医学検査
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原著
PML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病(microgranular type)およびCBFB-MYH11を伴う急性骨髄性白血病におけるCD2抗原の有用性
髙屋 絵美梨齋藤 泰智小笠原 愛美中河 知里作田 泰宏高渕 優太朗菊地 菜央秋田 隆司
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2023 年 72 巻 3 号 p. 339-348

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Abstract

PML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病(以下,APL)の一部には微細顆粒や核異型を伴うmicrogranular type(以下,M3v)が存在するが,典型的なAPLに比べ形態学的所見からの病型推測が難しいとされる。また,CBFB-MYH11を伴うAML(以下,M4Eo)は,顆粒球および単球系細胞に加え異常好酸球が骨髄中に増加する。今回我々は汎T細胞抗原であるCD2が上記2病型の早期発見に有用であるか検討した。対象:当院で骨髄検査及び造血器腫瘍細胞抗原検査(以下,FCM)を実施した①APL:16症例,②M3v:5症例,③急性骨髄単球性白血病(以下,M4):13症例,④M4Eo:10症例を対象とした。方法:各症例で普通染色・特殊染色による形態観察と,FCMを用いたCD2を含む各細胞表面抗原の解析,造血器腫瘍キメラ遺伝子および染色体検査を実施した。結果:FCM解析ではAPL全症例でCD2は陰性であったが,M3v4症例・M4Eo8症例においてCD2の発現が認められ,その陽性率は上記2つを除いた他病型AMLと比較し有意に高値であった(p < 0.001)。またAPL・M3v全症例でPML-RARA・t(15;17)染色体を認め,M4Eo症例でもCBFB-MYH11・inv(16)染色体は全症例で検出された。これよりCD2抗原は,形態学的所見による病型推測が困難な症例でも上記2病型の早期診断を可能にする有用な指標になると考えられた。

Translated Abstract

Acute promyelocytic leukemia (APL) is a subtype of acute myeloid leukemia characterized by abnormal proliferation of promyelocytes and PML-RARA fusion gene. The microgranular type of APL (M3v) is characterized by a lack of cytoplasmic granules and atypical of nuclei. Thus, it is important to differentiate it from other types of monocytic AML on the basis of morphological features. Moreover, AML with CBFB-MYH11, known as M4Eo in the French–American–British classification, is diagnosed by the proliferation of myeloblasts, monoblasts, and abnormal bone-marrow eosinophils. To determine whether the CD2 expression is useful for the early detection of M3v and M4Eo, we investigated immunophenotypes especially focusing on CD2, morphologic features, and genetic/chromosomal abnormalities of APL including M3v, M4, and M4Eo. In an immunophenotypic analysis by flow cytometry (FCM), all cases of APL without the variant type were negative for CD2, and only one case of M4 showed CD2 expression. However, four of five cases (80%) of the M3v type were positive for CD2. Furthermore, eight of ten cases (75%) of M4Eo were positive for CD2. In comparison with other types of AML, including M0–M5, the frequencies of CD2 expression in M3v and M4Eo cases were statistically significantly higher (p < 0.001). In genetic and chromosomal investigations, PML-RARA mRNA and t(15;17) were detected in all cases of M3 and M3v. Moreover, all 10 cases of M4Eo showed CBFB-MYH11 mRNA, and inv(16). From these findings, the CD2 antigen will be a useful marker for diagnosing two types of leukemia, M3v and M4Eo, in the early stages, even though it is difficult to determine the type of disease on the basis of morphological findings.

