2026 年 75 巻 2 号 p. 263-272
ムーコル症(mucormycosis)は,ムーコル目(Order Mucorales)に属する菌種によって引き起こされる真菌感染症である。ヒトの主要な病原体は,Rhizopus属が多く,Mucor属,Rhizomucor属およびLichtheimia属(旧Absidia属)が次いで多い。近年,Cunninghamella属の報告が増えてきている。今回,我々は臨床分離株と土壌からの分離株の計43株をムーコル(ケカビ)目に属する菌種の簡易同定と抗真菌薬感受性について検討した。属レベルにおける同定は真菌蛍光染色KBM GPフルオファンギー染色液キットの真菌染色液のみを使用した方法と従来法(ラクトフェノール・コットン青染色)の2つの手法を用いた。前者は真菌の細胞壁に存在する多糖類に特異的に結合するため,胞子嚢や胞子嚢胞子がよく染まり,後者は真菌の構造体を染めるため,菌種を包括的に特徴付けることができた。酵母真菌薬剤感受性キット(ASTY)を応用した抗真菌薬感受性はアンホテリシンB(AMPH-B)が良好な結果を示したが,フルコナゾール(FLCZ)およびボリコナゾール(VRCZ)は耐性を示した。イトラコナゾール(ITCZ)は一部のムーコル目に属する真菌に感受性を示した。ミカファンギン(MCFG)とカスポファンギン(CPFG)は耐性を示した。菌種により治療効果および予後が異なる可能性が示唆されており,可能な限り属レベルで同定することが望ましいと考えられた。
Mucormycosis is a fungal infection caused by species belonging to the order Mucorales. The primary pathogens in humans are the genus Rhizopus, followed by the genera Mucor, Rhizomucor, and Lichtheimia (formerly Absidia). Recently, reports of the genus Cunninghamella have increased. In this study, we examined 43 isolates from clinical samples and soil for species identification and antifungal susceptibility testing. We identified the isolates at the genus level using two methods: one that used only the fungal stain from the KBM GP Fluofungi Stain Kit for fluorescent staining of fungi and one that used the conventional method of lactophenol cotton blue staining. The former method specifically binds to polysaccharides in fungal cell walls, staining sporangia and sporangiospores effectively. The latter method stains fungal structures, enabling comprehensive characterization of each species. Amphotericin B (AMPH-B) showed promising antifungal susceptibility results when the Yeast Fungal Susceptibility Kit (ASTY) was used, while fluconazole (FLCZ) and voriconazole (VRCZ) exhibited resistance. Itraconazole (ITCZ) was susceptible to some fungi belonging to the order Mucorales. Micafungin (MCFG) and caspofungin (CFPG) were resistant. Treatment efficacy and prognosis were found to differ depending on the bacterial species. Thus, identifying the species at the genus level was considered desirable whenever possible.
