採血室運営において個々の採血技術を適切に評価することは重要である。当院では「採血数」と「採血交代率」の2つの指標を用いた採血技術レベル評価を導入し,技術力を4段階(SS, S, A, B)に分類している。この評価制度は,採血者の技術力を可視化し,採血交代時に適切な採血者を特定する基準として活用している。本研究では,この評価制度の効果とその実際を検証した。技術力の明確化は,採血交代依頼の迅速な実施と,交代請負回数の平準化に有効であった。技術レベルが高い採血者ほど,採血難度の高い患者の採血成功率が高く,また採血所要時間も短かった。職員へのアンケート調査では,本制度に対するポジティブな意見が約6割を占め,制度が概ね受け入れられていることが示された。一方で,ネガティブな意見が約1割存在していることから,管理者が制度を適切に維持し,職員の納得感を得ながら健全な運用を目指すことが求められる。本研究は,採血技術レベル評価が採血者の技術力を客観的かつ定量的に評価する有用な指標であることを示した。この評価制度は,職員の目標設定や再教育に活用され,採血室全体の技術力向上を促進する効果が期待された。このことは,患者の穿刺回数の減少や採血合併症の予防を通じて,患者安全の向上にも寄与する可能性がある。
Appropriate evaluation of individual phlebotomy skills is essential for the efficient functioning of a phlebotomy room. In our hospital’s phlebotomy room, we have established an evaluation system for phlebotomy skill levels based on two key indicators: the number of blood draws attempted and rate of phlebotomy handoffs. This system classifies skill levels into four tiers (SS, S, A, and B) and serves as a tool for visualizing staff competency, facilitating the identification of appropriate personnel for phlebotomy handoffs. This study examined the effectiveness and practical application of this evaluation system. The clear classification of skill levels facilitated timely handoff requests and contributed to a more balanced distribution of workload. Staff with higher skill levels achieved higher success rates in blood collection and completed the procedure in less time. Approximately 60% of the staff held a positive view of the system, indicating its general acceptance. However, approximately 10% raised concerns, indicating the necessity for administrators to effectively manage the system while fostering staff engagement and consensus for its appropriate implementation. This study demonstrated that the phlebotomy skill level evaluation system serves as an objective and quantitative indicator of phlebotomy proficiency. The system is anticipated to aid staff in setting professional goals and engaging in continuous training, thus improving the overall skill level within the phlebotomy room. Furthermore, reducing the number of venipuncture attempts and preventing phlebotomy-related complications may contribute to patient safety improvement.
