医学検査
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症例報告
梅毒TP抗体陰性で脂質抗体法陽性の5例の解析
近藤 晃子田村 昌代黄江 康晴須賀原 亮高橋 陽平中桐 逸博今滝 修北中 明
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2026 年 75 巻 2 号 p. 407-412

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Abstract

過去5年間に当院の梅毒血清検査件数は9,110件あり,その中で非トレポネーマ抗体単独陽性5例(20~60歳代の男性3例および女性2例)を見出した。これら5例中3例は臨床所見とFTA-ABS-IgM法が陽性であったことから初期梅毒と診断された。残る2例は梅毒とは無関係の病状であり,治療のため多くの薬剤投与を受けていたことから血液中の何らかの成分が自動化RPR法の試薬と交差反応を引き起こしたものと思われた。自動化RPR法など非トレポネーマ抗体検査で反応を示した患者は,梅毒診断を確認するために必ずトレポネーマ抗体検査を受ける必要がある。非トレポネーマ検査の抗体価は疾患活動性と相関している可能性があり,治療への反応をモニタリングするために用いられる。梅毒血清反応は稀に偽陽性や偽陰性を引き起こす。梅毒の診断は臨床所見や感染履歴が重要であるが,非トレポネーマ抗体検査とトレポネーマ抗体検査のそれぞれのメリットを活かすことで梅毒の診断効率は高まると考えられる。

Translated Abstract

The number of syphilis tests conducted at our hospital over the past five years was 9,110, with 5 cases (three males and two females aged between their 20s and 60s) being positive for STS alone. The breakdown of the clinical diagnoses for these 5 cases is as follows: 3 cases were diagnosed with primary syphilis based on the characteristics of clinical findings and positive results from the FTA-ABS IgM test, while 2 cases were considered to be unrelated to syphilis, and it was thought that some components in their blood caused a cross-reaction. Patients with a reactive non-treponemal antibody test (e.g., automation rapid plasma reagin [RPR] law) should always receive a treponemal antibody test to confirm the syphilis diagnosis. Non-treponemal test antibody titers might correlate with disease activity and are used for monitoring treatment response. The syphilis serological test can rarely cause false positives or false negatives. The diagnosis of syphilis is important based on clinical findings and infection history, but it is believed that utilizing the advantages of both non-treponemal antibody tests and treponemal antibody tests can enhance the efficiency of syphilis diagnosis.

I  はじめに

従来から梅毒血清検査は,梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum; T. pallidum)抗原に対するTP抗体法と非トレポネーマ抗原によるSTS(serological test for syphilis)の1つであるRPR法(rapid plasma reagin test)の2法が用いられ,梅毒の確定診断やスクリーニング検査として広く利用されている1)

特に脂質抗体の存在を確認するRPR法は,生物学的偽陽性反応(biological false positive; BFP)の問題があるが,梅毒の早い段階から陽転し,梅毒の炎症がおさまると数値が低下するため,早期診断や治療効果の判定に用いられる2)

2019年4月から2024年3月までの5年間での当院の来院時における梅毒検査件数は,9,110件であった。その結果をFigure 1に示す。STS(非トレポネーマ抗体)単独陽性は5例(0.05%)であった。

Figure 1  過去5年間の梅毒検査成績(2019年4月~2024年3月)

この5例について脂質抗体価の推移を中心に梅毒感染の活動性の有無,治療効果の判定および病気の進行度などを検討した。なお,RPR法はラテックス比濁法であるデンカ株式会社LASAYオートRPR(自動化RPR法),TP抗体は化学発光免疫測定法によるアボットジャパン株式会社Alinity TPAb(TP抗体法)で実施し,精査は外注によるFTA-ABS (fluorescent treponemal antibody-absorption test)-IgM法(FTA-ABS-IgM法)および積水メディカル株式会社RPRテスト“三光社”(RPRカードテスト)を用いた。

II  症例

来院時のSTS単独陽性5例の概要をTable 1に示す。各症例の梅毒関連検査の結果推移をFigure 2に示す。

Table 1 来院時におけるSTS単独陽性5例の概要

症例No. 年齢 性別 主訴・症状 臨床診断 脂質抗体価(R.U.)
1 40歳代 男性 発熱,臀列部に鱗屑,亀頭部に潰瘍形成,鼠径部リンパ節腫脹 梅毒,性器ヘルペス 3.4
2 60歳代 男性 陰部潰瘍,両下肢部左右対称に褐色斑 梅毒 2.4
3 50歳代 女性 陰部潰瘍,鼠径部リンパ節腫脹 梅毒,性器ヘルペス 2.9
4 60歳代 男性 来院時感染症スクリーニング 末期腎不全,糖尿病 650
5 20歳代 女性 来院時感染症スクリーニング 緊張型頭痛 1.8

*これら5症例のHIV抗原抗体検出法はすべて陰性であった。

Figure 2  STS単独陽性5例の梅毒関連検査結果の推移

1. 症例1

40歳代,男性。性器ヘルペス疑いで近医から当院へ紹介受診となる。発熱を伴い,亀頭部に1円玉大の潰瘍形成を認める。問診の結果,1カ月前に訪れた性風俗店の利用が感染の原因の1つと考えられた。

