医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
原著
トランスサイレチン型心アミロイドーシスにおける神経エコー検査の有用性の検討
日野出 勇次梅橋 功征中釜 美乃里岡村 優樹原田 美里大迫 亮子久保 祐子西方 菜穂子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 73 巻 2 号 p. 215-222

詳細
Abstract

目的:トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は心症状に先行して手根管症候群を発症するとされている。今回,我々はATTR-CMにおける神経エコー検査の有用性について検討した。対象と方法:当院にてATTR-CMが疑われた18例を対象に,確定診断された11例をATTR-CM群,除外された7例を非ATTR-CM群とし,神経エコー検査による正中神経の手首位(Wrist)と前腕位(Forearm)の断面積(CSA),手首前腕正中神経CSA比(WFR),心アミロイドーシス(CA)を疑う経胸壁心エコー図検査(TTE)所見の検出頻度を比較した。結果と考察: ATTR-CMと非ATTR-CM群の神経エコー検査のCSAはWrist(18.0 mm2(IQR: 16.0–20.8)vs 10.0 mm2(10.0–11.0); p < 0.05),WFRは(2.24(IQR: 2.00–2.42)vs 1.16(1.03–1.26); p < 0.05)と有意差を認めたが,ForearmのCSAには有意差を認めなかった(p = 0.457)。CAを疑うTTE所見の検出頻度はATTR-CM群で心膜液貯留27%,右室壁肥厚64%,心房中隔肥厚64%,E/A ≥ 2.0 36%,Apical sparing 73%であった。一方,WFR(≥ 1.5)はATTR-CM群全例で認めた。結語:神経エコー検査はATTR-CM診断の一助になり得る可能性が示唆された。

Translated Abstract

Symptoms of transthyretin amyloid cardiomyopathy (ATTR-CM) has been known to develop peripheral neuropathy, such as carpal tunnel syndrome (CTS), earlier than cardiac. In this study, we investigated whether nerve ultrasound is useful in the diagnosis of ATTR-CM. Among 18 cases suspected of ATTR-CM at our institution, we used nerve ultrasound to compare the median nerve cross-sectional area (CSA) at the wrist and forearm, the wrist-to-forearm median nerve CSA ratio (WFR), and transthoracic echocardiographic (TTE) findings indicative of cardiac amyloidosis (CA), between 11 patients in the ATTR-CM group and 7 patients in the non-ATTR-CM group. ATTR-CM group had a significantly larger CSA at the wrist (18.0 mm2 (IQR: 16.0–20.8) vs 10.0 mm2 (10.0–11.0); p < 0.001) and a higher WFR (2.24 (IQR: 2.00–2.42) vs 1.16 (1.03–1.26) ; p < 0.001) compared to non ATTR-CM group, but the difference was not significant at the forearm (p = 0.457). The frequency of TTE findings for CA suspicious in the ATTR-CM group was 27% in pericardial effusion, 64% in the right ventricular wall thickness, 64% in the atrial septal thickness, 36% in the E/A ≥ 2.0, and 73% in the apical sparing, whereas WFR using nerve ultrasound was shown in all patients in the ATTR-CM group. In conclusion, our study suggests that nerve ultrasound may be a useful tool for the diagnosis of ATTR-CM.

I  序文

心アミロイドーシス(cardiac amyloidosis; CA)は心臓にアミロイドが蓄積し,形態的かつ機能的な心機能障害を起こす病態である。CAを疑う経胸壁心エコー図検査(TTE)所見として,心膜液貯留,左室求心性肥大,乳頭筋の肥厚,弁の肥厚,右室壁肥厚の明瞭化,心房中隔肥厚,高度な左室拡張機能障害,2Dスペックルトラッキング法による左室長軸方向ストレインのBull’s eye表示におけるApical sparing pattern等が挙げられる1)。しかし,そのような典型的な所見が認められるかは病期によって異なり2),それら全ての所見が同時に認められる頻度は少なく鑑別に苦慮することがある。

