2025 年 74 巻 4 号 p. 752-757
クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease; CJD)は異常プリオン蛋白が中枢神経に蓄積することで発症する致死的疾患で,多くは全身衰弱・呼吸不全・肺炎などで死亡する。CJD診断後は有効な治療法が無いことから脳波を継続して記録することは少ない。今回CJD患者の脳波検査を長期に亘り観察することができたので報告する。短期間に急速に進行する記銘力低下,左同名半盲,歩行障害を認め当院受診。頭部MRI拡散強調画像で広範囲に高信号域を認め,脳波検査において全般性周期性放電(generalized periodic discharges; GPDs)が出現,鋭波は後頭優位に約1秒周期で出現していた。その後GPDsは後頭優位から後頭・頭頂優位そして広汎性へと出現する範囲を広げながら,発症から3ヶ月が経過した頃,もっとも高振幅となった。その後,鋭波は低振幅となり,出現率が減少しながらも約1秒周期でGPDsが認められた。CJD末期はGPDsが消失し,脳波は平坦化すると報告されているが,本症例では発症から2年6ヶ月経過してもGPDsが確認された。
Creutzfeldt-Jakob disease (CJD) is a fatal disorder caused by the accumulation of abnormal prion proteins in the central nervous system, leading to death from systemic weakness, respiratory failure, pneumonia, and other complications. Due to the lack of effective treatments, EEG examinations are rarely conducted after diagnosis. We report the EEG findings of a patient with CJD who was able to be followed up over a long period. The patient presented with rapidly progressing memory impairment, left homonymous hemianopia, and gait disturbance over a short period and visited our hospital. MRI diffusion-weighted imaging of the head showed extensive high-signal areas, and EEG examination revealed generalized periodic discharges (GPDs). GPDs appeared predominantly in the occipital region at approximately 1-second intervals. Over time, GPDs expanded from the occipital region to the occipital-parietal region and eventually became widespread, reaching their highest amplitude about three months after onset. It has been reported that GPDs disappear, and the EEG flattens in the terminal stage of CJD, but in this case, GPDs were still observed 2 years and 6 months after onset, albeit with reduced amplitude and frequency.
クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease; CJD)は,異常プリオン蛋白の中枢神経系への蓄積により発症し,今日も有効な治療法は無く,多くの症例は感染症などを合併し発症から1~2年程度で死亡する致死的疾患である。CJDは原因によって弧発性,感染性,遺伝性に分けられ,弧発性が約80%を占めている1)。弧発性CJDでは進行性認知機能障害に加え,ミオクローヌス,錐体路または錐体外路症候,小脳症状または視覚異常,無動性無言の4項目のうち2項目以上を示すことや脳波検査における全般性周期性放電(generalized periodic discharges; GPDs),異常プリオン蛋白の検出などが要件となり診断される2)。
CJDは治療により臨床症状が改善することはなく,進行性に無動性無言となることから,診断が確定後は療養型の病院や療養施設に転院する症例が多い背景があり,そのため,経時的に長期間脳波検査の経過を観察することは少ない。今回我々は2年6ヶ月にわたり経時的に脳波検査を行い,長期的な経過を観察したCJD患者を経験したので報告する。
年齢:59歳,女性。
主訴:記銘力低下,左同名半盲。
海外渡航歴:欧州への渡航歴無し。
特記事項:角膜・脳硬膜移植の手術歴無し。
来院時髄液所見:T-Tau蛋白陽性2,400 pg/mL以上,14-3-3蛋白陽性3,446 ug/mL,RT-QUIC法陽性。
現病歴:短期間に急速に進行する記銘力低下,左同名半盲,歩行障害を認めたため20XX年1月当院受診した。
20XX年1月:記銘力障害,左眼の視野障害,ふらつきを主訴に当院眼科を受診。頭部MRI拡散強調画像で左後頭葉皮質に高信号を認め,当院神経内科を紹介受診。
20XX年2月:会話は可能であったが傾眠傾向で視覚障害の進行を認めた。頭部MRI拡散強調画像で広範囲に高信号域を認め,脳波検査ではGPDsが確認された。脳波基礎活動は不規則な徐波主体だが,9~10 Hzのα波の混入を認めた。GPDsは後頭優位に鋭波が約1秒周期で出現していた(Figure 1 MRI,Figure 2脳波)。

