医学検査
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資料
診療科横断的ホルマリン管理の標準化に向けた器材開発と運用評価―医療現場に適応した施錠式パスボックスの設計と導入を通じて―
山下 和也村雲 芳樹三枝 信
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2026 年 75 巻 2 号 p. 385-392

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Abstract

2024年4月の労働安全衛生法改正により,医療現場における化学物質管理の厳格化が求められている。特にホルマリンは劇物として多くの法規制の対象となり,診療科ごとに使用形態が異なるため,統一的な管理が困難である。当院では,病理部による一括管理体制を構築しつつ,使用現場に応じた合理的かつ安全なホルマリン管理方法を考案・導入した。具体的には,テンキー式施錠機能を備えた窓付きパスボックスを設計・製造し,病理部,内視鏡室,分娩室,手術室内病理部に設置。化学物質管理ソフトCRISと連携した出納記録の徹底により,紛失・盗難・誤用の防止と医療安全の向上を実現した。導入から2年間で紛失事故はゼロを達成し,診療支援と環境管理の両面で高い評価を得ている。本報告は,医療機関におけるホルマリン管理の新たな実践モデルとして有用である。

Translated Abstract

Following the revision of Japan’s Industrial Safety and Health Act in April 2024, stricter regulations on chemical substances have begun to be enforced in medical institutions. Formalin, a designated hazardous chemical, presents unique management challenges owing to its varied uses across clinical departments. While our pathology department centrally manages formalin, operational demands in outpatient clinics, endoscopy units, surgical areas, and delivery rooms demand decentralized access. To address risks including loss, theft, and exposure, we developed and implemented a secure formalin management system using custom-designed lockable pass boxes tailored to each clinical setting. These boxes were integrated with the CRIS chemical inventory software, enabling barcode-based tracking, automated logging, and secure access via keypad locks. Over 2 years of operation, the system has eliminated formalin loss incidents, improved inventory accuracy, and enhanced staff competence in hazardous material handling. The pass boxes support 24-h access, facilitate unattended specimen handover, and prevent patient misidentification and specimen mixing. This integrated approach, which achieves regulatory compliance with technical innovation and clinical workflow support, has effectively improved safety, traceability, and operational efficiency. Our model offers a practical solution for hospitals seeking to strengthen chemical substance control, while maintaining clinical flexibility and safety.

I  序文

2024年4月,化学物質による労働災害防止を目的として,労働安全衛生法が改正され,新たな規制が施行された1)。近年,病理検査室や外来部門におけるホルマリンの紛失事例が報道されており,医療現場における化学物質管理の不備が社会的な関心を集めている。

ホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)は劇物に分類され,化学物質管理法や労働安全衛生法など複数の法令により,作業環境管理・保管管理・盗難防止などの厳格な対応が求められる。一方,医療現場では診療科ごとに使用量や頻度,使用方法が異なるため,統一的な管理体制の構築が困難である。病院機能評価などの第三者評価においては,病理部門の作業環境測定による第一管理区分の維持に加え,診療現場におけるホルマリンの曝露予防,出納管理,盗難防止などの対応強化が求められている。本検討では,これらの課題に対し,各診療科の運用実態に即した合理的かつ安全性の高いホルマリン管理方法を独自に考案し,実践した内容を報告する。

II  改良前の当院におけるホルマリン管理状況と課題

1. 当院におけるホルマリン使用と管理状況

当院の規模は,病床数1,033床,1日あたりの外来患者数約2,400人,年間病理組織材料数23,518件である。当院では,ホルマリンの取り扱いを病理部が一括して管理しており,病理部以外での備蓄は原則禁止としている。廃棄は病理部に設置された専用流し(計3台,うち解剖室に1台)に限定されており,使用の有無にかかわらず返却を義務付けて院内周知を徹底している。また,①使用済み容器の識別が可能な封緘テープつき容器(既に検体が入った容器へ,別患者の検体を混入させる事故防止策),②BTB着色ホルマリン(他の薬品と誤認しホルマリンの体内散布事故対策,生食と誤認した未固定放置事故対策)2)~4)の工夫を施した「医療安全対策型ホルマリン」を開発し使用している。

ホルマリン容器の規格は,①8 mL:外来・内視鏡検査用,②100 mL:外来手術用,③2 L:手術・分娩検体用,④10 L:手術・剖検用の4種類に分類される。ホルマリンの出納管理は,持ち出し記録紙に持ち出し日時,所属,氏名,個数を記入する。