ムーコル目に属する菌種は,土壌などの自然環境中に広く分布し,穀物・果物・野菜などの植物に腐生菌として存在する。また,空調機器や水回り環境などにも生息している。ムーコル目菌種には600以上の菌種が含まれているが,ヒトに感染するのは一部の少数菌である。ヒトへの感染は稀であるが,病原性は概して弱く,宿主の免疫能が著しく低下した免疫不全患者にムーコル症を発症するが,一度感染が成立すると治療が困難な場合が多い。感染経路は主に胞子の吸入により肺あるいは鼻から感染する。ムーコル症の病型には,鼻脳型,肺型,消化管型,皮膚型および播種型に分類されるが,前2型が多い1)。肺感染症は最も進行が早く,血管浸潤性があり短期間で広範な組織壊死を引き起こし,感染宿主では致命的となる。ヒトの主要な病原体は,Rhizopus属が多く,Mucor属,Rhizomucor属およびLichtheimia属が続き,すべてのムーコル症の80%を占めている2)。近年,Rhizopus属に次いでCunninghamella属の報告が増えてきており,その増加が問題となってきている3)。ムーコル目菌は血管侵襲性であるが,血液培養検査で陽性の結果が得られることは比較的少ない。特に,38℃以上で発育できないMucor属の検出率が低いとされている。ムーコル目のグラム染色は,ほとんどグラム陰性に染まり,染色した菌要素は幅が広く,細胞壁が薄い無隔壁性(coenocytic cell)の菌糸で特徴的なリボン状を形成する(Figure 1)。また,培養は3~5日間,炭酸ガスまたは好気培養で,灰色の綿菓子様に平板培地を速やかに埋め尽くし,培地面下に根が食い込んだように発育する特徴を有する。グラム染色および培養菌の肉眼的所見からムーコル目であることを推定することは可能である。しかし,同定はコロニーの肉眼的性状やスライド培養による光学顕微鏡下で菌糸の形態学的性状に基づいて分類・同定されるが,形態からの同定は必ずしも容易ではなく,熟練が必要である。また,スライド培養法は有用な方法ではあるが,培養に時間を要し,きれいな標本が作製されないと形態からの同定が容易ではないことがある。今回我々は,ムーコル(ケカビ)目に属する菌種の簡易同定法と抗真菌薬感受性について検討したので報告する。

2015年1月から2020年1月の5年間に臨床分離保存株および土壌中から分離した環境由来保存株(Mucor 14株,Rhizopus 9株,Rhizomucor 7株,Cunninghamella 6株,Lichtheimia 5株およびSyncephalastrum 2株の計43株を対象とした。臨床分離株の内訳は,喀痰由来(Rhizopus 4株,Rhizomucor 3株,Cunninghamella 3株,Mucor 2株,Syncephalastrum 2株,Lichtheimia 1株),血液由来(Rhizopus 2株,Mucor 1株),皮膚由来(Mucor,RhizomucorおよびLichtheimiaの各1株)の計21株と環境(土壌)由来株の内訳は,(Mucor 10株,Rhizopus,Rhizomucor,LichtheimiaおよびCunninghamellaの各3株)の計22株である。本検討は,国立病院機構大阪刀根山医療センター倫理委員会の承認(承認番号:TNH-P-2025010)を得て実施した。
保存株はサブロー・デキストロースCG寒天培地(BD)に接種し,35℃,3~5日間,炭酸ガス培養を行った。
1. 属レベル同定法かき取り標本(tease mounting)による形態学的同定
標本の作製法
1) 従来法(wet mount method,ウエットマウント標本)(鉤型)L型白金耳で培地上に綿菓子様に発育した菌糸を引っかけるように極少量をかき取りラクトフェノール・コットン青染色液(武藤化学)と混ぜ合わせカバーガラスを被せて,直接顕微鏡下で特徴的な構造を観察した。
2) 蛍光染色法(fungal fluorescent staining method)同様に極少量をかき取り真菌蛍光染色KBM GPフルオファンギー染色液キット(コージンバイオ社)の真菌染色液(対比染色液は使用しない)と混ぜ合わせカバーガラスを被せ,蛍光顕微鏡下で特徴的な構造を観察した。蛍光染色法の原理は真菌細胞壁に存在する多糖類(キチンやキトサン)に特異的に結合する蛍光増白剤を用いて染色する方法である。
3) スライドカルチャー法(slide culture method)スライドカルチャー法による形態学的同定は,かき取り標本での同定が困難な場合に実施した。
4) 属レベルにおけるムーコル目菌種の同定ポイント本菌種の特徴は,①菌糸の幅が広く,②隔壁に乏しく(無隔性菌糸),③不規則で垂直に近い分岐する菌糸を確認することが重要である。著者はAspergillus属菌の同定は分生子柄の形状(足の部分)から菌種を同定しているが4),ムーコル目菌種は胞子嚢の形状(頭の部分)と胞子嚢胞子の形状などから同定している5)。ムーコル目の各菌種の属レベルにおける同定は以下に記した形態学的性状から推定した(Table 1)。
