医学検査
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チューブタイプ精度管理試料を用いた内部精度管理業務効率化への試み
石田 秀和立川 将也大澤 徳子横堀 侑太西村 知牛丸 明香理菊地 良介
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2025 年 74 巻 3 号 p. 574-580

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Abstract

臨床検査における内部精度管理(internal quality control; IQC)は,検査結果の信頼性を確保するために不可欠であるが,具体的な実施方法や使用する試料については明確な規定がなく各施設で独自に運用されている。また,ISO 15189:2022では第三者製のヒト由来成分ベース試料を用いることが推奨されている。本研究では,溶解・分注・凍結保存が必要な従来の凍結乾燥試料(旧試料)から,チューブタイプの液状凍結試料(新試料)への変更による有用性を検証した。GA09IIα,HLC-723G11,cobas 8000にて測定を行っている検査項目を対象とし,旧試料と新試料による20日間にわたるIQC運用の室内再現精度(CV%)を比較した結果,いずれの項目でも精度に大きな差は認められなかった。また,新試料では再栓冷蔵保存が可能となり小分け凍結保存や融解・混和作業が不要となった。そのため,測定前の準備時間が従来の週6時間程度から大幅に削減でき,消耗品コストも1測定あたり46円から20円に減少した。一方,新試料のプレラベルバーコードが検査システムに対応せず,ラベル貼り替えや参考値の外部取得が必要などの課題もあった。しかしながら,新試料はインターネット経由で全世界の報告値との比較が容易であり,外部精度評価の代替としても有用である。以上より,チューブタイプの液状凍結IQC試料の活用は業務効率化と精度向上に有用であることが示唆された。

Translated Abstract

Internal quality control (IQC) in clinical laboratory testing is indispensable for ensuring the reliability of test results. However, there are no clear regulations on specific implementation methods or the samples used, and each facility operates independently. ISO 15189:2022 recommends the use of third-party serum-based samples. In this study, we evaluated the efficiency of IQC operations by switching from conventional lyophilized samples—which require dissolution, aliquoting, and frozen storage-to tube-type liquid frozen samples. We compared the intra-laboratory reproducibility (CV%) over 20 days between old and new samples for test items measured using GA09IIα, HLC-723G11, and cobas 8000. The results showed no significant difference in precision for any of the items. Additionally, the ability to reseal and refrigerate the new samples eliminated the need for aliquoting, freezing, thawing, and mixing, significantly reducing the preparation time before measurement from the conventional approximately 6 hours per week. The consumable cost per measurement also decreased from 46 yen to 20 yen. Challenges remained, such as sample barcodes not being compatible with the testing system—necessitating label replacement and external retrieval of reference ranges—but the new samples facilitated easier comparison with reported values worldwide and were useful as a substitute for external quality assessments. In conclusion, the utilization of tube-type liquid frozen IQC samples was suggested to be useful for operational efficiency and precision improvement.

I  はじめに

臨床検査における品質管理は検査結果の信頼性を確保するための包括的な枠組みであり,検査全過程における品質の維持と向上を目的としている。なかでも,内部精度管理(internal quality control; IQC)は検査精度の担保における重要な業務のひとつである。2018年に施行された改正医療法では検体検査業務を行う医療機関における精度管理基準が明確化され,「検体検査の精度の確保のために努めるべき事項」として,IQCの実施が努力義務とされた1)。IQCは臨床検査室において特に精密性を担保する重要な業務である。しかしながら,実際のIQC業務の実施方法に明確な規定は存在せず,施設独自の方法や基準に則して実施されることが多い2)。したがって,IQCに用いる試料も施設独自の基準で選定し使用している現状がある。一方,「ISO 15189:2022臨床検査室―品質と能力に関する要求事項」ではIQC試料として第三者機関(サードパーティ)製を用いることを推奨している3)。これは試薬・装置製造業者に多い,溶媒(水溶液)ベースの試料ではなく,ヒト由来成分ベース試料を用いた客観的なIQC活動を促進するためである。

これまで当院の免疫測定装置では装置製造業者指定のガラスバイアル容器に入ったIQC試料を用いてきたが,その多くが凍結乾燥試料であり,検査前準備プロセスとして試料の溶解,分注,保管,加えて検査前プロセスとして小分け分注試料の融解,混和作業が必要であった。今回我々はそれらの作業を軽減したIQC業務効率化を目的とし,プラスチックチューブ容器に入った精度管理試料の有用性検証を行った。