使用エリアは,外来,病棟,内視鏡,手術室,分娩室,病理部(臓器処理室)の6か所である。病理部および臓器処理室には,空調換気回数16~85回/h(換気量1,860~9,420 m3/h)の高換気システムを導入し,各作業台にはプッシュプル型局所排気装置を複数台設置している。作業環境測定の結果,いずれも第一管理区分に該当する。

2. ホルマリン管理における課題

ホルマリンの一括管理には,在庫備蓄,払い出し,返却対応などの出納管理が不可欠である。しかし,ホルマリンの出納記録管理が脆弱である点が共通し,使用場所ごとの課題は以下の通りである。

1) 外来・病棟

使用都度の調達は可能であるが,1日の使用数が予測に基づくため,未使用品の返却場所と管理方法が必要である。

2) 内視鏡室

検査予約数は把握可能であるが,採取件数や個数は不明であり,1日の使用数が100本を超えることもある。都度調達が困難であり,ESD検体に使用する100 mLホルマリンは基安発第1119002号5)にある「少量」の範囲を超えるため,労働安全衛生法施行令の改正により局所排気装置の使用が義務付けられるものの,生検採取直後にその場で固定するための局排装置の設置は困難である。病院機能評価の立ち入り調査でも指摘事項となる。

3) 手術室

空調下に局所排気装置の設置が困難であるため,専用の臓器処理室を設置して対応している。しかし,臓器や術式により固定容器や処理方法が異なり,特に時間外に診療科医師が行うリンパ節郭清では,ホルマリンの調達や曝露管理が曖昧になりやすい。また,常備されるホルマリンは多量に放置され,固定後の臓器も放置され,第三者評価において,紛失や持ち去りが可能な状況として要改善事項に掲げられた。

3. 解決したい重点項目

これらの課題に対し,以下の4項目を重点的に改善すべき課題として設定した。

1) ホルマリン漏洩・曝露対策(運搬時)

ホルマリンは分子量が低いため容易にアルデヒドガスの蒸発を生じ隙間より漏れ出ることが知られており,密閉性の高い状態あるいは多重包装で保管および搬送される必要がある。また,ホルマリン槽による手術材料の固定は,固定液の使いまわしと複数症例の共存による,コンタミネーションや患者取り違い防止として,一患者毎に個別のタイトボックスを使用して固定を行うが,密閉性が低く,搬送時の溶液漏れによる搬送者の曝露対策が必要である。すなわち,搬送機能を持つ保管庫(カート式パスボックス)ならびボックスコンベアシステムによる運搬に改善する。

2) 施錠管理による盗難防止

ホルマリンの盗難防止と検体紛失対策には保管する部屋は無論,ホルマリンを保管する場所にも施錠を行う必要がある。一方で使用頻度が高い日中の作業ではシリンダー式錠前は,開閉作業と鍵の管理が煩雑であり,日中は開放状態であることが多い。テンキー式に変更することでコード番号による管理が可能となり,錠前当番は不要となる。

3) 出納管理による紛失・医療事故防止

ホルマリン固定容器を個々に管理する体制は紛失防止につながる。出庫した個数と使用(提出)された個数の把握は,検体放置などの医療事故防止となる。使用する度に必要数を持ち出し,記録に残すことで利用者の意識的な責任が生まれ,管理が容易となる。

4) 無人出納による時間外管理の充実と診療支援

病理部門が24時間体制で人員配備し業務を行うことは極めてまれである。時間外のホルマリンの出納や提出管理は放置されており,第三者評価での指摘点である。部屋の施錠に加え,鍵と患者毎にパスボックスを設置し,無人管理と診療科が必要な器材を患者毎に準備することで,診療支援が可能になる。

III  課題の克服(方法)

1. ホルマリン保管・出庫管理用パスボックス類の設計と製造

各診療科におけるホルマリン管理の課題を解決するため,収容と管理を兼ね備えた器材の導入を検討した。当初は市販の宅配ボックスを応用する案もあったが,既存スペースに適合し,施錠機能を備えた堅牢な規格品は見つからなかった。そこで,当院の運用要件に適合する器材の設計を行い,製造可能な企業を調査した。設計依頼は6社(光葉スチール株式会社,株式会社トルネックス,株式会社アスメディック,株式会社ヤマゲン,株式会社仁張工作所,株式会社フジ)に対して行った。その結果,小単位での設計・製造・発注に対応可能な企業1社(光葉スチール株式会社)と協議を開始し,以下の12項目の基本条件を満たす器材の設計を進めた。

