医学検査
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原著
深部静脈血栓症における血栓残存のリスク因子の検討
高森 稔弘足立 良行河村 浩二市川 ひとみ本倉 徹
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2024 年 73 巻 1 号 p. 9-17

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Abstract

深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)とは静脈に血栓形成が生じる疾患であり,稀な疾患ではなくなっているが,血栓残存リスクに関しては,十分に検討されておらず,報告はほとんど存在しない。今回われわれはDVTにおける血栓残存のリスク因子を解析し,血栓の予後予測が可能か検討した。対象は血栓症が超音波検査にて指摘され,その後再び超音波検査で血栓の有無を確認した114症例。対象の患者背景,超音波検査関連,血栓発症リスク因子ならびに血栓発症リスクスコアを後方視的に集積し,血栓残存群と血栓消失群の2群に分類しデータを比較した。多変量解析を用いて比較したところ,有意な項目は,全症例では,性別,年齢,治療の有無,検査間隔,治療症例のみでは,検査間隔と血栓発症リスクスコア,非治療症例のみでは,年齢であった。血栓発症リスクスコアが高い症例で有意に血栓が残存し,血栓発症リスクスコアが血栓残存の推測にも有用であることが示された。この血栓発症リスクスコアの項目のうち臥床状態に有意差を認めた。血栓の退縮を認めた症例群では有意にサルコペニアが少なく,腓腹筋が有意に厚いと報告されている。よって,臥床状態はサルコペニア等による筋力低下を進行させることによる血栓残存リスク因子と考えられる。また,高齢者で有意に血栓が残存したことも同様に腓腹筋の筋量に影響したと推測される。今回の検討で血栓残存の予後予測ができることが示唆された。

Translated Abstract

Deep vein thrombosis (DVT), which is no longer rare, is a disease in which a thrombus forms in veins. However, the risk factors for residual thrombus have not been fully investigated nor reported. In this study, we analyzed the risk factors for residual thrombus in patients with DVT and investigated whether the prognosis of thrombus can be predicted. The subjects were 114 patients in whom thrombosis was found by ultrasonography, and the thrombus was monitored by a second ultrasonography. We retrospectively collected patient characteristics, ultrasonography-related information, and thrombosis risk factors and scores. The patients were classified into two groups, namely, those with residual thrombus and those with thrombus disappearance, and then compared. Among all the patients, gender, age, treatment, and examination interval were found significant by multivariate analysis. Regarding patients who received treatment, there was a significant difference in examination interval and thrombosis risk score as determined by multivariate analysis. For those with no treatment, there was a significant difference in age as determined by multivariate analyses. Thrombus remained significant in patients with a high thrombosis risk score, showing that the thrombosis risk score is also useful for predicting residual thrombus. Of the thrombosis risk score items, there was a significant difference in bedridden state. Patients with thrombus retraction are reported to have significantly less severe sarcopenia and significantly thicker gastrocnemius muscles. Thus, a bedridden state should lead to muscle weakness due to sarcopenia and may be a risk factor for residual thrombus. In addition, it is presumed that the significant residual thrombus in the elderly is also related to the thickness of the gastrocnemius muscles. The present study indicated the possibility of predicting the prognosis of residual thrombus.

I  はじめに

深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)とは静脈に何らかの原因により血栓形成が生じ,静脈が閉塞する疾患であり,その重篤な合併症として肺塞栓症(pulmonary embolism; PE)が挙げられる。DVTの患者数は近年,高齢化社会,食生活の欧米化など様々な要因で増加し,稀な疾患ではなくなっている1)

血栓形成の主な要因はVirchowの三因子として血液凝固亢進,静脈うっ滞,静脈損傷が知られている2)。血栓発症のリスク因子に関しては明確にガイドライン3)に掲載され,D-ダイマーとの関連性4)や肺塞栓の危険性が指摘されている。また,直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants; DOAC)の治療効果の比較検討5)~8)は数多く報告されている。長期の抗凝固療法はDVTの再発予防に非常に効果的であるが,治療法の最適期間が依然として不明である9)。その理由としてDVT発症の原因や因子は数多く検討されているが,DVTの血栓残存リスク因子が十分にされていないことが挙げられ,関連する報告はほとんど存在しない。