広範囲に高信号域を認めた。

脳波基礎活動は後頭葉優位9~10 Hzのα波,GPDsが後頭葉優位に約1秒周期で出現した。
20XX年3月:刺激に対する反応が乏しくなり,発語も減少傾向となった。この頃より上肢にミオクローヌスを認めた。脳波基礎活動は2月の脳波に比し低振幅な徐波が主体となり,少量の8 Hz前後のθ~α波や4~6 Hzのθ波の混入を多く認めた。GPDsは鋭波の出現する範囲が広がり,頭頂・後頭優位となり,周期は約1秒であった(Figure 3)。

脳波基礎活動は低振幅な徐波主体,GPDsが頭頂・後頭優位に約1秒周期で出現した。
20XX年3月末:無動性無言状態となった。
20XX年4月:脳波基礎活動は波形形成が乏しくなり,わずかに4~5 Hzのθ並を認める程度となった。GPDsは広汎性に鋭波が約1秒周期で出現し,経過中もっとも高振幅であった(Figure 4)。

脳波基礎活動はわずかに4~5 Hzのθ波を認める程度,GPDsは広汎性に1秒周期で出現,経過中もっとも高振幅であった。
20XX年6月:脳波基礎活動は低振幅で少量の速波を認めた。GPDsは中心・頭頂優位となり周期が1~2秒と延長し,出現率が減少した(Figure 5)。

脳波基礎活動は低振幅で少量の速波を認める,GPDsは中心・頭頂優位に1~2秒周期と延長,出現率が減少した。
20XX + 1年7月:脳波基礎活動は前回と同様の低振幅速波を認め,頭頂・後頭優位に出現するGPDsは経過中もっとも低振幅で,周期は約1秒であった(Figure 6)。

脳波基礎活動は低振幅速波を認める,GPDsは頭頂・後頭優位に1秒周期で出現,経過中もっとも低振幅であった。
20XX + 2年7月:脳波基礎活動は前回と同様の低振幅速波を認め,GPDsは残存していた。鋭波は低振幅で頭頂・後頭優位に出現し,周期は約1秒であった(Figure 7)。

脳波基礎活動は低振幅速波を認める,GPDsは頭頂・後頭優位に1秒周期で出現,発症から2年6ヶ月経過してもGPDsは消失しなかった。
CJDの診断に有効な検査には脳波検査以外にMRI検査,異常プリオン蛋白の検出などがある。そのうち診断基準には含まれないが,発症初期よりMRI拡散強調画像における大脳皮質や線条体の高信号所見が得られることが広く知られている3)。また,異常プリオン蛋白検出として,髄液中のT-Tau蛋白4)や14-3-3蛋白5),Rt-QuIC法6)などが実施されている。
Gloorら7)によって1968年にはすでに報告されていたCJD患者の脳波検査におけるGPDsの出現は,非常に歴史ある脳波検査所見であり,現在でも診断基準に含まれる重要な所見となるが,その感度は67%,特異度は86%と現在は報告されている。また,CJDの病状が進んだ末期においては,GPDsは消失し,平坦化すると報告されている8)。
CJDは今日において有効な治療法が確立しておらず,診断が確定した後には,療養型の病院や療養施設などに入所する症例が多く,脳波検査を長期間にわたり経時的に行う機会は少ないのが現状である。当院において過去10年間にCJDと診断された症例は16例であったが,その全症例が診断確定後に転院されており,脳波検査の平均経過観察期間は45日と非常に短いものであった。本症例ではご家族が在宅でのケアを継続され,定期的な通院を大学病院で継続されたことから,2年半にわたり臨床症状と脳波検査を観察することができた。CJDの脳波を長期的に経時観察した報告は少なく,末期においては,GPDsは消失し,平坦化すると報告されているが,本症例では発症から2年半経過した時点でも鋭波の振幅は著しく低下傾向を示したものの,その周期性は残存しGPDsを形成していた。CJDにおけるGPDsの出現機序としては,皮質-大脳基底核-視床ループの機能的連携が重要な要因と考えられており,大脳皮質に加えて大脳基底核や視床が広範囲に障害された場合にGPDsが出現しやすく,皮質単独の病変ではGPDsが認められることは稀であると報告されている7)~9)。本症例においても大脳皮質の萎縮は著明であったが完全に消失していたわけではなく,皮質-大脳基底核-視床ループの機能が部分的に保持されていた可能性があり,これがGPDsの残存に関与していたと推察される。
長期的に脳波検査を実施し経過観察できたCJDの1症例を経験した。CJD患者において特徴的な脳波所見であるGPDsは,一般的に病状が進んだ末期には消失し,脳波は平坦化すると報告されていたが,本症例では発症から2年6ヶ月経過した時点でも低振幅ながらGPDsが確認された。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。