医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
技術論文
20歳代健常人における脂肪肝診断のための超音波減衰イメージングの最適カットオフ値の検討
阿部 拓也戸澤 祐貴川村 宏樹渡邊 博昭藤井 豊
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2026 年 75 巻 2 号 p. 289-296

詳細
Abstract

近年,若年層における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の増加が報告されており,その早期発見と非侵襲的なスクリーニング法の確立が課題となっている。ATI(attenuation imaging)は脂肪蓄積に伴う超音波減衰を定量化する新たな指標として注目されているが,そのカットオフ値は主に壮年期集団に基づいて設定されており,20歳代における妥当性は検証されていない。本研究では,若年健常人におけるATIの脂肪肝スクリーニング指標としての有用性を評価するとともに,この年代に適した最適なATIカットオフ値を明らかにすることを目的とした。平均年齢20.0歳の大学生230名を対象に,B-mode超音波検査により脂肪肝の有無を評価し,ATIとの関連を横断的に検討した。脂肪肝は日本超音波医学会の判定マニュアルに基づき診断した。ROC解析の結果,ATIの最適カットオフ値は0.58 dB/cm/MHzであり,感度75.0%,特異度100.0%,AUCは0.938と極めて高い識別能を示した。さらに多変量ロジスティック回帰分析では,ATIは脂肪肝の独立したリスク因子であり(OR = 66.48, 95%CI: 30.99–101.97, p < 0.001),BMIや肝機能が正常でもATI値の上昇は脂肪肝の有病率と強く関連した。本研究は,若年層におけるATIの診断精度を初めて明らかにし,壮年期の基準値とは異なる年齢特異的カットオフ値の必要性を示したものであり,健診におけるスクリーニング法としての実用性が示唆された。

Translated Abstract

Attenuation imaging (ATI) is an ultrasound-based technique for quantifying hepatic fat content. While optimal cutoff values have been proposed for middle-aged populations, their applicability to individuals in their twenties remains uncertain. To evaluate the diagnostic performance of ATI and determine an appropriate cutoff value for hepatic steatosis in healthy individuals in their twenties. We enrolled 230 healthy university students (mean age 20.0 years) who underwent abdominal ultrasound screening. Hepatic steatosis was diagnosed using B-mode ultrasound based on the Japanese Society of Ultrasonics in Medicine criteria: (1) increased liver echogenicity relative to the renal cortex, (2) blurring of intrahepatic vessels, or (3) increased posterior echo attenuation. ROC analysis was performed to determine the optimal ATI cutoff. Multivariate logistic regression was used to evaluate ATI as an independent predictor, adjusting for BMI, liver enzymes (ALT, AST, γ-GTP), alcohol intake, and exercise habits. The optimal ATI cutoff was 0.58 dB/cm/MHz, yielding a sensitivity of 75.0%, specificity of 100.0%, and AUC of 0.938. Multivariate analysis confirmed ATI as an independent predictor of hepatic steatosis (OR = 66.48, 95%CI: 30.99–101.97, p < 0.001), even in participants with normal BMI and liver function. ATI demonstrated high diagnostic accuracy for hepatic steatosis in individuals in their twenties. An age-specific lower cutoff value may enhance screening sensitivity. ATI offers a practical, non-invasive tool for early detection of hepatic steatosis in routine health assessments for this demographic.

I  背景

非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease; NAFLD)は,過栄養や運動不足などの生活習慣に起因して発症する肝疾患であり,先進国を中心に世界的な増加傾向が報告されている1)。2020年代以降,その概念はより包括的な「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease; MASLD)」へと再定義され,臨床現場においても注目されている2)。MASLDは初期には無症状で経過することが多く,適切なスクリーニングを経ずに肝炎・線維化・肝硬変へと進行する症例も少なくないため,早期発見と介入の必要性が指摘されている3)

