2023 年 72 巻 3 号 p. 325-330
「糖尿病教室」は,患者治療の一環として実施される生活指導の場である。しかし,通院は時間的・身体的な負担が大きく,続かないことも経験される。そこで糖尿病教室の受講状況とヘモグロビンA1c(HbA1c)の関連を後方視的に解析し,有効かつ実践的な糖尿病療養指導のあり方を検証した。対象は2013年から2021年までに当センター糖尿病・内分泌内科主催の糖尿病教室を受講し,HbA1cを測定し得た339名である。患者年齢の中央値は66歳,男性が57.2%である。糖尿病教室では医師,理学療法士,管理栄養士,薬剤師,看護師,臨床検査技師の講義を受講する。初回受講と最終受講の前後1ヶ月内にHbA1c(NGSP)をHLC-723G11(東ソー)で測定した。受講前後のHbA1cの変動は,悪化28名(8.2%),不変120名(35.4%),改善104名(30.7%),著効87名(25.7%)であった。著効例は,男性・理学療法受講者で有意であった。HbA1c値8.0%以上の群では,男性・3回以上受講・理学療法受講者で有意に著効した。看護師/臨床検査技師受講者の著効率も高かった。糖尿病患者におけるHbA1cの改善は,受講回数が多いこと,理学療法の受講が有効であり,糖尿病教室の成果が示された。糖尿病は,多職種がチームとして取り組み,患者を支えることが重要である。
The “Diabetes Class” provides lifestyle guidance as part of patient treatment. However, outpatient visits are time-consuming and physically demanding, and may not last. We retrospectively analyzed the relationship between attendance at diabetes classes and hemoglobin A1c (HbA1c) level to verify if the guidance for diabetes treatment is effective and practical. Between 2013 and 2021, 339 people attended diabetes classes sponsored by the Department of Diabetes and Endocrinology, and their HbA1c levels were measured. Patients were 66 years old (median), and 57.2% were male. In the diabetes class, (1) doctors, (2) physical therapists, (3) nutritionists/pharmacists, and (4) nurses/medical technologists give lectures. HbA1c (NGSP) was measured using HLC-723G11 (Tosoh) within one month before and after the first and final classes. After the course, HbA1c levels worsened in 28 (8.2%), remained unchanged in 120 (35.4%), improved in 104 (30.7%), and significantly improved in 87 (25.7%). The significantly improved group was predominantly composed of males and those undergoing physical therapy. In the group with HbA1c levels above 8.0%, males who attended more than three classes and physiotherapy showed a significant improvement. The marked rate of nursing/medical technology students was also high. For diabetes, multidisciplinary teams should work together and support patients. It was shown that the number of lectures was high and that lectures on physiotherapy led to improvements in HbA1c level and were effective as educational opportunities for diabetic patients.
