医学検査
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原著
フラグメント解析によるCALR遺伝子変異検出の性能評価と変異アリル頻度測定に関する検討
根岸 達哉重藤 翔平松田 和之宮﨑 あかり紺野 沙織仁科 さやか中澤 英之上原 剛
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2023 年 72 巻 2 号 p. 182-190

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Abstract

Calreticulin遺伝子(CALR)変異は,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症において,Janus kinase 2遺伝子(JAK2)V617F変異に次いで多く認められる遺伝子変異である。本遺伝子変異の検出は,これらの疾患の確定診断に重要なだけでなく,変異の種類から病型や予後の予測に利用できる。今回,フラグメント解析によるCALR遺伝子変異検出の性能評価と変異アリル頻度測定の有用性の探索を目的に検討を行った。フラグメント解析では,type2変異は実際の変異アリル頻度と近い変異アリル頻度を算出することができたのに対し,type1変異は実際の変異アリル頻度よりも測定値が大きく算出された。フラグメント解析における検出限界は,type1変異で変異アリル頻度3%,type2変異で4%であり,日常検査に際し十分な性能を有していた。本態性血小板血症,原発性骨髄線維症23症例の解析では,type1変異が14例,type2変異が4例,その他の変異が5例認められ,フラグメント解析はこれら全ての変異を検出できた。フラグメント解析はtype1変異,type2変異以外の変異も感度良く検出が可能であり,日常検査ではスクリーニング検査として有用と考えられた。また,type1変異を有する本態性血小板血症13例の変異アリル頻度は白血球数,血小板数と正の相関,ヘモグロビン濃度と負の相関が認められ,変異アリル頻度がこれらの項目に影響している可能性が考えられた。

Translated Abstract

Calreticulin (CALR) is the second most mutated gene, after Janus kinase 2 (JAK2) V617F, in essential thrombocythemia and primary myelofibrosis. The detection of CALR mutations is important for not only the diagnoses of these diseases but also the predictions of their respective prognoses. In this study, we evaluated the basic performance of fragment analysis for detecting CALR mutations and assessed the usefulness of variant allele frequency for the analysis. We found that the variant allele frequency of type2 mutations detected by fragment analysis was well correlated with the actual frequency, whereas that of type1 mutations was higher than the actual frequency. The limits of detection of type1 and type2 mutations by fragment analysis based on the variant allele frequency were 3% and 4%, respectively, which is sufficient for routine examination. Fragment analysis was used to analyze mutations in patients with essential thrombocythemia or primary myelofibrosis. Among 23 patients analyzed, 14 showed type1, four showed type2, and five showed other types of mutation. Fragment analysis can be successfully applied as a screening test because it can detect different types of CALR mutation, including minor mutations, with high sensitivity. Among the 13 patients with essential thrombocythemia showing type1 mutations, the variant allele frequency was found to be positively correlated with leucocyte and platelet counts and negatively correlated with hemoglobin concentration, thereby indicating that these data are affected by the variant allele frequency of CALR.