このような背景のもと,画像診断技術による肝脂肪蓄積の客観的評価が求められている。腹部超音波検査は非侵襲的かつ安価で簡便なスクリーニング手法として広く用いられているが,B-modeによる脂肪肝の評価は観察者の主観や経験に依存しやすく,再現性に限界がある4)。近年,超音波減衰イメージング(attenuation imaging; ATI)は,肝組織における超音波の減衰係数を定量化することで脂肪蓄積の程度を評価する新たな手法として開発され,その有用性が報告されている5),6)

これまでにATIを用いた研究は中高年や肥満・糖尿病患者を対象とした報告が中心であり,若年健常人を対象とした検討は少ない。若年層は生活習慣病のリスクが相対的に低く,肝線維化や炎症の影響も軽微であることが多いため,脂肪蓄積に由来するATI変化をより純粋に反映できる可能性がある。しかしながら,この年代におけるATIの基準値や脂肪肝診断のためのカットオフ値は明確にされていないのが現状である。

本研究では,20歳代の健常人を対象として超音波減衰イメージング(ATI)による肝脂肪蓄積の定量評価を行い,B-mode画像に基づく脂肪肝群との比較により,脂肪肝診断におけるATIの最適カットオフ値を明らかにすることを目的とした。本研究の成果は,若年健診における非侵襲的スクリーニングの精度向上に資するものと期待される。

II  対象・方法

1. 対象

本研究は,2023年6月から2025年6月の期間に,成人ボランティアを対象として実施した。すべての対象者から文書による同意を得ており,新潟医療福祉大学倫理委員会(承認番号:19271-240514)の承認を得た。除外基準は,①過去に脂肪肝と診断されたことがある者,②現在肝疾患の治療中である者,③飲酒習慣(週1回以上の飲酒)を有する者,④腹部超音波検査が技術的に困難であった者とした。最終的に,19~21歳の健常成人計230名(男性100名,女性130名)が本研究の対象となった。

2. 脂肪肝の判定

脂肪肝の診断には,日本超音波医学会の腹部超音波検診判定マニュアル7)に準拠し,肝実質の高エコー化(腎皮質より明らかに高エコー),肝内血管の不明瞭化,および深部エコー減衰の増強のうち,いずれかを明瞭に認めた症例を脂肪肝と判定した。

3. ATI測定法

ATIの測定にはCanon Aplio me(Canon Medical Systems, Japan)を用い,PVU-375BTコンベックスプローブにより肝右葉に対して肋間走査を行った。測定は,肋間走査にて右葉の肝実質に対し,呼気時に5回連続で実施し,得られた5値の平均値をATI値とした。ROI(region of interest)は,明らかな血管構造やアーチファクトを避けて設定し,深さ3–6 cmの範囲内で測定した。各対象者について呼気停止状態でATI値を5回連続で取得し,R2値が0.8未満の測定は無効として除外した。5回の有効な測定値に対し,変動性の指標としてIQR/median(四分位範囲 ÷ 中央値)を算出し,この値が30%を超える場合は測定の信頼性が低いと判断し,再測定を行った。最終的には,R2 ≥ 0.8かつIQR/median ≤ 30%を満たすデータの平均値をATI値として解析に用いた。なお,ATI測定と脂肪肝のB-mode判定ともに10年以上の腹部超音波領域に従事した者1名(日本超音波医学会認定・腹部領域超音波検査士資格保持者,医学博士)による単独施行である。加えて,相互ブラインドとして,脂肪肝のB-mode判定とATI測定は別セッションで実施した。ATI測定セッションではB-modeの診断結果や評価記録にはアクセスせず,測定時のB-mode像は位置決めのためのナビゲーションにのみに使用し,主観的バイアスの介入を防止した。これらの標準化された測定手順,信頼性基準の導入,および測定者のブラインド化により,測定間のばらつきや主観的判断の影響を最小限に抑えるよう配慮した。

