医学検査
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総説
災害時医療救護活動等において職能組織として臨床検査技師が果たした役割と課題
板橋 匠美深澤 恵治奥沢 悦子長沢 光章長原 三輝雄南部 重一
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2025 年 74 巻 1 号 p. 1-13

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Abstract

日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)では「令和6年能登半島地震」に伴い災害対策本部を立ち上げ,都道府県臨床(衛生)検査技師会との連携のもと,被災地における検査を受ける際のリスクを最小限に抑え,患者にとって信頼できる臨床検査データの提供および被災住民を救援するため,職能組織として約3ヵ月にわたり継続的に臨床検査技師の派遣を行った。そこで,今回の経験が今後に繋がるよう災害時医療救援活動等において臨床検査技師が果たした役割と今後の課題について検証した。職能組織としての役割を果たすため,リエゾンを派遣するとともに関係団体や行政機関等と連携,協力した活動の経緯と結果から,①初動体制,②被災地における臨床検査試薬提供,③臨床検査技師の派遣,④派遣者の宿泊先の確保,⑤都道府県臨床(衛生)検査技師会における対応,⑥新たに実施した活動等における活動定着化のための実施マニュアル作成と訓練,⑦限られた医療資源の効果的な分配など,日臨技として方針の策定が今後の課題として挙げられた。今回の活動経験により,職能組織として臨床検査技師が果たせる役割は多岐にわたることを踏まえ,限られた医療資源を効果的に分配するため,以後の災害時救援活動においては,日臨技として「何が実施でき・行うか」ではなく,「何が求められており・どうしたらできるか」について,災害時における対応方針を立てていく必要がある。

Translated Abstract

The Japan Association of Medical Technologists (JAMT) established a Disaster Response Headquarters in response to the “2024 Noto Peninsula Earthquake.” In cooperation with the prefectural clinical (hygiene) technologist associations, JAMT continuously dispatched clinical laboratory technologists for approximately three months. To minimize the risks associated with undergoing testing in the affected areas. The objective was also to provide reliable laboratory data for patients and support for the affected population. To ensure that the experiences from this incident contribute to future efforts, we examined the roles played by clinical laboratory technologists in medical relief activities during disasters and identified future challenges. To fulfill our role as a professional organization, we dispatched liaisons and coordinated and cooperated with related organizations and government agencies. Based on the course and results of these activities, several issues were identified as future challenges for JAMT, (1) Initial response system, (2) Provision of clinical testing reagents in the disaster area, (3) Dispatch of clinical laboratory technologists, (4) Securing accommodations for dispatched personnel, (5) Response by the prefectural clinical (hygiene) technologist associations, (6) Creation of implementation manuals and training for the institutionalization of newly implemented activities, (7) Effective distribution of limited medical resources. From the experience gained through these activities, we recognize that clinical laboratory technologists can play a wide variety of roles as a professional organization. To effectively distribute limited medical resources, it is essential for JAMT to develop disaster response policies that focus not on “what we can do and will do,” but rather on “what is needed and how it can be accomplished.”

I  はじめに

1. 目的

臨床検査技師の職能組織である一般社団法人日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)では,能登半島地震が発生した令和6年1月1日当日,直ちに日臨技執行部および事務局で被害状況の確認を行い,翌1月2日に日臨技災害対策本部(以下,日臨技災対本部)を立ち上げた。

その後,都道府県臨床(衛生)検査技師会(以下,地臨技)との連携のもと,被災地における検査を受ける際のリスクを最小限に抑え,患者にとって信頼できる臨床検査データの提供および被災住民を救援するため,特に被害の大きかった石川県珠洲市,輪島市,能登町,穴水町,七尾市を中心に,約3ヵ月にわたり継続的に臨床検査技師の派遣を行った。

過去の東日本大震災や熊本震災においても,日臨技が関わった臨床検査技師による救援活動が行われてきた1)が,令和6年能登半島地震における災害時救援活動は,①日本医師会(以下,日医)や都道府県をはじめとする関係行政・団体と円滑に連携し活動できたこと,②臨床検査技師が医療チームの一員として,他の医療職と連携して災害医療に貢献できたこと,③過去の支援活動がボランティア活動であったのに対し,今回の臨床検査技師派遣は災害救助法2)に基づくものであること,④石川県保健医療福祉調整本部(以下,県調整本部)における日本臨床検査振興協議会(以下,振興協議会)と連携した医薬品の供給体制と連携した臨床検査機器・試薬の提供・貸与が効果を上げたこと,⑤多くの業務担当分野の臨床検査技師が参加したことなどは,特に意義が大きいと言える。

