2025 年 74 巻 1 号 p. 193-199
日本の医療現場では,医師の労働時間短縮が重要課題となっており,令和6年4月から医師の時間外労働や休日労働時間に制限が設けられた。各医療施設は労働時間短縮計画を策定する必要があり,その一つの方法として臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアが国策で提案されている。日本臨床衛生検査技師会は臨床検査技師の現状把握のため実態調査を実施し,その結果を公表している。本研究ではこの結果を分析し,医師から臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアがアクシデント発生に与える影響を検証した。結果として,教育・訓練が不十分な施設ではアクシデント発生率が高い傾向が見られたが,適切な教育・訓練と管理体制が整った施設ではアクシデントの発生が抑えられていることが明らかとなった。結論として,臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアは,適切な教育・訓練と管理体制の下で安全に実施可能である。これにより,医師と他の医療従事者が協力して質の高い医療サービスを提供し,持続可能な労働環境を構築することが期待される。
In the medical field in Japan, shortening the working hours of doctors has become an important issue, and restrictions on overtime work and holiday working hours for doctors were established from April of Reiwa 6. Each medical facility needs to formulate a plan to shorten working hours, and one way to do this is to shift or share tasks to medical laboratory technicians. The Japan Association of Clinical Laboratory Technologists conducts a fact-finding survey to understand the current situation of clinical laboratory technicians and publishes the results. In this study, we analyzed the results and examined the impact of task shifting/sharing from physicians to clinical laboratory technicians on the occurrence of accidents. As a result, it was found that the incidence of accidents tended to be higher in facilities with inadequate education and training, but the occurrence of accidents was suppressed in facilities with appropriate education, training, and management systems. In conclusion, task shifting/sharing to medical technologists can be safely implemented under appropriate education, training and management systems. This is expected to encourage doctors and other healthcare professionals to work together to provide quality healthcare services and create a sustainable working environment.
医療現場では,医療資源の最適配分と効率化がますます重要視されている。特に,医師の負担軽減と専門職の役割拡大を目的としたタスク・シフトやタスク・シェア(以下,タスク・シフト/シェア)は,医療の質を維持しつつ効率を向上させる手法として注目されている1)。臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアは,検査業務の専門性を活かし,医師の時間を診療や治療に集中させることが可能になるため,現代の医療においてその意義は大きい。
タスク・シフト/シェアは,医療従事者間の協力を強化し,医療の質を向上させるだけでなく,業務の効率化やスタッフの満足度向上にも寄与する。具体的には,医師が医師でなければできない業務に集中できるよう,臨床検査技師が適切に教育・訓練された業務を担うことで,全体の業務プロセスがスムーズに進行する。
