医学検査
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訪問診療および往診における超音波検査の地域差と利用傾向の分析―全国レセプト・特定健診等情報データベース(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan; NDB)を用いた多面的評価―
板橋 匠美明神 大也西岡 祐一横地 常広小野 孝二今村 知明
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2026 年 75 巻 2 号 p. 344-355

詳細
Abstract

在宅医療の現場において,非侵襲的で即時性に優れた超音波検査は有用な診断補助手段であるが,その全国的な活用実態は十分に把握されていない。本研究は,経年変化の医科外来レセプトデータを用いて,訪問診療および往診における超音波検査の実施状況とその地域差・経年変化を定量的に分析した。都道府県別・診療形態別に算定割合を算出した結果,同一診療報酬体系下にもかかわらず,200倍を超える地域差が存在していた。また,全ての都道府県で訪問診療または往診における超音波検査の算定は確認されたが,その頻度には大きな差があり,特に活用頻度の高い地域と限定的な地域との差が明確となった。地域ごとの医療体制や診療スタイルの違いが背景にあると考えられる。本研究は,在宅医療の質向上と医療資源の適正配置に向け,地域ごとの実態把握と有効活用事例の共有の重要性を示すものである。

Translated Abstract

In the field of home medical care, ultrasonography—being non-invasive and offering excellent immediacy—is a useful diagnostic adjunct; however, its nationwide utilization status has not been fully clarified. This study quantitatively analyzed the implementation status, regional differences, and temporal changes of ultrasonography during home visits and house calls using medical outpatient receipt data from fiscal years 2020 to 2023. Calculation of utilization rates by prefecture and type of medical service revealed regional disparities exceeding 200-fold, despite a uniform fee-for-service system. Although ultrasound examinations were billed in all prefectures for either home visits or domiciliary care, significant differences in frequency were observed, particularly between regions with high and limited utilization, suggesting that differences in regional healthcare systems and clinical practice styles underlie these variations. This study highlights the importance of understanding regional actual conditions and sharing effective utilization cases to improve the quality of home medical care and ensure appropriate allocation of medical resources.

I  はじめに

近年,我が国では超高齢社会の進展に伴い,住み慣れた地域で療養生活を継続するための在宅医療の重要性が高まっている1)。とりわけ,訪問診療や往診といった在宅医療サービスの質の確保と医療資源の適切な活用が求められており,厚生労働省の医療費適正化計画においても,地域差の是正と効率的な医療提供体制の構築が重点課題として掲げられている2)

このような中,在宅医療においては身体所見や問診だけでは判断が困難なケースも多く,迅速な病態把握のための補助診断手段として,携帯型超音波診断装置の活用が注目されている3)。超音波検査は非侵襲的かつ即時性に優れた検査手法であり,在宅医療の場においても心機能評価や胸腹水の確認など,臨床的意義の高い情報を提供することが可能である。

一方で,訪問診療・往診時の超音波検査の実施状況については,現時点で全国的な実態や地域差の詳細な把握は進んでおらず,医療資源の投入量や活用実態に関する科学的根拠の整備が求められている4)

本研究は,2020年度と2023年度の医科外来レセプト情報を用い,在宅医療における超音波検査の実施状況について,都道府県別・診療形態別の実態を比較することを目的とした。特に,訪問診療および往診における超音波検査の算定割合の地域差を明らかにすることで,在宅医療の質の確保と医療資源の適正配置に向けた今後の課題について考察するものである。

なお,本研究の一部は,厚生労働科学研究費補助金「レセプト情報・特定健診等情報を用いた医療保健事業・施策等に資する研究」(研究代表者:今村知明)における分担研究の成果の一部を再解析・再構成したものである。

II  方法

1. データソース

本研究では,「厚生労働省が実施する特定の研究目的に基づくレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan; NDB)第三者提供制度により提供を受けたデータ」5)を使用し,2020年度および2023年度の医科外来(入院外)におけるレセプトデータを対象とした。特に,在宅医療などに係る訪問診療料または往診料と,同日に算定された超音波検査に関する診療行為コードに着目して抽出を行った。

