医学検査
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原著
抗リン脂質抗体の好中球細胞外トラップ(NETs)形成への関与
金重 里沙瀬分 望月本木 由香里野島 順三
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2025 年 74 巻 4 号 p. 680-686

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Abstract

抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS)は,血中に抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody; aPL)が出現し,動・静脈血栓症や習慣流産などの合併症を発症する自己免疫疾患である。本邦のAPSの約半数は膠原病に合併する2次性APSであり,なかでも全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)に併発するAPS(SLE/APS)は,重篤で多彩な血栓症を発症することが知られているが,その病態機序は未だ解明されていない。近年,好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps; NETs)の過剰形成が,APSおよびSLE/APSにおける血栓形成の主要なメカニズムの1つであることが示唆されている。本研究では,aPLがNETs形成に与える影響を解明するため,ヒト末梢血顆粒球をSLE/APS患者血清およびaPL IgGで刺激し,NETs形成が惹起されるか検討した。その結果,aPL IgGにより顆粒球中のSYTOX® Green陽性細胞比率,培養上清中の好中球エラスターゼ活性,活性酸素種産生細胞比率の増加が引き起こされる可能性を明らかにした。本研究成果より,aPLによって誘導される細胞死はNETsに関連し,APSではaPLがNETsを介して血栓形成作用を促進する可能性が示唆された。

Translated Abstract

Antiphospholipid syndrome (APS) is an autoimmune disorder characterized by the presence of antiphospholipid antibody (aPL), which is autoantibody targeting phospholipid-related proteins in the blood. This condition leads to complications such as arterial and venous thrombosis and recurrent pregnancy loss. In Japan, approximately half of APS cases are secondary APS associated with autoimmune diseases, the most common being systemic lupus erythematosus (SLE). APS in conjunction with SLE (SLE/APS) is known to cause severe and diverse thrombotic events, though the underlying pathophysiological mechanisms remain unclear. Recent studies have suggested that excessive formation of neutrophil extracellular traps (NETs) is a major mechanism contributing to thrombosis in APS and SLE/APS. This study aimed to elucidate the impact of aPL on NETs formation. Human peripheral blood granulocytes were stimulated with serum from SLE/APS patients and aPL IgG to examine whether NET formation is induced. The results indicated that aPL could potentially induce an increase in the proportion of SYTOX® Green-positive cells, neutrophil elastase activity in culture supernatants, and the proportion of reactive oxygen species (ROS)-producing cells within granulocytes. These findings suggest that aPL-induced cell death is associated with NETs formation. Furthermore, they imply that in the blood of APS patients, aPL may promote thrombosis through NETs.

I  はじめに

抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS)は,動脈および静脈血栓症,妊娠合併症などの多彩な症状を呈する自己免疫疾患であり,その発症には抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody; aPL)が深く関与している1),2)。本疾患は,臨床的に原発性APSと2次性APSに分類され,2次性APSでは全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)が代表的な基礎疾患として知られている。特に,SLEに伴う2次性APS(SLE/APS)では,多種多様なaPLが血管内皮細胞を障害し,血栓形成を誘発することが知られている3)。近年,好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps; NETs)の過剰形成が,APSおよびSLE/APSにおける血栓形成の主要なメカニズムの1つであることが示唆されている4),5)

NETsは,好中球がクロマチンや抗菌タンパク質(好中球エラスターゼなど)を放出することにより形成される構造体であり,自然免疫において病原体を捕捉・排除する重要な役割を担っている6)。一方で,NETsは炎症性サイトカインの産生を促進し,血小板活性化や凝固亢進を引き起こすことで,血栓形成に寄与することが明らかになっている7)。さらに,NETs形成に伴う活性酸素種(reactive oxygen species; ROS)の産生が血管内皮機能を損傷することも報告されており8),APSの病態進行に関与していることが示唆される。