II  対象と方法

1. 対象

本検討では対象装置を全自動糖分析装置GA09IIα,自動グリコヘモグロビン分析計HLC-723G11,生化学・免疫統合型分析装置cobas 8000とした。なお,当院のcobas 8000は生化学モジュールであるc502が1ユニット,免疫モジュールであるe801が1ユニットの構成である。対象項目はTable 1に示す検査項目およびIQC試料とし,新規IQC試料は臨床判断値を考慮した任意の各2濃度で検証を行った。

Table 1 測定装置および項目と内部精度管理試料

測定装置 測定項目 新試料 旧試料
GA09IIα グルコース(Glu) インテリQ マルチコール QAPトロール
尿糖(U-Glu) インテリQ 尿化学コントロール リクイチェック 尿化学コントロール
HLC-723G11 ヘモグロビンA1c(HbA1c) インテリQ 糖尿病コントロール HbA1cコントロールセット
cobas 8000 c502 膵型アミラーゼ(P-AMY) インテリQ マルチコール エクルーシス プレチコントロールCC
リウマチ因子(RF) インテリQ イムノロジー コントロール イムノキューセラI「生研」RD
抗ストレプトリジン-O(ASO)
C3
C4
β2マイクログロブリン(BMG) イムノキューセラII「生研」RD
シスタチンC(CysC) シスタチンCIIコントロール
バンコマイシン(VANC) インテリQ イムノアッセイ プラス コントロール コバスTDMマルチコントロール
cobas 8000 e801 甲状腺刺激ホルモン(TSH) エクルーシス プレチコントロールU
遊離トリヨードサイロニン(FT3)
遊離サイロキシン(FT4)
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)
黄体形成ホルモン(LH)
卵胞刺激ホルモン(FSH)
プロゲステロン(PRG)
エストラジオール(E2)
コルチゾール(CORT)
免疫グロブリンE(IgE)
インスリン(IRI) エクルーシス プレチコントロールMM
C-ペプチド(CPR) インテリQ スペシャル イムノアッセイプラス コントロール
プロカルシトニン(PCT) エクルーシス プレチコントロールPCT
(キット付属)
フェリチン(Ferr) インテリQ 腫瘍マーカー コントロール エクルーシス プレチコントロールTM
総前立腺特異抗原(PSA)
CA125
CA15-3
CA19-9
癌胎児性抗原(CEA)
サイトケラチン19フラグメント(CYFRA) エクルーシス プレチコントロールLC
ガストリン放出ペプチド前駆体(ProGRP)
扁平上皮癌関連抗原(SCC)
ミオグロビン(MYO) インテリQ カーディアック アドバンス コントロール エクルーシス 心筋マーカーIII

2. 方法

Table 1に示す旧IQC試料(旧試料)と新IQC試料(新試料)を日常検査と同じタイミングで測定し,室内再現精度として各試料の項目別変動係数(coefficient of variation; CV)を算出した。なお,各試料は添付文書の開封後安定性期間内に使用した。また,旧試料による運用と新試料による運用における低濃度域および高濃度域のそれぞれにおけるバラツキの違いを評価するため,等分散性の検定として統計解析ソフトJMP Pro 17.2.0(JMP Statistical Discovery LLC)を用いて両側F検定を行った。F検定はターゲット濃度の違いによる影響を除外するため,標準化([測定値-平均値]/標準偏差)後の値を使用した。

旧試料のうち,液状凍結試料であるQAPトロール(シスメックス株式会社)は融解後冷蔵保存,使用時に分注を行い,日常IQCと同様に1日1バイアルを使用した。凍結乾燥試料であるイムノキューセラI「生研」RD,イムノキューセラII「生研」RD(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)は溶解後冷蔵保存,液状冷蔵試料であるリクイチェック尿化学コントロール(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社),シスタチンCIIコントロール,コバスTDMマルチコントロール(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)は使用時分注を行った。バイアルタイプ凍結乾燥試料であるHbA1cコントロールセット(東ソー株式会社),エクルーシス プレチコントロールCC,エクルーシス プレチコントロールU,エクルーシス プレチコントロールMM,エクルーシス プレチコントロールPCT,エクルーシス プレチコントロールTM,エクルーシス プレチコントロールLC,エクルーシス 心筋マーカーIII(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)は溶解後小分け分注を行い,使用時まで凍結保存を行った。一方,新試料群はチューブタイプ液状冷蔵試料であるインテリQ 尿化学コントロール以外のチューブタイプ(プラスチックチューブ容器入り)液状凍結試料(インテリQ マルチコール,インテリQ 尿化学コントロール,インテリQ 糖尿病コントロール,インテリQ イムノロジー コントロール,インテリQ イムノアッセイ プラス コントロール,インテリQ スペシャル イムノアッセイプラス コントロール,インテリQ 腫瘍マーカー コントロール,インテリQ カーディアック アドバンス コントロール;バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)について添付文書上は室温融解が求められているが,使用前日に冷凍庫から冷蔵庫に移し冷蔵庫内融解を行ったところ明らかな変化を認めなかったため,運用効率を考慮し冷蔵庫内融解を行った。いずれの新試料群も測定サンプリング後は閉栓冷蔵保管を行った。なお,インテリQ尿化学コントロールおよびインテリQ糖尿病コントロール以外の新試料はすべてヒト由来成分ベース試料である。