I  はじめに

急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia;以下,APL)とは,骨髄中に異常前骨髄球が増加する疾患である。FAB分類においてはM3に分類され,2017年に発表されたWHO分類改訂第4版(以下,WHO分類)では「PML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病」に相当する。異常前骨髄球は細胞質に粗大なアズール顆粒を多数有しており,これらが結晶化することで針状のAuer小体を形成する。APLではこのAuer小体が束状になったFaggot cellが認められることが特徴である。しかしながら,APLの中にはmicrogranular type(以下,M3v)と呼ばれる亜型が存在する。これらは細胞質に肉眼的に観察不可能な微細顆粒を有し,陥凹・鉄アレイ状といった強い核異型を呈することから,単球系AMLとの鑑別がしばしば問題となっている1)。また,inv(16)(p13.1q22)またはt(16;16)(p13.1;q22);CBFB-MYH11を伴うAML(以下,M4Eo)は異常好酸球増加を伴う急性骨髄単球性白血病としてWHO分類上独立した疾患となっているが,FAB分類上多くは2)M4Eoに相当する。この病型は顆粒球系および単球系幼若細胞の増加に加え,好塩基性に富んだ大粒の顆粒を有する幼若好酸球の増加が特徴とされるが,明らかな異常好酸球の増多を認めない場合は前述したM3vや急性骨髄単球性白血病(以下,M4)との鑑別が必要となる。一部AMLの症例のフローサイトメトリー(以下,FCM)解析において,汎T細胞抗原であるCD2抗原(aberrant marker)の発現を認めるという報告があることから3),4),今回我々は上記2病型の早期発見にCD2が有用であるか検証を行ったので報告する。

II  対象と方法

1. 対象

2005年から2021年12月までに当院で骨髄検査および造血器腫瘍細胞抗原検査の依頼があった患者のうち,①APL:16症例,②M3v:5症例,③M4:13症例,④M4Eo:10症例を対象とした。表面抗原解析における比較対照として,FAB分類により上記4病型以外と診断された他型AML 74症例を用いた。

2. 方法

1) 普通染色・特殊染色による形態観察

骨髄検査で採取した患者の骨髄液から圧挫伸展・塗抹標本を作製し,全症例でメイ・グリュンワルド・ギムザ二重染色(以下,MG染色),ミエロペルオキシダーゼ染色(以下,MPO染色,New PO-Kキット)を実施した。またM4・M4Eo症例においてはエステラーゼ染色(以下,EST染色)も追加した。これらの標本を用いて形態的特徴を観察した。

2) FCMを用いた各細胞表面抗原の解析

ヘパリンNa加採血管に分取した骨髄液または末梢血を元検体とし,塩化アンモニウム溶液で赤血球を溶血,遠心分離後上清を除去,リン酸緩衝液(pH 7.4)を用いて洗浄し白血球細胞浮遊液を得た。測定にはNavios(ベックマン・コールター社)またはBD FACSLyric(日本ベクトン・ディッキンソン社)を用い,CD45ゲーティング法により各症例の表面抗原や細胞形態の特性に応じて抗体を選択し解析した。使用した抗体名を以下に示す。

CD2,CD3,CD4,CD5,CD7,CD8,CD10,CD11b,CD11c,CD13,CD14,CD15,CD19,CD20,CD33,CD34,CD36,CD56,CD64,CD65,CD117,HLA-DR,Lysozyme,cyMPO,cyTdT,cyIgM,cyCD79a。なお,表面抗原発現強度の対照としてアイソタイプコントロールを使用した。

3) RT-PCR法,G-Band法,FISH法による遺伝子異常解析

骨髄検査時,EDTA-2NaまたはヘパリンNa加採血管に分取した骨髄液または末梢血を検体とした。造血器腫瘍キメラ遺伝子検査はEDTA-2Na加骨髄血を用い,RT-PCR法により当院で検査を行った。ヘパリンNa加骨髄血はG-BandおよびFISH検査のために株式会社エスアールエルへ外部委託し,後日検査結果を確認した。

3. 統計解析

統計解析にはMicrosoft®Excelアドイン「統計解析Statcel Ver.3」を用いた。FCMの表面抗原解析に関する統計処理はΧ2独立性の検定により解析した。このとき,各抗体陽性率のカットオフ値を20%以下に設定した。

なお本研究は市立函館病院倫理委員会の承認を受け施行した(承認番号:迅2018-78)。

III  結果

1. 各染色法における塗抹標本の形態観察

各病型におけるMG染色・MPO染色の骨髄塗抹標本の形態所見を示す(Figure 1, Table 1)。APLでは細胞質に豊富なアズール顆粒を含んだ異常前骨髄球が増加しており,Auer小体やFaggot cellも散見され,APLの形態的特徴を呈していたことから病型推測が比較的容易であった(Figure 1A, B)。一方M3vでは,細胞質の顆粒はほとんど観察されず,異常細胞の核は陥凹や鉄アレイ状などの異型が目立っていた(Figure 1D, E)。

Figure 1 骨髄像

A,B,D,E,G,H,J,K:MG染色(100×),C,F,I,L:MPO染色(60×)

