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資料
Xpert MRSA/SA BC「セフィエド」導入による,血液培養陽性患者への抗菌薬適正使用早期介入の評価
福元 達也菊地 玲瀧 圭介松山 彩花早坂 かすみ山下 直樹後藤 秀樹豊嶋 崇徳
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2025 年 74 巻 4 号 p. 724-731

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Abstract

黄色ブドウ球菌菌血症(Staphylococcus aureus bacteremia; SAB)においてmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)か否かが即座に判明すれば,最適な抗菌薬使用に繋がる。当院では2020年11月より自動遺伝子解析装置GeneXpert(ベックマン・コールター)専用試薬Xpert MRSA/SA BC「セフィエド」(以下,GX)を導入し,血液培養陽転時に質量分析装置による菌名に加えてメチシリン耐性の有無を報告している。本検討では当院におけるSAB症例をGX導入前後に分け,有用性の評価を後方視的に調査した。GX導入後,methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)群で陽性報告日のセファゾリン(CEZ)の使用割合が増加し(p = 0.004),抗MRSA薬の使用が抑えられた(p = 0.001)。一方,MRSA群ではCEZの使用割合が減少し(p = 0.04),抗MRSA薬の使用が増加した(p = 0.004)。解熱(37.0℃)までの日数が短縮し(p = 0.005),在院日数短縮に繋がった(p = 0.007)。GX導入することでMSSA症例での抗MRSA薬使用削減,MRSA症例での抗MRSA薬の早期投与が可能となり,薬価の削減,解熱までの日数の短縮に繋げることでアウトカム早期改善に貢献できた。

Translated Abstract

In Staphylococcus aureus bacteremia (SAB), prompt identification of methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) or methicillin-susceptible Staphylococcus aureus (MSSA) using molecular assays facilitates appropriate antimicrobial treatment. In November 2020, our hospital introduced the Xpert MRSA/SA Blood Culture “Cepheid” (GX), a reagent designed for the GeneXpert system (Beckman Coulter), an automated genetic analyzer. This system enables the identification of methicillin resistance status upon positive blood culture results. In this retrospective study, we divided SAB cases at our hospital into periods before and after GX introduction and evaluated the utility of GX. Following the introduction of GX, cefazolin (CEZ) usage increased, and anti-MRSA drug usage decreased in MSSA cases on positive reporting days. In contrast, CEZ usage decreased, and anti-MRSA drug administration increased for MRSA cases during the same period. Although 30-day mortality rates remained unchanged, the time to fever resolution (37.0°C) decreased, resulting in shorter hospital stays. These findings suggest that the introduction of GX optimized antimicrobial usage by reducing anti-MRSA drug administration in MSSA cases and enabling early administration in MRSA cases, thereby reducing drug costs and contributing to earlier improvement of clinical outcomes.

I  はじめに

黄色ブドウ球菌(S. aureus)は広範な病原性をもつグラム陽性球菌であり,敗血症の主要な原因菌の1つである1)。SABは手術の頻度,血管内カテーテルの使用,免疫抑制剤の使用などで発生率は増加しており,関連する死亡率は15~60%でMRSAの症例ではより高くなるという報告もある2)~4)

前向きコホート研究によると血液培養(以下,血培)における黄色ブドウ球菌のコンタミネーション率は1.5%であったとされ,血液ボトルの陽性が1本でもSABとして対応するべきである5)

SABに対し適切な抗菌薬の選択とともに感染源の特定と除去が重要となる。また,しばしば心内膜炎,骨髄炎,膿瘍形成などの重篤な合併症を引き起こすため6),7),早期診断と積極的な治療が必要であり,適切な抗菌薬で早期に治療することで改善されるとの報告がある8)

近年,MRSA感染症の第一選択薬であるバンコマイシン(VCM)において,MSSAに対してはβ-ラクタム系薬よりも治療成績が劣ることが報告されており9),SABの原因菌がMRSAであるかMSSAであるかを早期に検査し臨床側へアナウンスすることは患者の予後改善に影響を及ぼすものと思われる。