来院時の梅毒検査の結果,TP抗体は陰性であったが,脂質抗体価は3.4 R.U.(RPR UNIT)で陽性であった。1週間後の再来院時に精査目的でFTA-ABS-IgM法を実施したところ,陽性となったため初期梅毒と診断された。その後,アモキシシリン(AMPC)投与が開始されたが,筋肉痛や頭痛の他に陰部硬結や鼠径部リンパ節腫脹などの症状がみられた。来院1カ月後に脂質抗体(自動化RPR法)は陰性となった。2カ月後の検査ではTP抗体は陽転し,5カ月後には亀頭部に小結節が出現した。HPV(human papilloma virus)ウイルスDNA(16型,18型,その他ハイリスクグループ)を行ったところ,ハイリスクの16型と18型が検出され,尖圭コンジロームが判明した。直ちに液体窒素療法が開始された。

2. 症例2

60歳代,男性。陰部痂皮に2 mm大の潰瘍を伴い,両下肢部には左右対称に褐色斑が出現したため梅毒疑いと診断された。問診の結果,1カ月前に訪れた性風俗店の利用が感染の原因と考えられた。来院時の脂質抗体価は,2.4 R.U.で陽性であった。5日後に精査目的でFTA-ABS-IgM法を実施し,陽性となったため初期梅毒と診断された。直ちにAMPC投与が開始された。また,他の性感染症の可能性もあったため,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus; HSV)特異抗原検査を蛍光抗体法(fluorescent antibody technique; FA)により実施した。その結果,HSV1型および2型が検出された。2カ月後にTP抗体は陽転したが,脂質抗体は治療により陰性となった。

3. 症例3

50歳代,女性。約1カ月前に複数のパートナーと性交渉あり。陰部疼痛が出現し近医を受診した。その際,鼠径部リンパ節腫脹,陰部に2 cm大の潰瘍を認め性感染症が疑われた。種々の感染症検査を行った結果,性器ヘルペスを疑われ当院へ紹介受診となった。当院で再度梅毒検査を実施したところ,TP抗体は陰性であったものの脂質抗体価は2.9 R.U.で陽性であった。1週間後の精査によるFTA-ABS-IgM法は陽性となったことから症状と合わせて初期梅毒と診断され,AMPC投与が開始された。1カ月後に来院し,陰部の潰瘍は消失したが鼠径部リンパ節の腫脹は認められた。脂質抗体価は,2.8 R.U.で初診時と変化はなかったが,TP抗体は2.8 S/CO(Sample RLU/cut off)と陽転した。5カ月後には鼠径部リンパ節腫脹がなくなり,脂質抗体価は陰転したが,TP抗体価は10.3 S/COと上昇した。

4. 症例4

60歳代,男性。患者は,糖尿病を伴う末期腎不全患者で透析や多数の治療薬剤が投与されていた。3年前に行った術前の検査では,梅毒検査は陰性であったが,今回の検査で脂質抗体のみ650 R.U.の高力価の陽性がみられた。脂質抗体価が非常に高いためRPRカードテストを実施した。プロゾーン域の反応も考慮し,生理食塩水による10倍から1,000倍までの希釈検体について測定したが,いずれも陰性であった。性感染症の所見がみられないことやRPRカードテストが陰性であることから,自動化RPR法による脂質抗体は偽陽性反応であると考えられた。なお,入院1カ月後の再検査では自動化RPR法は陰性となった。

5. 症例5

20歳代,女性。緊張型頭痛の患者で,TP抗体が陰性にもかかわらず,脂質抗体価が1.8 R.U.と低力価の陽性となった。確認のため,RPRカードテストを実施したところ,結果は陰性であった。2週間後の再検査では自動化RPR法による脂質抗体とTP抗体は共に陰性であった。

III  考察

梅毒は,性的な接触などで感染が生じるT. pallidumが原因の性感染症(sexual transmitted infection; STI)の1つで,病期により症状の出現する場所や内容が異なるのが特徴である。特に第1期梅毒ではT. pallidumが侵入した部位にしこりや潰瘍が生じることがあり,鼠径部リンパ節に腫脹がみられることもある。びらんあるいは潰瘍病変の場合,HSVの病変とも類似することから積極的に梅毒血清検査(RPR法,TP抗体法)を実施することが必要である3)

RPR法では,T. pallidum感染によって破壊された組織部分(リン脂質)に対する抗体を捉えることから感染後早期に破壊された組織の反応をみることができる4)。RPR法は,梅毒以外に自己抗体が出現する自己免疫疾患などにおいても陽性となることがあり,BFP(biological false positive)として解釈されている。T. pallidumに曝露すれば,生体内で免疫応答が働くことでTP抗体が産生される。特にIgM型TP抗体は感染1週後の早期から血中に出現することになる5),6)。一方で,T. pallidumによる細胞破壊で表出したリン脂質に対する脂質抗体は感染約2週後から上昇するといわれている5),6)。但し,患者自身の免疫応答の差異や梅毒治療薬の早期服用の有無などで抗体出現の時期は異なってくるという報告もある7)

