2025 年 74 巻 4 号 p. 670-679
Automated insulin delivery(AID)療法は,リアルタイム持続血糖モニタリング(rtCGM)と連動してインスリンを自動注入する治療法である。本邦では,基礎インスリンの自動注入(hybrid closed loop; HCL)と補正インスリンの自動注入(advanced hybrid closed loop; AHCL)が可能なインスリンポンプが認可されている。本研究では,2022年1月から2024年6月の期間に当院に通院し,ミニメド770Gおよび780Gシステムインスリンポンプを使用した1型糖尿病患者22名を対象に,AID療法導入前後の血糖変動を解析した。本研究におけるAID(HCL/AHCL)療法のglucose management indicator(GMI)は,それぞれ7.0%および6.8~7.0%,time in range(TIR)は,69.2~70.4%および70.7~72.8%,time above range(TAR)は,26.8~28.9%および24.6~26.7%,time below range(TBR)は,1.9~3.0%および2.5~2.6%であり,CGMにおける血糖コントロール指針の目標値を概ね達成していた。AID療法は,SAP療法と比較して低血糖イベントを増加させることなく安全に高血糖を是正できる非常に有効な治療法であることが示された。
Automated insulin delivery (AID) therapy is a treatment in which an insulin pump is linked to real-time continuous glucose monitoring (CGM) to automatically infuse insulin. In recent years, insulin pumps equipped with hybrid closed loop (HCL) technology, which allows automatic basal insulin adjustment, and advanced hybrid closed loop (AHCL) technology, which allows automatic bolus insulin delivery, have been approved. Automated insulin delivery (AID) therapy is expected to achieve better glycemic control than SAP therapy, but there are few reports on its utility in Japan. In this study, we analyzed the glycemic variability before and after the introduction of AID therapy in 22 patients with type 1 diabetes (8 males, 14 females; mean age 49.8 ± 18.9 years) who visited our hospital between January 2022 and June 2024 and used the MiniMed 770G or 780G insulin pump systems. Glucose management indicator (GMI) for AID (HCL/AHCL) therapy was 7.0% and 6.8~7.0%, respectively time in range (TIR) was 69.2~70.4% and 70.7~72.8%, time above range (TAR) was 26.8~28.9% and 24.6~26.7%, time below range (TBR) was 1.9~3.0% and 2.5~2.6%, meeting the target values for glycemic control recommended by CGM guidelines. These results demonstrated that AID therapy is a highly effective and safe treatment that can correct hyperglycemia without increasing hypoglycemic events compared to SAP therapy. Automated insulin delivery (AID) therapy is a treatment in which an insulin pump is linked to real-time continuous glucose monitoring (CGM) to automatically infuse insulin.