本研究では,aPLがNETs形成に与える影響を解明することを目的に,ヒト末梢血顆粒球をaPL存在下で培養し,NETs形成に関与するROS産生細胞比率や好中球エラスターゼ活性を測定するとともに,aPLがNETosisを誘導しうるかどうかを細胞死解析により検討した。

II  材料および方法

1. 材料

SLE診断基準(1997年改訂)9)およびAPS分類基準(Sydney revised Sapporo criteria)1)を満たしたSLE/APS患者血清を使用した。患者は,動脈および静脈血栓症の既往を有する22歳の女性であり,血清中の抗リン脂質抗体価は,抗カルジオリピン/β2-グリコプロテインI抗体(anti-cardiolipin/β2-glycoprotein I antibodies; aCL/β2GPI)が113.90 U/mL(cut off: 1.3 U/mL),抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(anti-phosphatidylserine/prothrombin antibodies; aPS/PT)が127.70 U/mL(cut off: 1.56U/mL)であり,いずれも陽性であった。

比較対照として,SLEまたはAPS以外の自己免疫疾患(シェーグレン症候群)で,aCL/β2GPIおよびaPS/PTがともに陰性の患者の血清を使用した。さらに,基礎疾患を有さず,aCL/β2GPIおよびaPS/PTがともに陰性である健常人の血清を正常対照として使用した。

さらに,aPL IgGとして,SLE/APS患者血清から精製したaPL IgG(aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgG)および市販のモノクローナルaPL IgG(aPS/PT(+) IgG)(MEDICAL & BIOLOGICAL LABORATORIES CO., LTD., Japan)を用いた。対照としてリン酸緩衝液(phosphate-buffered saline; PBS)を用いた(PBS control)。

2. 方法

1) ヒト末梢血顆粒球の分離

分離剤PolymorphprepTM(Serumwerk Bernburg, Germany)にヘパリン採血管(Termo Co., Japan)に健常人6名から採血した末梢血を同量重層し,遠心分離した(500 × g 30分)。遠心後,顆粒球浮遊層を回収し,溶血処理と洗浄操作を行い,10%ウシ胎仔血清(fetal bovine serum; FBS)(gibco, USA)含有RPMI 1640培地(gibco)に浮遊させ,滅菌試験管(FALCON, USA)に20 × 104個/tubeあるいは60 × 104個/tubeずつ播種し,1時間静置した(37℃・5% CO2)。

2) 死細胞解析/エラスターゼ活性の定量解析

健常人6名から分離した静置後の顆粒球(20 × 104個/tube)にそれぞれ3種類の血清(健常人・膠原病患者・SLE/APS患者)あるいは,aPL IgG(aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgG·aPS/PT(+) IgG)およびPBSを添加し,2時間培養した(37℃・5% CO2)。血清は終濃度が10%,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgGおよびPBSは終濃度が5%となるように添加した。aPS/PT(+) IgGについては,添付文書に従い,LA陽性(ratio 1.48)となるよう,終濃度が25.0 μg/mLになるように添加した。

培養終了後の顆粒球懸濁液を遠心後(300 × g 5分)に得られた上清を回収し,培養上清中の好中球エラスターゼ活性をNeutrophil Elastase Activity Assay Kit(Cayman Chemical, USA)にて定量した。

上清除去後の顆粒球を1% Bovine Serum Albumin(Fujifilm, Japan)Bufferに再懸濁させ,SYTOX® Green-FITC(Thermo Fisher Scientific, USA)を用いて染色し,死細胞比率をフローサイトメトリー(FCM)で解析した(MAQSQuant® Analyzer 10: Miltenyi Biotec, Germany)。

3) ROS産生細胞比率の解析

静置後の顆粒球(60 × 104個/tube)にaCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgGを終濃度5%,aPS/PT(+) IgGを終濃度25.0 μg/mLで添加し,1時間培養した。培養後,ROS産生細胞比率をCell MeterTM Fluorometric Intracellular Total ROS Activity Assay Kit(AAT Bioquest, USA)を用いてFCM解析した。

