2024 年 73 巻 1 号 p. 85-90
当院では業務の効率化を目的として,2020年4月にアークレイ社の画像解析法を用いた尿沈渣分析装置AUTION EYE AI-4510(以下,AI-4510)を導入した。AI-4510では各種細胞成分に判定できなかった成分を未分類として数値化し分類している。今回,この未分類の測定値(未分類値)と他の細胞成分比率との関係について検討した。尿沈渣の依頼のあった5,616検体をAI-4510と鏡検法で測定。AI-4510の未分類値によりA群:0.0~9.9個/μL(1,676件),B群:10.0~19.9個/μL(1,294件),C群:20.0~49.9個/μL(1,308件),D群:50.0個/μL以上(1,338件)の4群に分類し,赤血球,白血球,扁平上皮細胞,硝子円柱,細菌の5項目についてAI-4510と鏡検法との一致率を多群間検定により比較した。未分類値別に各種沈渣成分について鏡検法との一致率を算出した結果,上記5項目において未分類値が低いほどAI-4510と鏡検法との一致率が高くなることが明らかとなった。そのため,一般的に定性結果と機械法とのクロスチェックで行われている鏡検法の必要性判断を,AI-4510では未分類値を指標として行うことも可能であると考えられた。
In April 2020, our hospital introduced AUTION EYE AI-4510 (AI-4510), a urine sediment analyzer using image analysis method by ARKRAY company, with the aim of improving operational efficiency. In AI-4510, components that could not be determined as various cell components are quantified and classified as unclassified. We examined the relationship between this unclassified measured value (unclassified value) and the ratio of other cellular components. Measured 5,616 requested urine sediment samples with AI-4510 and microscopy. Based on the unclassified value of AI-4510, group A: 0.0–9.9 cells/μL (1,676 cases), group B: 10.0–19.9 cells/μL (1,294 cases), group C: 20.0–49.9 cells/μL (1,308 cases), Group D: Classified into 4 groups of 50.0 cells/μL or more (1,338 cases), and compared the concordance rates of both measurement methods for 5 components (red blood cells, white blood cells, squamous epithelial cells, hyaline casts, and bacteria) using a multiple comparison test. As a result of calculating the concordance rate with the microscopic method for various sediment components by unclassified value, it became clear that the lower the unclassified value in the above five items, the higher the concordance rate between AI-4510 and the microscopic method. Therefore, AI-4510 can be used to determine the necessity of microscopic examination, which is generally performed by cross-checking qualitative results and mechanical methods, using unclassified values as an index.