そこで,今回われわれはDVTにおける血栓残存リスク因子を解析し,血栓の予後予測が可能か検討した。

II  対象・方法

対象は2019年1月1日~2019年12月31日に血栓症が超音波検査にて指摘され,その後再び超音波検査で血栓の有無を確認した114症例。使用した超音波装置はAplio MX(キヤノンメディカルシステムズ株式会社),ARIETTA 70(富士フイルムヘルスケア株式会社)。方法は,カルテから①患者背景(性別,年齢,BMI,喫煙歴,血液型,抗凝固療法の有無),②超音波検査関連(血栓性状,血栓部位,血栓径,血栓径%,検査間隔),③血栓発症リスク因子ならびに血栓発症リスクスコア6)を後方視的に集積し,血栓残存した症例(血栓残存群)と血栓が完全に消失した症例(血栓消失群)の2群に分類しデータを比較した。今回の検討では,検査初回とその後の超音波検査の検査間隔が7日未満の症例は除外した。

血栓の性状は静脈径の拡張を認め血栓輝度が低く,静脈圧迫法で血管径に変化を認めないものを急性期血栓,血栓輝度が高く静脈圧迫法で血管径の変化を伴うものを慢性期血栓とした。血栓部位は膝窩静脈より中枢側に血栓中枢端を認めるものを中枢型,下腿に限局した血栓を末梢型とした。血栓径は血栓の短軸断面で最大径を計測し,血栓径%は血栓径/血管径 × 100とした。血栓発症リスクスコアは,Kearonら6)が提唱したガイドラインを用いた。ただし,今回の検討では,「臥床状態reduced mobility」を,「検査室にベッドで出棟もしくは病棟で検査した」に変更した。また,肥満(Obesity)の定義(body mass index (BMI) > 30)をBMI > 25に,一部改変して用いた(Table 1)。

Table 1 血栓発症リスクスコア

リスク因子 定義 スコア
活動性癌
(Active cancer)
転移のある患者および/または化学療法を受けている患者 3
VTEの既往
(Previous VTE)
有無 3
臥床状態*1
(Reduced mobility)
検査室にベッドで出棟もしくは出棟困難で病棟で検査したに変更 3
血栓性素因
(Already known thronbophilic condition)
アンチトロンビン欠乏症,プロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症,抗リン脂質抗体症候群,凝固因子Vライデン変異,G20210Aプロトロンビン変異 3
手術の有無
(Surgery)
1カ月以内の手術の有無 2
高齢者
(Older age)
70歳以上 1
心不全,呼吸不全
(Heart and/or respiratory failure)
有無 1
急性心筋梗塞,虚血性脳卒中
(Acute myocardial infarction or ischemic stroke)
有無 1
急性感染症,リウマチ性疾患
(Acute infection and/or rheumatologic disorder)
有無 1
肥満*2
(Obesity)
BMI > 25 1
ホルモン治療
(Ongoing hormonal treatment)
有無 1

VTE, venous thromboembolism; BMI, body mass index.

*1原著では直近3日以上のベッド上安静

*2原著ではBMI > 30

統計解析にはEZR10)を使用し,Fisherの正確確率検定(両側検定),もしくは,Mann–Whitney検定を用いて単項目で血栓消失群と血栓残存群を比較した後に,ロジスティック多因子解析を行った。P < 0.05の場合に統計学的に有意とした。

なお,本研究は鳥取大学医学部倫理審査の承認を得て行った(承認番号21A119)。

III  結果

1. 全症例における結果

114症例のうち血栓消失した症例は42例,血栓が残存した症例は72例であった。単変量解析で有意な項目は治療の有無であった。多変量解析で有意な項目は性別,年齢,治療の有無,検査間隔であり,血栓残存群では女性,年齢が高い,検査間隔が短い,治療を行っていない症例が多かった(Table 2)。