4) aPL IgGの精製

MAbTrapTM Kit(GE Healthcare, USA)を用いて,血清からaPL IgGを精製した。

5) 統計解析

StatFlex ver. 7(Artec, Japan)を用いた。

III  結果

1. SYTOX® Greenによる死細胞解析

死細胞率(SYTOX® Green陽性細胞比率)をFCM解析した結果,ヒト末梢血顆粒球を健常人血清で刺激した場合と比較して,SLE/APS患者血清で刺激した場合に,死細胞率が有意に増加することを確認した(Kruskal Wallis, Dunn’s post hoc test, p < 0.005)。一方で,膠原病患者血清で刺激した際には,有意差は認められなかった(N.S.)。さらに,膠原病患者血清で刺激した場合とSLE/APS患者血清で刺激した場合とを比較しても,有意差は認められなかった(N.S.)(Figure 1A)。

Figure 1  死細胞率(SYTOX® Green陽性細胞比率)の解析

(A)Kruskal Wallis, Dunn’s post hoc test:*N.S.,**p < 0.005

(B)Kruskal Wallis, Dunn’s post hoc test:*N.S.,***p < 0.001

SLE:全身性エリテマトーデス,APS:抗リン脂質抗体症候群,aCL/β2GPI:抗カルジオリピン/β2-グリコプロテインI抗体,aPS/PT:抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体

また,aPL IgGによって同様に顆粒球を刺激した結果,PBS controlと比較して,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgGで刺激した場合に,死細胞率が有意に増加することを確認した(Kruskal Wallis, Dunn’s post hoc test, p < 0.001)。一方,aPS/PT(+) IgGで刺激した場合にも死細胞率は増加したが,有意差は認められなかった(N.S.)。さらに,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgGで刺激した場合とaPS/PT(+) IgGで刺激した場合とを比較しても,有意差は認められなかった(N.S.)(Figure 1B)。

2. 好中球エラスターゼ活性の定量解析

培養上清中の好中球エラスターゼ活性をELISAにて定量した結果,健常人血清にて刺激した場合と比較して,SLE/APS患者血清で刺激した場合に,好中球エラスターゼ活性が有意に増加することを確認した(Kruskal-Wails, Dunn’s post hoc test, p < 0.01)。一方で,膠原病血清刺激では有意差は認められなかった(N.S.)。さらに,膠原病患者血清で刺激した場合とSLE/APS患者血清で刺激した場合とを比較しても,有意差は認められなかった(N.S.)(Figure 2A)。

Figure 2  好中球エラスターゼ活性の解析

(A)Kruskal Wallis, Dunn’s post hoc test:*N.S.,****p < 0.01

(B)Mann-Whitney U test:*N.S.,***p < 0.001

SLE:全身性エリテマトーデス,APS:抗リン脂質抗体症候群,aCL/β2GPI:抗カルジオリピン/β2-グリコプロテインI抗体,aPS/PT:抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体

また,PBS controlと比較して,aPS/PT(+) IgGで刺激した場合に,培養上清中の好中球エラスターゼ活性が有意に増加することを確認した(Kruskal-Wails, Dunn’s post hoc test, p < 0.001)。一方,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgGで刺激した場合にもエラスターゼ活性は増加したが,有意差は認められなかった(N.S.)。さらに,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgGで刺激した場合とaPS/PT(+) IgGで刺激した場合とを比較しても,有意差は認められなかった(N.S.)(Figure 2B)。

3. 死細胞率と好中球エラスターゼ活性の相関

死細胞率(SYTOX® Green陽性細胞比率)と好中球エラスターゼ活性の相関を2パターンの刺激方法に分けて解析した:①血清添加(健常人血清・膠原病患者血清・SLE/APS患者血清),②aPL IgG添加(aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgG·aPS/PT(+) IgG·PBS)。