当院での過去5年間の来院時におけるSTS単独陽性は5例で,今回の症例1から3の3例は初期(第Ⅰ~Ⅱ期)梅毒と考えられた。これら3例は,いずれも来院当初は症状などから性器ヘルペスが疑われ,問診の結果から約1カ月前のコマーシャルセックスワーカーとの接触や不特定パートナーとの性交渉が原因であることが判明した。従来から性感染症は梅毒に罹るリスクが高まるとの報告があり3),7),これら3例も該当する結果となった。主な症状は,陰部の潰瘍形成が3例すべてにみられた他,2例に鼠径部リンパ節腫脹,1例に陰部疼痛がみられた。特に症例1ではAMPC投与の際,T. pallidumが体内で死滅することにより発熱や倦怠感,頭痛などが出現するスピロヘータ感染症特有のJarisch-Herxheimer反応8)が出現した。

これら3例の梅毒血清反応では脂質抗体価がいずれも2.4~3.4 R.U.で陽転して間もないことが判明し,感染時期の推測にも役立つこととなった。また,これら3例では精査目的でFTA-ABS-IgM法を行い陽性が確認され,直ちにAMPC投与が開始された。来院後TP抗体陰性であった3例は1~2カ月後に陽転した。AMPC投与などによる治療効果を見据えるうえで脂質抗体価の減少は炎症反応消失の指標となる。

これら3例は,治療により1~5カ月で脂質抗体は陰転化していった。梅毒診療ガイドラインによれば,自動化RPR法では治癒の判断として治療前値のおおむね1/2の数値までの低下をうたっている9)。性感染症を伴ったこれら3例は自動化RPR法による脂質抗体価が来院時に陽性にもかかわらず2.4~3.4 R.U.と低値で,比較的早く陰性化したのは急性感染が判明後,直ちに治療薬が投与されたことが要因と考えられた。

糖尿病を伴う末期腎不全の症例4と緊張型頭痛の症例5では,共に自動化RPR法は陽性にもかかわらず精査目的で実施したRPRカードテストは両者とも陰性であった。特に症例4では自動化RPR法の測定値が異常な高値であり,希釈による再検査時には測定値がばらつく傾向がみられた。これは治療のための多量の薬剤成分などが反応系に影響を及ぼした可能性が考えられた。また,症例5では頭痛薬などが服用されているが,症例4および症例5において自動化RPR法のみが陽性となった要因は不明である。

BFPは梅毒感染がないにもかかわらず脂質抗原に対する共通の抗体が産生される現象で,高齢者や妊婦,自己免疫疾患などでみられる。症例4および症例5は,RPRカードテストで陰性の結果であることからBFPとはいえない。自動化RPR法のみ陽性であったことから,自動化RPR法において免疫比濁法に起因する非特異反応が出現したものと考えられた。免疫比濁法と酵素免疫測定法(enzyme immunoassay; EIA)を比較した場合,EIA法は検体中の抗原と特異抗体の結合を標識抗体の酵素活性で定量するのに対し,免疫比濁法は抗原と抗体が結合し濃度として検出できる凝集体となり濁度として測定するものである10)。免疫比濁法で凝集体になる要因は解明されていないが,被検体中の何らかの成分により,反応液中のpHやイオン強度の相違などにより凝集体へ成長し反応系に影響を及ぼしたと考えている。間接蛍光抗体法を原理とするFTA-ABS-IgM法は,初期梅毒感染を判断するうえで有用な検査法であるが,我々は以前に全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)の症例でFTA-ABS-IgM法の非特異反応を経験している11)。SLE症例の血清中の自己抗体が塗抹されたTP Nichols株抗原に非特異的に反応し,さらにFITC(fluorescein isothiocyanate)標識抗ヒト免疫グロブリン抗体が自己抗体に反応することでビーズ状の蛍光発色(beading phenomenon)を呈するものであった。FTA-ABS-IgM法においても非特異反応が生ずることを念頭におくべきである。

RPR法による脂質抗体価の推移は活動性の指標となるが,初期梅毒第1期では,陽転していない症例もあるので注意が必要となる。梅毒が活動性か陳旧性かの評価が困難な場合は,TP抗体と脂質抗体価を2~4週間後に再測定することが推奨され12),活動性梅毒と診断された場合は保険適用となったHIV抗原抗体検査の実施が望まれる2),3),13)

梅毒の診断は,感染機会の有無,皮膚や粘膜の症状,そして梅毒抗体検査の結果を組み合わせて決定される14)。梅毒抗体検査は脂質抗体とTP抗体の2種類の組み合わせで,いずれも自動化法が主流となっている。脂質抗体を検出するRPR自動化法が陽性判定となった場合は,治療前の定量値として治療効果判定に利用することも可能となる。臨床症状と検査結果に相違がある場合は,2~4週間後に梅毒抗体検査を再検査することで診断の確定にも繋がる。無症状であっても梅毒感染が疑わしい場合は,感染からの期間や性風俗業との関連などの状況,梅毒抗体定量値の推移を含めて総合的な判断が必要となる。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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