また,臨床検査技師等に関する法律3)第2条に明記されている「検体検査」,「生理学的検査」および第11条に明記されている「採血」,「検体採取」というすべてを包括した災害時救援活動に加わり,医療専門職としての負託に応えるとともに,医療救援のみならず健康支援や生活環境の改善にまで寄与できたと推察する。

そこで,今回の経験が一つの糧として今後の臨床検査技師の災害救援活動に繋がるよう,災害時医療救援活動等において臨床検査技師が職能組織として果たした役割と今後の課題について検証する。

2. 震災直後の災害活動に影響を与えた状況

能登半島地震は,2024年(令和6年)1月1日16時10分,石川県能登地方(北緯37.5度,東経137.3度)を震源とし,規模は気象庁マグニチュード7.6(暫定値),震源の深さは16 km(暫定値)であった。最大震度は石川県志賀町で観測された震度7であり,新潟県で震度6弱,富山県,福井県で震度5強を記録した4)

北陸地方の地震直後からの気象は,1月4日にかけて低気圧や上空の寒気の影響で雷を伴った雨や雪の降る所が多く,5日は曇り時々晴れであり,6~8日にかけて冬型の気圧配置となり,雪や雨の降る所があった。

朝の最低気温は4~6日が4℃前後,7~8日は1℃前後となり,平年よりは高い所が多く,また雨となる所があり,積雪の多い所では融雪やなだれの注意が必要となった。

加えて,今回の地震で揺れの大きかった所では,地盤が緩んでいる可能性があり,その上4日にかけて雨となる所が多く,土砂災害が起こるおそれも懸念される状況となった。

これらの影響により今回の震災は,①広域にわたる地盤の隆起や地割れ,土砂崩れによる道路・線路等の交通網の寸断が起きたこと,②上下水道の不通による水不足や不衛生な環境となったこと,③被災前から医療資源の少ない地域であったこと等から,全国から支援が必要な状況となった。その一方で,①被災地域の地理的な特性,②積雪による冷え込みや交通網への影響,③漂流物や天候による陸路以外の航路の利用困難等の悪条件が重なり,支援活動は初動対応から大きな困難が伴うものとなった。

II  職能組織として果たした役割とその経緯

1. 体制の構築

1) 日臨技災対本部の設置とその経緯

日臨技では,1月2日に能登半島震災による被害状況に関して情報収集を行い,熊本震災の災害活動の経験から既に広範囲で大きな被害や多くの被災者が出始めていたことを考慮し,外部からの救援活動が必要と判断したため,職能組織としての災害救援活動の実施を決定した。

これに伴い,これまで得られた情報を踏まえた上で,臨床検査に関係する情報を1点に集約し,日臨技としてどのような対策を立てていくか随時対応を検討するため,先に記述の通り,日臨技災害規程(以下,災害規程)に基づき,同日,日臨技災対本部を日臨技会館内に設置することを決定した(Figure 1)。

Figure 1  日臨技災対本部組織図

日臨技災対本部でまずは情報収集に重点を置き,日臨技執行部および事務局で被災県の地臨技会長,日臨技中部圏支部の支部長および現地関係者等へ被害状況の確認をするとともに,広域災害救急医療情報システム(Emergency Medical Information System; EMIS)による医療機関被害状況の情報を確保し,随時必要となる対応を検討していく方針とした。

その際の優先すべき事項は,①会員の安否確認および被害状況の情報を収集し,それに基づいて対応を検討すること,②臨床検査に関わる5団体【日本臨床検査医学会,日本臨床検査専門医会,日臨技,日本衛生検査所協会および日本臨床検査薬協会(以下,臨薬協)】を会員組織として構成する振興協議会や日本臨床検査薬卸連合会(以下,卸連合)等の卸関係者と情報共有を密にし,検査試薬等の需要が高まり対応要請が生じた場合に,振興協議会が軸となり臨床検査機器の貸与および試薬提供による物資支援活動ができるようにすることとした(Figure 2)。