採血技術の品質管理では,採血者個々の技術力を適切に評価する方法の確立が重要である。採血技術を評価する方法は嶋崎1)により認知・精神運動・情意を総合的に評価する認定制度が報告されており,患者接遇を含めた総合的な教育システムとして運用されている。この認定基準の技術評価に着目すると,技術の評価として第三者評価が含まれているが,評価の基準や評価者間の評価の平準化などについては議論されておらず,評価対象者が多くなるほど評価の客観性や公平性の維持が困難になる可能性がある。また,秋永ら2)は採血者の客観的な力量評価の必要性について言及しており,採血時間,失敗率,交代率という客観的な指標を用いて採血者の力量を算出していることを報告している3)。このように,採血技術を客観的に評価する仕組みの必要性が認識されているものの,その方法と効果についての報告は限られており,特に大規模な採血室における実践的な検証は少ない。採血技術に対する客観的な評価ができれば,勤続年数や年齢に基づいた推測ではなく,真に技術の高い採血者の特定や採血手技のトレーニングの効果判定などへの応用が期待できる。
当院中央採血室は,平均来室患者数が1日およそ671人(2024年実績)であり,採血台11台を有する。採血者の構成は,臨床検査技師と看護師の2職種であり,勤務形態は採血室専従の非常勤職員(パート職員)と当番制で採血業務に従事する常勤職員からなる。この他に,臨床検査技師免許を有する本学大学院生が採血業務に従事している(ヘルスケアアシスタント,以下,HCA)。
当院中央採血室では2017年より採血者の採血技術レベル評価を導入している。これは,採血数と採血交代率(以下,交代率)の2つの指標を採血者ごとに集計して,その組み合わせから採血技術を4段階に分類するものである。評価は6か月ごとに再集計し更新している。導入の目的は,採血者の技術レベルを見える化して,採血交代時に自分より上位レベルの採血者を見つけやすくする仕組みの構築である。それまで,特定の採血室専従者に集中していた交代請負の負担を分散するとともに,採血交代までの時間の短縮化を意図した。
本研究では,当院で実施している採血技術レベル評価の効果とその実際を検証したので報告する。
採血ログデータは,採血支援システム(株式会社テクノメディカ)で発生し,検査情報システム(株式会社テクノラボ)のデータベースに登録される。このデータベースから,患者ID,来室日時,患者呼び出し日時,採血終了日時,および患者呼び出しと採血終了それぞれの実施者IDを抽出した。
2. 採血技術レベル分類方法採血技術レベル分類の指標として,採血数と交代率の2つを用いた。交代率は,患者の呼び出し操作を行った採血者と採血終了操作を行った採血者が異なる場合を交代とカウントし,総呼び出し数で除して算出した。採血技術レベル分類は,6か月間の採血数が100人以上かつ交代率が0.25%以下をSS,0.5%以下をS,1.0%以下をA,採血数が100未満または交代率1.0%超過をBの4段階とした。
3. 採血技術レベルと患者難易度の関係患者難易度を採血に要した時間で分類した。2019年4月から2024年9月までの採血のうち,採血所要時間(呼び出し〜採血終了まで)のデータが取得できた827,501件の実患者数97,093人について,採血所要時間の最頻値2分10秒を基準として,3分30秒未満をN(通常難度),3分30秒以上をD1,4分以上をD2,5分以上をD3,10分以上をD4,15分以上をD5(最高難度)と患者難易度を6段階に分類した。当採血室での採血実施回数が2回以上の患者は平均値を用いた。分類した患者難易度別に各採血技術レベルの成功率を算出した。
4. 採血技術レベルと採血所要時間の関係採血所要時間を患者難易度別に採血技術レベルごとに集計し,平均値を算出した。2019年4月から2024年9月までの採血のうち,採血の交代をせず一人の採血者によって採血が完遂されたデータを用いた。各採血技術レベル間の平均値の差の有無を検証するため,一元配置分散分析を実施した。有意水準は0.05とした。統計解析には,Microsoft Excel 2021を使用した。
5. 職員へのアンケート調査採血業務に従事する職員に対して採血室の運営全般に関するアンケート調査を実施した。この中で,採血技量を定量評価されることに対する意識調査を行った。なお,回答者は,検査部,輸血・細胞治療センターおよびHCA所属の臨床検査技師と看護師である。アンケートはMicrosoft社のFormsを使用し,匿名回答とした。
本研究は東京科学大学倫理審査委員会の承認(M2023-397)を受けて実施した。
採血技術レベル評価導入前を含む2014年度以降の採血ログデータを使用して,採血技術レベル分類に従って技術レベルの割合と交代率の推移を調べた。採血室の勤務形態は,2015年度までは常勤職員が輪番制で採血室に3か月間出向する配属型であり,レベルA以上の職員が全体のおよそ45%を占め,交代率は1%程度だった。2016年度から全職員が参加する当番型(以下,全員参加型)の運営に変更した。その結果,レベルA以上の職員の割合は全体のおよそ30%に減少し,交代率は2.3%に増加した。その後,レベルA以上の職員の割合は徐々に上昇し,2024年には全体の60%以上に増加した。交代率は2017年度下期から2%前後のまま推移していたが,2022年度上期より減少を始め,2024年度上期には1%以下に低下した(Figure 1)。

