2023 年 72 巻 3 号 p. 446-451
症例は100歳女性。心窩部痛を主訴に当院を受診した。受診時,意識清明だったが,顔面蒼白で血圧低下を認めたため輸液が開始された。血液検査のために提出された採血検体は強い溶血を呈しており,再採血を含め3回の採血を行ったが,いずれも著明な溶血が認められた。また,尿定性で潜血3+,尿沈渣でRBC 1個未満/HPFと溶血の存在が示唆された。その後,症状の改善がみられず,意識レベルの低下,頻呼吸を認め,敗血症性ショックの疑いで緊急入院となった。入院時に血液培養2セットを採取し,meropenem(MEPM)にて治療が開始されたが,急速に全身状態は悪化し,入院12時間後に永眠された。採取された血液培養の2セット全てからClostridium perfringensが検出され,死亡時画像診断で肝臓に不整なガス像が認められた。
The patient was a 100-year-old woman who visited our hospital with the chief complaint of epigastric pain. The patient was lucid, but at the time of consultation, transfusion was started as her pallor was accompanied by hypotension. The drawn blood specimen submitted for blood testing showed strong hemolysis; thus, we drew blood three times, including re-drawing of blood, but significant hemolysis was found in all the specimens. Moreover, less than RBC 1 unit/HPF and hemolysis were found in occult blood (3+), and urinary sediment was detected by urine qualitative analysis. Subsequently, her symptoms did not improve, a depressed level of consciousness and tachypnea were detected, and hospitalization became urgent on suspicion of septic shock. We collected two sets of blood specimens for blood culture, and treatment was started using meropenem. However, the patient’s overall status worsened rapidly and she passed away 12 hours after hospitalization. Clostridium perfringens was detected in both sets of blood cultures, and an image of irregular gas was found in the liver by autopsy imaging after death.
Clostridium perfringensは,土壌や下水など自然界に広く分布する偏性嫌気性グラム陽性桿菌であり,ヒトの腸管内に存在している。C. perfringensは,食中毒やガス壊疽を引き起こす原因菌であるが,まれに肝膿瘍,敗血症,胆管炎の起因菌となることがある。本菌が産生する毒素によって溶血,壊死,血管内障害による播種性血管内凝固症候群が引き起こされ,急激に病態が悪化し,短時間で死に至ることが報告されている1)。近年,腸管や胆道系において,C. perfringensによる非外傷性感染症の報告が増加しており,高度な血管内溶血を認める症例が散見される2)~5)。今回,我々はC. perfringensにより高度な血管内溶血を示し,急激な病態の悪化により死亡した症例を経験したので報告する。なお,本症例は当院の倫理委員会にて承認された(承認番号:2022-009)。
患者:100歳,女性。
主訴:心窩部痛。
既往歴:高血圧。膝痛・腰痛で整形外科に通院中。
家族歴:不明。
現病歴:当院来院前日より,嘔吐,心窩部痛を認め,アセトアミノフェンを内服。症状改善したが,翌日,食事の摂取ができず体調が優れないため当院内科を受診した。
来院時身体所見:体温36.5℃,血圧74/49 mmHg,脈拍85回/分,SpO2 98%。四肢冷感を認め,顔面やや蒼白であったが,意識レベル清明で会話は可能な状態であった。
入院時検査所見及び臨床経過:来院時の血液検査,尿一般検査,動脈血ガス分析結果をTable 1に示す。採取された採血検体に強い溶血が見られたため,再採血を含め合計3回の採血を行ったが,そのすべてに溶血が認められた(Figure 1)。来院時の血液検査では,WBC:37,400/μL,CRP:4.53 mg/dLと高度の炎症反応を示し,生化学検査では,AST:588 U/L,ALT:320 U/L,LD:906 U/L,T-Bil:3.41 mg/dL,γ-GT:108 U/Lより,肝機能障害が示唆された。末梢血液検査での血液像では球状赤血球を認め,破砕赤血球,芽球は認められなかった。また,Hb:10 g/dL,RBC:312 × 104 μLと貧血症状は認められなかった。尿検査では,尿定性で潜血3+,尿沈渣でRBC 1個未満/HPFより溶血の存在が示唆された。溶血の原因を精査するため,直接抗グロブリン試験,間接抗グロブリン試験が追加で行われたがいずれも陰性であった。超音波検査では,肝臓・胆管系,腎臓に明らかな異常は認められなかった。バイタル不安定のため,CT検査は実施しなかった。