上記運用のもと,IQC試料とは別に必要となる消耗品コストの比較および検査前準備プロセスに要する時間の比較を行った。

III  結果

1. IQC運用の比較検証

1) GA09・HLC-723G11

旧試料であるQAPトロール,リクイチェック 尿化学コントロール,HbA1cコントロールセットと新試料であるインテリQマルチコール,インテリQ尿化学コントロール,インテリQ糖尿病コントロールにおける20日間にわたるIQC運用の比較評価を行った。グルコース,尿糖,ヘモグロビンA1cのいずれも室内再現精度の変動係数(CV%)に大きな差はみられず,標準化後F検定はいずれもp > 0.99であった(Table 2)。

Table 2 生化学系測定装置における内部精度管理運用の比較

測定装置 測定項目 新試料 旧試料
Mean ± SD CV% Mean ± SD CV%
GA09IIα Glu L 59 ± 1.2 2.0 90 ± 0.6 0.6
H 115 ± 1.1 1.0 242 ± 1.1 0.5
U-Glu L 29 ± 0.5 1.9 24 ± 0.4 1.7
H 299 ± 1.2 0.4 301 ± 0.9 0.3
HLC-723G11 HbA1c L 5.6 ± 0.05 0.8 5.1 ± 0.04 0.8
H 8.6 ± 0.05 0.6 10 ± 0.08 0.8
cobas 8000 c502 P-AMY L 25 ± 0.3 1.3 44 ± 0.9 2.1
H 115 ± 1 0.8 112 ± 2 1.8
RF L 27 ± 0.3 1.2 22 ± 0.4 1.8
H 37 ± 0.3 0.9 48 ± 0.4 0.8
ASO L 66 ± 1.2 1.8 154 ± 1.9 1.3
H 122 ± 1.9 1.6 317 ± 5.5 1.7
C3 L 81 ± 0.9 1.1 66 ± 0.9 1.4
H 160 ± 1.7 1.1 125 ± 2.4 1.9
C4 L 14 ± 0.3 2.4 13 ± 0.3 1.9
H 33 ± 0.6 1.7 23 ± 0.3 1.5
BMG L 0.8 ± 0.03 4.3 1.9 ± 0.04 2.4
H 1.8 ± 0.04 2.1 8 ± 0.15 1.8
CysC L 0.46 ± 0.009 1.9 0.96 ± 0.011 1.2
H 0.54 ± 0.013 2.4 4.24 ± 0.037 0.9
VANC L 6 ± 0.4 6.4 5 ± 0.5 9.0
H 18 ± 0.5 2.7 29 ± 2.2 7.6

2) cobas cモジュール

同様に旧試料であるエクルーシス プレチコントロールCC,シスタチンCIIコントロール,コバスTDMマルチコントロール,イムノキューセラI「生研」RD,イムノキューセラII「生研」RDと新試料であるインテリQマルチコール,インテリQイムノロジーコントロール,インテリQイムノアッセイ プラス コントロールにおける20日間にわたるIQC運用の比較評価を行った。膵型アミラーゼ,リウマチ因子,抗ストレプトリジン-O,C3,C4,β2マイクログロブリン,シスタチンC,バンコマイシンの8項目について室内再現精度を確認した。バンコマイシンは旧試料よりも新試料でCV値の収束を認め,標準化後F検定で低濃度p = 0.009,高濃度p < 0.001となった。そのほかの項目ではいずれも大きな差は認められず,標準化後F検定はいずれもp > 0.99であった(Table 2)。

3) cobas eモジュール

電気化学発光免疫測定法である23項目について,旧試料であるエクルーシス プレチコントロールU,エクルーシス プレチコントロールMM,エクルーシス プレチコントロールPCT,エクルーシス プレチコントロールTM,エクルーシス プレチコントロールLC,エクルーシス 心筋マーカーIIIと新試料であるインテリQ イムノアッセイ プラス コントロール,インテリQ スペシャル イムノアッセイプラス コントロール,インテリQ 腫瘍マーカー コントロール,インテリQ カーディアック アドバンス コントロールにおける20日間の安定性評価を行った。

