2024 年 73 巻 3 号 p. 453-459
キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)療法は,再発又は難治性のCD19+びまん性大細胞型B細胞リンパ腫,急性リンパ芽球性白血病および濾胞性リンパ腫に対する新しい免疫細胞療法である。当院ではCAR-T療法を開始するために,輸血部を中心とした細胞採取・調製・凍結・保管・発送・製品受領を行う一元管理体制を構築し,2022年1月に1症例目の細胞採取を実施した。2022年1月~2023年4月の15ヶ月間で10症例(計13回)のリンパ球採取~製品の受領を行った。我々は採取効率を算出するために,これまでの症例経験を後方視的に解析した。その結果,末梢血CD3+リンパ球数と末梢血リンパ球数は,採取産物の総CD3+リンパ球数と有意な相関を認めた。また,総CD3+リンパ球数と総有核細胞数も有意な相関を認めた。一方で,ヘモグロビン値,末梢血CD3+リンパ球数,末梢血リンパ球数,血小板数,年齢と採取効率には有意な相関を認めなかった。今回の検証を通して,当院輸血部臨床検査技師は5名であり,そのうちCAR-T療法サポート技師は2名と人員はコンパクトではあるが,効率的かつ安全に作業を行うことができていることが明らかとなった。また,一元管理体制は医師が紹介元施設との診療連携体制の構築と治療に専念できる効率的な体制であることも明らかとなった。今後もデータを集積し,より安全かつ効率的な運用を目指していきたい。
Chimeric antigen receptor gene-transfected T cell (CAR-T) therapy is a treatment for relapsed/refractory CD19+ diffuse large B-cell lymphoma, acute lymphoblastic leukemia, and follicular lymphoma. In order to start CAR-T therapy, we established a centralized management system for cell collection, preparation, freezing, storage, shipping, and product receipt centered on the Blood Transfusion Department, and performed cell collection for the first case in January 2022. We have conducted 10 cases of lymphocyte collection and product receipt over a 15-month period. We performed a backward-looking analysis of our case experience to calculate collection efficiency. We found that the number of CD3+ lymphocytes in peripheral blood and the number of lymphocytes in peripheral blood were significantly correlated with the total number of CD3+ lymphocytes. A significant correlation was also observed between the total CD3+ lymphocyte count and the total number of nucleated cells. On the other hand, hemoglobin level, peripheral blood CD3+ lymphocyte count, peripheral blood lymphocyte count, platelet count, age, and collection efficiency showed no significant correlation. Through this verification, it became clear that although the number of biomedical laboratory scientist in our transfusion department is compact, with only two CAR-T therapy support stuffs among them, they are able to perform their work efficiently and safely. It was also clear that the centralized management system is an efficient system that allows physicians to concentrate on establishing a system of medical care coordination with the referring institution and on treatment. We will continue to accumulate data and aim for safer and more efficient operation.
キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)療法は遺伝子改変T細胞による養子免疫療法の一種で,患者から採取したT細胞に遺伝子改変を加えたのち,再び患者体内に戻し抗腫瘍効果の発現を期待する治療法である。国内では,2019年3月に再発又は難治性のCD19+びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)・急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)に対して,ノバルティス社のCD19標的CAR-Tであるチサゲンレクルユーセル(キムリア)1)が再生医療等製品として最初に承認され,2022年8月には濾胞性リンパ腫(FL)が適応疾患に追加された。当院は県内唯一の医学部附属病院であり,「特定機能病院として高度な医療の提供」「先進医療の推進」を掲げていることから,キムリアの導入準備を行うことになった。導入にあたり,当院検査室は臨床検査向け品質規格であるISO 15189を2019年11月に認定取得していることから整備済みの文書体系を活用できる,また厚生労働省による医師の働き方改革を進めるためのタスクシフティングの双方の観点から,輸血部の臨床検査技師(細胞治療認定管理師)を中心として細胞採取・調製・凍結・保管・発送・製品受領を行う一元管理体制を構築することとした。
キムリアの治療施設に認定されるためには,原料採取から製品投与までの品質マネジメントシステムの構築と,事前適格性監査を受審する必要がある。再生医療等製品の原材料となる細胞を扱うため,GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)・GCTP(再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準)に準じた作業が求められる2)。そのためハード面の整備において,当院はセルプロセッシングセンター(CPC)を有していないため,従来からある細胞培養室を改修し,細胞調製室と前室に分けた。そして細胞調製室の安全キャビネットをグレードAの清浄度,その他はグレードD相当の清浄度とした。成分採血室に成分採血装置を,前室には大容量冷却遠心機・冷蔵庫,新規購入したプログラムフリーザー・ディープフリーザー(−150℃)を設置した(Figure 1)。成分採血装置・大容量冷却遠心機・プログラムフリーザーはそれぞれ1台ずつしか有していないため,メンテナンスの強化と,プログラムフリーザーにおいては故障時に簡易凍結法で凍結を行うこととした。また,それぞれの部屋にエアコンを設置し,温湿度管理を徹底し,前室と細胞調製室の入退室時にヘアキャップ・ガウン・シューカバー・手袋を装着脱することで汚染の低減を図った。一度に入室できる人数は4名までとした。清掃は週1度実施して,清浄度を維持するようにした。ソフト面の整備では,ISO 15189(2019年認定)の文書体系を活用し,手順書と記録類の整備を行った。品質マニュアル,機器・資材管理,逸脱管理,文書管理,内部監査,教育訓練の手順書は既存のものを細胞治療向けに改編し,細胞採取・調製,入退室・細胞調製室管理,機器類の手順書は新たに作成した。また,白血球数およびCD3+リンパ球数の測定は検査部で行うこととした。既存の設備を利用することで,設備管理・維持費用や業務量を抑えつつ,作業エリアの清浄度を確保することができた。これらの準備を開始してから約半年後の2021年9月に監査を受け,同年11月に認定を取得するに至った。翌年1月には第1回目の細胞採取を実施した。
The blood collection room, cell preparation room, and transfusion laboratory are all located next to each other in a compact design.
細胞採取手順は,成分採血室で成分採血装置Spectra Optia(TERUMO BCT)の連続式単核球採取(CMNC)モードを使用して行った。抗凝固剤はACD-A液を用いた。採取時には,看護師1名と臨床検査技師2名が在室し,患者の入室確認と,採取中のモニタリングを実施した。また,成分採血装置の操作は臨床検査技師が行った。臨床検査技師の1名は細胞採取部門専任担当技師,もう1名はダブルチェックを行う技師とした。穿刺および抜針は輸血部または血液内科医師が行い,常に在室はしないが,採取中のトラブル等にはすぐに対応できる体制を構築した3),4)。成分採血室のすぐ近くに輸血検査室が位置するため,専任担当の臨床検査技師以外は輸血検査との兼任も可能とした。採取終了後採取物をサンプリングし,多項目自動血球分析装置XN-9100(Sysmex株式会社)で白血球数,フローサイトメーターFACS Lyric(BD)でCD3+リンパ球数,全自動セルカウンターTC20(BIORAD)で生細胞率の測定を行った。
2. 細胞調製細胞採取時にダブルチェックを実施していた臨床検査技師が細胞調製部門専任担当技師となって作業を行った。細胞採取部門専任技師はダブルチェックおよび作業のフォローを行った。まず,遠心処理が必要な場合は前室にて無菌接合装置を用いて採取産物を血液成分分離バック(TERUMO分離バック)に移動させ大容量冷却遠心機9920(久保田商事)で遠心した。その後分離スタンドを用いて別の分離バックに上清を除去し,保存液添加後の最終細胞濃度が規定値になるように調製した。次に更衣を行い,細胞調製室に入室する際は体調と時刻を記載した。そして安全キャビネットHE-S1300A2(Panasonic)内の清浄度を測定後,採取物と保存液(生理食塩水,25%ヒトアルブミン,DMSOを混合)を等量混合した。最後に等量混合物を凍結バックとQCバイアルチューブに分注した。資材は細胞調製室搬入時,安全キャビネット内搬入時のそれぞれで消毒作業を行い,パスボックスがないため慎重に実施した。作業中,ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地を用いて落下菌のサンプリングを行い細菌室で培養,5日後に菌が生えていないか判定した。作業終了後,細胞調製室を退室し,脱衣および時刻を記載した。細胞調製室も成分採血室のすぐ隣に位置するため,細胞採取後すぐに調製を実施することができ,移動時間の短縮と作業の効率化・運搬や受け渡し時のリスク低減の体制を構築した。