| 属:genus | 仮根/stolon(*) | 対生(**) | 胞子嚢柄の分岐 | 柱軸 | 胞子嚢下嚢apophysis | 胞子嚢の形 | 胞子嚢胞子の形状 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Mucor | −/− | ― | + | + | − | 円形 | 真珠様 |
| Rhizopus | +/+ | 対生 | − | + | − | 円形(大) | そら豆様 |
| Rhizomucor | +/+(不明瞭) | 非対生 | + | + | − | 円形 | 小円形 |
| Lichtheimia | +/+(不明瞭) | 非対生 | + | + | 円錐形 | 洋梨形 | 小円形 |
| 属:genus | 仮根/stolon | 対生(**) | 胞子嚢柄の分岐 | 小嚢 | 小歯状突起 | 小胞子嚢 | 胞子嚢 |
| Cunninghamella | +/+ | 非対生 | + | + | + | 円形 | 円形 |
| Syncephalastrum | +/+ | 非対生 | + | + | − | 円形 | 指の形,筒状 |
*:ほふく枝(stolon)は仮根から仮根へとつる状に伸びている菌糸のこと。
**:仮根がstolonをはさんで胞子嚢柄と対立すること。
胞子嚢柄は分岐し,先端には円形の胞子嚢が見られる。成熟すると外膜の胞子嚢壁が破れ,円形(真珠様)の胞子嚢胞子が散布され,胞子嚢の内部に突出した胞子嚢柄の先端部にドーム様構造物(柱軸:columella)「茸形」が明瞭に見られる。柱軸は,胞子嚢柄から胞子嚢内に突き出した構造で,球形または卵型のものが多く,その形状は種の特徴となる。胞子嚢柄先端の柱軸基底部(付着部)に襟状に残った胞子嚢膜の一部(collarまたはcollarette)が特徴である。Mucorは,ほふく糸またはつる(stolon)と仮根(rhizoid)の存在が認められないことからRhizopus,RhizomucorおよびLichtheimiaと区別することができる。胞子嚢胞子は,Mucor(大きく,真珠様),Rhizomucor(Mucorより小さい),Rhizopus(そら豆様)の形状から区別することができる。Mucorの生育温度(温度耐性)は37℃まで生育可能であるが,他の菌種は38℃以上でも生育が可能であるため,鑑別に利用することができる。
② Rhizopus属胞子嚢柄は褐色非分岐性で長く,胞子嚢柄直下(基部)に植物の根のように分岐している太い栄養菌糸=仮根(rhizoid)構造が見られる。仮根は「留め金」となり芋のつるのように伸びていく菌糸で,Rhizopusに顕著である。伸びた先々で胞子嚢柄を形成して繁殖していく。胞子嚢柄と仮根が対生する(胞子嚢柄と仮根はstolonをはさんで対立しているので対生と呼ばれる)。大きな胞子嚢から胞子嚢胞子が飛び出し,空の胞子嚢または胞子嚢が逆さまになった「クラゲの傘」のように残っているところが見られる。
③ Rhizomucor属胞子嚢柄は長く伸び,先端に近いところで分岐している。胞子嚢柄先端部の胞子嚢は扁平様「風船形」,胞子嚢胞子もMucorに比べて小さい。ほふく糸またはつる(stolon)と仮根(rhizoid)が見られるが,未成熟様に見られる。
④ Lichtheimia属胞子嚢はやや小型の洋梨形を呈し,胞子嚢柄先端の胞子嚢への移行部(柱軸の直下部)は,漏斗状に肥大した胞子嚢下嚢(アポフィシス:apophysis)が見られる。
⑤ Cunninghamella属胞子嚢柄は分岐しながら伸び,各先端は膨らんだ頂嚢を形成し,頂嚢表面には多数の小歯(denticle)が見られ,その上に1個の胞子嚢胞子を含有する小胞子嚢を形成する。特に,肺感染症の場合にAspergillus属菌との形態学的な鑑別が重要である。一見,Aspergillus属に似ているが,注意して観察すると頂嚢の上のフィアライドではないことや無隔壁および胞子嚢柄が長いことから鑑別ができる。
⑥ Syncephalastrum属胞子嚢柄は分岐しながら伸び,その先端部が球形に膨らんだ小嚢を形成し,小嚢の上には指の形状をした管状(棒状)の分節胞子嚢が見られる。内部には円形の胞子の連鎖を含んでいる。外見は胞子連鎖状となるが,発生学的には胞子嚢である。一見,Aspergillus nigerによく似ているが,注意して観察すると管状の胞子嚢であり,フィアライドが存在していないことから鑑別ができる。
2. 抗真菌薬感受性試験抗真菌薬感受性試験はAntifungal Susceptibility Testing of Yeast(酵母真菌薬剤感受性キットASTY:極東製薬工業)を応用し,微量液体希釈法で最小発育阻止濃度(MIC)値を測定した。
ムーコル目菌の抗真菌薬感受性試験は,CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)からApproved Standard-Second Edition(M38-A2, 2008)が利用されている。今回我々はCLSI法と異なる以下の方法でAMPH-B,フルシトシン(5-FC),FLCZ,ITCZ,VRCZ,MCFGおよびCPFGの7薬剤についてMIC値の測定を実施した。
