医学検査
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72 巻, 2 号
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原著
  • 大野 智子, 末松 寛之, 坂梨 大輔, 山田 敦子, 川本 柚香, 宮﨑 成美, 山岸 由佳, 三鴨 廣繁
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 2 号 p. 167-172
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    Yersinia enterocoliticaは,乳糖非分解でSS寒天培地上は無色透明の集落を形成する。しかし,2016年に回盲部炎患者の便からSS寒天培地上で乳糖を分解するY. enterocoliticaを分離・同定する経験をした。その後,同様集落を積極的に釣菌・同定した結果,5株の乳糖分解株を分離した。SS寒天培地上にY. enterocoliticaの一部が乳糖分解株として発育することを確認したことから,日常検査で乳糖分解株を見逃さないポイントを明らかにするために,当院で分離保存した臨床分離株12株を使用し,13種類の培地性状と糖分解を含む生化学的性状について精査した。SS寒天培地上に乳糖分解を示した5株は,血清型O3;生物型3,VP試験陰性で,内訳は白糖分解陽性3株,白糖分解陰性2株であった。白糖分解陰性2株は,乳糖のみを含むSS寒天培地だけではなく,乳糖・白糖を含むSS寒天培地,DHL寒天培地の一部において糖分解を認めず,典型集落を形成しなかった。一方,乳糖非分解株7株は,血清型O3;生物型4と血清型O8;生物型1Bで,13種類の培地で典型集落を形成した。VP試験陰性株は,SS寒天培地上で乳糖分解集落を形成し釣菌困難で見落としの懸念があることから,Yersinia属菌選択培地を追加するなど臨床所見に合わせた検査構築の必要があることが示唆された。

  • 岡田 光貴, 松尾 佳乃, 福田 篤久, 竹下 仁
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 2 号 p. 173-181
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    α-アマニチン(AMA)は主としてドクツルタケ(AV)等の毒キノコが有する自然毒成分である。我々はAMAの定性法であるMeixner試験の性能を検証した。過去の文献を参照したが,Meixner試験の詳細な手法に関する情報が乏しかった。そこで,我々は本試験の手順書を改めて独自に作製し,これを改良Meixner試験と名付けた。本研究の検体には,AMAを蒸留水(DW),ヒト尿,およびヒト血清にて調製した試料と,キノコの成分抽出試料を用いた。我々の手順書通りに改良Meixner試験を行った結果,DWで調製した200 μg/mLのAMA試料を検体として陽性反応を得ることができた。一方,本試験に使用する塩酸の濃度を下げると検出感度が低下した。DWに加え,尿および血清で調製した200 μg/mL AMA試料を検体としても,同様に陽性反応が得られた。なお,いずれの溶媒でも100 μg/mL未満のAMA濃度では陰性となった。各検体を加熱(100℃,30分)しても,試験結果に影響はなかった。ヘモグロビン成分を添加した血清および尿試料では感度が低下し,200 μg/mL未満のAMAで陰性となった。AVの成分抽出試料5検体のうち,陽性反応が得られたのは3検体であった。本研究において性能を検証した改良Meixner試験は,溶血試料や血尿試料を除き,≥ 100 μg/mL程度のAMA検出感度を発揮することが示された。