①既存施設のスペースに収容可能であること

②ホルマリン固定容器および在庫品の収容が可能であること

③コインロッカー型の形状でパスボックス機能を有すること

④複数段構造であること

⑤防災対策として胸〜目の高さを超えない設計であること

⑥扉に内部が確認できる窓を有すること(Figure 1左)

Figure 1  施錠型パスボックス(左)とテンキー錠(美和ロック VBL01)拡大図(右)

病理部に常備するホルマリンを収容し,テンキー式(〇印)で施錠される。扉には中の様子が見える窓を持ち,在庫品の内容が一目で認識可能で,「探す」ことが無い。出庫記録用紙を備える。外来や病棟より使用時に病理部へ取りに来る。自由にテンキーの設定と解除が可能であり,ユーザー別管理,日替わりなど状況対応が容易である。万一に備え錠による開錠が可能。

⑦簡単に破壊されず,ホルマリンガスによる劣化がない素材を使用すること

⑧テンキー式錠(美和ロックVBL01)を搭載すること(Figure 1右)

⑨棚やカートとの組み合わせが可能であること

⑩ガラス窓には飛散防止処理を施すこと

⑪市販ロッカー類と同等の価格帯であること

⑫搬入・設置までを委託可能であること

これらの条件をもとに,当院の運用に適した器材が設計され,図面が提供された(Figure 2)。

Figure 2  施錠出納型パスボックス設計図(光葉スチール社)

各機能や用途に応じて考案したイメージをより具体的にするために,設計図を通して改良や機能性を充実し完成させることができる。図は4段構造の1例を示す。

2. 設置場所と運用方法

設置対象部署は,病理部,手術室内病理部(臓器処理室),内視鏡,分娩室の4部門で,各部屋は職員用セキュリティパスによって入室管理されており,器材の運用は以下の通りである。

1) 共通課題であるホルマリン出納管理

すべての化学物質の出納管理には,当法人が導入している「CRIS」(島津トラスティック株式会社)を使用している。具体的なCRISの運用手順は以下の通りに変更を加えた。

①初期品目登録:あらかじめ「BTB着色済み10%中性緩衝ホルマリン固定液」8 mL,100 mL,2 L,10 Lの薬品登録をそれぞれ行う。

②納品時:該当品目を選択,納品数を入力登録後,割付されるバーコードシールを出力し容器または包装箱と「持ち出し記録紙」に貼付し在庫保管する。

③使用開始:CRISで容器に貼付されたバーコードを読み取り,使用開始日を入力する。

④持ち出し:出庫時に,持ち出し記録紙に持ち出し日時,所属,氏名,個数を記入する。

⑤返却時:未使用品は返却Boxに返却し,「返却記録用紙」に記載する。なお,返却品は病理部の再固定や保管臓器用で利用し,検査で使用するための再出庫はしない。

⑥在庫照合:実在庫と記録を照合し,CRISに入力する。

⑦管理者報告:記録用紙単位で技術管理者,品質管理者,技師長の順に報告する。

⑧個人記録管理:技師長が曝露履歴を30年間保存する。

2) 部署ごとの設置器材と運用方法

すべてのパスボックスにはCRIS登録された試薬に対合したバーコード貼付された出庫記録用紙を同梱する。設置器材は約50 cm四方の大型のパスボックスで,テンキー式鍵と大きな窓を正面に持つ形状を基本として,施設のスペースに合わせて積み上げや横へ1台ごとの増設,滑車や手すりなどの改造が可能である。

① 病理部

3段積み上げた構造では,上段に8 mLホルマリン(100本/箱を2箱),中段に100 mLホルマリン(33本/箱を1箱),下段に返却するホルマリンを回収する空容器を収納する。同様に手術材料の固定ならび切り出し室で使用できる2 Lおよび10 L容量のホルマリンを備蓄することも可能である(Figure 3左)。

Figure 3  3段構造(左)とカート式パスボックス(右)

(左)50 cm四方で密閉式タイトボックスや8 mL~10 Lホルマリンなど様々な大きさのものを収容できるパスボックスで,窓とテンキー付きを3段備える。8 mLホルマリン 100本/箱を2つ,中央は100 mLホルマリン 33本/箱を1つ常備する。(右)カート式パスボックス(内視鏡室専用)で,密閉タイトボックスに移し替えた8 mLホルマリンが常備され,1日の生検数が多い内視鏡では,毎朝,病理部から内視鏡室へカートで移送,各内視鏡ベットサイドに分配する。検体提出と返却は定期的に行われる。