Table 2 全症例における血栓消失群と血栓残存群の比較

全症例 血栓消失 血栓残存 単変量解析
p value
多変量解析
p value
①患者背景 性別 74 23 51 0.104 0.0458
40 19 21
年齢 74 71 75 0.0542 0.0436
(19–91) (19–89) (28–91)
BMI 21.8 21.9 21.7 0.296
(13.1–36.5) (15.5–36.5) (13.1–30.8)
喫煙歴 77 27 50 0.679
37 15 22
血液型 O型 23 9 14 0.813
O型以外 91 33 58
治療 37 7 30 0.00696 0.00774
77 35 42
②超音波
検査関連
血栓性状 急性期 10 3 7 0.743
慢性期 104 39 65
血栓部位 中枢型 25 12 13 0.242
末梢型 89 30 59
血栓径 6.4 6.1 6.6 0.835
(2.2–13.9) (2.2–11.8) (2.5–13.9)
血栓径% 70.1 73.5 69.3 0.615
(10.3–100) (10.3–100) (28.6–100)
検査間隔 26 37 21 0.0799 0.0243
(7–308) (7–308) (7–282)
③血栓発症リスク因子 活動性癌 80 29 51 0.835
34 13 21
VTEの既往 108 39 69 0.668
6 3 3
臥床状態 90 36 54 0.235
24 6 18
手術の有無 92 38 54 0.051 0.163
22 4 18
高齢者 49 22 27 0.17
65 20 45
心不全
呼吸不全
91 35 56 0.63
23 7 16
急性心筋梗塞
虚血性脳卒中
104 38 66 1
10 4 6
急性感染症
リウマチ性疾患
110 40 70 0.625
4 2 2
肥満 95 35 60 1
19 7 12
血栓発症
リスクスコア
3 3 3 0.106 0.139
(0–9) (0–6) (0–9)

VTE, venous thromboembolism; BMI, body mass index.

中央値(範囲)で記載

血栓消失群では男性,年齢が低い,検査間隔の長い,治療を行った症例が多かった。

2. 抗凝固療法を行った治療症例と非治療症例を比較

抗凝固療法を行った治療症例と非治療症例を比較したところ,中枢に血栓がある症例や血栓径(%)が高い症例で多く治療されていた(Table 3)。使用された抗凝固薬の内訳はDOAC 71例(リクシアナ65例,イグザレルト3例,エリキュース3例),ワーファリン4例,ヘパリン1例であった。

Table 3 全症例における治療症例と非治療症例

全症例 治療症例 非治療症例 単変量解析
p value
①患者背景 性別 74 52 23 0.68
40 26 14
年齢 74 72 75 0.436
(19–91) (19–90) (28–91)
BMI 21.8 22.2 21.4 0.0767
(13.1–36.5) (15.0–36.5) (13.1–27.4)
喫煙歴 77 51 26 0.831
37 26 11
血液型 O型 23 14 9 0.463
O型以外 91 63 28
②超音波
検査関連
血栓性状 急性期 10 9 1 0.163
慢性期 104 68 36
血栓部位 中枢型 25 22 3 0.0152
末梢型 89 55 34
血栓径 6.4 6.8 5.7 0.141
(2.2–13.9) (2.5–13.9) (2.2–11.4)
血栓径% 70.1 72.4 66.7 0.0265
(10.3–100) (10.3–100) (28.6–98.2)
検査間隔 26 26 21 0.652
(7–308) (7–308) (7–224)
③血栓発症
リスク因子
活動性癌 80 51 29 0.199
34 26 8
VTEの既往 108 72 36 0.662
6 5 1
臥床状態 90 59 31 0.467
24 18 6
手術の有無 92 64 28 0.447
22 13 9
高齢者 49 34 15 0.84
65 43 22
心不全
呼吸不全
91 61 30 1
23 16 7
急性心筋梗塞
虚血性脳卒中
110 73 37 0.302
4 4 0
急性感染症
リウマチ性疾患
104 70 34 1
10 7 3
肥満 95 63 32 0.602
19 14 5
血栓発症
リスクスコア
3 3 3 0.256
(0–9) (0–9) (0–8)

VTE, venous thromboembolism; BMI, body mass index.

中央値(範囲)で記載。

3. 抗凝固療法を行った治療症例の結果

単変量解析で有意な項目は,臥床状態,血栓発症リスクスコアであった。多変量解析で有意な項目は,検査間隔と血栓発症リスクスコアであり,血栓残存群では臥床状態と,血栓発症リスクスコアが高い症例が多かった(Table 4)。