死細胞率と好中球エラスターゼ活性のスピアマンの順位相関係数(rS)は,①血清添加において0.55(p < 0.05)(Figure 3A),②aPL IgG添加においては0.38(N.S.)(Figure 3B)であった。さらに,IgGの種類ごとにとにrSを算出したところ,PBS control + aPS/PT(+) IgGでは0.66(p < 0.05),PBS control + aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgGでは0.69(p < 0.05)となり,いずれも中程度の相関を示した。

Figure 3  死細胞率と好中球エラスターゼ活性の相関

(A)血清添加(健常人血清・膠原病患者血清・SLE/APS患者血清):rS = 0.55(p < 0.05)

(B)aPL IgG添加(PBS control·aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgG·aPS/PT(+) IgG):rS = 0.38(N.S.

PBS control + aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgG:rS = 0.69(p < 0.05)

PBS control + aP/PT(+) IgG:rS = 0.66(p < 0.05)

rS:スピアマンの順位相関係数,SLE:全身性エリテマトーデス,APS:抗リン脂質抗体症候群,aCL/β2GPI:抗カルジオリピン/β2-グリコプロテインI抗体,aPS/PT:抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体

4. ROS産生細胞比率の解析

ROS産生細胞比率をFCMにて解析した結果,PBS controlと比較して,aPL IgG刺激でROS産生細胞比率が有意に増加することを確認した(Kruskal-Wails, Dunn’s post hoc test, aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgG: p < 0.01, aPS/PT(+) IgG: p < 0.005)。一方,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgGで刺激した場合とaPS/PT(+) IgGで刺激した場合とを比較しても,有意差は認められなかった(N.S.)(Figure 4)。

Figure 4  ROS産生細胞比率の解析

Kruskal Wallis, Dunn’s post hoc test:*N.S.,**p < 0.005,****p < 0.01

SLE:全身性エリテマトーデス,APS:抗リン脂質抗体症候群,aCL/β2GPI:抗カルジオリピン/β2-グリコプロテインI抗体,aPS/PT:抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体

IV  考察

先行研究により,患者由来のaPL,特にaβ2GPIが好中球を活性化し,NETsの放出を促進することが報告されている10)。本研究では,ループスアンチコアグラント活性の主要な責任抗体として知られるaPS/PTがNETs形成を促進するかどうかを検討した11)。私たちはこれまでに,SLE患者における血栓合併症がaCL/β2GPIまたはaPS/PTと密接に関連し,両抗体を有する患者でその有病率が高いことを報告している3)

本研究では,健常人の顆粒球を患者由来aPL IgG(aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgG)あるいはモノクローナルaPL IgG(aPS/PT(+) IgG)にて刺激した結果,NETs形成の指標となるSYTOX® Green陽性細胞比率や培養上清中の好中球エラスターゼ活性,ROS産生細胞比率の増加が確認された。これらの結果から,aCL/β2GPIと同様に,aPS/PTも好中球を活性化し,NETs形成に関与している可能性が示唆された。

SYTOX® Greenは細胞膜の破綻を検出する色素で,壊死やNETosisを含む後期細胞死のマーカーとして使用されている。SYTOX® Greenは細胞外DNAや膜透過性細胞を無差別に染色するため,この染色法の陽性のみではNETs形成と他の細胞死を区別することはできない。しかしながら,SYTOX® GreenがNETs内のミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase; MPO)と共局在することが示されており,NETs構造の同定には有用と考えられる12)

