尿沈渣検査は侵襲性が低く,特別な装置を必要としないため,汎用性が高い臨床検査である。中でも,尿沈渣成分の一つである硝子円柱は腎機能を反映することが知られている。今回我々は尿中硝子円柱数が腎機能悪化の予測因子となる可能性について検証した。2015年に尿沈渣検査を行った尿蛋白定性陰性の症例250例を対象とした。尿中硝子円柱数を < 10,10–29,30–99,≥ 100/全視野(WF)の4群に分け,CKD重症度,GFR区分,尿蛋白区分の進行をエンドポイントとして最大8年間観察した。尿中硝子円柱数群別にCKD重症度,GFR区分,尿蛋白区分の進行患者数を比較したところ,有意な傾向性は認められなかった。硝子円柱数10/WF,30/WF,100/WFをカットオフ値としてCKD重症度,GFR区分,尿蛋白区分進行のハザード比を算出したところ,CKD重症度,GFR区分の進行で有意なハザード比が観察された。尿中硝子円柱数10/WFをカットオフ値として腎機能悪化の累積発生率を比較したところ,≥ 10/WFの症例群で比較的早期に腎機能悪化を認めた。尿中硝子円柱数が ≥ 10/WFの症例では将来的に腎機能悪化する可能性が高いことが示唆された。本結果から尿中硝子円柱数は尿蛋白陰性症例において腎機能悪化の予測因子となることが推察された。
Urine sediment examination is a non-invasive and versatile clinical test that does not require special equipment. Notably, hyaline casts, components of urinary sediment, are known to reflect renal function. We investigated the potential of urinary hyaline cast count as a predictor of renal function deterioration. We targeted 250 cases with negative urinary protein qualitative tests who underwent urine sediment examination in 2015. Urinary hyaline casts were categorized into four groups: < 10, 10–29, 30–99, and ≥ 100 per whole field (WF). We observed endpoints, such as CKD severity, GFR classification, and urinary protein progression for up to 8 years. No significant trends were found when comparing patient progression among the hyaline cast count groups. Using cut-offs of 10/WF, 30/WF, and 100/WF, significant hazard ratios were observed for CKD severity and GFR progression. Comparing cumulative renal function deterioration using 10/HPF as a cut-off, cases ≥ 10/WF showed earlier renal function decline. Cases with hyaline casts ≥ 10/WF may have a higher likelihood of future renal deterioration. Our results suggest urinary hyaline cast count may be a predictor of renal function decline in cases with negative urinary protein.
腎臓病は世界で8億5千万人が罹患しており,腎機能異常が3ヶ月以上持続する慢性腎臓病(chronic kidney disease; CKD)の有病率は全世界成人の9.1%(2017年)にもなることが推定されている1)。腎機能異常は人工透析療法を必要とする腎不全へ移行する可能性だけでなく,心腎連関により心血管疾患(cardiovascular disease; CVD)の重大なリスク因子となることが知られている2),3)。そのため,CVD発症リスクの低減や健康寿命延伸の達成には腎機能異常の早期発見が重要となる。その一助として,尿検査の有用性は高い。尿検査は検体採取における侵襲性がほとんどなく,最も汎用的に実施可能な臨床検査の一つである。簡便に多くの情報が得られる尿試験紙検査だけでなく,特別な分析装置を必要としない尿沈渣検査の有用性についても多数報告されている4)~11)。特に,尿沈渣成分である硝子円柱は,各種円柱類の基質であり,円柱類の中で最も遭遇する頻度が高いとされており,健常人でも少量認められることがある。硝子円柱の生成機序としては,アルブミン濃度の上昇,尿の濃縮,尿流速の低下,pHの低下があり,遠位尿細管腔にて分泌されるTamm-Horsfallムコ蛋白と少量の血漿蛋白がゲル化して形成されると考えられている。硝子円柱は停滞していた尿流が再開されると尿中に出現することから,その存在は腎実質に何らかの障害があったと推察される。筆者らは既報において,尿沈渣成分の一つである硝子円柱数と腎機能の関係性について言及し,硝子円柱は病的円柱よりも早い段階での増加がみられたことから,早期の腎障害を反映している可能性があると提唱した12)。その他にも,尿沈渣成分の腎臓病態に関する横断的研究はいくつかあるが,縦断的に追跡した報告はほとんどない。本研究では尿中硝子円柱数とその後の腎機能変化について検証し,尿中硝子円柱の腎機能予後予測マーカーとしての可能性を検討した。