北海道大学病院検査・輸血部では血培陽転患者に対して2014年より質量分析装置MALDIバイオタイパー(ブルカージャパン株式会社)での即日菌名報告を行っている。

また,検出されたS. aureusに対して2020年11月よりGXを使用してメチシリン耐性の有無の報告を開始した。

諸外国ではSABに対してメチシリン耐性遺伝子をPCRで検査し,早期に介入することによるアウトカムを評価した報告が数多くされており,ICU滞在期間の短縮,死亡率の低下,医療費の削減などの報告や,死亡率には差がないが入院日数の短縮に繋がったなどの報告があるが9)~13),国内においてはアウトカムを評価した報告は未だ少ないのが現状である。

そこで,今回我々はSAB症例においてGX導入前後での抗菌薬使用状況,解熱までの期間,入院期間,死亡率などのアウトカムを評価したので報告する。

II  対象および調査項目

1. 対象

2018年1月1日~2020年6月30日をGX導入前(pre-GX),2021年1月1日~2023年6月30日をGX導入後(post-GX)とし,上記期間中に血培陽転化し,質量分析装置でS. aureusと同定した検体を対象とした。

調査期間中のSAB症例は201症例であり,pre-GX群98例,post-GX群103例であった。

2. 調査項目

対象患者の抗菌薬使用状況を後ろ向きに調査した。また患者の転帰として,30日死亡率,在院日数,体温38℃以上を発熱と定義し,解熱までの日数を調査した。

1週間以内に同一の菌が検出された場合は同一エピソードとして削除した。また,複数菌種が検出された場合,研究の対象から除外した。

1) 抗菌薬使用状況

抗菌薬使用歴を3つの段階に分けて調査した。最初に,血培採取時,経験的治療を開始するタイミングでの調査。次に血培陽転日,グラム染色形態および質量分析装置による菌名報告をする日の抗菌薬投与歴を調査した。post-GX群はこのタイミングでメチシリン耐性の有無を報告している。3つ目に同定感受性結果判明後の抗菌薬使用状況を調査した。

また,バンコマイシン(VCM),テイコプラニン(TEIC),ダプトマイシン(DAP),リネゾリド(LZD)を抗MRSA薬と定義し,使用状況を個別抗菌薬と別に調査した。

2) 統計解析

統計解析はEZRを用いて行った。連続変数はShapiro-Wilk testにより正規性を検定し正規規分布に従う変数をT test,正規分布に従わない変数をMann-Whitney U testを用いて評価した。カテゴリー変数はFisher’s exact testを用いて評価し,有意水準は5%とした。

III  結果

1. 年齢,性別,検出菌,陽転時間,デバイス感染の有無

調査期間内のpost-GX群の遺伝子検査結果はオキサシリン(MPIPC)もしくはセフォキシチン(CFX)の微量液体希釈法によるメチシリン耐性の判定と全て一致した。

患者背景をTable 1に示す。

Table 1 患者背景

pre-GX(n = 98) post-GX(n = 103) p value
年齢,中央値[四分位範囲] 53.5[69–85] 62.0[74–92] 0.0474
男性,n(%) 60(61.2%) 51(49.5%) 0.1190
MRSA,n(%) 29(29.6%) 34(33.0%) 0.6500
陽転時間,中央値[四分位範囲] 15.1[11.95–21.6] 15.6[11.95–20.9] 0.8880
デバイス感染,n(%) 43(43.9%) 46(44.7%) 1.0000
ICU入室,n(%) 4(4.1%) 6(5.8%) 0.7480

