医学検査
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症例報告
血液培養においてStaphylococcus aureusMycobacterium abscessus complexが同時に検出された症例
寺田 晃洋澤井 陽一佐藤 麻友美井上 直人植村 怜塩見 正司
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2026 年 75 巻 2 号 p. 440-445

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Abstract

血液培養から菌が検出される場合,多くは単一菌によるものである。しかし,消化管穿孔や悪性腫瘍を有する患者では,複数の菌種が検出されることがあり,その多くはグラム陽性球菌とグラム陰性桿菌,あるいは嫌気性菌の混合感染である。一方で,一般細菌と抗酸菌が同時検出されることは稀である。今回,我々はStaphylococcus aureusMycobacterium abscessus complex(MABC)が血液培養にて同時に検出された症例を経験した。症例は92歳男性で,食欲低下,発熱,下血,ADL低下を主訴に当院へ紹介された。尿路感染症が疑われ,血液培養2セット採取,ceftriaxoneによる治療を開始した。培養3日目に1セット目からS. aureusが検出された。培養4日目には2セット目からGram染色で不染の桿菌を認めたためZiehl-Neelsen染色(Z-N染色)を行ったところ抗酸菌陽性であった。さらにS. aureusが検出された塗抹標本を再確認したところ同様に不染の桿菌が認められZ-N染色にて陽性を確認した。質量分析の結果,当該菌はMABCと同定された。MABCは近年,感染者の報告が増加しており,迅速発育抗酸菌であることから,一般細菌用の血液培養ボトルでも検出される可能性がある。一般細菌と抗酸菌の同時感染による菌血症では,抗酸菌の存在が見落とされる危険性があるため注意する必要がある。

Translated Abstract

In most cases, positive blood cultures yield a single bacterial species. Polymicrobial blood culture positivity involving gram-positive cocci, gram-negative rods, or anaerobes is occasionally observed in critically ill patients with gastrointestinal perforations or malignancies. However, simultaneous detection of general bacteria and mycobacteria in blood cultures is rare. Here, we present a case in which S. aureus and Mycobacterium abscessus complex (MABC) were concurrently isolated from a single blood culture sample. The patient, a 92-year-old man, was referred to our hospital with anorexia, fever, melena, and impaired activities of daily living. A urinary tract infection was suspected; therefore, two sets of blood cultures were obtained, and empirical treatment with ceftriaxone was initiated. On day 3, S. aureus was isolated from the first set. On day 4, Gram staining of the second set revealed unstained bacilli that were positive for acid-fast staining (Ziehl–Neelsen stain). A retrospective review of smears that yielded S. aureus also demonstrated similar bacilli, which were subsequently confirmed as acid-fast. Matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry (MALDI-TOF MS) identified the organism as MABC. MABC is a rapidly growing mycobacterium (RGM) that has been increasingly reported in recent years and can be detected in standard blood culture bottles. Given the potential for co-detection with general bacteria and NTMs, clinicians should remain vigilant for the presence of mycobacteria, which are at risk of being overlooked in routine blood culture assessments.

I  序文

血液培養において複数の菌種が検出されることは決して稀ではなく,特に腸球菌や腸内細菌目細菌,嫌気性菌が同時に検出されることが多い1),2)。一方で,一般細菌用の血液培養ボトルから一般細菌と抗酸菌が同時に検出されることは稀である。今回我々は,血液培養ボトルからStaphylococcus aureusおよびMycobacterium abscessus complex(MABC)が同時に検出された症例を経験したため,報告する。

II  症例

1. 患者情報

患者:92歳,男性。

主訴:食欲低下,発熱,下血,ADL低下。

既往歴:慢性腎不全,前立腺癌,心房細動,褥瘡。

現病歴:20XX年1月,下血のためかかりつけ医院を受診した。ADL低下,右胸水および気胸が認められたことから,精査加療目的で当院に紹介,入院となった。

入院時身体所見および検査所見:身長163 cm,体重41.8 kg,体温36.3℃,血圧93/68 mmHg,脈拍88回/分,呼吸数16回/分,SpO2 100%(大気吸入下),眼瞼結膜に充血は認められず,眼球結膜に黄染も認められなかった。心音に雑音は聴取されず,腹部に異常所見は認められなかった。下腿に浮腫はみられなかった。一方,仙骨部にIII度の褥瘡が認められ,周囲皮膚は発赤とびらんを呈していた。滲出液は少量であり悪臭は認められなかった。

