2026 年 75 巻 2 号 p. 297-305
【目的】従来の凍結乾燥タイプのプロトロンビン時間(PT)試薬は用手による調製の手間が課題である。今回,調製不要な液状PT試薬「PT-Phen LRT」(以下,LRT)の基礎性能について全自動血液凝固測定装置CN-6500を用いて評価したので報告する。【方法】測定試料には2濃度の管理血漿および患者の検査後残余血漿を用いた。方法として,併行精度,オンボード安定性,ヘパリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)感受性,凝固因子感受性,共存物質の影響を評価し,対照試薬(レボヘムPT,トロンボレルS)との相関解析を行った。【結果】併行精度はCV 1.0%未満であり,オンボード安定性は5 mLバイアルで8日間,20 mLバイアルで10日間と良好であった。LRTはヘパリンの影響をほとんど受けず,第X因子欠乏およびDOACのうちエドキサバン,リバーロキサバンに高い感受性を示した。共存物質の影響は10%未満と軽微だった。対照試薬との相関は全体的に良好であったが,PT-INR高値群でLRTが高値を示す乖離が一部認められた。【結論】LRTは,高い精度と安定性を有し,臨床的に十分な凝固因子感受性やDOAC感受性を持つことが確認できた。ヘパリンによる影響も受けづらく,高い基礎性能を有していると考えられる。また,調製不要という操作性の高さは,業務効率化とヒューマンエラー低減に大きく貢献するため,日常の凝固検査において有用性の高い試薬と考えられる。
Objective: Conventional freeze-dried prothrombin time (PT) reagents require adding a specific dissolving solution or purified water. This study used the fully automated coagulation analyzer CN-6500 to evaluate the basic performance of “PT-Phen LRT” (LRT), a new liquid PT reagent. Methods: Two concentrations of control plasma and residual post-testing patient plasma were used as samples. We evaluated parameters such as within-run reproducibility, onboard stability, sensitivity to heparin and direct oral anticoagulants (DOACs), sensitivity to coagulation factors, and the effects of interfering substances. In addition, correlations with control reagents (Revohem PT and Thromborel S) were evaluated. Results: Repeatability revealed a CV < 1.0%. The product was observed to be stable for 8 days in 5-mL vials and 10 days in 20-mL vials. LRT remained largely unaffected by heparin and was highly sensitive to Factor X deficiency and to the DOACs edoxaban and rivaroxaban. The effect of interfering substances was < 10%. The correlation with the control reagents was generally good; however, some divergent samples were observed in the high PT-INR group, where LRT showed higher values. Conclusion: LRT showed clinically sufficient precision and stability. It also demonstrated sensitivity to coagulation factors and DOACs. Moreover, because it was not significantly affected by heparin, it was considered to exhibit a high basic performance. In addition, LRT has high applicability as it requires no preparation, which is expected to contribute to improved operational efficiency and a reduction in human error. These characteristics indicate that LRT is a highly useful reagent for routine PT measurements.
