医学検査
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症例報告
エチレングリコール中毒患者の尿中からシュウ酸カルシウム結晶を認めた一症例
田中 佑佳萩原 風太久住 裕俊村越 大輝足立 華美白川 るみ
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2026 年 75 巻 2 号 p. 428-432

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Abstract

エチレングリコール中毒では,代謝産物として生成されたシュウ酸がカルシウムと結合して沈着し,尿中に特徴的なシュウ酸カルシウム結晶が出現することがある。今回我々は,尿沈渣所見が診断の契機となった10代女性のエチレングリコール中毒の一例を経験した。患者は自宅で意識障害と嘔吐の状態で発見され,当院へ救急搬送された。血液ガス分析ではアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスを認め,腎機能低下と尿沈渣検査にて多数の長六角形の結晶を確認した。これらの結晶は酢酸に不溶で塩酸に可溶であり,シュウ酸カルシウム結晶と同定した。臨床経過および不凍液の摂取状況,尿中のシュウ酸カルシウム結晶の出現から自殺企図によるエチレングリコール中毒と診断し,緊急血液透析を開始した。治療後は尿中結晶の減少と腎機能の改善を認めた。エチレングリコール中毒は,代謝性アシドーシスや腎障害を来す致死的中毒であり,尿中に出現する長六角形のシュウ酸カルシウム結晶は診断上重要な手がかりとなる。尿沈渣検査では典型像にとらわれず,形態の多様性を見逃さずに観察し,速やかに臨床へ報告することが治療開始の契機となる。

Translated Abstract

In ethylene glycol poisoning, oxalic acid—a metabolic byproduct—binds with calcium to form precipitates, resulting in the appearance of characteristic calcium oxalate crystals in the urine. We report a case of ethylene glycol poisoning in a teenage girl, in which urinary sediment findings prompted the diagnosis. The patient was found at home with impaired consciousness and vomiting, and was transported to our hospital by emergency medical services. Blood gas analysis revealed high-anion-gap metabolic acidosis and decreased renal function; microscopic examination of the urinary sediment showed numerous elongated hexagonal crystals. These crystals were insoluble in acetic acid but soluble in hydrochloric acid, and were identified as calcium oxalate. Based on the clinical course and a history of antifreeze ingestion, the appearance of calcium oxalate crystals in urine, the patient was diagnosed with ethylene glycol poisoning due to a suicide attempt, and emergency hemodialysis was initiated. Following treatment, the number of urinary crystals decreased, and renal function improved. Ethylene glycol poisoning is a potentially fatal condition that can cause metabolic acidosis and renal injury, and the presence of elongated hexagonal calcium oxalate crystals in urine serves as an important diagnostic clue. Urinary sediment examination should not be limited to recognizing typical forms; rather, careful attention to morphological diversity and prompt clinical reporting can facilitate timely initiation of treatment.

I  はじめに

シュウ酸カルシウム結晶は,尿沈渣検査で最も頻繁に観察される結晶の一つであり,通常は臨床的意義が乏しいとされる。しかし,尿中にシュウ酸カルシウム結晶が検出されることは,尿路結石症や中毒など,特定の病態において診断の手がかりとなる場合がある1)~3)。本結晶の形態学的特徴としては,無色で屈折性を有し,正八面体,亜鈴状,ビスケット状,楕円状などが典型的な形態として知られており,主に弱酸性からアルカリ性尿で認められる。また,化学的性状としては酢酸に不溶であり,塩酸には徐々に溶解することが特徴である4)

一方,エチレングリコールは,不凍液や保冷剤,溶媒などに広く使用される無色・無臭で甘味を有する液体であり,誤飲や自殺企図による中毒例が報告されている1),2),5)。米国の中毒コントロールセンターの報告では2007年に5,395名のエチレングリコール中毒症例があるが6),我が国においては過去1987–2002年の期間で報告された症例数は16例程度とその数は限定的であり,自殺企図による摂取が最も多い5)。体内に摂取されたエチレングリコールは,アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase; ADH)により代謝され,最終的に生成されたシュウ酸が血中のカルシウムと結合してシュウ酸カルシウム結晶を形成する。これにより腎尿細管障害や代謝性アシドーシス,循環不全,呼吸不全などの重篤な臓器障害を引き起こす7)