3. 細胞凍結・保管細胞調製に続き,臨床検査技師2名で前室のプログラムフリーザー7473(フタバメディカル)で凍結処理を行った。プログラムフリージングが終了した後,凍結バックに破損等がないことを確認し,同じ前室にあるディープフリーザーCLN-2300CWE(日本フリーザー)に保管した。
4. 細胞発送責任医師に出荷判定を行ってもらった後,別日(約1週間後)に梱包作業を行った。ディープフリーザーから出庫後,速やかな作業とダブルチェックが求められるため,臨床検査技師2名が対応した。ドライシッパーにバックを格納し,その後運送業者に引き渡した。
5. 製品受領約5~6週間後,ドライシッパーに格納され納品された製品の確認を行い,ディープフリーザーに入庫した。この作業もダブルチェックが必要なため,臨床検査技師2名で対応した3),4)。
対象期間中の運用実績とCD3+細胞数予測指標の検討を行った。2022年1月~2023年4月の間に10症例(計13回)のリンパ球採取~製品の受領を行った。症例はDLBCL 9症例,FL 1症例であった。年齢中央値67歳(範囲61~75),体重中央値63 kg(34~77),アフェレーシス前のヘモグロビン値,血小板数,末梢血白血球数,末梢血リンパ球数,末梢血CD3+リンパ球数の中央値はそれぞれ9.0 g/dL(8.0~12.9),167 × 103/μL(65 × 103~306 × 103),3.46 × 103/μL(2.82~9.33),980/μL(147~1,682),773/μL(166~1,190)であった。全血処理量の中央値は9.4 L(5.2~15.2),全血液量(TBV)の中央値は2.8 L(1.4~3.3)であった(Table 1)。採取件数が10件を超えてから採取効率を算出した。採取効率は,採取効率(%)=【白血球アフェレーシス産物における総CD3+リンパ球数】/【末梢CD3+リンパ球数 × 106/L × 処理に必要な循環血液量(L)】 × 100の計算式から算出した(同一機器/手順を固定にした採取10件以上から算出)。その後ヘモグロビン値(A),末梢血CD3+リンパ球数(B),末梢血リンパ球数(C),血小板数(D),年齢(E)と採取効率の相関を確認した5)。また末梢血CD3+リンパ球数,末梢血リンパ球数と採取産物の総CD3+リンパ球数,末梢血CD3+リンパ球数,末梢血リンパ球数とTNC,総CD3+リンパ球数とTNCの相関も確認した。P値 < 0.05を統計学的有意とした。採取効率の平均値は55%,中央値は52%(39~74)であった。採取前のヘモグロビン低値,末梢血CD3+細胞数と血小板高値,高齢は採取効率を低下させるとの報告があるが6),当院では有意な相関を認めなかった(Figure 2)。製造には,総有核細胞数(TNC)を2 × 109個,総CD3+リンパ球数を1 × 109個,TNCに対するCD3+リンパ球数の割合が3%以上を送付する。それぞれの中央値は5.8 × 109個(2.0~11.0),4.2 × 109個(0.8~7.8),55%(19~81)であった。末梢血CD3+リンパ球数と採取産物の総CD3+リンパ球数はr = 0.653と正の相関を認めた(Figure 3A)。末梢血リンパ球数と採取産物の総CD3+リンパ球数もr = 0.703と非常に高い相関を認めた(Figure 3B)。末梢血CD3+リンパ球数,末梢血リンパ球数とTNCは有意な相関を認めなかったが,採取産物の総CD3+リンパ球数とTNCはr = 0.860と非常に高い相関を認めた(Figure 3C)。末梢血CD3+リンパ球数,末梢血リンパ球数と採取産物の総CD3+リンパ球数の相関が認められたことから,これらの数より必要な目標CD3+細胞数の予測が可能であると考えられた。さらに採取産物の総CD3+リンパ球数とTNCの相関が認められたことから,採取産物の総CD3+リンパ球が十分に採取されていれば製造に必要なTNCも採取されている可能性が高いことが示された。採取効率に影響を与える因子に関しては,有意な相関を認めなかったため,今後症例数を増やして再検討が必要であると考える。
Physical data | Median (range) |
---|---|
Median age at apheresis, years | 67 (61~75) |
Body weight, kg | 63 (34~77) |
Pre-apheresis peripheral blood data | Median (range) |
Hemoglobin, g/dL | 9.0 (8.0~12.9) |
Platelets, ×103/μL | 167 (65~306) |
WBC, ×103/μL | 3.46 (2.82~9.33) |
Lymphocytes, /μL | 980 (147~1,682) |
CD3+ cells, /μL | 773 (166~1,190) |
Apheresis information | Median (range) |
Total blood volume processed, L | 9.4 (5.2~15.2) |
Collected total cell counts, ×109 | 5.8 (2.0~11.0) |
Collected CD3+ cells, ×109 | 4.2 (0.8~7.8) |
Collection efficiency of CD3+ cells, % | 52 (39~74) |
(A) Hemoglobin level, (B) peripheral blood CD3+ lymphocyte count, (C) peripheral blood lymphocyte count, (D) platelet count, (E) age.