  • 根岸 達哉, 重藤 翔平, 松田 和之, 宮﨑 あかり, 紺野 沙織, 仁科 さやか, 中澤 英之, 上原 剛
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 2 号 p. 182-190
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    Calreticulin遺伝子(CALR)変異は,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症において,Janus kinase 2遺伝子(JAK2)V617F変異に次いで多く認められる遺伝子変異である。本遺伝子変異の検出は,これらの疾患の確定診断に重要なだけでなく,変異の種類から病型や予後の予測に利用できる。今回,フラグメント解析によるCALR遺伝子変異検出の性能評価と変異アリル頻度測定の有用性の探索を目的に検討を行った。フラグメント解析では,type2変異は実際の変異アリル頻度と近い変異アリル頻度を算出することができたのに対し,type1変異は実際の変異アリル頻度よりも測定値が大きく算出された。フラグメント解析における検出限界は,type1変異で変異アリル頻度3%,type2変異で4%であり,日常検査に際し十分な性能を有していた。本態性血小板血症,原発性骨髄線維症23症例の解析では,type1変異が14例,type2変異が4例,その他の変異が5例認められ,フラグメント解析はこれら全ての変異を検出できた。フラグメント解析はtype1変異,type2変異以外の変異も感度良く検出が可能であり,日常検査ではスクリーニング検査として有用と考えられた。また,type1変異を有する本態性血小板血症13例の変異アリル頻度は白血球数,血小板数と正の相関,ヘモグロビン濃度と負の相関が認められ,変異アリル頻度がこれらの項目に影響している可能性が考えられた。

  • 栁 政希, 山田 明輝, 橋倉 悠輝, 猪﨑 みさき, 川上 恵, 惠 稜也, 梅北 邦彦
    原稿種別: 原著
    2023 年 72 巻 2 号 p. 191-196
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    マラセチアは皮膚に常在する酵母様真菌で,癜風やマラセチア毛包炎,脂漏性皮膚炎,アトピー性皮膚炎などの起炎菌になりうる。しかしながら,脂質要求性であるため従来の培養法では分離が困難であることやマラセチア属の形態および生化学的所見は類似しており,表現形のみで菌種同定は難しく,菌種同定に至らないことが多い。菌種同定法として分子生物学的手法が用いられるが,利用できる施設が限られている。近年では,専用培地により培養することが可能となったが,マラセチアの分離状況に関する報告は少なく詳細は不明である。本研究では,専用培地で培養および分離を行い,分離頻度や分子生物学的手法による菌種同定,材料別の菌種検出状況を解析した。その結果,従来より用いられているオリーブオイル重層培地での培養と比較し,専用培地での培養では分離頻度が約9倍増加した。また,マラセチアが検出された臨床分離保存菌株43株の検体材料の内訳は,耳漏(20/43株),皮膚(10/43株),鼻腔(9/43株),気管内採痰(3/43株),眼脂(1/43株)の順で多かった。検出した全てのマラセチア属は分子生物学的手法を用いることで菌種レベルでの同定が可能であった。専用培地を用いることで菌の分離頻度が改善し,さらに分子生物学的手法を組み合わせることで菌種の同定が可能であった。今後は,培養法の更なる改善や質量分析装置を用いて,より簡便かつ迅速に同定できる方法の確立が必要と考えられる。

技術論文
  • 佐子 肇, 安井 孝輔, 高橋 秀一
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 2 号 p. 197-204
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    Rhodotorula属およびRhodotorula属の類縁菌であるSporobolomyces属は環境中に生息する環境酵母菌である。臨床検体から分離されるRhodotorula属のほとんどはR. mucilaginosa(旧名:R. rubra)であり,次いでR. glutinisおよびR. minutaが報告されている。今回,臨床分離保存株17株(内訳:R. mucilaginosa 12株,R. glutinis 2株,R. minuta 2株およびS. salmonicolor 1株)を用手法および自動同定感受性システムBD Phoenix M50にBD phoenix yeast IDパネルを併用し菌種同定を試みたところ,3株の不一致があった。用手法との一致率は82.3%(14/17株)であった。不一致の3株は,用手法の硝酸塩還元反応,カルチノイド色素および水様性粘液様コロニーの鑑別性状から菌種同定が一致した。日常検査ではM50で同定を実施し,用手法を併用することで,菌種同定が可能であることが判明した。さらに,抗真菌薬感受性試験を実施したところ,すべての分離株は,AMPH-B,5-FCに感性域を示し,FLCZ,MCFGおよびCPFGに耐性を示した。ITCZおよびVRCZは感性域と耐性域が混在していた。Rhodotorula属およびSporobolomyces属菌の抗真菌療法としてAMPH-Bおよび5-FCが有効であると考えられた。