I  はじめに

真性多血症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症は,いずれも骨髄増殖性腫瘍に含まれる疾患である。このうち,真性多血症の多くがJanus kinase 2遺伝子(JAK2)V617F変異を有するのに対し,本態性血小板血症と原発性骨髄線維症ではJAK2 V617F変異の陽性率は60~65%以下に過ぎない。これらの疾患において,JAK2 V617F変異に次いで高率に認められるのがcalreticulin遺伝子(CALR)変異(20~25%以下)であり,これは,CALR遺伝子exon9に生じる欠失・挿入変異によって,フレームシフトが起こりC末端のアミノ酸における陰性荷電が失われる1),2)。CALRは通常,分子シャペロンとして働いているが,C末端に生じた変異型特異的ドメインを有する変異型CALRは,トロンボポエチン受容体(MPL)に結合し恒常的に活性化することで,巨核球の増加を引き起こすことが疾患発症の原因となる3)CALR遺伝子変異のうち,特に頻度の高い変異として,c.1099_1150del(p.L367Tfs*46)とc.1154_1155insTTGTC(p.K385Nfs*47)がある。これらは,それぞれtype1変異,type2変異として知られており,これら2種類の変異でCALR遺伝子変異の80%以上を占める2),4)。Pietraら1)は,CALR遺伝子変異をフレームシフトの起点の違いにより,type1-like変異,type2-like変異,otherの3つに分類している。この報告では,type1-like変異は,本態性血小板血症に比べ原発性骨髄線維症において頻度が高いこと,type2-like変異を有する本態性血小板血症の症例では,type1-like変異の症例に比べ血小板数が多いにも関わらず,血栓症のリスクは低いことが報告されている1)。また,本態性血小板血症のうち,type1変異の症例はtype2変異の症例に比べ,二次性の骨髄線維症へ移行する期間が短いこと5),原発性骨髄線維症においては,type2-like変異の方がtype1-like変異を有する症例よりも生存期間が短いことが近年報告されている6)。このように,CALR遺伝子変異の検出は,本態性血小板血症と原発性骨髄線維症の正確な診断に重要であるだけでなく,変異の種類を確定することで病態や予後予測に用いることができる。さらに,CLAR遺伝子変異アリル頻度に関して,原発性骨髄線維症は本態性血小板血症に比べ変異アリル頻度が高いことや7),8),本態性血小板血症では,原発性骨髄線維症に比べ経時的に変異アリル頻度が増加することが報告されている9)。また,本態性血小板血症から二次性骨髄線維症や急性白血病への移行した症例では,変異アリル頻度が増加することが報告されており,疾患増悪のモニタリングとしての変異アリル頻度測定について注目されている10)~12)。しかし,CLAR遺伝子変異アリル頻度と相関のある検査値については明らかになっていない。

現在,CALR遺伝子変異解析は,type1変異,type2変異特異的な方法で実施されることが多く,これらの方法ではtype1変異,type2変異以外のCALR遺伝子変異を検出することは困難である。一方,フラグメント解析は,type1変異,type2変異以外のCALR遺伝子変異を幅広く検出することができ,変異アリル頻度を算出することも可能である。また,CLAR遺伝子変異アリル頻度と相関のある検査値があれば,それらの検査値を疾患増悪のモニタリングとして用いることができる可能性がある。今回,フラグメント解析によるCALR遺伝子変異検出の性能評価と,変異アリル頻度が相関する検査値について明らかにすることを目的とし,検討を行ったので報告する。

本研究は信州大学医学部遺伝子解析倫理委員会による承認を得たのちに実施した(承認番号716)。

II  対象・方法

1. 対象

2014年1月から2021年12月の期間に採取された末梢血において,フラグメント解析でCALR遺伝子変異が陽性と判定された,本態性血小板血症21例,原発性骨髄線維症2例,計23症例を対象とした。これら23症例は,検査歴から全てJAK2 V617F変異陰性,MPL S505N変異,MPL W515K/L/A変異陰性であることを確認した13)。また,normal controlとして,健常人プール末梢血を用いた。

2. PCR

対象検体をQIAamp DNA Blood Mini Kit(Qiagen)を用いてDNA抽出した。抽出DNA溶液を,CALR-Ex9-FWD 5'-TGGTCCTGGTCCTGATGTCG-3',CALR-Ex9-REV 5'-CTCTACAGCTCGTCCTTG-3'を用いてPCRを行った(Amplicon size: 278 bp)14)。PCR試薬は,AmpliTaq GoldTM 360 Master Mix(Thermofisher Scientific)を使用した。PCR反応液組成は添付文書に従い,プライマー最終濃度は0.2 μM,反応液量は25 μLとし,PCR反応条件は,95℃ 10 min − (95℃ 30 sec − 55℃ 30 sec − 72℃ 1 min) × 40 − 72℃ 7 minとした。