今回我々は,尿沈渣にて特徴的形態のシュウ酸カルシウム結晶8),9)を認め,早期診断および治療方針の決定に寄与したエチレングリコール中毒の一例を経験したので報告する。

II  症例

患者:10代女性。

主訴:意識障害,不穏,嘔吐。

既往歴:特記事項なし。

現病歴:20XX年5月,自宅トイレで倒れているところを家族に発見された。発見時,意識障害および嘔吐を認めたため,当院へ救急搬送された。室内には内容量の減少した不凍液の容器があり,嘔吐物にも混入を疑わせる色調が認められた。受診時の意識レベルはJapan Coma Scale(JCS)III-100と不穏が著明であった。自発呼吸は保たれていたが,会話は不能な状態であった。家族への聴取では,入院前日まで精神的異常や自殺企図を疑わせる徴候は認められていなかった。

III  検査結果

1. 血液検査結果

血液ガス分析では,アニオンギャップ(anion gap; AG)20.0 mmol/L,重炭酸イオン(HCO3)7.8 mmol/L,塩基過剰(BE)−21.2 mmol/Lと著明なAG開大性代謝性アシドーシスを認め,乳酸(Lac)は124 mg/dLと高値を示した。血清クレアチニン(Cr)値は0.87 mg/dL,推定糸球体濾過量(eGFR)は72.8 mL/minであり,軽度の腎機能低下を認めた(Table 1)。

Table 1 来院時血液検査結果

血算 生化学 血液ガス分析(静脈)
WBC 87 102/μL TP 8.5 g/dL pH 7.06
RBC 487 104/μL ALB 5.5 g/dL pCO2 27.6 mmHg
Hb 14.4 g/dL T-Bil 0.4 mg/dL pO2 30.2 mmHg
Ht 47.6% BUN 7 mg/dL HCO3 7.8 mmol/L
MCV 98 fL CRE 0.87 mg/dL BE −21.2 mmol/L
MCH 29.6 pg eGFR 69 mL/min AG 20 mmol/L
MCHC 30.3 g/dL Na 141 mmol/L Lac 124 mg/dL
Plt 23.6 104/μL K 5 mmol/L
NEUT% 82.4% Cl 113 mmol/L
LYMPH% 14.7% Ca 9.4 mg/dL
MONO% 2.5% IP 3.8 mg/dL
EOSINO% 0.1% AST 16 U/L
ALT 10 U/L
LD 249 U/L
CK 74 U/L
ALP 72 U/L
AMY 172 U/L
CRP 0.01 mg/dL
GLU 128 mg/dL
NH3 35 μg/dL

これらの所見から,AG開大性代謝性アシドーシスを呈する中毒性物質の摂取が背景にある可能性が強く示唆された。

2. 尿検査結果

尿定性検査は,蛋白,糖,潜血はいずれも陰性であり,尿中薬物検査も陰性であった。これらの結果から,尿中への明確な中毒性物質の排泄は認められなかった(Table 2)。

Table 2 来院時尿検査結果

尿半定量 尿沈渣 尿中薬物
比重(屈折計法) 1.011 RBC 1–4/HPF 判定 (−)
pH 5 WBC < 1/HPF
蛋白 (−) 扁平上皮細胞 < 2/HPF
(−) 尿路上皮細胞 1–4/HPF
ケトン体 (−) 尿細管上皮細胞 1–4/HPF
ウロビリノーゲン (±) 硝子円柱 5–9/WF
ビリルビン (−) 細菌 (−)
潜血 (−) 上皮円柱 5–9/WF
白血球 (−) 塩類・結晶円柱 1–4/WF
亜硝酸 (−) シュウ酸カルシウム結晶 (2+)

一方,尿沈渣検査では,判別困難な長六角形を主体とする多数の結晶を認め,一部は束状に集積しリン酸カルシウム結晶にも類似していた(Figure 1)。また,シュウ酸カルシウム結晶の典型的な形態である正八面体の結晶も少数認められた。結晶の同定を目的として実施した溶解試験では,希酢酸に不溶(Figure 2a),希塩酸に可溶である(Figure 2b)が,リン酸カルシウム結晶は希酢酸と希塩酸に可溶なことから鑑別可能である。さらに硝酸銀染色で陽性を示したことから,これらの結晶はシュウ酸カルシウム結晶と同定した(Figure 3)。

Figure 1  尿沈渣中に認められた結晶(×400)

