2025 年 74 巻 4 号 p. 710-716
メトトレキサートは,造血器悪性疾患や関節リウマチに使用される薬剤である。その作用機序は,核酸合成等に必須な酵素であるジヒドロ葉酸還元酵素(dihydrofolate reductase; DHFR)の活性を抑制し,還元型葉酸を枯渇させ腫瘍細胞の増殖を阻止することである。悪性リンパ腫の中枢神経系浸潤時や骨肉腫などの治療においてメトトレキサートを大量に投与するメトトレキサート・ロイコボリン救援療法では,投与開始後24時間,48時間,72時間後の血中濃度測定は必須である。今回,ルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)で測定可能な「ルミパルスプレストメトトレキサート」(富士レビオ株式会社)が開発され,試薬導入に向けての基礎的検討を行った。併行精度,室内精度,希釈直線性,検出限界,定量限界は良好な結果が認められ,共存物質や保存条件の影響は認められなかった。当院の現行試薬である「アーキテクト・メトトレキサート」(アボットジャパン合同会社),および血清検体との相関係数はそれぞれ0.993,0.999と高く,回帰式はそれぞれy = 1.139x − 0.019,y = 1.014x − 0.004であり,乖離検体も認められなかった。以上の結果より,基礎的検討の結果は良好であり,試薬の導入は可能であることが示唆された。今回検討した試薬は,測定範囲が現行試薬よりも広いことが大きな特徴で,再検率の低下,結果報告までの所要時間(turn-around time; TAT)の短縮が期待され,臨床に貢献できると思われる。
Methotrexate is used for hematopoietic malignancies and rheumatoid arthritis. Its mechanism of action involves suppress the activity of dihydrofolate reductase which is essential for nucleic acid synthesis, and leading to the depletion of reduced folic acid and thereby preventing the proliferation of tumor cells. In high dose methotrexate therapy for the treatment of central nervous system invasion of malignant lymphoma or osteosarcoma, it is essential to measure the blood concentration at 24, 48, and 72 hours after the initiation of administration. Recently, a reagent called “Lumipulse Presto Methotrexate” (Fujirebio Inc) has been developed for measurement with the Lumipulse L2400 (Fujirebio Inc), and a preliminary study was conducted in preparation for the introduction of the reagent. Good results were observed for within-run precision, between-day precision, dilution linearity, detection limit, and quantification limit, while no effects of coexisting substances or storage conditions were observed. The correlation coefficients with our conventional reagent, “ARCHITECT Methotrexate” (Abbott Japan LLC) and serum samples were high at 0.993 and 0.999, the regression equations were y = 1.139x − 0.019 and y = 1.014x − 0.004, and no deviated sample was observed. In conclusion, it was suggested that the introduction of the reagent is feasible because of its good performance. The major feature of the reagent is its broader measurement range compare to the conventional reagent, which is expected to reduce the retest rate and the turnaround time required, and contribute to clinical practice.
