医学検査
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技術論文
免疫血清項目の4社機器・試薬の比較―甲状腺関連検査項目:TSH,FT4,FT3―
笠原 裕子石原 有理下坂 浩則吉川 直之小野 佳一蔵野 信矢冨 裕飛田 明子
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2023 年 72 巻 1 号 p. 105-114

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Abstract

甲状腺関連検査(TSH, FT4, FT3)は,その検査値のみで治療目標基準を設定しているガイドラインがあることから,試薬間差の軽減・解消が要求される項目である。しかしながら,抗原抗体反応による免疫学的測定法を利用しているため,測定機器や試薬により測定結果に多少の相違が生じうるという問題がある。国際臨床化学連合の甲状腺機能検査標準化委員会(IFCC C-STFT)がFT4の標準化とTSHのハーモナイゼーションの有効性を報告したことを受けて,本邦でもTSHのハーモナイゼーションの動きは進んでいるが,同一の検体を用いて複数機種間の測定値を比較検討した報告は少ない。そこで,本検討ではアボットジャパン(同)(以下,アボット社),シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス(株)(以下,シーメンス社),東ソー(株)(以下,東ソー社),富士レビオ(株)(以下,富士レビオ社)の4社の測定装置を用いて,各試薬の基礎的性能と装置間の相関を検討した。いずれの装置も良好な基礎的性能を示し,装置間の相関性も良好であることが確認できたが,一部の項目で,装置間で測定値に差を認めた。今後,値付けの調整による標準化やハーモナイゼーションを進めていくことが重要であると考えられる。

Translated Abstract

The standardization of thyroid-related tests, such as TSH, FT4, and FT3, is clinically important since several guidelines for thyroid diseases recommend the therapeutic targets based on their absolute values. Since the thyroid-related tests are performed with an immunoassay, however, the absolute values are largely influenced by the analytical devices and reagents used for the assays. The International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine Committee for Standardization of Thyroid Function Tests (IFCC C-STFT) promotes the standardization of FT4 and the harmonization of TSH, and the latter is now ongoing in Japan. However, at present, there are few reports comparing the absolute values yielded by multiple thyroid-related tests conducted simultaneously. In this study, we compared the precisions and correlations among four different methods, including those offered by Abbott, Siemens, Tosoh, and Fujirebio. We obtained favorable results on the precisions and correlations; however, we observed substantial discrepancies among the absolute values obtained by using different methods. These results suggest that harmonization especially on the absolute values is further required for thyroid-related tests in Japan.

I  はじめに

臨床検査において,甲状腺関連検査(TSH, FT4, FT3)は依頼数の多いホルモン検査の一つであり,その検査値のみで治療基準を設定しているガイドラインがあることから,試薬間差の軽減・解消が要求される項目である。しかしながらこれらの検査項目はいずれも抗原抗体反応を用いた免疫学的測定装置を利用しているため,使用する抗体や測定系,反応系の違いから,各機器や試薬により測定値が異なる等の問題点がある。甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone; TSH)と遊離T4(Free T4; FT4)に関しては,日本医師会令和2年度第54回臨床検査精度管理調査において,方法間変動がTSHではCV 12.05~12.71%,FT4ではCV 21.92~27.33%と報告されている1)。このように施設間で異なる値が出るにも関わらず,前述のように治療のためには絶対値による測定値が示されているため,検査方法による測定値の違いは臨床上重要な問題といえる2)

国際臨床化学連合(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine; IFCC)の甲状腺機能検査標準化委員会(Committee of Standardization of Thyroid Function Tests; C-STFT)は,10年以上の年月をかけて2017年にFT4の標準化とTSHのハーモナイゼーションの有効性を報告した3),4)。日本国内でもハーモナイゼーションの動きは進んでおり,IFCC基準適合検査値(Phase IV)に対し各方法(試薬キット)を2021年3月までに適応するとされている。しかしながら,同一施設において実臨床検体を用いて複数機器の比較を行った報告はこれまでにされていない。今回,当院にて4機種の測定装置を同一検体及び同期間で検討を行ったので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

2018年7月~2018年11月の期間で当院検査部に提出された検体の残血清90件と管理試料2濃度を用いた。本検討は東京大学医学部附属病院検査部とアボット社,シーメンス社,東ソー社,富士レビオ社,各社との共同研究にて行い,東京大学大学院医学系研究科医学部倫理委員会の承認を得て行った(承認番号3333-147)。