1) ムーコル目菌の菌液作成および接種法ムーコル目菌の薬剤感受性検査の方法については,医学検査2021.1月号の「黒色真菌症(Exophiala属)の簡易検査法と薬剤感受性試験の検討」に記載した方法で実施した6)。感受性の最終判定は,培養2~3日後に発育コントロールウェルが赤紫に呈色後にすべての薬剤を判定した(Figure 2)。但し,発育不良の場合は,培養を4日間まで延長した。

C:陽性コントロール MCZ:感受性は除外
主要4菌属(Mucor, Rhizopus, Rhizomucor, Lichtheimia)と(Cunninghamella, Syncephalastrum)属の2菌属は,各菌要素の詳細について形態学的特徴を示した性状(Table 1)と蛍光染色法および従来法を併用することで菌種を包括的に特徴付けることができた(Figure 3)。

(a)Mucor属(ラクトフェノール・コットン青染色)×100,柱軸基底部に襟状に残った胞子嚢膜の一部(collar)を認める。(b)Mucor属(ラクトフェノール・コットン青染色)×400。(c)Mucor属(蛍光染色)×400,柱軸が「茸形」(b, c),柱軸基底部に襟状のcollarを認める(c)。(d)Rhizopus属(ラクトフェノール・コットン青染色)×100。(e, f)Rhizopus属(蛍光染色)×100,胞子嚢柄は非分岐性で,胞子嚢柄直下に仮根が見られる(d下,e下,f上)。胞子嚢が逆さまになった「クラゲの傘」様に見られる(e上)。(g)Rhizomucor属(ラクトフェノール・コットン青染色)×100。(h)Rhizomucor属(ラクトフェノール・コットン青染色)×200。(i)Rhizomucor属(蛍光染色)×100。(j)Rhizomucor属(蛍光染色)×200,胞子嚢柄は,分岐性で長く伸びた形態を示す(g, h)。胞子嚢柄先端部の柱軸は扁平で,「風船形」(i, j)。(k)Lichtheimia属(ラクトフェノール・コットン青染色)×100。(l)Lichtheimia属(蛍光染色)×100,胞子嚢はやや小型の洋ナシ形で,胞子嚢柄先端の胞子嚢への移行部は,漏斗状に肥大した胞子嚢下嚢(apophysis)を認める(k, l)。(m, n)Cunninghamella属(ラクトフェノール・コットン青染色)×200。(o, p)Cunninghamella属(蛍光染色)×200,胞子嚢柄は分岐性。各先端は膨らんだ頂嚢を形成し,胞子嚢胞子を含有する小胞子嚢を認める(m, n)。頂嚢表面に多数の小歯(p)が見られ,その上に胞子嚢胞子を含有する小胞子嚢(o)を認める。(q)Syncephalastrum属(ラクトフェノール・コットン青染色)×400。(r)Syncephalastrum属(蛍光染色)×200,先端部は球形に膨らんだ小嚢を形成する。小嚢の上には指の形状をした管状の胞子嚢(r)があり,内部に円形の胞子の連鎖が見られる(q)。
AMPH-Bは0.125~2 μg/mLおよびITCZは0.5~8 μg/mLの範囲のMIC値を示した。ITCZのMIC値が2~8 μg/mLを示したMucor属9/14株(64%),Rhizopus属5/9株(56%)が耐性域を示した。その他の菌種はITCZに感性域を示した。AMPH-BのMIC値が2 μg/mLを示したCunninghamella属は3/6株(50%)認めた。その他のアゾール系薬とキャンディン系抗真菌薬はすべて耐性域を示した(Table 2)7)。臨床分離株と環境由来株の間で薬剤感受性結果に大きな差は認められなかった。
| N = 14 | ≤ 0.03 | 0.06 | 0.125 | 0.25 | 0.5 | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 | ≥ 32 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| AMPH-B | 9 | 3 | 2 | |||||||||
| 5-FC | 14 | |||||||||||
| FLCZ | 14 | |||||||||||
| ITCZ | 2 | 7 | 2 | 3 | ||||||||
| VRCZ | 14 | |||||||||||
| MCFG | 14 | |||||||||||
| CPFG | 14 |
| N = 9 | ≤ 0.03 | 0.06 | 0.125 | 0.25 | 0.5 | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 | ≥ 32 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| AMPH-B | 4 | 5 | ||||||||||
| 5-FC | 9 | |||||||||||
| FLCZ | 9 | |||||||||||