一方で,タスク・シフト/シェアの導入にあたっては,業務の標準化や適切な教育・訓練が必要不可欠である。また,タスクシフトに伴う責任の明確化や,インシデントやアクシデントの発生リスクに対する懸念もある。特に,医療の安全性を保障するためには,タスク・シフト/シェアがアクシデントの発生にどのような影響を与えるかを明確にする必要がある。
2. 研究の目的本研究は,医師から臨床検査技師へタスク・シフト/シェアを行うことで,アクシデント発生に与える影響を施設実態から検証することを目的とする。具体的には,タスク・シフト/シェアの実施施設におけるアクシデント発生の情報から統計的に評価する。これにより,タスク・シフト/シェアが医療の安全性にどのように影響するかを明らかにすることを目指す。
本研究は,臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアが医療アクシデントに与える影響を体系的に評価する初めての大規模調査に基づく研究である。得られた結果は,医師から臨床検査技師へタスク・シフト/シェアを行うことの質的保障や,今後の医療現場におけるタスク・シフト/シェアの導入に関する実践的なガイドラインの策定に寄与するだけでなく,医療従事者の意識改革や教育プログラムの設計にも大きな示唆を与えることが期待される。
本研究は,日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)において,臨床検査技師を取り巻く社会情勢と現状把握のため,令和5年度に実施された組織実態調査および会員意識調査2)で得られた情報を用い,単純集計で得られた値に,他の設問や性別,年代等の基本情報を掛け合わせて集計を行い,有効性のみられる有意差を分析した。
厚生労働省の令和4年医療施設(動態)調査・病院報告3)で全国の病院は8,156施設となっており,これら医療施設のうち当会会員が所属する施設の中で本調査への協力施設は4,890施設(60.0%)となっている。
本分析の対象は,施設実態調査では日臨技会員が1名以上所属している施設の臨床検査責任者とし,会員意識調査では日臨技の会員すべてとしており,令和5年12月から令和6年1月に実施され,施設実態調査で48.7%(回答施設3,734件),会員意識調査で21.4%(回答者15,021名)の回答率及び回答者数のものを用いた。
なお,調査結果の分析においては,回答者の匿名性の確保,データの正確性および一貫性の維持の点に注意を払い,調査結果が信頼性と客観性を持つよう努めた。
一方,医療施設において様々なバイアスが結果の解釈に影響を与えることから,その排除は困難であることを考慮し,結果はあくまでもすべて可能性として扱うこととした。
令和3年9月に,現行法上で実施可能と解釈が示された14行為を実施していると回答した医療施設(1,913施設)において,令和6年1月時点まででアクシデント発生が増加傾向にある施設は,全体のうち2.7%(51施設)であり,この施設の多くは20~400の病床数を持つ小中規模の施設であった(Table 1)。
稼動病床数 | アクシデント発生頻度 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
増えている | やや増えている | どちらでもない | あまり増えていない | 増えていない | 合計 | |
0床 | 0 | 4 | 74 | 20 | 112 | 210 |
1~19床 | 0 | 1 | 16 | 4 | 39 | 60 |
20~99床 | 2 | 11 | 98 | 35 | 194 | 340 |
100~199床 | 0 | 13 | 152 | 46 | 288 | 499 |
200~399床 | 2 | 10 | 173 | 57 | 232 | 474 |
400~599床 | 0 | 4 | 75 | 28 | 114 | 221 |
600~床 | 0 | 4 | 42 | 10 | 53 | 109 |
合計 | 4 | 47 | 630 | 200 | 1,032 | 1,913 |
アクシデント発生が増加傾向にあると回答した施設において実施されている行為は,「病棟・外来における採血業務」が66.7%(34施設)と最も多く,次いで「細胞診や超音波検査等の検査所見の記載」の58.8%(30施設),「検査にかかる薬剤(尿素,気管支拡張剤など)を準備して患者に服用してもらう行為」の29.4%(15施設)という順であった(Table 2)。
アクシデント発生頻度 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
増えている | やや増えている | どちらでもない | あまり増えていない | 増えていない | 合計 | |
心臓・血管カテーテル検査,治療における直接侵襲性を伴わない検査装置の操作 | 0 | 0 | 78 | 29 | 120 | 227 |
負荷心電図等における生体情報モニターの血圧や酸素飽和度などの確認 | 1 | 8 | 118 | 51 | 216 | 394 |
持続陽圧呼吸療法導入の際の陽圧の適正域の測定 | 0 | 1 | 12 | 1 | 29 | 43 |
生理検査を実施する際の口腔内からの喀痰等の吸引 | 0 | 0 | 1 | 0 | 7 | 8 |
検査にかかる薬剤(尿素,気管支拡張剤など)を準備して患者に服用してもらう行為 | 0 | 15 | 199 | 80 | 393 | 687 |
病棟・外来における採血業務 | 2 | 32 | 371 | 139 | 526 | 1,070 |