2. 測定試薬と測定装置

以下の測定機器および試薬を使用した。各測定機器の性能をTable 1に示す。

Table 1  Device information
測定機器 Alinity Atellica AIA-CL2400 ルミパルスL2400
測定原理 CLIA法 CLIA法 CLEIA法 CLEIA法
標識 アクリジニウム アクリジニウム ALP ALP
測定時間(分) 29 13.6 15 26.8
TSH(μIU/mL)
測定法 2ステップサンドイッチ法 1ステップサンドイッチ法 2ステップサンドイッチ法 ディレイ1ステップ
サンドイッチ法
使用抗体 抗TSHマウス
モノクローナル抗体
抗TSHマウス
モノクローナル抗体
抗TSHマウス
モノクローナル抗体
抗TSHマウス
モノクローナル抗体
検体分注量(μL) 113 75 50 50
測定下限 0.0083 0.008 0.003 0.021
測定上限 100 150 120 200
参考基準範囲 0.35~4.94 0.34~3.88 0.41~4.00 0.746~4.118
FT4(ng/dL)
測定法 2ステップ競合法 1ステップ競合法 ディレイ1ステップ競合法 1ステップ競合法
使用抗体 抗T4ヒツジ
ポリクローナル抗体
抗T4ウサギ
ポリクローナル抗体
抗T4ウサギ
ポリクローナル抗体
抗T4マウス
モノクローナル抗体
検体分注量(μL) 34 25 5 10
測定下限 0.42 0.1 0.1 0.09
測定上限 5.00 12.0 8.0 10
参考基準範囲 0.70~1.48 0.95~1.74 0.71~1.69 0.68~1.26
FT3(pg/mL)
測定法 2ステップ競合法 1ステップ競合法 ディレイ1ステップ競合法 ディレイ1ステップ競合法
使用抗体 抗T3ヒツジ
モノクローナル抗体
抗T3マウス
モノクローナル抗体
抗T3ウサギ
モノクローナル抗体
抗T3ヒツジ
ポリクローナル抗体
検体分注量(μL) 22 35 20 50
測定下限 1.5 0.20 0.5 0.67
測定上限 20 20.00 25 30
参考基準範囲 1.88~3.18 2.13~4.07 1.72~3.44 2.51~3.47

アボット社のAlinity iおよび「TSH・アボット」・「フリーT4・アボット」・「フリーT3・アボット」(以下,Alinity),シーメンス社のAtellicaおよび「ケミルミTSH IIIウルトラ」・「ケミルミE-FT4」・「ケミルミFT3」(以下,Atellica),東ソー社のAIA-CL2400および「AIA-パックCL TSH」・「AIA-パックCL FT4」・「AIA-パックCL FT3」(以下,AIA-CL),富士レビオ社のルミパルスL2400および「ルミパルスプレストTSH」・「ルミパルスプレストFT4」・「ルミパルスプレストFT3」(以下,L2400)を用いて測定した。

3. 再現性

管理試料2濃度とプール血清1濃度を同一ロット試薬にて10回連続測定して,併行精度(同時再現性)を評価した。室内再現精度(日差再現性)は,同様の試料を用いて同一ロット試薬にて1日2回10日間測定して評価した。

4. 相関性

患者検体90件を用いて,各機種間の相関性を評価した。また,4機種それぞれで測定された値をもとに1検体あたりの方法間の変動係数(以下,4機種間CV%)を算出した。

5. 統計解析

相関性はPearson検定を用いた。4機種間の有意差の検定には,Friedman検定を用い,2群間の有意差にノンパラメトリック法による多重比較法Dunn検定を用いp < 0.01を有意水準として評価した。

III  結果

1. 再現性

併行精度(同時再現性)は,すべての機種において,TSH,FT4,FT3のいずれもCV%が5%未満であり,良好な結果であった(Table 2)。室内再現精度(日差再現性)では,Alinityで管理血清HighのFT4およびFT3を測定した結果ではCV%が6.71%,5.09%となったが,それ以外のすべての機種および項目においてはCV%が5%未満であり,良好な結果であった(Table 3)。

