医学検査
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資料
当院輸血部での臨床検査技師による成分採血への取り組みについて―タスク・シフト/シェアによる臨床検査技師の診療貢献―
浅野 栄太細野 裕未奈日比 由佳大橋 葉津希佐藤 弦士朗菊地 良介中村 信彦清水 雅仁
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2023 年 72 巻 4 号 p. 583-587

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Abstract

成分採血(アフェレーシス)は,患者もしくは健常人ドナーから血液を成分採血装置へと取り込み,血液成分に分離した後,必要とされる血液成分のみを採取する採血方法のひとつとして行われている。これまで臨床検査技師は,成分採血業務に関わることはほとんどなく,その後の細胞調製業務や細胞の保管業務を中心とした業務をするにとどまっていたが,法改正によって臨床検査技師が多様な業務を実施することが可能になった。当院では,2007年1月より臨床検査技師が成分採血装置の操作を行っており,その経験から今後,臨床検査技師が成分採血業務に対してどのように関わっていくべきであるかを考えた。拘束時間や患者経過観察などの面から成分採血業務は臨床検査技師が大きく診療への貢献ができる分野であると考えられるが,反面,患者への侵襲を大きく伴うため,実施には細心の注意が必要であり,十分な訓練が必要と考える。

Translated Abstract

Apheresis is a blood collection method used in Japan in which blood from a patient or healthy donor is drawn into a blood collection device, separated into its components, and then only the necessary blood components are collected. Until now, medical technologists (MTs) have rarely been involved in the apheresis collection process but have focused on the subsequent cell preparation and storage of cells. Task shifting/sharing has enabled biomedical laboratory scientists to perform various tasks. At our hospital, MTs have been operating the apheresis collection device since January 2007, and on the basis of this experience, we considered how MTs should be involved in apheresis collection duties in the future. However, apheresis also involves many invasive procedures on patients; therefore, sufficient training is required and it is necessary to be extremely careful when performing these procedures.

I  緒言

成分採血(アフェレーシス)とは,患者もしくは健常人ドナーから血液を成分採血装置へと取り込み,血液成分に分離した後,必要とされる血液成分のみを採取する採血方法である。本邦の病院における成分採血として,末梢血幹細胞採取や顆粒球採取,骨髄濃縮などの移植・細胞治療に関わる業務が広く行われている。

これまで臨床検査技師は,成分採血業務に関わることはほとんどなく,細胞採取後の細胞調製や細胞の保管を中心とした業務をするにとどまっていた。

2021年10月,臨床検査技師等に関する法律が改正されたことにより,臨床検査技師が行うことができる業務の拡大が行われた。成分採血に関わる業務として,採血を行う際に静脈路を確保し,血液成分採血装置を接続する行為,当該血液成分採血装置を操作する行為,血液成分採血装置の操作が終了した後に抜針及び止血を行う行為が可能となった。

当院では,2007年1月より臨床検査技師が成分採血装置の操作を行っており,その経験から今後臨床検査技師が成分採血業務に対してどのように関わっていくべきであるかを考えたので報告する。

II  タスク・シフトと臨床検査技師

医療が高度化,複雑化する中,各医療専門職種が疲弊することなく,それぞれが有する本来の専門性を発揮して,効率的で安心・安全な医療提供体制の構築が求められている。具現化へ向けての重要な課題の一つである,長時間労働が常態化している医師の働き方の是正のために,令和6(2024)年4月から罰則付きで時間外労働の上限規制が適用される1)

その問題に対して厚生労働省医政局が行ったヒアリングにおいて,タスク・シフト/シェア可能な業務として挙げられた項目から,具体的なタスク・シフト/シェアを推進する業務について,「現行制度の下で実施可能な業務」と「現行制度で実施可能か明確に示されていない業務」,「現行制度では実施できない業務(実施するためには法令改正が必要な業務)」の3つに分けて検討が行われた。

議論の結果,臨床検査技師等に関する法律が令和3(2021)年7月9日に改正政令・省令等が発出され令和3(2021)年10月1日からの施行となり,臨床検査技師の業務範囲が拡大されることとなった。

業務内容は現行制度の下で臨床検査技師が実施可能なものが14項目,制度改正後に実施可能となる項目が検体採取関連で2項目,生理機能検査で4項目,静脈路確保関連で4項目となっている。

III  当院輸血部での成分採血業務開始の背景

当院輸血部では2006年まで成分採血装置の操作は臨床工学技士により行われてきた。しかしながら,臨床工学技士の業務が多忙を極め,成分採血装置の操作業務を行うことが非常に難しくなった。そのような状況を考慮して,2007年より輸血部の臨床検査技師による成分採血装置COBE Spectra®(TERUMO BCT株式会社)の操作を行う運用を開始した。現在は後継機であるSpectra Optia®(TERUMO BCT株式会社)を使用して成分採血業務を行っている。運用開始より成分採血装置を使用した患者数および実施件数の推移としては,多少の増減は認められるものの年々増加傾向にあると考えられる(Figure 1)。

Figure 1 The transition of Apheresis collection services in our hospital

Number of patients and procedures of Apheresis collection services in Gifu University Hospital (2007–2021).

Filled bars = number of procedures. Hatched bars = number of patients.