2016年より全員参加型の運営に変更し,採血に携わる職員数が増加した。採血レベルA以上の職員割合は減少し,交代率が上昇した。交代率は2017年から2021年まで2%前後で推移し,2022年から徐々に減少した。
2016年に全員参加型に変更したことで交代数が2倍になり,その増加分が,いわゆるベテラン看護師に集中した。このベテラン看護師と同等の技術力がある看護師の交代請負回数は変化しなかった。採血技術レベル評価を導入した2017年にこの集中は解消され,ベテラン看護師の交代請負回数は以前の水準に戻った(Figure 2)。

2016年に全員参加型の運営に変更し,看護師1の採血の交代請負数が増加したが,同等の技術力がある看護師2は変化しなかった。2017年に採血技術レベル評価を導入すると看護師1の交代請負回数は減少し,以前の水準に戻った。
患者難易度の分布は通常難度から順にNが74.4%,D1が8.6%,D2が8.3%,D3が8.0%,D4が0.7%,D5が0.2%であった(Figure 3a)。

a)2019年4月から2024年9月の間に来室した患者97,093人(実患者数)それぞれの採血所要時間から患者難易度を設定した。採血回数が2回以上の患者は平均値を用いた。
b)技術レベルが高いほど,高難度患者の採血成功率は高い。
採血技術レベルと患者難易度別の採血成功率は,通常難度Nの患者に対してはいずれの技術レベルでも99%以上だった。患者難度が上がるにつれて成功率は低下し,最高難度D5患者ではレベルSSの採血者の成功率は85.5%であるが,レベルBの採血者の成功率は24.6%であった(Figure 3b)。
4. 採血技術レベルと採血所要時間の関係N,D1,D2,D3およびD4の各患者難易度において,採血技術レベル間の平均採血所要時間に有意な差を認めた(p < 0.01)。一方,D5では有意な差は認めなかった(p = 0.13)。採血所要時間は,いずれの患者難易度でも技術レベルが高いほど短くなる傾向であった。通常難度N患者で比較すると,採血所要時間の平均は技術レベルSSがレベルBより55秒短かった(Figure 4)。

採血技術レベルが高いほど採血所要時間が短くなる。平均所要時間は,採血レベルSSが採血レベルBより55秒短い。X:平均,**:p < 0.01,n.s.:not significant
アンケートの回収率は86%(72/85人)であった。採血技術レベル評価に対する心証は,ポジティブが59.7%,どちらでもないが26.4%,ネガティブは13.9%であった(Table 1)。
| レベル評価されることに対する気持ちはどれに近いですか | 合計 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| ポジティブ | どちらでもない | ネガティブ | |||
| レベルアップやレベルキープの指標として好意的にとらえている | 技術を評価されることに否定的な気持ちを感じている | ||||
| 全体 | 43 | 19 | 10 | 72 | |
| 59.7 | 26.4 | 13.9 | 100 | ||
| 当院での就業年数 | 20年以上 | 4 | 4 | 1 | 9 | 
| 44.4 | 44.4 | 11.1 | 100 | ||
| 10年以上 | 5 | 3 | 1 | 9 | |
| 55.6 | 33.3 | 11.1 | 100 | ||
| 5年以上 | 11 | 3 | 2 | 16 | |
| 68.8 | 18.8 | 12.5 | 100 | ||
| 5年未満 | 16 | 8 | 4 | 28 | |
| 57.1 | 28.6 | 14.3 | 100 | ||
| HCA(学生) | 7 | 1 | 2 | 10 | |
| 70.0 | 10.0 | 20.0 | 100 | ||
| 採血は好きか | 好き | 13 | 1 | 3 | 17 | 
| 76.5 | 5.9 | 17.6 | 100 | ||
| どちらかというと好き | 15 | 4 | 2 | 21 | |
| 71.4 | 19.0 | 9.5 | 100 | ||
| どちらでもない | 12 | 9 | 2 | 23 | |
| 52.2 | 39.1 | 8.7 | 100 | ||
| どちらかというと嫌い | 3 | 3 | 3 | 9 | |
| 33.3 | 33.3 | 33.3 | 100 | ||
| 嫌い | 0 | 2 | 0 | 2 | |
| 0 | 100 | 0 | 100 | ||
| 採血室への所属意識 | ある 積極的に採血に出たいと思っている  | 
