コルヒチンはイヌサフランに含まれる中毒物質であり,誤食による中毒事例が報告されている。中毒事例においては患者検体から原因物質を検出することが望ましいが,コルヒチンについては検出が可能な臨床検査試薬は販売されていない。また,イヌサフランはコルヒチンと似た分子構造をもつが,毒性の低いデメコルシンも含有しており,中毒事例の解析では両者を区別する必要がある。さらに有毒植物による食中毒では保健所が検査の主体となり,植物そのものや調理物からの検出の報告は多数あるものの,ヒト体液からの検出報告は少ない。本研究では固相抽出カラムを用いた前処理を実施し,高速液体クロマトグラフィー質量分析法によるコルヒチンおよびデメコルシンの検出を行った。クロマトグラフィー分離には逆相カラムを使用し,移動相には0.1%ギ酸水溶液および0.1%ギ酸含有アセトニトリルを用いた。今回の測定方法では保持時間の違いから,コルヒチンとデメコルシンを明確に区別可能であった。また,添加回収試験の結果より,前処理による目的物質の損失はほとんどないことも確認した。さらに作成した検量線は良好な直線性を有しており,コルヒチンを定量可能であることが示された。本方法によって実際に発生した中毒事例より採取した血液,尿および喫食したと考えられる調理物を対象として測定を行い,致死量を超えるコルヒチンを検出した。
Colchicine is a toxic alkaloid contained in Colchicum autumnale, and poisoning due to accidental ingestion has been reported. In such cases, identification of the causative substance from patient samples is essential; however, no clinical assay reagent for colchicine measurement is currently available. C. autumnale also contains demecolcine, a structural analog with lower toxicity, which must be distinguished from colchicine in poisoning analysis. Furthermore, in cases of food poisoning caused by toxic plants, public health centers serve as the primary testing authorities. While detection from plants or prepared foods has been frequently reported, only a few reports have described detection from human bodily fluids. In this study, we performed sample pretreatment of blood, urine, and cooked food using solid-phase extraction columns, followed by LC-MS/MS analysis of colchicine and demecolcine. Chromatographic separation was achieved on a C18 column using 0.1% formic acid in water and acetonitrile as the mobile phase. The method clearly distinguished between colchicine and demecolcine based on retention times, and recovery tests demonstrated minimal loss during the pretreatment process. The calibration curves showed excellent linearity (R2 > 0.999). These results indicate that the present LC-MS/MS method provides highly specific and quantitative determination of colchicine and demecolcine, making it a valuable analytical tool for the diagnosis of colchicine poisoning. We applied this method to blood, urine, and suspected ingested food from actual poisoning cases and detected colchicine at concentrations exceeding lethal levels.
コルヒチンはイヌサフラン科イヌサフラン属に分類されるイヌサフランに含有されるアルカロイドである1)。別名コルセミドとも呼ばれ,染色体検査においては分裂周期の調整試薬としても利用される。イヌサフランの形状はネギ亜科ネギ属に分類されるギョウジャニンニクと酷似しており,誤食による食中毒事例が報告されている2),3)。厚生労働省の報告によると,平成27年から令和6年までの過去10年間においてイヌサフラン中毒は22件29名の食中毒が発生しており,このうち14名が死亡している。これは有毒植物による食中毒事例の中ではスイセンに次いで2番目に多い発生件数であることに加え,死亡数としては最も多い。また,コルヒチンはユリ科グロリオサ属に分類されるグロリオサの球根にも含有されており4),こちらも5件7名の食中毒が発生し,うち2名が死亡している5)。これら食中毒事例の報告は誤食によるコルヒチン中毒が有毒植物による食中毒の中でも発生件数が多いことに加え,その死亡率が非常に高いことを意味している。そのためコルヒチン中毒の診断を目的としたコルヒチンの検出は非常に重要である。さらにコルヒチンは痛風や家族性地中海熱の治療薬として利用可能であることが報告されている6)。しかしその治療域は0.3~2.5 ng/mL,中毒域は5 ng/mL,致死域は9 ng/mLと近接しており7),血液など生体試料中に含まれるコルヒチン濃度測定の意義は高い。
