PIVKA-II(Protein Induced by Vitamin K Absence or Antagonist-II)はAFPと並ぶ肝細胞癌(hepatocellular carcinoma; HCC)の代表的な腫瘍マーカーである。質量単位(ng/mL)を導入したRoche法PIVKA-II(Roche法)測定試薬について,従来法(HISCL法,mAU/mL)との比較評価を行い,その臨床的有用性を多角的に検討した。再現性は極めて良好であった。両法の相関は二峰性を示し,k-means法により値が近似する「近似群」(n = 276,回帰式:y = 0.68x + 3.13)と,Roche法が約6倍低値を示す「乖離群」(n = 45,回帰式:y = 0.12x + 63.9)に明確に分類された。カットオフ値での診断一致率は95.3%(陽性的中率92.9%,陰性的中率96.6%)と高値であった。絶対値が大きく異なる乖離群の症例においても,治療経過に伴う推移はHISCL法と一致した変動を示した。Roche法は,HCCの診断および経過モニタリングに有用なマーカーである。しかし従来法との測定値の互換性はなく,客観的に分類可能な2つの乖離パターンが存在することが本検討を通して明らかになった。PIVKA-II測定試薬の切り替え時には,試薬特性を明確に診療科に説明することが重要である。
Protein Induced by Vitamin K Absence or Antagonist-II (PIVKA-II) is a major tumor marker for hepatocellular carcinoma (HCC), alongside alpha-fetoprotein (AFP). We conducted a multifaceted evaluation of the clinical utility of the new Roche PIVKA-II assay (Roche assay), which uses mass units (ng/mL), by comparing it with the conventional HISCL method (mAU/mL). The reproducibility of the Roche assay was excellent. The correlation between the two methods showed a bimodal distribution. Using k-means clustering, samples were objectively classified into two distinct groups: an “approximate group” (n = 276; regression: y = 0.68x + 3.13) and a “discrepant group” (n = 45), in which the Roche assay values were approximately 6-fold lower (regression: y = 0.12x + 63.9). The diagnostic agreement at the clinical cutoffs was high at 95.3% (Positive Predictive Value 92.9%, Negative Predictive Value 96.6%). Importantly, even in cases from the discrepant group, the longitudinal trends for monitoring treatment progress showed consistent fluctuations comparable to the HISCL method. In conclusion, the Roche PIVKA-II assay is a useful marker for the diagnosis and monitoring of HCC. However, its measured values are not interchangeable with the conventional method due to the existence of two objectively classifiable discrepancy patterns. It is therefore essential that individual patients are consistently monitored using the same assay.
肝細胞癌(hepatocellular carcinoma; HCC)は肝硬変などの慢性肝疾患を背景に発症することが多く,本邦におけるがん関連死の主要な原因のひとつである1)。HCCの予後改善には早期診断と治療効果の的確なモニタリングが不可欠であり,その一助としてα-フェトプロテイン(alpha-fetoprotein; AFP)やProtein induced by vitamin K absence or antagonist-II(PIVKA-II)といった血清腫瘍マーカーが臨床で広く用いられている2)。PIVKA-IIはビタミンK欠乏時に肝臓で産生される異常プロトロンビンであり,特にHCCに対する特異性の高いバイオマーカーとしてAFPと相補的な役割を果たす3)。しかしながら,PIVKA-IIの測定法は国際的に標準化されておらず,測定系によって測定値や基準範囲が異なることが課題となっている4)。
近年,ロシュ・ダイアグノスティックス社から新しいPIVKA-II測定試薬が上市された。本試薬は従来多くの施設で採用されてきた発光信号とキャリブレーションに基づく任意単位(mAU/mL)ではなく,質量濃度(ng/mL)で報告する点が大きな特徴である。この単位系の違いや測定原理の相違から,既存の測定法との測定値の互換性や,異なるカットオフ値の臨床的解釈には注意が必要となる。特に,治療経過のモニタリングにおいて,ロシュ社試薬が従来法と同様の臨床的価値を提供できるかについての報告は未だ十分ではない。
