医学検査
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資料
ISO 15189 DX化への取り組み―Microsoft 365を活用した当院独自の文書管理システム「DMS for Gifu」―
石田 秀和岡 有希大澤 徳子関根 綾子片桐 恭雄米玉利 準立川 将也菊地 良介
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2026 年 75 巻 2 号 p. 400-406

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Abstract

ISO 15189に基づく品質マネジメントシステム(QMS)において文書管理は必須であるが,専用システムの導入は高コストであり汎用性が低いという課題があった。2025年末に予定されるJIS Q 15189の発行を前に,多くの検査室で効率的な文書管理体制の構築が課題となっている。そこで本稿では,多くの医療機関で導入されているMicrosoft 365(M365)の標準機能のみを用い,臨床検査技師が主体となってISO 15189:2022の要求事項に準拠した品質文書管理システム「DMS for Gifu」をノーコードで構築し,その有効性を評価した。M365のSharePoint,Lists,Teams,Power Automateを組み合わせ,周知と既読確認,文書の版数管理,承認ワークフローを自動化し,各種品質文書を一元管理することで周知教育記録の確実な取得とプロセスの可視化を実現した。その結果,本システムの導入により,周知に要する日数が短縮され,品質管理主要スタッフおよび検査部全体の時間外勤務を削減することができた。このことから,汎用的なビジネスツールであるM365は,臨床検査室のQMS基盤として十分に機能し得ることが示された。本モデルは高価な専用システムを導入することなく,低コストかつ持続可能な文書管理を実現する「現場主導のDX」の有効な選択肢となると考えられる。

Translated Abstract

Document management is a cornerstone of a quality management system (QMS) under ISO 15189, yet its implementation often requires expensive, dedicated software. With the upcoming release of JIS Q 15189 in late 2025, many laboratories in Japan face the challenge of establishing an efficient and affordable document control system. This paper reports the development and implementation of “DMS for Gifu,” a QMS document management system built to comply with ISO 15189:2022 standards using only the standard features of Microsoft 365 (M365). The system was developed with a no-code approach, primarily by biomedical scientists (medical technologists). It integrates Microsoft SharePoint, Lists, Teams, and Power Automate to automate document approval workflows, version control, and staff notification and training records. Implementation of DMS for Gifu led to a reduction in the time required for information dissemination. Furthermore, it achieved a decrease in overtime hours for key quality management staff. This study demonstrated that a general-purpose business platform like M365 can effectively serve as a robust foundation for a QMS in a clinical laboratory. This user-led digital transformation provides a low-cost, sustainable, and effective alternative to specialized systems, offering a practical solution for laboratories seeking ISO 15189 accreditation.

I  はじめに

医療の質と安全性を保証する上で,臨床検査から得られる情報の精確性と信頼性は極めて重要である。これらを担保するには各種記録を含めた文書管理が重要な役割を果たす。さらに,これらを体系的に担保する仕組みが品質マネジメントシステム(quality management system; QMS)であり,その構築と維持活動は現代の臨床検査室の課せられた責務とも言える。臨床検査領域における国際的なゴールデンスタンダードとして,ISO 15189「臨床検査室―品質と能力に関する要求事項」が広く認知されている1),2)。本規格への適合は検査室の技術的能力と品質を客観的に証明するだけでなく,近年ではがんゲノム医療中核拠点病院の指定要件や診療報酬における国際標準検査管理加算の算定要件にも含まれるなど,その重要性が拡大している3),4)

しかしながら,本邦におけるISO 15189認定施設は2025年10月15日時点で315施設(健診機関を含む)に留まっている5)。医療法改正等により検体検査の精度の確保に係る基準が公示されているが,検体検査が中心であり具体的な内容に乏しい。それらの現状を踏まえ,ISO 15189の日本産業規格(Japanese Industrial Standards; JIS)化が進められている。本稿執筆時点では「JIS Q 15189」として発行される見込みであり,これにより日本の臨床検査の現場は大きな転換点を迎える6)。JIS化の最大の利点は,規格が安価であり,使いやすい和訳が付属する点にある。これまで認定取得のための高額な費用やISO 15189規格の難解さから認定取得を躊躇していた中小規模の検査室においても,規格への理解を深め,導入を目指すためのハードルが大幅に下がることが期待される。