1型糖尿病患者におけるインスリン治療法には,頻回インスリン注射療法(multiple daily injection; MDI)やインスリンポンプ療法(continuous subcutaneous insulin infusion; CSII)がある。CSII療法は,携帯型のポンプを用いて超速効型のインスリンを持続的に皮下注入する治療法で,時間帯ごとにインスリン量を細かく調整できる。インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病患者では,時間帯によって基礎インスリンの必要量が異なることから1),生理的なインスリン分泌に近いインスリン注入量を再現できるCSII療法は,MDI療法と比較して有効な治療法である。さらに,CSII療法とMDI療法のランダム化比較試験を対象としたメタ解析では,CSII療法の方がMDI療法よりHbA1cが有意に低下しており,CSII療法の有用性が報告されている2)~4)。
本邦では,2015年にリアルタイム持続血糖モニタリング(real-time continuous glucose monitoring; rtCGM)機能付きインスリンポンプ療法(sensor augmented pump; SAP)が認可された。SAP療法では,rtCGMで測定された皮下間質液中のグルコース値をリアルタイムに確認でき,高血糖・低血糖の可能性をポンプのアラート機能で知らせることで使用者が予防策を講じることが可能となった。さらに,2022年には,基礎インスリンの自動調整ができるハイブリッドクローズドループ(hybrid closed loop; HCL)テクノロジーが搭載され,2023年には,基礎インスリンの自動注入に加え,補正インスリンの自動注入が可能なアドバンスハイブリッドクローズドループ(advanced hybrid closed loop; AHCL)テクノロジーを搭載したインスリンポンプが認可された。
これらのHCLやAHCL療法は,rtCGMと連動してインスリン注入を自動化する点から,自動インスリン注入(automated insulin delivery; AID)療法に分類される。AID療法では,設定した目標血糖値に応じて5分ごとに基礎インスリンおよび補正インスリンが自動注入され,従来のSAP療法よりもさらなる血糖コントロールの改善が期待される。成人・小児の1型糖尿病患者を対象にした海外の臨床試験では,目標範囲内時間(time in range; TIR)が改善し,HbA1cを低下させることが示されている5)~7)。一方,本邦では,AID療法の有用性に関する報告は少ない。本研究の目的は,当院でAID療法を使用している1型糖尿病患者の血糖変動を解析し,治療の有用性を評価することである。
2022年1月~2024年6月の期間に当院に通院し,ミニメド770Gおよび780Gシステムインスリンポンプ(日本メドトロニック株式会社)を使用した1型糖尿病患者22名(男性8名,女性14名,平均年齢49.8 ± 18.9歳)を対象とした。AID導入時にSAP治療歴が6か月未満の患者,妊婦,スマートガード機能を使用していない患者は除外した。
2. 評価項目AID導入時,導入後2か月および4か月(いずれもHCLおよびAHCL),ならびに導入後12か月(HCLのみ)のglucose management indicator(GMI),平均センサーグルコース値,TIR,低血糖域(time blow range; TBR),高血糖域(time above range; TAR),1日あたりのインスリン総投与量(total daily dose of insulin; TDD),基礎インスリン比(TDDに対する基礎インスリンの比率),ボーラス比(TDDに対するボーラスの比率),およびスマートガード使用率の変化を評価した。なお,HCL導入時のデータは従来のSAP療法との比較,AHCL導入時のデータはHCL療法との比較とした。
CGMにおける血糖コントロールの指針に基づき8),センサーグルコース値が70–180 mg/dL以内であった測定回数をTIRと定義し,70 mg/dL未満をTBR,181 mg/dL以上をTARとした。TBRは,40–69 mg/dL,54–69 mg/dL,54 mg/dL未満の3群,TARは,181–400 mg/dL,181–250 mg/dL,251–400 mg/dLの3群に分類して評価した。
