医学検査
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原著
当院における採血管内凝固検体を除外する運用手順の検証
倉島 佳歩山下 智江佐藤 伊都子河野 瑠璃福岡 知也宮田 吉晴矢野 嘉彦松岡 広
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2024 年 73 巻 4 号 p. 644-651

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Abstract

血液凝固検査は,術前の止血能力や出血・血栓傾向を示す病態の把握,抗凝固薬の治療効果のモニタリングなど適切な診断治療を行うために必須の検査である。当院検査部では,検体受入れ時に凝固塊の有無を確認した後,凝固検査に不適切と判定する基準として以下①~③の内,1つでも当てはまる場合に再採取を依頼している。①同時採取されたCBCで凝固が疑われた。②検査値異常(APTT・PT等の前回値との乖離,APTTの短縮,装置測定エラー)が出現。③測定後の赤血球層に凝固塊を確認。判断基準①~③の各々で,凝固疑い検体が凝固や線溶の亢進を示していたか検証することを目的とした。再採取と判断した採血管内凝固疑い検体と再採取検体の101ペアを対象とし,後日APTT,PT,フィブリノゲン,FDP,D-ダイマー,FM,TAT,PIC,tPAI·Cを測定した。最初に判断した割合は,①CBC凝固疑いが57件(56%),②検査値異常が34件(34%),③測定後の凝固塊確認が10件(10%)であった。採血管内凝固疑い検体と再採取検体において,判断基準①,②では全ての項目で有意差を認め,判断基準③ではAPTT,D-ダイマー,PIC以外の項目で有意差を認めた。採血管内凝固を除外する手順として多段階で基準を設け,不適切と判断する運用が有用であることを確認できた。当院の判断指標により抽出された検体の測定値が,再採取検体の検査値と比較して有意な変動を示したことから,凝固や線溶の亢進が起こっていたことが明らかとなった。

Translated Abstract

Blood coagulation tests are essential for accurate diagnosis and treatment, including assessment of preoperative hemostasis, identification of bleeding or thrombophilia, and monitoring the efficacy of anticoagulant therapy. In our laboratory, blood sample re-collection for coagulation tests is requested if any of the following three criteria are met: (1) Coagulation is suspected in a concurrently collected CBC. (2) Abnormal test values are detected (deviation from the previous APTT, PT values, etc., shortening of APTT, or measurement errors). (3) Clot formation is observed in the erythrocyte layer post-measurement. In this study, we evaluated to verify whether the suspected coagulation specimens increased coagulation or fibrinolysis in each of the three criteria. We analyzed 101 pairs of suspected coagulation and re-collected specimens and performed the following tests on another day: APTT, PT, fibrinogen, FDP, D-dimer, FM, TAT, PIC, and tPAI·C. The proportions of the initial criteria were as follows: (1) suspected CBC coagulation in 57 cases (56%), (2) abnormal test values in 34 cases (34%), and (3) confirmation of coagulum post-measurement in 10 cases (10%). Criteria (1) and (2) showed significant differences for all items, whereas criterion (3) showed significant differences except for APTT, D-dimer, and PIC. Our results support the effectiveness of a multi-step procedure for excluding unsuitable samples. The test values of coagulation-suspected specimens confirmed by the operational procedure showed significant fluctuations compared to re-collected specimens. Therefore, re-collecting revealed elevated levels of coagulation or fibrinolysis in the coagulation-suspect specimen.

I  はじめに

凝固線溶検査は,術前の止血能力や出血・血栓傾向を示す病態の把握,抗凝固薬の治療効果のモニタリングなど適切な診断治療を行うために必須の検査である。採血直後から凝固カスケードが進行するため,採血手技や検体取扱い等の測定前プロセスが,検査値に大きく影響を与える。採血管の種類とクエン酸ナトリウムの濃度,血液との比率,遠心分離条件,温度等,検体取扱いの重要性が日本検査血液学会標準化委員会の凝固検査標準化ワーキンググループより示されている1),2)。さらに,国際的な検査の標準化に関わるCLSI(Cilnical and Laboratory Standards Institute)やICSH(International Council for Standardization in Haematology)より,採血管内凝固の検体は,凝固検査に不適切とされている3),4)。しかし,臨床現場での採血手技や転倒混和不足など検体採取時に起こり得る様々な要因に起因する不適切な検体は,検査室では検体受入れ時に,肉眼的に検体凝固がないこと(凝固塊の有無)や規定量採取不備を確認する手段しかないのが現状である。検体受入れ後に,採血管内凝固が進行している検体で測定した場合は,患者病態と乖離した検査結果を報告することに繋がるため,適切な検体を再採取する必要があるが,その明確な基準はない。