Table 1  各病型における細胞所見
APL M3v AML M4 AML M4Eo
症例数 16 5 13 10
細胞質 粗大顆粒
ファゴット細胞
微細顆粒
アウエル小体
微細顆粒 微細顆粒
アウエル小体
核型 類円形~不整 類円形~不整
くびれ・切れ込み
鉄アレイ状
類円形~湾曲
くびれ・切れ込み
MPO染色 強陽性 強陽性 骨髄芽球:陽性
単芽球・前単球:陰性~弱陽性
その他 異常好酸球↑
(8/10症例)

M4・M4Eo症例では骨髄系と思われる類円形の核を有する芽球様細胞や胞体が広く核のくびれや湾曲を有する単球系幼若細胞が見られた(Figure 1G, H, J, K)。M4Eoの一部では,異常細胞の細胞質内にAuer小体を認めた症例も存在した。M4症例の全例で異常好酸球の増多は認められなかったが,M4Eoの8症例で好塩基性の顆粒を有する異常好酸球の増加が認められた(Figure 1K)。

異常細胞におけるMPO染色の染色性は,全症例で3%以上だった。APLおよびM3v症例では強陽性であった。M4・M4Eo症例において骨髄芽球と考えられる細胞の染色性は陽性,単芽球~前単球様細胞は陰性~弱陽性を呈しており,芽球の陽性率は3%以上であった(Figure 1C, F, I, L)。M4・M4Eo症例のみエステラーゼ染色を実施したが,α-NB染色,ASD染色それぞれで陽性を示す幼若細胞が認められた。

2. FCMによる各病型の細胞表面抗原解析

各病型の表面抗原の解析結果を示す(Figure 2, 3)。APL・M3v・M4・M4Eoの4病型で各抗原の陽性率の中央値を比較した(Figure 2)。骨髄系マーカーであるCD13,CD33は4つの病型のほぼ全症例で陽性を示し,その陽性率(中央値)は高値であった。APLの典型例ではCD34やHLA-DRがほとんど陰性となるが,今回の結果でも両者の陽性率は20%未満であった。CD2抗原において,中央値が20%以上を超えるのは4病型のうちM3vとM4Eoのみであった。次に一部の表面抗原について,全症例あたりの陽性症例数の割合を病型ごとに算出した(Figure 3)。APL全症例でCD2は陰性であったのに対し,M3vでは4/5症例(80%)で陽性を呈した。また,M3vではCD34の陽性率が80%と高値であった。M4・M4Eo症例のほとんどで,CD34やCD117陽性の芽球様形質を示す細胞集団と,CD34陰性~弱陽性,CD4ないしCD14陽性の単球系細胞集団が存在していた。M4症例におけるCD2陽性率は,芽球・単球Gate両者ともに20%未満であった。しかしながらM4Eo症例において2集団の一方または両方の集団でCD2の発現が認められたケースは合計8/10症例(80%)であった。さらにFigure 2, 3に示したデータに加え,今回対象とした4病型を含めM0~M5に分類されたAML全118症例について,CD2発現の有無を検索した。M3vとM4Eoは,他病型と比較しCD2陽性率が有意に高値であった(p < 0.001)。M3vとM4Eo間ではCD2陽性率に有意な差は認められなかった。

Figure 2 4病型における表面抗原発現比較

各症例における表面抗原陽性率(中央値)を示す。

Figure 3 4病型におけるCD2/CD34/CD14陽性率

4病型ごとの全症例に対する陽性症例の割合を示す。

3. RT-PCR法・G-Band法・FISH法による遺伝子・染色体検査

APL,M3v全症例でRT-PCR法,G-band法においてPML-RARA mRNAおよびt(15;17)が認められ,FISH法においてもPML-RARAキメラ遺伝子が検出された。M4症例における染色体検査では正常核型が6例,その他の症例では複雑核型やt(9;11)などが認められたが,症例間で共通した染色体異常・遺伝子異常は認められなかった。M4Eoは全例でCBFB-MYH11 mRNA,inv(16)が検出されたことから,確定診断に至った。

4. 異常好酸球の増加を認めなかったM4Eoの1症例について

FAB分類では,異常顆粒を有する好酸球を5%以上認めるものをAML M4Eoと定義しているが5),今回我々が対象とした症例のうち2症例は骨髄像でその基準を満たさなかった。この2症例は形態所見のみでAML M4Eoを推測することが困難であった。以下にM4Eoの診断に苦慮した症例1例を示す。