(A) Correlation between total CD3+ lymphocyte count and peripheral blood CD3+ lymphocyte count, (B) Correlation between total CD3+ lymphocyte count and peripheral blood lymphocyte count, (C) Correlation between total CD3+ lymphocyte count and total nucleated cell count (TNC).
細胞採取と細胞調製の作業時間については最初の3症例を除き,それぞれ245~302分,142~205分,合わせた時間で387~507分であったことから,9時から細胞採取を開始し17時頃には凍結保管を完了することができた(Figure 4)。1症例目は初回で不慣れであったこと,2,3症例目は末梢血CD3+リンパ球数,末梢血リンパ球数が低値であったことから,2日間の採取が必要となった。4症例目以降は作業手順に慣れてきたこともあり,ほぼ一定の時間でスムーズに作業を終えることができた。限られた人員で作業を行っているため,細胞採取中に交互に休憩をとるなどして,時間を確保した。一連の作業において有害事象や逸脱事例を認めることなく,また製造失敗もなく無事終了することができた。10件以上のリンパ球採取を終え採取効率が算出されたため,処理に最低限必要な循環血液量の推定値(CD3+リンパ球数の目標細胞数/採取効率 × 末梢CD3+リンパ球数 × 106/L)を求めることにより,細胞採取時間の短縮が見込まれる。また目標CD3+細胞数の予測が可能となったこともあり,末梢血CD3+リンパ球数,末梢血リンパ球数が低値であった場合は長時間のアフェレーシスが必要となると思われるが,今後は更なる作業時間の短縮が期待される。
今後,免疫細胞療法の発展に伴い,細胞採取・処理の件数や他の再生医療等製品取扱いが増加する可能性があるため,人員の養成が急務である。教育訓練実施手順書に基づき,新任者や復職者には業務ごとの教育訓練を行い,既に業務を行っているスタッフに対しても関連する研修会に参加したり,院内で勉強会を開催したりするなどして,知識や技術の確認と最新情報の習得を図りたいと考えている。そして,適宜,運用体制の見直しも行っていきたい。また,今後は症例の採取効率やそれに影響を与える因子,製造に要求される最小細胞数のデータを集積して,アフェレーシスの最適化を図りたい。
臨床検査技師を中心とした細胞採取・調製・凍結・保管・発送・製品受領を行う一元管理体制を構築することで,医師は紹介元施設との診療連携体制の構築と製剤投与・治療に専念していただくことができている。また,同一の臨床検査技師が細胞採取から製品受領までの全過程を把握することにより,効率的に作業を進めることができ,万が一のトラブルが発生した場合でもスムーズな対応が可能であると考える。CAR-T細胞療法は予後不良な再発・難治性の若年者B-ALLおよびDLBCL・FLの画期的な治療法である。これまで有効な治療法がなかった疾患の治療ができるようになり,患者からの期待も高まっている。今後も細胞治療チームの一員として輸血部の臨床検査技師が積極的に関わり,治療の最後の砦ともなりえるため,細胞採取から製品受領までの質を担保し,より安全な運用を目指していきたい。
本研究は,岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理審査委員会にて承認されている(承認番号:2023-084)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。