入院時の血液検査結果では(Table 1),CRP 5.9 mg/dLと高値であり,腎機能障害も認められた。画像検査では,胸部単純CTにて右気胸および右胸水貯留が認められた。腹部単純CTにて肛門裂傷と大腸憩室が認められた。

Table 1 入院時血液検査所見

生化学検査 血液検査
TP 6.1 g/dL WBC 7.5 × 109/L
AST 48 U/L RBC 4.17 × 1012/L
ALT 19 U/L HGB 13.7 g/dL
BUN 119.3 mg/dL HCT 40.3%
CRE 3.49 mg/dL MCV 96.6 fL
eGFR 13.5 mL/min/1.73m2 MCHC 34.0 g/dL
CK 306 U/L PLT 147 × 109/L
AMY 47 U/L 凝固検査
Na 134 mmol/L PT時間 16.2秒
K 4.4 mmol/L INR 1.41
Cl 90 mmol/L APTT 30.4秒
CRP 5.9 mg/dL
T-SPOT.TB 陰性

2. 臨床経過

入院2日目に,眼球の上転およびチアノーゼを呈し,症状は約60秒間持続した。意識消失や血圧低下,心拍異常は認められなかったが,発熱や全身炎症反応に伴う一過性の反射性発作が疑われた。同日,混濁尿および尿検査で亜硝酸塩と白血球増加が認められたことから尿路感染症が疑われ,血液培養2セット,喀痰,胸水,および中間尿を採取し,ceftriaxoneで初期治療を開始した。血液培養から入院5日目にS. aureus,入院6日目に抗酸菌が検出された。その間,発熱は軽微に改善されたが,炎症反応は高値を示しており,感染が続いていることが示唆された。入院9日目に迅速発育抗酸菌(rapidly growing mycobacteria; RGM)を想定し抗菌薬をimipenem(IPM),amikacin(AMK),azithromycin(AZM)へ変更した。抗菌薬変更後も発熱や炎症反応は完全には改善せず,さらに慢性腎不全急性増悪の進行が認められた。腎機能の悪化に伴い,全身状態は悪化し,入院20日目に多臓器不全のため死亡した。

III  微生物学的所見

入院2日目に採取された血液培養検査は,血液培養自動検出装置BD BACTEC FX(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用い,23F好気用レズンボトルおよび22F嫌気用レズンボトル(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)にて実施した。培養3日目に1セット目の好気ボトルが陽性化し,Gram染色ではブドウ球菌様の形態を示すグラム陽性球菌が認められた。培養4日目には2セット目の好気ボトルが陽性化し,Gram染色では不染の桿菌が確認された。これに対してZiehl-Neelsen染色(Z-N染色)およびKinyoun染色を実施したところ,Z-N染色にて陽性に染まる菌体が確認された。さらに1セット目のGram染色標本を再確認したところ,わずかに不染の桿菌が認められたため(Figure 1a),同様にZ-N染色を実施したところ陽性であった(Figure 1b)。血液および喀痰を用いて全自動遺伝子解析装置GENECUBE®(東洋紡株式会社)により,結核菌群ならびにMycobacterium aviumMycobacterium intracellulareの核酸検出を行った結果,いずれも陰性であった。

Figure 1  血液培養ボトル内用液の染色像 ×1,000(油浸レンズ100×)

a)Gram染色:グラム陽性球菌と不染~陰性様の桿菌を認める。

b)Ziehl-Neelsen染色:抗酸菌とブドウ球菌を認める。

血液培養のサブカルチャーはポアメディア羊血液寒天培地(栄研化学株式会社),アキュレートCA羊血液寒天培地(島津ダイアグノスティクス株式会社),チョコレートII寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社),BTB寒天培地(極東製薬工業株式会社)を使用し,35℃ 5%炭酸ガス培養を実施した。培養24時間後,1セット目のボトルからはポアメディア羊血液寒天培地およびアキュレートCA羊血液寒天培地にてβ溶血でスムース型のコロニーを形成した。2セット目のボトルからは各培地上に微小のコロニーを形成した。