わが国における糖尿病患者は成人の15%を占め,「糖尿病の可能性が否定できない者」を加えると4人に1人が管理を要すると報告されている1),2)。特に高齢者の有病率は年々上昇し,加速する高齢化を背景に糖尿病患者数は増加の一途を辿っている1)。
糖尿病は,種々の感染症や皮膚症状,網膜症,神経障害などのハイリスクであり,重症化によって腎不全や心臓・脳血管障害など生命に関わる状況を引き起こす3),4)。そのため糖尿病は適切な診断とともに定期的な管理が必要である。
「糖尿病教室」は,患者が自身の病と向き合い自己管理できることを目指して,治療の一環として行われる療養指導の場である。糖尿病の治療は,薬物療法だけでなく栄養(食事療法)や運動療法など,生活全般を総合的に指導することが必要であり,多職種の協働が患者の予後に大きく関わる4)~6)。当センターの「糖尿病教室」は2004年に開講し,医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,管理栄養士,理学療法士の6職種が講義形式で行っている。家族同伴の受講も可能で,患者ひとりひとりのニーズに応えている。しかしながら,通院を要するため患者の時間的・身体的負担が大きく,特に高齢者では自己管理が困難などの理由で継続した指導ができない場合が経験される。
そこで,当センター「糖尿病教室」の受講状況と糖尿病の重症度指標であるヘモグロビンA1c(HbA1c)の改善状況を後方視的に検証し,高齢者における有効かつ実践的な糖尿病療養指導のあり方を明らかにしたので報告する。
調査期間は2013年1月から2021年12月である。この期間に当センター糖尿病・内分泌内科の外来を受診かつ「糖尿病教室」を1回以上受講した患者383名のうち,受講前後それぞれ1ヶ月以内にHbA1cを測定し得た339名を対象とした。患者群の平均年齢は65.8歳(年齢幅34~88歳,中央値66歳),男性の割合は57.2%である。
2. 「糖尿病教室」の概要当センターでは,糖尿病または境界型と診断された患者6),7)に対し,「糖尿病教室」の受講を案内している。参加は任意であり,外来・入院に関わらず受講可能である。教室は院内の講義室を使用し,毎週木曜日(第5週は休講)14時から15時の1時間,医師,理学療法士,管理栄養士,薬剤師,看護師,臨床検査技師の6職種が専門領域を講義する。「糖尿病教室」における職種別の講義内容をTable 1に示す。受講者はどの講義から開始してもよい。受講申請時に当センター糖尿病・内分泌内科が発行する「糖尿病のしおり」(全50ページ;適宜改訂)を配布し,必要に応じて講義で使用する。なお,患者群の受講回数は,1回83名,2回42名,3回72名,4回142名で,受講期間は0~308日,中央値28日である。
| 週 | 職種 | 講義内容 |
|---|---|---|
| 1 | 医師 | 糖尿病の原因 糖尿病の合併症(3大合併症・大血管症) 急性の合併症・併存疾患,低血糖 糖尿病の治療,血糖コントロール目標 |
| 2 | 理学療法士 | 運動療法の効果と運動のポイント 合併症のある患者が運動する際の注意点 運動療法の実践 |
| 3 | 栄養士 | 食事療法の基本方針,間食・外食 合併症を防ぐためのポイント,栄養食事指導 |
| 薬剤師 | 経口血糖降下薬,GLP-1受容体作動薬 インスリン注射について 低血糖の症状・対処・注意事項,お薬手帳 | |
| 4 | 看護師 | セルフモニタリング,糖尿病と感染症 嗜好品,シックデイ,フットケア 旅行・災害時,社会資源,ストレスと糖尿病 |
| 臨床検査技師 | 糖尿病の型,糖尿病の状態を知る検査 合併症の有無や程度を知る検査 自己管理に必要な検査と結果の解釈 血糖および脂質の管理目標値 |
糖尿病教室初回受講日から前1ヶ月以内と最終受講日から後1ヶ月以内にHbA1cを測定した。両者の測定日幅は21~119日(中央値38日)である。採血管はベノジェクトII真空採血管血糖用(TERUMO)で,採血後は直ちに臨床検査科へ搬送され,検体到着から30分以内に結果を報告した。
HbA1cの測定はHLC-723G11(東ソー)で行い,専有試薬(G11溶離液第1液,第2液,第3液,His溶血・洗浄液),HLC-723G11専用カラム(いずれも東ソー)を使用した。なお,測定値はNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)である。
4. 統計解析および評価糖尿病教室受講前と受講後のHbA1cの変化から“著効群”と“悪化・不変群”に分け,両群間の有意性をFisher両側確率によるオッズ比で示した。統計解析はStatFlex ver. 6.0(アーテック)を用い,統計学的有意水準は5%(p < 0.05)とした。
糖尿病教室受講前と受講後におけるHbA1cの変化をFigure 1に示した。HbA1cを0.5%(7.0%以上は1%)ごとにプロットし,受講後2枠以上の低下を“著効”,1枠の低下を“改善”,変化ない場合を“不変”,1枠以上の上昇を“悪化”と定義した。その結果,悪化は28名(8.2%),不変は120名(35.4%),改善は104名(30.7%),著効は87名(25.7%)であった。なかでも34名(10.0%)が3枠以上低下しており,高い改善傾向が認められた。