外来ならび病棟で使用する小容量ホルマリンの運用は,医師の指示を受け,毎朝,ホルマリンを病理部へ看護師,看護助手が取りに来る。病理部スタッフに声をかけ,診療科ごとに定めた法則に基づく暗証番号でテンキー式施錠を解除して必要数を取り出し,持ち出し記録紙に持ち出し日時,所属,氏名,個数を記入後に搬送容器に収容して搬送する。夕方,検体を届けると同時に,未使用のホルマリンは,返却Boxに返却し,「返却記録用紙」に必要事項を記載する。未使用品は病理部で再固定用に利用される。

② 内視鏡室

1日の使用量が多い内視鏡は,カートとして移送が可能な構造である(Figure 3右)。2段構造で,8 mLの10%中性緩衝ホルマリンを50本程度収容した密閉タイトボックスが数個収容できるため,ホルマリン蒸気の漏洩などホルマリン曝露防止に有効である。運用はカートごと毎朝,病理部から内視鏡へ搬送し,終業時に返却される。内視鏡稼働時間内は,各内視鏡検査室に密閉タイトボックスを分配配備し,稼働時間内に検体の採取都度で病理部へ取りに行く必要が無い。使用時に出庫記録を記入し,毎日病理部で在庫と記録照合が行われるため,紛失や施術場所での管理が容易となる。検査後の検体は患者照合が行われ,専用ラックに収容され,定期的に申込書とともに病理部に提出される。ホルマリンの出納記録はCRISへ記録され,管理手続きが進められる。

③ 分娩室

分娩室は緊急分娩への24時間対応が必要な部門である。設置機材は2段構造。胎盤固定用のホルマリンを充填した専用トスロンバケツを施錠常備する。最下段は一時保管用スペースとして使用し,暗証番号は分娩室で管理し24時間利用できる。ホルマリンの補充は病理部の局排装置内で行い,調達時に出納記録が行われる。

④ 手術室内病理部(臓器処理室)

手術室の一角に病理部管理下のホルマリン固定およびリンパ節郭清,標本整理,検体提出の機能を持つ専用の臓器処理室を設置している。この部屋は,局所排気装置も備えた管理室で,各診療科の手術術式に合わせた器材を収容し,無人で受け渡し対応が可能なパスボックス(Figure 4左)と4段構造の2列ないし3列(Figure 4右)を連結した,パスボックスを設置することで,診療科が24時間使用できる。大きな特徴は,1患者毎にパスボックスを使用する点と診療科が必要とする器材を症例にあわせてパスボックスで供給する点である。Figure 4左に示す各科手術器材対応型のパスボックスは,臓器専用密閉式タイトボックスを収容し,手術場からこの部屋に摘出臓器を搬送する時に利用され,そのまま臓器固定に利用される。この搬送と固定用の容器は再生利用を繰り返すため,洗浄,乾燥後に患者ラベルのはがし忘れが無いか確認され,ダブルチェックした証に蓋と本体にまたがる封緘テープで封印することで,未使用を担保している。棚下部のパスボックスには,各種ホルマリン,前立腺生検用容器,細胞診固定液,その他必要器材が常備されている。実際の臓器摘出から術中迅速診断,臓器処理,ホルマリン固定,主な検体の流れとパスボックスの関係をFigure 5に示す。外科切除材料は摘出後速やかに臓器処理室に搬送される。迅速や検体処理が必要な標本は,直ちに病理部に連絡され,処理が行われる。その後,臓器は原則的に病理部で固定され保管される。診療科の処理が必要なリンパ節郭清などの検体は,「処理待ちパスボックス」に移動し臓器処理室で待機となる。4段構造のパスボックスに1患者1ボックスで収容される。処理に必要な器材とホルマリン,ホルマリン使用記録簿も一緒に収容し施錠する。冷蔵庫と併用することで標本の質を保ち,盗難および誤認防止に寄与している。「検体提出用のパスボックス(Figure 4右)」は,前述のパスボックスとは空間的配置として反対側に設置した。1患者1ボックスで依頼書と検体を入れ施錠して提出する。提出時には,検体提出台帳に提出日,診療科,医師名,検体個数,患者ID,患者氏名を記載する。病理部では定期的に巡回を行い,検体・申込書・台帳の三者照合を実施し,不備のないもののみを正式に受理する。疑義がある場合は受理せず,照会を通じて問題解決を図る。病理部は階下に位置しており,検体はボックスコンベアシステムにて搬送される。