岐阜大学医学部附属病院検査部において,2015年2月から4月に生化学検査並びに尿検査の提出のあった症例のうち,尿蛋白定性が陰性((−)もしくは(±))であった250例を対象とした。対象症例の特性をTable 1に示す。なお,本研究は岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2023-204)。
Sex (male/female), n | 154/96 |
Age (years)* | 70 (64–75) |
Serum creatinine (mg/dL)* | 0.83 (0.70–1.01) |
eGFRcre (mL/min/1.73 m2) | 63.8 (52–76.5) |
Urine paper protein (−/±), n | 237/13 |
Urine albumin to creatinine ratio (mg/gCr)* | 7.1 (2.1–22.8) |
GFR stage (G1/G2/G3a/G3b/G4/G5), n | 24/118/82/20/4/2 |
Albuminuria grade (A1/A2/A3), n | 217/33/0 |
CKD severity categories (Green/Yellow/Orange/Red), n | 128/83/31/8 |
Urinary hyalin cast/WF (< 10/10–29/30–99/≥ 100), n | 108/65/32/45 |
*, data were expressed by median (25–75 percentile); eGFRcre, glomerular filtration rate from serum creatinine; GFR, glomerular filtration rate; CKD severity categories, categorized by the 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease by KDIGO.
対象検体について,日本臨床検査標準協議会(JCCLS)尿沈渣検査法2010(GP1-P4)に従い13),尿沈渣成分である硝子円柱を分類した。硝子円柱数のカウントは1名の認定一般検査技師が全視野(whole field; WF)観察により実施し,硝子円柱数を < 10,10–29,30–99,≥ 100/WFの4群に分類した。尿沈渣検査時をベースラインとして,血清クレアチニン(creatinine; Cre)および尿蛋白定性の検査値の推移を調べた(平均観察期間2.7年)。血清Cre値,性別,年齢から推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate from creatinine; eGFRcre)を算出し,CKD診療ガイド2012のCKD重症度分類に則り14),eGFRcre値及び尿蛋白定性結果からCKD重症度分類(Green, Yellow, Orange, Red),GFR区分(G1, G2, G3a, G3b, G4, G5),蛋白尿区分(A1, A2, A3)に分類した。なお,蛋白尿区分はベースライン時のみ尿中アルブミン定量値/クレアチニン比(A/C比)を基準として分類し,追跡調査は尿蛋白定性(P/C比)の結果を参照とした。CKD重症度分類,GFR区分,蛋白尿区分のそれぞれが進行した時点をエンドポイントとして,ハザード比及び累積発生率を尿中硝子円柱数に応じて算出した。
3. 統計解析ベースライン時の尿中硝子円柱数別のeGFRcre値比較はSteel-Dwassの多重比較検定,ベースライン時の尿中硝子円柱数と腎機能病態進行症例数の関係はCochran-Armitageの傾向検定,病態進行のハザード比算出はCox比例ハザードモデル,累積発生率の比較はLog-Rank検定及びWilcoxon検定を用いた。全ての統計解析はJMP 13.2.1(SAS Institute Inc.)により実施した。
対象群におけるベースライン時の尿中硝子円柱数を < 10,10–29,30–99,≥ 100/WFの4群に分け,同日に採取された血清により算出したeGFRcre値と比較を行った(Figure 1)。尿中硝子円柱数 < 10/WF群に比較し,10–29/WF群(p < 0.001),30–99/WF群(p = 0.048),≥ 100/WF群(p < 0.001)のいずれにおいても,eGFRcre値は有意に低値であった。また,10–29/WF群に比較し ≥ 100/WF群で有意に低値(p = 0.003)であったが,10–29/WF群と30–99/WF群(p = 1.00),30–99/WF群と ≥ 100/WF群(p = 0.075)の間には有意な差は認められなかった。
*, p < 0.05; †, p < 0.01; ‡, p < 0.001, p values were calculated by Steel-Dwass test, eGFRcre, estimated glomerular filtration rate from serum creatinine, WF; whole field.
