2023 年 72 巻 1 号 p. 97-104
可溶性インターロイキン2受容体(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)は,非ホジキンリンパ腫や成人T細胞性白血病の診断補助や治療効果の判定に有用とされている。今回,東ソー株式会社より化学発光酵素免疫測定法を原理とし,15分間で測定可能な試薬が開発された。本研究では,全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA®-CL1200を用いた本試薬の基礎的性能評価を行った。その結果,再現性,選択性,定量限界の評価は良好であり,希釈直線性においても44,131 U/mLまで原点を通る直線性が確認された。また,他法との相関性は良好であり,同じ測定原理のルミパルスとは乖離検体は生じなかったが,ラテックス免疫比濁法を原理とするナノピアとの比較において2例の乖離症例が出現し,いずれもナノピアの方が高値であった。解析の結果,症例1は,検体中のIgMが測定反応系に関与し,症例2は,検体中のHuman anti-mouse antibody(HAMA)による非特異反応の可能性が示唆された。本試薬の基礎的性能は良好であり,日常検査法として十分な性能を有していることから臨床への貢献が期待される。
The soluble interleukin-2 receptor (sIL-2R) is considered to be useful as a diagnostic aid for non-Hodgkin’s lymphoma and adult T-cell leukemia, as well as for determining therapeutic efficacy. In this study, Tosoh Corporation has developed a reagent for chemiluminescent enzyme immunoassay (CLEIA) that can be used in 15 min. In this study, we evaluated the basic performance of this reagent using the fully automated CLEIA system AIA®-CL1200. As a result, the reproducibility, selectivity, and limit of quantitation using this reagent were found to be high, and dilution linearity test was confirmed up to 44,131 U/mL. The correlation with other methods was good, and no extremely deviated sample was found using LUMIPULSE based on the same measurement principle were observed. However, in comparison with Nanopia which uses latex immunoturbidimetry as its principle, two divergent cases were identified in which Nanopia showed higher values. The results of the analysis suggest that IgM in sample 1 was involved in the assay reaction system, and in sample 2, it was possible that Human anti-mouse antibody (HAMA) in this sample caused the nonspecific reaction. The basic performance of this reagent is good, and it is expected to contribute to clinical diagnostics since it has sufficient performance for routine examinations.
インターロイキン2(interleukin-2; IL-2)は,抗原刺激を受けた活性化T細胞より分泌されるサイトカインであり,IL-2受容体(interleukin-2 receptor; IL-2R)と結合すると,受容体の一部であるα鎖が遊離し,可溶性IL-2R(soluble interleukin-2 receptor; sIL-2R)として血中に放出される。このsIL-2Rは,特に非ホジキンリンパ腫や成人T細胞性白血病などで高値となり,これら疾患における診断,経過観察に有用である1)。さらに,近年では,家族性乳癌,重症急性膵炎,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の重症度評価や予後予測の指標としても有用とされている2)~4)。
2017年に積水メディカル株式会社より,汎用自動分析装置で測定可能なラテックス免疫比濁法(latex immune assay; LIA)を測定原理とした試薬が開発されたが,非特異反応が報告され問題となっていた5)。今回,東ソー株式会社より化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を原理とし,かつ15分間と短時間で測定可能な試薬が開発されたため,その基礎的性能を確認した。また,CLEIAを測定原理としたルミパルスプレストIL-2R(H.U.フロンティア株式会社)とLIAを測定原理とするナノピアIL-2R(積水メディカル株式会社)との相関性試験の結果,遭遇した乖離例について解析を行ったので報告する。