2. 対象となる診療行為コードの抽出

対象とした診療行為コードはTable 1のとおり,訪問診療料,往診料,訪問診療時超音波(全般簡易),超音波(心臓精密),その他の超音波検査(腹部,胸部などを含む)の5つに分類し,抽出を行った。なお,これらは診療報酬点数表に基づく区分に由来するものであり,本研究では便宜上「全般簡易」,「心臓精密」と独自の略称で標記した。

Table 1 在宅医療などの訪問診療の中での超音波検査に関連する診療行為コード群

群名称 診療行為コード 診療行為コード(名称)
1 訪問診療料 114001110 在宅患者訪問診療料(1)1(同一建物居住者以外)
114042110 在宅患者訪問診療料(1)2(同一建物居住者以外)
114030310 在宅患者訪問診療料(1)1(同一建物居住者)
114042210 在宅患者訪問診療料(1)2(同一建物居住者)
114012910 在宅患者訪問診療料(居住系施設入居者等)
114018010 在宅患者訪問診療料(同一建物居住者)(特定施設等入居者)
114042810 在宅患者訪問診療料(2)イ
114046310 在宅患者訪問診療料(2)ロ(他の保険医療機関から紹介された患者)
114027710 在宅患者共同診療料(訪問診療)(同一建物居住者以外)
114027810 在宅患者共同診療料(訪問診療)(同一建物居住者)
2 往診料 114000110 往診料
114001610 特別往診
114027610 在宅患者共同診療料(往診)
3 超音波(心臓精密) 160072510 超音波検査(心臓超音波検査)(経胸壁心エコー法)
160072610 超音波検査(心臓超音波検査)(Mモード法)
160160410 超音波検査(心臓超音波検査)(経食道心エコー法)
160186610 超音波検査(心臓超音波検査)(胎児心エコー法)
160198810 超音波検査(心臓超音波検査)(負荷心エコー法)
4 訪問診療時超音波(全般簡易) 160218310 超音波検査(断層撮影法)(訪問診療)
5 何らかの超音波 160072110 超音波検査(Aモード法)
160072210 超音波検査(断層撮影法)(胸腹部)
160072450 超音波検査(心臓超音波検査以外)(断層撮影法とMモード法)
160072510 超音波検査(心臓超音波検査)(経胸壁心エコー法)
160072610 超音波検査(心臓超音波検査)(Mモード法)
160072750 超音波検査(心臓超音波検査以外)(Mモード法)
160072910 超音波検査(ドプラ法)(胎児心音観察)
160147110 超音波検査(ドプラ法)(脳動脈血流速度連続測定)
160147210 超音波検査(ドプラ法)(脳動脈血流速度マッピング法)
160150050 超音波検査(ドプラ法)(末梢血管血行動態検査)
160160410 超音波検査(心臓超音波検査)(経食道心エコー法)
160161710 超音波検査(血管内超音波法)
160165010 超音波検査(断層撮影法)(その他)
160186610 超音波検査(心臓超音波検査)(胎児心エコー法)
160198810 超音波検査(心臓超音波検査)(負荷心エコー法)
160213010 超音波検査(断層撮影法)(下肢血管)
160218310 超音波検査(断層撮影法)(訪問診療)

各診療行為コードの抽出条件および対象期間内のレセプト件数はTable 2のとおり,都道府県別・年度別に集計した。

Table 2 3次データとしての算出条件

A 2023年の訪問診療料が算定されているレセプト数
A'' 2020年の訪問診療料が算定されているレセプト数
B 2023年の訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されているレセプト数
B'' 2020年の訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されているレセプト数
C 2023年の訪問診療料と超音波(心臓精密)が同日算定されているレセプト数
D 2023年の訪問診療料が算定されており,かつ超音波(心臓精密)が2回以上算定されているレセプト数
※訪問診療料と超音波(心臓精密)の算定日は問わない
D'' 上記「D」に対して,集計方法における補正処理(II-4参照)を適用した値
※具体的には,「超音波(心臓精密)」が複数回算定された場合は,1件あたり2回の実施と仮定して換算
※訪問診療料と超音波(心臓精密)の算定日は問わない
E 2023年の訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されており,かつ訪問診療料と超音波(心臓精密)が同日算定されているレセプト数
E'' 2020年の訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されており,かつ訪問診療料と超音波(心臓精密)が同日算定されているレセプト数
F 2023年の訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されており,かつ往診料と何らかの超音波が同日算定されているレセプト数
F'' 2020年の訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されており,かつ往診料と何らかの超音波が同日算定されているレセプト数
G 2023年の往診料が算定されているレセプト数
G'' 2020年の往診料が算定されているレセプト数
H 2023年の往診料と何らかの超音波が同日算定されているレセプト数
H'' 2020年の往診料と何らかの超音波が同日算定されているレセプト数