対象症例のeGFRcre値およびP/C比を最大8年間追跡調査し,CKD重症度分類,GFR区分,蛋白尿区分のそれぞれが進行した症例数を算出した(Figure 2)。250例のうち,CKD重症度分類の進行を認めた症例は183例(73.2%),GFR区分の進行を認めた症例は161例(64.4%),蛋白尿区分の進行を認めた症例は170例(68.0%)であった。いずれの進行症例数とベースライン時の尿中硝子円柱数との間に有意な傾向は認めなかった(CKD重症度分類:p for trend = 0.47,GFR区分:p for trend = 0.093,蛋白尿区分:p for trend = 0.15)。
A: CKD severity, B: GFR stage, C: Albuminuria grade.
CKD severity, GFR stage, and Albuminuria grade were categorized by KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease; CKD, chronic kidney disease; GFR, glomerular filtration rate; WF, whole field.
尿中硝子円柱数10/WF,30/WF,100/WFをカットオフ値としてCKD重症度分類,GFR区分,蛋白尿区分進行のハザード比をそれぞれ算出した(Table 2)。CKD重症度分類,GFR区分では尿中硝子円柱数 < 10/WF群と ≥ 10/WF群で有意なハザード比となったが,< 30/WF,< 100/WFをカットオフ値とした場合には有意差は得られなかった。これらはベースライン時のeGFRcre値による補正後も同様の結果であった。一方,蛋白尿区分に対するハザード比はいずれの尿中硝子円柱数群においても有意な差はみられず,eGFRcre値補正後も同様の結果であった。
Baseline urinary hyaline cast (/WF) | Crude | eGFRcre adjusted | ||
---|---|---|---|---|
Hazard ratio (95% CI) | p value | Hazard ratio (95% CI) | p value | |
CKD severity | ||||
≥ 10 | 1.43 (1.07–1.92) | 0.016 | 1.56 (1.14–2.15) | 0.005 |
≥ 30 | 1.18 (0.86–1.61) | 0.31 | 1.26 (0.89–1.76) | 0.18 |
≥ 100 | 1.15 (0.77–1.66) | 0.49 | 1.26 (0.81–1.9) | 0.30 |
GFR stage | ||||
≥ 10 | 1.59 (1.16–2.2) | 0.004 | 1.85 (1.32–2.62) | < 0.001 |
≥ 30 | 1.23 (0.88–1.7) | 0.23 | 1.36 (0.95–1.92) | 0.094 |
≥ 100 | 1.17 (0.78–1.71) | 0.44 | 1.31 (0.85–1.96) | 0.22 |
Albuminuria grade | ||||
≥ 10 | 1.44 (0.89–2.35) | 0.13 | 1.58 (0.95–2.64) | 0.076 |
≥ 30 | 1.55 (0.86–2.69) | 0.14 | 1.41 (0.64–2.73) | 0.37 |
≥ 100 | 1.64 (0.9–2.89) | 0.10 | 1.48 (0.67–2.9) | 0.31 |
CKD severity, GFR stage, and Albuminuria grade were categorised by the 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease by KDIGO.
GFR, glomerular filtration rate; WF, whole field.