  • 村田 竜也, 小原 健吾, 鹿嶋 聖, 平井 未来, 丸山 恭平, 池田 光泰, 福岡 達仁, 湯尻 俊昭
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 2 号 p. 205-209
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    現在,SARS-CoV-2検出において逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction; RT-PCR)検査が最も検出感度に優れていると言われている。一方で,SARS-CoV-2抗原定量検査(以下,抗原定量検査)は,RT-PCR検査に比べ測定時間が短く(約20分),多検体の測定も可能である。今回,当院で実施した抗原定量検査とRT-PCR検査の結果から抗原定量検査の臨床における活用方法を検討した。RT-PCR検査陽性検体130件と陰性検体84件を用いて,抗原定量検査を実施したところ,陽性一致率は85.4%,陰性一致率は100%であった。現在,ウイルス量の指標として用いられているリアルタイムRT-PCRで算出されるCt値と対数変換した抗原定量値は概ね良好な逆相関を示した(r = 0.947)。しかし,Ct値が高値でウイルス量が少ない場合,陰性と判定される検体もあった。リアルタイムRT-PCR検査が陽性であってもCt値が高値の場合は,感染リスクが低いと言われていることから抗原定量検査は感染リスクを知る指標として有用であると考えられる。また,SARS-CoV-2抗原定量検査は,RT-PCR検査と比べ,測定時間が短く,多検体測定も可能なため,病床管理や無症候者のスクリーニング検査として活用できると考えられた。

  • 酒井 瑠美子, 石川 道子, 松本 慎二, 嶋田 裕史, 小川 正浩
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 2 号 p. 210-215
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    尿検査は代表的な無侵襲検査であり病気を推測するための検査として広く利用されている。最近では尿沈渣検査の効率化,迅速化のために自動分析装置を導入する施設が増えている。使用する際は自動分析装置の検出限界を見極め,結果の信頼性が低い検体は鏡検による尿沈渣検査を実施しなければならない。全自動尿中有形成分分析装置UF-5000におけるAtyp.C(atypical cells:異型細胞等)の数値と病理学的検査である尿細胞診,尿沈渣の出現細胞やその背景を比較し数値の意義について検証した。カットオフ値0.5/μLの場合,尿細胞診class IV以上を陽性としたときの感度は64.7%,特異度は90.5%,一致率は88.6%であった。Atyp.Cを日常検査に用いる場合はカットオフ値0.5/μLが適切であると考えられる。Atyp.Cが高値で尿細胞診の結果と乖離する検体には炎症を認める検体が多く,細胞質内封入体細胞などの炎症に伴う細胞を反映するAtyp.Cの特性によるためと推察した。Atyp.Cが低値の乖離検体は出現細胞数の少なさや変性の強さなどにより機器で認識することが困難なためと考える。Atyp.Cを用いることで今まで見逃していた異型細胞を捉えられる可能性がある。これは病変の早期発見となり,大きな意義があるといえ,臨床への貢献につながるといえる。

  • 平康 雄大, 岡田 真由美, 箕浦 直人, 原 嘉秀, 市川 貴之, 辻本 弘, 神波 信次, 古田 眞智
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 2 号 p. 216-222
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    血友病Aに対する新規治療薬として用いられているヘムライブラ®(エミシズマブ)は,活性型血液凝固第IX因子(FIXa)と血液凝固第X因子(FX)に対する遺伝子組換えヒト化二重特異性モノクローナル抗体(バイスペシフィック抗体)で,凝固第VIII因子(FVIII)の補因子機能を代替することで血液凝固反応を促進させ,出血傾向の抑制をもたらす。エミシズマブは凝血学的検査で一般的に用いられるAPTTや,凝固一段法によるFVIII活性の測定結果を正確に評価することができない。今回我々は,インヒビターを有さない先天性血友病Aの患者について,トロンボエラストグラフィ(TEG®6s)によって検査が実施されていた患者の測定結果の推移を評価した。対象患者は当院でエミシズマブの投与を開始したインヒビターを有さない先天性血友病Aの患者5人とした。各患者のエミシズマブ投与前の検査結果をベースラインとし,エミシズマブ投与前と投与後のTEG®6sおよび凝血学的検査の結果を比較検討した。すべての患者でTEG®6sのトレーシング波形は改善傾向を示しており,投与から数ヶ月経過した結果も改善した状態を維持していた。更なる症例の積み重ねや出血イベントが起こった際の結果の変動などを確認する必要はあるが,エミシズマブ投与による血液凝固動態を把握する一つのツールとして,TEG®6sを用いることができる可能性が示唆された。