4. 血液評価

肝機能指標として,脂肪肝および非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における肝細胞障害のスクリーニングおよび重症度評価に広く用いられている8)ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ),AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ),γ-GTP(ガンマグルタミルトランスフェラーゼ)を測定した。採血および測定は,ATI測定と同日実施は義務付けず,ATI測定後14日以内に実施した。採血は血清分離管(凝固促進剤入り)を用いて実施し,採取後すぐに3,000 rpmで10分間遠心分離を行った。分離後,血清をそれぞれ−80℃で保存した。測定には,東ソー株式会社製の自動分析装置Biolis 30iを使用した。測定法内および測定法間の変動係数(CV)は,ALT;3.5–7.8%,AST;2.7–5.8%,γ-GTP;3.1–6.5%であった。

5. 統計解析

統計解析は,IBM SPSS Statistics 27(IBM Corp., Armonk, NY, USA)を用いて実施した。有意水準はすべて両側検定とし,p < 0.05を統計学的有意とした。連続変数の正規性はShapiro-Wilk検定により検定し,正規分布と判断された項目は平均 ± 標準偏差(mean ± SD),非正規分布の項目は中央値[四分位範囲(IQR)]で記述した。脂肪肝群と非脂肪肝群の群間比較には,正規分布に従う変数についてはStudentのt検定を,非正規分布の場合はMann-WhitneyのU検定を用いた。カテゴリ変数の比較にはχ2検定またはFisherの正確確率検定を用いた。ATIの脂肪肝検出能を評価するため,ROC(receiver operating characteristic)解析を実施し,曲線下面積(area under the curve; AUC)を算出した。最適カットオフ値はYouden Indexにより導出し,それに基づきATI値を「高ATI群(ATI ≥ カットオフ値)」および「低ATI群(ATI < カットオフ値)」に二分化した。両群における脂肪肝有病率の比較にはχ2検定を用いた。さらに,ATIの脂肪肝に対する独立した影響を検討するため,多変量ロジスティック回帰分析を実施した。従属変数は脂肪肝の有無とし,共変量としてBMI,ALT,AST,γ-GTP,運動習慣の有無,および飲酒習慣(頻度・量)を調整した。各因子のオッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。また,ATIと脂肪肝との関連における性差の影響を探索的に評価するため,男女別にATIの高低群での脂肪肝割合を比較した。

III  結果

1. 被験者の特徴

被験者の特徴をTable 1に示す。被験者は,230名(男性100名,女性130名)であった。年齢の中央値[四分位範囲]は20[19–21]歳であり,ほぼ均質な年齢分布であった。BMIの中央値[四分位範囲]は23.1[20.8–25.0]kg/m2であり,標準体型であった。ATIの中央値[四分位範囲]は0.48[0.47–0.54]dB/cm/MHzであった。血液評価項目の中央値[四分位範囲]はALT 22.5[13.8–25.0]U/L,AST 22.3[12.1–30.0]U/L,γ-GTP 32.3[21.6–44.6]U/Lであった。

Table 1 被験者の特徴

全体 脂肪肝群(n = 24) 非脂肪肝群(n = 206) p
男性(%) 100(43.5%) 6(25.0%) 94(45.6%)
女性(%) 130(56.5%) 18(75.0%) 112(54.4%)
BMI(kg/m2 23.3[20.8–25.0] 22.0[19.8–24.7] 23.4[21.1–25.0] 0.204
ATI(dB/cm/MHz) 0.48[0.47–0.54] 0.58[0.58–0.62] 0.50[0.44–0.52] < 0.001
ALT(U/L) 22.5[13.8–25.0] 34.5[18.7–35.0] 21.3[13.6–25.0] < 0.001
AST(U/L) 22.3[12.1–30.0] 39.8[30.2–40.0] 20.9[21.6–29.5] < 0.001
γ-GTP(U/L) 32.3[21.6–44.6] 39.5[21.6–44.6] 20.8[10.0–31.1] < 0.001

性別,BMI,肝機能関連指標(ALT, AST, γ-GTP)を示す。BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で算出した。ALT,AST,γ-GTPの異常値は,日本肝臓学会の基準に基づいて定義した。値は,連続変数については中央値(四分位範囲),カテゴリー変数についてはn(列内%)で示した。