東京慈恵会医科大学附属第三病院中央検査部にsIL-2Rの測定依頼があった患者試料の残余血清102例および管理試料を用いた。本検討については,東京慈恵会医科大学倫理委員会の承認を得て実施した[審査番号:31-136(9635)]。
2. 測定試薬および測定機器 1) sIL-2R測定試薬(東ソー株式会社)(以下,AIA-CL)測定原理:CLEIA
測定機器:全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA®-CL1200
2) ルミパルスプレスト®IL-2R(H.U.フロンティア株式会社)(以下,ルミパルス):対照試薬測定原理:CLEIA
測定機器:全自動化学発光酵素免疫装置ルミパルス®L2400
3) ナノピア®IL-2R(積水メディカル株式会社)(以下,ナノピア):対照試薬測定原理:LIA
測定機器:自動分析装置TBA TM-c16000(キャノンメディカル株式会社)
3. 検討方法 1) 併行精度2濃度の管理試料を10回連続測定し,mean,SD,CVを算出した。
2) 室内再現精度2濃度の管理試料を1日1回10日間測定し,mean,SD,CVを算出した。
3) 共存物質の影響干渉チェック・Aプラスおよび干渉チェック・RFプラス(シスメックス株式会社)を用い,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,溶血,乳び,リウマトイド因子の影響について確認した。試料の調製方法は,干渉チェック・Aプラスは患者プール血清と各試料を9:1の割合で混合したのち5段階の希釈系列を作製,干渉チェック・RFプラスは試料を患者プール血清で溶解後同様に5段階希釈系列を作製し,各調整試料を3重測定した。共存物質添加前の濃度と比較し,10%以上の変動率を認めた場合を影響があるとした。
4) 希釈直線性600 U/mLと44,131 U/mLの試料を専用希釈液で10段階に希釈したのち,それぞれ3重測定した。直線性の評価は,分散分析で残差分散と準誤差分散の比からF統計量によって行い,有意確率p < 0.001(0.1%)の場合「直線性が認められない」と判定した。
5) 定量限界(limit of quantitation; LoQ)低濃度患者試料および専用希釈液を用いて5種類の低濃度試料を調整し,1日2回5日間測定した結果を基に回帰式で回帰した。設定方法は,誤差許容限界値をCV 20%とし,X軸に平行に引いた線と回帰曲線とが交わる点の濃度をLoQとした。
6) 相関性試験患者試料102例を用いてAIA-CL・ルミパルス・ナノピアの3法で測定したのち,AIA-CLとルミパルス,AIA-CLとナノピアでの相関係数rと回帰式を算出した。
7) 乖離症例の解析相関性試験でナノピアの測定値が高値に乖離した症例が2症例認められ,以下の検討を行った。
① Human anti-mouse antibody(HAMA)吸収試験乖離症例の血清とHeterophilic blocking reagent-1(HBR-1)(Scantibodies社)をHBR-1の終濃度が500 μg/mLになるように添加し混和後一晩放置し,遠心したのちその上清のsIL-2R濃度を測定した。
② 免疫グロブリン吸収試験検体残量の関係から乖離症例2例について異なる方法で検討を行った。
ⓐ 抗ヒト免疫グロブリン特異抗体による吸収試験乖離症例1については,血清とIgG・IgA・IgMの抗ヒト免疫グロブリン特異抗体(フナコシ株式会社)を1:5の割合で混合後一晩放置し,遠心したのちその上清のsIL-2R濃度を測定した。
ⓑ 抗体精製用磁気ビーズProtein L(アズワン株式会社)(以下,プロテインLビーズ)を用いた免疫グロブリン吸収試験乖離症例2については,プロテインLビーズをリン酸緩衝液(phosphate-buffered salin; PBS)を用いて洗浄し,そのビーズ懸濁液300 μLに,PBSで20倍希釈した血清を加え,2時間混和と静置を繰り返すことでビーズに免疫グロブリンを吸着させた。その後,遠心することで免疫グロブリンを除去した血清が得られ,そのsIL-2R濃度を測定し除去前後の回収率を比較した。
③ ゲル濾過分析TSKgel G3000SWXLによる高速液体クロマトグラフィー装置(東ソー社)によって,検体残量が得られた乖離症例1の血清をゲル濾過し各フラクションをAIA-CL1200で測定した。なお,ゲル濾過分析の条件は以下の通りである。
Column: TSKgel G3000SWXL 7.8 mm × 30 cm,Elution: 0.1 M PB,0.1 M NaCl,0.1% NaN3(pH 7.0),Flow Rate: 0.5 mL/min,Sample: 100 μL,Fraction: 0.5 mL/tube
併行精度は低濃度域がCV 3.3%,高濃度域がCV 3.4%,異常域が3.9%であった(Table 1)。
Low | High | Abnormal | |
---|---|---|---|
mean (U/mL) | 209 | 571 | 13,089 |
SD (U/mL) | 6.9 | 19.4 | 507.6 |
CV (%) | 3.3 | 3.4 | 3.9 |
CV 3.3% in the low concentration range, 3.4% in the high concentration range, and 3.9% in the abnormal range.
室内再現精度は低濃度域がCV 4.3%,高濃度域がCV 3.8%,異常域が4.2%であった(Table 2)。
Low | High | Abnormal | |
---|---|---|---|
mean(U/mL) | 202 | 520 | 12,690 |
SD (U/mL) | 8.7 | 19.7 | 531.9 |
CV (%) | 4.3 | 3.8 | 4.2 |
CV 4.3% for the low concentration range, CV 3.8% for the high concentration range, and 4.2% for the abnormal range.
