医学検査
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技術講座
コバスc702モジュールによるロイシンリッチα2グリコプロテイン測定試薬ナノピアLRGの基礎的性能評価
三原 崇弘戸田 宏文岸野 好純吉冨 一恵田中 裕滋上硲 俊法
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2026 年 75 巻 2 号 p. 471-477

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Abstract

炎症性腸疾患の新規バイオマーカーであるロイシンリッチα2グリコプロテイン(以下,LRG)の測定に関して,汎用生化学分析装置に搭載可能なナノピアLRG(積水メディカル株式会社)の基礎的性能を評価した。試料は当院でLRGの測定依頼があった患者血清を用い,測定装置はコバスc702モジュール(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を使用した。併行精度と室内再現精度の変動係数は,いずれも5%以内であった。オンボード状態での試薬安定性は,いずれの濃度においても30日間に亘って初日測定値から5%以上の測定値の変動は認められなかった。希釈直線性は,100 μg/mLまでは原点を通る良好な直線性であった。定量限界は,1.37 μg/mLであった。プロゾーン現象は,200 μg/mL以上の試料では測定値は測定上限の100 μg/mLより低値となったことから,測定値が測定上限付近の場合には,プロゾーン現象の影響を考慮し,希釈再測定が必要と考えられた。共存物質の影響は,ヘモグロビン,ビリルビンF,ビリルビンC,乳び,およびリウマトイド因子において測定値の変化率は5%以内であった。相関性試験は,相関係数r = 0.998,回帰式y = 1.02x − 0.16であった。結論として,ナノピアLRGはコバスc702モジュールにおいて日常検査に使用可能な基礎的性能を有しており,診察前検査として炎症性腸疾患患者の病態把握に貢献できると考えられた。

Translated Abstract

The analytical performance of “Nanopia LRG” (Sekisui Medical Co., Ltd.), which can be mounted on a multi-test biochemical analyzer, was evaluated for the measurement of leucine-rich alpha-2 glycoprotein (LRG), a novel biomarker for inflammatory bowel disease (IBD). Serum levels of LRG were quantified using a Nanopia LRG on the cobas 8000 modular analyzer with c702 module (Roche Diagnostics). Repeatability and intermediate precision were less than 5% coefficient of variation. In the on-board stability testing, serum LRG declined by less than 5% from the average value measured on the first day over thirty days at any of the three concentrations. Dilution analysis yielded linear results up to a concentration of 100 μg/mL. The limit of quantification was 1.37 μg/mL. The prozone effect occurred with LRG concentrations higher than 200 μg/mL, resulting in a reported value lower than 100 μg/mL. This suggests that dilution testing of LRG samples is required when the values are near the upper limit of quantification. The effects of interferents, including hemoglobin, bilirubin F, bilirubin C, chyle and rheumatoid factor on assay results were negligible and non-significant. Deming regression analysis yielded y = 1.02x − 0.16. The correlation coefficient (r) was 0.998. This study demonstrated that “Nanopia LRG” for use on the cobas c702 module has acceptable performance for routine testing. Therefore, the results of a blood test performed just before a physical examination may be helpful for the clinicians to evaluate disease activity of IBD.

I  はじめに

炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)は,潰瘍性大腸炎とクローン病を含む慢性の消化器疾患である。IBDは,活動期と寛解期を繰り返す難治性疾患であり1),適切な治療により寛解状態を維持できるようになりつつある。日常診療においては,症状の改善による臨床的寛解だけでなく,粘膜治癒による内視鏡的寛解を維持することが求められている2)。しかしながら,内視鏡検査は患者への身体的,医療経済的負担が大きいことから,IBDの内視鏡的活動度を反映し,非侵襲的に活動性の評価を行えるバイオマーカーの開発が求められていた3)