統計解析にはEZR(Ver. 1.41)を使用し,RおよびRコマンダーは,それぞれVer. 3.6.1,Ver. 2.6-1を使用した9)。データが正規分布を仮定しないため,ノンパラメトリック検定であるFriedman検定を用い,有意差が認められた場合にはHolm法を用いて多重比較を実施した。
HCL導入後のTAR改善群/非改善群におけるTDDおよび基礎インスリン比(%)の解析では,TDDおよび基礎インスリン比(%)を対数変換して正規性を確保したうえで,二元配置反復分散分析を行った。p < 0.05を統計学的に有意と判断した。
患者背景とAID(HCL/AHCL)療法導入前後のデータ推移をTable 1に示す。
| HCL(n = 22) | AHCL(n = 22) | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 導入時 | 導入後 2か月 |
導入後 4か月 |
導入後 12か月 |
p値 | 導入時 | 導入後 2か月 |
導入後 4か月 |
p値 | |
| 性別(男性/女性) | 8/14 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
| 年齢 | 49.8 ± 18.9 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
| GMI(%) | 7.6 ± 0.88 | 7.0 ± 0.39 | 7.0 ± 0.42 | 7.0 ± 0.35 | < 0.001** | 7.1 ± 0.41 | 7.0 ± 0.38 | 6.8 ± 0.25 | 0.099 |
| 平均センサーグルコース値(mg/dL) | 171 ± 24.9 | 156 ± 16.7 | 153 ± 17.0 | 154 ± 14.8 | < 0.001** | 157 ± 17.0 | 153 ± 16.0 | 150 ± 10.5 | 0.118 |
| TIR(%) | 58.6 ± 15.0 | 69.2 ± 10.3 | 70.4 ± 11.4 | 69.2 ± 9.6 | < 0.001** | 68.0 ± 11.7 | 70.7 ± 10.1 | 72.8 ± 7.7 | 0.098 |
| TAR(%)181–400 mg/dL | 39.2 ± 15.3 | 28.9 ± 10.9 | 26.8 ± 11.1 | 27.8 ± 9.6 | < 0.001** | 29.0 ± 11.1 | 26.7 ± 10.5 | 24.6 ± 7.6 | 0.066 |
| TAR(%)181–250 mg/dL | 27.0 ± 8.5 | 21.5 ± 6.8 | 20.1 ± 6.3 | 21.2 ± 5.7 | < 0.001** | 20.7 ± 6.0 | 20.5 ± 6.6 | 19.3 ± 4.6 | 0.538 |
| TAR(%)251–400 mg/dL | 12.4 ± 8.7 | 7.5 ± 4.9 | 6.6 ± 5.8 | 6.6 ± 4.7 | < 0.001** | 8.3 ± 6.1 | 6.2 ± 4.5 | 5.2 ± 3.6 | 0.006** |
| TBR(%)40–69 mg/dL | 2.0 ± 2.1 | 1.9 ± 1.8 | 2.9 ± 2.3 | 3.0 ± 3.0 | 0.283 | 3.0 ± 2.7 | 2.5 ± 2.8 | 2.6 ± 2.0 | 0.488 |
| TBR(%)54–69 mg/dL | 1.5 ± 1.4 | 1.5 ± 1.3 | 2.1 ± 1.4 | 2.2 ± 1.6 | 0.295 | 2.2 ± 1.6 | 1.9 ± 2.0 | 2.1 ± 1.5 | 0.223 |
| TBR(%)54 mg/dL未満 | 0.4 ± 0.9 | 0.4 ± 0.7 | 0.8 ± 1.1 | 0.8 ± 1.4 | 0.410 | 0.7 ± 1.2 | 0.6 ± 1.0 | 0.5 ± 0.7 | 0.527 |
| TDD(U) | 35.2 ± 11.9 | 34.1 ± 11.7 | 34.6 ± 12.1 | 34.1 ± 12.9 | 0.151 | 35.1 ± 14.6 | 35.9 ± 14.2 | 36.4 ± 15.1 | 0.827 |
| 基礎インスリン比(%) | 43.8 ± 13.3 | 43.9 ± 10.9 | 43.2 ± 8.9 | 43.3 ± 9.0 | 0.853 | 42.4 ± 9.7 | 37.5 ± 6.5 | 36.7 ± 7.5 | 0.002** |
| ボーラス比(%) | 56.2 ± 13.3 | 56.1 ± 10.9 | 56.8 ± 8.9 | 56.7 ± 9.0 | 0.804 | 57.6 ± 9.7 | 62.5 ± 6.5 | 63.3 ± 7.5 | 0.002** |