喀痰,胸水,および中間尿の培養検査ではいずれも有意な菌は検出されなかった。

グラム陽性球菌の同定および薬剤感受性検査はMicroScan WalkAway 96Plus(ベックマン・コールター株式会社)を使用し,同社のPos Combo 1Jパネルを使用しmethicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)と同定された。抗酸菌の同定および薬剤感受性検査は外部委託により実施した。同定にはMatrix-Assisted Laser Desorption/Ionization–Time of Flight Mass Spectrometry(MALDI-TOF MS)を原理とするMALDI Biotyper(Bruker)を用い,サンプルはエタノール・ギ酸抽出法により前処理を行った。得られたスペクトルはMALDI Biotyper Compass Explorer softwareを用いて解析し,Mycobacteria Library(version 6.0)と照合した結果,MABCと同定された。薬剤感受性検査はCLSI M24 3rd ed3)に準拠した薬剤感受性キットブロスミックRGM(極東製薬工業株式会社)を用いて実施し,得られたMICはCLSI M624)の基準を用いて判定した。Clarithromycin(CAM)に関しては耐性化の誘導を確認するため,14日後に最終判定を行った(Table 2)。

Table 2 薬剤感受性検査結果

薬剤名 MIC(μg/mL) 判定
amikacin(AMK) 8 S
azithromycin(AZM) 4
clarithromycin(CAM) 0.5 S
imipenem(IPM) 8 I
linezolid(LZD) 8 S
levofloxacin(LVFX) 32 I
meropenem(MEPM) 32 R
tobramycin(TOB) 8 R
trimethoprim-sulfamethoxazole(ST) > 160 R

S: susceptible, I: intermediate, R: resistant

IV  考察

MABCはRGMであり,M. abscessus subsp. abscessusM. abscessus),M. abscessus subsp. massilienseM. massiliense),およびM. abscessus subsp. bolletiiM. bolletii)の3亜種が証明されている。近年,肺非結核性抗酸菌症は増加傾向にあり,その中にはRGMであるMABCの症例も含まれていることが報告されている5)。MABCは主に呼吸器や皮膚・軟部組織に感染することが知られており,皮膚・軟部組織感染では,単独ではなく,しばしばS. aureusやグラム陰性桿菌との複合感染例が報告されている6)。血液培養で検出されるRGMの中にはMABCも含まれており,Combaら7)は32例中12例(42.9%)がMABCであったと報告している。Table 3に示す国内報告5例8)~12)はいずれもMABCによる単独感染であり,本症例のように一般細菌と同時に検出された報告はされていない。基礎疾患としては,悪性腫瘍,糖尿病性腎症,自己免疫疾患などの免疫抑制状態を背景に持つ症例が多く認められている。感染部位は皮膚・軟部組織が多く,ほかに肺病変や人工関節周囲感染なども報告されており,多様な侵入門戸から成立し得ることを示している。海外の報告13)では,同様に免疫抑制を背景とする症例が多く,特に中心静脈カテーテル関連の血流感染が多く認められており,国内症例との違いとして注目される。陽転化までの日数は4日~12日と一般細菌に比して長い傾向があるため,血液培養の培養期間が5日程度で終了する施設では,MABCの検出が見落とされる危険性がある。抗酸菌専用の培養ボトルや培養温度の調整,および長期間培養を組み合わせることで,MABCの検出感度が向上することが報告されており14),15),抗酸菌の関与が疑われる場合にはこれらの方法の併用が強く推奨される。

Table 3 日本におけるMABC血流感染症の報告例

症例 年齢/性別 基礎疾患 感染部位 使用抗菌薬 亜種 同時菌種 参考文献
1 81,M 肺非結核性抗酸菌症 meropenem
amikacin
clarithromycin
M. massiliense なし 8)
2 67,M 糖尿病性腎症
直腸癌
皮膚(シャント) 使用無し M.abscessus(推定) なし 9)
3 74,M 糖尿病性腎症 人工関節周囲 amikacin
imipenem
azithromycin
M. massiliense なし 10)
4 59,F 自己免疫性溶血性貧血
特発性血小板減少性紫斑病
抗リン脂質抗体症候群
右手背 amikacin
imipenem
clarithromycin
M. massiliense なし 11)
5 83,M リウマチ性多発筋痛症
大腸癌
皮下腫瘤 meropenem
amikacin
clarithromycin sitafloxacin
不明 なし 12)
6
(本症例)
92,M 慢性腎不全
前立腺癌
心房細動
褥瘡
不明 imipenem
amikacin
azithromycin
不明 S. aureus

今回,血液培養からS. aureusとMABCを同時に検出した症例を経験した。S. aureusは1セットのみで培養3日目に陽性となったことに加え,臨床的所見や他の培養結果から血流感染の起炎菌である決定的な根拠は乏しかったことから,コンタミネーションの可能性が強く疑われた。一方,MABCは2セットから検出されており,血液培養陽性例として真の菌血症と考えられた。