甲状腺刺激ホルモン,遊離トリヨードサイロニン,遊離サイロキシン,ヒト絨毛性ゴナドトロピン,黄体形成ホルモン,卵胞刺激ホルモン,プロゲステロン,エストラジオール,コルチゾール,免疫グロブリンE,インスリン,C-ペプチド,プロカルシトニン,フェリチン,総前立腺特異抗原,CA125,CA15-3,CA19-9,癌胎児性抗原,サイトケラチン19フラグメント,ガストリン放出ペプチド前駆体,扁平上皮癌関連抗原,ミオグロビンの室内再現精度についても同様に大きな差を認められず,標準化後F検定はいずれもp > 0.99と良好な結果であった(Table 3)。

Table 3 免疫系測定装置における内部精度管理運用の比較

測定項目 レベル 新試料 旧試料
Mean ± SD CV% Mean ± SD CV%
TSH L 0.89 ± 0.014 1.6 1.33 ± 0.016 1.2
H 6.37 ± 0.094 1.5 8.34 ± 0.124 1.5
FT3 L 3.18 ± 0.048 1.5 3.64 ± 0.093 2.6
H 6.74 ± 0.093 1.4 13.5 ± 0.202 1.5
FT4 L 1.39 ± 0.015 1.1 1.25 ± 0.01 0.8
H 2.9 ± 0.038 1.3 2.86 ± 0.028 1.0
HCG L 3.8 ± 0.06 1.7 4.9 ± 0.07 1.5
H 19.8 ± 0.23 1.1 40 ± 0.58 1.5
LH L 4.2 ± 0.05 1.1 10.5 ± 0.12 1.2
H 23.7 ± 0.24 1.0 49.6 ± 0.68 1.4
FSH L 5.8 ± 0.06 1.0 23 ± 0.43 1.9
H 16.5 ± 0.16 1.0 48 ± 1.25 2.6
PRG L 1.1 ± 0.03 3.1 7.6 ± 0.11 1.4
H 12 ± 0.15 1.3 18.9 ± 0.42 2.2
E2 L 81.2 ± 2.52 3.1 100.4 ± 2.2 2.2
H 369.3 ± 6.8 1.8 529.1 ± 8.09 1.5
CORT L 3.9 ± 0.05 1.3 11.6 ± 0.16 1.4
H 20.3 ± 0.35 1.7 24.8 ± 0.4 1.6
IgE L 74.2 ± 1.43 1.9 102.6 ± 1.78 1.7
H 128.8 ± 2.63 2.0 312.3 ± 5.26 1.7
IRI L 19.1 ± 0.34 1.8 21.6 ± 0.49 2.3
H 71.8 ± 2.21 3.1 69.4 ± 1.35 1.9
CPR L 1.9 ± 0.03 1.6 2 ± 0.03 1.5
H 3.8 ± 0.07 1.9 10 ± 0.15 1.5
PCT L 1.4 ± 0.05 3.7 0.5 ± 0.01 1.3
H 7.6 ± 0.29 3.8 9 ± 0.08 0.9
Ferr L 30.6 ± 0.55 1.8 25.2 ± 0.35 1.4
H 377.3 ± 6.51 1.7 181.1 ± 2.73 1.5
PSA L 0.14 ± 0.002 1.3 4.14 ± 0.065 1.6
H 3.57 ± 0.044 1.2 41.23 ± 0.525 1.3
CA125 L 26.5 ± 0.43 1.6 32.4 ± 0.41 1.3
H 77.4 ± 1.31 1.7 94.3 ± 1.07 1.1
CA15-3 L 24.1 ± 0.8 3.3 20.4 ± 0.3 1.5
H 58.8 ± 1.77 3.0 103 ± 1.73 1.7
CA19-9 L 18.4 ± 0.28 1.5 18.5 ± 0.86 4.7
H 78.5 ± 1.19 1.5 99.1 ± 2.06 2.1
CEA L 2.7 ± 0.06 2.3 4.9 ± 0.08 1.6
H 18.7 ± 0.37 2.0 52.2 ± 0.82 1.6
CYFRA L 4.4 ± 0.07 1.7 3.8 ± 0.06 1.5
H 38.3 ± 0.61 1.6 33.8 ± 0.67 2.0
ProGRP L 58.3 ± 0.98 1.7 63.5 ± 0.73 1.2
H 262.9 ± 9.15 3.5 921.9 ± 9.82 1.1
SCC L 0.99 ± 0.038 3.8 1.83 ± 0.048 2.6
H 7.12 ± 0.16 2.2 19.73 ± 0.346 1.8
MYO L 54 ± 0.8 1.5 83 ± 0.6 0.8
H 291 ± 5.7 2.0 922 ± 10.6 1.2