3. 分析指標と解析方法

本研究では以下の3つの視点に基づき,Table 3の計算式にてレセプトデータを集計・分析した。

Table 3 3次データから分析に用いた計算式

B/A 訪問診療料が算定されているレセプト数のうち,訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されているレセプト数の算定割合
C + D'' 訪問診療における超音波(心臓精密)の算定数(概算)
(C + D'')/A 訪問診療料が算定されているレセプト数のうち,訪問診療における超音波(心臓精密)の算定数(概算)の算定割合
E/B 訪問診療時超音波(全般簡易)実施を起点とした訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されており,かつ訪問診療料と超音波(心臓精密)が同日算定されているレセプト数の割合
E/(C + D'') 超音波(心臓精密)実施を起点とした訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されており,かつ訪問診療料と超音波(心臓精密)が同日算定されているレセプト数の割合
F/B 訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されているレセプト数のうち,訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されており,かつ往診料と何らかの超音波が同日算定されているレセプト数の割合
F/H 往診料と何らかの超音波が同日算定されているレセプト数のうち,訪問診療料と訪問診療時超音波(全般簡易)が同日算定されており,かつ往診料と何らかの超音波が同日算定されているレセプト数の割合
H/G 往診料が算定されているレセプト数のうち,往診料と何らかの超音波が同日算定されているレセプト数の割合

1) 地域差の分析

都道府県別に,訪問診療料または往診料が算定されたレセプトのうち,同日に超音波検査が併算定された割合を算出した。併算定割合の高低により,都道府県ごとの利用傾向を明らかにした。

2) 診療形態別の特徴分析

訪問診療と往診は,在宅医療における位置づけが異なる。訪問診療は,あらかじめ計画された定期的な医師の訪問に基づく診療であり,慢性疾患や継続的管理を必要とする患者に対して行われる。一方,往診は,急変や突発的な病状の悪化など患者の求めに応じて臨時的に行われる診療である。

本研究では,この両者の性質の違いを踏まえ,超音波検査の併用状況を比較し,活用の傾向や違いを明らかにした。

3) 時間的変化の分析

2020年から2023年における超音波検査の併算定割合の増減倍率(年平均変化率として表示)を算出し,地域別・検査別の増減傾向を評価した。

本研究における年平均変化率は,以下の式に基づき,増減倍率(2023年度値/2020年度値)として算出・表記した。

4年間の増減倍率(倍)=(2023年度値/2020年度値)

4. 集計上の補正処理

データ処理にあたり,以下の補正を行った。

1)「< 10」と表示される件数については,中央値である「5」と仮定して扱った。

2)算定数が「0」であった場合は,比率や割合を算出する際に分母が「0」となるため,数値計算が不可能(計算式上の未定義)となる。そのため,本研究では統計処理を継続するために「1」と仮定して代入した。なお,この処理は便宜的なものであり,解釈にあたっては分母が実質的に「0」であることを踏まえる必要がある。

3)「超音波(心臓精密)」が複数回算定された場合は,1件あたり2回の実施と仮定して集計した。なお,山梨県においては,NDB上で「< 10」と表示される区分が複数存在したため,中央値を代入し集計を行ったが,複数施設に分散しており算定数に不確実性を伴ったことより,本研究においては推定値として「~程度」と表記した。

5. 倫理的配慮

本研究に用いたデータは,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に基づき,奈良県立医科大学倫理審査委員会の承認を得ている(承認番号3553:令和6年度厚生労働行政推進調査事業費・政策科学総合研究事業関連研究として審査済み)。

なお,使用したデータは厚生労働省が実施する「NDBデータ第三者提供制度」により提供された完全匿名化データであり,個人を特定できる情報は一切含まれていない。

III  成績・結果

2020年度および2023年度による全国のレセプトデータに基づいて訪問診療および往診における超音波検査の実施状況を集計・分析したところ,超音波(全般簡易)および超音波(心臓精密)の実施割合や年平均変化率には,都道府県間で顕著なばらつきが認められた。