症例・臨床経過

【患者】10代,男性。

【主訴】健康診断にて白血球数の増多を指摘され近医を受診。採血で末梢血に異常細胞を認め,急性白血病疑いで精査加療目的に当院血液内科へ紹介となった。

【既往歴】小児喘息(服薬無し)。

【身体所見】

腹部:肝・脾を触知する。

頸部・腋窩・鼠径に10 mm大のリンパ節を触知する。

【末梢血および骨髄像所見】

末梢血液検査で白血球数32.6 × 109/Lと異常高値,血液像で単球様の大型細胞を含めた芽球様細胞を62.0%認めた(Table 2)。骨髄検査において有核細胞数19.6万/μL,巨核球数11/μLであり,やや過形成な骨髄であった。核形は類円形でN/C比の高い芽球様細胞を35.6%,また核に湾曲や陥凹が見られる単球系幼若細胞を28.8%認めた(Figure 4A, B)。異常顆粒を有する好酸球はわずかに見られたものの,カウント中の比率は2.8%と明らかな増多は認められなかった(Figure 4C)。しかしながら表面抗原解析では単球系細胞集団において,CD2陽性の集団が20%程度認められた(Figure 5)。このことからCBFB-MYH11の存在が示唆され,PCR・染色体検査が追加された。後日,RT-PCR法・G-Band法でCBFB-MYH11mRNAおよびinv(16)が検出されたことから,AML M4Eoの診断となり治療が開始された。

Table 2  末梢血検査所見(M4Eo症例1)
血液 生化学 凝固
WBC 32.6 × 109/L TP 8.3 g/dL PT 15.7 s
RBC 1.95 × 1012/L ALB 4.0 g/dL PT(%) 53.6%
Hb 6.6 g/dL ALP 176 U/L PT-INR 1.3
Ht 20.0% AST 12 U/L APTT 40.1 s
PLT 54 × 109/L ALT 10 U/L FIB 332 mg/dL
LD 320 U/L AT3 105%
Seg 0.0% UN 13.2 mg/dL
Stab 0.0% Cre 1.0 mg/dL
Lymph 30.0% CRP 0.59 mg/dL
Mono 6.0% Lysozyme 105.5 μg/mL
Eosino 1.0%
Meta 1.0%
Erythro 1.0%
Blast 62.0%
Figure 4 M4Eo症例1 骨髄塗抹標本中の異常細胞(100×)
Figure 5 M4Eo症例1 骨髄FCM解析結果

IV  考察

今回我々は,APLの中でも特徴的なアズール顆粒の増加を認めないM3vや,明らかな異常好酸球の増多を認めないM4Eo症例が他病型AMLと形態的に判別困難な場合があることから,その鑑別にCD2が有用であるかを検討した。この2つの病型は特徴的な染色体異常を有しており,確定診断後の患者の治療方針や予後が異なるため,他病型との鑑別が重要となる。汎T細胞抗原であるCD2は通常の骨髄系・単球系細胞では発現しないマーカーであるが,M3vおよびM4Eo症例で異常発現を示すことが以前より報告されている3),4)

先述した結果の通り,M3vおよびM4EoのCD2陽性率は,上記2病型を除いた他病型AMLと比較し有意に高かった。APLでは異常な前骨髄球様細胞が増殖するため,一般的に幹細胞関連マーカーのCD34やHLA-DRは陰性,汎骨髄球系マーカーであるCD13やCD33が陽性となる。また,細胞化学的特徴としてMPO染色も強陽性である。一方,亜型のM3vではCD2やCD34の陽性率が高く,APL症例との有意差が認められた(p < 0.05)。これよりM3vでは,典型的APLで見られる細胞よりも未熟な分化段階の細胞が増殖していることが予想される。M4Eo症例ではCD34陽性の未熟な芽球細胞集団,もしくはCD14陽性で単球系の成熟傾向を示す細胞においてCD2が共発現している症例が認められた。M4症例では骨髄系と単球系に分化した幼若細胞が増加するにも関わらず,CD2+CD34+またはCD2+CD14+の細胞集団の陽性率は20%未満であった。よってM4Eo症例はCD2発現という特徴を有しながら,骨髄系あるいは単球系に分化する異常細胞が増殖していると考えられる。Adriaansenら4)が実施したM4Eo患者8名に対する白血病細胞の表面抗原の研究においても,CD2の発現が認められた症例の中で未成熟な芽球細胞(CD34+)および成熟傾向のある単球系細胞(CD14+)の両方で認められたとの報告がある。この異常所見は骨髄系・単球系どちらかのみではなく,それぞれの系統で認められることから,M4Eoの白血病細胞はCD2を発現し,比較的分化の初期段階で遺伝子に変異が生じ,そこから単球に分化する細胞集団と,好中球系に分化する集団に分岐していることが考えられる。