そこで本研究では,ロシュ社PIVKA-II測定試薬の基礎的性能(再現性)を評価するとともに,従来法との測定値の相関性を評価した。さらに,HCC患者の治療経過モニタリングにおける本試薬の臨床的有用性を明らかにすることを目的とした。
本研究は後方視的研究として岐阜大学大学院医学系研究科等倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:2024-036)。対象は当院の外来および入院患者で2024年9月1日から2025年3月19日および2025年8月4日から29日までにAFPまたはPIVKA-IIの測定依頼のあった診療残余検体321件とした。
2) 精度管理物質再現性評価にはメーカー指定の精度管理物質であるエクルーシス®プレチコントロールHCC(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)の2濃度(Level 1, Level 2)を用いた。
2. 測定方法 1) Roche法PIVKA-II測定試薬は「エクルーシス® PIVKA-II」,測定装置は「cobas 8000 e801」(いずれもロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた。本法は電気化学発光免疫測定法(ECLIA)を測定原理とし,測定単位はng/mLである。臨床的カットオフ値は添付文書記載の28.4 ng/mLとした。
2) HISCL法PIVKA-II比較対照として,当院のルーチン法である「PIVKA-II試薬(HISCL)」(シスメックス株式会社)を用いた。測定装置は全自動免疫測定装置「HISCL-5000」(シスメックス株式会社)である。本法は化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)を測定原理とし,測定単位はmAU/mLである。臨床的カットオフ値は添付文書記載の40 mAU/mLとした。
3) その他の検査データ検査値の経時的推移の比較には,AFPおよびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の測定値も診療録から抽出し,評価に用いた。
3. 性能評価 1) 再現性併行精度は2濃度の精度管理物質を各20回連続で測定し,平均値,標準偏差(SD),変動係数(CV%)を算出した。室内再現精度は,同物質を試薬架設日より再キャリブレーションを行わない条件下で10日間にわたり1日1回測定し,同様に評価した。
2) 相関分析321件の臨床検体を両測定法で並行測定し,結果を比較した。また,両測定法のカットオフ値に基づき,2 × 2分割表を作成して診断一致率,陽性的中率,陰性的中率を算出した。
3) 経時的推移の比較K-means法によって分類された「近似群(Cluster A)」および「乖離群(Cluster B)」について,それぞれのクラスターから代表的な2症例を抽出した。これらの症例について,Roche法およびHISCL法によるPIVKA-II測定値,ならびに診療録から得られたAFPおよびALTの測定値を抽出し,治療経過に伴う推移を比較評価した。
4. 統計解析相関性の評価には,Passing-Bablok回帰分析およびKendallの順位相関係数(τ)を用いた。診断一致率,陽性的中率,陰性的中率は,2 × 2分割表を用いて算出した。いずれの解析もJMP® Student Edition 18.2.2(JMP Statistical Discovery LLC)を用いて実施した。
また,両測定法の関係性に認められた二峰性の乖離パターンを客観的に分類するため,教師なし機械学習であるk-means法(k = 2)を適用した。クラスタリングはPython 3.9.5にて行い,各検体の測定値から算出した対数比 log10(Roche法測定値/HISCL法測定値)を変数として実行した。k-means法によって分類された2つのクラスターそれぞれについても,同様にPassing-Bablok回帰分析およびτを算出した。
エクルーシス®プレチコントロールHCCの2濃度について,各濃度を20回連続測定し,得られた平均値(Mean),標準偏差(SD)から算出したCV%は,Level 1:0.8,Level 2:0.6と良好な結果であった(Table 1)。
| PreciControl HCC 1 | PreciControl HCC 2 | ||
|---|---|---|---|
| Repeatability (N = 20) |
Mean (ng/mL) | 21.2 | 320.5 |
| SD (ng/mL) | 0.17 | 2.06 | |
| CV% | 0.8 | 0.6 | |
| Intermediate Precision (N = 10) |
Mean (ng/mL) | 21.6 | 324.5 |
| SD (ng/mL) | 0.30 | 3.44 | |
| CV% | 1.4 | 1.1 |
試薬架設日から再キャリブレーションを行わない条件下で1日1回の測定を行った。得られた測定値から,併行精度と同様に算出したCV%は,Level 1:1.4,Level 2:1.1と良好な結果であった(Table 1)。
2. 相関分析患者検体321件を対象にRoche法(y)とHISCL法(x)によるPIVKA-II測定値の相関を評価したところ,τ = 0.718,回帰式(Passing-Bablok回帰)y = 0.40x + 7.40であった(Figure 1a)。y = 1.0x近傍に集積する群に加え,Roche法が下方に位置する群が確認されたが,両測定法のカットオフ値(Roche法:28.4 ng/mL,HISCL法:40 mAU/mL)に基づく一致率は95.3%(陽性的中率92.9%,陰性的中率96.6%)であった(Table 2)。

a) Correlation analysis of all 321 samples. b) Correlation analysis of 226 samples in the low concentration range (≤ 80 ng/mL for Roche; ≤ 80 mAU/mL for HISCL).