血液製剤の洗浄・分割,血液細胞(幹細胞等)・胚細胞に関する操作 | 0 | 2 | 32 | 17 | 51 | 102 |
輸血に関する定型的な事項や補足的な説明と同意書の受領 | 0 | 2 | 23 | 15 | 26 | 66 |
救急救命処置の場における補助行為の実施 | 0 | 6 | 24 | 15 | 57 | 102 |
細胞診や超音波検査等の検査所見の記載 | 2 | 28 | 443 | 137 | 728 | 1,338 |
生検材料標本,特殊染色標本,免疫染色標本等の所見の報告書の作成 | 0 | 3 | 33 | 12 | 48 | 96 |
病理診断における手術検体等の切り出し | 0 | 7 | 132 | 45 | 150 | 334 |
画像解析システムの操作等 | 0 | 4 | 27 | 12 | 52 | 95 |
病理解剖 | 0 | 7 | 150 | 37 | 164 | 358 |
合計 | 5 | 115 | 1,643 | 590 | 2,567 | 1,821 |
令和3年10月に,法改正により新たに実施することとなった追加10行為のいずれかを実施していると回答した医療施設(560施設)において,令和6年1月時点まででアクシデント発生が増加傾向にある施設は,全体のうち1.8%(10施設)であり,この施設の多くは100~400の病床数を持つ小中規模の施設であった(Table 3)。
稼動病床数 | アクシデント発生頻度 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
増えている | やや増えている | どちらでもない | あまり増えていない | 増えていない | 合計 | |
0床 | 1 | 1 | 12 | 2 | 19 | 35 |
1~19床 | 0 | 0 | 3 | 0 | 6 | 9 |
20~99床 | 0 | 1 | 20 | 5 | 49 | 75 |
100~199床 | 0 | 3 | 34 | 13 | 67 | 117 |
200~399床 | 0 | 3 | 55 | 15 | 97 | 170 |
400~599床 | 0 | 0 | 24 | 14 | 66 | 104 |
600~床 | 0 | 1 | 12 | 5 | 32 | 50 |
合計 | 1 | 9 | 160 | 54 | 336 | 560 |
アクシデント発生が増加傾向にあると回答した施設において実施されている行為は,「持続皮下グルコース(CGM)検査」が50.0%(5施設)と最も多く,次いで「体性感覚誘発電位検査」の30.0%(3施設),「内視鏡用生検鉗子を用いて消化管の病変部位の組織の一部を採取する行為」と「運動誘発電位検査」がともに20.0%(2施設)という順であった(Table 4)。
アクシデント発生頻度 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
増えている | やや増えている | どちらでもない | あまり増えていない | 増えていない | 合計 | |
医療用吸引器を用いて鼻腔,口腔又は気管カニューレから喀痰を採取する行為 | 0 | 0 | 2 | 0 | 4 | 6 |
内視鏡用生検鉗子を用いて消化管の病変部位の組織の一部を採取する行為 | 0 | 2 | 33 | 12 | 76 | 123 |
運動誘発電位検査 | 0 | 2 | 57 | 28 | 115 | 202 |
体性感覚誘発電位検査 | 0 | 3 | 74 | 23 | 136 | 236 |
持続皮下グルコース(CGM)検査 | 1 | 4 | 54 | 17 | 131 | 207 |
直腸肛門機能検査 | 0 | 0 | 3 | 2 | 10 | 15 |
採血のため静脈を確保し,当該静脈路に接続されたチューブにヘパリン化生食など充填する行為 | 0 | 1 | 8 | 6 | 18 | 33 |
採血のため静脈を確保し,当該静脈路に点滴装置を接続する行為(電解質輸液の点滴) | 0 | 1 | 4 | 4 | 17 | 26 |
採血のため静脈を確保し,血液成分採血装置に接続,機器操作,抜針及び止血する行為 | 0 | 0 | 0 | 3 | 5 | 8 |
静脈を確保し,超音波検査のための造影剤の投与,抜針及び止血する行為 | 0 | 1 | 14 | 8 | 27 | 50 |
合計 | 1 | 14 | 249 | 103 | 539 | 906 |
アクシデント発生が増加傾向にあると回答した施設におけるスタッフは,国家資格への一部付与により,法的に実施可能とするための研修(以下,タスク・シフト/シェアに関する厚生労働大臣指定講習会)の修了状況が,スタッフの7割以上である施設と2割以下の施設が同数である44.4%(4施設)を占めていた(Table 5)。
アクシデント発生頻度 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
増えている | やや増えている | どちらでもない | あまり増えていない | 増えていない | 合計 | |
全員が受講済みである | 0 | 0 | 17 | 4 | 45 | 66 |
スタッフの7割以上が受講済みである | 0 | 4 | 38 | 21 | 71 | 134 |