プロトロンビン時間(prothrombin time; PT)は,Quick1)によって開発された外因系凝固反応を測定する検査である。その検査目的は手術前の止血機能評価,ワルファリン(以下,WF)などの経口抗凝固薬のモニタリング,肝機能評価などで使用される2),3)。従来のPT試薬は組織トロンボプラスチンの安定性の問題から,凍結乾燥品がほとんどであり,溶解液や精製水を加えて調製する必要があった。近年,調製不要な液状PT試薬が開発されている4)。また,直接経口抗凝固薬(DOAC)の普及に伴い,これらの薬剤に対するPT試薬の感受性評価が重要となっている5),6)。今回,シスメックス社のグループ会社であるHYPHEN BioMed社の製品で,海外承認済みの液状PT試薬であるPT-Phen LRT(以下,LRT)の基礎性能評価を実施したので報告する。
評価試薬はHYPHEN BioMed社のLRT,対照試薬としてシスメックス社のレボヘムPT(以下,Rev),トロンボレルS(以下,THS)を用い,全自動血液凝固測定装置CN-6500(シスメックス社)で測定した。活性%のキャリブレーションについてはLRTとRevにはコアグトロールN,THSには血液凝固試験用ヒト標準血漿(いずれもシスメックス社)を用い,PT-INRの算出には各試薬に添付のISIを用いた。干渉物質の影響については干渉チェック・Aプラス(シスメックス社)を用いた。
2. 試料管理試料2濃度(正常域:コアグトロールIX,異常域:コアグトロールIIX,シスメックス社),BIOPHEN Rivaroxaban Calibrator,BIOPHEN Rivaroxaban Control,BIOPHEN Apixaban Calibrator,BIOPHEN Apixaban Control,BIOPHEN Edoxaban Calibrator,BIOPHEN Edoxaban Control,BIOPHEN Dabigatran Calibrator,BIOPHEN Dabigatran Control(いずれもHYPHEN BioMed社),第II因子欠乏血漿,第V因子欠乏血漿,第VII因子欠乏血漿,第X因子欠乏血漿(いずれもシスメックス社)を使用した。ヘパリン感受性は,未分画ヘパリンとしてヘパリンNa注(持田製薬社),ヘパリンCa注(エイワイファーマ社),低分子ヘパリンとしてフラグミン静注(ファイザー社)を用いた。東京科学大学病院検査部に凝固検査依頼があった検体の残血漿(3.2%クエン酸ナトリウム加血漿)を対象とした。本検討については,東京医科歯科大学医学部倫理審査委員会(現:東京科学大学医学系倫理審査委員会)の承認(M2022-077)を得て実施した。
併行精度は管理試料2濃度を20回連続測定し,変動係数(coefficient of variation; CV)を算出した。
2. オンボード安定性開封後の試薬を装置内に設置し,管理試料2濃度について5 mLバイアルおよび20 mLバイアルで1日2回(午前と午後)測定した。5 mLバイアルは試薬量が少ないため9日間,20 mLバイアルは10日間のオンボード安定性を検討した。
3. へパリン感受性ヘパリンNa,ヘパリンCa,低分子ヘパリンをコアグトロールIXに添加し,ヘパリンの終濃度が0.0~2.0 IU/mLとなるよう0.2刻みで試料を作製し,3試薬でPTの秒数(以下,PT-sec)を測定後,ヘパリン未添加試料からの延長率を算出した。
4. DOAC感受性各DOAC標準品をコアグトロールIXに各比率で混合し,3試薬でPT-secを測定後,未添加試料からの延長率を算出した。
5. 凝固因子感受性(II,V,VII,X因子)各因子欠乏血漿をコアグトロールIXに各比率で混合し,3試薬でPT-secを測定後,未添加試料からの延長率を算出した。
6. 共存物質の影響干渉チェック・Aプラスを管理試料2濃度にそれぞれ添加し,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,溶血ヘモグロビン,乳びの影響を検討した。未添加試料のPT-secを基準として添加後の変動率(%)を算出した。
7. 相関日常検査としてPTの検査依頼があった250検体を3試薬で測定し,LRTとRev,LRTとTHSについて相関を検討した。
8. 相関乖離検体の詳細解析PT-INRの相関評価において,LRTと対照試薬の間で測定値が±20%以上乖離した検体を乖離検体と定義した。乖離検体に一定の傾向があるか調べるため,抗凝固薬の使用状況および原病を調査した。
コアグトロールIXのCVは0.45%(PT-sec),0.48%(PT-%),0.48%(PT-INR),コアグトロールIIXのCVは0.57%(PT-sec),0.62%(PT-%),0.56%(PT-INR)でいずれも良好であった(Table 1)。