CAを引き起こす全身性アミロイドーシスは前駆蛋白により,トランスサイレチン型心アミロイドーシス(transthyretin amyloid cardiomyopathy; ATTR-CM)とAL(amyloid light-chain)心アミロイドーシスに大別される。ATTR-CMは,心臓に先行して腱や靭帯組織にアミロイドが沈着するため,心症状の約7年前より手根管症候群(CTS)を発症するとされている3)。CTSの診断は神経伝導速度検査(NCS)がゴールドスタンダードとされているが,NCSは痛みを伴うこと,検査に時間を要すことから簡便とは言い難い検査方法である。一方,神経エコー検査は短時間での検査が可能で痛みを伴わないため,近年ではCTS診断に用いられている。ATTR-CMは心症候に先行してCTSが発症するという報告があるが,ATTR-CMの鑑別に神経エコー検査を用いて検討した報告は少ない。そして,現時点ではATTR-CM患者の正中神経の手首前腕断面積比(wrist forearm ratio; WFR)を検討した報告はまだない。

今回我々は,ATTR-CMの鑑別に神経エコー検査を用いて,正中神経の手首位と前腕位の断面積(CSA)とWFR,そしてCAを疑う典型的な心エコー図所見の検出頻度との関係性について後方視的に検討した。

II  対象および方法

1. 対象

2020年から2023年の間に国立病院機構鹿児島医療センターにてATTR-CMが疑われ,TTEおよび神経エコー検査にて正中神経CSAの評価を施行した18例を対象とした。ATTR-CMは99mTcピロリン酸シンチグラフィもしくは心臓カテーテル検査による心筋生検により,ATTR-CMと診断された11例をATTR-CM群とした。また,ATTR-CMが疑われたが99mTcピロリン酸シンチグラフィもしくは心筋生検によりATTR-CMが除外された7例を非ATTR-CM群とした。18例には人工透析症例は含まれていなかった。尚,本研究は,国立病院機構鹿児島医療センター倫理審査委員会の承認(管理番号:2022-20)を得て実施した。

2. 方法

1) 神経エコー検査

超音波診断装置はVividE95(GEヘルスケア・ジャパン社製)の9 MHzリニアプローブを用いて行った。計測は神経超音波検査に精通した技師1名にて,対象者の利き手と対側の両側を評価した。計測部位は豆状骨レベルにおける手指中間位(Wrist)と前腕遠位1/2(Forearm)における正中神経の短軸像にてCSAを測定した(Figure 1A)。CSAは高エコー輝度の神経上膜の内側をcontinuous trace法で計測した(Figure 1B)。WristのCSAを,ForearmのCSAで除した値をWFRとし,Hobson-Webbら4)の報告に基づきCTS疑いとなる1.5以上をカットオフとした。

Figure 1  正中神経断面積計測部位と計測方法

A:正中神経断面積計測部位

Wrist:豆状骨レベルにおける手指中間位

Forearm:前腕遠位1/2

B:正中神経断面積計測方法

高エコー輝度の神経上膜の内側をcontinuous trace法で計測(黄破線)

2) 経胸壁心エコー図検査

超音波診断装置はVividE95(GEヘルスケア・ジャパン社製)のセクタプローブ(中心周波数2.5 MHz)を用いて行った。日本循環器学会が作成したガイドラインより5),心膜液貯留は拡張末期に壁側心膜と臓側心膜の間にエコーフリースペースが認められる場合を心膜液貯留ありとした。右室壁5 mm以上,心房中隔厚は6 mm以上を肥厚ありとした。左室拡張機能障害は左室流入血流速度波形における拡張早期波(E波),心房波(A波)を心尖部四腔像にて測定しE/Aを計算した。2Dスペックルトラッキングによるストレイン解析において,左室Longitudinal strain(LS)の解析は,明瞭な心内膜面が描出される心尖部四腔像,心尖部長軸像,心尖部二腔像で評価した。左室局所のLSは,アメリカ心エコー図学会のガイドラインに従い左室を16分画したものを用い,Global LS(GLS)は,これらの16分画の平均LSとして計算した。Apical LSは,心尖部の4分画の平均LSとして計算し,心基部 LSはそれぞれ6分画の平均LSとして計算した。心尖部と心基部の長軸方向のストレイン比が2.1を超えたものをApical sparing有りとした。