1. 2023年度の地域差割合(Table 4
Table 4 超音波検査の2023年度の算定割合


注1 本表における「ポイント」は,割合(%)の差を表す単位として用いた。

注2 セルのカラーは割合の大小を示しており,赤色系は低値,緑色系は高値を示す。色の濃淡は数値の相対的な大小に対応している。

注3 データバーは数値の大きさを相対的に視覚化したものである。

1) 訪問診療における超音波検査

2023年度の訪問診療における超音波(全般簡易)の算定割合は,全国平均は0.56%の実施率であり,最も高かった香川県では2.18%,次いで沖縄県が1.37%,滋賀県が1.00%と,全国平均と比較して相対的に高い水準を示していた。一方,長野県(0.15%),山口県(0.15%),熊本県(0.19%)などでは0.2%を下回っており,地域によって最大で約15倍の差が存在していた。

超音波(心臓精密)の算定割合では,全国平均は0.22%の実施率であり,最も高かった石川県では0.86%,次いで長崎県では0.62%,佐賀県が0.44%の水準を示していた。一方,群馬県(0.01%),福島県(0.01%),長野県(0.02%)などでは0.05%を下回っており,地域によって最大で約86倍の差が存在していた。

超音波(全般簡易)とともに(心臓精密)を同日算定する割合では,全国平均は0.04%の実施率であり,最も高かった佐賀県では0.31%,次いで長崎県が0.21%,大阪府が0.09%の水準を示していた。一方,青森県と山形県では超音波(全般簡易)と超音波(心臓精密)の同日算定件数は確認されなかった。福島県,群馬県,新潟県,石川県,長野県,岐阜県,三重県,滋賀県,和歌山県,山口県,熊本県では0.01%を下回っており,地域によって31倍を超える差が存在していた。

他方,この同日算定割合においては,「心臓精密も実施する全般簡易の割合」でみた場合,全国平均は6.27%の実施率であり,最も高かった佐賀県では55.46%,次いで長崎県が25.48%,大阪府が13.84%と,全国平均と比較して相対的に高い水準を示していた。一方,青森県と山形県では両者を同日に算定した件数はなく,香川県(0.27%),滋賀県(0.50%),石川県(0.61%)などでは1%を下回っており,実施する地域によって200倍を超える差が存在していた。また,「全般簡易も実施する心臓精密の割合」でみた場合,全国平均は16.09%の実施率であり,最も高かった山梨県では100%,次いで佐賀県が69.66%,大分県が37.50%と,全国平均と比較して相対的に高い水準を示していた。一方,青森県と山形県では両者を同日に算定した件数はなく,石川県(0.52%),熊本県(2.48%),山口県(2.75%)などでは5%を下回っており,実施する地域によって200倍近い差が存在していた。

加えて,「a:心臓精密も実施する全般簡易の割合」と「b:全般簡易も実施する心臓精密の割合」の実施率の差を比較したところ,全国平均は9.82ポイントの差が確認された。都道府県別にみると,ポイント差(b − a)が最も大きかったのは山梨県(94.12ポイント)であり,次いで大分県(35.39ポイント),福島県(29.27ポイント)などが高い差を示した。一方,両者の割合が近接し,ポイント差が5ポイント未満にとどまった地域もあり,たとえば青森県と山形県では同日算定の件数がないため差はなく,石川県では−0.09ポイント,山口県は0.22ポイント,熊本県は0.81ポイントであった。

全般簡易が主導的に実施され,その一部に心臓精密を併用する形態が多い傾向が示唆された。

本研究では,訪問診療における超音波検査の地域差分析にあたって,診療報酬上「超音波(全般簡易)」を主たる評価対象とした。これは,訪問診療における「超音波(心臓精密)」の算定割合が全国平均で0.22%と極めて低く,複数の地域で算定実績がほとんど確認されず,統計的に安定した比較単位として扱うことが困難であったためである。一方,「全般簡易」は全国平均こそ0.56%と低頻度ではあるものの,全都道府県で一定の算定実績が存在し,在宅医療における超音波検査実施の代表的指標として地域比較が可能であると判断した。なお,「心臓精密」に関しては,同日算定割合や併算定の関係指標として別途補足的に分析を行っている。