| 自動補正ボーラス(%) | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 23.7 ± 10.0 | 24.2 ± 11.8 | ― |
| スマートガード使用率(%) | ― | 79.0 ± 17.1 | 86.3 ± 13.6 | 84.5 ± 12.6 | ― | 78.3 ± 21.3 | 90.8 ± 12.9 | 90.2 ± 11.6 | < 0.001** |
| 目標血糖値 100 mg/dL(名) | ― | ― | ― | ― | ― | 10 | 11 | 11 | ― |
| 目標血糖値 110 mg/dL(名) | ― | ― | ― | ― | ― | 1 | 0 | 0 | ― |
| 目標血糖値 120 mg/dL(名) | 22 | 22 | 22 | 22 | ― | 11 | 11 | 11 | ― |
| 残存インスリン時間 2~2.5時間(名) | 3 | 3 | 3 | 4 | ― | 2 | 5 | 8 | ― |
| 残存インスリン時間 3時間(名) | 8 | 8 | 8 | 7 | ― | 9 | 8 | 8 | ― |
| 残存インスリン時間 3.5~4時間(名) | 11 | 11 | 11 | 11 | ― | 11 | 9 | 6 | ― |
HCL導入時(従来のSAP療法)におけるGMI(SD)および平均センサーグルコース値は,7.6(0.88)%および171(24.9)mg/dL,HCL導入後2か月で7.0(0.39)%および156(16.7)mg/dLと有意に低下し,導入後12か月まで安定していた(Figure 1)。

従来のSAP療法と比較して,HCL導入後の各時点におけるGMI,平均センサーグルコース値およびTIRは,有意な改善を示した。
HCL療法と比較して,AHCL導入後の各時点におけるGMI,平均センサーグルコース値およびTIRは,いずれも有意な改善は認められなかったが,緩徐な改善傾向がみられた。
TIR(SD)は,HCL導入時(従来のSAP療法)で58.6(15.0)%,導入後2か月で69.2(10.3)%,導入後4か月で70.4(11.4)%,導入後12か月で69.2(9.6)%と有意に増加した(Figure 1)。
TAR(181–400 mg/dL)(SD)は,HCL導入時(従来のSAP療法)で39.2(15.3)%,導入後2か月で28.9(10.9)%,導入後4か月で26.8(11.1)%,導入後12か月で27.8(9.6)%と有意に低下した。また,TAR(181–250 mg/dL)およびTAR(251–400 mg/dL)の群に関しても同様に低下傾向を示した(Figure 2)。

従来のSAP療法と比較して,HCL導入後の各時点におけるTARは,いずれの群においても有意な改善を示した。
HCL療法と比較して,AHCL導入後のTAR(251–400 mg/dL)は,有意な改善を示した。また,TAR(181–400 mg/dL)およびTAR(181–250 mg/dL)では,有意な改善は認められなかったが,緩徐な改善傾向がみられた。
TBRは,HCL導入前後で有意な増加は認められなかった(Figure 3)。

TBRは,いずれの群においてもHCL/AHCL導入前後で有意な増加は認められなかった。
AHCL導入時(HCL療法)のGMI(SD)および平均センサーグルコース値は,7.1(0.41)%および157(17.0)mg/dL,導入後2か月で7.0(0.38)%および153(16.0)mg/dL,導入後4か月で6.8(0.25)%および150(10.5)mg/dLと有意な低下ではないが,低下傾向を示した(Figure 1)。
TIR(SD)は,AHCL導入時(HCL療法)で68.0(11.7)%,導入後2か月で70.7(10.5)%,導入後4か月で72.8(7.7)%と有意な増加ではないが,増加傾向を示した(Figure 1)。
TAR(251–400 mg/dL)(SD)は,AHCL導入時(HCL療法)で8.3(6.1)%,導入後2か月で6.2(4.5)%,導入後4か月で5.2(3.6)%と有意に低下した。TAR(181–400 mg/dL)およびTAR(181–250 mg/dL)の群に関しては有意な低下ではないが,低下傾向を示した(Figure 2)。
TBRは,AHCL導入前後で有意な増加は認められなかった(Figure 3)。