3. 統計解析

統計解析にはEZR6)を用いて行った。2群間の比較には,Mann-Whitney のU検定を用い,有意水準0.05未満を統計学的有意差ありとした。

III  結果

1. 患者背景

本検討における患者背景をTable 1に示す。年齢は80 ± 16歳で,男性12名,女性6名,ATTR-CM群11例,非ATTR-CM群は肥大型心筋症3例,心サルコイドーシス1例,高血圧性心筋症1例,AL心アミロイドーシス2例であった。診断別におけるWristでのCSAの中央値はATTR-CM群 18.0 mm2(interquartile, IQR: 16.0–20.8),肥大型心筋症10.5 mm2(IQR: 10.0–11.8),心サルコイドーシス9.5(IQR: 9.3–9.8)mm2,高血圧性心筋症10.0 mm2,AL心アミロイドーシス10.0 mm2(IQR: 9.5–10.3),ForearmのCSAの中央値はATTR-CM群8.0 mm2(IQR: 7.0–9.0),肥大型心筋症9.0 mm2(IQR: 8.3–9.0),心サルコイドーシス7.5 mm2(IQR: 7.3–7.8),高血圧性心筋症9.5 mm2(IQR: 9.3–9.8),AL心アミロイドーシス9.0 mm2(IQR: 8.8–9.3),WFRの中央値はATTR-CM群 2.24(IQR: 2.00–2.42),肥大型心筋症1.06(IQR: 1.13–1.34),心サルコイドーシス1.27(IQR: 1.26–1.28),高血圧性心筋症1.06(IQR: 1.03–1.08),AL心アミロイドーシス1.06(IQR: 1.00–1.14)であった。

Table 1 患者背景

No. Age Sex Diagnosis R/L Wrist (mm2) Forearm (mm2) WFR
1 93 M ATTR-CM R 26 11 2.36
L 21 10 2.10
2 85 M ATTR-CM R 17 8 2.13
L 18 8 2.25
3 84 M ATTR-CM R 18 9 2.00
L 20 9 2.22
4 79 F HCM R 11 8 1.38
L 10 8 1.25
5 89 M AL心アミロイドーシス R 10 9 1.11
L 11 9 1.22
6 74 M ATTR-CM R 16 7 2.29
L 22 9 2.44
7 68 M HCM R 16 11 1.45
L 12 10 1.20
8 83 F ATTR-CM R 18 9 2.00
L 19 7 2.71
9 84 M AL心アミロイドーシス R 8 8 1.00
L 10 10 1.00
10 83 M サルコイドーシス R 9 7 1.29
L 10 8 1.25
11 90 F ATTR-CM R 32 10 3.20
L 22 7 3.14
12 82 F ATTR-CM R 16 8 2.00
L 18 8 2.25
13 86 F ATTR-CM R 28 7 4.00
L 18 6 3.00
14 79 M ATTR-CM R 12 8 1.50
L 11 8 1.38
15 75 F ATTR-CM R 12 6 2.00
L 14 8 1.75
16 62 M HHD R 10 9 1.11
L 10 10 1.00
17 67 M HCM R 9 9 1.00
L 10 9 1.11
18 79 M ATTR-CM R 16 7 2.29
L 15 7 2.14

ATTR-CM:トランスサイレチン型心アミロイドーシス,AL:Amyloid light-chain

HCM:肥大型心筋症,HHD:高血圧性心筋症

2. ATTR-CM群と非ATTR-CM群の利き手によるCSAの比較

ATTR-CM群11例と非ATTR-CM群7例における,利き手のWristのCSAを比較した(Figure 2A)。WristのCSAは,ATTR-CM群で中央値18.0 mm2(IQR: 16.0–20.8),非ATTR-CM群で中央値10.0 mm2(IQR: 10.0–11.0)であり,ATTR-CM群と非ATTR-CM群のWristのCSAには有意な差を認めた(p < 0.001)。次に,ATTR-CM群と非ATTR-CM群間で利き手のForearmのCSAを比較した(Figure 2B)。ATTR-CM群の中央値8.0 mm2(IQR: 7.3–9.0),非ATTR-CM群の中央値9.0 mm2(IQR: 8.0–10.0)であり,非ATTR-CM群とATTR-CM群のForearmのCSAには有意な差を認めなかった(p = 0.457)。