Figure 2  日臨技災対本部と関係組織との体制構築

2) 県調整本部におけるリエゾンの配置とその経緯

集まる情報を踏まえ,具体的な活動展開をするに当たり,①最新の情報を得られるようにする必要があること,②行政や様々な関係機関・団体との連携が重要になることを考慮し,発災から5日目の1月5日,日臨技は被災地である石川県庁に立ち上げられた県調整本部(Figure 3)へリエゾンを派遣した。

Figure 3  県調整本部(石川県庁内)の体制構成

まず県調整本部において縦の連携が行えるよう,本部長に対し日臨技が職能組織として,①災害救援活動を実施する意思があること,②現地で実施できる準備内容があることを伝え,統制下における活動許可を得た。

この際,即時供給が可能として提示できた準備内容は,振興協議会が軸となり①臨床検査用医療機器の貸与,②その運用に必要な消耗品等を支援提供することであった。また,過去の災害および新興感染症での保健衛生活動の経験から,数日の調整期間を確保することで派遣員(臨床検査技師)の確保とともに提供できる技術支援の内容として,①深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)検診,②インフルエンザや新型コロナ等のウイルス感染症検査のための検体採取とその検査の実施を提示した。

これを鑑み,県調整本部の許可のもとでリエゾンは県調整本部内で災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team; DMAT)の業務調整員として「薬剤班」が位置する区画において,要請に基づき臨床検査技師の被災地域における継続的な派遣救援活動を行うための調整と,振興協議会の現地仲介役として,被災地における臨床検査機器・試薬の安定した提供の確保のための調整を実施するに至った。

3) 現地技師会災対本部(以下,現地災対本部)の設置とその経緯

災害規程に従い設置された日臨技災対本部として割り当てられた組織構成および職務担当者に加え,①現地から入る情報の集約,②活動中期以降での避難所等へ臨床検査技師の派遣調整,③活動用資機材の調達・パッキング等のため,1月13日,現地災対本部を石川県技師会事務所内に設置し職務担当者の割り当てが行われた(Figure 4)。

Figure 4  現地災対本部(石川県技師会事務所内)の支援体制

現地災対本部の組織構成として,室長には日臨技支部として中部圏(石川県含む)の支部長(現,富山県技師会長)が着任し,副室長として中部圏の副支部長および被災地の石川県技師会長が担うこととした。

また,これまでに得られた情報と災害救援経験を照らし合わせ,今後も派遣人数の規模拡大が予想されることから,中部圏内のその他技師会である愛知県,静岡県,三重県,岐阜県および被災地に隣接する近畿支部の福井県を含む各技師会長を加えた被災地支援体制を構築した。

2. 職能組織として果たした役割

1) 臨床検査技師による派遣救援活動

 ①実施に至るまでの経緯

日臨技では被災地の状況の変化(医療機関臨床検査室の機能状況,避難所・医療救護所等の変動など)を踏まえ,県調整本部の指揮のもとその要請に基づき,臨床検査技師の被災地域における継続的な派遣救援活動を石川県技師会や地臨技と連携して実施した。

被災地への臨床検査技師の派遣要請は,避難所や医療施設へ向かった救護班より得られる情報に基づき行われ,県調整本部からの要請は病院支援班等を通してリエゾンへ口頭等で伝えられた。

リエゾンはこの要請を日臨技災対本部へ案件登録するとともに,その背景情報(活動時期,求められる技能と必要人数)を収集し,日臨技災対本部において臨床検査技師として負託に応え要請受託として差し支えないものか確認したうえで,日臨技の会員・非会員を問わずに全国の臨床検査技師と連携し,被災地における臨床検査機能の安定した提供の確保を実施するに至った。

 ②組織的な派遣調整を行うために構築したスキーム

派遣者の調整は,被災地域への移動距離が活動の迅速性や柔軟性に影響を与える要因となることを考慮し,活動フェーズを4段階に分けた組織的な派遣スキームを構築した(Figure 5)。

Figure 5  活動フェーズ毎の派遣スキーム

初動は被災地域県の石川県技師会にて支援者を集めて派遣し(第1フェーズ),要請が供給の許容を超えることが予測できた段階で,直ちに石川県に隣接する富山県および福井県の技師会を加えた北陸3県の体制により支援者を集めて派遣できるよう切り替えた(第2フェーズ)。

その後,派遣要請指定日の人数が供給の許容を超えることが予測できた段階で,石川県へ鉄道による移動時間が短い距離にある中部圏支部の技師会(岐阜県,静岡県,愛知県,三重県),関甲信・首都圏支部の技師会(茨木県,群馬県,埼玉県,千葉県,東京都)および一般社団法人日本臨床検査学教育協議会を加えた体制に切り替えた(第3フェーズ)。