2. 脂肪肝の有無によるATIの比較

脂肪肝の有無によるATIの分布を検討した(Figure 1)。脂肪肝群におけるATIの中央値は0.58 dB/cm/MHzであり,非脂肪肝群の中央値0.50 dB/cm/MHzを示した。この群間差についてMann-WhitneyのU検定を行った結果,p < 0.05と統計学的に有意な差を認めた。

Figure 1  脂肪肝の有無によるATIの比較

中央線は中央値を,箱は第1~第3四分位範囲(IQR)を示す。ひげは最小値と最大値を表す。脂肪肝群は非脂肪肝群に比べてATIが有意に高かった(*:p < 0.05,Mann-WhitneyのU検定)。

3. ATIのROC解析

ATIによる脂肪肝検出性能をROC解析により評価した。その結果,AUCは0.94(95%信頼区間:0.89–0.98)であり,高い診断精度を示した(Figure 2)。Youden Indexにより導出された最適カットオフ値は0.58 dB/cm/MHzであった。この値における感度は75.0%(95%CI: 55.1–88.0%),特異度は100.0%(95%CI: 98.2–100.0%),陽性的中率は100.0%,陰性的中率は97.2%,正診率は97.4%であった。

Figure 2  ATIと脂肪肝のROC曲線

AUCは0.938(95%信頼区間:0.886–0.982)と非常に高い識別能を示した。最適カットオフ値は0.58 dB/cm/MHzであり,感度75.0%(95%CI: 55.1–88.0%),特異度100.0%(95%CI: 98.2–100.0%)の診断性能が得られた。

4. ATI高低による脂肪肝割合の比較

ROC解析により得られたカットオフ値(0.58 dB/cm/MHz)に基づき,ATIを「高ATI群(≥ 0.58)」および「低ATI群(< 0.58)」に分類し,脂肪肝の有病率を比較した(Table 2)。

Table 2 ATI最適カットオフ値で群分けした時の脂肪肝割合

脂肪肝
n(%)
非脂肪肝
n(%)
合計
n
高ATI群(≥ 0.58) 17(100) 0(0.0) 17
低ATI群(< 0.58) 7(3.3) 206(96.7) 213
合計 n 24 206 230
χ2p値) 147.38(p < 0.001)

ROC解析により決定した最適カットオフ値(0.58 dB/cm/MHz)を用い,被験者を高ATI群(≥ 0.58)と低ATI群(< ‍0.58)に分類し,脂肪肝の割合を比較した。高ATI群では全例が脂肪肝と判定され,低ATI群では3.3%の被験者が脂肪肝とされた。両群間に統計学的に有意な差が認められた(χ2 = 147.38, p < 0.001)。

高ATI群(n = 17)では,全員(100.0%)が脂肪肝であったのに対し,低ATI群(n = 213)では7名(3.3%)のみが脂肪肝と判定された。この差は統計学的に有意であった(χ2 = 147.38, p < 0.001)。

5. ロジスティック回帰分析

脂肪肝のリスク因子としてのATIの独立性を検証するため,共変量を調整した多変量ロジスティック回帰分析を行った(Figure 3)。その結果,ATIは脂肪肝と有意な関連を示し,オッズ比は66.48(95%CI: 30.99–101.97, p < 0.001)であった。加えて,AST(OR = 1.23, 95%CI: 1.10–1.37, p < 0.001),BMI(OR = 0.66, 95%CI: 0.47–0.88, p = 0.017)も有意な関連を示した。一方,ALT(p = 0.533)およびγ-GTP(p = 0.094)は統計的に有意でなかった。