スタッフの5割以上が受講済みである | 0 | 0 | 21 | 9 | 54 | 84 |
スタッフの3割以上が受講済みである | 0 | 1 | 27 | 4 | 61 | 93 |
スタッフの2割以下が受講済みである | 0 | 4 | 52 | 15 | 101 | 172 |
合計 | 0 | 9 | 155 | 53 | 332 | 549 |
令和6年1月に,追加10行為におけるタスク・シフト/シェアに関する厚生労働大臣指定講習会の修了状況受講者において,自信を持って行える意思を示す者と不安を抱えている者は,ともに全体のうち約2割であった。この傾向は,性別,年齢,役職,勤務先内容,業務内容において大きな差はなかった(Table 6)。
自身の性別 | |||
---|---|---|---|
男性 | 女性 | 合計 | |
自信を持って行えている | 113 | 106 | 219 |
やや自信を持って行えている | 218 | 314 | 532 |
どちらともいえない | 893 | 1,364 | 2,257 |
やや不安を抱えて行っている | 192 | 382 | 574 |
不安を抱えて行っている | 100 | 206 | 306 |
合計 | 1,516 | 2,372 | 3,888 |
自身の年齢 | |||||||||
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21~25歳 | 26~30歳 | 31~35歳 | 36~40歳 | 41~45歳 | 46~50歳 | 51~55歳 | 56~60歳 | 合計 | |
自信を持って行えている | 12 | 18 | 12 | 18 | 26 | 40 | 39 | 39 | 204 |
やや自信を持って行えている | 54 | 54 | 56 | 69 | 65 | 66 | 93 | 50 | 507 |
どちらともいえない | 208 | 259 | 246 | 243 | 280 | 332 | 357 | 251 | 2,176 |
やや不安を抱えて行っている | 64 | 110 | 66 | 66 | 68 | 73 | 54 | 48 | 549 |
不安を抱えて行っている | 35 | 55 | 43 | 42 | 35 | 32 | 36 | 23 | 301 |
合計 | 373 | 496 | 423 | 438 | 474 | 543 | 579 | 411 | 3,737 |
自身の役職 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
部長相当職 (部長・医療技術部長) |
管理相当職 (技師長・課長・職長) |
准管理相当職(副技師長・課長補佐) | 係長相当 (主任・係長) |
一般職 (常勤:正社員) |
一般職(非常勤:アルバイト・パート) | 合計 | |
自信を持って行えている | 6 | 49 | 7 | 55 | 85 | 9 | 211 |
やや自信を持って行えている | 7 | 62 | 25 | 152 | 255 | 18 | 519 |
どちらともいえない | 26 | 301 | 145 | 557 | 1,071 | 87 | 2,187 |
やや不安を抱えて行っている | 1 | 59 | 31 | 105 | 345 | 20 | 561 |
不安を抱えて行っている | 1 | 29 | 15 | 69 | 182 | 8 | 304 |
合計 | 41 | 500 | 223 | 938 | 1,938 | 142 | 3,782 |
自身の勤務先内容 | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
中央検査部・検査室 | 採血室 | 手術室 | 病棟 (集中治療室) |
病棟 (ハイケア・ 救急病室) |
病棟 (一般) |
救急外来 | 外来 (一般) |
管理 (検査 関連) |
透析センター | 内視鏡センター | 心カテ室 | 合計 | |
自信を持って行えている | 191 | 44 | 14 | 1 | 0 | 5 | 5 | 8 | 8 | 0 | 15 | 5 | 296 |
やや自信を持って行えている | 479 | 136 | 27 | 4 | 2 | 8 | 12 | 22 | 14 | 2 | 28 | 23 | 757 |
どちらともいえない | 2,058 | 538 | 43 | 7 | 8 | 23 | 23 | 58 | 63 | 2 | 39 | 79 | 2,941 |
やや不安を抱えて行っている | 533 | 149 | 16 | 4 | 2 | 9 | 8 | 19 | 7 | 1 | 7 | 23 | 778 |
不安を抱えて行っている | 290 | 69 | 5 | 2 | 2 | 3 | 2 | 5 | 1 | 0 | 6 | 10 | 395 |
合計 | 3,551 | 936 | 105 | 18 | 14 | 48 | 50 | 112 | 93 | 5 | 95 | 140 | 5,167 |
自身の業務内容 | ||||||||||
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微生物 | 血清 | 血液 | 化学 | 病理 | 細胞 | 生理 | 一般 | 輸血 | 合計 | |