  • 西尾 美津留, 宮木 祐輝, 関 芳恵, 大杉 崇人, 大場 愛梨
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 2 号 p. 223-229
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    今回我々は,C. DIFF QUIK CHEKコンプリート(アボットダイアグノスティクスメディカル,A法)とクイックチェイサーCD GDH/TOX(ミズホメディー,M法)を用い,検出性能評価比較を行った。基礎的検討として,Clostridioides difficileコロニーを用いた希釈菌液によるglutamate dehydrogenase(GDH)検出感度の比較検討を実施した。臨床検体における検討として,C. difficile感染症疑いで提出された125検体を両試薬で同時測定を行った。併せて培養法によるC. difficile発育の有無,toxigenic culture法(TC法)によるtoxin産生性の有無を確認した。基礎的検討の結果,GDH検出感度はA法の方が10倍程度良好な結果となった。培養法(陽性24件)を対照としたGDHの感度・特異度は,A法:79.2%/100%,M法:87.5%/100%であり,2件の結果乖離があった。TC法(陽性18件)を対照としたtoxinの感度・特異度は,両法ともに35.3%/100%であり,いずれも低感度であった。臨床検体でGDH結果が乖離した2件は,検体のサンプリング操作法の違いが結果に影響を与えた可能性が高く,糞便の複数個所をサンプリングするよう注意して検査することが重要である。A法,M法は,ほぼ同等の性能であり,先行データの乏しいM法においても,CDI診断における第1スクリーニング試薬として有用であると結論付けた。

  • 馬場 正樹, 川西 邦夫, 中川 智貴, 村田 佳彦, 古屋 周一郎, 松原 大祐, 加藤 光保
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 2 号 p. 230-235
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
    ジャーナル フリー HTML

    腎針生検検体の病理診断には,種々の特殊染色,蛍光抗体法,免疫組織化学,透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope; TEM)などの多彩な解析が必要となる。しかし,症例によってはTEM用検体に糸球体が含まれていないなど,確定診断が困難な場合も少なくない。近年,特別な固定処理を必要としない低真空走査型電子顕微鏡(low-vacuum scanning electron microscopy; LVSEM)を用いた解析法が開発され,腎病理診断への応用が模索されている。我々は,腎組織のパラフィン包埋切片に対し,既報で用いられている白金ブルー染色とチオセミカルバジド-PAM(thiosemicarbazide-periodic acid-methenamine silver; TSC-PAM)染色に加えて,血管内皮マーカーとして用いられるCD31およびCD34に対する免疫組織化学を行い,3,3'-ジアミノベンジジン四塩酸塩水和物(DAB)発色後に塩化金増感を加えた検体のLVSEM観察を行った。CD31やCD 34のLVSEM観察では,白金ブルーやTSC-PAMでは観察が困難であった,糸球体血管内皮細胞,傍尿細管毛細血管網,小動脈などが明瞭に描出された。これらは,炎症性疾患や腫瘍浸潤の評価に有効である可能性が示唆された。また,DAB発色後の塩化金増感は,免疫組織化学全般に対して応用が可能であり,腎生検検体中の免疫複合体の沈着を確認する他,種々の免疫組織化学に適応することで,微細構造の観察が可能になると考えられた。