| HISCL PIVKA | |||
|---|---|---|---|
| < 40.0 mAU/mL | ≥ 40.0 mAU/mL | ||
| Roche PIVKA | < 28.4 ng/mL | 201 | 8 |
| ≥ 28.4 ng/mL | 7 | 105 | |
Accuracy 95.3%, Positive predictive value 92.9%, Negative predictive value 96.6%
カットオフ値付近における相関性を確認するため,Roche法が80 ng/mL以下,かつHISCL法が80 mAU/mL以下であった226件を抽出し再評価を行った。その結果,τ = 0.505,回帰式y = 0.54x + 5.16であった(Figure 1b)。
3. K-means法による乖離パターンの客観的分類と相関分析Roche法とHISCL法の測定値間にみられた二峰性の乖離パターンを客観的に分類するため,測定値の対数比 log10(Roche/HISCL)を変数として,教師なし機械学習であるk-means法(k = 2)を用いたクラスタリングを行った。その結果,2つのクラスターに明確に分類された(Figure 2a)。

a) Frequency distribution of the log10-transformed ratio of Roche to HISCL values. b) Passing-Bablok regression analysis for the “approximate group” (Cluster A) and the “discrepant group” (Cluster B).
分類された2群それぞれについて,Passing-Bablok回帰分析を行い,相関性を評価した(Figure 2b)。Cluster A(近似群,n = 276)は両測定法の値が比較的近い値を示す群であり,回帰式はy = 0.68x + 3.13(τ = 0.667)であった。この群の測定値の対数比は0を中心に分布していた。Cluster B(乖離群,n = 45)はRoche法の測定値がHISCL法に対して低値を示す群であり,回帰式はy = 0.12x + 63.9(τ = 0.855)であり,測定値の対数比は−0.8付近を中心に分布し,約6倍低値を示した。2群における患者背景やその他の検査値における特徴的な差異は認められなかった。
4. 経時的推移の比較 1) 近似検体Cluster Aに分類された近似群のうち2例について,AFPおよびALTとともにRoche法,HISCL法の検査値の推移を比較した。その結果,概ね一致した変動を示した(Figure 3)。

a) Female, 73 years old. b) Male, 72 years old.
Atezo + Bev, atezolizumab plus bevacizumab; LEN, lenvatinib.
近似検体と同様にCluster Bに分類された乖離群のうち2例について検査値の推移を比較した結果,近似検体と同様に,Roche法とHISCL法での変動に差異は認められなかった(Figure 4)。

a) Female, 72 years old. b) Male, 82 years old
Atezo + Bev, atezolizumab plus bevacizumab; TACE, transcatheter arterial chemoembolization.