3. フラグメント解析

CALR-Ex9-FWDの5'末端を6-FAMで蛍光標識したプライマーを用い,2に示す方法でPCRを実施した。GeneScanTM 350 ROXTM dye Size Standard(Applied Biosystems)をHiDi formamide(Applied Biosystems)に加え,10 μLを96穴プレートに分注した。これに,得られたPCR増幅産物を精製水で希釈した溶液1 μLを混和した。熱変性を行った後に,3500 Genetic Analyzer(Thermofisher Scientific)を用いてキャピラリー電気泳動を行った。解析にはGeneMapper software(Thermofisher Scientific)を使用した。全ての測定で,normal controlを患者検体と同時に検査を実施した。判定は,normal controlにおいて,200~320 bpの間にwild typeアリルピークである278 bp以外のピークが,後述のカットオフ値以上の変異アリル頻度で認められないことを確認した。次いで,患者サンプルにおいて278 bpのwild typeアリルピークがinternal controlとして検出されることを確認したうえで,200~320 bpの間にwild typeアリルピークである278 bp以外のピークが,カットオフ値以上の変異アリル頻度で認められた際に陽性と判定した14)

4. シークエンス解析

2.に示す方法でPCRを実施し,PCR増幅産物を2.5%アガロースゲルで電気泳動を行った。目的サイズのバンドをQIAEX II Gel extraction kit(Qiagen)を用いて抽出した。CALR-Ex9-FWDとCALR-Ex9-REVをシークエンスプライマーとし,BigDyeTM Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Thermofisher Scientific)によるシークエンス反応を行った。3500 Genetic Analyzerを用い,変異アリルの塩基配列を決定した。

5. TAクローニング

対象検体のうち,ダイレクトシークエンスによりtype1変異およびtype2変異が確認された検体とnormal controlを使用し,2に示す方法でPCRを行った。得られたPCR増幅産物を2.5%アガロースゲルで電気泳動し,目的サイズのバンドをQIAEX II Gel extraction kitで抽出した。ゲル抽出で得られたPCR増幅産物をTA CloningTM Kit(Invitrogen)を用いて,pCRTM 2.1 vectorにTAクローニングし,コンピテントセルであるEscherichia coli INVαF'にトランスフォーメーションした。得られた形質転換株をアンピシリン,Isopropyl β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)含有LB寒天培地に塗布した。一連の方法は添付文書に従った。選択培地上に発育した白色コロニーを釣菌し,アンピシリン添加LB寒天培地上で純培養後,QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen)によるプラスミドDNA抽出を行った。抽出したプラスミドDNAをM13 forward primer 5'-TGTAAAACGACGGCCAGT-3'とM13 reverse primer 5'-CAGGAAACAGCTATGACC-3'を用いて,3 に示した方法でDNAシークエンスを行い,目的挿入配列が正しく挿入されているか確認を行った。得られたtype1変異とtype2変異,正常CALR遺伝子を挿入配列とするプラスミドのDNA濃度をNanoDrop One(Thermofisher Scientific)を用いて測定し,挿入配列を含むプラスミドの塩基数,ヌクレオチドの平均質量から,得られたプラスミドDNA抽出液のCALR遺伝子のコピー数を算出した。

6. フラグメント解析の変異アリル頻度定量性の評価

クローニングで得られたtype1変異,type2変異挿入プラスミドDNAと,正常配列のCALR遺伝子挿入プラスミドDNAをそれぞれ103コピー/μLになるよう稀釈し,これを変異アリル頻度10%,20%,30%,40%,50%,60%,70%,80%,90%の割合となるよう混和した。これらのサンプルを2.と3.に示す方法でフラグメント解析を行い,フラグメント解析での変異アリル頻度測定値を,変異アリルピークの高さ/(wild typeアリルピークの高さ + 変異アリルピークの高さ)として算出した。検討はそれぞれ3回測定を行い,平均値と標準偏差(SD)を算出した。