以降,被災地の医療施設における明確な業務内容が定まり,かつ継続的な人的派遣を必要とすることが見込まれた段階で,日臨技の研修システムを用いた全国的な支援者募集による派遣体制を組み込んだ(第4フェーズ)。

2) 振興協議会の1組織団体として行った物品支援活動

 ①実施に至るまでの経緯

振興協議会では,大規模災害が発生した際,行政,関連団体および関連機関等の要請に応じ,社会的責務としてその必要な対策を実施するため,卸連合をオブザーバーとして加えた,大規模災害対策委員会を設置している。

具体的な災害支援活動としては,大規模災害対策規程5)に基づき,会員組織の協力により医療の機能復旧維持のため,医療機器公正競争規約に準じ激甚災害指定された場合,集まる情報に基づき,a)体外診断用医薬品,b)臨床検査用医療機器,c)臨床検査用医療機器を運用するために必要とする消耗品等を支援提供することを基本方針としている。

1月4日,緊急招集により実施された大規模災害対策委員会において,令和6年能登半島地震はこの法人としての決定に基づき,臨床検査機器の貸与および試薬提供による物品支援活動を実施する対象として扱うこととなった。

 ②組織的な貸与・提供の調整を行うために構築したスキーム

臨床検査機器貸与や試薬等提供の調整として,要請窓口の一本化が活動の迅速性や柔軟性に影響を与える要因となることを考慮し,役割を明確化したうえで日本臨床検査医学会からの委員,臨薬協からの委員,日臨技および振興協議会からの事務局兼務者3名を中心とする振興協議会の大規模災害対策委員会内の組織として「能登半島地震物品支援コアチーム(以下,コアチーム)」が時限的に設置された。

また日臨技のリエゾンがこのコアチームの現地仲介役となることで,臨床検査領域として救援活動の窓口一本化が行われ,物品支援における早期対応が可能なタスクフローを実現させた(Figure 6)。

Figure 6  能登半島地震物品支援コアチームのタスクフロー

供給可能な内容と数量については,臨薬協のシステムおよびホームページ上で公開しているPOC試薬機器資材等の一覧6)により管理され,リエゾンから支援要請をコアチームに伝達し,その機器・試薬等を所有する企業に個別に連絡・手配が行われて貸与・供給される運用が取られた。

なお,被災地域は積雪や路面寸断による災害の影響と国土交通省による道路啓開作業により,刻々と道路閉塞状況が変わる事態が発生していたことから,物品支援の実施にはこの状況への対応が必須となった。

これを鑑み,卸連合の統制下において現地卸問屋と連携することで,活動の迅速性や柔軟性は補強された(Figure 2)。

III  役割のなかで実施した具体的内容

1. 臨床検査技師による派遣救援活動(Figure 7
Figure 7  臨床検査技師による派遣救援活動内容

1) 能登地区主要医療施設における臨床検査室機能を維持するための活動

被災地域の医療施設に向かった救護班や現地の職員,施設管理者および石川県技師会等から,能登地区主要医療施設において臨床検査技師のマンパワー不足が起きている事態の情報が日臨技に集まった。

リエゾンを通して県調整本部へその状況を報告することで,県調整本部の病院支援班においてその実状を把握するため,能登地区の医療施設における臨床検査技師の外部派遣支援の必要性も含めたアセスメントが実施された。その結果を基に,臨床検査技師による能登地区主要医療施設における臨床検査室機能を維持するための活動計画が立てられ,1月8日から開始し,延べ249名の規模で活動が行われた。

なお,求められた役割は,生理検査室または検体検査室の機能維持であり,心電図や心臓超音波検査等の生理学的検査または生化学,血算,尿定性といった緊急検査であった。

2) 避難所による医療救援活動

 ①1.5次避難所(いしかわ総合スポーツセンター内)開設に伴う支援者の派遣

地震による避難生活が長期化するなか,被災した高齢者などの一時的な受け入れ先となる「1.5次避難所」を金沢市内に大規模広域避難所として設置する計画が国から示された。設置には人手が多く必要で,県調整本部よりリエゾンを通じて対応可能な支援者の打診が伝えられた。