今回,当検査部において検体受け入れ後に採血管内凝固を疑い,不適切と判断した基準について,APTT,PT,フィブリノゲン,FDP,D-ダイマー,可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC),トロンビンアンチトロンビンIII複合体(TAT),プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC),組織プラスミノゲンアクチベータ・プラスミノゲンアクチベータインヒビター-1複合体(tPAI·C)の9項目を測定し,採血管内凝固を疑った検体が凝固や線溶亢進を示していたかの検証を行った。

II  対象と方法

1. 対象

2021年9月22日から2022年2月3日の期間に提出された入院および外来患者の凝固線溶検査40,025検体のうち,検体受入れ後に再採取が必要と判断した採血管内凝固疑い検体と再採取検体のペア検体を抽出した。このなかから,HBV等の感染が疑われる検体,検査実施に必要な規定採血量(抗凝固剤3.2%クエン酸ナトリウム:血液=1:9)5)が確保できなかった検体を除いた101ペア検体を対象とした。但し,検体受入れ時(測定前)に目視にて規定採血量不備や凝固塊を認めた検体は除外とした。

2. 検体処理方法

採取管は,積水メディカル社のインセパックII(3.2%クエン酸ナトリウム入り)を用い,受入れ検体は速やかに遠心分離(25℃ 2,000 × g 10分)し検査を実施した。測定後に採血管内凝固を疑った検体は,臨床現場へ再採取を依頼した。再採取検体の到着後は同様に測定を行った。測定後の検体は室温(22–25℃)に静置した。採血管内凝固疑い検体と再採取検体は,検体到着後4時間以内にそれぞれ血漿1 mLをスクリューキャップ付きチューブに分注し,−80℃で凍結保管した。

3. 採血管内凝固の判断基準

検体受入れ後に,採血管内凝固を疑う判断基準として,時系列に以下①,②,③を用いた(Figure 1)。判断基準①:同時採取され,凝固検査より迅速に結果が判明する血算結果および鏡検にてフィブリン析出を確認し,検体凝固を疑った検体。血算結果で疑う基準は多項目自動血球分析装置XNシリーズXN-9000(シスメックス社)にてエラーフラグ(PLT Clumps?)の出現,前回値からの血小板数の減少,凝固塊の有無を指標とした。エラーフラグ(PLT Clumps?)の出現時にはスメアを作成し,フィブリン析出および血小板凝集の有無を確認したため,EDTA依存性血小板凝集は含まない。血小板数の減少は,設定された計算式からエラーフラグがついた検体を前回値との乖離と判断した。判断基準②:凝固検査値の異常としてAPTTやPT等の前回値との乖離,APTTの短縮,装置測定エラーが出現した検体。凝固検査値の前回値との乖離は,設定された計算式からエラーフラグがついた検体,装置測定エラーは全てのエラーを対象とした。判断基準③:測定後の赤血球層に凝固塊が確認された検体。判断基準③は全検体に対し,目視で赤血球層を確認し,凝固塊が疑われる検体はスポイトを用いて凝固塊の有無の確認を行った。

Figure 1  採血管内凝固を疑う判断基準

いずれかに該当した検体は採血管内凝固を疑い,再採取を依頼した。複数の判断基準に該当した検体は,最初に採血管内凝固を疑った判断基準にて検証した。

4. 測定機器と試薬

当院では,凝固検査はシスメックス株式会社の全自動血液凝固測定装置CS-5100,血算値の測定は同社の多項目自動血球分析装置XNシリーズXN-9000を使用している。

検証にはシスメックス株式会社の装置(全自動血液凝固測定装置CN-6000及び全自動免疫測定装置HISCL-5000)を使用した。測定試薬は,APTT:レボヘムAPTT SLA,PT:レボヘムPT,フィブリノゲン:トロンボチェックFib(L),FDP:リアスオートP-FDP,D-ダイマー:リアスオート・Dダイマーネオ(製造販売元:シスメックス株式会社),SFMC:オートLIA FM(製造販売元:日水製薬株式会社),TAT:HISCL TAT試薬,PIC:HISCL PIC試薬,tPAI·C:HISCL tPAI·C試薬(製造販売元:協和ファーマケミカル株式会社)を用いた。