自信を持って行えている | 15 | 37 | 46 | 48 | 17 | 7 | 110 | 43 | 38 | 361 |
やや自信を持って行えている | 40 | 95 | 117 | 117 | 38 | 28 | 270 | 131 | 95 | 931 |
どちらともいえない | 194 | 344 | 435 | 428 | 229 | 147 | 978 | 398 | 350 | 3,503 |
やや不安を抱えて行っている | 54 | 85 | 108 | 107 | 55 | 40 | 282 | 107 | 98 | 936 |
不安を抱えて行っている | 42 | 44 | 53 | 56 | 27 | 21 | 127 | 51 | 46 | 467 |
合計 | 345 | 605 | 759 | 756 | 366 | 243 | 1,767 | 730 | 627 | 6,198 |
タスク・シフト/シェアの現状として,多くの役職でタスク・シフト/シェアが行われているが,その自信の度合いにはばらつきがあった。部長や技師長などの管理職は,タスクの実施に自信を持っている傾向にあった。一方,一般職や非常勤職員では不安を感じる割合が高かった(Table 6)。
本研究では,医師の労働時間短縮に向けた臨床検査室の役割と取り組みについて検討した。以下に,得られた結果を踏まえた考察を詳細に述べる。
1. タスク・シフト/シェアの現状と課題調査結果から,現行制度下で医師からタスク・シフト/シェアが可能な14の業務を実施している施設の多くは小中規模の施設であった。このことは,比較的規模の小さい医療施設が人員配置の効率化や業務負担の軽減を図るために,積極的にタスク・シフト/シェアを導入していることを示している。
一方で,アクシデントの発生が増加傾向にある施設も一部存在し,これらの施設では特に「病棟・外来における採血業務」や「細胞診・超音波検査の所見記載」などでのリスクが指摘されている。これらの業務におけるアクシデント増加は,効率的な人員配置や増員(欠員補充)といったマンパワー不足がまず一般的に念頭に上がることではあるが,調査範囲から見える情報では,タスク・シフト/シェアの実施に対する教育・訓練の不足や,実施者の経験不足も一因にあると考えられる。
2. 教育・訓練の重要性タスク・シフト/シェアを円滑に進めるためには,適切な教育・訓練が不可欠である。調査では,タスク・シフト/シェアに関する厚生労働大臣指定講習会の修了状況にばらつきが見られ,多くの施設で実施者の不安が高いことが分かった。特に一般職や非常勤職員においてその傾向が強く,これらの職員に対する継続的な教育プログラムの整備が求められる。
3. 管理職の役割管理職である部長や技師長は,タスク・シフト/シェアの実施に対して比較的自信を持っていることが示された。これは,管理職が日々の業務管理や教育指導を通じて,実施業務に対する理解や経験を深めているためと考えられる。
したがって,管理職が中心となって,現場でのタスク・シフト/シェアの推進とそのフォローアップを行うことが重要である。
4. 医療アクシデントに与える影響の評価調査では,タスク・シフト/シェアの実施に伴うアクシデント発生率が高い施設も一部見受けられた。しかし,これらの施設では主に教育・訓練不足や経験不足が要因として挙げられており,これを改善することでアクシデント発生率の低減が期待される。特に,臨床検査技師に対する専門的な研修プログラムの導入や,定期的なスキルチェックを行うことで,安全性を確保することが可能である。
一方で,タスク・シフト/シェアを効果的に実施し,アクシデントの発生が抑えられている施設も存在する。これらの施設では,徹底した教育・訓練の実施,実施者の適切な配置,管理職による継続的なフォローアップが行われていることが成功の要因と考えられる。これらの成功事例を参考にすることで,他施設でも同様の効果を期待することができる。
5. 持続可能な労働環境の構築医師の労働時間短縮を実現するためには,臨床検査技師をはじめとする医療関係職種の役割拡大が不可欠である。しかし,業務の効率化やタスク・シフト/シェアの推進だけではなく,職場全体の労働環境を改善することも重要である。
具体的には,適切な人員配置,業務量の見直し,メンタルヘルスケアの充実などが挙げられる。これらの取り組みにより,医師のみならず,全職員が安心して働ける環境が整備されることが期待される。
6. 将来の展望今後,医療現場におけるタスク・シフト/シェアはますます進展することが予想される。そのためには,法改正や制度設計の柔軟な対応,現場の声を反映した政策の推進が重要である。また,技術革新に伴う新しい検査技術の導入や,デジタルヘルスの活用も視野に入れた包括的な取り組みが求められる。
臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアは,適切な教育・訓練と管理体制の下で安全に実施することが可能である。
本研究で得られた知見を基に,今後の政策策定や実務における改善が進められることを期待する。具体的には,教育・訓練の充実,管理職のリーダーシップの発揮,持続可能な労働環境の構築が鍵となる。これにより,医師と医療関係職種が協力し,質の高い医療サービスを提供することが可能となるであろう。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。