臨床検査技師は,熊本震災の際,避難所においてDVTの検診活動を実施した経験から,この活動が電力を必要とする医療救護支援であることを考慮し,今回の震災においてもその実施が想定されることを踏まえ,1.5次避難所の開設の段階から携わることでDVT検診の実施を想定した状況把握も含め支援人材を調整して派遣を行った。

 ②弾性ストッキングについて,避難所での配布・指導活動に伴う支援者の派遣

石川県の日医災害医療チーム(Japan Medical Association Team; JMAT)調整本部より,被災者健康支援連絡協議会の構成団体であるチーム医療推進協議会に対し,「令和6年能登半島地震について(依頼)」(令和6年1月10日付,被災者健康支援連絡協議会代表通知)に基づき,当該活動における派遣支援の協力要請が届いた。

今回の地震では,熊本震災の前例を踏まえた物品支援がプッシュ型で行われていた傾向にあり,弾性ストッキングにおいても同様に,非常に早い段階から石川県庁において支援物品として確保され,避難所等への供給が開始された。

しかし,弾性ストッキングはその特性上,着用に多少の力を要することが判明したため,高齢者の中には携帯所持するものの着用はしていない方がいた。また,着用が原因で着用部位に褥瘡が発生したことを踏まえ,十分な効果が得られるよう配布・指導活動を実施することになった。

日臨技は熊本震災等においてDVT検診活動を実施する際に弾性ストッキングの着用や指導も並行して実施しており,これを踏まえJMATから医師1名と日臨技から臨床検査技師複数名からなるJMAT部隊を編成し実施した。

 ③災害派遣福祉チーム(Disaster Welfare Assistance Team; DWAT)によるDVT検診活動実施のための支援者の派遣

福井県からのDWAT部隊によるDVT検診活動に伴い,臨床検査技師の同行が企画された。当該活動は福井県技師会と福井県行政との間において企画された案件であり,日臨技災対本部で協議し参加することとした。

 ④JMAT部隊によるDVT検診活動実施のための支援者の派遣

石川県JMAT調整本部より,リエゾンを通じ,当該活動における派遣者支援の協力要請があった。日臨技災対本部へ案件登録を行い,新潟県JMATを中心とし,石川県JMATの医師団と連携し,避難所の状況を確認の上,臨床検査技師もJMAT部隊として活動を実施することとなった。

一方,a)半島という被災地域の地理的な特性,b)広域にわたる地盤の隆起や地割れ,土砂崩れによる道路・線路等の交通網の寸断,c)積雪による交通網への影響により,1日に活動できる時間は短く限られた(Figure 8)。

Figure 8  発災後の移動に係る目安時間

このことから,DVT検診活動経験より,当該活動の要となる超音波検査の実施件数から逆算し,Figure 9の要件で部隊編成および必要資材の調達を行った。

Figure 9  DVT検診の部隊編成および資材調達のために仮定した要件

要請に基づいた当該活動は,全国から延べ246名の臨床検査技師の協力を得て実施された(Figure 7)。

また,今回の震災では蓄電池と臨床検査機器を積載した車両(以下,メディカルカー)を活用することで,DVT検診活動におけるアルゴリズムはFigure 10のように実施された。過去の震災時において,D-dimarはCobasでのみ測定を行っていたが,部隊が持ち運びしにくい大きさの機器(ラピッドピアII)を投入することができるようになった。これにより,D-dimar測定の運用効率向上に伴うDVT検診活動の対応力が一層強化され,血栓保有者において救急搬送をすべきかの判断をその場で数値に基づき行えるようになった。なお,その結果はFigure 11のとおりであった。

Figure 10  DVT検診活動におけるアルゴリズム
Figure 11  DVT検診の陽性率

2. 臨床検査機器の貸与および試薬提供による物品支援活動

県調整本部の要請に基づき振興協議会の1組織団体として,リエゾンが現地窓口となることで実施された臨床検査機器の貸与および試薬提供は,1月6日から開始され,Table 1Figure 12のとおりの要請対応の供給状況となった。