陽転時間,デバイス感染を疑う症例数,ICU入室率に有意な差は認められなかった。

2. 抗菌薬使用状況

血培採取日の抗菌薬使用状況をTable 2に,血培陽転報告日の抗菌薬使用状況をTable 3に,血培薬剤感受性判明後の抗菌薬使用状況をTable 4に示す。

Table 2 血液培養採取日の抗菌薬使用状況

MSSA MRSA
pre-GX (n = 69) post-GX (n = 69) p value pre-GX (n = 29) post-GX (n = 34) p value
cefazolin 10 (14.5%) 6 (8.7%) 0.426 3 (10.3%) 1 (2.9%) 0.326
imipenem 1 (1.4%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
meropenem 9 (13.0%) 10 (14.5%) 1.000 5 (17.2%) 7 (20.6%) 1.000
sulbactam/ampicillin 2 (2.9%) 4 (5.8%) 0.681 2 (6.9%) 4 (11.8%) 0.678
sulbactam/cefoperazone 1 (1.4%) 1 (1.4%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
tazobactam/piperacillin 11 (15.9%) 9 (13.0%) 0.810 2 (6.9%) 2 (5.9%) 1.000
vancomycin 9 (13.0%) 13 (18.8%) 0.486 6 (20.7%) 14 (41.2%) 0.107
daptomycin 2 (2.9%) 2 (2.9%) 1.000 4 (13.8%) 0 (0.0%) 0.040
linezolid 2 (2.9%) 2 (2.9%) 1.000 1 (3.4%) 2 (5.9%) 1.000
teicoplanin 1 (1.4%) 1 (1.4%) 1.000 1 (3.4%) 0 (0.0%) 1.000
anti-MRSA drugs 14 (20.3%) 18 (26.1%) 0.546 12 (41.4%) 16 (47.1%) 0.800
Table 3 血液培養陽転報告日の抗菌薬使用状況

MSSA MRSA
pre-GX (n = 69) post-GX (n = 69) p value pre-GX (n = 29) post-GX (n = 34) p value
cefazolin 14 (20.3%) 30 (43.5%) 0.004 4 (13.8%) 0 (0.0%) 0.040
imipenem 1 (1.4%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
meropenem 12 (17.4%) 12 (17.4%) 1.000 8 (27.6%) 7 (20.6%) 0.564
sulbactam/ampicillin 2 (2.9%) 2 (2.9%) 1.000 2 (6.9%) 3 (8.8%) 1.000
sulbactam/cefoperazone 1 (1.4%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
tazobactam/piperacillin 11 (15.9%) 6 (8.7%) 0.300 3 (10.3%) 2 (5.9%) 1.000
vancomycin 30 (43.5%) 18 (26.1%) 0.049 12 (41.4%) 27 (79.4%) 0.004
daptomycin 7 (10.1%) 2 (2.9%) 0.248 5 (17.2%) 1 (2.9%) 0.086
linezolid 1 (1.4%) 2 (2.9%) 1.000 1 (3.4%) 3 (8.8%) 0.618
teicoplanin 6 (8.7%) 1 (1.4%) 0.048 0 (0.0%) 1 (2.9%) 1.000
amikacin 1 (1.4%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
gentamicin 1 (1.4%) 1 (1.4%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
rifampicin 1 (1.4%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
anti-MRSA drugs 44 (63.8%) 23 (33.3%) 0.001 18 (62.1%) 32 (94.1%) 0.004
Table 4 血液培養薬剤感受性判明後の抗菌薬使用状況

MSSA MRSA
pre-GX (n = 69) post-GX (n = 69) p value pre-GX (n = 29) post-GX (n = 34) p value
cefazolin 47 (68.1%) 50 (72.5%) 0.710 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
imipenem 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
meropenem 3 (4.3%) 5 (7.2%) 0.718 3 (10.3%) 5 (14.7%) 0.716
clavulanic acid/amoxicillin 1 (1.4%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
sulbactam/ampicillin 2 (2.9%) 2 (2.9%) 1.000 1 (3.4%) 1 (2.9%) 1.000
sulbactam/cefoperazone 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
tazobactam/piperacillin 3 (4.3%) 1 (1.4%) 0.619 2 (6.9%) 0 (0.0%) 0.208
vancomycin 6 (8.7%) 6 (8.7%) 1.000 15 (51.7%) 28 (82.4%) 0.014
daptomycin 1 (1.4%) 0 (0.0%) 1.000 6 (20.7%) 1 (2.9%) 0.042
linezolid 1 (1.4%) 2 (2.9%) 1.000 3 (10.3%) 3 (8.8%) 1.000
teicoplanin 1 (1.4%) 1 (1.4%) 1.000 2 (6.9%) 2 (5.9%) 1.000
rifampicin 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1.000
anti-MRSA drugs 9 (13.0%) 9 (13.0%) 1.000 26 (89.7%) 34 (100%) 0.092

血培採取時MRSA症例においてダプトマイシン(DAP)の使用がpost-GX群で有意に減少した(p = 0.04)。

血培陽転報告日ではMSSA症例においてpost-GX群でCEZの使用割合が有意に増加し(p = 0.004),バンコマイシン(VCM),テイコプラニン(TEIC)の使用割合が有意に減少した(p = 0.049, p = 0.048)。