JIS化に伴い,今後多くの検査室がQMSの構築,特にその根幹をなす「文書管理」という課題に直面することが予想される7),8)。ISO 15189は,方針,プロセス,手順書といったすべての文書と記録を体系的に管理することを厳格に要求している。従来の紙媒体や院内LANの共有フォルダを用いた管理だけでは,版数管理の煩雑さや承認プロセスの遅延,記録の不備,現場での最新版へのアクセス性欠如といった課題があった。また,ISO 15189準拠の文書管理システムはいくつかのメーカーより提供されているが,多額の導入や維持コストが必要な上,自施設に適合した機能を有しているかは不透明である。

当院検査部では2022年より業務効率化に積極的に取り組み,さまざまな施策を実施してきた。これらの取り組みにより臨床検査業務の多くは効率化が進んだ一方で,ISO 15189に係る文書管理は依然として課題であり,時間外業務の大きな負担となっていた。また,文書の管理や整合性の確保だけでなく,検査室スタッフへの周知・教育が十分に行き届きにくいという課題もあり,紙媒体による管理からの脱却が急務であった。

一部医療機関ですでに導入されているMicrosoft 365(M365)はOfficeアプリやコミュニーケーションツールを備えたプラットフォームである。当院ではこのM365を単なる業務用ツールではなく,QMSを支える基盤として活用することに着目した。本稿では当院で取り組んでいるM365の標準機能のみを用いて,ISO 15189:2022の厳格な文書管理要求事項に準拠した,効率的な文書管理システムを構築した事例を報告する。

II  文書管理システムの構築

本取り組みは,ISO 15189:2022の要求事項を満たす文書管理システムを当院で利用可能なM365環境内に構築した。システム構築にあたっては,専門のIT部門に依存するのではなく,臨床検査技師が主体となって実施した。本システムはM365を活用していることから,Document Management System using Microsoft 365 for Gifu;「DMS for Gifu」とした。

DMS for Gifuの構築にあたり,「ISO 15189主要スタッフの時間外勤務を30%削減する」という目標を掲げた。この数値は,導入前の業務量調査において,品質管理担当者の時間外業務の約30%が文書の差し替えや回覧,未読者への督促といった文書管理関連業務で占められていたという試算に基づいている。さらに,本システムは維持継続可能であることを基本コンセプトとし,M365標準アプリケーションのみを使用し,プログラムコードを使用しない,いわゆるノーコードでの構築を基本とした。

M365アプリケーションはMicrosoft ListsおよびSharePoint,Microsoft Teams,Power Automateを中核とし,周知教育・文書管理に重点を置いて構築を行った。いずれもユーザーアカウントによるセキュリティと機能制限付きリンクによる堅牢性の確保が可能である。

III  DMS for Gifuで構築した機能

1. 周知教育記録

当院では品質文書の周知や集合教育に時間がかかる上に,周知内容の理解度に個人差が生じるという課題があった。紙媒体による周知では当番制業務の影響や管理人数により,検査部全スタッフに一斉かつ確実に情報を伝達することが困難であった。また,一斉メールやTeamsでの情報配信では開封(既読)確認が難しいという現状であった。そこで,DMS for GifuではTeamsによる情報掲載に加え,既読確認通知を自動発出する仕組みを構築した。

Teams内に周知専用のチームを設定し,さらにチーム内に検査部門ごとなどの周知範囲に応じたチャネルを作成した。既読確認通知の自動発出はPower Automateを使用し,各チャネルの投稿をトリガーとしてTeams機能のひとつである承認アプリが発動し,事前に設定したアカウントへ既読確認通知として自動的に発出するフローを構築した(Figure 1)。既読状態はTeams内の承認アプリから確認可能であり,既読結果はPDFで出力も可能である。また,未読者のフォローアップも可能であり,ワンクリックで未読者へ再通知を発出することが可能である。通知はTeamsアプリとともにOutlookを介しメールでも発信される(Figure 2)。Teamsへの投稿は添付ファイルを含め,あらゆる形式の情報が掲載可能であり,いつでも振り返って閲覧可能であるため,理解度の向上にも寄与する。