                        7 | 1 | 4 | 12 | 
| 58.3 | 8.3 | 33.3 | 100 | ||
| どちらかというとある 混んでいれば進んで採血に出る  | 
                        13 | 5 | 1 | 19 | |
| 68.4 | 26.3 | 5.3 | 100 | ||
| どちらでもない | 7 | 5 | 1 | 13 | |
| 53.8 | 38.5 | 7.7 | 100 | ||
| どちらかというとない 混んでいる時に呼ばれたらヘルプに出る程度  | 
                        4 | 3 | 0 | 7 | |
| 57.1 | 42.9 | 0 | 100 | ||
| ない なぜ採血も担当しなければならないのかと思っている  | 
                        0 | 1 | 0 | 1 | |
| 0 | 100 | 0 | 100 | ||
| わからない | 0 | 1 | 0 | 1 | |
| 0 | 100 | 0 | 100 | ||
| 該当しない・輸血部・HCA | 12 | 3 | 4 | 19 | |
| 63.2 | 15.8 | 21.0 | 100 | ||
上段:度数
下段:割合
本研究では,当院で実施している採血者の技術評価の効果とその実際を検証した。採血技術レベルの評価は,採血技術の向上を促進し,採血数と交代率という2つの指標のみで,定量的かつ客観的に採血者の技術力を評価できることを示した。
まず,採血技術レベルと交代率の推移について検討した。採血室の勤務形態を全員参加型の運営に変更した2016年以降,レベルA以上の職員割合が一時的に減少し交代率が増加した。しかし,その後の技術レベル向上に伴い,2024年にはレベルA以上の職員が全体の60%以上を占め,交代率も1%以下に減少した。採血技術レベル評価は個人の年度目標として設定する職員もおり,積極的に採血室へ出向き自身の交代率を意識しながら前向きに採血に取り組む姿勢が見られた。また,レベルの上昇が見られない職員に対しては,採血担当回数を増やしたり,面談の機会を設けたりするなど,フォローアップの指標としても活用している。さらに,フォローアップの必要がない職員においても,年々レベルが上昇する傾向が確認され,管理者と職員の双方がその成長過程を数字で確認することができる。このように,採血技術レベル評価は,採血室全体の技術レベルを可視化し,技術向上を促進させると考えられる。
次に,交代要請の客観的な指標としての採血技術レベル評価の意義を検討した。この評価は,採血の交代を依頼する相手を明確にするために役立っている。採血台にはログイン中の採血者のレベルと名前が表示されており(Figure 5),誰に交代を依頼すべきかを特定することに役立ち,交代要請が特定の採血室専従者に集中することを抑止している。また,依頼される採血者も自身のレベルを認識しているため,交代を受け入れる根拠となり,謙遜による拒否が起こらず,交代が円滑に承諾される。その結果,患者を不用意に待たせる時間が短縮される。このような客観的な評価がなければ,採血者の所属年数や年齢に基づく主観的かつ経験的な推測で交代を依頼することになりかねない。そのため,実際には高い技術を持つ若い採血者に交代が依頼されない一方で,技術力がそれほど高くない採血者に交代を依頼してしまうなどといったことが生じる可能性がある。この点で,採血技術レベル評価は,採血業務負荷の平準化にも貢献する指標であるといえる。

採血システムログイン中の職員のレベルと氏名を採血台のモニタに表示している。S表示はレベルSとレベルSSを一括しており区別はしていない。導入当初はレベルSSの職員が少なかったため,SSの職員に交代依頼が集中しないための対策である。
採血成功率は,患者難易度が高くなるほど低下する傾向を認めるものの,技術レベルが高い採血者ほど成功率が高いことを確認した。特に,最高難度D5患者において,レベルSSの採血者が85.5%の成功率を示したのに対し,レベルBの採血者では24.6%に留まった。また同じ患者であっても,レベルSSの採血者が担当した場合には短時間で採血が終了しているが,レベルBの採血者では交代する割合が高い場合があった。つまり,技術レベルが高い採血者は,高難度の患者でも高確率に採血を成功させる技量を有しているといえる。採血技術レベル評価に患者難易度は考慮していないが,採血技術レベルと患者難易度に対する採血成功率は相関関係にあると考える。