7. フラグメント解析の検出限界の決定

6.と同様に,クローニングで得られたtype1変異,type2変異挿入プラスミドDNAと,正常配列のCALR遺伝子挿入プラスミドDNAをそれぞれ103コピー/μLになるよう稀釈し,これを変異アリル頻度0%,1%,2%,3%,4%,5%となるよう混和した。これらのサンプルを2.と3.に示す方法でフラグメント解析を行い,フラグメント解析での変異アリル頻度測定値を算出した。検討は変異アリル頻度0%のサンプルで30回,1%~5%のサンプルでそれぞれ5回測定を行い,平均値とSDを算出した。変異アリル頻度0%のサンプルでは,wild typeアリルピークである278 bp以外に認められた非特異反応ピークについて,変異アリル頻度測定値を算出した。変異アリル頻度1~5%のサンプル各濃度における平均値 - 3SDの値が,0%のサンプル測定で認められた平均値 + 3SDの値よりも大きくなる値を検出限界として決定した15)

8. カットオフ値の決定

Normal controlである健常人プール末梢血から抽出したDNAサンプルについて,2.と3.に示す方法でフラグメント解析を5回測定した。Wild typeアリルピークである278 bp以外に認められた非特異反応ピークについて,変異アリル頻度測定値を算出し,平均値 + 2SDをカットオフ値として決定した。

9. 統計解析

変異アリル頻度10~90%としたサンプルにおけるフラグメント解析の変異アリル頻度測定値について,type1変異とtype2変異で有意差があるかスチューデントのt検定を用いて解析した。Type1-like変異もしくはtype2-like変異の遺伝子変異を有する本態性血小板血症20症例のうち,細胞減少療法実施歴のある3例を除外したtype1-like変異14例とtype2-like変異3例,計17例について,フラグメント解析から算出された変異アリル頻度測定値に有意差があるかを,マンホイットニーのU検定を用いて解析した。細胞減少療法の有無は,CALR遺伝子変異解析提出以前に1回以上細胞減少療法が実施されたことのある症例とし,解析には統計解析ソフトEZRを使用した。また,type1変異を有する本態性血小板血症13例について,変異アリル頻度測定値と,CALR遺伝子変異解析提出時の白血球数,血小板数,ヘモグロビン濃度の相関係数をそれぞれ算出した。

III  結果

変異配列挿入プラスミドの割合を10~90%に調製したサンプルを本来の変異アリル頻度として,これに対するフラグメント解析で算出された変異アリル頻度測定値をFigure 1に示す。Type2変異は,変異配列挿入プラスミド割合の変異アリル頻度とフラグメント解析の変異アリル頻度測定値が近い値となった。一方,type1変異はフラグメント解析の変異アリル頻度測定値が大きく算出された。変異アリル頻度10~90%各濃度におけるtype1変異とtype2変異のフラグメント解析での変異アリル頻度測定値を比較すると,type1変異の方がtype2変異に比べ,平均値が2.03~7.87%高値となった。有意差検定を行うと,全ての濃度でp < 0.05となり,有意にtype1変異の方が,変異アリル頻度測定値が大きく算出された。

Figure 1 フラグメント解析における変異アリル頻度測定値

エラーバーは平均値 ± 標準偏差(SD)を示す。

10~90%全ての濃度において,type1変異はtype2変異よりも有意に高い値となった(p < 0.05)。

検出限界の検討では,変異アリル頻度0%のサンプル30回測定のうち11回の測定で非特異反応のピークが265~267 bp付近に認められ,11回分の平均値とSDを検討に用いた。Type1変異では3%,type2変異では4%を検出限界として決定した(Figure 2, 3)。

Figure 2 フラグメント解析での検出限界の検討

エラーバーは平均値 ± 3 × 標準偏差(SD)を示す。

*検出限界

Figure 3 フラグメント解析の検出限界時のピーク

また,カットオフ値の検討では,normal controlの5回の測定全てで265~267 bp付近に非特異反応のピークが認められた。これらの非特異反応ピークについて変異アリル頻度測定値を算出すると,平均値が0.74%(最小値0.24%,最大値2.42%),SDは0.94であり,変異アリル頻度測定値のカットオフ値を2.62%と決定した。