生化学検査所見 | 血液検査所見 | 尿定性検査所見 | 動脈血ガス分析所見 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
BUN | 28.1 mg/dL | WBC | 374 × 102/μL | 色調 | 橙黄色 | pH | 7.468 |
Cre | 1.58 mg/dL | RBC | 312 × 104/μL | pH | 6.0 | PCO2 | 28.7 mmHg |
Na | 137.7 mEq/L | Hb | 10 g/dL | 比重 | 1.020 | PO2 | 63.1 mmHg |
K | 4.46 mEq/L | MCV | 102.2 fL | 蛋白 | (−) | HCO3 | 20.7 mmol/L |
Cl | 102.5 mEq/L | MCH | 32.1 pg | 糖 | (−) | BE | −2.4 mmol/L |
AST | 588 U/L | MCHC | 31.3% | 潜血 | (3+) | O2SAT | 94.3% |
ALT | 320 U/L | PLT | 22.3 × 104/μL | ビリルビン | (−) | Lac | 5.00 mmol/L |
ALP(IFCC) | 171 U/L | 凝固検査 | 尿沈渣所見 | ||||
γ-GT | 108 U/L | DD | 13.5 μg/mL | 赤血球 | 1 ↓/HPF | ||
LD(IFCC) | 906 U/L | 白血球 | 1–4/HPF | ||||
T-Bil | 3.41 mg/dL | 扁平上皮 | 1–4/HPF | ||||
CK | 49 U/L | 尿路上皮 | 1–4/HPF | ||||
CRP | 4.53 mg/dL | 尿細管上皮 | 1–4/HPF |
著明な溶血を認めた。
血圧が低いため輸液投与が開始されたが,血圧94/53 mmHgと改善せず,意識レベルの低下,頻呼吸が認められた。敗血症性ショックの疑いで緊急入院となり,血液培養2セットを採取後,ノルアドレナリン,meropenem(MEPM)にて治療が開始された。入院4時間後,血圧77/34 mmHg,心拍数19回/分,約4秒間の洞停止を認めた。その後,全身発汗,赤色尿の持続,複数回の洞停止,心拍数40–50回/分台から100回/分台を繰り返すなど,急速に全身状態が悪化し,入院12時間後に永眠された。入院時に採取された血液培養の2セット全てからC. perfringensが検出された。
死亡時画像診断(Ai)より肝臓に不整なガス像が認められ(Figure 2),死因はC. perfringensによる肝膿瘍と診断された。
肝臓内に不整なガス像が認められる。
血液培養検査は,好気用レズンボトル(日本BD),嫌気用レズンボトル(日本BD)を1セットとし,2セットが採取され,BACTEC FX(日本BD)にて培養を行った。血液培養開始後,7時間後に嫌気用レズンボトル2本,17時間後に好気用レズンボトル2本の2セット全てが陽性となった。陽性となった血液培養ボトルの外観は,溶血がみられ,ガスの産生は認められなかった。グラム染色で大型のグラム陽性桿菌を検出し(Figure 3),血液培養液より羊血液寒天培地(日本BD)を炭酸ガス培養(35℃),BTB乳糖加寒天培地(日本BD),GAM半流動培地(日水製薬)を好気培養(35℃),ブルセラHK寒天培地(極東製薬)を嫌気培養(35℃)とし,サブカルチャーを実施した。ブルセラHK寒天培地のみに発育を認め,強い溶血を伴った灰白色コロニーが発育し(Figure 4),GAM半流動培地では多量のガス産生が認められた。発育したコロニーよりBBL CRYSTAL ANR(日本BD)を使用し,C. perfringensと同定した。
大型のグラム陽性桿菌を検出。
溶血を伴った灰白色コロニーを認める。
血液培養ボトルよりグラム陽性桿菌を確認後,来院時に血液検査用として提出された血液検体のグラム染色を実施したが,菌体は認められなかった。
薬剤感受性検査結果をTable 2に示す。Clinical & Laboratory Standards Institute(CLSI)では本菌を対象とする定められた試験方法が記載されていないため,CLSI M11-A7に記載されている微量検体希釈法にて検査を実施した。ウマ溶血血液加ブルセラブロス(極東製薬),オプトパネルMP(極東製薬)を使用し,嫌気環境下(35℃)で培養後,目視判定したMIC値を参考値として報告した。なお,操作方法は添付文書に従って行った。
MIC (μg/mL) | |
---|---|
penicillin G (PCG) | ≤ 0.06 |
ampicillin (ABPC) | ≤ 0.25 |
piperacillin (PIPC) | ≤ 2 |
ampicillin/sulbactum (ABPC/SBT) | ≤ 0.25 |
cefotiam (CTM) | 1 |
cefotaxime (CTX) | ≤ 0.5 |
ceftazidime (CAZ) | ≤ 0.5 |
cefditoren (CDTR) | ≤ 0.12 |
cefoperazone/sulbactam (CPZ/SBT) | ≤ 1 |
imipenem (IPM) | 0.25 |
meropenem (MEPM) | ≤ 0.12 |
gentamicin (GM) | > 32 |
erythromycin (EM) | > 2 |
clindamycin (CLDM) | 1 |
minomycin (MINO) | ≤ 0.25 |