また,好中球エラスターゼ活性がaPL IgG刺激により上昇した。好中球エラスターゼ活性はNETsの構造維持や炎症反応の調節に寄与しており13),NETs形成の過程で細胞外へ放出されることから,aPLがNETs形成を促進し,結果的に血管内皮細胞の障害や血栓形成に寄与する可能性を明らかにした。

aPL刺激によるSYTOX® Green陽性細胞の割合は,aPS/PT(+) IgG刺激よりもaCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+) IgG刺激で高値を示した。一方,好中球エラスターゼ活性はaPS/PT(+) IgG刺激の方が高値を示した。この差異の要因として,aCL/β2GPI(+)/aPS/PT(+)刺激ではaCL/β2GPIおよびaPS/PTが共存しており,aPS/PT単独刺激よりも好中球への影響が強く現れた可能性が考えられる。その結果,NETs形成に加えて,一部の細胞がNETs放出前にapoptosisを起こし,培養上清中にエラスターゼが放出されなかった可能性も示唆される。

さらに,NETs形成は主にROS産生によって制御されており,これはNETosis誘導における重要な因子である6)。aPLがROSおよびToll様受容体(Toll-like receptor; TLR)4依存的な機構を介してNETs形成を促進することが報告されており10),APS患者由来のNETs形成はROS産生やTLR阻害剤によって抑制されることが知られている14)。本研究においても,aPL IgG刺激によりROS産生細胞の割合が増加し,aPLによるNETosis促進におけるROSの役割を裏付ける結果となった。ROS産生細胞の増加は,aPLが好中球を過剰に活性化し,NETs形成を亢進させることを示唆している。ROSはNETs形成を亢進させるだけでなく,内皮細胞への直接的な障害も引き起こすため,SLE/APS患者における血栓リスクの増大に関与している可能性がある。

なお,膠原病患者血清で好中球エラスターゼ活性が高値を示した1例(Figure 2)および,aPS/PT(+) IgG添加によりROS産生細胞比率が高値を示した1例(Figure 4)については,いずれも同一の健常人ドナー由来好中球を使用しており,このドナーの好中球が刺激に対して高い反応性を示す個体差の影響である可能性が考えられる。

また,本研究では,aCL/β2GPIおよびaPS/PT陽性のSLE/APS患者血清を使用したが,他にも異なる抗体プロファイルを有するaPL陽性患者が存在し,本研究の結果がすべての症例に当てはまるとは限らない。今後は,複数のaPL陽性症例の血清を用いた反応性のばらつきの検討や,aPL IgGによるdose-effect解析の実施が望まれる。さらに,SLE患者血清中には抗NETs抗体の存在が報告されており15),これらの自己抗体に加え,サイトカインや補体成分などがNETs形成に関与している可能性も否定できない。実際に,我々はaPLが単球を刺激し,組織因子や腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor-α; TNF-α)の発現を誘導することを報告しており3),単球-好中球間のクロストークなど,他の免疫細胞を介した間接的なNETs形成促進経路も考慮すべきである。今回,血清を添加した条件でのSYTOX® Green陽性細胞率が,aPL IgG添加よりも高値を示した点も,aPL IgG以外の血清成分によるNETs形成促進作用の存在を示唆しており,これらの因子の関与についても今後さらなる検討が必要であると考える。

NETsは凝固系の活性化や血小板の集積を促進することも示唆されており7),aPLを有するAPS患者におけるNETs形成は,動脈および静脈血栓症における主要な原因の1つと考えられる。特にSLE/APS患者血中においては,複数種のaPLが共存しており,それぞれが異なる機序でNETs形成に関与し,血栓形成作用を増大させる可能性がある。

本研究において,細胞死を示すSYTOX® Green陽性細胞比率と好中球エラスターゼ活性との間に中等度の相関関係が認められた。この結果は,細胞死を引き起こしている好中球からエラスターゼが放出されている可能性を示しており,NETosisによる好中球特異的タンパク質の放出が示唆された。

V  結語

本研究成果より,aPLはNETs形成の促進を通じて血栓症の発症に重要な役割を果たすことが示唆される。したがって,SLE/APS患者における血栓症の病態進展にNETsが寄与することが推測される。

本研究は科研費(JP20K16547)の助成を受けたものである。

本研究は,山口大学大学院医学系研究科保健学専攻医学系研究倫理審査委員会の承認(管理番号:617-3)を得て実施した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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