5. 検証方法

判断基準①,②,③の割合を確認後,採血管内凝固疑い検体とペア検体の再採取検体において9項目測定し,採血管内凝固疑い検体と再採取検体の測定値の差(以下,採血管内凝固検証値)とその傾向(傾向=[採血管内凝固疑い検体の測定値-再採取検体の測定値]/再採取検体の測定値)を求めた。判断基準①,②,③に分類し,採血管内凝固疑いの測定値群と再採取検体の測定値群についてWilcoxon signed-rank sum testを用いて2群を比較する統計解析を行い,p値 < 0.05を有意とした。統計学的処理はJMP ver. 15(SAS Institute, Cary, NC, USA)を用いた。

III  結果

1. 採血管内凝固疑い検体の判断基準別割合

最初に採血管内凝固を疑った判断基準の件数は次の通りであった。( )内は再採取を依頼した101検体に占める割合,全40,025検体に占める割合を示した。判断基準①が最も多く57件(56%, 0.14%)であった。判断基準②は34件(34%, 0.08%),内訳は,APTT,PT等の前回値との乖離が13件,APTT短縮(25秒以下)が16件,装置測定エラーが5件であった。装置測定エラーの内訳はEarly Reaction Errorが4件,Coagulation Curve Errorが1件で,Coagulation Curve Errorの詳細はInitial fluctuation dropであった。判断基準③は10件(10%, 0.02%)であった。判断基準①のみに当てはまり,再採血を依頼した件数は14件(14%, 0.03%),判断基準②のみは12件(12%, 0.03%),判断基準③のみは4件(4%, 0.01%)であった。

2. 測定値の検証

1) APTT

採血管内凝固疑い検体の中央値は22.9秒,再採取検体の中央値は26.1秒であり,採血管内凝固検証値(疑い検体測定値-再採取検体測定値)は,中央値−3.3秒,MAX 8.6秒,MIN −9.8秒であった。MAXおよびMINは測定値が得られなかった検体を除き,採血管内凝固疑い検体の測定値が再採取検体と比べ高値で,その差が最も大きい値をMAXとした。判断基準①,②において,採血管内凝固疑い検体は有意(p < 0.0001)に短縮していたが,判断基準③では,有意差は認められなかった(Figure 2a)。

Figure 2  採血管内凝固疑い検体と再採取検体の測定値の比較

+は採血管内凝固疑い検体の測定値,−は再採取検体の測定値を表す。

*:p < 0.05,**:p < 0.01,***:p < 0.0001(by Wilcoxon signed-rank sum test)

2) PT

採血管内凝固疑い検体の中央値は10.1秒,再採取検体の中央値は11.0秒であり,採血管内凝固検証値は,中央値−0.8秒,MAX 0.5秒,MIN −4.3秒であった。全ての判断基準において,採血管内凝固疑い検体は有意に短縮していた(Figure 2b)。

3) フィブリノゲン

採血管内凝固疑い検体の中央値は318.7 mg/dL,再採取検体の中央値は372.4 mg/dLであり,採血管内凝固検証値は,中央値−59.5 mg/dL,MAX 85.3 mg/dL,MIN −434.3 mg/dLであった。全ての判断基準において,採血管内凝固疑い検体は有意に低値であった(Figure 2c)。

4) FDP

採血管内凝固疑い検体の中央値は29.3 μg/mL,再採取検体の中央値は6.3 μg/mLであり,採血管内凝固検証値は,中央値14.8 μg/mL,MAX 912.8 μg/mL,MIN −21.7 μg/mLであった。全ての判断基準において,採血管内凝固疑い検体は有意に高値であった(Figure 2d)。

5) D-ダイマー

採血管内凝固疑い検体の中央値は7.4 μg/mL,再採取検体の中央値は3.45 μg/mLであり,採血管内凝固検証値は,中央値1.1 μg/mL,MAX 96.7 μg/mL,MIN −2.5 μg/mLであった。判断基準①,②において,採血管内凝固疑い検体は有意に高値であったが,判断基準③では,有意差は認められなかった(Figure 2e)。

6) SFMC

採血管内凝固疑い検体の中央値は170.0 μg/mL,再採取検体の中央値は4.9 μg/mLであり,採血管内凝固検証値は,中央値145.1 μg/mL,MAX 710.4 μg/mL,MIN −253.5 μg/mLであった。全ての判断基準において,採血管内凝固疑い検体は有意に高値であった(Figure 2f)。