成分採血装置を使用する当院での業務としては末梢血幹細胞採取を主に行っており,そのほかに顆粒球採取,骨髄濃縮,キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法用のリンパ球採取などを行っている。

IV  当院輸血部での成分採血業務の流れ

当院では,アフェレーシスの予定が決定すると主治医より輸血部へと連絡が行われる。連絡を受けた輸血部臨床検査技師は当日担当する看護師(外来業務担当)に日時の報告をする。アフェレーシスの前日までに担当看護師より患者へ注意事項などの説明が行われる。

アフェレーシス当日は,患者に病棟から輸血部が管理する成分採血室に来室していただき,成分採血を行う(Figure 2)。成分採血装置の起動から接続直前の準備までは患者が到着するまでに臨床検査技師があらかじめ行っておく。患者のルート確保については医師が行い,末梢からの確保が基本となっているが,末梢からのルート確保が困難である場合には,病棟で前日にブラッドアクセス用留置カテーテル(バスキャスカテーテル)を鼠径部静脈に挿入し,そこから脱返血を行う2)。ルートへの接続は医師が行い,接続が完了した段階で臨床検査技師が成分採血装置の処理を開始する。十分な採血圧を確保でき,安定したインターフェイスの形成が確認できたら医師は他業務のためにその場を離れることができる。その際は院内で連絡のつく場所におり,呼び出しに対応ができることを条件としている。その後はバイタルチェックと経過観察を看護師が,成分採血装置の操作を臨床検査技師がそれぞれ行っていく。

Figure 2 Component blood collection rooms in our hospital

Front: Biomedical Laboratory Scientist (Author).

At the back: Nurse.

処理が完了した後,医師に連絡しルートから成分採血装置の取り外しを行っていただく。ルートの処理が完了し次第,患者は病棟へと帰っていただく。臨床検査技師は成分採血装置の片づけ,シャットダウンを行った後,細胞調製業務へと移っていく。細胞調製業務に関しては当初から臨床検査技師が行っている。

V  当院輸血部でのタスク・シフト後の成分採血業務について

法律の改正によって静脈路の確保や終了時の抜針止血が可能となるが,当面の間は現在の運用を続けていく予定である。臨床検査技師が不慣れな状態で作業を行い,十分な脱血が得られなかった場合のリスクや患者の安全面を考慮した結果である。当院で成分採血を行う患者は末梢からの静脈路確保が難しく,大腿静脈にバスキャスカテーテルを挿入される患者が多いため,両腕の末梢静脈路確保の機会がすくない傾向にあり手技の習得にはかなりの時間がかかると予想されるが,積極的に取り組んでいきたいと考えている。

今後の展望として医師や看護師から末梢静脈路確保,患者異変時の観察ポイントなどの指導下において手技の習熟を目指し,最終的には末梢静脈路の確保から成分採血装置の接続,処理後の装置の取り外し,抜針及び止血の一連の作業を,臨床検査技師が最後まで一貫して行うことを目標としている。

VI  考察

我が国の医療は,医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており,危機的な状況にあることから,医師の働き方改革についての議論が積み重ねられてきた1)。一方,医師の業務については,日進月歩の医療技術への対応や,より質の高い医療やきめ細かな患者への対応に対するニーズの高まり等により,より高度な業務が求められてくるとともに,書類作成等の事務的な業務についても増加の一途をたどっている1)。このような状況を打破し,医師の労働時間を短縮するためには,医師の業務のうち,他の職種に移管可能な業務について,タスク・シフト/シェアを早急に進めていく必要があった。タスク・シフト/シェアを進めるに当たっては,医療安全の確保及び現行の資格法における職種毎の専門性を前提として,個人の能力や取り巻く環境,医師との信頼関係を踏まえることが重要である1)

その議論に先立って臨床検査技師等に関する法律の一部が改正され,平成27年4月より検体採取と嗅覚検査,味覚検査の業務が臨床検査技師の業務として新たに認められた。この業務拡大も広義の意味でのタスクシェアと考えられ,臨床検査技師は早期からこの問題に関して取り組んできたといえる。

その後臨床検査技師等に関する法律が再度改正され,臨床検査技師の業務は更に拡大された。内容としては現行制度の下で臨床検査技師が実施可能なものが14項目,法改正後に実施可能となった項目が10項目となっている。

これらの業務が臨床検査技師へと浸透し,問題なくできるようになるまではかなりの時間がかかると考えられる。特に成分採血装置の操作は患者に対して体外循環を行うという非常に侵襲性の高い行為となる。各医療機関で臨床検査技師が操作を習得する際は,十分なトレーニングが必要であるというのは言うまでもないだろう。また,トレーニングを終え実際に患者への接続や装置管理を行う際には,経験豊富な担当者に指導を受けながら患者の状態を逐次確認する必要がある。成分採血業務に関連して起こる患者症状として穿刺時の血管迷走神経反応や血管痛,体内へACD-A液(クエン酸)が多量に入ることから引き起こされる低カルシウム血症(テタニー)などがある2)~4)。また,幹細胞動員のためのG-CSFの投与によって嘔気が見られることがある点にも注意が必要である5)。まれな例ではあるが採取中の患者が低リン血症を発症したとの報告もあった6)。これらに対して適切な対応を行わなければ,患者への影響があることはもちろんであるが,成分採血業務自体が滞り職員たちの業務時間にも影響がでてしまう。これではタスク・シフト/シェアの本来の目的から大きく後退してしまう。

今回の成分採血装置の操作に代表される静脈路確保関連の業務では,患者への侵襲を伴い,業務の習熟に対して細心の注意を払う必要があるため,拡大業務への参入に慎重になることが懸念される。まずは成分採血装置の準備から行うなど,少しずつ業務へと関わっていき,業務の全容を掴みながら症例数を経験していくことが重要なのではないかと考えられる。そしてその経験の積み重ねから成分採血業務への本格参入を見据えていくのが,時間はかかるが結果として安全面での一番の近道なのではないのかと考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2023 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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