長六角形を主体とする多数の結晶が認められた。

Figure 2  溶解試験結果(×400)

(a)希酢酸によって溶解しなかった。

(b)希塩酸では溶解した。

Figure 3  硝酸銀による染色像(×400)

染色性は(+)であった。

IV  経過

以上の検査所見からエチレングリコール中毒が強く疑われたため,搬送当日に緊急血液透析(hemodialysis; HD)を開始した。5時間後の血液ガス分析では,Lacの低下は乏しく,AGは依然として開大傾向を示した。さらに,尿沈渣検査にてシュウ酸カルシウム結晶の持続的な出現を認めたことから,改善が不十分と判断し,体内でのエチレングリコールの再分布を考慮して,HDに加えて持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration; CHDF)を併用した。治療2日目には一時的にシュウ酸カルシウム結晶の増加および血清Cr値の上昇を認めたが,3日目にはいずれも改善に転じ,血液ガス分析ではpH(potential of hydrogen)7.422とアシドーシスも改善した。治療7日目には血清Cr値は0.77 mg/dL,eGFRは83.2 mL/minと腎機能が回復し,全身状態も安定したため退院となった。

V  考察

エチレングリコールは摂取後,腸管から速やかに吸収され,肝臓でADHによってグリコアルデヒドに代謝される。その後,グリコール酸・シュウ酸を経て,重篤な代謝性アシドーシスおよび腎障害を引き起こす。特にシュウ酸は,血中のカルシウムと結合し,低カルシウム血症や結晶沈着による組織傷害を惹起する。腎尿細管に沈着したシュウ酸カルシウム結晶は,急性尿細管壊死を引き起こし,急性腎不全の原因となるため,早期に透析療法を行うことが重症化を防ぐ鍵となる7)

本症例では,血中エチレングリコール濃度の測定や拮抗薬であるホメピゾール1)やエタノールの使用が困難な状況であったが,尿沈渣検査で認めた長六角形のシュウ酸カルシウム結晶が診断の決め手となり,早期に透析を開始することができた。このように,臨床検査技師による尿沈渣検査の注意深い観察と迅速な報告は,救命につながる情報を提供し得ることを改めて示している。

エチレングリコール中毒における尿沈渣所見については,国内外で複数の報告があり5),10),多くは典型的な正八面体とは異なる長六角形や楕円形の結晶が大量に出現することが指摘されている。既報例2)でも,これらの非典型的な形態を契機に診断に至ったケースが少なくない。本症例も同様に,異常な形態を見逃さずに臨床へ報告したことが,確定診断の糸口となった。

一方で,通常見られるシュウ酸カルシウム結晶は臨床的意義が低いことが多く,形態異常や急激な増加を正しく認識できなければ診断が遅れる可能性がある。

エチレングリコール中毒は進行が速く,中毒量(1.0~1.5 mL/kgまたは100 mL)と致死量(1.4~1.6 mL/kg)の幅が狭いことが知られている11)。そのため,原因物質が特定できない症例においても,尿沈渣所見とAG開大性代謝性アシドーシスを手がかりに早期透析を開始することが救命につながる。本症例では,尿沈渣中にシュウ酸カルシウム結晶を認めた段階でカルテ記載から患者背景を確認し,主治医へ連絡を行った。結晶の形態的特徴や量だけでなく形態変化を含め情報提供することにより,早期に治療方針変更が可能となった。臨床医へ連絡の際は,報告する技師間で差が生じないように,報告事項の標準化(形・量・関連薬剤),電子カルテへの画像添付,薬剤関連性の明示など,手順を明確化しておくことが有用である。このように,検査室と臨床の緊密な連携体制を構築することが,重症中毒症例のような緊急性を要する症例に対応するために必要不可欠である。

VI  結語

尿沈渣にて特徴的な長六角形のシュウ酸カルシウム結晶を認めたことが,エチレングリコール中毒の早期診断および治療開始につながった一例を報告した。非典型的形態の結晶を見逃さず,臨床へ迅速に報告することは,致死的中毒の診断において極めて重要な手がかりとなる。尿沈渣検査は簡便ながらも,中毒診断に有用な情報を提供し得る検査であり,今後は検査室と臨床の緊密な連携体制の構築が一層重要となる。

本症例は静岡県立総合病院臨床研究倫理委員会で審査され承認を受けた(承認番号:SGHIRB​#​2025​037​CR)。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

文献
 
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