対象23症例のCALR遺伝子変異検査実施時の所見をTable 1に示す。ダイレクトシークエンスの結果,type1変異が14例,type2変異が4例認められた。

Table 1  対象23症例におけるCALR遺伝子変異検査実施時の検査所見と臨床情報
症例 年齢 臨床診断 遺伝子変異 アミノ酸置換 変異type/Mutation IDa 類似type 白血球数(×103/μL) 血小板数(×104/μL) ヘモグロビン濃度(g/dL) 変異アリル頻度測定値(%) 細胞減少療法
1 48 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 6.05 67.4 13.3 43.28
2 64 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 5.81 78.7 14.6 8.99
3 18 ET c.1155_1156insTGTCG p.E386Cfs*46 36 2-like 10.66 226.3 13.1 37.24
4 54 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 6.08 110.4 12.5 34.78
5 71 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 7.43 93.0 15.2 40.55
6 65 ET c.1154_1155insTTGTC p.K385Nfs*47 2 2-like 9.64 77.6 16.2 43.76
7 79 ET c.1154_1155insTTGTC p.K385Nfs*47 2 2-like 6.84 127.4 14.5 38.33
8 28 PMF c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 6.02 78.6 15.6 44.92
9 88 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 9.68 184.1 12.3 50.03
10 34 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 7.56 71.2 13.1 48.34
11 73 ET c.1154_1155insTTGTC p.K385Nfs*47 2 2-like 5.75 78.8 13.0 36.85
12 55 ET c.1101_1161del p.K368Mfs*42 COSM1738360 1-like 8.81 24.0 11.4 54.04
13 78 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 8.93 173.5 12.8 43.68
14 77 PMF c.1090_1091delinsTG  c.1099_1150del p.E364W  p.L367Tfs*46 Novel 1-like 9.31b 39.4b 8.5b 52.98
15 81 ET c.1120_1139delinsC p.K374Rfs*50 Novel Other 9.88 76.0 13.3 47.48
16 25 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 8.84 204.4 11.6 38.86
17 41 ET c.1154_1155insTTGTC p.K385Nfs*47 2 2-like 7.67 88.9 14.6 20.59
18 46 ET c.1099_1141del p.L367Rfs*49 COSM5885131 1-like 7.43 111.9 14.1 43.16
19 70 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 5.84 74.8 15.8 14.60
20 46 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 5.01 52.1 15.1 17.86
21 66 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 8.07 71.7 14.1 33.13
22 67 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 9.79 66.6 17.1 38.64
23 36 ET c.1099_1150del p.L367Tfs*46 1 1-like 10.40 116.4 14.0 44.95

ET,本態性血小板血症;PMF,原発性骨髄線維症

a Mutation ID,Catalogue of Somatic Mutations in Cancerにおける識別番号

b CALR遺伝子変異解析提出時に血算の検査が実施されていなかったため,CALR遺伝子変異解析提出の4日前の値。

Type1変異,type2変異に該当しない変異は5例あり,これら5例の内訳は,既報告の変異3例,これまでに報告のない変異が2例であった。これら5例は全て+1フレームシフトであった。Pietraらの報告1)に従い,これら5例の変異をtype1-like変異,type2-like変異,otherの類似typeに分類すると,type1-like変異が3例,type2-like変異が1例,otherが1例となり(Figure 4),23症例全体では,type1-like変異が17例,type2-like変異が5例,otherが1例となった(Table 1)。今回,原発性骨髄線維症の症例は2例あり,いずれもtype1-like変異の症例であった。Type1-like変異とtype2-like変異を有する本態性血小板血症の変異アリル頻度測定値に有意差は認められなかった(p = 0.362)(Figure 5)。Type1変異を有する本態性血小板血症13症例の変異アリル頻度測定値は,白血球数,血小板数と正の相関(r = 0.690,r = 0.447),ヘモグロビン濃度とは負の相関(r = −0.467)が認められた(Figure 6)。なお,本態性血小板血症21例の中に,本態性血小板血症からの二次性骨髄線維症への移行診断基準を満たすものは認められなかった16)