7) TAT

採血管内凝固疑い検体の中央値は104.7 ng/mL,再採取検体の中央値は5.0 ng/mLであり,採血管内凝固検証値は,中央値100.1 ng/mL,MAX 22,638 ng/mL,MIN −8 ng/mLであった。全ての判断基準において,採血管内凝固疑い検体は有意に高値であった(Figure 2g)。

8) PIC

採血管内凝固疑い検体の中央値は1.941 μg/mL,再採取検体の中央値は1.289 μg/mLであり,採血管内凝固検証値とその傾向は,中央値0.4 μg/mL(30%),MAX 8.5 μg/mL(1,506%),MIN −2.2 μg/mL(−78%)であった。判断基準①,②において,採血管内凝固疑い検体は有意に高値であったが,判断基準③では,有意差は認められなかった(Figure 2h)。

9) tPAI·C

採血管内凝固疑い検体の中央値は7.6 ng/mL,再採取検体の中央値は8.1 ng/mLであり,採血管内凝固検証値は,中央値0.7 ng/mL,MAX 8.8 ng/mL,MIN −6.2 ng/mLであった。全ての判断基準において,採血管内凝固疑い検体は有意に低値であった(Figure 2i)。

上記9項目における,採血管内凝固疑い検体と再採取検体の測定値の差の中央値およびその傾向を,判断基準別に示した(Table 1)。

Table 1 判断基準ごとの採血管内凝固疑い検体と再採取検体の測定値の差

項目名 単位 参考基準範囲 判断基準①
同時採取検体の血算で
凝固確認
判断基準②
検査値異常
判断基準③
赤血球層に凝固塊を確認
差の中央値
(凝固疑-再採取)
傾向 差の中央値
(凝固疑-再採取)
傾向 差の中央値
(凝固疑-再採取)
傾向
APTT sec 24–34 −3.4 短縮 −2.8 短縮 −4.0 有意差なし
PT sec 9.6–13.1 −0.8 短縮 −0.8 短縮 −1.2 短縮
フィブリノゲン mg/dL 200–400 −59.5 低値 −29.4 低値 −102.8 低値
FDP μg/mL 5以下 8.0 高値 18.7 高値 15.7 高値
D-ダイマー μg/mL 1以下 1.1 高値 1.8 高値 0.7 有意差なし
SFMC μg/mL 6.1以下 116.2 高値 153.1 高値 139.1 高値
TAT ng/mL 4.0未満 105.8 高値 76.4 高値 269.2 高値
PIC μg/mL 0.8未満 0.4 高値 0.7 高値 0.1 有意差なし
tPAI・C ng/mL 男性17.0 −0.8 低値 −0.5 低値 −1.1 低値
女性10.5

IV  考察

凝固線溶検査の検体受入れ時に,目視にて規定採血量不備や凝固塊を確認した場合は,検査結果は偽値を示すことは明らかであり,臨床現場へ再採取を依頼する運用を行っている施設は多いと考えられる。しかし,凝固線溶検査に影響を与える原因は,採血針,採血部位,採血順,十分な混和など検体採取時に起因することが多く5),採血管内で既に凝固カスケードが進んでいる場合も少なくない。これらは,必ずしも検体受入れ時に目視で確認できるとは限らないため,当院では独自の判断基準を用いて再採取を依頼している。

当院の判断基準①,②,③によるペア検体の比較において,特にSFMC,TAT,tPAI·Cの凝固線溶系分子マーカーの変動が検出されたことから,採血管内凝固疑い検体では既に凝固や線溶の亢進が起こっていたことが明らかとなった。

判断基準として,同時採取された血算検体の測定結果にて,PLT Clumps?エラーの出現や血小板数の前回値との乖離,検体の凝固塊の有無,鏡検でフィブリン析出の確認等の情報を得て,凝固検査値の異常や遠心後の血球と血漿の境目を観察し,採血管内凝固を疑った検体が57件と一番多かった。血管が細く採血に時間がかかると採血管に入ってくる血液が抗凝固剤と混ざるまで時間を要し,採血管内で凝固反応が進行する6)と報告されており,同時採取した血算検体の情報は参考にできることが示唆された。