Table 2  Intra-day precision (n = 10)
管理血清Low 管理血清High プール血清
MEAN SD CV% MEAN SD CV% MEAN SD CV%
TSH Alinity 0.395 0.006 1.40 26.601 0.397 1.49 1.467 0.012 0.82
Atellica 0.388 0.010 2.56 30.910 0.524 1.70 1.658 0.022 1.30
AIA-CL 0.454 0.007 1.51 29.672 0.534 1.80 1.890 0.026 1.38
L2400 0.310 0.002 0.79 25.908 0.217 0.84 1.277 0.013 1.01
FT4 Alinity 0.96 0.01 0.91 3.69 0.17 4.50 1.02 0.01 1.41
Atellica 1.07 0.02 2.20 4.11 0.05 1.13 1.30 0.02 1.58
AIA-CL 1.25 0.06 4.48 5.37 0.14 2.66 1.26 0.04 2.91
L2400 1.06 0.01 0.82 6.45 0.04 0.62 1.06 0.01 1.27
FT3 Alinity 1.87 0.06 3.08 12.20 0.47 3.82 2.34 0.07 2.88
Atellica 2.62 0.03 1.12 11.14 0.09 0.80 2.79 0.04 1.48
AIA-CL 2.30 0.07 3.02 16.60 0.21 1.27 2.31 0.04 1.66
L2400 3.80 0.03 0.92 22.82 0.17 0.77 2.98 0.04 1.38
Table 3  Inter-day precision (n = 20)
管理血清Low 管理血清High プール血清
MEAN SD CV% MEAN SD CV% MEAN SD CV%
TSH Alinity 0.390 0.013 3.24 26.544 0.905 3.41 1.447 0.042 2.93
Atellica 0.401 0.013 3.17 32.252 1.030 3.19 1.694 0.063 3.73
AIA-CL 0.457 0.010 2.11 30.180 0.780 2.59 1.894 0.028 1.47
L2400 0.310 0.004 1.38 26.189 0.393 1.50 1.279 0.045 3.55
FT4 Alinity 0.96 0.03 2.78 3.62 0.24 6.71 1.03 0.02 2.09
Atellica 1.08 0.03 2.97 4.13 0.12 2.87 1.33 0.05 3.40
AIA-CL 1.32 0.04 3.35 5.46 0.15 2.83 1.34 0.05 3.47
L2400 1.06 0.03 2.49 6.42 0.10 1.59 1.08 0.02 2.08
FT3 Alinity 1.90 0.07 3.44 12.05 0.61 5.09 2.31 0.07 3.25
Atellica 2.63 0.05 1.79 11.67 0.31 2.63 2.87 0.08 2.81
AIA-CL 2.46 0.10 4.13 17.13 0.44 2.60 2.37 0.07 3.15
L2400 3.71 0.03 0.94 22.78 0.37 1.65 2.90 0.06 1.96

2. 相関性

1) TSH

すべての機種間において相関係数r = 0.98以上となり良好な相関を示した。しかしながら機器の組み合わせによっては測定値に差を認めることもあり,Alinity(y)とAtellica(x)の比較では回帰式がy = 0.58x + 0.69となった(Figure 1)。

Figure 1 Correlations between measurements of TSH among 4 methods

2) FT4

すべての機種間においてr = 0.97以上となり良好な相関を示した。また,TSHと同様に測定値には機種間差が存在し,回帰式がAlinity(y)とAtellica(x)ではy = 0.51x + 0.35,Alinity(y)とAIA-CL(x)ではy = 0.42x + 0.43,Alinity(y)とL2400(x)ではy = 0.46x + 0.50となった(Figure 2)。

Figure 2 Correlations between measurements of FT4 among 4 methods

3) FT3

TSH,FT4と同様にr = 0.98以上となり良好な相関を示した。一方前述のTSH,Ft4の結果の一部で認めたような,機種間での測定値には大きな差は認められず,最も測定値に差を認めたL2400(y)とAtellica(x)の組み合わせでも回帰式はy = 0.85x + 0.40であった(Figure 3)。

Figure 3 Correlations between measurements of FT3 among 4 methods

3. 4機種間CV%

相関検体のうち感度以下及び上限値以上の検体を除いて算出した。

1) TSH

70検体について算出した結果,7.0~37.7%であった。中央値は14.4%であり,10~20%を示す検体が50件と最も多く,次いで20%以上を示す検体が14件であった。20%以上の検体をみると,AtellicaとAIA-CLが高値傾向を,AlinityとL2400が低値傾向を示す結果となった(Table 4)。また,同時再現性に用いた管理血清2濃度とプール血清の4機種間CV%は,管理血清Lowが13.0%,Highが7.4%,プール血清が14.4%であった。