Figure 4 変異CALRタンパクのC末端アミノ酸配列と類似typeの分類

赤,酸性アミノ酸;青,塩基性アミノ酸;緑,極性中性アミノ酸

Wild typeアミノ酸配列と比較し,陰性荷電アミノ酸領域IIとIIIが消失している症例14,18,12をtype1-like変異,領域IIIが消失している症例15をother,I,II,IIIが全て保持されている症例3をtype2-like変異に分類した1)

Figure 5 Type1-like変異とtype2-like変異における変異アリル頻度測定値の比較
Figure 6 変異アリル頻度測定値と白血球数,血小板数,ヘモグロビン濃度の相関

IV  考察

フラグメント解析では,type1変異の方がtype2変異に比べ,変異アリル頻度が大きく算出された。これは,増幅産物が短いほどPCR効率が向上するために,測定量としての変異アリル頻度が実際の変異アリル頻度よりも大きく測定されてしまうためと考えられる。Kjærら17)は,デジタルPCRでスタンダードを値付けしたリアルタイムPCR法とフラグメント解析での変異アリル頻度の測定値を比較し,type1変異において変異アリル頻度測定値が大きく算出されることを報告している。従って,type2変異のようにwild typeアリルとPCR増幅産物長の差が小さいものは,フラグメント解析により比較的正確な定量が可能である一方,type1変異のようにPCR増幅産物長の差が大きいものほど,実際の変異アリル頻度を正しく反映しないと考えられる。

今回の検討では,normal controlの測定でwild typeアリルピーク以外のピークが265~267 bp付近に認められたため,変異アリル頻度測定値のカットオフ値を2.62%と決定した。これにより,測定した患者検体を全て正しく判定ができた。フラグメント解析の検出限界は,type1変異で変異アリル頻度3%,type2変異で4%であった。これまでの報告における他法の検出限界は,サンガーシークエンス法では10~25%,high resolution melt(HRM)解析法ではtype1変異で2~5%,type2変異で3.13~25%,リアルタイムPCR法ではtype1変異で5%,type2変異で0.5%,次世代シークエンスを用いた方法では1.25%との報告がある18)~21)。サンガーシークエンス法は検出限界で他法に劣る。また,リアルタイムPCR法では変異のtypeごとにプローブやプライマーが必要となることや,HRM解析法では偽陽性を生じやすいこと18),次世代シークエンスでは費用と労力がかかることなどの点が日常業務での障壁となると考えられる。また,大部分のCALR遺伝子変異陽性検体は15%以上の変異アリルを有することが報告されている18)。今回の検出限界の検討結果から,診断目的でのフラグメント解析によるCALR遺伝子変異検出は日常検査に際し十分な性能を有していると考えられた。

今回対象とした23症例では,type1変異が14例(60.9%),type2変異が4例(17.4%)であり,type1変異,type2変異以外の変異が5例(21.7%)認められた。Klampflら2)は,計150例のCALR遺伝子変異陽性の本態性血小板血症と原発性骨髄線維症の解析を行い,36種類のCALR遺伝子変異を報告している。この報告では,type1変異が53.0%,type2変異が31.7%,その他の変異が15.3%認められ,さらに36種類の変異全てが +1フレームシフトであったとしている。これに比べ,今回の検討ではややtype1変異が多く,type2が少なかったが,割合に大きな違いは認められなかった。また,今回の解析において認められた,type1変異,type2変異以外の変異5例は全て +1フレームシフトであった。よって,これら5例もC末端部位の酸性アミノ酸が置換されることに伴う陰性荷電の消失が起こり,本態性血小板血症もしくは原発性骨髄線維症が発症していると考えられた。