Figure 2  ATTR-CM群と非ATTR-CM群のWristとForearmのCSAの比較

A:ATTR-CM群と非ATTR-CM群のWristのCSAの比較

B:ATTR-CM群と非ATTR-CM群のForearmのCSAの比較

3. ATTR-CM群と非ATTR-CM群のWFRの比較

ATTR-CM群11例と非ATTR-CM群7例における,WFRを比較した(Figure 3)。ATTR-CM群の中央値2.24(IQR: 2.00–2.42),非ATTR-CM群の中央値1.16(IQR: 1.03–1.26)であり,ATTR-CM群と非ATTR-CM群のWFRには有意な差を認めた(p < 0.001)。

Figure 3  ATTR-CM群と非ATTR-CM群のWFRの比較

4. ATTR-CM群における利き手と対側のWFRの比較

利き手と対側間でWFRに差があるか確認するため,ATTR-CM群11例の利き手と対側のWFRを比較した(Figure 4)。WFRは利き手で中央値2.00(IQR: 1.31–2.25),対側で中央値1.93(IQR: 1.23–2.58)であり,ATTR-CM群の利き手と対側のWFR間には有意な差は認めなかった(p = 1.00)。

Figure 4  ATTR-CM群における利き手と対側のWFRの比較

5. ATTR-CM群と非ATTR-CM群における神経エコー検査のWFRとTTEのCA所見の検出頻度

ATTR-CM群と非ATTR-CM群での神経エコー検査におけるWFRとTTEのCA所見の検出頻度を確認した(Figure 5)。CAを疑うTTE所見は,心膜液貯留,右室壁肥厚,心房中隔肥厚,高度な左室拡張機能障害の出現,Apical sparingとした。なお,左室拡張能診断アルゴリズムよりGrade IIIと診断されるE/A ≥ 2.0を高度な左室拡張機能障害とした。ATTR-CM群でCTS疑いとなるWFR 1.5以上は100%(11/11例)と全症例で認められた。CAを疑うTTE所見として心膜液貯留は27%(3/11例),右室壁肥厚は64%(7/11例),心房中隔肥厚は64%(7/11例),高度な左室拡張機能障害の出現は36%(4/11例),Apical sparingは73%(8/11例)で認められた。一方,心膜液貯留と右室壁肥厚所見は非ATTR-CM群においても27%(3/7例),64%(3/7例)で認めた。

Figure 5  ATTR-CM群と非ATTR-CM群における神経エコー検査によるWFR ≥ 1.5と経胸壁心エコー図検査で心アミロイドーシスを疑う所見の検出頻度

IV  考察

CAではさまざまな臓器に異常なアミロイドが沈着するが,特にATTR-CMの主な障害臓器は心臓であり,CAと診断された場合の平均生存率は46.69ヶ月,5年生存率は35.7%と致命的な疾患である7)。自然経過では,50~70歳代に両側CTSが初期症状として現れることが多い8)。ATTR-CMは心臓に先行して腱や靭帯組織にアミロイドが沈着するため,心症状の約7年前よりCTSを発症すると報告されている2)。今回我々は,ATTR-CM群と非ATTR-CM群でのWristのCSA,ForearmのCSA,WFR,TTEのCA所見の検出頻度を比較した。その結果,ATTR-CM群は非ATTR-CM群と比較して,ForearmのCSAには両群に有意な差を認められなかったが,WristのCSAは拡大し,WFRは有意に高値であった。ATTR-CM群でCAを疑うTTE所見の検出頻度は27~73%であったのに対し,神経エコー検査によるCTS(WFR ≥ 1.5)を疑う所見は全例で認められた。これらの結果より,神経エコー検査はATTR-CMを疑う上で有用であることが示唆された。