  • 萩原 祐至, 浅田 玲子, 國澤 拓大, 松本 裕貴, 間部 賢寛, 高 起良, 森島 英和
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 2 号 p. 236-242
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
    ジャーナル フリー HTML

    血小板凝集は血算値に影響するため重要な検査所見である。今回,著明な大型血小板凝集像を認めたにも拘わらず,機器では血小板凝集フラグ「PLT-clumps?」が不検出であった2例を経験した。そこで血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生するかをヘパリン血で検証した。結果,採血20分後に本例と同様の乖離現象を認めた。採血10分後と採血20分後の比較では1血小板凝集塊中の平均血小板数が有意に増加していた。したがって血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離原因は血小板凝集塊中の血小板数が原因であると推察した。そして血小板凝集塊中の血小板数が増加し,血小板凝集塊径が増大した結果,機器では血小板凝集塊を血小板と認識せず,「PLT-clumps?」不検出になったことが示唆される。したがって大型血小板凝集塊の場合には血小板凝集像と「PLT-clumps?」の乖離現象が発生する可能性がある。

  • 岡田 知己, 土屋 浩二, 竹村 浩之, 脇田 満, 藍 智彦, 三澤 成毅, 田部 陽子, 三井田 孝
    原稿種別: 技術論文
    2023 年 72 巻 2 号 p. 243-247
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    等温核酸増幅法であるNicking Enzyme Amplification Reaction(NEAR)法を測定原理とする迅速SARS-CoV-2検査「ID NOW新型コロナウイルス2019」(ID NOW)の性能と臨床的有用性を検証した。2021年2月1日~8月25日の間に順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京)を受診した救急外来患者および緊急手術患者673例を対象とした。同一症例から同日に採取した鼻咽頭ぬぐい液検体を用いてID NOWとreal time reverse transcription-PCR(PCR)法による核酸増幅検査を行い,PCR法を対照法として評価した。PCR法では陽性36,陰性637,ID NOWでは陽性35,陰性638であった。PCR法による陽性36例中,ID NOW陽性は31例であり,PCR法による陰性637例中,ID NOW陰性は633例で,完全一致率は98.7%であった。PCR法を対照法としたID NOWの陽性一致率は86.1%,特異度は99.4%であった。偽陽性を4例認められたが原因は特定できなかった。陽性結果に対する繰り返し検査,整備された検査環境,および臨床検査部門によって許可されたものによる検査によって偽陽性を最小化することができる。ID NOWは,これらの対策を遵守して検査することでポイント・オブ・ケア・テストとして最適な性能を提供できる。

資料
  • 飯尾 耕治, 後藤 和義, 萩谷 英大, 小川 寛人, 三好 諒, 大塚 文男, 東影 明人
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 2 号 p. 248-255
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的パンデミックにより,医療機関において新興感染症に対する検査体制を整備することの重要性が再認識された。特に短期間で変異を繰り返すSARS-CoV-2のモニタリングとして,次世代シークエンス(NGS)解析が非常に有効なツールであることが立証された。国内におけるCOVID-19に対するPCR検査体制は,迅速かつ操作性が簡便な自動PCR装置の普及により,早期診断と迅速な感染対策が可能となったものの,ゲノム解析実施数は世界的に見ても少なく,積極的疫学調査が十分行えているとは言えない。今後COVID-19を含めた新興感染症の流行を正確に把握し適切な感染対策を講じるためには,変異の発生や頻度を可能な限り早期に把握するため,ゲノム解析を通じたウイルス変異株の同定と分析を迅速に行う体制整備が求められている。今回,我々は院内臨床検査室でも実施可能な全ゲノム解析アプローチの手法を構築することを目的として,高性能でありながら低コスト・簡便性の特徴を持つOxford Nanopore社のMinIONを用いて,日常業務において実践可能な全ゲノム解析のためのプロトコール作成に取り組んだ。実験材料の入手や感染症遺伝子検査に精通した人材の育成などの課題はあるものの,臨床検査室の日常業務にシーケンシング技術を取り込むことにより,新興感染症の疫学解析に貢献するのみならず,細菌の同定や薬剤耐性菌の遺伝子学的解析など今後さらなる臨床微生物学への応用が期待される。