尿中硝子円柱数 < 10/WF群と ≥ 10/WF群でCKD重症度分類,GFR区分,蛋白尿区分の進行の累積発生率の比較を行った(Figure 3)。CKD重症度分類進行は1年以内に < 10/WF群で29.1%に対し ≥ 10/WF群で46.5%,5年以内に < 10/WF群で73.1%,≥ 10 WF群で80.4%に認め,Log-Rank検定p = 0.016,Wilcoxon検定p = 0.002と,尿中硝子円柱数 ≥ 10/WF群で有意に高い発生率となっていた。GFR区分進行についても同様に1年発生率が < 10/WF群18.3%,≥ 10/WF群32.5%,5年発生率が < 10/WF群48.6%,≥ 10/WF群67.1%であり,Log-Rank検定p = 0.004,Wilcoxon検定p = 0.002であった。また,蛋白尿区分の進行は1年発生率が < 10/WF群で23.4%,≥ 10/WF群で37.7%,5年発生率が < 10/WF群で69.6%,≥ 10/WF群で77.1%,Log-Rank検定p = 0.024,Wilcoxon検定p = 0.003であった。
A: CKD severity, B: GFR stage, C: Albuminuria grade.
P values were calculated by Wilcoxon test; CKD severity, GFR stage, and Albuminuria grade were categorized by KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease; CKD, chronic kidney disease; GFR, glomerular filtration rate.
本研究では尿蛋白定性陰性症例を対象として尿中硝子円柱数別にCKD重症度の追跡調査を行った。ベースライン時において尿中硝子円柱数が多い症例はeGFRcre値が低いことが示され,尿中硝子円柱数が将来的なGFR区分進行に関係することが示唆された。特に尿中硝子円柱数が ≥ 10/WFの症例はCKD重症度分類の進行リスクが1.4倍程度高値となった。その進行は5年以内に尿中硝子円柱数 ≥ 10/WFの症例の80.4%に観察された。我々は以前にeGFRの低下,尿中A/C比の増加に伴い,尿中硝子円柱数が増加することを報告しており12),A/C比 < 30 mg/gCr,CKD重症度分類蛋白尿分類A1の症例においてもeGFRの低下に伴い尿中硝子円柱数が増加していた。本研究でも同様にベースライン時においてeGFRcreと尿中硝子円柱数との間に負の関係性があることが示された。
CKD進行には尿中アルブミン高値や高LDL-コレステロール,糖尿病,高血圧などが関与すること15),16)やCKD進行による腎代替療法への移行を予測する方法として血中Cre,シスタチン-C,尿素,ヘモグロビン,アルブミン,尿中A/C比を用いた予測モデル17)が提唱されている。しかしながら,尿中硝子円柱数と将来的な腎機能悪化との関係に言及した報告はなく,横断的な報告がほとんどである。本研究では尿中硝子円柱数が将来的な腎機能低下を反映するかという点に着目し,尿蛋白陰性症例を対象として最大8年間の追跡調査を行った。その結果,ベースライン時の尿中硝子円柱数と腎機能低下率には有意な傾向は認められなかった。しかしながら,GFR区分の進行においてベースライン尿中硝子円柱数 < 10/WF群は他の群に比較して,進行症例が少ない傾向を認めた。さらに,ベースライン尿中硝子円柱数が ≥ 10/WFの群は < 10/WFの群に比較し,CKD重症度が進行するリスクが約1.4倍上昇することが明らかとなり,ベースラインeGFRcre値による補正後も有意なハザード比が観察された。加齢により腎機能は低下傾向を示すため,ベースライン尿中硝子円柱数が ≥ 10/WFの群,< 10/WFの群ともに最終観察ポイントでは8割以上の症例でCKD重症度進行を認めたが,硝子円柱数 ≥ 10/WFの症例群ではより早期にCKD重症度の進行を認めた。GFR区分進行に対するハザード比はCKD重症度進行に対するハザード比に比較しわずかに高値であったが,蛋白尿区分進行に対するハザード比では有意差は検出されなかった。一方,累積発生率では蛋白尿区分進行を含め,いずれも有意な差が観察された。蛋白尿区分進行は特に観察期間の初期に観察されており,時間依存性の影響により全体としてのハザード比は有意差が検出されず,特に初期のイベントに鋭敏とされる累積発生率のWilcoxon検定では有意差が検出されたものと推測される。また,ベースライン尿中硝子円柱数のカットオフ値を < 30/WF,< 100/WFとした場合ではいずれも有意差は検出されなかった。そのため,尿蛋白陰性症例において尿中硝子円柱数により数年以内の腎機能低下を予測できる可能性が示され,その進行予測カットオフ値としては < 10/WFとすることが望ましいことが推測された。
