医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
技術論文
AIA-パックCL プロラクチンII試薬の性能評価
市成 隼人石垣 卓也川述 由希子山中 基子酒本 美由紀堀田 多恵子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 73 巻 3 号 p. 493-499

詳細
Abstract

プロラクチン(prolactin; PRL)の存在様式の一つとして,主に自己抗体であるIgGとPRLが結合したマクロPRLといったものがある。マクロPRL自体は生理活性を有していないが,血中に存在すると,PRLの免疫学的測定において,マクロPRLを測りこむことで,PRL濃度が偽高値を呈し,治療が必要な高PRL血症と誤診され,不要な検査や治療につながる危険性を含んでいる。今回,マクロPRLとの反応性を軽減させる目的で開発された「AIA-パックCL プロラクチンII(東ソー株式会社)」の性能評価を行った。併行精度,室内再現精度,希釈直線性,干渉物質の影響に関して,いずれも良好な結果が確認された。現行のPRL試薬である「AIA-パックCL プロラクチン(東ソー株式会社)」との相関性は,回帰式y = 1.01x + 0.12相関係数r = 0.992(n = 100)といった結果となった。本試薬での測定値が,現行試薬での測定値を基準として,測定値の差が20%以上低く乖離した2例をPEG処理試験,ゲル濾過分析で解析した結果,どちらもマクロPRLを有しており,本試薬は現行試薬に比べてマクロPRLを測りこまないことが確認された。マクロPRLを有している患者が高PRL血症と誤診され,不必要な治療や手術を受けたケースがいくつか報告されている。本試薬を臨床で使用することで,マクロPRLが血中に存在した場合でも高PRL血症と診断されることが少なくなり,不必要な検査や治療を避けることが可能になると考えられた。

Translated Abstract

There are two types of prolactin (PRL): (1) PRL, which has physiological activity, and (2) macroprolactin, which is bound by IgG and has no physiological activity. Macroprolactin in the blood may lead to false positive PRL concentrations in immunological measurements. This may result in misdiagnosis of hyperprolactinemia, leading to unnecessary tests and treatments. Therefore, it is clinically important to have an assay kit that can accurately separate PRL and macroprolactin. In this study, we compared the test performance of conventional “AIA-PACK CL Prolactin (Tosoh Co., Ltd.)” and newly developed “AIA-PACK CL Prolactin II (Tosoh Co., Ltd.)”, which was developed to reduce the reactivity with macro macroprolactin. Repeatability, reproducibility, dilution linearity, and influence of interfering substances of AIA-PACK CL Prolactin II were tested, and those results were acceptable.The correlation with the conventional AIA-PACK CL Prolactin and newly developed “AIA-PACK CL Prolactin II was as follows: regression equation: y = 1.01x + 0.12, r = 0.992, (n = 100). The results of the PEG-treatment test and gel filtration analysis of the two cases in which the measured values with AIA-PACK CL Prolactin II deviated from those with the current reagent by more than 20%, both had macroprolactin, confirming that this reagent does not measure macroprolactin compared to the current reagent. The use of AIA-PACK CL Prolactin II in clinical practice can reduce the incidence of hyperprolactinemia diagnosis even when macroprolactin is present in the blood, thereby avoiding unnecessary tests and treatments.

I  はじめに

プロラクチン(prolactin; PRL)は脳下垂体前葉より分泌され,おもに乳腺に作用し,乳汁の産生・分泌を調整するペプチドホルモンである。血中PRL濃度が問題となるのは高PRL血症で,原因としてPRL産生腫瘍であるプロラクチノーマや視床下部-下垂体病変,薬物内服,原発性甲状腺機能低下症などがある1),2)

血液や下垂体中のPRLの多くは単量体であるが,二量体や四量体などの多量体,マクロPRL,糖鎖を持つPRLが存在する3)。マクロPRLは,主に自己抗体であるIgGが結合したPRLであり,それ自体は生理活性を有していない4)。このマクロPRLが存在すると,PRLの免疫学的測定において,マクロPRLを測りこむことで,PRL濃度が偽高値を呈し,治療が必要な高PRL血症と誤診され,不要な検査や治療につながる危険性を含んでいる。

そこで今回,マクロPRLとの反応性を軽減させる目的で開発された「AIA-パックCL プロラクチンII」の性能評価を行った。

II  測定機器・試薬

1. 測定機器

全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA-CL2400(東ソー株式会社)を使用した。

2. 測定試薬

検討した試薬は,AIA-パックCL プロラクチンII(東ソー株式会社:以下,改良試薬)を用いた。対照試薬としてAIA-パックCL プロラクチン(東ソー株式会社:以下,現行試薬)を用いた。