上記で示した4群(著効・改善・不変・悪化)について,受講内容別のHbA1cの変化をFigure 2に示した。講義の違いによる有意な差はないものの,“著効”は医師および看護師・臨床検査技師の講義受講者が27%と高く,“悪化”は7%と低い結果であった。

HbA1cが“著効”した要因を明らかにするため,糖尿病教室の受講状況と患者情報を目的変数として“悪化・不変群”と比較し,オッズ比を算出して検証した(Table 2)。
| 項目 | 著効 (n = 87) |
悪化・不変 (n = 148) |
odds ratio | p-value | |
|---|---|---|---|---|---|
| 男性 | 67(77.0%) | 78(52.7%) | 3.01 | < 0.001 | |
| 70歳以上 | 26(29.9%) | 64(43.2%) | 0.56 | 0.042 | |
| 3講以上受講 | 57(65.5%) | 84(56.8%) | 1.45 | 0.186 | |
| 初回受講 | 医師 | 53(60.9%) | 93(62.8%) | 0.92 | 0.770 |
| 理学療法 | 25(28.7%) | 23(15.5%) | 2.19 | 0.015 | |
| 栄養/薬剤 | 6(6.9%) | 18(12.2%) | 0.53 | 0.198 | |
| 看護/検査 | 3(3.4%) | 14(9.5%) | 0.34 | 0.086 | |
| 受講講座 | 医師 | 75(86.2%) | 122(82.4%) | 1.33 | 0.373 |
| 理学療法 | 59(67.8%) | 90(60.8%) | 1.36 | 0.282 | |
| 栄養/薬剤 | 59(67.8%) | 98(66.2%) | 1.08 | 0.801 | |
| 看護/検査 | 53(60.9%) | 87(58.8%) | 1.09 | 0.747 | |
“著効群”の有意な要因であったのは,男性および理学療法の講義を初回に受講した場合の2点であった。一方,“悪化・不変群”は70歳以上の高齢者で有意に多い結果であった。受講回数や受講した講義は,HbA1cの変動に有意な影響を及ぼさなかった。
2) HbA1c 8.0%以上で比較日本糖尿病学会のガイドラインでは,HbA1c 8.0%以上は治療の効果を得にくいとしている6),8)。この患者群における糖尿病教室の有効性を検証するため,受講前のHbA1cが8.0%以上の例について同様に比較した(Table 3)。その結果,男性,3講以上受講,理学療法の講義を受講,が“著効”に有意な要因であった。
| 項目 | 著効 (n = 65) |
悪化・不変 (n = 29) |
odds ratio | p-value | |
|---|---|---|---|---|---|
| 男性 | 49(75.4%) | 12(41.4%) | 4.34 | < 0.001 | |
| 70歳以上 | 19(29.2%) | 9(31.0%) | 0.92 | 0.860 | |
| 3講以上受講 | 39(60.0%) | 10(34.5%) | 2.85 | 0.022 | |
| 初回受講 | 医師 | 39(60.0%) | 21(72.4%) | 0.57 | 0.247 |
| 理学療法 | 19(29.2%) | 2(6.9%) | 5.58 | 0.016 | |
| 栄養/薬剤 | 4(6.2%) | 5(17.2%) | 0.31 | 0.092 | |
| 看護/検査 | 3(4.6%) | 1(3.4%) | 1.35 | 0.888 | |
| 受講講座 | 医師 | 55(84.6%) | 24(82.8%) | 1.15 | 0.820 |
| 理学療法 | 42(64.6%) | 10(34.5%) | 3.47 | 0.007 | |
| 栄養/薬剤 | 43(66.2%) | 17(58.6%) | 1.38 | 0.483 | |
| 看護/検査 | 36(55.4%) | 11(37.9%) | 2.03 | 0.118 | |
なお,有意差は認められなかったものの“著効群”における看護/検査の受講率は“悪化・不変群”より17.5%高い傾向が認められた。
糖尿病は入院加療や薬物投与のみで完治し得る疾患ではなく,治療の効果は病型や年齢,生活習慣に大きく依存する。そのため患者が病を正しく理解し,進行・重症化を防ぐ生活を自主的に実践することが重要である。