メトトレキサートは葉酸と類似の構造をもつことから,葉酸が関与する生体内代謝,とくに細胞の増殖に影響を与える抗悪性腫瘍薬(葉酸代謝拮抗薬)である1)。その作用機序は,葉酸を核酸合成に必要な活性型葉酸に還元させる酵素であるジヒドロ葉酸還元酵素(dihydrofolate reductase; DHFR)の活性を抑制し,チミジル酸合成,およびプリン合成系を阻害して,腫瘍細胞の増殖を阻止する1),2)。メトトレキサート・ロイコボリン救援療法は,悪性リンパ腫の中枢神経系浸潤時や骨肉腫などで選択されるメトトレキサートを大量に投与する治療法である3)。投与開始後24時間,48時間,72時間の血中濃度が10.0 μmol/L,1.0 μmol/L,0.1 μmol/L以上になると,骨髄障害や間質性肺炎などの重篤な副作用の発現リスクが高まると報告されており4),5),投与後の血中濃度測定は必須である。そのため,測定試薬の性能として高感度かつ測定範囲が広いことが重要である。今回,ルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)で測定可能な「ルミパルスプレスト メトトレキサート」について基礎的検討を行ったので報告する。本研究は鳥取大学医学部附属病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:24A136)。
対象は,2023年7月~2023年11月に当院検査部において,メトトレキサートの測定依頼があった患者の残血漿,残血清を用いた。症例は12例で,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫が6例,B細胞性リンパ芽球性白血病が3例,成人T細胞白血病リンパ腫,バーキットリンパ腫,血管内大細胞型B細胞性リンパ腫がそれぞれ1例ずつであった。
2. 採血管血清は分離剤入りのベノジェクトII真空採血管(テルモ株式会社)を使用した。血漿はEDTA-2K入りのベノジェクトII真空採血管(テルモ株式会社)を使用した。
3. 試薬および測定機器「ルミパルスプレスト メトトレキサート」(富士レビオ株式会社)を用い,「免疫発光測定装置ルミパルスL2400」(富士レビオ株式会社)で測定した。対照試薬として,化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay; CLIA)を原理とする「アーキテクト・メトトレキサート」(アボットジャパン合同会社)を用い,「全自動化学発光免疫測定装置ARCHITECT i2000SR」(アボットジャパン合同会社)で測定した。
4. 測定原理競合法に基づいた化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)であり,検体中に含まれるメトトレキサートとアルカリホスファターゼ標識メトトレキサートが,競合的に抗体結合粒子と反応して免疫複合体を形成する。B/F分離を行い,未反応物の除去が行われた後,化学発光基質(3-(2'-spiroadamantane)-4methoxy-4-(3''-phophoryloxy)phenyl-1,2-dioxetanediso-dium salt; AMPPD)を用いて発光させ,その発光量を測定する。あらかじめ作成した検量線から検体中のメトトレキサート濃度を定量する。
5. 方法 1) 併行精度2濃度の精度管理用試料「LPコントロール・TDM B」(富士レビオ株式会社)を10重測定し,得られた測定値から変動係数(coefficients of variation; CV)を算出した。
2) 室内精度試薬搭載後初回のみキャリブレーションし,2濃度の精度管理用試料「LPコントロール・TDM B」を1日1回,20日間測定し,得られた測定値からCVを算出した。
3) 希釈直線性低濃度域と高濃度域の患者血漿を専用希釈液にてそれぞれ2倍段階希釈を行い,各試料を2重測定して検討した。
4) 検出限界患者血漿を用いて調整した低濃度試料を専用希釈液にて10段階希釈を行い,各試料について5重測定した。各低濃度試料の平均カウント+2.6SDと0濃度試料の平均カウント−2.6SDが重ならない濃度を検出限界とした。
5) 定量限界患者血漿を用いて調整した低濃度試料を専用希釈液にて10段階希釈を行い,各試料について5日間連続2重測定した。precision profileにおけるCV 10%の濃度を定量限界とした。
6) 共存物質の影響干渉チェック・Aプラスおよび干渉チェック・RFプラス(いずれもシスメックス株式会社)をプール血漿に添加し,共存物質の影響を検討した。
7) 相関性54件の患者血漿を対象とし,本試薬と対照法との相関係数と回帰式を算出した。また,同タイミングで採血した患者血清と患者血漿20件を対象とし,本試薬における血清と血漿との相関係数と回帰式を算出した。
8) 検体の安定性測定終了後の患者血漿10件と,採血管の分離剤上で保存した患者血清5件を5℃~6℃の冷蔵に保存し,24時間毎に72時間後まで測定を行った。
CVは1.0~1.3%であった(Table 1)。
| Low | High | |
|---|---|---|
| n | 10 | 10 |
| Mean (μmol/L) | 0.406 | 7.569 |
| SD | 0.004 | 0.095 |
| MAX | 0.413 | 7.744 |
| MIN | 0.399 | 7.447 |
| CV (%) | 1.0 | 1.3 |
CVは1.3~2.0%であった(Table 2)。
| Low | High | |
|---|---|---|
| n | 20 (×day) | 20 (×day) |
| Mean (μmol/L) | 0.396 | 7.545 |
| SD | 0.005 | 0.154 |
| MAX | 0.408 | 7.911 |
| MIN | 0.388 | 7.314 |
| CV (%) | 1.3 | 2.0 |
24.249 μmol/Lまで直線性が確認された(Figure 1)。