ロイシンリッチα2グリコプロテイン(leucine rich alpha 2 glycoprotein; LRG)は,ロイシンリッチリピートドメインを8つ含む約50 kDaの糖蛋白である4)。主な産生臓器は肝臓であるが,他に好中球,炎症部位の気道上皮や腸管上皮でも発現亢進が確認されている5)。LRGは,関節リウマチ,IBD,およびベーチェット病などの炎症性疾患の活動期に上昇することから,これらの疾患の活動性バイオマーカーとして期待されている4)。特にIBDにおいては,内視鏡的活動度と相関することが示され6),2020年6月より「炎症性腸疾患の活動期の判定の補助」として保険収載された(保険点数:268点)。

現在,本邦で利用可能なLRGの測定試薬は,ナノピアLRG(積水メディカル株式会社)が上市されている。ナノピアLRGは,汎用生化学自動分析装置への搭載が可能であり,一般的な生化学検査項目と同様に診察前検査として利用することが期待できる。本研究では,汎用生化学自動分析装置のコバスc702モジュール(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)におけるナノピアLRGの基礎的性能を評価した。

II  対象および機器・試薬

1. 対象

対象は2023年6月から9月にLRGの測定依頼があった患者血清64件(IBD 58例,関節リウマチ1例,その他炎症性疾患3例,非炎症性疾患2例)を用いた。

2. 測定試薬および機器

検討試薬はナノピアLRG(積水メディカル株式会社)を用いた。本試薬の測定原理は,抗ヒトLRGマウスモノクローナル抗体を感作させたラテックス粒子との抗原抗体反応を用いたラテックス免疫比濁法である。測定機器はコバスc702モジュール(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた。

III  検討方法

1. 併行精度

併行精度の試料は低濃度,中濃度,および高濃度に調整した3種類のプール血清を用いた。測定は,3種類の試料を20回連続測定した。統計学的な評価は平均値,標準偏差(standard deviation; SD)から変動係数(coefficient of variation; CV)を算出し,CVが10%以内を許容とした。

2. 室内再現精度

室内再現精度の試料は,低濃度,中濃度,および高濃度に調整した3種類のプール血清をそれぞれ小分けにし,−40℃で凍結保存したものを用いた。測定は3種類の試料をそれぞれ室温で融解および転倒混和し,同一キャリブレーションにて1日2回測定を15日間行った。統計学的な評価は平均値,SDからCVを算出し,CVが10%以内を許容とした。

3. オンボードでの試薬安定性

オンボードでの試薬安定性の試料は,低濃度,中濃度,および高濃度に調整した3種類のプール血清をそれぞれ小分けにし,−40℃で凍結保存したものを用いた。測定は3種類の試料をそれぞれ室温で融解および転倒混和し,同一キャリブレーションにて1日2回測定を初日から30日目まで5日毎に測定した。統計学的な評価は初日の測定平均値を基準値とし,基準値に対する各測定日の平均値の変化率を算出し,基準値 ± 5%以内を許容とした。試験期間中,試薬は装置内に搭載したまま冷却状態を維持し,開栓状態で保管した。

4. 定量限界

定量限界の試料は,LRG濃度が約8 μg/mLのプール血清を生理食塩水で13段階に希釈し,それぞれ小分けにし,−40℃で凍結保存したものを用いた。測定は試料をそれぞれ室温で融解および転倒混和し,1日2回ずつ5日間測定した。統計学的な評価は定量限界に近いと推定される濃度に対するCV%点から回帰曲線を求め,CV10%値を算出した。

5. 希釈直線性

希釈直線性の試料には,LRG濃度が約120 μg/mLのプール血清を生理食塩水で10段階,2系列の希釈系列として作製したものを用いた。測定は2系列の試料をそれぞれ2重測定した。統計学的な評価は,得られた平均値から回帰式を算出し,分散分析で残差分散と純誤差分散の比からのF統計量によって有意確率p ≥ 0.001の時,測定範囲内で直線性があるとした。

6. 外部施設との相関性

相関性の試料は,LRG測定依頼があった患者血清64検体を用いた。対照は外部委託機関にて測定した。外部委託機関のLRG測定試薬は,検討試薬と同じナノピアLRGを用い,測定機器はJCA-BM8020(日本電子株式会社)が用いられた。統計学的な評価は,Demingの線形回帰式を求め,相関係数0.95以上で,かつブートストラップ法により,傾きとy切片が95%信頼区間の範囲内であることを確認した。