遊離型ビリルビンは18.8 mg/dLまで,抱合型ビリルビンは20.2 mg/dLまで,溶血ヘモグロビンは48.0 mg/dLまで,乳びは1,590ホルマジン濁度まで,リウマトイド因子は500 IU/mLまで測定値に影響を認められなかった(Figure 1)。
There was no effect on the measured values of the free bilirubin up to 18.8 mg/dL, conjugated bilirubin 20.2 mg/dL, hemoglobin 48.0 mg/dL, chyle 1,590 FTU, and rheumatoid factor 500 IU/mL.
いずれの試料においても原点を通る直線性を得られ,44,131 U/mLまで良好な直線性を確認した(Figure 2)。
The upper limit of the measured value was 600 U/mL and 44,131 U/mL.
CV 20%の濃度をLoQとすると,19.6 U/mLであった(Figure 3)。
The limits of quantification was 19.6 U/mL.
AIA-CLとルミパルスの全検体(n = 102)での相関はy = 0.94x + 80.70,r = 0.986であり,1,000 U/mL未満(n = 45)の相関は,y = 1.03x + 21.06,r = 0.978であった。ルミパルスでは,AIA-CLと乖離する検体は認められなかった。
AIA-CLとナノピアの全検体(n = 102)での相関はy = 1.12x − 132.86,r = 0.997であり,1,000 U/mL未満(n = 45)の相関は,y = 0.94x − 12.89,r = 0.903であった。ナノピアではAIA-CLと乖離する検体を2例認めた(Figure 4)。乖離した2症例の属性と各方法での測定結果を示す(Table 3)。
Correlation between AIA-CL method and Lumipulse method and between AIA-CL method and Nanopia method. AIA-CL and Nanopia showed two divergent specimens.
age | sex | Diagnosis | sIL-2R (U/mL) | |||
---|---|---|---|---|---|---|
AIA | Lumipulse | Nanopia | ||||
Sample 1 | 78 | male | Suspected nontuberculous mycobacteriosis Monoclonal gammopathy of undetermined significance (IgG: 1,576 mg/dL IgA: 744 mg/dL IgM: 80 mg/dL) |
263 | 309 | 453 |
Sample 2 | 41 | female | Alcoholic cirrhosis | 323 | 362 | 876 |
Attributes and measurements of two cases that diverged in the correlation study.
乖離症例1についてHAMA吸収試験を行った結果の回収率は,AIA-CLとナノピアで大きな変化は認められなかった。一方,乖離症例2は本法では変化が見られなかったのに対し,ナノピアにおいては64.9%と回収率の低下が確認された(Table 4)。
Reagent | HBR1 untreated (U/mL) | HBR1 treated (U/mL) | HBR1 treated/untreated ratio (%) | |
---|---|---|---|---|
Sample 1 | AIA | 252.5 | 329 | 130.3 |
Nanopia | 453 | 512 | 113.0 | |
Sample 2 | AIA | 351 | 414 | 117.9 |
Nanopia | 832 | 540 | 64.9 | |
Control serum | AIA | 549 | 573 | 104.4 |
Nanopia | 610 | 603 | 98.9 |
Divergent case 2 was confirmed by nanopia measurement to have a lower recovery rate of 64.9%.
乖離症例1については,吸収の結果,ナノピア測定においてIgM吸収血清のみ67.1%と測定値の低下が認められた(Table 5)。
Reagent | Antibody IgG serum untreated (U/mL) | Antibody IgG serum treated (U/mL) | Antibody IgG serum treated/untreated ratio (%) | Antibody IgA serum untreated (U/mL) | Antibody IgA serum treated (U/mL) | Antibody IgA serum treated/untreated ratio (%) | Antibody IgM serum untreated (U/mL) | Antibody IgM serum treated (U/mL) | Antibody IgM serum treated/untreated ratio (%) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Sample 1 | AIA | 263 | 294 | 111.9 | 263 | 302 | 114.7 | 263 | 324 | 123.3 |
Nanopia | 453 | 508 | 112.1 | 453 | 496 | 109.5 | 453 | 304 | 67.1 | |
Control serum | AIA | 885 | 681 | 76.9 | 885 | 828 | 93.6 | 885 | 831 | 93.9 |
Nanopia | 888 | 838 | 94.4 | 888 | 1,060 | 119.4 | 888 | 904 | 101.8 |
Divergent case 1 showed a decrease in measured value of 67.1% only for IgM absorbing serum in the Nanopia assay.