| ITCZ | 4 | 5 | ||||||||||
| VRCZ | 9 | |||||||||||
| MCFG | 9 | |||||||||||
| CPFG | 9 |
| N = 7 | ≤ 0.03 | 0.06 | 0.125 | 0.25 | 0.5 | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 | ≥ 32 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| AMPH-B | 1 | 4 | 2 | |||||||||
| 5-FC | 7 | |||||||||||
| FLCZ | 7 | |||||||||||
| ITCZ | 5 | 2 | ||||||||||
| VRCZ | 7 | |||||||||||
| MCFG | 7 | |||||||||||
| CPFG | 7 |
| N = 6 | ≤ 0.03 | 0.06 | 0.125 | 0.25 | 0.5 | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 | ≥ 32 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| AMPH-B | 1 | 2 | 3 | |||||||||
| 5-FC | 6 | |||||||||||
| FLCZ | 6 | |||||||||||
| ITCZ | 1 | 5 | ||||||||||
| VRCZ | 6 | |||||||||||
| MCFG | 6 | |||||||||||
| CPFG | 6 |
| N = 5 | ≤ 0.03 | 0.06 | 0.125 | 0.25 | 0.5 | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 | ≥ 32 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| AMPH-B | 3 | 2 | ||||||||||
| 5-FC | 5 | |||||||||||
| FLCZ | 5 | |||||||||||
| ITCZ | 5 | |||||||||||
| VRCZ | 5 | |||||||||||
| MCFG | 5 | |||||||||||
| CPFG | 5 |
| N = 2 | ≤ 0.03 | 0.06 | 0.125 | 0.25 | 0.5 | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 | ≥ 32 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| AMPH-B | 1 | 1 | ||||||||||
| 5-FC | 2 | |||||||||||
| FLCZ | 2 | |||||||||||
| ITCZ | 1 | 1 | ||||||||||
| VRCZ | 2 | |||||||||||
| MCFG | 2 | |||||||||||
| CPFG | 2 |
ムーコル目(接合菌:zygomycetes)は,接合胞子zygosporeとよばれる特徴的な有性胞子を形成し,幅広い無隔菌糸として知られる下等真菌群である。分類上は接合菌門Zygomycotaに位置づけられている。近年,遺伝子の塩基配列分析の進歩によって,従来4つの門に分類されていたが,現在は7つの門(子嚢菌門,担子菌門,ツボカビ門,コウマクノウキン門,ネオカリマスティクス門,グロムス門,微胞子虫門)および4つの亜門(ケカビ亜門,ハエカビ亜門,キックセラ亜門,トリモチカビ亜門)に変更された(Table 3)。この4つの亜門のうち,接合菌門はムーコル(ケカビ)亜門(Mucormycotina),エントモフトラ(ハエカビ)亜門(Entomophthoramycotina)に再分類された8)。ムーコル亜門,エントモフトラ亜門による感染症はそれぞれムーコル症,エントモフトラ症と呼ばれる。エントモフトラ症は非常に稀であり,ムーコル症がほとんどであることから,接合菌症とムーコル症を同義として扱われていた。しかし,2007年に生物学的手法を用いた系統分類により接合菌門がなくなり,接合菌症という用語は使われず,ムーコル症という用語で統一された。ムーコル目(Order Mucorales),ムーコル科(Family Mucoraceae)の菌種は,Rhizopus属,Mucor属,Rhizomucor属およびLichtheimia属のいずれかに限定される。最多はRhizopus属で,以上の4種で80%を占めるが,近年,Family CunninghamellaceaeのCunninghamella属の報告が増加している2)。ムーコル症は特に免疫不全の患者において,重篤な感染症であり,我が国で見られる原因菌のほとんどがムーコル目に属する菌種である。