7. 干渉物質の影響

干渉物質の影響の評価に用いた試料は,LRG濃度が約20 μg/mLの血清プールを用いた。測定は血清9容に5段階希釈した干渉チェック・Aプラス(シスメックス),ならびに干渉チェック・RFプラス(シスメックス)1容をそれぞれ添加し,3重測定した。干渉物質は,遊離ビリルビン,抱合型ビリルビン,ヘモグロビン,乳び,およびリウマトイド因子の5種類である。統計学的な評価は,干渉物質添加後の測定値が未添加時の測定値の±5%以内を許容とした。

8. プロゾーン現象確認

プロゾーン現象の確認に用いた試料は,試薬メーカーから提供を受けたLRG濃度が約200 μg/mLのプール血清を生理食塩水で各理論値(160 μg/mL, 120 μg/mL, 100 μg/mL, 50 μg/mL, 25 μg/mL)に調整した2系列を用いた。測定は,2系列の試料をそれぞれ2重測定した。プロゾーン現象の評価は,得られた平均値から回帰式を算出し理論値との乖離の有無を確認した。

9. 統計学的解析

統計学的解析は,日本臨床化学会が刊行するバリデーション算出プログラムValidation-Support/Excel Ver 6.0を用いた7)

IV  検討結果

1. 併行精度

低濃度プール血清の平均値,SD,およびCVは,それぞれ7.01 μg/mL,0.11 μg/mL,および1.54%であった。中濃度プール血清の平均値,SD,およびCVは,それぞれ17.05 μg/mL,0.13 μg/mL,および0.74%であった。高濃度プール血清の平均値,SD,およびCVは,それぞれ50.02 μg/mL,0.41 μg/mL,および0.83%であった(Table 1)。

Table 1 Repeatability

(n = 20)

Low Middle High
Mean (μg/mL) 7.01 17.05 50.02
SD (μg/mL) 0.11 0.13 0.41
CV (%) 1.54 0.74 0.83

Abbreviations: SD, standard deviation; CV, coefficient of variation

2. 室内再現精度

低濃度プール血清の平均値,SD,およびCVは,それぞれ7.11 μg/mL,0.11 μg/mL,および1.61%であった。中濃度プール血清の平均値,SD,およびCVは,それぞれ16.34 μg/mL,0.33 μg/mL,および2.05%であった。高濃度プール血清の平均値,SD,およびCVは,それぞれ46.75 μg/mL,2.00 μg/mL,および4.29%であった(Table 2)。

Table 2 Intermediate precision

(n = 30)

Low Middle High
Mean (μg/mL) 7.11 16.34 46.75
SD (μg/mL) 0.11 0.33 2.00
CV (%) 1.61 2.05 4.29

Abbreviations: SD, standard deviation; CV, coefficient of variation

3. オンボードでの試薬安定性

低濃度プール血清,中濃度プール血清,および高濃度プール血清の基準値は,それぞれ7.61 μg/mL,17.98 μg/mL,および45.24 μg/mLであった。いずれの濃度においても,30日間に亘って基準値から5%以上の変動は認められなかった(Figure 1)。

Figure 1  Reagent stability test

The dotted line indicates ±5% of the acceptable range.

The concentrations corresponding to 0% were measured 7.61 μg/mL in the low-concentration group, 17.89 μg/mL in the middle-concentration group, 45.24 μg/mL in the high-concentration group.