全ての血液細胞は骨髄中の造血幹細胞(hematopoetic stem cell; HSC)に由来し,自己複製能と多分化能を有する。従来の血液細胞の分化経路モデルでは,HSCが分裂し自己複製能を失った多能性前駆細胞(multipotent progenitor; MPP)が骨髄系共通前駆細胞(common myeloid progenitor; CMP)とリンパ系共通前駆細胞(common lymphoid progenitor; CLP)に分岐すると考えられていた。しかし,単一細胞解析をもとにした近年の研究により,MPPの一部は主リンパ系多能性幹細胞(lymphoid-primed multipotent progenitor; LMPP)を経て骨髄系前駆細胞(myeloid progenitor; MyeP)とリンパ系共通前駆細胞(common lymphoid progenitor; CLP)に枝分かれし,最終的にリンパ球や好中球・単球へと分化することが分かっている(Figure 66)。これを元に今回の結果を考察すると,M3v・M4Eoの白血病細胞はMPP/LMPPと称される前駆細胞の段階で染色体異常が生じPML-RARA/CBFB-MYH11キメラ遺伝子が形成され,その後分化した血液細胞の形質に影響が生じた可能性がある。

Figure 6 血液細胞の系統分化モデル

HSC:hematopoietic stem cell 造血幹細胞。

MPP:multipotent progenitor 多能性幹細胞。

LMPP:lymphoid-primed multipotent progenitor 主リンパ系多能前駆細胞。

MEP:megakaryocyte-erythroid progenitor 巨核球赤芽球前駆細胞。

EoMP:eosinophil-basophil-mast cell progenitor 好酸球・好塩基球・肥満細胞共通前駆細胞。

MyeP:myeloid progenitor 骨髄系前駆細胞。

CLP:common lymphoid progenitor リンパ系共通前駆細胞。

図に示した系統モデル上,微細顆粒型APL/M4Eoの特徴を示す異常細胞が生じる可能性のあるポイントは星印で示される。この分化段階でPML-RARA/CBFB-MYH11キメラ遺伝子が形成されたことで,T細胞関連遺伝子に変異が起こった結果CD2の異常発現が生じたと考えられる。

Chapiroら7)はAPL症例の芽球において,Tリンパ芽球性白血病(以下,T-ALL)や正常Tリンパ球の成熟分化において認められるT系統関連因子の働きを詳細に分析した。その研究でも同様に,M3vでCD2やCD34の発現がAPLと比較し高値だった。T-ALLではTCR再構成により一部の転写産物の発現が増加するが,T-ALLで認められる転写産物が微細顆粒型APL症例でも同レベルの高い発現が見られ,M3症例と比較し有意に高値だった。ただしM3vではT-ALLと異なる遺伝子の発現パターンを示しており,CD7やCD5といったCD2以外のT細胞マーカーの発現に関連性は認められなかった。このことから,M3vの芽球は骨髄系への分化傾向を有していながら,通常のプロセスとは異なる過程を経てT細胞への分化過程を示していることが判明している。CD2遺伝子座は微細顆粒型APLの芽球のオープンクロマチン領域に存在していることが知られているが7),骨髄/リンパ系両方への分化傾向を有する前駆細胞の形質転換によって,汎T細胞抗原であるCD2の異常発現を反映していると考えられた。