尿中有形成分の中でも硝子円柱は病的な円柱である顆粒円柱やろう様円柱の土台となる基礎円柱であることが示されている。本研究では追跡調査時に尿沈渣検査を行っていないが,硝子円柱が多数観察される場合は,腎不全など腎機能低下の著しい症例でみられる病的円柱の出現に繋がり,その前段階となる可能性がある。本研究結果からも尿中硝子円柱数が多数見られる症例は早期に腎機能低下を来していることから,硝子円柱の大量出現は病的円柱出現の前段階である可能性を示唆する所見と言える。また,腎機能障害のない患者において硝子円柱の出現は血漿中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)の上昇を示唆することが報告されており18),心腎連関としてのCVDリスク推定因子としての意義も注目されている。尿沈渣成分である各種円柱類は腎臓や尿細管関連病態を反映することが広く知られている19),20)。しかしながら,硝子円柱と腎病態に関する報告は少ない。本研究により尿中硝子円柱のCKD病態に対するスクリーニング的意義だけでなく,腎機能低下の予測因子としての可能性が示された。尿沈渣検査は特別な分析装置を必要とせず,簡便に実施可能という利点を有する。そのため,多くの施設で実施可能な検査ではあるが,硝子円柱形態の判定は経験的判断に因るところが大きい。星ら21)が2014年に提唱した硝子円柱判定フローチャートが活用され始めてはいるが,硝子円柱形態判定の標準化の実態も把握できていない現状がある。尿中硝子円柱数の臨床的意義確立のためには,標準化の達成が不可欠である。
本研究にはいくつかの制限がある。一つはベースラインではCKD重症度分類蛋白尿区分についてA/C比を基準としているが,経過観察時は追跡可能な検査結果として試験紙法による尿蛋白定性を用いている点がある。今後の研究課題として,A/C比の推移に注目し定量値としての変化を追跡する必要がある。本研究はベースラインeGFRcre補正後も有意なハザード比が検出されたが,対象症例は男性が61.6%であり,年齢中央値が70歳と高齢の症例が多い。また,尿蛋白陰性症例全体を対象とした解析であるため,糖尿病や高血圧,脂質異常症などの患者背景による影響を含め,症例数を増やし詳細な解析を行う必要があると考えられる。さらに,本研究ではベースライン時のみの尿中硝子円柱数を用いており,硝子円柱が一過性に出現している可能性を否定できない。そのため,他の尿沈渣成分を含め経時的変化を観察する必要がある。また,尿中硝子円柱の判別は尿沈渣検査法2010(GP1-P4)に従い実施しているが,1名の認定一般検査技師による判定であるため本結果が臨床に広く適用できるかについて,多施設での検証を行う必要がある。CKD重症化予測指標として血中バイオマーカー等を用いた研究が盛んであるが22)~24),いずれもコスト面や汎用性に課題がある。尿中硝子円柱数は測定装置を必要とせず,多くの施設で実施可能であることから,腎機能の病態スクリーニング及び予後スクリーニングマーカーとしての有用性が期待できる。
尿蛋白定性陰性症例を対象として,尿中硝子円柱数が将来的な腎機能低下を反映するかについて検証を行った。最大8年間の追跡調査の結果,ベースライン尿中硝子円柱数が ≥ 10/WFの群は < 10/WFの群に比較し,CKD重症度の進行するリスクが有意に上昇することが明らかとなった。尿蛋白陰性であっても尿中硝子円柱数が多数認められる症例は将来的な腎機能悪化リスクを抱えていることが予測される。今後は,尿中硝子円柱数の臨床的意義確立のために,多施設による検証を行い,病態識別値の設定とともに標準化の状況調査を行う必要がある。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。