4. 定量限界

定量限界は,1.37 μg/mLであった(Figure 2)。

Figure 2  Quantitative limit analysis

Abbreviations: CV, coefficient of variation

5. 希釈直線性

測定値の平均値は,原点を通る直線性を示した(Figure 3)。残差変動の分散と級内変動の分散比の有意確率p = 0.8719より,p ≥ 0.001であることから測定範囲内で直線性があると判定した。

Figure 3  Dilution linearity test

6. 外部施設との相関性

相関性は,検討試薬の測定値をy軸,外部委託機関の測定値をx軸とした場合,Demingの線形回帰式y = 1.023x − 0.164,相関係数r = 0.998であった(Figure 4)。Demingの95%信頼区間は,傾き0.971–1.050,y切片−0.457–0.422であった。

Figure 4  Correlation of LRG value between cobas c702 and JCA-BM8020

Abbreviations: LRG, leucine rich alpha-2 glycoprotein

7. 干渉物質の影響

干渉物質の測定値への影響は,干渉物質の最大濃度,すなわちヘモグロビン濃度480 mg/dL,遊離型ビリルビン19.7 mg/dL,抱合型ビリルビン20.1 mg/dL,乳び1480ホルマジン濁度,リウマトイド因子500 IU/mLにおいても,測定値は,未添加時の測定値の5%以内の変化率であった(Figure 5)。

Figure 5  Effects of interfering substances

The dotted line indicates ±5% of the acceptable range.

8. プロゾーン現象確認

プロゾーン現象は,LRG濃度が測定上限の100 μg/mL以上の試料で認められ,200 μg/mLを超えると測定上限値よりも低値を示した(Figure 6)。

Figure 6  Prozone phenomenon analysis

V  考察

本研究では,汎用生化学自動分析装置コバスc702モジュールにおけるナノピアLRGの基礎的性能を評価し,日常業務で利用可能な基本性能を有していることを確認した。

併行精度,ならびに室内再現性精度は,低・中・高濃度プール血清のいずれにおいてもCVが5%以内と良好であり,さらに試薬のオンボード安定性も30日間に亘って安定していた。これは,ナノピアLRGを他の汎用生化学自動分析装置で評価した基礎的性能の結果と同等の性能であり8),ナノピアLRGとコバスc702モジュールの組み合わせにおいても安定した測定値を提供することが可能であると考えられた。

ナノピアLRGの測定原理は,ラテックス粒子を用いた免疫比濁法であり,測定値の解釈はプロゾーンの影響を念頭に置く必要がある9)。特にIBD患者は治療に用いる免疫抑制剤や生物学的製剤の影響で易感染宿主となり,敗血症などの全身性の感染症を併発する場合がある10)。その場合にはLRG濃度は極端に高値となる可能性がある。本研究のプロゾーンの影響は,測定上限の100 μg/mLを超えると測定値の低値化が起こり,LRG濃度が200 μg/mLの試料では,LRG濃度は測定上限の100 μg/mLを下回った。このことから,LRG濃度が測定上限の100 μg/mL付近の検体は希釈再測定により,プロゾーンの影響の確認,ならびに回避が必要であると考えられた。なお,本研究の希釈直線性は測定範囲内では良好な直線性が得られていることから,プロゾーンの影響を回避するための希釈再測定による測定値への影響は,認められないと考えられた。

本研究にはいくつかの限界点も認められた。第一に,本研究はコバスc702モジュールとナノピアLRGの組み合わせのみの検証であり,他の汎用生化学自動分析装置で本研究と同様の基礎的性能が発揮されるか明らかではない。第二に,干渉物質の影響において,干渉物質の最大濃度までのLRG濃度は添付文書の性能を担保していることを確認したが,添加した干渉物質の最大濃度を超える検体については十分に検討できていない。第三に,ナノピアLRGの測定原理はラテックス免疫比濁法であることから,ラテックス免疫比濁法の測定値に影響を与える因子,すなわち,異好抗体,自己抗体,およびモノクローナル蛋白などの異常蛋白の影響については検証できていない9)

VI  結論

ナノピアLRGは,コバス702モジュールにおいて良好な基礎的性能を有することを確認した。ナノピアLRGは,汎用生化学自動分析装置に搭載可能であり,IBD患者の診察前検査として,臨床検査室での幅広い利用が可能であると考えられた。

本検討は近畿大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:R05-105)。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

文献
 
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