一方,MRSA症例においてはpost-GX群でCEZの使用割合が有意に減少し(p = 0.04),VCMの使用割合が有意に増加した(p = 0.004)。

薬剤感受性判明後においてはMRSA症例においてpost-GX群でVCMの使用割合が有意に増加し(p = 0.014),DAPの使用割合が有意に減少した(p = 0.042)。

3. 抗菌薬変更のタイミングの比較

血培採取日から陽転日における抗菌薬変更状況をTable 56に示す。

Table 5 pre-GX群における血培陽転日の抗菌薬使用状況

pre-GX 血液培養
採取日
血液培養陽転
報告日
p value
MSSA CEZ 10(14.5%) 14(20.3%) 0.501
anti-MRSA drugs 14(20.3%) 44(63.8%) < 0.001
MRSA CEZ 3(10.3%) 4(13.8%) 1.000
anti-MRSA drugs 12(41.4%) 18(62.1%) 0.127
Table 6 post-GX群における血培陽転日の抗菌薬使用状況

post-GX 血液培養
採取日
血液培養陽転
報告日
p value
MSSA CEZ 6(8.7%) 30(43.5%) < 0.001
anti-MRSA drugs 18(26.1%) 23(33.3%) 0.456
MRSA CEZ 1(2.9%) 0(0.0%) 1.000
anti-MRSA drugs 16(47.1%) 32(94.1%) < 0.001

pre-GX群では,MSSA症例において抗MRSA薬の使用増加が有意に認められた(Table 5, p < 0.001)。MRSA症例においては有意な抗菌薬使用状況の変化は認められなかった。

post-GX群では,MSSA症例においてCEZへの使用が有意に増え(Table 6, p < 0.001),MRSA症例においては抗MRSA薬への使用が有意に増えていた(Table 6, p < 0.001)。

4. 血培採取から24時間以内の抗菌薬使用状況

血培採取24時間以内の抗菌薬使用状況をTable 7に示す。

Table 7 血液培養採取から24時間以内の抗菌薬使用状況

pre-GX post-GX p value
MSSA(CEZ投与人数 9/69(13.3%) 23/69(33.3%) 0.008
MRSA(anti-MRSA drugs投与人数 4/29(13.8%) 11/34(32.4%) 0.137
全体 13/98(13.3%) 34/103(33.0%) 0.001

※CEZ+抗MRSA薬などの併用も含む

24時間以内の適切な抗菌薬の使用は特にMSSAのCEZ投与人数がpost-GX群で有意に増加した(p = 0.008)。

5. 血培採取日から最適な抗菌薬投与までの日数の比較

GX導入前後における最適な抗菌薬(MSSA症例はCEZ単独,MRSA症例は抗MRSA薬単独)に変更するまでの日数を調査した結果をTable 8に示す(CEZ+抗MRSA薬などの併用は最適としない)。その結果,post-GX群において有意な最適抗菌薬変更までの短縮を認めた(p = 0.019)。

Table 8 GX導入前後における最適な抗菌薬変更までの日数

pre-GX post-GX p value
最適抗菌薬変更までの日数,中央値[四分位範囲] 2[2–4] 1[1–3] 0.019
MSSA最適抗菌薬変更までの日数,中央値[四分位範囲] 2[2–3] 1[1–3] 0.125
MRSA最適抗菌薬変更までの日数,中央値[四分位範囲] 2[2–4] 1[0.5–3.5] 0.186

※最適: MSSA症例はCEZ単独,MRSA症例は抗MRSA薬単独投与への変更までの日数(CEZと抗MRSA薬の併用は最適とはカウントしない)

6. GX導入前後における患者転帰

患者の転帰をTable 9に示す。30日死亡率はpre-GX群7.1%,post-GX群7.8%で有意差はなかった。

Table 9 GX導入前後における患者転帰

pre-GX(n = 98) post-GX(n = 103) p value
30 日死亡率,n(%) 7(7.1%) 8(7.8%) 1.000
解熱までの日数(38℃),中央値[四分位範囲] 1[1–3] 1[1–3] 0.830
解熱までの日数(37.5℃),中央値[四分位範囲] 3[1–5] 2[1–4] 0.108
解熱までの日数(37℃),中央値[四分位範囲] 4[2–9] 3[1–6] 0.005
在院日数,中央値[四分位範囲] 63.5[34.5–116.8] 48.0[24.0–78.5] 0.007
血培陽転日から退院までの日数,中央値[四分位範囲] 39.5[19.3–77.0] 27.0[12.0–52.0] 0.031