2) 往診における超音波検査

2023年度の往診における何らかの超音波の算定割合は,全国平均で2.33%の実施率であり,最も高かった沖縄県では5.43%,次いで宮城県が4.89%,宮崎県が4.41%と,全国平均と比較して相対的に高い水準を示していた。一方,福島県(1.21%),山口県(1.30%),島根県(1.39%)などでは1.5%を下回っており,地域によって最大で約4倍の差が存在していた。

3) 訪問診療と往診の双方で超音波検査

訪問診療で超音波(全般簡易)を実施している場合において,往診でも何らかの超音波を実施している算定割合においては,「往診で何らかの超音波を実施している訪問診療時全般簡易実施の割合」でみた場合,全国平均は6.52%の実施率であり,最も高かった茨城県では18.23%,次いで愛知県が11.02%,栃木県が10.11%と,全国平均と比較して相対的に高い水準を示していた。一方,佐賀県(0.89%),長崎県(1.32%),新潟県および熊本県は同数の1.66%などで2%を下回っており,地域によって20倍を超える差が存在していた。

「訪問診療で全般簡易を実施している往診時何らかの超音波実施の割合」でみた場合,全国平均は8.71%の実施率であり,最も高かった茨城県では22.48%,次いで香川県が14.38%,岐阜県が13.72%と,全国平均と比較して相対的に高い水準を示していた。一方,新潟県(1.04%),長野県(1.10%),佐賀県(1.13%)などで1.5%を下回っており,地域によって最大で約22倍の差が存在していた。

他方,「c:往診で何らかの超音波を実施している訪問診療時全般簡易実施の割合」と「d:訪問診療で全般簡易を実施している往診時何らかの超音波実施の割合」の差を比較したところ,全国平均は1.30ポイントの差が確認された。都道府県別にみると,ポイント差(d − c)が最も大きかったのは香川県(12.08ポイント)であり,次いで広島県(7.72ポイント),石川県(5.97ポイント)などが高い差を示した。

一方,両者の割合が近接し,ポイント差が0.1ポイント未満にとどまった地域もあり,たとえば群馬県と島根県では0.04ポイント,青森県では0.05ポイントであった。

訪問診療と往診ではどちらが主導的に実施されているといった顕著な傾向はなく,ポイントがマイナスとなる上位には,栃木県(−4.70ポイント),山形県(−3.11ポイント),鹿児島県(−2.38ポイント)があがった。

2. 2020年度から2023年度における超音波検査の併算定割合の年平均変化率(Table 5
Table 5 2020年度から2023年度における超音波検査の併算定割合の年平均変化率


注 セルのカラーは割合の大小を示しており,赤色系は低値,緑色系は高値を示す。色の濃淡は数値の相対的な大小に対応している。

1) 訪問診療における超音波検査

訪問診療における訪問診療料が算定されたレセプトの年平均変化率(全国平均値)は1.21であり,沖縄県(1.44),埼玉県・千葉県・愛知県(1.27),栃木県(1.26)の順に上位,秋田県(1.00),島根県(1.02),新潟県(1.04),山形県(1.06)の順に下位で,地域による差は大きくなかった。本値は超音波検査の実施件数そのものではなく,訪問診療料が算定された全レセプト数の年平均変化を示すものであり,超音波検査実施率の変化と混同しないよう留意が必要である。

超音波(全般簡易)は全国平均1.66であり,沖縄県(3.36),秋田県(3.19),岐阜県(2.69)の順に上位,長崎県(0.78),群馬県(0.93),山口県(0.96)の順に下位で,地域によって最大約4倍の差があった。

超音波(心臓精密)は全国平均1.36であり,高知県(5.57),青森県(4.20),宮崎県(3.76),沖縄県(3.39)の順に上位,山形県(0.35),群馬県(0.58),徳島県(0.60)の順に下位で,地域によって最大約16倍の差があった。

超音波(全般簡易)と(心臓精密)の同日算定は全国平均1.51であり,大分県(15.00),愛知県(8.09),福岡県(5.48)の順に上位,山形県(0.20),東京都(0.56),静岡県(0.57)の順に下位で,地域によって最大約75倍の差があった。