Figure 1  周知記録の運用フロー
Figure 2  周知記録の通知例

なお,本システムの再現性を高めるための技術的要点として,Power Automateのフロー構築について補足する。周知通知フローは,「新しい投稿が作成されたとき(Teams)」をトリガーとし,「グループメンバーの取得(Office 365 Groups)」アクションで対象者リストを取得,その後「Apply to each(コントロール)」を用いて各メンバーに対して「承認の作成(Approvals)」アクションを実行する構造とした。これにより,プログラミングコードを記述することなく,論理フローの組み合わせのみで自動通知機能を実装した。

2. 文書管理

1) 文書管理ツールの構築

当院がISO 15189の品質文書として管理している記録として管理に難渋していた各種一覧について,Microsoft Listsによる管理機能を構築した。対象は内部文書一覧,外部文書一覧,品質記録一覧,機材リスト,ソフトウェア一覧,一次サンプル採取マニュアルや生物学的基準範囲および臨床判断値一覧,警戒値/異常値一覧などの検査項目に係る設定リスト,試薬・消耗品・標準物質・精度管理物質一覧とした(Table 1)。

Table 1 品質記録の統合

元の品質記録 統合先Lists
品質文書一覧表(内部文書) 内部文書リスト
品質文書点検実施報告書
品質文書一覧表(外部文書) 外部文書リスト
品質文書点検実施報告書
品質記録一覧表 品質記録リスト
品質文書点検実施報告書
機材一覧表 機材リスト
機材管理表
ソフトウェア一覧表
試薬一覧表 試薬・消耗品類リスト
消耗品一覧表
標準物質・精度管理物質一覧表
生物学的基準範囲・臨床判断値一覧 検査項目設定リスト
警戒値・緊急異常値一覧
TAT一覧
自動選択・報告設定一覧

これらの一覧は従来各検査部門で管理しており,様式となるエクセルを用いて作成を行っていた。従前の運用では最新様式を使用できていないことや様式が改変されてしまっている,多様な様式があり整合性が合わない,ファイル管理が適切でない,リアルタイムに更新できていないなどの課題があった。そのため,これらの一覧をMicrosoft Listsを用いて統廃合し一元管理することとした。Microsoft Listsは共有・共同編集においてエクセルよりも利便性が高く,アクセス権限管理やファイル格納,バージョン管理に優れている。さらには自動化ツールも設定可能であることから業務効率化に寄与する。また,初期設定の段階ではCSVファイルやエクセルファイルからのインポートも可能であり,既存ファイルからの移行も容易である。

2) 文書管理の実際

新しい文書や情報などを登録する場合にはMicrosoft Listsから作成したFormsを利用する。品質文書の添付ファイルを含めた情報をFormsから登録すると,自動的にカラム(新しいアイテム)が追加される。新しいアイテムが追加されると自動化ツールにより,指定した部門管理者にメールが自動送信されるよう設定しており,部門管理者が内容を確認し,確認日を入力する。さらに,部門管理者による確認日の入力により,文書管理事務局宛てに変更内容が自動メール送信され,文書管理事務局が確認日を入力することで,最新化とするという仕組みを構築した(Figure 3)。また,状態列と廃版日列を設けることで廃版日に応じて状態列が現行版から廃版に変わるように設定している。さらに,品質記録一覧には関連文書へのリンクを設定することで,記録の詳細情報のある品質文書の閲覧を簡単にできるように構築した(Figure 4)。