ATTR-CMではアミロイドが手根管にも沈着し肥厚することで正中神経を絞扼し,その中枢側であるWristで正中神経が腫大するとされている9)。Podnarら10)も,正中神経の一般的な陥入部位においてCTS群は健常人群と比較し有意にCSAが拡大していたと報告している。本検討において,ATTR-CM群は非ATTR-CM群と比較し,ForearmのCSAには有意な差を認めなかったが,WristのCSAが有意に拡大していることが示された。ATTR-CM群では手根部の正中神経は絞扼されるためWristは腫大するが,Forearmは絞扼部から離れた位置にあるため,腫大が波及せずCSAが拡大しなかったと考えられた。これらより,ATTR-CM群と非ATTR-CM群の鑑別に,神経エコー検査によるWristのCSAの測定は有用な指標であると考えられた。

神経エコー検査による正中神経CSAの正常値とCTSの診断値はそれぞれ,7~9.4 mm2,9~15 mm2と報告によってばらつきがある11)~14)。このばらつきの多くは,検討された集団間の違いに加え,測定技術の違いによるものであり,それらの影響が少ないWFRでの評価が有用であるとされている4)。WFRは正中神経CSAの手首位と前腕位の比率であり,手根部の近位部中枢側の正中神経の腫大を評価する指標である。Hobson-Webbら4)の報告によると,WFRが1.5以上であればCTSの検出感度100%であったが,WristのCSAのみを用いた場合の検出感度は45~93%であったとしている。現時点で神経エコー検査を用いたCA患者の正中神経におけるCSAの報告はいくつかあるものの,WFRを検討した報告はない。今回,ATTR-CMにおけるWFRを評価し,ATTR-CM群のWFRは中央値2.24(2.00–2.42)であり,非ATTR-CM群1.16(1.03–1.26)と比較して有意に高値であった。これらのことより,アミロイド沈着により引き起こされたCTSも,WristのCSAよりWFRの方で感度良く検出できる可能性があり,WFRがATTR-CMを疑う上で新たな指標になりえることが示唆された。

今回,ATTR-CM群における利き手と対側のWFRの比較において有意な差を認めなかった。通常,利き手と対側の手でWFRの差が認められた場合,日常生活や職業上の労作による手首の過負荷が関与しているとされている15)。また,一般的なCTSでは,患側と対側の手でWristのCSAに差があることが多く,利き手の方でよりCSAの拡大を示す傾向にある16)。しかし,今回ATTR-CMではWFRの左右差が無く,特定の手に偏った神経障害の特徴は少ないと考えられる。このことから,ATTR-CMを疑った際に,両側のWFRを測定することも重要であると考えられた。

TTE時にCAが鑑別に挙がることはしばしばある。CAのRed flagとされる,原因不明な左室肥大,TTEにおける心膜液貯留,右室壁肥厚,心房中隔肥厚,高度な左室拡張機能障害の出現(Grade III拡張機能障害),2Dスペックルトラッキング法によるApical sparingを認めた場合は,CAを鑑別に挙げる必要がある1)。しかし,病期によっては認められない所見もあるため,TTE以外の情報も少なからず参考にするのが現状である。CAの病型の一種であるATTR-CMに注目した本検討においても,心膜液貯留27%,右室壁肥厚64%,心房中隔肥厚64%,高度な左室拡張機能障害の出現 36%,Apical sparing 73%であり,心膜液貯留と右室壁肥厚所見においては非ATTR-CM群でも認めた。一方,神経エコー検査のWFR(≥ 1.5)の所見はATTR-CMすべての症例で認められており,TTEの所見と比較しても高い検出頻度であった。これらのことをふまえ,TTEにてCAが疑われた際に,神経エコー検査にてWFRを評価することはATTR-CMを疑う上で有用であると考えられた。

本研究の限界は,高齢者のATTR-CM疑い患者では精査を希望されることが少ないことから,ATTR-CM患者の症例数が少なかったことが挙げられる。また,非ATTR-CM患者においても99mTcピロリン酸シンチグラフィか心筋生検により非ATTR-CMが確認された症例を対象としたため,症例数が十分集まらなかった。さらに症例数を増やし,年齢や性別での比較ができるようにすることを今後の課題と考える。

V  結語

今回我々は,ATTR-CMが疑われた患者に対して神経エコー検査を行った。特に神経エコー検査でのWFRの評価はATTR-CM診断の一助になり得る可能性が示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2024 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top