38℃を発熱と定義し,設定した体温以上に24時間経過しても上がらないことを解熱と定義して,解熱までに要した日数を調査した。

38.0℃,37.5℃,37.0℃の3つで調査した結果,38.0℃,37.5℃では有意な差を認めず,37.0℃以下を解熱と設定した場合にpost-GX群で有意な差を認めた(p = 0.005)。

在院日数(中央値)はそれぞれ63.5日,48.0日でありpost-GX群において有意な短縮を認めた(p = 0.007)。

また,血培陽転から退院までの日数(中央値)はそれぞれ39.5日,27.0日でありpost-GX群において有意な短縮を認めた(p = 0.031)。

IV  考察

敗血症患者への早期の有効な抗菌薬投与は極めて重要であり,抗菌薬投与の開始の遅れが院内死亡率との間に強い相関が認められるとの報告もある14)

当院におけるSAB対応はASTチームにより陰性化が確認できるまでのフォローアップの血培採取などをお願いし,陽転が持続する場合にはIE疑いとして心エコー検査の提案や,深部膿瘍疑いとしてCT検査の提案などを行っている。

SABは末梢カテーテル,中心静脈カテーテルの留置が原因となる場合が多く15),今回の検討においてもカテーテル感染を疑う症例は導入前43.9%,導入後44.7%にのぼりほとんどの症例において血培陽転報告時,あるいはASTチームが介入することでカテーテルが抜去されていた。

本検討期間中のGXによるMRSA判定とMPIPC,CFXのMICによるMRSA判定は全例一致しており,GXは高い感度,特異度を有していた。

抗菌薬使用状況調査においてGX導入前ではメチシリン耐性の有無が不明であるため,検査室からの血培陽転報告で抗MRSA薬の使用が有意に増えescalationしている状況であった。MRSAガイドラインによると感受性結果が判明するまではMRSA菌血症として治療するとあるため16),この対応は正しい処置である。

血液培養採取時MRSA症例のDAPの使用がGX導入後有意に減少していた。DAP使用者の患者背景はGVHD症例や移植後の発熱例など重症患者が散見された。GX導入により血培採取時抗菌薬はMRSA症例ではVCMが,MSSA症例ではセフェム系やSBT/CPZが投与され,血培陽転後にCEZへ変更されていた。

DAPは闇雲に使用するには高額な薬剤である。患者の状態が待てる症例に関しては使用を控えるなどGXの導入およびASTの介入により,DAPの適正使用がなされた結果と推察される。

GX導入によって,MSSA症例において血培陽転日に抗MRSA薬の使用が減り,CEZの使用が増えた。また,MRSA症例においては血培陽転日に抗MRSA薬の使用が増えた。メチシリン耐性の有無を早期に臨床側へ示すこと,またGXの結果を踏まえたASTチームの介入により,SABにおける最適な抗菌薬選択が臨床側に浸透してきた結果と思われる。

血培採取から24時間以内にどれだけ適切な抗菌薬の投与が行われているかを解析したところ,適切な抗菌薬の使用がpost-GX群で有意に増加していた。このことから最終報告を待たずしてGXの結果で血培陽転日に変更をするケースが増加していることを示唆している。既報ではGX導入前後でMSSA敗血症症例においてVCMからCEZに切り替えるまでの時間が1.7日短縮したとの報告や17),MRSA敗血症症例にVCMの適切な処方を早期に行い,MSSA敗血症症例の25%の患者はVCM投与を回避したとの報告がある18)

本検討においても,MSSA症例でpre-GX群に見られた抗MRSA薬へのescalationが,post-GX群では認めなかったことから,GX導入が不必要な抗MRSA薬の投与を抑えることに寄与したと推察される。

しかしながら,post-GX群MSSA症例においてCEZではなく抗MRSA薬や広域βラクタム薬の投与が35例(50.7%)に行われていた。診療科に偏りはなく,原疾患も様々であり数例の肺炎,腹膜炎併発例を除いて抗MRSA薬や広域βラクタム薬を投与する理由はないように思われた。実際,感受性最終報告後に21例(30.4%)はCEZへの変更がなされている。