2) 往診における超音波検査

往診における往診料が算定されたレセプトの年平均変化率(全国平均値)は1.30であり,沖縄県(1.72),東京都(1.58),愛知県(1.47)の順に上位,島根県(0.82),秋田県(0.96),長野県(0.98),青森県(0.99)の順に下位で,地域によって最大約2倍の差があった。この値は往診時における全レセプト数の増減を示すものであり,超音波検査の件数や実施割合とは区別して解釈する必要がある。何らかの超音波は全国平均1.54であり,香川県(4.67),福岡県(2.28),埼玉県(2.14),沖縄県(2.10)の順に上位,青森県(0.70),長崎県(0.79),島根県(0.86)の順に下位で,地域によって最大約7倍の差があった。

3) 訪問診療と往診の双方で超音波検査

訪問診療で超音波(全般簡易)を実施し,かつ往診でも何らかの超音波を実施している4年間の年平均変化率は,全国平均1.98であり,香川県(8.60),宮崎県(5.60),岩手県・秋田県(5.00)の順に上位,新潟県(0.50),鳥取県(0.54),福島県・長野県・島根県・徳島県・高知県・佐賀県・熊本県(1.00)の順に下位で,地域によって最大約17倍の差があった。

IV  考察

本研究では,2020年度と2023年度のNDBレセプトデータを用い,訪問診療および往診における超音波検査の実施状況を全国規模で定量的に分析し,地域間における利用のばらつきや診療形態ごとの特徴,ならびに経年変化を明らかにした。その結果,同一診療報酬体系の下においても,都道府県別に大きな差が存在することが確認された。具体的には,訪問診療における「超音波(心臓精密)」の実施割合では全国平均0.22%に対し,石川県0.86%,群馬県0.01%と最大で約64倍の差が認められた。また,「心臓精密も実施する全般簡易の割合」では,全国平均6.27%に対し,佐賀県55.46%と高率である一方,山形県では0.00%と算定のない地域もみられ,最大-最小が55.46ポイントの差があった。さらに,「訪問診療で全般簡易を実施している往診時の超音波実施割合」では全国平均8.71%に対し,茨城県22.48%,新潟県1.04%と約22倍の差がみられるなど,複数の指標で顕著な地域差が示された。

これらの地域差は,単に医療資源の偏在や人口構造の違いだけでなく,医療提供体制の特性,訪問診療や往診の担い手の診療スタイル,地域における在宅医療モデルの成熟度,さらには診療報酬制度の運用解釈の差異など,複数の要因が複雑に影響している可能性が示唆される。

特に,訪問診療における「心臓精密超音波」と「全般簡易超音波」の併算定に関する実施割合のばらつきは顕著であり,一部の地域では超音波機器を高度に活用し複数部位の精密検査を行っているのに対し,他地域では超音波自体の活用が極めて限定的である状況が明らかとなった。また,訪問診療と往診の双方における超音波検査の活用においても,一部の都道府県では両者が連携的に活用されている傾向が認められた一方,訪問診療に限定された運用がなされている地域も散見された。

これらの結果は,在宅医療における超音波検査の利活用に関し,地域ごとの実態把握とベストプラクティスの共有が不可欠であることを示している。今後は,単なる算定率の把握にとどまらず,地域における導入障壁や成功要因の質的分析を併せて行うことで,より実効性のある政策的支援や教育的介入が可能となると考えられる。

1. 集計上の補正処理について

本研究においては,算定数が「0」であった場合に分母が「0」となり比率の計算が不可能となるため,便宜的に「1」と置き換える補正処理を行った。この方法は元のデータを改変するものであり,厳密には真の結果を完全に反映するものではない。しかし,集計全体の傾向を比較可能な形で示すうえでは,計算を継続するために必要な処置と判断した。

また,「< 10」と表示される件数を中央値である「5」と仮定したのは,NDBデータ提供の匿名化基準により10件未満の数値が非表示化されるためであり,中央値を代入することで極端な過小・過大評価を避け,統計的安定性を保つための便宜的措置である。

さらに,「心臓精密」が複数回算定される場合を1件あたり2回と仮定したのは,診療報酬点数表上1症例で2部位以上の検査が一定頻度で行われることを踏まえ,過少推定を防ぐための仮定である。