2019年に開発されたアークレイ社のAUTION EYE AI-4510(以下,AI-4510)は,無染色かつ流体中での画像解析法を取り入れた尿沈渣分析装置である。AI-4510では撮影した画像を独自のアルゴリズムにて細胞鑑別を行い,分類を行っている。各種細胞成分が正しく分類されていることは機器の性能評価として重要であるが,この点について我々は2021年に本誌に報告した1)。AI-4510を使用していく中で,今回我々はどのカテゴリにも分類されなかった成分を未分類というカテゴリとして定量化していることに着目した。「未分類」として分類される成分数が少なければAI-4510の解析能力範囲内で成分鑑別が可能であったことを示し,一方「未分類」として分類される成分が多ければAI-4510の解析能力を超えた成分が存在していることを示しているのではないかと考えた。つまり,未分類値が低値であった検体ほどAI-4510の細胞鑑別の精度が高く,信頼性が高い測定結果であり,鏡検法との相関が良好ではないかとの仮説を立て検討を行ったので報告する。
2020年8月,当院検査部に尿沈渣の依頼のあった検体を対象とした。対象の5,616件をAI-4510で測定し,その後鏡検法にて尿沈渣を鑑別した。AI-4510で測定した結果から各群の検体数が1,000件以上かつ均等となるような未分類値を設定し,4群に分類した。A群(1,676件):未分類値0.0~9.9個/μL,B群(1,294件):未分類値10.0~19.9個/μL,C群(1,308件):20.0~49.9個/μL,D群(1,338件):50.0個/μL以上とした。この4群および全検体の5群間において,赤血球,白血球,扁平上皮細胞,硝子円柱,細菌の5項目について,AI-4510と鏡検法との一致率を比較した。
2. 鏡検法と尿沈渣分析装置AI-4510との相関AI-4510で測定したのち,500 g,5分間遠心し,沈渣を鏡検法で確認した。両法における完全一致率,±1ランク差一致率,感度(鏡検法が陽性のとき機械法が陽性である割合),特異度(鏡検法が陰性のとき機械法が陰性である割合),陰性陽性一致率を求めた。鏡検法は「尿沈渣検査法2010(JCCLS GP1-P4)」2)に従い検査を実施した。染色には武藤化学社製の尿沈渣用Sternheimer 染色液「ラボステインS」を使用し,検討項目は赤血球,白血球,扁平上皮細胞,硝子円柱,細菌の5 項目とした。なお,当院では鏡検法において細菌は(±)を設けているが,集計上は(+)に含めた。
3. 5項目における完全一致率の群別比較検討した5項目に対してそれぞれ,全検体,A群,B群,C群,D群の5群間にて比較を行った。統計解析には統計分析フリーソフト「R」を使用し,ライアン多重比較検定にて有意差の有無を確認した。なお,有意水準は0.05とした。
全検体における鏡検法と機械法の完全一致率について赤血球では60.4%,白血球では40.6%,扁平上皮細胞では70.7%,硝子円柱では62.0%,細菌では75.7%であった(Table 1)。全検体における鏡検法と機械法の±1ランク差一致率について赤血球では92.4%,白血球では92.3%,扁平上皮細胞では95.0%,硝子円柱では94.6%,細菌では99.2%であった(Table 1)。5項目において4群に分類した未分類値別にみると,A群では全検体や他の3群よりも完全一致率は有意に高かった(Figure 1–5)。
赤血球 | 全検体 | A群 | B群 | C群 | D群 |
---|---|---|---|---|---|
完全一致率 | 60.4% | 76.3% | 63.4% | 57.6% | 40.4% |
±1ランク差一致率 | 92.4% | 98.8% | 96.3% | 93.8% | 79.3% |
感度 | 68.3% | 33.8% | 49.1% | 61.1% | 87.6% |
特異度 | 93.5% | 100.0% | 99.5% | 97.3% | 71.2% |
陽性陰性一致率 | 89.3% | 97.1% | 93.0% | 89.3% | 76.2% |
白血球 | 全検体 | A群 | B群 | C群 | D群 |
---|---|---|---|---|---|
完全一致率 | 40.6% | 55.9% | 32.6% | 32.9% | 36.6% |
±1ランク差一致率 | 92.3% | 98.4% | 94.4% | 91.7% | 83.2% |
感度 | 60.7% | 21.7% | 28.3% | 45.9% | 77.4% |
特異度 | 98.9% | 99.9% | 99.8% | 98.9% | 93.8% |
陽性陰性一致率 | 89.6% | 97.1% | 89.3% | 86.0% | 84.2% |
扁平上皮細胞 | 全検体 | A群 | B群 | C群 | D群 |