3. 検討試薬の測定原理

本法はCLEIA(化学発光酵素免疫測定法)法による2ステップサンドウィッチ法である。第一反応にて,検体中のPRLと抗PRLウサギモノクローナル抗体を反応させ,未反応の検体成分を除去する。第二反応にて,アルカリ性ホスファターゼが標識された抗PRLラットモノクローナル抗体が添加され,未反応の酵素標識抗体を除去後,基質を添加し,酵素による分解で得られる発光強度を検出し,PRL濃度を算出する。

III  対象

対象は九州大学病院でPRL測定の依頼があった入院および外来患者検体100例の残余検体を用いた。本検討は九州大学病院の倫理委員会の承認を得て行った(審査番号:21155-DD)。

IV  検討方法

1. 精密性

併行精度では,AIA専用コントロールである東ソーマルチコントロールLevel 1~3(東ソー株式会社)の3濃度を10重測定し,平均値・標準偏差(SD)・変動係数(CV%)を求め評価した。室内再現精度では,−80℃に保存した東ソーマルチコントロールLevel 1~3の3濃度を,自然融解後に測定し,1日1回の測定を10日間行い,平均値・標準偏差(SD)・変動係数(CV%)を求め評価した。

2. 希釈直線性

PRL高濃度の患者検体をAIA-CL用検体希釈試薬D(東ソー株式会社)にて10段階希釈し,それぞれ5重測定した。

3. 干渉物質の影響

1濃度のプール血清に干渉チェック・Aプラス(シスメックス株式会社)を用いて遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,溶血ヘモグロビン,乳びの影響を調べた。干渉物質添加前の濃度と比較し,5%以上の変動率を認めた場合を影響があるとした。

4. 現行試薬との相関性

当院検査部にPRLの検査依頼があった検体を現行試薬で測定したのち,残余検体(100例)を−80℃に凍結保存した。改良試薬での測定時に自然融解し,測定後に回帰式・相関係数を求めた。

5. 相関乖離検体の分析

現行試薬との相関性において乖離が認められた検体(現行試薬での測定値を基準として,測定値の差が20%以上)について,原因を追求するために以下の検討を行った。

1) ポリエチレングリコール(PEG)処理試験

血清と25% PEG溶液を1:1の割合で混合し,Vortex Mixerで10秒間攪拌後に,3,000 rpm,5分間遠心分離し,上清を用いてPRLの濃度を改良試薬と現行試薬で測定し,それぞれのPRLの回収率を求めた。(計算式は下記参照)PEG溶液の対照として,生理食塩水を用いた。

  
回収率(%)=PEG溶液で処理後のPRL値生理食塩水で処理後のPRL値×100

2) ゲル濾過分析

高速液体クロマトグラフィー(HPLC法)によるゲル濾過分析を東ソー株式会社に依頼し,実施した。カラムはTSKgel G3000SWXL(東ソー株式会社)を使用し,流速0.5 mL/minで分取した。

V  結果

1. 精密性

併行精度は,低濃度域がCV 2.9%,中濃度域がCV 2.4%,高濃度域がCV 1.7%であった(Table 1)。また,同様の試料を用いた室内再現精度では,低濃度域がCV 2.3%,中濃度域がCV 1.7%,高濃度域がCV 2.7%であった(Table 2)。

Table 1 併行精度

Level 1 Level 2 Level 3
mean (ng/mL) 2.1 13.7 81.9
SD 0.06 0.32 1.41
CV (%) 2.9 2.3 1.7
Table 2 室内再現精度

Level 1 Level 2 Level 3
mean (ng/mL) 2.2 14.0 82.5
SD 0.05 0.24 2.25
CV (%) 2.3 1.7 2.7

2. 希釈直線性

現行試薬にてPRL濃度が希釈測定により602.2 ng/mLを示した検体を10段階希釈した結果,検量線内(~400 ng/mL)である389.7 ng/mLまで良好な直線性が確認された(Figure 1)。

Figure 1  希釈直線性

3. 干渉物質の影響

遊離型ビリルビン・抱合型ビリルビンは20.4 mg/dLまで,溶血ヘモグロビンは500 mg/dLまで,乳びは1,560 FTUまで,測定値の変動率は5%以内であり,影響は認められなかった(Figure 2)。

Figure 2  干渉物質の影響

4. 現行試薬との相関性

患者検体100例の相関性は,標準主軸回帰で求めた結果,回帰式y = 1.01x + 0.12相関係数r = 0.992であった。100例のうち,改良試薬の測定値が現行試薬に比べて20%以上低値を示した乖離例を2例(以下症例No. 1,2とする)認めた(Figure 3)。症例No. 1は現行試薬:37.8 ng/mL,改良試薬:10.2 ng/mL,症例No. 2は現行試薬:199.7 ng/mL,改良試薬:150.7 ng/mLであった。乖離2症例を除いた場合の相関性はy = 1.04x + 0.03,r = 0.997(n = 98)であった(Figure 4)。

