, 8.6U/L),Fe(18 μg/dL, 8 μg/dL),AST(4U/L, 0.9U/L),D-BIL(0.00 mg/dL, 0.03 mg/dL),T-BIL(0.04 mg/dL, 0.07 mg/dL),K(0.17 mEq/L, 0.12 mEq/L)となり,LD,AST,K,Feの4項目が許容誤差限界を超えた。したがって検体が溶血と判定され,検体の溶血コメントを付加する際にはLD,AST,K,Feの4項目に,検体の溶血によって検査測定値が影響を受けていることを示す「参考値」コメントを同時に入力し,臨床へ報告することが望ましいと考えられた。この「参考値」コメントが「検体の溶血によって,検体が非溶血の状態に比し,LD,AST,K,Feの4項目の検査測定値が高値である」という意味を持つことを臨床に伝えるために,「参考値」コメントは「検体の溶血により検査測定値が高値に出ている可能性があり,参考値です。」など,検体の溶血による検査測定値への影響について記載されたものが良いと考えられる。また,検体が溶血による影響を受けていない,より正確な検査測定値を臨床へ返すために,生化学検体の採血し直しについて臨床に提言することも選択肢の1つである。採血し直しを行うことで,再度採血されることによる患者への負担や検査結果報告の遅延が生じてしまうが,検体の溶血による生化学項目への影響を排除した検査測定値を臨床へ返すことができる。したがって検体が溶血と判定された際には,「参考値」コメントの報告だけでなく,生化学検体の採血し直しについても選択肢として考えていただきたい。
今回,検体の溶血による生化学検査値への影響と生化学自動分析装置の溶血度判定値の設定を目的として,検討を行った。溶血コメント付加開始点(弱溶血:1+)はHb濃度50 mg/dL,現条件でのBM-6050の溶血度判定値は1.41であった。今回の検討をもとに,自動分析装置の溶血判定を再設定し,これからも有意な溶血コメントを臨床に返していきたい。
本論文の要旨は令和3年度日臨技北日本支部医学検査学会(第9回)(2021年11月)で報告した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。