既報によると,MSSA敗血症症例に経験的にVCM投与された患者のうちナフチリン,セファゾリンに変更された患者で死亡率が69%低下したとの報告もある12)。特段の理由がない場合にはMSSA症例においてはCEZへの変更を早期に行うことが望ましい。

また,WHOも抗菌薬使用量から抗菌薬適正使用を判断するためAWaRe分類を利用した指標を打ち出し,“Access”に分類される抗菌薬を全体の60%以上にするという目標を掲げている19)

CEZも“Access”抗菌薬に含まれているため,今後AST活動を活発化させ患者背景に則した適切な抗菌薬投与を早い段階で促していく体制の強化が必要である。

最適な抗菌薬変更までの日数解析では,post-GX群で有意な日数短縮を認めた。GX導入により早期にCEZ,抗MRSA薬単独投与に切り替えることができるため不必要な抗菌薬投与を削減,投与による有害事象の回避,耐性菌出現の減少に繋がる可能性がある。

SABの治療として1日当たりの投与量をVCM 1 g × 2,CEZ 1 g × 3とした場合,コストはそれぞれ2,592円,1,038円となる。MSSA症例は抗MRSA薬からCEZへの変更で1日当たり1,554円のコスト削減となる。感受性最終報告後に抗菌薬の変更がされたとした場合,最短でも2日は必要のない抗MRSA薬を投与されるため,早期のCEZへの変更で約3,000円の削減となる。

ASTチームはMSSA症例に対して抗MRSA薬が投与されていた場合はCEZへの変更を促しているが,広域βラクタム薬の場合は許容し介入を行っていなかった。GX導入によるメチシリン耐性の有無の報告だけでは不十分であった可能性がある。

前述の通り,少なくともMSSA症例の約3割は抗MRSA薬や広域βラクタムからCEZへの早期変更が可能であるはずである。2025年4月より当院のASTチームが再編された。これを機にASTチームでの血培陽転例の更なる積極的な介入が開始されている。

現在,MSSA症例について,①血培陽転当日,GXの結果を踏まえて積極的に介入する。②血培陽転とGXの結果の連絡を細菌検査室から行い,翌日のDISK法による薬剤感受性中間報告時に抗菌薬が変更されていない場合,ASTチームが介入する。③最終報告まで待ち,抗菌薬が変更されていない場合ASTチームが介入する。と段階的に介入方法を変えていく計画である。MSSA症例にはCEZへの変更が必要であることの意識付けを臨床側へ行い自発的な抗菌薬変更を促すと共に,血培陽転当日の積極的な介入による不都合な症例(翌日のサブカルチャーでグラム陰性桿菌やEnterococcus faeciumも同時に発育したなど)がないかの確認作業を行っている。

患者転帰調査において,30日死亡率に変化はなかったが,解熱(37℃)までの日数の短縮および在院日数の短縮を認めた。原疾患での入院期間のバイアスを考慮し,血培陽転日から退院までの日数調査も行ったが,同様に有意な日数の短縮が認められた。

厚生労働省「令和5年度医療費の動向」20)によると,大学病院における1日当たりの医療費は87,398円とされており,GX導入による在院日数の短縮によって医療コスト削減,病床稼働率上昇が期待できる。

新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金などで,多くの施設で遺伝子検査装置が導入され,現在はポストコロナにおける検査機器の有効活用が模索されている。そのような状況下で,GXの使用は迅速にメチシリン耐性遺伝子を報告することで早期の抗菌薬適正使用を促す手段として,極めて有用な活用方法であると考えられる。

V  結語

GX導入によりSAB患者への抗菌薬適正使用を早期に介入することで薬価削減に繋がった。また,解熱までの日数の短縮など転帰の早期改善に寄与した。

VI  その他

本研究は北海道大学病院利益相反審査委員会で承認を経て実施した。

「全自動遺伝子解析装置GeneXpertを利用した血培陽性者へのメチシリン耐性遺伝子の早期検出による抗菌薬の使用状況の変動についての検討」(臨床研究番号:自020-0169)

「全自動遺伝子解析装置GeneXpertを利用した血培陽性者へのメチシリン耐性遺伝子の早期検出による抗菌薬の使用状況の変動についての検討(追加検討)」(臨床研究番号:生023-0285 実施許可番号:指024-0030)

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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