臨床的にはFamily MucoraceaeおよびFamily Cunninghamellaceaeが主な日和見感染症の原因菌である。エントモフトラ目(Order Entomophthorales)には(Family Entomophthoraceae)および(Family Basidiobolaceae)があり,それぞれConidiobolus属およびBasidiobolus属が含まれる9)。エントモフトラ症は,主に米南部,オーストラリア,インド南部,およびメキシコなどの熱帯から亜熱帯地域で最も一般的に見られ,土壌や腐敗した植物に広く分布している。エントモフトラ目に属する菌種よる感染部位は鼻粘膜および皮下組織にほぼ限局され,通常は日和見感染の形態をとらないとされている。ムーコル目菌種はアスペルギルス属,クリプトコックス属と同様に外因性真菌症の原因菌である(内因性真菌症はCandida albicansを代表とする酵母様真菌である)。全菌種とも自然界では腐生的に生息している。土壌生息菌でもあり汚染された植物や施設内の空調機器などから感染を引き起こすとされている。土壌,植物に腐生する胞子を吸入することにより呼吸器系に不顕性感染を起こしたのち,宿主の防御機能・免疫機能が低下するに伴い呼吸器系臓器の破綻および全身に播種する重篤な状態を引き起こす。肺ムーコル症の予後は極めて不良で,ほとんどの場合,急速な進行を特徴とする。死亡率は,感染部位や宿主の状態によって異なるが,死因としては菌の播種を経て敗血症に至るものが多い。
| 目:order | 科:family | 属:genus | 主要な菌種 |
|---|---|---|---|
| ムーコル(ケカビ亜門) Mucorales |
ムーコルMucoraceae | (ケカビ)Mucor | |
| (クモノスカビ)Rhizopus | R. oryzae | ||
| (ケカビ)Rhizomucor | |||
| (ユミケカビ)Lichtheimia | L. corymbifera | ||
| Apophysomyces | A. elegans | ||
| カニングハメラCunninghamellaceae | (クスダマカビ)Cunninghamella | C. bertholletiae | |
| シンセファラストルムSyncephalastraceae | (ハリサシカビモドキ)Syncephalastrum | S. racemosum | |
| サクセナSaksenaceae | Saksenaea | S. vasiformis | |
| エントモフトラ(ハエカビ亜門)Entomophthorales | エントモフトラEntomophthoraceae | Conidiobolus | |
| バジジオボラスBasidiobolaceae | Basidiobolus |
ムーコル症原因菌は,数菌種知られており,これらは亜門のなかの2つのorderに含まれる10のgenusのいずれかに所属する。
肉眼的な鑑別法として,ムーコル目菌種を平板培地に培養すると,3~5日後に白色から灰白色の羊毛状集落がシャーレ一杯に発育する。発育集落をよく観察すると,細かく散在する黒色斑点が認められる。これは菌糸が空中へ細長く伸びる胞子嚢柄の先端に胞子嚢胞子で満たされた胞子嚢である。Rhizopus属,Rhizomucor属およびLichtheimia属は菌糸が速やかに発育し,シャーレの壁をよじ登り,シャーレ全体が菌糸体で充満される。これらはほふく枝またはつる(stolon)と仮根との間をつないで芋のつるのように伸びているためである。仮根は「留め金」となりstolonを寒天表面やシャーレの側壁および蓋に付着させている。Mucor属はstolonおよび仮根をつくらないので,発育もやや遅く,シャーレの縁に付着あるいはよじ登ることはない。これら菌種の発育性状からMucor属とそれ以外の菌種を肉眼的に鑑別予測ができると思われる。但し,5日以上培養を続けるとMucor属もシャーレの縁まで増殖してくるので注意が必要である(Figure 4)。

ムーコル目の属レベル同定法は,蛍光染色法および従来法を併用することで,スライド培養まで実施することなく,比較的容易に菌種同定が可能であった。各菌種の形態学的性状を把握する必要があるが,日常検査において分離頻度の多い,Rhizopus属およびCunninghamella属を最初にターゲットとして検索することが望ましいと思われる。また,Mucor属は38℃以上で生育しないため,発育温度の確認(生育温度試験:growth temperature test)を同時に進めておくと,より鑑別が容易になる。先に述べたように,ムーコル目の菌種は胞子嚢の形状(頭の部分)と胞子嚢胞子の形状などの性状が同定のキーポイントになると考えられる(Figure 3)。
