2025 年 74 巻 2 号 p. 261-267
近年,大動脈弁狭窄症(aortic valve stenosis; AS)の治療法として,経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)が着目されている。TAVIの有用性が示される一方,米国心臓病学会データセットでは,TAVI後1年以内に14.3%が心不全再入院,23.7%が死亡したと報告されている。動脈硬化性病変は心血管疾患の罹患率・死亡率の予測因子であり,その評価に足関節上腕血圧比(ABI)と脈波伝播速度(PWV)が広く用いられている。上腕足首間脈波伝播速度(baPWV)とTAVI術後の心血管イベントにおける中期的な予後の関連については不明確である。本研究ではTAVI術前のABI/baPWV検査指標とTAVI術後の心血管イベントの関連について検討を行った。対象はTAVI術前にABI/baPWV検査を行った連続128例である。平均観察期間は2年10ヵ月,128例中36例(28%)にイベントを認めた。イベントあり群が有意に高齢で,STSスコア,baPWV値が有意に高値であった。多変量Cox比例ハザード回帰分析では,baPWVのみが独立した予後予測因子であった。また,Kaplan-Meier曲線で検討した結果,baPWV 1,683 cm/s以上の群で有意に心血管イベントが多かった(log-rank p < 0.001, chi-square: 20.3)。TAVI術前のbaPWV検査はTAVI術後の心血管イベントと有意に関連しており,臨床に有益な指標であると考える。