いずれの補正も真値を完全に再現するものではないが,公開データの制約下において地域間比較の一貫性と分析の実用性を確保する目的で採用した。

代替手法としては「0の事例を集計から除外する」,「比率計算を欠測値として扱う」なども考えられるが,いずれも地域間比較の一貫性を損なう可能性がある。

本研究では,データ解釈上の留意点としてこの補正の存在を明示することで,恣意的な解釈を避けつつ比較可能性を確保することを優先した。したがって,本補正方法は妥当性に限界があるものの,分析目的に照らしては実務的に最適と考えられる。

2. 利用頻度の地域差が意味する課題

実施頻度の地域差が大きいことは,在宅医療における医療アクセスや診療の質に関する構造的な不均衡を内包している可能性を示している。とりわけ,訪問診療や往診において超音波検査がほとんど実施されていない地域では,臨床的判断が身体所見や問診に依存せざるを得ず,診断精度やタイムリーな対応に課題が生じる懸念がある。また,患者が在宅で安心して療養生活を送るうえで,簡便かつ有用な超音波検査の提供機会が制限されていることは,地域間の医療資源格差として重要な問題である。

さらに,これらの地域差は,過去に報告されている在宅医療提供体制の地域格差とも一致しており6)~8),医師数や在宅医療機関数の偏在に加えて,医療機器導入への支援体制や診療報酬上のインセンティブの有無が影響している可能性がある。今後は,地域差を放置すれば患者の予後やQOLの格差を拡大させるリスクがあり,医療資源の配分や教育研修の仕組みを含めた是正策が求められる。

また,2020年度から2023年度にかけての年平均変化率に着目すると,全国平均では超音波(全般簡易)1.66,超音波(心臓精密)1.36,同日算定1.51と,いずれも増加傾向が認められた。一方で,地域ごとのばらつきは依然として大きく,同日算定においては大分県15.00に対し山形県0.20と最大で約75倍の差が存在していた。このことは,超音波検査の在宅医療への導入が全国的に進展しつつある一方,普及スピードや定着度には地域間で顕著な差があることを示している。特に,地域によっては機器導入や技術習得の体制整備が追いついていない可能性があり,今後の教育的支援や政策的介入の必要性を裏付ける結果と考えられる。

3. 地域差に基づく課題抽出と有効活用地域の要因分析

一方で,超音波検査の算定割合が全国平均を大きく上回る一部の地域では,訪問診療チームが日常的に携帯型超音波装置を活用し,複数部位の評価を組み合わせた効率的な診療体制を確立している可能性がある。たとえば,佐賀県,長崎県などは,訪問診療において「全般簡易」と「心臓精密」の同日算定率が高く,臨床状況に応じて柔軟な診療運用がなされていると考えられる。これらの地域では在宅医療に積極的な医療機関や医師の存在,行政による機器導入支援,多職種連携の定着といった要因が,利用率を高めている可能性がある。今後はこうした先進地域の要因分析を通じて,全国的に導入促進を図るためのベストプラクティスを抽出することが課題となる。特に,これらの地域での実践は,診療報酬制度や自治体の医療計画とも相互に関連している可能性があり,制度的背景を踏まえた分析が必要である。また,医師や看護師に対する超音波教育の体系化,遠隔画像共有の活用など,成功要因を他地域に適用することで,在宅医療全体の診療水準を底上げできると考えられる。将来的には,先進地域での取り組みをモデルケースとし,全国的な普及を意識した政策的介入や学術的検証が求められる。

ただし,「全般簡易」と「心臓精密」の同日算定率が低い地域においては,必ずしも超音波検査自体の実施頻度が低いことのみを意味するわけではない可能性がある。同日に複数の超音波検査を算定した際,地域によっては査定対象となる場合があることが知られており,その結果として,医療機関が実施していても請求を控える,あるいは一方の検査のみを請求する運用が行われている可能性がある。本研究ではこの影響を直接評価することはしていないが,算定率の解釈にあたっては留意すべき重要な要因と考えられる。今後は,請求抑制の実態や査定の地域差を含めた詳細な分析を行うことが,在宅医療における超音波検査の真の利用実態を明らかにするうえで不可欠である。