Figure 3  品質文書等の文書管理運用フロー
Figure 4  文書管理ツールの画面例

3) 一次サンプル採取マニュアルへの情報転用

診療科や患者向けの検査案内となる一次サンプル採取マニュアルはそれぞれの検査標準作業手順書との整合性が必須条件である。これまでは検査標準作業手順書の作成・改定に加え,基準範囲一覧などの各種一覧への転記,一次サンプル採取マニュアルへの転記など,整合性を取るべき箇所が点在していた。しかしながら,Microsoft Listsは印刷フォーマットの細かな設定ができないため,一次サンプル採取マニュアルとしての利用は適していない。そこで,本システムでは検査項目設定リストを情報源として利用し,Microsoft ListsからCSV形式でダウンロードしエクセルで加工することで整合性を確保するという方式を構築した。一次サンプル採取マニュアル修正の効率化を実現し,整合性の確保についても担保することができた。

3. ポータルサイトの構築

本システムは基本的にクラウドベースのデータ管理となるため,アクセス性の向上を目的として,SharePointによりポータルサイトの開設を行った。本ポータルサイトでは,周知記録ツールとなるTeamsへのリンクや各種Microsoft Listsへのリンクを配置した。Microsoft Listsへのリンクは,表示のみの権限,アイテム編集権限,リスト自体の編集権限の3種を準備し,目的に応じて使い分けができるように配置した。これらはアカウントごとにアクセス権限が設定できるため,認証なしに外部から閲覧はできない仕様となっている。

IV  DMS for Gifuの導入

1. 構築から導入までのスキーム

本システムの導入にあたり,当院では2026年3月にISO 15189更新審査を予定していたため,2025年度内完結のスキームを組んだ。導入にあたっては,ITが苦手なスタッフがいることも懸念されたため,まず現状の課題を4月期に抽出した。その結果,若手職員と比較して中堅以上の職員においてITツールへの苦手意識や操作への不安が懸念点として挙げられた。そこで対策として,1)入力画面を極力シンプルにし,選択式を多用することで入力負荷を軽減するUI(ユーザーインターフェース)設計,2)動画を用いた視覚的に理解しやすい操作マニュアルの整備,3)導入前の操作説明会およびハンズオン形式の勉強会の実施,という3点の教育・支援策を計画に盛り込んだ。これらの課題と対策を踏まえ,5月~7月で現行の一覧表の移行などを含めたシステム構築,8月に実用化第一弾として周知記録の稼働を開始した。その後,実用化第二弾として9月に各部門の管理者を中心に文書管理システムを公開した。

2. 導入効果

1) 周知教育の効率化

検査部全体が周知対象となる事項について,DMS for Gifu導入前(紙運用)と導入後(システム)で周知までに要した時間の比較を実施した。それぞれ任意の5件についての平均(標準偏差)は導入前16(9.1)日,導入後8(4.4)日と短縮傾向を認めた。比較対象数が少ないこともあり統計学的有意差には至らなかったものの(Studentのt検定p = 0.13),平均日数としては半減しており実務上の迅速化が示唆された(Figure 5a)。

Figure 5  DMS for Gifu導入の効果

a.周知教育効率化の効果

b.ISO 15189主要スタッフの超過勤務時間 短縮効果

c.検査部全体の超過勤務時間 短縮効果

導入前:2025年4月~6月

導入後:2025年7月~9月

2) 超過勤務時間の短縮

当院の品質マネジメントシステムの主要スタッフとなる品質管理主体3名および技術管理者3名の導入前(2025年4月~6月)および導入後(2025年7月~9月)の超過勤務時間の比較を行った。その結果,各3ヶ月間の超過勤務時間の平均(標準偏差)は導入前28(9.1)時間,導入後26(9.2)時間となり,統計学的有意差は認められなかった(Studentのt検定p = 0.80)(Figure 5b)。一方,検査部全体の超過勤務時間は導入前21(1.8)時間であったのに対し,導入後16(0.7)時間となり,統計学的有意差をもって削減されたことが確認された(Studentのt検定p = 0.031)(Figure 5c)。

V  考察

多くの医療機関で導入されている汎用的なプラットフォームであるM365の標準機能のみを用い,臨床検査技師が主体となってISO 15189:2022の要求事項に準拠した品質文書管理システム「DMS for Gifu」をノーコードで構築した。本システムの導入により,周知記録の効率化と時間外業務の削減を達成した。これは,高価な専用システムを導入することなく,持続可能かつ低コストでQMSのデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現できる可能性を示唆するものである。