Figure 4  各科手術器材対応型パスボックス(左)と検体提出用パスボックス(右)

(左)上段に臓器運搬,固定するための容器を収納する棚,下段パスボックスには,8 mL~10 Lホルマリン,郭清用器材と出納記録用紙などを収納するパスボックスを設計した。(右)診療科が固定液に浸漬した標本提出用の50 cm四方の大型パスボックスで,同一患者のみ1パスボックスに収納し患者の取違いを防止する。診療科が24時間利用可能で,施錠により持ち出し紛失を防止する。

Figure 5  手術室と病理間の流れとパスボックスの関係図

図に示す数字①~⑥は作業順を示し,図中記号A~Cはパスボックスを示す。①図中Aに病理部で準備格納した検体容器を各手術室のスタッフが手術室に運ぶ。②臓器摘出後,検体容器に入れた臓器は迅速診断へ提出。あるいは,局所排気装置内で固定処理を行う。③迅速後にリンパ節郭清など標本整理が必要な症例は,図中Bへと患者毎に収容保管される。④術後,診療医が局所排気装置内で郭清や固定処理を行う。⑤ホルマリン固定された臓器は患者毎にパスボックスへ提出する。⑥病理部で固定標本を回収する。

IV  評価

本検討では,院内におけるホルマリン固定液の取り扱いに関する課題を包括的に改善するため,病理部にて一括管理体制を構築し,搬入・在庫・出納管理に加えて,使用場面に応じた専用パスボックスの設計・導入を行った。これにより,各診療科におけるホルマリンの管理が標準化され,安全性と効率性の両立が可能となった。導入から2年が経過し約5万本を超えるホルマリン容器が100名以上の職員により取り扱われてきた現在,いくつかの具体的な成果が確認されている。まず,テンキー式施錠機能を備えたパスボックスの導入により,ホルマリンの所在が明確化され,持ち出し者の特定が可能となったことで,紛失事故は一件も発生していない。また,容器の形状に応じた分類収納と出納記録用紙の常備により,劇物管理に対する職員の意識が向上し,出納管理の効率化が図られた。さらに,内視鏡室のような狭小空間においては,カート式パスボックスの導入によってホルマリンの移動・配布が容易となり,検査室ごとに小分けで供給された後,終業時に病理部へ返却されることで,管理の一元化を実現した。分娩室においては,保管庫の設置により緊急分娩時の迅速なホルマリン供給が可能となり,劇物管理および環境安全対策が強化された。手術室では,検体と器材を患者単位で収納・施錠できる構造が導入され,診療支援として高い評価を得ている。窓付き構造により内容物の視認性が向上し,検体紛失や患者取違いなどの医療事故の防止にも寄与している。これらの設備はすべて第一管理区分に該当する作業環境下で運用されており,法令に準拠した安全管理が維持されている。これらに係る費用は,設計から施工,設置に至るすべてを含み,1台あたり最安6万円台最高38万円で,合計11台188万円であった。病院機能評価の審査時に手術材料を固定する際のホルマリンが常時使用できるように10 L単位で置かれているため,盗難防止対応が無く,手術材料の確実な提出の受け渡しが不十分であるとする評価が示された。その是正対策の補正予算として資金調達された。

V  まとめ

ホルマリン固定液の管理は,病理部のみならず,実際に使用するすべての医療従事者の健康と安全を守るために極めて重要である。劇物としての性質を持つホルマリンは,法令に基づく厳格な管理が求められると同時に,盗難や誤用による医療事故のリスクも伴う。2024年の法改正により,化学物質管理における自主管理の徹底が一層求められる中,本検討で導入したテンキー式施錠機能を備えた窓付きパスボックスは,セキュリティエリア内での運用に適しており,24時間体制での出納管理を可能とするものである。この器材の導入により,①ホルマリンの紛失・盗難防止,②医療従事者の曝露リスクの低減,③標本整理前の無人受け渡しの安全性向上,④検体提出時の患者取違いや検体紛失などの医療事故防止の4つの効果が確認された。さらに,診療科ごとの運用実態に即した柔軟な管理体制を構築することで,法令遵守と現場の実効性を両立させることが可能となった。今後は,他施設への展開や器材の標準化を図ることで,医療現場全体におけるホルマリン管理の質的向上に寄与できると考えられる。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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