CBFB-MYH11を伴うAMLはCBF(Core Binding Factor)白血病と称されるが,CBFB遺伝子はCBF転写因子複合体の非DNA結合サブユニット(CBFβ)をコードしている。CBFβはαサブユニットの1つであるRUNX1と二量体を形成し,転写因子複合体となる。RUNX1の機能発現はCBFβの存在に依存しており,この複合体形成によって造血関連遺伝子群を制御し,造血幹細胞の発生や巨核球・リンパ球の分化成熟に重要な役割を果たしている8)CBFβ-MYH11融合蛋白はRUNX1/CBFβの作用を抑制するほか,造血細胞の生存維持や自己再生に関わる一部の遺伝子群の転写を活性化する。RUNX1の標的遺伝子には,TCRやCD2・CD3といったリンパ系関連分子も含まれているため9)CBFB-MYH11キメラ遺伝子の形成によってT細胞関連遺伝子群への転写抑制または活性化の影響を受けた結果,M4Eo症例におけるCD2抗原の異常発現が認められたのではないかと考えられた。

APLのほぼ全症例で染色体相互転座t(15;17)(q22;q12):PML-RARAキメラ遺伝子を認めるが,このキメラ遺伝子産物は組織因子の発現を増強し,凝固カスケードを活性化する。また,APL細胞はS100A10/アネキシンII膜蛋白質を表面に発現しており,これらはプラスミノゲンと組織プラスミノゲン活性化因子と親和性が高いことから,細胞表面で効率よくプラスミン産生を触媒し,線溶系を活性化させる10)。これにより線溶亢進型の播種性血管内凝固症候群(DIC)を高率に併発することが知られており,現在のAPL治療においても治療前・治療初期の臓器出血による早期死亡は大きな課題となっている10)。APLの標準治療には分子標的薬の全トランスレチノイン酸(all-trans retinoic acid; ATRA)が用いられており,亜ヒ酸(arsenic trioxide; ATO)を用いれば高い再寛解が得られる。この二つの治療薬の登場によりAPLの治療成績は格段に向上している。標準治療となるATRAと化学療法の併用は,70歳未満を対象とした治療成績は完全寛解率90%以上,10年無病生存率も約70%であり,他のAMLに比較し最も予後良好な病型である10)。強い出血傾向を特徴とするAPLの中でも,特にM3vは形態診断が困難なためFISH法・RT-PCR法でのPML-RARA検出が必須であり,早期の診断・治療開始は患者の予後に大きく影響する。

CBFB-MYH11を伴うAMLは,シタラビン大量療法による地固め療法を行うことで長期の無病生存が得られることが知られており,一般的に予後良好とされている11)。しかしながら,遺伝子異常を有していても異常好酸球の著明な増加を認めない症例も少なからず存在し,今回対象としたM4Eo症例でも2/10症例は骨髄中に明らかな異常好酸球の増加が見られなかった。また,単球系白血病では一般的にEST染色も追加実施されることが多い。一般的にAML M4に分類される白血病では顆粒球系・単球系への分化傾向を示す細胞が増加し,顆粒球系細胞は特異的EST染色で青色に,単球系細胞は非特異的EST染色で茶褐色陽性・フッ化Na阻害試験で陰性となる。しかしながらEST染色では,細胞の形態的特徴やFCMの表面マーカー検査と染色性が一致しない症例が報告されている12)。単球系白血病の10%程度が非特異的EST染色陰性であり,中には特異的・非特異的EST染色両方が陽性となる二重陽性細胞の存在も認められる12)。以上のように,非典型的な染色態度を示した症例や好酸球の増多を認めない単球系白血病に遭遇した場合,鏡検像からはその病型を予測することが極めて困難であるが,CD2抗原の有無を調べることで早期の病型推測が可能となり,確定診断となる遺伝子検査の追加を臨床側に提案することができるのではないかと期待される。

染色体検査をはじめとした遺伝子検査は設備やコストの関係上,多くの施設では外部委託されており,検査結果が出るまで数日~1週間程度を要する。そのため確定診断の遅延やそれに伴う患者の予後への影響が懸念され,APLのように強い出血傾向を伴う病型においては診断結果を待てずにATRA療法を開始するケースも見受けられる。しかし,今回の研究でM3vとM4EoにおけるCD2抗原の有用性が検証できた。形態学的所見では推測が困難であってもCD2抗原探索を実施し臨床へ情報提供を行うことで,患者の予後に貢献できるのではないかと考えられた。

V  結語

FCMによるCD2抗原の発現探索は,形態学的所見による推測が困難なPML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病(microgranular type)およびCBFB-MYH11を伴うAMLにおいて,それらの病型を示唆する有用な指標となることが示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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