| 正常域コントロール(コアグトロールIX) | 異常域コントロール(コアグトロールIIX) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| sec | % | INR | sec | % | INR | |
| n | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 |
| Mean | 12.7 | 92.7 | 1.017 | 19.3 | 59.5 | 1.430 |
| SD | 0.057 | 0.445 | 0.005 | 0.111 | 0.366 | 0.008 |
| CV(%) | 0.45 | 0.48 | 0.48 | 0.57 | 0.62 | 0.56 |
試薬搭載初日の午前の値を基に算出した変動率が10%以内をオンボード許容範囲とした。このとき,コアグトロールIX・IIX共に5 mLバイアルでは8日目,20 mLバイアルでは10日目まで許容範囲内であった(Figure 1)。

5 mLバイアルは試薬量が少ないため検討期間は9日間とした。
1日2回(午前・午後)測定を実施したため,例えば,Day 1は1日目の午前,Day 1.5は1日目の午後と表現した。
ヘパリンNa,ヘパリンCaにおいて3試薬とも濃度依存的に延長傾向を示したが,LRTは2.0 IU/mLまでの延長率は1.05~1.08倍でほぼ影響を受けなかった。Revでは2.0 IU/mLでの延長率は1.15~1.18倍であった。THSは他の2試薬と比較してヘパリンの影響を強く受け,2.0 IU/mLでは延長率が2.17~2.45倍であった。低分子ヘパリンでは,LRTは2.0 IU/mLまでの延長率は1.02倍と影響はなく,Rev,THSは延長率が1.11倍,1.18倍で軽微だが影響を受けていた(Figure 2)。

コアグトロールIXへの各DOAC標準品添加濃度が100%の時のPT-secの延長率は,エドキサバン(以下,EDO)ではLRTが3.39倍,Revが2.85倍,THSが2.49倍であった。ダビガトラン(以下,DABI)ではLRTが3.25倍,Revが3.71倍,THSが2.71倍であった。リバーロキサバン(以下,RIV)ではLRTが2.62倍,Revが2.36倍,THSが1.92倍であった。アピキサバン(以下,API)ではLRTが1.76倍,Revが1.84倍,THSが1.50倍であった(Figure 3)。

各因子活性がコアグトロールIXの10分の1(6.4%~7.4%)の時のPT-secの延長率は,第II因子ではLRTが1.47倍,Revが1.68倍,THSが1.59倍であった。第V因子ではLRTが1.76倍,Revが1.97倍,THSが1.78倍であった。第VII因子ではLRTが1.70倍,Revが1.89倍,THSが1.74倍であった。第X因子ではLRTが2.24倍,Revが2.13倍,THSが2.00倍であった(Figure 4)。

PT-secについて,遊離型ビリルビン20.9 mg/dL,抱合型ビリルビン20.1 mg/dL,溶血ヘモグロビン490 mg/dL,乳び1,510 FTUまで測定値に対する変動率は10%未満であった(Figure 5)。

患者検体250例について,LRTとRevおよびTHSとの相関を調べた結果,いずれの指標(PT-sec,PT-%,PT-INR)においても良好な相関を示した(Figure 6)。

Revとの相関は,y = 1.4976x − 3.3547,r = 0.9796,THSとの相関は,y = 1.148x − 1.7845,r = 0.9887であった。
2) PT-%Revとの相関は,y = 0.8286x − 0.0778,r = 0.9579,THSとの相関は,y = 1.0495x − 9.7002,r = 0.9699であった。
3) PT-INRRevとの相関は,y = 1.4007x − 0.2913,r = 0.9796,THSとの相関は,y = 1.1385x − 0.1144,r = 0.9885であった。
8. 乖離検体の精査Revとの比較では,250検体中32検体(12.8%)で乖離が認められた。乖離は主にPT-INR高値群に分布し,全体的にLRTは高値傾向を示した。32例の抗凝固薬の投薬状況は,WF 21例,EDO 5例,RIV 1例,投薬歴なし5例であった。原疾患は,循環器疾患(弁置換術後11例,心房細動9例,その他4例),固形癌(大腸癌4例,その他3例),自己免疫疾患(抗リン脂質抗体症候群4例,その他3例),脳梗塞6例など多岐にわたった。一方,THSとの比較では乖離検体は3検体と少数であったが,同様にLRTが高値傾向を示した。3例の抗凝固薬の投薬状況は,WF 1例,RIV 1例,投薬歴なし1例であった。原疾患は,大腸癌1例,抗リン脂質抗体症候群1例,心房細動1例,肝障害1例であった。なお,複数疾患を有する症例があるため,疾患件数は延べ数である。このように乖離検体において,抗凝固薬の種類や原疾患に明確な傾向は見出されなかった。