Figure 3  現行試薬との相関性
Figure 4  相関乖離2症例を除いた場合の相関性

5. 相関乖離検体の分析

1) ポリエチレングリコール(PEG)処理試験

相関性が乖離した2症例をPEG処理した結果はTable 3に示す。改良試薬は現行試薬に比べ,回収率が上昇した。

Table 3 PEG処理試験

症例No. 1 症例No. 2
現行試薬 改良試薬 現行試薬 改良試薬
生理食塩水処理後PRL値(ng/mL) 20.0 5.7 113.5 82.4
PEG溶液処理後PRL値(ng/mL) 6.4 5.7 64.7 73.1
回収率(%) 32.0 100.0 57.0 88.7

2) ゲル濾過分析

Figure 5はゲル濾過により,溶出時間毎に測定したPRL濃度の結果をプロットした図である。PRL測定値に乖離を認めなかった対照検体ではPRLのピークが溶出時間26分に認められる1峰性のみの波形であるのに対して,症例No. 1,2では,現行試薬にてPRLのピークが溶出時間26分とIgG分画付近である18分にて認められ,2峰性の波形が検出された。これに対して,改良試薬では症例No. 1,2ともに,溶出時間26分で波形を認めたが,現行試薬に比べて,IgG分画付近での波形はほとんど検出されなかった。

Figure 5  ゲル濾過分析

VI  考察

今回,性能評価を行った改良試薬は,併行精度・室内再現精度・希釈直線性,干渉物質の影響に関して,いずれも良好な結果が確認された。現行試薬との相関性では,回帰式y = 1.01x + 0.12 相関係数r = 0.992となり良好であった。相関性にて乖離が2症例認められ,ともにPRL測定値が現行試薬に比べて,改良試薬では低い結果となった。症例No. 1はマクロPRL血症の診断が既についており,内分泌内科でフォロー中の患者であった。症例No. 2は妊娠中の患者で,血糖コントロールが不良のため,当院の産科へ入院した患者であった。PEG処理試験を行った結果,改良試薬は現行試薬に比べてPEG溶液での処理後の測定値と生理食塩水での処理後の測定値で大きな差がなく,高い回収率が得られた。また,ゲル濾過分析を行った結果,症例No. 1,2ではともに現行試薬において,PRLのピークが単量体のPRLの部分だけでなく,IgG分画付近でも認められた。これはPRLとIgGが結合したマクロPRL由来のものであると考えられた。改良試薬では,マクロPRL部分の波形がほとんど認められなかった。PEG処理試験とゲル濾過分析の結果から,改良試薬は現行試薬に比べてマクロPRLの測り込みが阻止できることが確認できた。

今回の試薬の改良では,抗体の変更がなされたとのことであり,改良試薬で使用されている抗PRLウサギモノクローナル抗体は,マクロPRLに固有の自己抗体とPRLの結合部位に関連するエピトープを認識しないように改善されているため,マクロPRLとの反応性が低減したと考えられた。

マクロPRLの存在を確認するためには,PEG処理試験やゲル濾過分析,Protein Gカラム法などが存在するが,今回検討した改良試薬を用いることで,これらの追加確認試験を減らすことができる。また,マクロPRL血症の頻度は,高PRL血症患者のうち約15~25%存在し5)~7),正常な人でも3.68%の割合で存在すると報告されている5)。PRLの測定機会が女性では多いため,マクロPRL血症の多くが女性で報告されているが,男性でも女性と同程度の頻度(21%)であると報告されており8),マクロPRL血症は珍しいものではない。マクロPRL血症患者の多くは,高PRL血症の臨床症状である月経不順や乳汁漏出などの症状が乏しく,また,マクロPRL自体に生理的機能はないために治療は不要である。しかし,マクロPRLを有する患者がホルモンバランスの乱れによって月経不順などの臨床症状が現れた結果,高PRL血症の誤診につながりやすく,不必要な治療や手術を受けたケースがいくつか報告されている9)~11)

改良試薬を臨床で使用することで,マクロPRLが血中に存在した場合でも高PRL血症と診断されることが少なくなり,不必要な検査や治療を避けることが可能になると考えられる。

VII  結語

以上の結果より,東ソー株式会社より開発されたPRLの改良試薬は良好な基本性能であった。現行試薬に比べて,マクロPRLによる影響を低減させた試薬であり,臨床現場で有用性が高い試薬であると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2024 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top