Table 4  The results of TSH high levels on CV%
Sample No. TSH (μIU/mL) CV% (%)
Alinity Atellica AIA-CL L2400
2 1.106 1.406 1.977 1.130 24.98
5 0.270 0.358 0.463 0.288 21.94
15 0.138 0.157 0.224 0.139 21.40
29 0.010 0.017 0.022 0.009 37.73
30 0.272 0.272 0.423 0.218 25.78
33 11.771 20.986 19.79 15.965 21.06
35 30.792 70.173 59.969 48.912 27.82
36 37.822 87.008 79.421 63.832 28.07
38 0.527 0.689 0.854 0.543 20.22
41 0.013 0.020 0.028 0.014 32.03
45 0.011 0.014 0.019 0.009 28.60
60 48.578 88.827 77.003 69.247 20.67
63 40.934 68.274 71.663 54.269 20.75
77 0.077 0.101 0.133 0.080 22.99

2) FT4

85検体について算出したところ,7.9~36.0%であった。TSHと同様に,10~20%を示す検体が最も多く(61件),20%以上を示した検体は15件となった。20%以上の検体をみると,TSHのような一定の傾向は認められなかった(Table 5)。また,管理血清Lowが9.6%,Highが22.1%,プール血清が10.5%であった。

Table 5  The results of FT4 high levels on CV%
Sample No. FT4 (ng/dL) CV% (%)
Alinity Atellica AIA-CL L2400
15 1.45 1.08 2.20 1.81 25.44
16 0.91 1.98 1.11 0.91 36.01
35 0.44 0.50 0.24 0.29 28.89
37 0.46 0.56 0.27 0.34 27.29
42 2.10 3.67 4.26 3.42 23.50
47 2.03 3.19 3.92 3.28 21.95
48 2.68 4.91 5.46 5.61 25.19
49 2.68 5.30 5.86 5.66 26.32
50 2.95 5.73 6.43 6.32 26.42
52 0.45 0.59 0.31 0.33 26.62
58 2.38 3.59 4.66 3.96 22.66
59 2.72 4.57 5.39 4.62 22.71
65 0.59 0.94 0.42 0.43 35.34
72 2.83 4.41 5.55 4.37 22.54
73 2.27 3.93 4.57 3.97 23.21

3) FT3

87検体について算出し,3項目の中で最も4機種間CVが低い結果となった。1.8~21.6%のCVを示し,中央値は13.8%であった。10~20%を示す検体は72件と最も多く,次いで10%以下を示す検体が多かった。また,管理血清Lowが27.1%,Highが29.3%,プール血清が11.1%であった。20%以上の検体4例をみると,AtellicaとL2400が高値傾向を,AlinityとAIA-CLが低値傾向を示す結果となった(Table 6)。

Table 6  Ths results of FT3 high levels on CV%
Sample No. FT3 (pg/mL) CV% (%)
Alinity Atellica AIA-CL L2400
12 1.99 3.35 2.35 3.25 21.22
18 1.54 2.37 1.73 2.62 21.51
21 1.62 2.62 1.88 2.66 20.71
24 2.06 3.22 2.11 3.24 21.55

4. 絶対値の相違

1) TSH

4機種間の差の検定を行った結果,Friedman検定により有意差が認められた(p < 0.0001)。また,Dunnの検定によりAlinityとAtellica,AlinityとAIA-CL,AtellicaとL2400,AIA-CLとL2400の4つの組み合わせで有意差が認められた(p < 0.0001)(Figure 4)。

Figure 4 Distribution diagram of TSH levels in 4 kinds

2) FT4

4機種間の差の検定を行った結果,Friedman検定により有意差が認められた(p < 0.0001)。また,Dunnの検定によりAlinityとAtellica,AlinityとAIA-CL,AlinityとL2400,AtellicaとL2400,AIA-CLとL2400の5つの組み合わせで有意差が認められた(p < 0.0001)(Figure 5)。

Figure 5 Distribution diagram of FT4 levels in 4 kinds

3) FT3

4機種間の差の検定を行った結果,Friedman検定により有意差が認められた(p < 0.0001)。また,Dunnの検定によりAlinityとAtellica,AlinityとAIA-CL,AlinityとL2400,AtellicaとAIA-CL,AIA-CLとL2400の5つの組み合わせで有意差が認められた(p < 0.0001)(Figure 6)。