2. 測定までのプロセス比較

1) cobas eモジュールにおける作業工程

cobas eモジュールにおけるIQC測定までのプロセスの比較をFigure 1に示す。これまでの測定前プロセスは凍結乾燥試料を溶解し,標識したサンプルカップに分注,凍結保存を行う必要があった。それらを測定時に融解し,混和後測定を行っていた。対して,新試料は液状凍結試料であるため,融解して測定する工程に短縮が可能であった。測定後は旧試料では1回使い切りとして廃棄していたが,新試料では再栓後冷蔵保管を行っている。そのため,新試料は開封後安定期間まで開栓して測定するのみとなった。

Figure 1  新試料と旧試料における測定前プロセスの比較

2) コスト比較

旧試料は凍結乾燥試料であり,溶解後小分け凍結保管を行っていたため,サンプルカップやチップなどの消耗品に1測定あたり,46円程度を要していた。新試料では再栓キャップとラベルのみであるため,20円程度であり,1測定あたりのコストは50%以上減少した。

3) 所要時間比較

旧試料では凍結乾燥試料の溶解と小分け分注のために週に6時間程度を要していたが,新試料では検査システム側で用意したラベルを貼付するのみで融解は冷蔵庫内で可能である。そのため,週6時間のほとんどを削減することが可能となった。

IV  考察

IQC業務に係る効率化を目的とし,チューブタイプ試料の有用性について評価を行った。新試料は小分けせずに再栓冷蔵保管にて検証を行ったが,小分け凍結保存運用の旧試料とほぼ同程度の安定性が確認された。また,チューブタイプ試料により多くの検査前準備プロセスの削減が可能であった。

IQCは臨床検査の精度保証には不可欠な業務であり,コントロール試料を用いたXbar-R管理図手法などが多用されている。コントロール試料を用いたIQCは一般的に測定プロセスの精度管理を反映しており,試料の融解などの測定までの準備は患者検体とは異なるプロセスを経ることが多い。したがって,患者検体における品質保証としては,IQC業務における測定前プロセスで生じる誤差を極力小さくする必要がある。IQC試料の溶解にはマイクロピペットを使用することが多いが,プレウェッティングの回数やフォワード法・リバース法,ピペットの角度など,さまざまな要因が分注精度に影響を与える4)。さらに,溶解時間や混和なども誤差要因となることが考えられる。繰り返し再栓保管を行う新試料は小分け凍結使用していた旧試料と比較しても同等の安定性であることが本検討結果から明らかとなった。添付文書記載の保管期間であれば繰り返し再栓使用であっても問題ないことが考えられるが,サンプリング後の放置により揮発濃縮する懸念がある。そのため,揮発濃縮誤差を抑えるための運用方法構築が必要になることが考えられる。旧試料では小分け凍結を必要とする試料が多く,試料も項目によって細分化していたため,測定用試料の準備にもかなりの時間を要していた。新試料では運用効率を考慮し冷蔵庫内で融解したが,使用する前に転倒混和を行うだけで安定して使用できることが示唆され,小分け分注の消耗品コストに加え,時間的コストの大幅な短縮に成功した。また,メーカー指定試料では多岐に渡る試料を使用する必要があるが,新試料への変更により14種類から9種類への集約化が可能となった。

新試料では試料情報,有効期限,ロット番号などの情報を含むバーコードラベルが予め貼付されており,測定に利用されることが想定されているが,当院の臨床検査システムおよび測定装置の環境に対応した形式ではなく,臨床検査システムから発行したラベルを貼付し直す必要がある。また,管理値の参考値情報が臨床検査システムまたは測定装置にて参照できず,インターネット経由で情報を取得している状況である。臨床検査システム会社や装置メーカーによる協力がなければ解決が難しい問題ではあるが,これらがシームレスに利用可能となることで,さらなる利便性向上につながることが期待される。しかしながら,新試料では参考値情報だけでなく,自施設のデータを登録することで全世界の報告値との比較が容易という利点もある。したがって,参考基準範囲では捉えきれない試薬ロット間差の推測も可能であり,さらには外部精度評価の代替方法として利用可能である。

IQC業務においてチューブタイプの液状凍結試料を活用することにより,患者試料測定により近い評価が可能となったことが推測され,さらに大幅な時間短縮による業務プロセスの効率化が可能となったと考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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