---|---|---|---|---|---|
完全一致率 | 70.7% | 82.9% | 75.6% | 64.9% | 56.2% |
±1ランク差一致率 | 95.0% | 98.2% | 97.8% | 94.0% | 89.3% |
感度 | 40.5% | 9.2% | 24.6% | 41.3% | 62.4% |
特異度 | 99.2% | 99.9% | 99.9% | 99.7% | 96.2% |
陽性陰性一致率 | 80.1% | 83.9% | 79.6% | 76.2% | 79.5% |
硝子円柱 | 全検体 | A群 | B群 | C群 | D群 |
---|---|---|---|---|---|
完全一致率 | 62.0% | 78.3% | 60.4% | 50.3% | 54.6% |
±1ランク差一致率 | 94.6% | 99.8% | 97.5% | 91.2% | 88.7% |
感度 | 59.9% | 28.4% | 55.7% | 71.9% | 71.1% |
特異度 | 73.9% | 92.9% | 69.0% | 53.0% | 65.4% |
陽性陰性一致率 | 68.9% | 79.1% | 63.8% | 62.3% | 67.6% |
細菌 | 全検体 | A群 | B群 | C群 | D群 |
---|---|---|---|---|---|
完全一致率 | 75.7% | 95.5% | 85.9% | 64.8% | 51.7% |
±1ランク差一致率 | 99.2% | 99.6% | 100.0% | 99.9% | 97.2% |
感度 | 54.8% | 5.4% | 9.1% | 30.3% | 80.2% |
特異度 | 91.4% | 99.8% | 97.9% | 88.4% | 44.5% |
陽性陰性一致率 | 80.3% | 95.6% | 85.9% | 66.0% | 69.7% |
A群:未分類値 0.0~9.9個/μL
B群:未分類値 10.0~19.9個/μL
C群:未分類値 20.0~49.9個/μL
D群:未分類値 50.0~個/μL
*p < 0.05
A群は他の群よりも完全一致率が有意に高かった。
尿沈渣検査は腎・泌尿器疾患の病態把握において必要不可欠な検査であり,尿沈渣分析装置の導入により効率的な検査業務が可能となっている。現在,尿沈渣分析装置にはフローサイトメトリー法3),4)と画像解析法5),6)とがある。近年,アークレイ社より無染色かつプレパラート作製による静止画ではなくシース液中に流れる有形成分を直接撮影することで細胞分類を行う機器が開発された。その測定結果として算出される未分類値に今回我々は着目した。
AI-4510では赤血球や白血球など各種尿沈渣成分に分類できなかった成分を「未分類」として分類し数値化している。AI-4510に設定されている成分鑑別のためのアルゴリズムによって分類ができなかった成分がこの「未分類」として分類される。このことは,AI-4510の成分鑑別の限界を示す指標とも考えられる。そこで我々は,「未分類」として分類される成分数が少なければAI-4510の解析能力範囲内で成分鑑別が可能であったことを示し,鏡検法との相関が良好ではないかと考えた。
赤血球,扁平上皮細胞,細菌では,AI-4510と鏡検法との相関がA群で最も良好であり(Table 1),未分類値の低値群ほど完全一致率は高かった(Figure 1,3,5)。未分類値の低値群ほど信頼性のある結果であると考えられた。また,白血球ではAI-4510と鏡検法との相関がA群で最も良好であり(Table 1),A群の完全一致率は他の3群よりも高かった(Figure 2)。これよりA群が最も信頼性のある結果であると考えられた。
*p < 0.05
A群は他の群よりも完全一致率が有意に高かった。
*p < 0.05
A群は他の群よりも完全一致率が有意に高かった。
硝子円柱では,AI-4510と鏡検法との相関がA群で最も良好であった(Table 1)。しかし,有意差はないもののC群よりもD群で完全一致率は高かった(Figure 4)。A群が最も鏡検法との相関が良好であることには変わりはなく,未分類値が低値である群ほど信頼性のある結果が得られたと考えられた。硝子円柱においては,±1ランク差一致率が良好であり,一見AI-4510の鑑別能力が高いように感じるが,陽性陰性一致率が他の成分と比較して80%未満であり低かった。このことはAI-4510が全視野換算での硝子円柱の鑑別能力に課題があることを意味していると考えられた。粘液糸との鑑別に少々難があることから,硝子円柱の正しい検出とその精度向上については今後期待したい点である。
*p < 0.05