検出限界は0.011 μmol/Lであった(Figure 2)。

定量限界は0.013 μmol/Lであった(Figure 3)。

ビリルビンF,ビリルビンCは20 mg/dL,ヘモグロビンは500 mg/dL,乳びは3,000 FTU,RFは500 IU/Lまで,未添加試料の測定値に対して±5%以内の変動であった(Figure 4)。

検討試薬(y)と対照試薬(x)との相関性は,全体では相関係数r = 0.993,回帰式y = 1.139x − 0.019であった(Figure 5A)。測定範囲内(0~25 μmol/L)では相関係数r = 0.991,回帰式y = 1.067x + 0.026であった(Figure 5B)。検討試薬における血清検体(y)と血漿検体(x)との相関性は,相関係数r = 0.999,回帰式y = 1.014x − 0.004であった(Figure 6)。どちらにおいても明らかに測定値に乖離を認める検体はなかった。


全ての検体が,冷蔵保存下72時間後まで,保存前の測定値に対して±5%以内の変動であった(Figure 7)。

併行精度は,低濃度域がCV 1.0%,高濃度域がCV 1.3%であり,良好な結果が認められた。低濃度域から高濃度域まで精度の高い測定ができることが確認された。
室内精度は,低濃度域がCV 1.3%,高濃度域がCV 2.0%であり,良好な結果が認められた。試薬搭載時のキャリブレーション後20日間の精度管理は低濃度域,高濃度域ともに良好であることが確認された。
希釈直線性は,24.249 μmol/Lまでの直線性が認められた。添付文書における測定上限は25.000 μmol/Lであり,対照試薬の測定上限である1.500 μmol/Lと比較して高濃度域が広いことが特徴である。メトトレキサート・ロイコボリン救援療法において,投与開始24時間後の目標血中濃度は10.0 μmol/L以下であるが,本試薬の測定範囲内であり,対照試薬と比較して高濃度の検体において希釈再検数の減少が期待される。2023年7月~2024年6月までの当院におけるメトトレキサートの測定依頼件数は333件であり,そのうち対照試薬で希釈再検が必要な割合は19%(63/333)であったが,検討試薬では希釈再検が必要な割合は8%(25/333)であり,希釈再検数の減少が確認できた。また,測定時間も対照試薬と比較して約10分短く,結果報告までの所要時間(turn-around time; TAT)の短縮も期待される。
添付文書における検出限界は0.019 μmol/L,定量限界は0.030 μmol/Lだが,今回の検討では,検出限界,定量限界はそれぞれ0.011 μmol/L,0.013 μmol/Lであった。別の検討においても同程度の結果が報告されており6),良好な結果が認められた。メトトレキサート・ロイコボリン救援療法において,投与開始72時間後の目標血中濃度は0.1 μmol/L以下であり,高感度であることが測定試薬に求められるが,十分な感度で測定できることが確認された。
共存物質の影響は,ビリルビンC,ビリルビンF,ヘモグロビン,乳び,RFについて,未添加試料の測定値に対して±5%以内の変動であった。また,従来試薬では,メトトレキサート排泄遅延時に投与されるグルカルピターゼの使用時に生成される代謝産物である2,4-ジアミノ-N10-メチルプロテイン酸(2,4-diamino-N10-methylpteroic acid; DAMPA)との交差反応性が高いと報告されている7),8)。今回は検討できなかったが,検討試薬は交差反応性が低いと添付文書に記載されており9),DAMPAの影響が少ない試薬であると考えられる。
相関性は,それぞれの検討において結果が乖離した検体は認められず,相関係数も良好な結果が認められた。血中薬物測定のゴールドスタンダードは高速液体クロマトグラフ質量分析計(Liquid Chromatography-Mass Spectrometry; LC-MS/MS)である10)。本試薬はLC-MS/MSとの相関性が高いことが添付文書に記載されており9),信頼性の高い測定が可能であると考えられる。
検体の保存安定性は,全ての検体において冷蔵保存下72時間後まで,保存前の測定値に対して±5%以内の変動であった。また,一部の薬物において,分離剤入りの採血管を使用した場合に低値を示す報告があり,検討を行ったが11),12),当院で採用している採血管では72時間まで影響は認められなかった。しかし,採血管により分離剤の成分が異なり,その影響も異なると報告されており11),12),採血管が変更になった際には再度検討が必要である。
ルミパルスL2400におけるメトトレキサート測定試薬の基礎的検討を行った結果,良好な結果であり,低濃度域から高濃度域まで十分な感度を有していることや,血漿検体でも血清検体でも測定可能であることが確認された。また,測定範囲が広いことが大きな特徴で,再検率の低下,TATの短縮につながることが期待され,臨床に貢献できると思われる。
本論文の要旨は第57回中四国医学検査学会(令和6年11月,鳥取)にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。