乖離症例2については,ナノピア測定において測定値の低下が確認された(Table 6)。
Reagent | Protein L untreated (U/mL) | Protein L treated (U/mL) | Protein L treated/untreated ratio (%) | |
---|---|---|---|---|
Sample 2 | AIA | 351 | 401 | 114.2 |
Lumipulse | 310 | 262 | 84.5 | |
Nanopia | 826 | 280 | 33.9 |
Deviation case 2 showed a decrease in measured values in the Nanopia measurement.
乖離症例1の血清ゲル濾過分析の結果,コントロール血清とAIA-CL測定では,両者とも45 kDa付近にのみにピークが認められたが,ナノピア測定では,さらに高分子の660 kDa付近にもピークが認められた。加えて,分画分取液中のIgG,IgA,IgMを測定しsIL-2Rの分布と比較したところ,ナノピアのみで示されたピークはIgMの溶出位置と一致した(Figure 5)。
The peak indicated by nanopia only coincided with the elution position of IgM.
sIL-2Rの測定意義は,非ホジキンリンパ腫や成人T細胞性白血病の診断補助以外にも自己免疫疾患である1型糖尿病でのC-ペプチド濃度の低下との関連6)や膵島自己抗体との関連7)が認められており,最近では,血管合併症(網膜症,腎症,心血管疾患)との関連8)も確認されている。また,シェーグレン症候群における重症度判定のバイオマーカーとしての活用9)やCOVID-19患者における重症度などとの関連性も報告されている10)。このようにsIL-2R測定の多岐にわたる有用性が確認されている昨今,同時に診察前検査としての必要性も高まり,酵素免疫測定法(enzyme linked immunosorbent assay; ELISA)に代わって,汎用自動分析装置に搭載し生化学項目と同時測定が可能なLIAが普及している。LIAの場合,患者血清中の免疫グロブリンがラテックス上に固相されている抗体と結合することによって本来の目的成分との特異的な凝集反応を阻害することで偽低値を生じたり,ラテックス上の抗体と架橋凝集反応を生じることで偽高値を引き起こすことがあり11)~13),sIL-2R測定においても報告されている14),15)。
今回の基礎的性能評価の結果,再現性,選択性,定量限界の評価は良好であり,希釈直線性においても44,131 U/mLまで原点を通る直線性が確認された。当院の2019年4月から2022年3月の3年間におけるsIL-2Rの依頼は9,815件であったが,最大値は42,969 U/mLであり直線性内であることから,診察前検査として結果報告の迅速化に寄与することが期待される。他法との相関性においては,同じ測定原理であるルミパルスとは乖離検体は生じなかったが,LIAを原理とするナノピアとの比較においては2例の乖離症例が出現し,いずれもナノピアの方が高値であった。そのうち症例1は,78歳の男性で,非結核性抗酸菌症疑いがあり,IgAκ型のMGUSと診断されていた。検討結果より,HAMAの影響は確認されなかったが,免疫グロブリン吸収試験とゲル濾過分析結果から,検体中のIgMが測定反応系に関与し偽高値を生じている可能性が示唆された。つぎに,症例2は,41歳の女性で,アルコール性肝硬変と診断されていた。検討結果より,HAMAの存在が確認され,免疫グロブリン吸収試験結果と合わせて,試薬の抗マウスモノクローナル抗体と反応するHAMAによる非特異反応の可能性が考えられた。なお,症例2においても,ゲル濾過分析により非特異反応を引き起こす原因物質の分子量特定を試みたが,検体量不足により実施不可能であった。HAMAの産生要因は多岐にわたるが,生物学的製剤の普及は新たなHAMA産生の一因となる可能性もあり16)本乖離例のような,検体に起因する干渉物質に対していかに測定反応系で回避すべきか考える必要がある。免疫化学検査は,生物学的な抗原抗体反応を利用し,試薬中には生物由来の免疫グロブリンが用いられている。そのため,検体中の自己抗体や異好抗体と試薬中の抗体とが反応し,生じる非特異反応を避けるべく各メーカーは測定装置と試薬に工夫を施しており,本装置もB/F分離を2回実施することで異好抗体・M蛋白・RF等の非特異反応要因の影響を極力回避する仕組みとなっている17)。
東ソー株式会社より開発されたsIL-2R測定試薬の基礎的性能は,良好であり日常検査法として十分な性能を有していた。測定時間も15分であり,診察前の結果報告が可能となることで効果的な治療法を選択することが可能となり,臨床への貢献が期待される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。