採血所要時間は,技術レベルが高いほど短くなる傾向を認めた。最高難度D5患者で各技術レベル間に有意な差を認めなかったのは,D5以外の分類の患者と異なり採血所要時間に上限がないことと,D5に分類したデータ数が少ないためと考える。通常難度N患者の採血成功率はいずれの技術レベルでも99%以上と技術力の差は小さいが,採血所要時間の平均値ではレベルSSとレベルBで55秒の差が生じていた。採血所要時間の最頻値が2分10秒であることを考えれば,この差は大きい。このことは,技術レベルの高さは患者の待ち時間短縮に寄与することを示唆しているものの,今回の検証ではその関連性を明確には見出せなかった。しかしながら,レベルSSの職員が多い時間帯とレベルBの職員が多い場合とでは,患者の回転率に体感的な差を感じるとの当施設職員からの意見もある。近年では,混雑が予想される診療日に,技術が一定レベル以上の職員を採血業務に充てるようにあらかじめ要請するなど,採血室運営のマネジメントへも応用している。技術レベルと待ち時間の関連性の検証については今後の課題である。なお,採血所要時間は採血者の採血技術レベル評価基準に使用していない。これは,採血所要時間が採血者の採血終了ボタンを押すタイミングによって個人差が生じることや,評価のために採血所要時間を短縮しようとする意識が働き,患者接遇が疎かになる懸念があるためである。
技術評価に対する職員の心証について調査した。当院での就業年数別に見ると制度導入のタイミングは,10年以上の職員は途中から,5年未満の職員は入職当初から,5年以上10年未満の職員は混在,の3つに分類できるが,このグループ間でネガティブな回答の割合に大きな差は見られなかった。これにより,制度の導入時期によって職員がネガティブな印象を抱くわけではなく,むしろ個々の職員の置かれた状況や評価に対する認識の影響による可能性が示唆される。
ネガティブと回答した職員の自由記載欄には,レベルが下がる可能性へのストレスを訴える回答が見られた。この感情は理解できるものであり,高難度患者を担当する回数は確率に左右されるため,採血数が少ないほど高難度患者を担当した場合の評価結果への影響は大きい。当初は採血交代のための制度であったが,次第に個人目標設定に利用されることが増えたため,個人目標設定を考慮し,6か月間の採血数の評価基準を300から100に緩和する措置をとった経緯がある。しかし,採血技術レベル評価を採血交代のための基準とした当初の目的の視点で考えた場合,6か月で100人とは1か月あたり17人程度の採血であり,レベルSSと評価されたとしても,最高難度のD5患者の交代を引き受けることができるかは疑問が残る。確率に左右されない適切な採血数の基準設定について,さらなる検証が必要である。
他にも,レベルBであることが悪いことと捉えられる風潮が一部にあるため評価制度をネガティブに感じる職員が多いのではないかという意見があった。これは実際にそのような経験をしたり見たりがあったのだと推察され,評価制度を導入する際には避けられない課題である。評価制度を職員のストレスなく継続するためには,管理者が制度の使い方や伝え方を誤らずに適切に慎重に運用する必要がある。幸いにも,今回の調査結果ではポジティブな意見が6割を占めており,本制度の運用方法が概ね適切であると判断できる。また組織風土も重要な要素であり,双方向に意見を出し合い,職員の納得感を得ることで,健全な運用が可能になると考えられる。なお,技術力を数値で評価するという新たな制度に対して,導入当初は少なからず抵抗感が生じたのではないかと推測されるが,当時の職員の心証に対する調査は実施していない。
最後に,本研究では交代率を重要指標と位置付けているものの,現行の集計システムには限界がある。交代の判定は,呼び出し者と終了者が異なる場合を検出しており,交代が2回以上実施された場合には中間の採血者を計数できていない。そのため,中間者の採血技術レベルが過大評価される可能性がある。ただし,当院では交代時にレベル上位者に交代するという運用が徹底されていることから,採血者が3名以上となる頻度は極めて低く,本研究の結論を否定するほどの影響はないと考える。
本研究では,採血技術レベル評価が「採血数」と「採血交代率」という2つの数値のみで,採血者の技術力を客観的かつ定量的に評価する有用な指標になりうることを示した。本評価は,採血者が難度の高い採血を成功させる能力を表現するものであり,採血を適切な採血者に交代するための明確な基準として有用である。また,技術力を客観的に把握できるため,再教育の機会を提供したり,職員自身が目標を設定したりする際に活用できる。このように,採血技術レベル評価は採血室全体の技術力向上を促進する効果が期待される。
さらに,技術力の向上や適切な技量をもつ採血者への交代は,採血室全体の交代率の低下,つまり患者の穿刺回数の減少とそれに伴う採血合併症の予防につながることで,患者安全の向上にも寄与する。
一方で,評価制度を職員が前向きに活用するためには,管理者が制度の運用を適切に維持し,必要に応じて改善を続けることが求められる。
本研究の結果は,採血技術の評価方法としての有用性を示すものであり,今後の採血室運営における技術向上や患者安全の確保に貢献する可能性がある。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
採血室の運営にご協力いただいている輸血・細胞治療センター,看護部,急な欠員や混雑の際には積極的に採血室に駆けつける検査部の職員,そして高い技術力を維持し交代にも快く応じてくださる採血室専属の看護師・検査技師の皆様に感謝申し上げます。