Table 4 治療症例における血栓消失群と血栓残存群の比較

治療症例 血栓消失 血栓残存 単変量解析
p value
多変量解析
p value
①患者背景 性別 50 21 29 0.344
26 14 12
年齢 72 71 72 0.462
(19–90) (19–89) (47–90)
BMI 22.1 22 22.2 0.584
(15–36.5) (15.5–36.5) (15.0–30.1)
喫煙歴 50 23 27 1
26 12 14
血液型 O型 14 8 6 0.389
O型以外 62 27 35
治療 DOAC 67 32 35 0.494
その他 9 3 6
②超音波
検査関連
血栓性状 急性期 9 2 7 0.1666
慢性期 67 33 34
血栓部位 中枢型 22 11 11 0.8
末梢型 54 24 30
血栓径 6.75 6.5 6.8 0.782
(2.5–13.9) (2.6–11.8) (2.5–13.9)
血栓径% 73.5 74.5 71.7 0.577
(10.3–100) (10.3–100) (33.5–100)
検査間隔 26.5 49 21 0.0571 0.0218
(7–308) (7–308) (7–282)
③血栓発症
リスク因子
活動性癌 50 24 26 0.809
26 11 15
VTEの既往 71 32 39 0.657
5 3 2
臥床状態 58 32 26 0.00603
18 3 15
手術の有無 64 31 33 0.367
12 4 8
高齢者 33 18 15 0.248
43 17 26
心不全
呼吸不全
61 29 32 0.774
15 6 9
急性心筋梗塞
虚血性脳卒中
72 33 39 1
4 2 2
急性感染症
リウマチ性疾患
69 32 37 1
7 3 4
肥満 63 29 34 1
13 6 7
血栓発症
リスクスコア
3 3 4 0.00842 0.00658
(0–8) (0–6) (0–8)

VTE, venous thromboembolism; BMI, body mass index.

中央値(範囲)で記載。

血栓消失群では,離床が可能,血栓発症リスクスコアが低い症例が多かった。

4. 抗凝固療法を行っていない非治療症例の結果

単変量解析,多変量解析ともに有意な項目は年齢であり,血栓残存群では年齢が高い症例が多く,血栓消失群では年齢の低い症例が多かった(Table 5)。

Table 5 非治療症例における血栓消失群と血栓残存群の比較

非治療症例 血栓消失 血栓残存 単変量解析
p value
多変量解析
p value
①患者背景 性別 23 2 21 0.0801 0.114
14 5 9
年齢 75 60 76.5 0.0414 0.0322
(28–19) (31–77) (28–91)
BMI 21.4 20.3 21.5 0.415
(13.1–27.4) (18.8–26.5) (13.1–27.4)
喫煙歴 26 4 22 0.403
11 3 8
血液型 O型 9 1 8 0.656
O型以外 28 6 22
②超音波検査関連 血栓性状 急性期 1 1 0 0.189
慢性期 36 6 30
血栓部位 中枢型 3 1 2 0.477
末梢型 34 6 28
血栓径 5.7 4.7 5.85 0.393
(2.2–11.4) (2.2–11.4) (2.7–10.4)
血栓径% 66.7 70.2 63.1 0.45
(28.5–98.2) (34.6–90.9) (28.5–98.2)
検査間隔 21 21 27 0.831
(7–224) (12–102) (7–224)
③血栓発症リスク因子 活動性癌 29 5 24 0.631
8 2 6
VTEの既往 36 7 29 1
1 0 1
臥床状態 31 4 27 0.0679
6 3 3
手術の有無 28 7 21 0.16 0.994
9 0 9
高齢者 15 4 11 0.408
22 3 19
心不全
呼吸不全
30 6 24 1
7 1 6
急性心筋梗塞
虚血性脳卒中
37 7 30
0 0 0
急性感染症
リウマチ性疾患
34 6 28 0.477
3 1 2
肥満 32 6 26 1
6 2 4
血栓発症
リスクスコア
3 3 2.5 0.269
(0–9) (2–5) (0–9)

VTE, venous thromboembolism; BMI, body mass index.