Table 1 臨床検査機器・試薬の供給状況

要請内容 対応企業 品名 数量
インフルエンザ・
コロナ抗原検査
富士レビオ エスプラインSARS-CoV-2&FluA + B(一般用) 13,000テスト
デンカ クイックナビ-Flu + COVID19 Ag 1,500テスト
ノロウイルス検査 デンカ クイックナビ-ノロ3 5,000テスト
極東製薬工業 Qライン極東ノロ 50テスト
溶連菌抗原検査 富士レビオ エルナススティックストレップA 20テスト
マイコプラズマ抗原検査 デンカ クイックナビ–マイコプラズマ 20テスト
生化学関連 富士フイルム和光純薬 富士ドライケムNX700 2台/付属試薬
富士フイルム和光純薬 富士ドライケムNX600 1台/付属試薬
アークレイ スポットケムEZ SP-4430 2台/付属試薬
ラジオメーター 汎用血液ガス分析装置 ABL90 FLEX PLUSシステム 1台/付属試薬
ロシュダイアグノスティックス コバスh 232プラス 12台/付属試薬
積水メディカル ラピッドピアII 2台/付属試薬
血液学関連 富士フイルム和光純薬 血液凝固分析装置COAG2N 1台/付属試薬
超音波診断装置 キヤノンメディカルシステムズ 超音波診断装置Viamo sv7 5台/付属品一式
Figure 12  臨床検査機器・試薬,提供企業一覧

IV  今後の課題

1. 初動体制

日臨技では,1月1日の地震発生の翌日に日臨技災対本部を立ち上げ,情報収集後,1月3日に本部会議が開かれた。その後,1月5日より現地の状況を把握するための先遣隊としてリエゾンを被災地へ派遣した。臨床検査技師の派遣支援を始めたのは1月7日からであった。

他方,日臨技の活動とは別にDMATや自治体からの要請で派遣された医療チームでも多くの臨床検査技師が活動しており,これらは震災当日あるいは数日のうちに完全自立型で被災地入りし,支援活動を開始していた。

このことから,日臨技における初動は結果的にみると遅れたものではなかったといえるが,今後の災害活動においても組織として自発的に状況を把握し,支援の必要性をいかに早く見極めて開始するかが重要である。

そのためには,日臨技および地臨技において,①リエゾンや現地対策本部員となるエキスパートの育成,②派遣者として被災地域で活動できる人材の育成,③派遣者として自施設の臨床検査技師を日臨技の災害活動へ送り出すための管理者の理解を得ることが重要であり,これらの目標を達成するためには,関係者との連携を図りながら,適切な整備を進めていくことが求められる。

全国どこの地域でどのような規模の災害が発生しても,会員の安否確認状況を含めて迅速に被災地の正確な状況が把握でき,早期から活動できる体制を平時より構築しておく必要がある。また,初動体制とともに継続的な今後の支援体制の在り方についても,役員の役割分担および事務局体制を含め改めて検討しておく必要がある。

2. 被災地における臨床検査機器・試薬提供

発災から7日後,県調整本部のDMAT薬剤班内にリエゾンを配置した日臨技と振興協議会が連携を組むことで,DMAT薬剤班の協力のもと,臨床検査機器・試薬の供給は国の直下として多くの要請を早期から受け,国が費用支弁を行う薬剤と同程度に供給することができた。

DMAT薬剤班による薬剤の供給は,協定等により災害救助法に基づき,都道府県行政および薬剤師会と連携したフローの中で災害処方箋を用いて活動を行っている。

県調整本部の指揮下での臨床検査機器・試薬の供給は,今回が初めてであり,全て企業のご協力により無償提供で行ったが,今後を見据え,国の管理下で費用面も含めてDMAT薬剤班と同等に近づけるための整備を振興協議会の会員組織として考え活動していく必要がある。

3. 臨床検査技師の派遣

組織的な派遣調整を行うために構築したスキーム,部隊編成,資材調達は,過去の活動経験をもとに,リエゾンから得られる情報を用いて即時的な判断において構築したものであったが,関係各位の協力的姿勢で結果的に大きな問題が起きることなく実施できた。特に部隊編成方法と資材調達数の目安は,熊本震災での経験からの検証に近いものであり,妥当であったと裏付けることができた。

以後の災害対応時においても同様な活動となるとは限らないことからも,この経験を踏まえたものとなるよう,構築できたスキーム等を災害規程等に落とし込む必要がある。

加えて,十分な派遣人材を早期に確保するため,会員情報管理システムを用いた人員確保においても研修システムを活用した募集の形態から,登録制によるマッチング機能を持たせたシステムに改修していくことについても検討していく必要がある。