本検討では,LRTの基礎性能を評価し,臨床検査における実用性を検討した。LRTは,併行精度においてCVが1.0%未満と極めて良好な精度を示し,オンボード安定性も5 mLバイアルで8日間,10 mLバイアルで10日間までの安定性が確認された。5 mLバイアルは約50テスト分に相当し,病床数100床程度の中規模検査室での使用頻度を考慮した場合でも,十分な安定性を有していると考えられる。これらの高い精度と安定性は,厳密な管理が求められる抗凝固療法のモニタリングにおいて重要である7)。各種感受性試験において,LRTは臨床的に有用な特性を示した。ヘパリン感受性では,対照試薬と比較して未分画および低分子ヘパリンの影響を受けにくかった。その理由として,試薬中にヘパリン中和物質が添加されており,アンチトロンビンを介した凝固因子阻害作用が抑制されたためと推察される。DOAC感受性では,Xa阻害薬であるEDOで最も高い感受性を示し(3.39倍),次いでDABI(3.25倍),RIV(2.62倍),API(1.76倍)の順であった。PT測定が主に外因系から共通系の第Xa因子に至る経路を反映するため,LRTがXa阻害薬に高い感受性を示したことは試薬の特性として理解できる一方,共通系の最終段階で作用する直接トロンビン阻害薬のDABIに対しても高い感受性を示したことは,本試薬がトロンビンの生成や活性阻害を鋭敏に捉える性能を持つ可能性を示唆している。ただし,対照試薬のRevはDABIに対しLRTを上回る感受性(3.71倍)を示しており,組織トロンボプラスチンなどの試薬組成の違いがDOACへの反応性に大きく影響すると考えられる。また,EDOおよびRIVに比べてAPIの感受性が低かった点については,既存の報告でも同様の傾向が示されている6),8),9)。その理由として,Xa阻害薬間での薬理学的特性の違い,試薬中の組織トロンボプラスチンの特性による影響が考えられる。また,凝固因子感受性では,特に第X因子欠乏に対し高い反応性を示し,各凝固因子欠乏に対しても対照試薬と同等の感受性を有しており,凝固因子欠乏症のスクリーニング試薬としての有用性も期待される。さらに,第X因子はXa阻害薬の直接的な標的であることから,LRTが第X因子欠乏に鋭敏であった特性は,EDOやRIVといったXa阻害薬に対して高い感受性を示した結果と関連していると考えられる。ただし,第X因子欠乏は因子活性の恒常的低下を模擬するものであるのに対し,Xa阻害薬は可逆的かつ薬物特性依存的に活性型Xaを阻害するため,血中での薬物動態学的要素が結果に影響する点には注意が必要である。このため,欠乏血漿に対する感受性とDOACに対する感受性は相関しつつも必ずしも同一ではなく,両者を区別して解釈する必要がある。共存物質の影響も添加最大濃度まで変化率は10%未満であり,臨床上問題となるような影響はなかった。ただし,乳び検体では測定値のわずかな低値傾向が認められた。その理由として,乳び検体のように検体の濁度が著しく高い場合,測定開始時のベースライン透過光量が極端に低くなる10)。その結果,フィブリン析出による本来の透過光量の変化が高いバックグラウンドノイズに埋もれ,凝固時間が偽低値となっている可能性が示唆される。患者検体を用いた相関検討では,全体として対照試薬と良好な相関を示したものの,一部で乖離が認められた。特にRevとの比較では,PT-INR高値群を中心にLRTが高値傾向を示す乖離検体が250検体中32検体(12.8%)と比較的多くみられた。しかし,これらの乖離検体について,抗凝固薬の種類や原疾患に特定の傾向は見出されなかった。よって,乖離の原因は特定の患者側の因子によるものでなく,試薬自体の特性に起因する可能性が考えられる。3試薬のISI値が1.0前後と近似しているにもかかわらず乖離が生じた一因として,試薬の反応性やPT-INR算出に用いる正常秒数の値付けといった試薬の基本特性の影響が考えられる。したがって,本試薬の有用性をさらに高めるには,LRTの適用キャリブレータにおける値付けの更なる最適化が課題であると示唆される。また試薬変更の際には,臨床医へ本試薬の特性,特に従来試薬との相関を十分に情報提供することが重要である。最後に,LRTは液状試薬であるため,従来の凍結乾燥試薬に伴う溶解操作の手間やピペット分注誤差といったヒューマンエラーのリスクを排除できる。この優れた操作性は,検査業務の効率化とリスクマネジメントに大きく貢献するものであり,本試薬の大きな利点である。
LRTは,良好な基礎性能を有し,特にオンボード安定性が良好であり,液状試薬ながら安定性良く利用可能である。さらに,各凝固因子やDOACに対しても適切な感受性を持つことが確認された。既存試薬との相関も良好であったが,キャリブレータの最適化による更なる改善が期待される。加えて,液状試薬という操作性の高さは,ヒューマンエラーを低減し検査業務の効率化に貢献する大きな利点である。これらの性能と利便性を総合的に判断し,LRTは日常の凝固検査において有用性の高い試薬であると考えられる。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。