中央値(範囲)で記載。

IV  考察

今回の検討で,血栓消失群と血栓残存群において有意差が認められたのは,全症例において,性別,年齢,治療の有無,検査間隔で,治療症例においては,検査間隔,血栓発症リスクスコア,そして,非治療症例において年齢であった。

女性では,女性ホルモンのエストロゲンが心血管疾患の予防に有用であることや,受療行動や生活習慣が男性より好ましいライフスタイルをとる傾向があることから,平均寿命が長いとされている11),12)。しかし,今回の解析では予想外に女性の方が,血栓の残存する症例が多かった。Toriiら13)は超音波検査で腓腹筋が厚い症例では血栓が消失しやすく,血栓消失の予測に有用と報告している。筋肉量は,男性の方が女性に比較して多いとされている14)。男性で血栓消失例が多かったのは,腓腹筋等が発達し筋ポンプ作用の影響が多いためと推測される。特に下腿静脈であるヒラメ静脈,後脛骨静脈,腓骨静脈はヒラメ筋,後脛骨筋,足趾屈筋群に囲まれて存在し,筋ポンプの影響が大きいと考えられる。今回の対象の約8割は下腿静脈に限局する血栓症例であった。

今回,高齢者で有意に血栓が残存した。これも性別と同様に腓腹筋の筋量に影響したと推測される。サルコペニアでは血栓が残存しやすいという報告13)もあり,高齢者では加齢に伴い筋量が減少し,年齢は血栓残存リスクと考えられる。

抗凝固療法を行った症例では有意に血栓が消失した。DVTの抗凝固療法に関しては中枢型の血栓は肺塞栓のリスクが高いことから積極的な治療が考慮されるが,末梢型の血栓に関しては適応を含めてエビデンスが十分ではない。下腿静脈に限局したDVTは遊離しにくく肺塞栓症発症のリスクが低いため,抗凝固療法を施行せず,7~14日後に超音波検査で経過観察を行い,中枢進展例もしくは高リスク群のみに抗凝固療法をする方法も推奨されている15),16)。American College Chest Physiciansのガイドラインでも下腿に限局したDVTの抗凝固療法は適応しがたいとの報告17)もあるが,危険因子の変化により中枢側への進展や肺塞栓を発症した症例の報告も存在する18),19)。今回の検討では,中枢型の症例で高率(88%, 22/25)に抗凝固療法が行われたが,末梢型でも62%(55/89)に治療が選択された。治療効果に差は認められなかったが,末梢型の治療については今後の課題である。

検査間隔は,間隔が長いほど血栓が消失した症例が多かった。平瀬ら20)によると血栓消失の日数に関しては,30日以上経過したのちに消失した症例が多いと報告している。今回は後方視的に検討したもので,症例ごとに検査間隔が異なり実際にどの時期に血栓が消失したかは不明だが,検査間隔の時間も血栓消失の因子に関わることが示唆された。

治療症例において血栓発症リスクスコアが高い症例で有意に血栓が残存し,血栓発症リスクスコアが血栓残存の推測にも有用であることが示された。DVTは誘発因子であるVirchowの三因子の血液凝固亢進,静脈うっ滞,静脈損傷により発生するが,3つの成因がさまざまな程度で個々の危険因子に関与し,通常,複数の危険因子が作用して発症する。患者の発症リスクを判定するには,複数の危険因子とその成因を考慮する必要がある。欧米では2001年,DVTの院内発症を予防するために基本的危険因子の総リスク度を4段階に評価し,さらに3段階の強度の付加的危険因子を考慮して最終判定するガイドラインが発表された21)。その後欧米では,入院中の内科的疾患において,危険因子をスコアリングしリスクを評価する方法6)が提案された。今回用いた血栓発症リスクがこの評価方法であり,血栓発症リスクスコアの項目のうちreduced mobilityに対応する臥床状態に治療症例では有意差を認めた。前述したように血栓の退縮を認めた症例群では有意にサルコペニアが少なく,腓腹筋が有意に厚いとされている13)。よって,臥床状態はサルコペニア等による筋力低下を進行させることによる血栓残存リスク因子と考えられる。担癌患者では血栓発症のリスクは高く,再発の頻度も高いとされている。血栓消失後も年間で15%に血栓が再発するという報告22)が存在し,当初は担癌患者も血栓残存の因子に大きくかかわると予測していたが,今回の検討では有意な差は認められなかった。

今回の欠点として,症例数が100例程度で少なく,後ろ向き研究であったこと,そして,種々の治療がされ,治療期間も主治医の判断により決定されていることなどが挙げられる。そのため,今後は治療法や検査間隔の統一された,前向き研究が必要である。

V  結語

今回の検討では,年齢,性別,血栓発症リスクスコア,特に臥床状態が血栓残存リスク因子として抽出されたが,対象症例により異なっていた。今後限定した対象症例による前向き試験が必要だが,これらの抽出された血栓残存リスク因子を用いて血栓残存の予後予測ができることが示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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