3) AID(HCL/AHCL)療法導入前後のインスリン注入量の比較基礎インスリン比(%)およびボーラス比(%)は,HCL導入前後で有意な変化は認めなかった。AHCL導入時の基礎インスリン比(%),ボーラス比(%)の平均値(SD)は,それぞれ,42.4(9.7)%,57.6(9.7)%,導入後2か月で37.5(6.5)%,62.5(6.5)%,導入後4か月で36.7(7.5)%,63.3(7.5)%と有意な低下および増加を認めた(Figure 4)。

HCL療法と比較して,AHCL導入後2か月および4か月の基礎インスリン比(%)は,有意な低下を認め,ボーラス比(%)は,有意な増加を示した。
TDDは,HCL/AHCL導入前後で有意な変化は認めなかった。
4) AHCL療法導入前後のスマートガード使用率の比較スマートガード使用率(SD)は,AHCL導入時で80.3(18.8)%,導入後2か月で90.5(12.6)%,導入後4か月で90.2(11.6)%と有意に増加した(Figure 5)。

HCL療法と比較して,AHCL導入後2か月および4か月のスマートガード使用率は,有意な増加を示した。
HCL導入時と導入後12か月のTARを比較し10%以上低下した群を改善群(12例),改善しなかった群を非改善群(10例)とした。HCL導入前後におけるTAR改善群/非改善群のTDDと基礎インスリン比(%)の推移をFigure 6に示す。基礎インスリン比(%)は,改善群ではHCL導入後2か月から有意な増加ではないが増加傾向を示し,非改善群では有意な変化は認めなかった。TDDは,改善群/非改善群ともに有意な変化は認めなかった。

従来のSAP療法と比較して,HCL導入後2か月の基礎インスリン比(%)は,改善群では有意な増加は認められなかったが,増加傾向がみられた。非改善群では,基礎インスリン比(%)に有意な変化は認めなかった。
TDDは,改善群/非改善群ともに有意な変化は認めなかった。
HCLにおけるTARとAHCLの自動補正の回帰式は,y = 0.887x + 7.104,r = 0.756で正の相関が見られた。また,HCLにおけるTARが高い患者は,AHCLでの自動補正の比率が高い傾向にあった(Figure 7)。

HCLにおけるTARとAHCLの自動補正の回帰式はy = 0.887 x + 7.104,r = 0.756で正の相関が見られた。また,HCLにおけるTARが高い患者は,AHCLでの自動補正の比率が高い傾向にあった。
SAP療法は,rtCGMにより患者がリアルタイムにグルコース値の変動を把握し,インスリン投与量を調節することで,血糖コントロール向上が期待できる治療法である。また,SAP療法では,低血糖のリスクが予測される場合にインスリン注入を一時停止するpredictive low glucose suspend(PLGS)機能が搭載されており,高血糖頻度を増加させることなく低血糖頻度を減少させることが報告されている10),11)。しかしながら,SAP療法の機能は,ポンプが使用者にグルコース値の状態を注意喚起することに留まるため,使用者がグルコース値の変化の原因を理解し,適切に対応する必要がある。また,使用者の意思によって血糖変動を高めの範囲で推移させることも容易なため,低血糖を恐れるがあまり,高めに管理することでSAP療法の効果が十分に発揮されない場合もある。
一方,AID療法では,目標血糖値を100,110,120 mg/dLから設定でき(HCLは120 mg/dLに限定),rtCGMで測定されたセンサーグルコース値に基づき,基礎インスリンおよび補正インスリンが自動注入される。この機能により,使用者の意思に関わらずTIRに収まるように動作するため,高血糖の是正が可能である。
本研究では,HCL導入後にGMI,TIR,TARが有意に改善しており,TBRの増加は認めていないことから,質の高い血糖コントロールの改善が達成できている。また,HCL療法におけるTAR改善群/非改善群のTDDおよび基礎インスリン比(%)の推移の比較では,両群ともにTDDに変化はなかったが,TAR改善群において基礎インスリン注入量が増加している。この結果から,SAP療法では不足していた基礎インスリンがHCL療法によって適切量注入されたことによりTARが改善したと推察される。
基礎インスリンの必要量は,年齢,BMI,運動,ホルモン,シックデイ,季節変動などの要因により変化するため12)~17),SAP療法では基礎レートパターンの変更や一時基礎レート機能を用いて基礎インスリンを調整する必要がある。しかし,患者の受診間隔は1–2か月に1度のため,外来診察での基礎インスリン量の適切な調整は難しいケースが多い。その点HCL療法は,センサーグルコース値をもとにリアルタイムに基礎インスリン量を自動調整できるため,基礎インスリン調整に難渋する症例においても適切な基礎インスリンの注入が可能である。本研究では,HCL療法の長期経過においても良好なGMIやTIRが維持されており,HCL療法における基礎インスリンの自動注入の有用性が示された。