本態性血小板血症の症例のうち細胞減少療法を行っていない18例について,type1-like変異とtype2-like変異を有する症例で変異アリル頻度に有意差があるかを比較した。その結果,type1-like変異を有する症例の方がtype2-like変異である症例よりも変異アリル頻度が高い傾向にはあったが,type1変異の方がtype2変異よりも2.03~7.87%ほど変異アリル頻度が大きく算出されることを考慮しても,両群に有意差は認められなかった。今回の解析では,細胞減少療法実施歴のないtype2-like変異を有する本態性血小板血症症例が3例しかなかったため,データの信憑性は乏しいと考えられる。これまでの報告では,本態性血小板血症においてtype1変異の方がtype2変異に比べ,変異アリル頻度が高いとする報告と7),11),両者に差は認められなかったとする報告がある10)。ただし,前者の解析はいずれもフラグメント解析で検討が実施されており,PCR増幅産物の小さいtype1-like変異の方がtype2-like変異に比べPCR効率が良いために,変異アリル頻度が大きく算出されている可能性がある。

フラグメント解析はtypeごとに変異アリル頻度測定値に誤差があることを考慮し,type1変異の本態性血小板血症13例に限定し,変異アリル頻度が白血球数,血小板数,ヘモグロビン濃度と相関があるかについて検討を行った。その結果,変異アリル頻度は白血球数,血小板数と正の相関,ヘモグロビン濃度とは負の相関が認められた。Andrikovicsら11)は,本態性血小板血症31例について,変異アリル頻度の中央値で症例を変異アリル頻度が大きい群と小さい群の2群に分け,白血球数,血小板数,ヘモグロビン濃度について有意差があるかを検討している。この報告では,変異アリル頻度が大きい群の方が有意差をもって白血球数,血小板数は高く,ヘモグロビン濃度は低い結果となっている。今回の検討でも同様の傾向が認められ,変異アリル頻度がこれらの検査値に影響している可能性が考えられた。ただし,今回の検討からは,type1変異以外のtypeについて同様の傾向があるかは不明であり,それぞれのtypeごとに同様の検討が必要である。CALR遺伝子変異はほとんどがヘテロに変異が起こることが報告されているが2),type2変異をホモで有する症例や2),type1変異とtype2変異両方を有する症例が報告されている22)。今回の検討では変異アリル頻度が50%を大きく上回るサンプルは認められなかった。変異アリル頻度が50%を超えた症例12(54.04%)と症例14(52.98%)はいずれもtype1-like変異であり,フラグメント解析で変異アリル頻度が実際よりも大きく算出された可能性がある。このため,CALR遺伝子のホモ変異を積極的に疑う症例は認めなかった。また,2つ以上の変異アリルピークを同時に検出した症例はなかったため,2つのアリルが別の変異を有する症例はなかったと考えられる。さらに,今回対象とした症例では全て +1フレームシフトの変異を認めたが,インフレームの欠失変異を有する本態性血小板血症,原発性骨髄線維症も報告されている7)。これらの変異を有する症例では,変異アリル頻度が同じように相関するかについて,今回の検討からは不明である。

V  結語

フラグメント解析によるCALR遺伝子変異検出は,幅広い遺伝子変異を感度良く検出することが可能であり,日常検査ではスクリーニング検査として有用性が高い検査法である。一方,フラグメント解析のみではtypeの種類までは決定できないため,病型や予後予測に関して詳細な情報が必要な場合は,変異特異的なPCRやシークエンス解析などの追加検査が必要であり,臨床検査においてはこれらの検査の使い分けが必要である。また,本態性血小板血症において変異アリル頻度は白血球数,血小板数と正の相関,ヘモグロビン濃度と負の相関が認められ,変異アリル頻度がこれらの項目に影響している可能性が考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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