levofloxacin (LVFX) | ≤ 0.5 |
C. perfringensは自然界に広く分布しており,ヒトの腸管内に常在し,食中毒や外傷性のガス壊疽の原因菌として知られている。近年,食中毒以外の非外傷性C. perfringens感染症の症例が散見されており,非常に予後が悪く,短時間で死亡する例が多い。本菌による非外傷性疾患では,しばしば著明な血管内溶血を合併しており,致死率は70~100%に及ぶとも報告されている6)。
C. perfringensの産生する主要な毒素は4種類(α, β, ε, ι)存在し,その産生能に基づきA型からE型に分類される。ヒトから分離されるほとんどはA型で,ヒトの腸管内,泌尿器生殖器に存在しており,ガス壊疽や食中毒を引き起こすことが知られている。A型菌をはじめとする本菌が産生する主要な毒素は,ホスホリパーゼ活性をもつα毒素であり,リン脂質を分解して赤血球膜を破壊し溶血を引き起こす。さらには,血小板・白血球凝集塊の形成を促進し,末梢循環を障害することで筋組織の壊死を引き起こすことが報告されている7),8)。
土手内ら9)の本邦におけるC. perfringens敗血症59例の文献検索では,59例中47例(79.7%)が基礎疾患を有しており,その内訳は,悪性腫瘍(32.2%),糖尿病(25.4%),高血圧(16.9%),血液疾患(15.3%)であった。本症例では高血圧の既往があり,血液循環機能の低下により,酸素の供給が滞ることで嫌気性菌による感染を助長し,また,高齢であったため,免疫機能の低下により易感染状態であったと考えられた。
本菌による重症感染症の抗菌薬治療として,ペニシリン系の投与に加え,クリンダマイシンを併用することで外毒素産生抑制効果があると報告されている10)。また,肝膿瘍などの局所感染については早期の経皮的膿瘍ドレナージもしくは開腹ドレナージによる治療で救命できた症例が報告されている11),12)。その他には,エンドトキシン吸着療法12)や高圧酸素療法13)が有効との報告も挙げられている。血管内溶血が進行し,溶血性貧血を引き起こした場合の輸血療法では,検体の著しい溶血により,血液型判定が不能となる場合があることから,緊急時輸血同様の処置を行った症例が報告されている14)。
本症例では,提出された採血検体に強い溶血が認められ,採血手技による溶血を疑った。しかし,再採血検体でも著明な溶血が見られ,血液塗抹標本において球状赤血球が認められたことから物理的溶血は否定的とし,血管内溶血の可能性があるとして主治医に報告をした。生化学検査結果では,AST,LD,T-Bilが高値であることからも血管内溶血を示唆する所見であり,さらにALT,γ-GTが高値であることから,肝機能障害も存在していたと考えられた。また,尿定性で潜血3+,尿沈渣でRBC 1個未満/HPFと溶血の存在が示唆された。その後,血液培養が採取され,血液培養からのグラム陽性桿菌の検出より,C. perfringensによる敗血症を疑い,来院時に提出された採血検体の血液をグラム染色にて確認したが,菌体を認めることはできなかった。入院時は,バイタル不安定のため造影CT検査を実施することができず,死亡後に実施されたAiより肝臓に不整なガス像を認めた。そのため,膿瘍の存在は明らかではないが,ガスの周辺に膿瘍が存在していたと示唆され,肝膿瘍を契機に敗血症が引き起こされたと考えられた。
本症例では,提出された血液培養ボトル2セット全てが陽性となっており,すでに血液中に存在していた菌量が多かったため,好気用レズンボトルにも発育を認めたと推測された。C. perfringensは強いガス産生性があり,血液培養ボトルから培養液を抜き取る際に,ガスを確認できることがある。しかし,本症例では,血液培養ボトルの溶血は確認できたが,ガスの産生は認められなかった。血液培養ボトルからのガスの確認は,処理をする技師によって個人差があると思われ,また菌株によっては認められない場合があると考えられる。当院では,血液培養の陽性培養液を,平板寒天培地に加えGAM半流動培地に接種しており,ブルセラHK寒天培地に発育を認めるより先にGAM半流動培地でのガス産生を認めた。そのため,グラム染色結果とGAM半流動培地でのガス産生より比較的早急にC. perfringensの可能性が極めて高いと報告することができた。血液培養検査では,培養を開始してから同定結果が確定するまでに数日を要するが,本菌による敗血症の場合,短時間で全身状態が悪化するため,患者死亡後に原因菌が判明する場合が多い。本菌には強いガス産生性があるが,血液培養ボトルからのガスを確認できない場合がある。そのため,目視で確かめることができる半流動培地を取り入れることも早期報告に繋がると考える。
本症例では血液の直接塗抹から菌体を認めることはできなかったが,実際に,検体の著明な溶血から細菌感染を疑い,血液検査のために採取された検体をグラム染色することで早期に菌体を発見することができた例もある15)。著明な溶血を認めた場合は細菌による感染症の可能性を考え,積極的にグラム染色を行うべきだと考える。溶血などの血清情報やグラム染色像の結果,培養での著明なガスの産生などからC. perfringensによる感染症を推定し,早急に臨床に報告することが早期治療につながる。
血管内溶血を示したClostridium perfringensによる敗血症の1例を経験した。発症すると急激に症状が悪化し,短時間で死に至ることから,救命のためには原因菌となる本菌の早期検出が重要である。検体の著明な溶血などの情報から細菌感染の可能性を推定し,臨床に報告をすること,積極的にグラム染色を行うことが検査技師としての重要な役割と考える。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。