Figure 3  ATIおよび関連因子の脂肪肝リスクに対する調整後のオッズ比

ATIおよびBMI,ALT,AST,γ-GTPについて,共変量を調整したロジスティック回帰分析の結果を示している。ATIのオッズ比は66.48(95%CI: 30.99–101.97, p < 0.001),BMIのオッズ比は0.66(95%CI: 0.47–0.88, p = 0.017),ASTのオッズ比は1.23(95%CI: 1.10–1.37, p < 0.001)であり,脂肪肝の発生リスクと有意な関連を示した。

6. 性別によるサブ解析

ATIの高低群における脂肪肝割合を性別で比較した(Table 3)。

Table 3 高ATI群 vs 低ATI群の男女別脂肪肝割合の比較

Sex ATI Group 脂肪肝
n(%)
χ2 p
Male 高ATI群(≥ 0.58)
n = 6
6(100) 83.06 < 0.001
Male 低ATI群(< 0.58)
n = 94
0(0)
Female 高ATI群(≥ 0.58)
n = 11
11(100) 67.09 < 0.001
Female 低ATI群(< 0.58)
n = 119
7(5.88)

ROC解析により決定した最適カットオフ値(0.58 dB/cm/MHz)を用い,被験者を高ATI群(≥ 0.58)と低ATI群(< ‍0.58)に分類し,男女別に脂肪肝の割合を比較した。男性では,高ATI群において6名中6名(100.0%)が脂肪肝とされたのに対し,低ATI群では94名中0名(0.0%)であった(χ2 = 83.06, p < 0.001)。女性では,高ATI群において11名中11名(100.0%),低ATI群において119名中7名(5.88%)が脂肪肝とされた(χ2 = 67.09, p < 0.001)。

男性では,高ATI群(n = 6)全員が脂肪肝と診断され,低ATI群(n = 94)では脂肪肝該当者はいなかった(χ2 = 83.06, p < 0.001)。

女性では,高ATI群(n = 11)全員が脂肪肝とされ,低ATI群(n = 119)では7名(5.88%)が脂肪肝であった(χ2 = 67.09, p < 0.001)。

7. 連続変数としてのATIのリスク評価

ATIを連続変数として取り扱ったロジスティック回帰モデルを構築し,脂肪肝発生確率の予測曲線を作成した(Figure 4)。共変量としてBMI,ALT,AST,γ-GTPを調整した。

Figure 4  ATIの増加に伴う脂肪肝発生リスク

ATIを連続変数とし,共変量を調整した場合でも,ATIが高くなるにつれ脂肪肝の発生確率が上昇する傾向が確認された(擬似R2 0.640,AIC 67.36)。

ATIの上昇に伴い,脂肪肝の発生確率は増加する傾向を示し,カットオフ値(0.58 dB/cm/MHz)における予測脂肪肝確率は13.8%(95%CI: 3.4–42.5%)であった。モデルの適合度指標は,McFaddens pseudo-R2 = 0.640,AIC = 67.36であり,良好なモデル適合を示した。

IV  考察

本研究では,20歳代の健常人230名を対象に,ATIを用いて超音波B-modeによる脂肪肝の有無との関連を検討した。その結果,ROC解析によりATIの最適カットオフ値は0.58 dB/cm/MHzと算出され,感度75.0%,特異度100.0%,AUC 0.938という極めて高い識別能を示した。さらに,このカットオフ値を用いた群分類(高ATI群vs低ATI群)においても,脂肪肝の有病率は統計学的に有意に異なり,ATIが20歳代における脂肪肝スクリーニングの有効な指標となる可能性が示唆された。ATIの診断精度に関する先行研究では,壮年期において0.67 dB/cm/MHz前後が最適なカットオフ値とされている9),10)。本研究で得られた値(0.58 dB/cm/MHz)はそれよりも有意に低く,年齢に伴う肝組織の構造的・病態的変化が影響している可能性がある。一般に,加齢に伴って肝脂肪蓄積は進行し,慢性炎症や線維化を伴う症例が増加することで11),12),超音波減衰係数は上昇する傾向がある13)~15)。一方,本研究対象のような年代では生活習慣病の影響や慢性肝疾患の罹患率が低く,脂肪蓄積が比較的軽度であることが多い。こうした背景から,ATIによる脂肪肝検出において,交絡因子を統計的に調整した多変量ロジスティック回帰分析においても,ATIは脂肪肝の独立したリスク因子であり(OR = 66.48, 95%CI: 30.99–101.97, p < 0.001),BMIや肝機能が正常であってもATI値が上昇している被験者では脂肪肝の存在率が有意に高かった。さらに,ATIを連続変数として扱った場合でも,ATI値の上昇に伴って脂肪肝のリスクは有意に増加し(OR = 79.4, 95%CI: 34.3–183.9, p < 0.001),ATIは単なるスクリーニング閾値としてだけでなく,肝脂肪蓄積の程度を定量的に反映する指標としての有用性も示唆された。このことから,ATIはリスク予測や経時的モニタリングに応用可能な指標となり得る。また,B-modeによる視覚的評価にATIを組み合わせることで,脂肪肝の早期病変や潜在的変化を捉える感度が向上することを示しており,若年層健診におけるスクリーニングツールとしての実用性が示唆される。