A群は他の群よりも完全一致率が有意に高かった。
*p < 0.05
A群は他の群よりも完全一致率が有意に高かった。
このように各種成分における4群間比較を通して,未分類値が低値である群ほど鏡検法との一致率が高く信頼性のある結果が得られた。特に,各種成分におけるA群の特異度はほぼ100%に近い結果であった。このことは,A群においてはAI-4510で5項目の成分が検出されないと判断された検体は,この5項目に関しては機器の結果の精度が高いと考えられる。これより,他の鏡検ロジックによりA群に該当した検体の鏡検が必要となった際には5項目以外の成分に対して注意深く観察することが重要であると考えられた。
尿沈渣分析装置は多くの施設で導入されてきているが,機械法と鏡検法との使い分けの運用方法については様々な報告がある7)~9)。一般的に鏡検法の必要性判断は定性結果と機械法とのクロスチェックで行われていると考えられる。各施設において独自の考えに基づき様々な項目に対して複雑なロジックを組み,鏡検すべき検体の抽出を試みている。しかし,ロジックを組む煩雑さがあることは勿論,自施設で設定したロジックにより果たして本来鏡検したい検体を正しく判断でき,精度向上に繋がっているのかは疑問がある。尿沈渣分析装置は鏡検率を低減し,業務の効率化を目的に導入する施設が多いが,鏡検法の必要性判断において客観的指標をもとに設定したという報告は見当たらない。その点では,AI-4510における未分類値により鏡検法を採用するか否かの使い分けをすることは客観的指標に基づくロジックとなり,機器の性能として鑑別能力と限界を正しく把握した中で活用することができると考えられた。そのため,未分類値を鏡検法の必要性判断に用いることは,鏡検すべき検体の見落としが少なく,信頼性が確保された安心安全な運用となり,結果的に検査精度の向上に繋がると考えられた。以上のことからも,AI-4510における未分類値は鏡検法の必要性判断に有用であると考えられた。今回はアークレイ社のAI-4510での検討結果であるが,他社の尿沈渣分析装置においてもその他の成分として分類するカテゴリが設けられている機種もあり,他の機器においても活用できる可能性があると考えられた。
ここまで未分類値による鏡検法の必要性判断について述べてきた。では実際に未分類値が高値となる場合はどのようなことが考えられるのだろうか。AI-4510において未分類値が高値を示す要因として考えられることは,①細胞数が多い,②鑑別困難な成分がある,③分類カテゴリにない成分がある,この3点と考えられる。1つ目として,細胞数が多いと個々の成分が正常形態でも画像解析の際に成分鑑別の精度が低下してしまうことが考えられる。細胞が多いことで個々の成分が重なり合うために解析アルゴリズムから逸脱してしまうことや,画像撮影の際に焦点がずれてしまう成分も相対的に多くなることが考えられた。2つ目として,鑑別困難な成分があるとAI-4510のアルゴリズムによる鑑別能力の限界もあり「未分類」に分類される。膨化または萎縮し大きさが正常範囲から逸脱した赤血球,著しく変形した糸球体型赤血球,アメーバ状の白血球,大小不同のある結晶成分などはAI-4510に設定されたアルゴリズムから外れ,一部は「未分類」としても分類されることを経験する。3つ目として分類カテゴリにない成分があるが,その一例として異型細胞が挙げられる。異型細胞は非扁平上皮細胞のカテゴリに分類されることが多いが異型細胞の大きさや形状は様々であり,非扁平上皮細胞のアルゴリズムから逸脱する場合は「未分類」になるものと考えられた。未分類に分類された成分画像を鑑別する際には異型細胞の存在も考慮することで異型細胞の見落とし防止に繋がると考えられ,必要に応じて鏡検法により注意深く観察することが重要であると考えられた。
「未分類」は単なる分類できない成分のカテゴリではなく,AI-4510の性能を示すパラメータであり,鏡検法の必要性判断を行うための1つの指標となることが示唆された。今後は,個々の成分の鑑別能力を向上させ,細胞数の多い検体や不規則な形態にも対応し,未分類値が低くなるような設定や改良が必要になると考えられた。そのためにはAI-4510の改良と共に「未分類」に分類された成分の解析,そして未分類成分を解析して鏡検の必要な検体を正しく同定することで,業務負担を最小化しつつ信頼性を担保することが日常検査における精度向上と信頼性が担保された効率化に重要ではないかと考えられた。
AI-4510における未分類値は測定結果の信頼性を評価する指標であり,尿沈渣検査における鏡検法の必要性判断に有用であると考えられた。
本研究は東京慈恵会医科大学倫理委員会の承認を得て施行した(承認番号:33-511(11141))。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。