また,凝固検査値の異常や装置エラーから採血管内凝固を疑った検体は,34件であった。APTTは組織因子の混入など凝固亢進状態では短縮することが知られており7),既報を裏付ける結果となった。APTTやPT検査は,フィブリン凝集塊形成時間を測定するため,初期のフィブリン形成反応を示す凝固波形の異常を指すEarly Reaction Errorや凝固曲線の初期の異常を指すInitial fluctuation dropでも参考にできることが示唆された。この凝固波形は吸光度や透過光,散乱光,物理的測定法などの違いによって波形パターンが異なる他,抽出するアルゴリズムや凝固点の捉え方などは各社様々である。近年では凝固波形解析の機能を搭載した自動分析機による波形解析の評価法が報告されており8),今後に期待したい。

測定後の検体の血球と血漿との境目を観察し赤血球層に凝固塊を認め,採血管内凝固を疑った検体は10件で,内4件は同時採取の血算値に検体凝固を疑う所見は無く,凝固検査値の異常等が認められなかったにも関わらず,既に採血管内で凝固や線溶の亢進が起こっていた結果となった。6件は同時採取の血算検体や凝固検査値のエラーフラグの出現が認められなかったが,後に血算検体を確認すると凝固していたことが判明した。測定後に検体の赤血球層を確認する作業は,検体の最終確認として有用であることが示唆された。APTT,D-ダイマー,PICでは有意差を認められなかったのは,測定時には既に検体が凝固しており凝固因子が消費されていた可能性や他の判断基準に比して検体数が少ないことも一因と考えられた。

採血管内凝固疑い検体と再採取検体で測定値の傾向に逆の変化を認めた検体もあり,中には再採取が不要であったと考えられる検体もあった。これらは判断基準①のみに当てはまった場合に多く見られた。しかし,判断基準①のみに当てはまっていても,再採取検体を実施し測定値から採血管内凝固の傾向を示した検体も多く見られたことから,患者の負担を考え不要な採血は避けたいが,同時採取の血算検体が凝固しており,採血管内凝固を疑う場合は再採取を依頼するべきであると考えている。

検証した凝固検査9項目の内,APTTの短縮は採血管内凝固の判断に最も推奨されると考えられた。APTTの基準値はPTより長く,変化が見えやすい。ただし,採血管内凝固疑い検体の測定値が基準範囲内であっても凝固している場合も多く見られたため,基準範囲内であったとしても前回値との乖離があれば,再採取を推奨したい。検体凝固による凝固因子の消費でAPTTの延長がみられる場合もあるため,データだけでなく測定後の検体の凝固塊確認を併せて実施することで見落としの減少に繋がるだろう。

凝固線溶検査は,多くの種類の試薬が各社から発売されており,それぞれ試薬成分,ヘパリンに対する反応性,認識する抗原エピトープ等が異なるため,試薬間差や機器間差が大きい検査である。多岐に渡る診断目的に用いられるAPTTは,試薬特性を評価する方法で標準化が検討されており9),FDPやD-ダイマーのように基準物質を得ることができない項目は,ハーモナイゼーション(調和化)の実現が検討されている10)。各施設の検査室は,使用している試薬の特性を正確に把握し,臨床医へ情報共有することが重要である。その上で,検体の取扱いや精度管理を徹底し,信頼性が担保された測定値を報告することが求められているが,凝固線溶検査は検体が適切に採取されていなければ,患者の病態を反映した正しい検査結果を出すことはできない。しかし,再採取は患者の負担を伴うため,状況に応じて臨床と協議することも大切である。また,現場の医師や看護師に継続的に検体採取時の注意点等を指導することは臨床検査技師の重要な業務と考える。そして多段階で凝固を疑う検体を見つけ,再採取を実施することで信頼性の高い検査結果の報告に繋がる。

今回は凝固検査値の異常や装置エラーから採血管内凝固を疑った判断基準②において,APTTやPT等の前回値との乖離,APTTの短縮,装置測定エラーの3つの判断をまとめて評価したため,各々の妥当性についても検証が必要であると考えている。また,今後は対象を項目別ではなく再採取を実施した患者別で解析し,該当患者における再採取の妥当性を検討したいと考えている。

V  結語

今回の検証で検体受入れ時に目視で凝固塊を確認できない場合でも,凝固検査値が大きく乖離し再採取を必要とする検体を認めた。

より有効で効率的なシステム構築のため,更に大規模な検証が望ましいと考えるが,凝固検査において血算結果とリンクさせた多段階ステップは,採血管内凝固を除外する運用手順として有用であることが確認できた。

本論文の内容は,第69回日本臨床検査医学会において発表した。

なお,本研究は神戸大学医学部附属病院バイオリソースセンター,同検査部,シスメックス株式会社の共同研究であり,倫理委員会の承認を得て施行した(承認番号B200255)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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