また,一部の被験者においてATI値がカットオフ未満でありながら,B-modeで脂肪肝と判定された症例が認められた。本研究での脂肪肝判定が超音波のB-modeのみで行われているため,これらは肝実質の高エコー化のみを呈しており,脂肪蓄積がごく軽度であったか,あるいはB-mode上の視覚的変化が他の要因(肝内構造の個人差,血流変化など)による可能性もある16),17)。これらのことから,B-modeとATIを併用することで,互いの限界を補完しあう包括的な評価が可能になると考えられる。さらに,ATIを連続変数として扱ったロジスティック回帰モデルによるリスク評価では,ATI値の上昇に伴い脂肪肝の発生確率が漸増する傾向が確認され,0.58 dB/cm/MHzの値における脂肪肝発生確率は64.7%(95%CI: 47.3–78.9%)と算出された。この結果は,ROC解析による二値分類では捉えきれない,連続的スケールとしてのATIのリスク評価の有用性を示しており,将来的には脂肪肝リスク予測モデルへの応用も期待される。

性別の影響について,高ATI群における脂肪肝割合は男女ともに100%であったが,低ATI群では男性に脂肪肝は認められなかったのに対し,女性では7名(5.9%)が脂肪肝と診断された。これは,エストロゲンの抗脂肪肝作用や脂肪蓄積パターンの性差に関する先行報告と一致する16),18)。今後は,ATIの基準値を性別ごとに層別化することで,より精度の高い脂肪肝診断が可能になると考えられる。

一方で,本研究にはいくつかの限界も存在する。本研究はB-modeによる脂肪肝判定を基準としており,MRI-PDFFや肝生検といったゴールドスタンダードとの比較は行っていない。また,ATI測定と同日採血ではないため,肝酵素の短期的な個体内変動により関連が過小評価(回帰希薄化)される可能性がある。加えて,本研究は横断的デザインであるため,ATIと脂肪肝進展との因果関係は明らかではない。さらに,本研究は単施設・単民族集団を対象としており,外的妥当性を高めるためには施設間の差異を考慮した多施設研究や,より多様な背景を持つ集団を対象とした検証が求められる。

以上より,ATIは若年層における非侵襲的・迅速な脂肪肝スクリーニング法として有用であり,今後は年齢・性別を考慮したカットオフ値の層別化,および組織学的検証を通じた標準化が求められる。健診などの一次予防段階において,B-modeとATIの併用は,脂肪肝の早期発見と生活習慣改善のきっかけとなる実用的なアプローチとなる可能性がある。

V  結語

本研究により,20歳代においてATIは超音波B-mode所見と有意に関連し,脂肪肝スクリーニングの有効な指標となる可能性が示された。ATIの最適カットオフ値は0.58 dB/cm/MHzと算出され,年齢層別の基準設定と外的妥当化が今後の課題である。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

文献
 
© 2026 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top