血液培養から抗酸菌が検出されたことから,RGMによる菌血症を想定してIPM,AMK,およびAZMへ治療を変更した。本治療選択は,ATS/ERSガイドライン202016)において推奨されるMABCに対する基本的な薬剤構成に準拠したものである。MABCに対してはマクロライド系薬剤を基幹薬とし,アミノグリコシド系およびカルバペネム系薬との併用療法が推奨されている。一方で,血液培養1セットのみからMSSAが検出されていたが,コンタミネーションの可能性が高いと判断し,積極的治療を行わなかった。ただし,仮にMSSAが起炎菌であった場合,IPMの抗菌スペクトル内でカバーされていた可能性はあるものの,MSSA菌血症に対する第一選択薬とは異なる治療であり,十分な効果は期待しにくい。このため,複数菌が同時に検出された症例では,それぞれの菌種の臨床的意義を慎重に評価し,必要に応じて治療方針を再検討することが重要である。

血液培養において複数菌が同時に検出される割合は6%~11%1),2)とされており,その大半は腸球菌,腸内細菌目細菌,および嫌気性菌などの一般細菌の組み合わせである。一方,血液培養からの迅速発育抗酸菌の検出は散見されるが,同時検出については,我々の調べた限りではこれまでの報告はなかった。Nandanwarら17)in vitroの研究では,S. aureusとMABCを共培養すると,単独培養と比較して有意にMABCの増殖が抑制されると報告している。本症例においてもS. aureusが検出されたサブカルチャーの培地ではMABCのコロニーは形成されなかった。このことから仮に両方のボトルでS. aureusが優位に増殖していた場合,MABCの存在が見落とされていた可能性がある。

MALDI-TOF MSでは3亜種の鑑別は困難である。これらの亜種間ではマクロライド系薬剤に対する感受性に大きな差があり,M. massilienseは高い感受性を示すのに対し,M. abscessusM. bolletiiは耐性を示す傾向がある18)。ただし,亜種の鑑別には,薬剤感受性パターンを参考としながらも,最終的にはDNAクロマトグラフィーなどの分子生物学的手法を用いた同定が求められる。本症例で分離されたMABCはCAMの薬剤感受性検査の結果からM. massilienseの可能性が考えられるものの,分子生物学的手法を実施していないため亜種同定までは至らなかった。

本症例では胸部CTに肺炎像は認められず,3連痰からもMABCは検出されなかったことから,呼吸器感染症は否定的であった。一方で,入院時より仙骨部に褥瘡が認められ,慢性的な皮膚バリア障害が存在していた。この褥瘡はS. aureusやMABCだけでなく,その他の微生物の侵入門戸となり得る皮膚病変であると考えられた。MABCは土壌や水回りに広く分布する環境菌であり,特に手指衛生や褥瘡管理が不十分な状態では,皮膚・軟部組織を介した侵入リスクが高まると考えられる19)。皮膚からの侵入を示唆する先行研究においても,S. aureusとの複合感染例が報告されており20),MABCの血行播種における共同因子としてのS. aureusの役割についても検討の余地がある。本症例でも褥瘡部が侵入門戸であった可能性が考えられた。しかし皮膚病変からの培養は実施しておらず,正確な感染巣の特定には至らなかった。今後,同様の症例では皮膚病変部位からの培養を実施することが,感染経路の特定に有用と考えられる。

本症例のように,一般細菌と抗酸菌が同時に血液培養で検出される場面では,抗酸菌の存在が他菌種に隠されてしまう可能性を念頭に置く必要がある。特にGram染色で不染の菌体が認められた際には,抗酸菌染色を追加実施し,医師と密な連携体制を構築することが診断精度の向上につながる。

本症例はS. aureusとMABCという異なる性質を持つ病原体が同時に血液培養で検出された非常に稀なケースであり,抗酸菌の見逃しを防ぐ検査体制の整備や,培養条件の見直しの必要性を再認識させる症例であった。

V  結語

非結核性抗酸菌症は近年増加しており,RGMであるMABCは一般細菌用の血液培養ボトルからも検出され得る。本症例のように一般細菌と抗酸菌が同時に存在する場合,抗酸菌が他菌種により見落とされる危険性がある。Gram染色で不染の菌体が認められた際には,抗酸菌染色を積極的に追加するなど,検査体制および診断過程において抗酸菌の関与を常に念頭に置くことが重要となる。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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