  • 斎藤 彩香, 五十嵐 久喜, 北山 康彦, 石川 励, 山田 英孝, 椙村 春彦
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 2 号 p. 256-263
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    今回,1971年のFFPE検体から腫瘍症例を選びp53免疫染色を施行,強陽性例の検体からDNA,RNAを抽出し,濃度及び分解度を測定した。さらに,PCR法にてp53遺伝子のExon 4~7領域で増幅の有無を確認した。増幅の認められた症例についてはシークエンス解析を行った。DNAは濃度60~330 ng/μL,OD比260/280で1.4~1.8,RNAは濃度450~1,145 ng/μL,OD比260/280で1.8~1.9で抽出することができた。DIN値は1.1~1.7,RIN値は1.4~2.4であった。PCRは200~300 bpでは増幅することができなかったが,おおむね170 bp以下に分けることでExon 5-1,5-2は6/6症例,Exon 7-1で6/6症例,7-2で5/6症例増幅が認められた。サンガー法にて,増幅を認めたすべてのサンプルで塩基配列を解読することができ,複数個所で変異を確認することができた。50年前のFFPE検体からでもある程度のDNA,RNAが抽出できたが,品質的には経年による核酸の分解がより進んでいたことがわかった。それでも,条件次第でPCRによる増幅,さらにはシークエンス解析も可能であったことから,長期保管FFPEブロックの分子病理学的有用性は大きいと考える。したがって,FFPE検体は長期保管(半永久的)することが望まれる。

  • 水野 友靖, 西尾 美津留, 上田 知仁, 立花 智子, 川島 大輝, 宮木 祐輝
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 2 号 p. 264-271
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    【はじめに】輸血関連情報カード(以下,カード)は臨床的意義のある抗体を保有する患者に対してその旨を記載したカードを発行し携帯させることで遅発性溶血性輸血反応防止に役立つ。カード導入にあたり,タスク・シフトの一環として検査技師がカード説明をすることを輸血療法委員会へ提案し承認された。導入に至る経緯,準備,導入後の実績について報告する。【決定事項】1.カードは輸血部門システムより発行。2.説明場所は外来時に検査説明室で実施。3.患者誘導方法は患者案内表に表記。4.対象は,カード導入後に不規則抗体検査を実施した患者。【実績】2020年7月から2021年12月において,説明実施50名,説明不可能13名,説明未実施2名であった。期間中に他施設のカードの提示を受けた事例はなかった。対象者の診療科は10診療科であった。【考察・結論】期間中,他院からのカード提示を受けたことはないが医師や看護師のカード認識不足から輸血部門に情報伝達がなされていない可能性もあるため,スタッフへの啓発活動を広める必要がある。対象者の診療科は多岐にわたり検査技師が説明することでカードの意義を適切に伝えることができ,効果的な活用に繋がると考える。カード説明は現行制度下で実施可能な業務であり,タスク・シフトの観点からも検査技師が積極的に参画すべき業務である。

  • 手嶋 翔一朗, 西浦 哲哉, 小林 真未, 藤田 寿之, 牧野 謙二, 長岡 進矢, 三浦 史郎, 伊東 正博
    原稿種別: 資料
    2023 年 72 巻 2 号 p. 272-280
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
    ジャーナル フリー HTML