AHCL療法では,HCL療法と比較してTAR(251–400 mg/dL)が有意に改善した。また,GMI,TIRは有意な改善は認められないものの,GMI,TIRが緩徐に改善している。これは,AHCL導入後のボーラス/TDD(%)比率が有意に増加していることやHCL使用時のTARが高いほど,AHCLでの自動補正の比率が高くなる傾向にあったことから,補正インスリンの自動注入はオート基礎注入に比べ早期に高血糖が是正できていると推察する。このことから,食事ボーラスにおけるカーボカウントの見積もり誤差や,ボーラス不足による高血糖は,HCLの基礎インスリンの自動調整では制御しきれないが,AHCL療法を用いることで,カーボカウントの若干の誤差やボーラス不足による高血糖を改善できる可能性が示唆される。
さらに,AHCL療法における血糖コントロール改善の要因として,スマートガード使用率の増加が挙げられる。HCL療法では,スマートガードを維持するために,定期的な血糖値入力(校正)が必要であり,校正を行わない場合は,オート基礎注入からセーフ基礎注入へと移行し,90分間対処を行わないとスマートガードが解除されるシステムであり,いかにスマートガードを継続させるかが課題であった。一方,AHCL療法では,校正を行わなくてもセンサーグルコース値が自動で表示される。また,セーフ基礎注入の持続時間が90分から4時間に延長されたことで,血糖測定を必要とする頻度が減少する。これにより,簡便にスマートガードを維持可能になり,患者負担の軽減にも寄与できている。
本研究の母集団には,10歳代の小児患者も含まれており,学校にいる間は人目を気にして補正インスリンの注入や校正が出来ない場合も見受けられる。そのため,スマートガードが維持できずTARが高くなることが多々あった。AHCL療法では,学校にいる間もスマートガードを維持できることでTARが改善されており,小児症例においても有効な治療法であることが示唆された。
通常の1型および2型糖尿病患者では,TIRを70%以上,TARを25%未満,TBRを4%未満に抑えることが推奨されている8)。本研究におけるAID(HCL/AHCL)療法のGMIは,それぞれ7.0%および6.8~7.0%,TIRは,69.2~70.4%および70.7~72.8%,TARは,26.8~28.9%および24.6~26.7%,TBRは,1.9~3.0%および2.5~2.6%と概ね目標を達成できている。本研究の結果から,AID療法は,SAP療法と比較して低血糖イベントを増加させることなく安全に高血糖を是正できる非常に有効な治療法であると言える。しかしながら,AID療法は,完全なAIではない点を留意する必要がある。AID療法では,直近2~6日のTDDにより最大注入量が更新され,あくまでもrtCGMの結果に基づいてインスリンが自動注入される。すなわち,使用者の意向や時間変化は反映されないため,運動などで一時的に活動量が増える場合や,暁現象に対してインスリン量を自動調整することはできない。したがって,活動量が増える場合などは一時的に目標血糖値を150 mg/dLに設定する一時目標機能の使用や,捕食により低血糖を予防する指導を行う必要がある。
対策として,当院検査部では,インスリンポンプの導入・継続指導を臨床検査技師が担当している。継続指導では,外来の診察前に30分の予約枠を用いてポンプのCGMデータを抽出し,患者と共に血糖変動波形を確認しながら,必要な機能の説明や設定値の確認を行っている。また,AHCL導入後は,患者ごとにCGMデータを確認しながら,残存インスリン時間の調整や目標血糖値の変更を行った。残存インスリン時間や目標血糖値の変更は,インスリンが自動注入されるまでの時間や自動注入量に関与する。例えば,残存インスリン時間を短く設定すると,早期に自動補正ボーラスが注入されるようになり,高血糖を予防できる可能性がある。一方で,目標血糖値を高く設定すると,自動注入量が減少し,低血糖の予防に繋がる。これらの設定値は患者ごとに異なるため,患者のデータを確認しながら適宜調整することが望ましく,医療スタッフによる患者教育は重要である。
1型糖尿病患者における治療デバイスは,近年飛躍的な進歩を遂げている。本研究の結果,AID療法はSAP療法と比較して,低血糖イベントを増加させることなく高血糖を是正できる有効な治療法であることが示された。今後,より多くの症例を対象にした長期的な評価を通じて,AID療法のさらなる技術的進歩と普及の促進が期待される。
なお,本研究は静岡県立総合病院臨床研究倫理委員会(承認番号:SGHIRB-番号:2023044)により審査・承認された。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。