一方,避難所等における医療救援活動はJMATと同行して行う活動が多岐にわたった。このことから,JMATは都道府県単位で部隊を編成することが基本となっている組織であることを踏まえ,組織的な活動を共同して行える関係性の構築をしておく必要がある。

4. 派遣者の宿泊先の確保

今回の震災においては,①半島という被災地域の地理的な特性,②広域にわたる地盤の隆起や地割れ,土砂崩れによる道路・線路等の交通網の寸断,③積雪による交通網への影響により,1日に活動できる時間は短く限られていた。これに加え,被災地は多くの施設が半壊し,連日の活動を行うための宿泊先の確保に苦慮することとなった。

防衛省・自衛隊は13日,能登半島地震の被災者支援を巡り,民間事業者と契約しているチャーター船「はくおう」を七尾港(石川県七尾市)に派遣した。これは周辺の避難所にいる被災者が移って宿泊するための対応であったが,今後,支援者に対する実施の検討もされてくることが想定されている。

以後の災害時の救援活動においては,日臨技災対本部にて初期の段階から宿泊先の確保準備に入るように努め,新たに実施される可能性に対しても広く情報をキャッチアップする必要がある。

5. 地臨技における対応

災害時の救援活動において,被災地および隣接する技師会の協力が必要となることは言うまでもない。今回の活動において,発災直後から情報収集を行えたことや,発災7日目から派遣者を被災地に送り出すことができたのも,被災地および隣接する技師会(石川県,富山県,福井県)の積極的な協力によるものであった。

このことからも,地臨技,都道府県行政,都道府県医師会との連携体制が整っているかに直結するため,災害活動の実施における応援協定や活動マニュアルの整備について,早急に対処する必要がある。

6. 新たに実施した活動等における活動定着化のための実施マニュアル作成と訓練

能登半島地震では,①DVT検診活動,②県調整本部へのリエゾンの派遣,③振興協議会との連携による臨床検査機器・試薬の供給,④医療施設の検査室機能の維持,⑤避難所等における医療救護活動用の避難所開設協力,⑥弾性ストッキング配付・指導などの活動が,行政の指揮下において災害救助法に基づき組織的に行われた。

果たした役割の幅が拡がったことで,医療専門職としての負託に応えるとともに,医療支援のみならず,⑥の予防の側面による支援活動から健康支援や生活環境の改善にまで寄与できたのではないかと推察する。特に,④は日臨技が臨床検査技師のための職能組織として活動できたと考えられた。

これらの経験から,①以外の新たに実施した活動において活動定着化のため,実施マニュアルの作成や訓練ができるよう整える必要がある。

7. 限られた医療資源を効果的に分配するため,日臨技としての方針の策定

今回の震災では実施に至ってはいないものの,①鼻腔からの検体採取,②持続皮下グルコース測定の実施,③ワクチン接種の打ち手について,県調整本部やJMAT,都道府県行政において臨床検査技師による活動の必要性や可能性が意見として挙げられた。

今回の活動経験より,災害時医療救援活動等において臨床検査技師が職能組織として果たせる役割は多岐にわたるものとなった。

一方,過去震災時に車中泊が報道で多く取り上げられたことから,今回の震災ではDVT検診活動は日臨技以外の組織として複数の学会や個々の大学により組織的に活動が行われていた。

このことを踏まえ,限られた医療資源を効果的に分配するため,以後の災害時の救護活動においては,日臨技として「何が実施でき・行うか」ではなく,「何が求められており・どうしたらできるか」にて,災害時における対応方針を立てていく必要がある。

V  結語

能登半島地震の各被災地で,臨床検査技師等に関する法律第2条に明記されている「検体検査」,「生理学的検査」および第11条に明記されている「採血」,「検体採取」というすべてを包括した活動を行った。

今回の臨床検査技師による活動は,被災地の方々への医療支援のみならず健康支援や生活環境の改善にまで寄与することができたものであり,医療専門職としての負託に応えることができたものと考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

令和6年能登半島地震における日臨技災対本部員および振興協議会の能登半島地震物品支援コアチームとして深く活動に関わった立場から,本稿の執筆を担当した。

今回の一連の活動でご協力いただいた全国の医師,臨床検査技師の皆様のご尽力に,この場をお借りして感謝申し上げる。また,石川県臨床検査技師会員においては,自らが被災者でありながら,積極的に医療救援活動に参加されていたことに心よりの敬意を表し,被災地における医療人としての自覚を示した証左と受け止めている。

文献
 
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