Figure 6 Distribution diagram of FT3 levels in 4 kinds

IV  考察

本検討の結果,TSH,FT4,FT3の相関はAlinityとAtellica,AIA-CL,L2400の4機種間すべてにおいて良好な相関係数を示した。しかしながら,いずれの項目においても測定値自体に乖離が生じ,Friedman検定では4機種の測定値には有意差が認められた。TSH値のハーモナイゼーションについて,日本臨床検査医学会標準化委員会では,日本人成人(20~60歳)の基準範囲(reference interval; RI)は0.61~4.23 mIU/Lであるとされている。ここで言われるハーモナイゼーションは標準化とは異なり,TSHには厳密な意味での基準物質や基準測定法が存在しないことから,全方法間の平均値を“便宜的”基準測定法とする方法がとられている。RIの発表に伴い,各キット値とIFCCへの補正係数を2021年3月末までに公開することが定められた。今回検討した4機種の補正係数は,Alinityが1.09,Atellicaが1.00(補正なし),AIA-CLが1.00(補正なし),L2400が1.205)とされており,補正係数から考えるとAtellicaとAIA-CLに有意差が認められないということが期待され,実際に今回の結果でもこの2機種間では有意差が認められないという結果であった。次にAlinityとL2400についても補正係数を乗じることでキット差は改善傾向にあると考えられた。TSHのキット差について測定原理の面から考えると,4機種全ての抗体はいずれも抗TSHマウスモノクローナル抗体であり,AlinityはCLIA法であるのに対してL2400はCLEIA法,AtellicaはCLIA法であるのに対してAIA-CLはCLEIA法であるが(Table 1),今回の検討では測定原理が異なる組み合わせで値が近くなるという結果になった。このことから,必ずしも測定原理に依存して値が決定されるわけではないということが言える。今回このような結果となった理由としては,キャリブレーターの値付け,試薬及びキャリブレーターのロット間差,使用している抗体への親和性の差など様々なメーカーの特有の理由も考えられる。今回の検討では複数ロットの試薬の使用やキャリブレーションを再実施することなどは行わなかったため,詳細は今後の検討課題となった。また,血清中のTSHは分子的には1種ではなく,アミノ酸配列や糖鎖が異なる分子的多様性を有しているため,臨床検体におけるTSHの構造上の多様性が関与した可能性も考えられた。

FT4においては,AtellicaとAIA-CLの組み合わせのみ有意差が認められなかったが,4キット間による回帰式の傾きは0.42~2.31と大きな差を認めた。FT4のキット間差は,抗T4抗体のT4に対する親和性の違い,さらに1ステップ法や2ステップ法といった測定原理による違いなども影響している可能性が考えられる。Alinityでは抗T4ヒツジポリクローナル抗体,L2400では抗T4マウスモノクローナル抗体,AtellicaとAIA-CLでは抗T4ウサギポリクローナル抗体を用いているが,これらの抗体のT4に対する親和性とアルブミンやプレアルブミン,TBGに対する親和性の差が関係しているのではないかということが考えられた。一方でIFCC Phase IVでは既にFT4国際標準化の可能性について言及されており4),今回の結果でも相関係数は高く,標準化への期待が高まる結果であった。FT3では,AtellicaとL2400においてのみ有意差が認められなかったが,4キット間による回帰式の傾きは0.85~1.16であり,今回の検討ではFT4ほどの差を認めなかった。

今回の検討では,いずれの項目においても相関係数0.967以上であることからどの機種間においても相関は良好と言える。現在,TSHのハーモナイゼーションについての方針が発表されてから1年以上が経過しており,実際に令和3年度の日本医師会による第55回臨床検査精度管理調査結果報告書では,前年度では方法間変動のCVが12.05~12.71%であったのに対して令和3年度では7.65~8.08%(ハーモナイゼーション補正が不要な試薬での評価)であり6),以前よりも機器間差が解消されてきていると言える。また,本検討結果に対し推奨される補正係数を使用した場合,4機種間CVが減少することが確認出来たことから,ある一定の効果が得られていると考えられた。本検討の結果や実際の精度管理調査結果から,より効果的な標準化やハーモナイゼーション方法を考案することによって試薬間差の軽減や解消が実現できる可能性が示唆された。そして,4キット間の回帰式の傾きの差が最も大きかったFT4についても標準化が待ち望まれる。

V  結語

本検討では,Alinity,Atellica,AIA-CL,L2400の4機種を用いて,甲状腺関連検査項目のTSH,FT4,FT3について検討を行った。1施設内で多数機種における同一の実臨床検体及び同一期間で検討を行った報告はこれまでに無く,装置や試薬以外の環境条件等を出来得る限りそろえて行うことにより,多くの知見が得られた。今後,さらに効果的なハーモナイゼーションや標準化を進めていくうえで,本稿が有用な報告となることを期待する。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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