ASTYを応用した抗真菌薬感受性試験は,酸化還元反応呈色色素resazurinを利用したcoloriometric methodで,真菌の発育したウェルの色調が青からピンク色に変化することにより終末点を判定するため,目視判定が容易であった。CLSI法に準拠した糸状菌の抗真菌薬感受性試験は,保険収載されていないこと,接種菌液の調製に吸光度の測定が必要であること,菌種ごとに接種菌液の分生子量や培養時間が設定されているが,同一菌種であっても菌の発育状況により前培養日数や最小作用濃度(minimum effective concentration; MEC)およびMIC値判定時期が異なるなど,手技が煩雑であり感受性検査を実施できる施設は限られている。今回の検討は,標準法と異なり経験に基づく方法であるが,ASTYによるムーコル目菌種の感受性検査手技は簡便である。また,ムーコル目菌の各抗真菌薬に対するブレークポイントは設定されていないため,MIC値の結果は参考値ではあるが,感染症診療に貢献できるものと思われる4),6)。
ムーコル亜門の細胞膜のステロールの主はエルゴステロールであり,エントモフトラ亜門では24-メチルコレステロールと言われている10)。ムーコル亜門に対しては,エルゴステロールに直接結合し,細胞膜を障害するポリエン系抗真菌薬が有効である。作用機序はエルゴステロールに特異的に結合して細胞膜の膜透過性を亢進し,細胞内の恒常性の崩壊により抗真菌作用を示す。治療薬はAMPH-BあるいはL-AMB(Liposomal amphotericin Bリポソーム製剤)の点滴静注がムーコル症の治療薬として承認されている唯一の抗真菌薬である。ポリエン系抗真菌薬の作用機序が酵素阻害でないことから,他の抗真菌薬に比べて耐性誘導が起こりにくい特徴を有する。近年,Cunninghamella属の報告が増えてきており,3/6株(50%)がAMPH-BのMICが2 μg/mLを示したことから,低感受性傾向であることに留意する必要がある(Table 2)7)。
アゾール系抗真菌薬はエルゴステロール合成を担うラノステロール14α-デメチラーゼが阻害されて細胞膜のエルゴステロール合成を中断することにより抗真菌活性を示す。FLCZおよびVRCZは,in vitroでムーコル目(ケカビ)に対して活性を示さない。ITCZは,Lichtheimia属に対していくつかのin vitro活性を持つ最初に市販されたアゾール系薬であると考えられていたが,ムーコル症の管理におけるその役割は臨床例から分離された最も多いRhizopus属に対する活性がないため,制限されている。最近,造血系腫瘍患者の侵襲性アスペルギルス症に対するVRCZ予防投与により,ムーコル目(ケカビ)による感染症が報告されている。VRCZ投与中のブレイクスルー真菌感染症では,ムーコル症を想起する必要がある11)。
真菌の細胞壁は,多糖類から構成されており,強靭な網状構造を形成している。その骨格は,3種類の多糖成分(グルカン,キチン,マンナン)から構成され,グルカン(β-D-グルカン)がその大部分を占めている。β-D-グルカンは,β-1.3結合とβ-1.6結合からなるGlucoseのホモ重合体で,β-1.3結合の骨格にβ-1.6分岐を有する型が一般的である。ムーコル目菌の細胞壁成分は特殊でありキチン(chitin)ではなくキトサン(chitosan)で構成されているためβ-1.4結合からなるN-acetylglucosamineのホモ重合体である。エキノキャンディン系抗真菌薬は細胞壁の主要構成成分であるβ-(1→3)-D-glucanの合成を阻害することで抗真菌活性を示す。ムーコル目菌はβ-D-glucan合成に関わるβ-(1→3)-D-glucanを主要な成分として含まないことや,β-D-glucanの産生量が少ないため,CPFG,MCFGともに単独では原則的に抗真菌活性を示さない。
AMPH-Bよりも安全な抗真菌薬であるVRCZおよびキャンディン系薬は効果がないため,ムーコル症に対する治療選択肢は限られている12)。ムーコル目菌はほとんどの抗真菌薬に対する感受性がないため,病原真菌としてムーコル目菌を特定することは,感染症を迅速かつ正確に管理するために不可欠である。
ムーコル目菌種は培地面の発育性状が他の糸状菌と異なることが鑑別点になる。属レベルにおける同定は通常の微生物検査室でも十分可能であるため,簡易同定法は簡便な方法であると考えられた。しかし,菌種レベルまでの同定は,専門的研究機関に依頼する必要がある。微量液体希釈法(ASTY)を用いた抗真菌薬感受性試験は,抗真菌薬がどの濃度で効果的であるかを示す指標であり,MIC値が低いほど,効果が期待できることから適切な治療薬を選択するために重要である。ムーコル目の治療薬は,2020年にアゾール系抗真菌薬であるポサコナゾール(PSCZ),2022年にイサブコナゾール(ISCZ)がムーコル症の治療薬として承認されたが,日本では薬剤感受性試験用プレートが市販されていないので,両薬剤も測定できるプレートが発売されるのを期待したい。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。