    症例は70歳代男性。肺炎で前医通院中に肝腫瘤を指摘され,4か月後のCT検査で急速な増大所見を認めたため精査目的で当院紹介となった。腹部超音波検査では,肝S4を主座に最大径8 cmの充実性腫瘍を認め,境界明瞭で,辺縁に切れ込みを有する分葉状を呈していた。内部は低輝度均一で,高輝度領域が混在していた。後方エコーは増強し,腫瘍内部を既存の末梢脈管が走行していた。造影超音波検査では動脈相優位相で腫瘤全体に微細な早期濃染を認めた。門脈優位相では周囲肝実質より造影効果が減弱し始め,Kupffer相では明瞭な欠損像を呈した。MRIでは腫瘤はT1強調画像低信号,T2強調画像高信号,拡散強調画像高信号,ADC低値を呈した。Gd-EOB-DTPA造影MRIのdynamic studyでは,腫瘍の造影効果は乏しく,内部には徐々に増強される隔壁様の構造がみられた。肝細胞相では腫瘍は周囲肝実質に比べて低信号を呈した。その他の部位に明らかな腫瘤性病変は指摘できず,PET-CTでも肝腫瘤以外に異常集積は認めなかった。腫瘍生検により肝原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma;以下DLBCL)と診断された。DLBCLの肝原発病変は非常に稀であり未だ報告数が少ないのが現状である。今回,造影超音波検査が診断に有用であったDLBCLの症例を経験したので報告する。

症例報告
  • 坂本 京, 前田 かおり, 五十嵐 朋子, 常深 あきさ, 清水 勝
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 2 号 p. 281-286
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
    ジャーナル フリー HTML

    血液疾患に心疾患を合併した患者の緊急輸血検査結果の判定に難渋した2症例を経験した。症例1.79歳白人男性。旅行中に胸痛と呼吸困難の増悪,下腿浮腫のため急性うっ血性心不全と診断され,当院に緊急搬送された。紹介状には骨髄線維症で赤血球液(RBC)と血小板濃厚液(PC)輸血を頻回に行っていると記載されていた。来院時のABO血液型検査で,オモテ・ウラ検査が不一致のため判定保留とし,AB型PCとO型RBCを輸血したが,副反応は認められなかった。症例2.62歳男性。ベンスジョーンズ型多発性骨髄腫(BJ-MM)による腎不全で血液透析中に頻脈性心房粗動を発症し,当院へアブレーション治療目的で転入院した。紹介状にはBJ-MM治療についての記載はなかった。不規則抗体検査のスクリーニング赤血球とパネル赤血球とは自己赤血球以外のすべてが陽性で,同定できなかった。紹介元にBJ-MMの治療法を問い合わせたところ,ダラツムマブが3ヶ月前より投与されていた。DTT処理赤血球での不規則抗体スクリーニングは全て陰性となった。輸血は行われなかった。緊急時の輸血を安全かつ迅速に行う観点から,輸血検査に影響を及ぼす治療法についての紹介状への記載は必須である。

  • 松岡 拓也, 八尋 真希子, 杉谷 拓海, 中川 美弥, 神尾 多喜浩, 福井 秀幸
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 2 号 p. 287-293
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    中皮細胞は尿路と腹腔との交通が生じた場合,尿沈渣で認めることがある。今回われわれは,ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RARP)後に生じた吻合部尿漏により尿が腹腔に貯留し,尿沈渣で中皮細胞を検出した症例を経験したので報告する。症例は前立腺癌でRARPを施行した70代男性で,3日前から食欲不振と嘔気が出現した。退院時の採血結果と比較して血清K,BUN,CRE,CRPの急激な上昇を認め,腹水が出現していた。尿沈渣で中型から大型の類円形細胞が散在性または小集塊状に出現し,一部の細胞ではつなぎ目に窓形成を認めた。核は単核からときに多核で,核小体を認めたが,核クロマチンの増量はみられなかった。以上の所見から中皮細胞と報告した。採取された腹水のK,BUN,CRE値は血清よりも高値であった。病歴と検査所見からRARP後の吻合部尿漏が疑われた。残りの尿で液状化検体細胞診(LBC)標本を作製し,免疫染色を行ったところD2-40陽性であり,尿沈渣で検出した細胞は中皮細胞と確認した。尿道カテーテルを留置すると3日後には採血データが正常化した。抜去後も採血データに異常がないことを確認して,受診から7日で退院した。自験例は血清と腹水でのK,BUN,CRE値の比較,免疫染色による中皮細胞の確認,主治医との円滑なディスカッションを行えたことで,過去の症例経験が活かされたことを実感できた症例であった。