本研究はロシュ・ダイアグノスティックス社のPIVKA-II測定試薬について,その基礎的性能と国内で広く使用されている単位系のHISCL法との比較評価を目的とした。その結果,Roche法の再現性は併行精度および室内再現精度ともに極めて良好であり,日常検査における高い信頼性が確認された。HISCL法との相関分析では,全体として一定の相関性は認めたものの,系統的な乖離の存在が明らかとなった。特に,一部の検体群ではRoche法の測定値がHISCL法の約1/6となる顕著な乖離を示す二峰性の関係が観察された。一方で,カットオフ値付近の低濃度域に限定すると両者の値は近似する傾向にあった。臨床的に最も重要な点として,測定値の絶対値が大きく異なる症例においても,個々の患者における経時的な推移は両測定法で概ね一致した変動パターンを示した。これは絶対値の互換性はないものの,個体内でのモニタリングツールとしての有用性は保持されていることを示唆する。
PIVKA-II測定におけるアッセイ間の不一致は国際標準品が存在しないことに起因する長年の課題であり,これまでの多くの研究で報告されている4)~6)。本研究で用いたRoche法についてはChanら7)による大規模な国際共同研究において,28.4 ng/mLのカットオフ値で高い診断性能(感度86.9%,特異度83.7%)を有することが示されている。本研究においても両測定法のカットオフ値に基づく陽性・陰性一致率が95.3%と高かったことは,診断補助という目的においてRoche法が優れた性能を持つというChanらの報告と整合性の取れる結果である。しかしながら,Chanらの研究は主に診断性能に焦点を当てており,他の測定法との測定値の互換性や乖離原因については詳細に検討されていない。本研究で見出された「測定値が近似する群」と「約6倍乖離する群」という特徴的な二峰性の関係は,他のアッセイ間の比較報告5),6)でも明確に示されておらず,本研究の重要な知見である。これは単位系(ng/mLとmAU/mL)の違いだけでは説明困難であり,より本質的な測定原理の違いを反映していると考えられる。
測定値乖離の根本的な要因は,両測定法で用いられる抗体の反応特異性の違いに起因することが最も考えられる。PIVKA-IIは単一の分子ではなく,プロトロンビン前駆体のN末端にある10箇所のグルタミン酸残基の不完全にカルボキシル化された複数の類縁分子種(des-gamma-carboxy prothrombin; DCP)の総称である8),9)。使用するモノクローナル抗体がこれらの分子種のうち,どのエピトープを認識するかによって両者の反応性が大きく変化することを示唆している。その点では本研究の臨床的意義は大きく,Roche法とHISCL法の測定値に互換性はなく,異なる測定法の結果を直接的に比較して臨床判断を下すべきではないという点を明確にした。転院や測定法変更時には過去のデータとの単純比較は治療方針の誤りを招く危険性があり,ベースライン値を再設定する必要がある。さらに,絶対値は異なっていても時系列での変動傾向は一致していた。これはHCCの治療効果判定や再発モニタリングといった,個々の患者における腫瘍マーカー値の「変化」を追跡する目的において,Roche法はHISCL法と同等の臨床的有用性を持つことを強く示唆する。治療によりPIVKA-IIが低下する,あるいは再発により上昇するといったトレンドはどちらの測定法でも確実に捉えることが可能である。
本研究にはいくつかの限界が存在する。第一に単一施設での検討であり症例数も限られているため,観察された二峰性の乖離パターンが普遍的なものであるかを検証するためには,より大規模な多施設共同研究が必要である。第二に,乖離の原因としてDCP分子種の多様性を推定したが,クロマトグラフィーや質量分析法を用いた分子レベルでの解析は行っていないため,直接的な証明には至っていない。第三に,本研究の対象は主にHCC関連患者であり,ビタミンK欠乏をきたす他の疾患や病態,ワーファリン投与患者において同様の乖離が見られるかは今後の検討課題である。
Roche法PIVKA-II測定試薬は優れた再現性を有する安定した測定系であり,HCCの診断および治療経過モニタリングにおいて臨床的に有用なマーカーである。しかしながら,本試薬への切り替えを検討する際は,測定値の互換性やカットオフ値の違いを十分に考慮し,臨床現場への説明と注意喚起を行うことが重要である。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。