4. 医療従事者のスキルや機器整備状況との関連性

加えて,超音波検査の実施状況には,診療報酬の制度的整備状況や医療ニーズの違いに加え,現場における医療従事者の技術習熟度が関与している可能性がある9)。一方で,訪問診療や往診といった可搬性が求められる診療環境では,携帯型超音波装置の有無や更新状況,診療所の財政的余力などの機器整備状況も,実施頻度に直結する要因となると考えられる。

近年では,一般医師が自ら超音波検査を行う機会は必ずしも多くなく,特に「心臓精密」検査は循環器専門医など限られた人材に依存しているのが現状である。このようなスキルを持つ医師が限られていることが,検査実施の制約要因の一つとなっている可能性がある。訪問診療や往診といった可搬性が求められる診療環境において,携帯型超音波装置の有無,機器の更新状況,診療所の財政的余力などのインフラ要因が,実施頻度に直結していることは否定できない。また,医師をはじめとする在宅医療チームの構成やスキルの差も,診療行為としての検査実施の可否に影響していると考えられる。

本研究で示された訪問診療および往診における超音波検査の実施状況には,同一の診療報酬体系下であっても,都道府県間で顕著な地域差が認められた。これらの地域差は,医療資源の配置,医療従事者のスキルや教育体制,機器整備状況,多職種連携の成熟度など,複数の要因が複合的に影響した結果と考えられる。地域差の実態を整理し,その背景要因を明らかにすることは,在宅医療における超音波検査の適正な普及と質の向上を図るうえで重要な課題である。

さらに,臨床検査技師が在宅医療チームに参画することで,超音波検査を含む各種point of care testing(POCT)を適切に実施できる体制が整い,診療の効率化と医師の負担軽減が期待される10)。多職種が連携して超音波検査に関わる体制は,在宅医療における検査の普及と質の確保に資する重要な取り組みといえる。

今後は,在宅医療に特化した超音波教育の標準化と継続的な学習機会の提供を通じ,在宅医療全体における技術水準の底上げを図ることが課題と考えられる。

在宅医療における超音波検査は,通常の病院内検査とは異なり,限られた照明環境や可搬機器を用いて短時間で全身を広範囲に観察する必要がある。このため,臨床的判断に直結する所見を迅速に抽出するスクリーニング的視点や,画像品質の制約下で異常を見逃さない読影力が求められる。したがって,在宅医療に従事する医療職には,解剖学的知識や基本的なプローブ操作に加え,患者の体位変換が難しい状況での撮像法や,複数臓器を効率的に評価する統合的な判断能力を身につけるための訓練が必要となる。

現在は,在宅医療を行う医師や看護師と連携しながら臨床検査技師などが個別に学習・実践を重ねているのが現状であるが,在宅医療に特化した教育プログラムや研修の場が体系的に整備されれば,超音波検査の安全かつ効果的な活用が進み,従事する臨床検査技師などの拡大にも寄与すると考えられる。

5. 本研究の限界

本研究はNDBレセプトデータを用いた二次解析研究であり,医療機関ごとの組織体制や診療方針,患者背景,医師の専門性や機器整備状況といった詳細な要因を直接把握することはできていない。そのため,得られた地域差や算定率の差異は実態の一側面にとどまる可能性がある。また,同日複数算定に関する査定・請求抑制の影響についても十分に評価できていない。さらに,本研究では2020年度と2023年度のデータに基づく分析であり,より長期的な推移や政策的介入の効果については検討できていない。これらの限界を補うためには,今後,質的調査や現場の実践例の収集,制度設計や査定運用の分析を組み合わせた多面的な研究が求められる。

V  結語

本研究により,訪問診療および往診における超音波検査の実施には,都道府県間で顕著な地域差が存在し,経年変化においても普及状況に大きな違いがあることが明らかとなった。

今後は,地域差の背景要因を明らかにし,多職種連携や診療報酬制度の在り方を検討することで,在宅医療における超音波検査の適正な普及と質の向上が期待される。

さらに,在宅医療における超音波検査の普及を進めるためには,在宅の診療環境に対応した超音波技術を修得できる教育体制の整備が不可欠である。こうした教育を通じて臨床検査技師などの専門職が在宅医療に参画する機会が拡大すれば,医師の業務負担軽減と検査の質の向上の双方に寄与し,結果として臨床検査技師の職域拡大にもつながることが期待される。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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