「糖尿病教室」は,糖尿病患者に対する治療行為のひとつとして1980年代に確立した9)。本邦では2000年に日本糖尿病療養指導士(Certified Diabetes Educator of Japan; CDEJ)の制度が発足し,2022年6月現在,看護師(8,252名),栄養士(4,892名),薬剤師(2,873名),理学療法士(1,273名),臨床検査技師(1,301名)がCDEJに認定されている10)。それぞれの職種が医師の指導のもと専門性を発揮して糖尿病患者の療養指導に当たることが「糖尿病教室」の役割であり,その有効性は多くの報告に示され周知のごとくである。当センターでは日本糖尿病療養指導ガイドブックに準拠したカリキュラムで実施している10),11)。臨床検査技師担当の教室では検査の名称や意義,基準値などを講義するため,他部門に比べ理解が得られにくいかもしれない。しかし,有意差はなかったもののHbA1c 8.0%以上の群において看護師と臨床検査技師の講義受講者に「著効」率が高かったことは,数値目標をもって療養に取り組むことが理解されている結果と推測できる12)。3講以上の受講で優位に著効している点も,これを示唆するものと考える。
しかしながら,糖尿病は自覚症状に乏しいことから,生活改善の動機付けや気力の向上に繋がらず,療養が継続できない患者への対策が問題となる5),13)。本田ら14)によると,受診中断は「おっくう」や「行きそびれ」など自覚の希薄が過半数を占め,特に認知症や高齢者では管理・指導が行き届かず効果が得られない15),16)。画一的な講義ではなく,患者層や施設の特徴を考慮した指導体制の構築が必要である。
当教室は参加者の60%が65歳以上である。本検討において高齢者の「悪化・不変」が有意に多かった結果を踏まえ,専門用語を多用せずわかりやすい説明をする,来院を促すあるいは来院を必要としないシステム作り,日常使用の血糖測定器を高齢者が使いやすい製品にする17)など改善に取り組みたい。
糖尿病療養指導において「有酸素運動」の有効性は高い18),19)。1日2,000歩以上の歩行を習慣づけた患者群は有意にHbA1cが低下しており18),また短時間の高強度運動もHbA1cを下げることが報告されている19)。本検討において,理学療法士の講義を受講した群で有意なHbA1cの低下が認められた。この講義では,歩く習慣をつけること,食事療法との併用で効果が上がること20)など,実践を交えて講義している。運動・食事は日常生活に直結しているため全年齢層で受け入れられやすいが,先にのべたように「継続」困難な患者群に対する指導は今後の課題であろう。また,糖尿病教室受講後の生活習慣上の変化についても,アンケート調査などを実施して検証したい。
本検討では,糖尿病教室受講の成果をHbA1cで評価した。HbA1cは過去1ヶ月程度の血糖値の変動を反映し,日差日内変動がほとんどないことから,マーカーとしての有用性は高い14),16)。なお,外来時の採血は85%が午前中に実施しており,おおむね空腹時採血は順守されている。
糖尿病やメタボリックシンドロームは女性より男性に多いことが知られている1)。その理由として糖代謝に大きく関与する体脂肪量やBody Mass Index(BMI)20),脂肪組織の構成に関与するleptinやadiponectinなどの性差因子21)が挙げられる。すなわち男性の方が肥満傾向であり,脂肪の蓄積や脂質代謝異常はインスリン抵抗性を惹起するからである。糖尿病教室,特に理学療法講義を受講することで,自身で継続可能な運動療法の実施や意欲向上につながり,主に男性のインスリン抵抗性を主体とする糖尿病患者においてHbA1cの低下に寄与したと考えられた。患者の病型や重症度,糖尿病治療期間,処方薬などの影響を検証していない点は本検討の課題である。
糖尿病教室は,患者と医療従事者が対面で接することできめ細かい指導ができ,成果を上げてきた。しかし,SARS-CoV-2の流行が病院の診療態勢を大きく変化させ,患者の来院抑制に繋がっていることは否めない。糖尿病患者の健康的な生活を永く維持するには教室が実効的な活動を継続することが肝要であり,特に高齢患者には教室を離れても栄養・運動・薬物療法が滞らないよう繰り返し声かけをしたい。来院が困難な高齢者の受講システムや,SNSなどを活用した指導のあり方も今後検討したい。
当センターにおける「糖尿病療養指導」は患者の病態改善に有効で,特に理学療法士が指導する運動療法は効果的であった。高齢患者の意識や生活の改善をすすめるには臨床検査技師を含む多職種による,患者に寄り添ったアプローチが必要である。
本研究は,当センター倫理委員会にて承認されている(承認番号:E21-0278-G01)。本旨の概要は第70回日本医学検査学会(2021年;福岡市)にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本旨は,順天堂東京江東高齢者医療センターの多くの方々が長年にわたり糖尿病教室の運営に関わった成果のひとつである。杉本大介医師,笹原詩織医師(糖尿病・内分泌内科),高倉朋和医師,高橋裕馬氏(リハビリテーション科),上村志津子氏,水谷多恵子氏(看護部),太田景子氏,佐久間尚子氏(薬剤科),池田理香氏,三浦佳子氏(栄養科),そして当センター「糖尿病教室」初代室長の小沼富男医師に,心からの敬意と謝意を表する次第である。