  • 永川 翔吾, 酒井 瑠美子, 石川 道子, 嶋田 裕史, 小川 正浩
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 2 号 p. 294-300
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)患者においてメトトレキサート(methotrexate; MTX)は高い有効性のある薬剤であるが,その一方で様々な副作用も存在する。その一つとしてリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders; LPD)が知られており,MTXを中止することで病変部が消失するという特異な特徴がある。今回我々はMTX使用中のRA患者にLPDが発症し,患者尿中に造血器腫瘍由来と思われる異型細胞を認めた症例を経験した。MTX-LPDにおいて腎臓での発症例の報告は極めて少なく,患者情報,背景の確認が重要となった症例であった。

  • 大橋 有希子, 畑中 重克, 河村 美里, 竹中 ゆり子, 野中 伸弘
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 2 号 p. 301-305
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    症例は67歳,男性。肝門部胆管癌と診断されており,治療のため当院に通院していたが,今回歩道で倒れているところを発見され緊急搬送となった。胆管炎および敗血症性ショックと診断され,初期治療にMeropenemが投与された。入院時に採取した血液培養のグラム染色ではインフルエンザ桿菌を疑うグラム陰性小桿菌が認められ,内視鏡的胆道ドレナージで採取した胆汁検体からも同様のグラム陰性小桿菌が単独で認められた。培養の結果,両検体からβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性Haemophilus influenzaeが検出された。腹腔内膿瘍の指摘もありDaptomycinの追加投与も行われたが,炎症反応の改善に伴い抗菌薬はCeftriaxoneへDe-escalationし,その後軽快退院された。成人における侵襲性インフルエンザ菌感染症は菌血症およびそれに伴う肺炎が主要な原因であり,胆管炎由来の報告はあるが,胆汁検体からインフルエンザ桿菌が検出された症例は稀である。今回の症例を経て,胆汁材料でグラム陰性短桿菌を認めた場合,インフルエンザ桿菌の可能性も考慮する必要があると考える。

  • 松田 浩明, 廣井 綾子, 荻野 千尋, 松井 愛良, 羽原 利幸, 中野 学, 戸田 博子, 瀬﨑 伸夫
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 72 巻 2 号 p. 306-312
    発行日: 2023/04/25
    公開日: 2023/04/25
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    症例は40代の男性。主訴は悪寒,発熱,呼吸困難,胸部違和感。経胸壁心臓超音波検査(transthoracic echocardiography; TTE)では,左室は壁運動のびまん性高度低収縮と対称性左室肥大を認めた。また,右室にも壁運動低下を認めた。劇症型心筋炎(fulminant myocarditis; FM)と診断され,他院へ治療目的で紹介となった。他院搬送後,血行動態が悪化したため,経皮的心肺補助法(percutaneous cardiopulmonary support; PCPS),大動脈内バルーンパンピング(intra aortic balloon pumping; IABP)の導入となった。冠動脈造影検査では冠動脈に有意狭窄はなく,右室より心筋生検が施行された。組織学的に心内膜下および心筋内にリンパ球,形質細胞主体の炎症細胞浸潤を認めた。5日後にはPCPSおよびIABPから離脱し,再度行ったTTEでは左室肥大および壁運動低下,右室壁運動低下は改善が認められた。FMの超音波所見として左室の対称性壁肥厚やびまん性壁運動低下が特徴的とされており,右室壁運動低下を合併した報告は少ない。本症例は,左室のびまん性肥厚と壁運動低下に加え,右室の壁運動低下も認めた稀な1例であった。

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