ISO 15189が要求する厳格な文書管理は,版数管理の煩雑さ,承認プロセスの遅延,記録の整合性確保など,多くの課題を内包している。従来,これらの課題解決には多額の投資を伴う専用の文書管理システムが必要と考えられてきた7),8)。しかし,今回構築した「DMS for Gifu」は,M365のアプリケーション群(SharePoint, Lists, Teams, Power Automate)を組み合わせることで,これらの要求事項を効果的に満たせることを実証した。特に,Microsoft Listsによる各種一覧の一元管理は,複数のExcelファイルで管理されていたことによる様式の不統一や更新漏れ,整合性の欠如といった問題を根本的に解決した。Listsのバージョン管理機能はISO 15189で要求される「変更履歴の管理」を自動的に満たし,監査証跡としての信頼性を担保する。さらに,Power Automateを活用した承認ワークフローの自動化は,文書の作成・改定・廃止プロセスを迅速化・可視化し,人的エラーの介在を最小限に抑えることに寄与している9)。これは医療安全の観点からも極めて重要である。また,Teamsを基盤とした周知教育機能は,単なる情報伝達に留まらず,承認アプリとの連携により「誰が・いつ・何を確認したか」という教育記録をデジタルで確実に取得できる。これにより,従来の紙媒体の回覧で10日以上要していた周知プロセスが大幅に短縮されるとともに,周知の徹底度と記録の網羅性を飛躍的に向上させた。

特に今回は専門のIT部門に依存せず,臨床検査技師が主体となり,ノーコードでシステムを構築したことは大きい。これは,現場の業務を最も理解する者が自らの手で課題解決のためのツールを開発・実装する「現場主導のDX」の成功例と言える10)。こうしたシステムを構築・運用する人材の育成に関しては,高度なプログラミング技術よりも,業務フローを「いつ・誰が・何を」という要素に分解し,それをM365の機能(Lists,Forms,Power Automateなど)に当てはめる論理的構成力が重要となる。また,運用開始後においては,開発者自身が「ヘルプデスク」として機能し,ユーザー(スタッフ)からのフィードバックを即座に改修に反映させるサイクルを回すことが,現場の安心感とシステムへの信頼(教育効果)を高める上で不可欠であった。実際に本システムの導入によって文書管理や周知記録のプロセスが効率化された結果としては,品質管理主要スタッフの超過勤務時間は導入後3ヶ月で約7%の削減(p = 0.80)に留まり,当初目標とした30%削減には至らなかった。有意な減少が見られなかった要因としては,導入後わずか3ヶ月という短期的な評価であることやシステム導入初期のサポート業務が一時的に発生したことなどが影響した可能性がある。しかしながら,検査部全体では有意な削減(p = 0.031)が認められた。本システム導入効果だけではないが,間接的な業務効率化が部内全体に波及した結果,このような現場負担軽減という具体的な成果につながったと推察され,この効果がシステムの現場定着を促進し,継続的改善に寄与すると考えられる。今後予定されているJIS Q 15189の発行はこれまで認定取得に踏み出せなかった中小規模の検査室にとってもQMS構築の大きな契機となる可能性がある。そのような施設において,今回のM365活用モデルは初期投資を抑えつつ効果的な文書管理体制を構築するための実践的で有効な選択肢のひとつとなり得る。

今後の課題としては,まず監査における有効性の検証が挙げられる。本システムで管理される各種ログ(Listsバージョン履歴,Teams承認記録など)が実際の内部監査や外部審査において,客観的証拠としてどの程度通用するのかを評価していく必要がある。次に,さらなる機能拡張の可能性である。例えば,データ可視化ツールであるPower BIを連携させ,文書の閲覧頻度や改定サイクルを可視化・分析することで,形骸化している手順書や業務プロセスのボトルネックの特定など,より高度な品質改善活動への展開が期待される。

本取り組みは汎用的なビジネスツールが臨床検査室の品質管理基盤として十分に機能し得ることを示した。本報告がJIS化を契機に多くの検査室が直面する文書管理の課題に対する,ひとつの解決策として広く貢献できることを期待する。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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