高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)は高速液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせたハイスループット分析法である。さらに抗原抗体反応などでは区別出来ない,僅かな構造の違いが識別可能となる5)。イヌサフランにはコルヒチンと類似した化学構造をもつが,毒性が低いデメコルシン(Figure 1)が存在し,中毒事例の解析では両者を鑑別する必要がある。また,有毒植物による食中毒事例では保健所が調査の主体であり,衛生研究所での検査が実施される。そのため植物そのものや調理された料理からのコルヒチン検出は多く報告されているが2),3),血液などヒト体液を対象とした報告は多くない。そこで本研究では実際に発生したコルヒチン中毒事例において調理済み鍋内残液に加えて血液や尿などの生体由来試料を対象とし,検体前処理に固相抽出を使用したLC-MS/MSによる検出方法を検討した。

検体の前処理には固相抽出カラムHyperSep(C18 50 mg, Thermo SCIENTIFIC)を用いた。LC-MS/MSにおける定性・定量分析の標準物質はコルヒチン(東京化成工業株式会社),デメコルシン(セレックバイオテクノロジー株式会社)を購入した。定量における内部標準物質(IS)として6α-Methyl-Prednisolone-d3(Tront Research Chemicals)を用い,添加回収試験には市販全血(Biopredic International, Lot. SAG030A050D003)を購入し,用いた。LC分離に用いた0.1%ギ酸水溶液と0.1%ギ酸アセトニトリルはHPLCグレード(関東化学)を購入した。その他溶媒はHPLCグレード以上のものを用いた。
2. 法医検体北海道大学医学部死因救命センターに搬送され,イヌサフラン誤食によるコルヒチン中毒が疑われた2例。年齢は50代および80代。性別は男性。2名は自宅で死亡しており,自宅内からは調理済み,および未調理のイヌサフランがギョウジャニンニクと合わせて発見されたことから,イヌサフラン誤食によるコルヒチン中毒が疑われた。80代男性については解剖時に採取された右心血,左心血,胃内容および尿,50代男性については右心血と左心血,胃内容を検体とした。50代男性では尿は採取できなかった。併せて自宅内に残されていた調理済み鍋内残液についても同様に測定を実施した。
3. 検体処理検体(コルヒチン添加市販全血,右心血,左心血,胃内容,尿および調理済み鍋内残液)200 μLを精製水で5倍希釈し,1 mLのサンプル溶液とした。固相抽出カラムHyperSep(C18 50 mg. Thermo SCIENTIFIC)はメタノール2 mLと精製水2 mLを通して使用準備した。次にサンプル溶液1 mLを通過させ,精製水2 mLでカラムを洗浄した。最後にメタノール2 mLを用いて担体に吸着した低極性物質を溶出させた。この溶出液を濃縮・乾固し,IS含有メタノール200 μLに再溶解して測定サンプルとした。
4. LC-MS/MS分析 1) 測定条件先行研究による報告8),9)を参考とし,以下のような条件を設定した。測定に用いた機器はDionex Ultimate 3000およびTSQ Quantum Access MAX(Thermo SCIENTIFIC)で,分析カラムはHypersil Gold(2.1 mm ID × 50 mm, 5 μm, Thermo SCIENTIFIC)を使用した。移動相は0.1%ギ酸水溶液(A液)と0.1%ギ酸含有アセトニトリル(B液)を用い,流速は0.2 mL/minとした。分離条件は以下であった:0–3.0 min,B液15%(一定);3.0–8.5 min,B液15%→100%(リニアグラジエント);8.5–12.5 min,B液100%(一定)。カラム温度は35℃とした。サンプル注入量を10 μLに設定した。質量分析による検出はエレクトロスプレーイオン化(ESI)のポジティブイオン測定モードで行い,選択反応モニタリング法(selected reaction monitoring; SRM)を用いてコルヒチンはプリカーサーイオンm/z 400としてプロダクトイオンm/z 309で検出した。同様にデメコルシンおよびISはそれぞれm/z 372→341,m/z 378→360で検出した。質量分析の分析条件は以下である:イオン化電圧,3.0 kV;脱溶媒ガス温度,400℃;スプレーガス,窒素(50 psi);イオン導入管温度,220℃。以上の測定条件によりコルヒチン,デメコルシンおよびISは,それぞれカラム保持時間6.60,3.22,7.10 minにピークを認めた。
2) 検量線コルヒチンおよびデメコルシンの混合溶液(各1 μg/mL)を精製水で段階的に希釈し,0.2 ng/mLから100 ng/mLの間で9種類の濃度のサンプルを調製し,内部標準法を用いて検量線を作成した。ISには6α-Methyl-Prednisolone-d3を使用した。
3) 添加回収試験コルヒチンおよびデメコルシンの混合溶液(各1 μg/mL)0.1 mLを市販全血9.9 mLに加え,10 ng/mLとした。さらにこの溶液を市販全血で2倍希釈し5 ng/mLとした。ISは検体処理の前,もしくは後に添加し比較した。本研究では固相抽出前IS添加測定値に対する固相抽出後IS添加測定値の比率を回収率とした。
4) 検体測定コルヒチン中毒事例(50代男性および80代男性)から採取した左右心臓血液,胃内容物,鍋内残液について測定を行った。尿については遺体の状況に起因して80代男性でのみ採取が可能であったため,50代男性は測定を実施していない。
5. 倫理本研究は日本法医学会による解剖(平成21年)および倫理指針(平成15年)に基づく日常的な法医学的症例検討の枠組み内で実施され,北海道大学の研究倫理審査委員会(承認番号16-015)の承認を受けて行った。
ポジティブイオンモードによるフルスキャンでは,コルヒチンのマススペクトルはm/z 400にイオンピークが観測された(Figure 2a)。これをプリカーサーイオンとして,ポジティブイオンモードでスペクトル測定を行った結果,コリジョンエナジー(CE)25 Vでm/z 309に高感度のプロダクトイオンを検出した(Figure 2b➤)。同様の測定条件でデメコルシンのマススペクトルはm/z 372にイオンピークが観測され(Figure 3a),CE 16 Vでm/z 341に高感度のプロダクトイオンを検出した(Figure 3b➤)。


調整した9濃度の既知濃度溶液を三重測定し,検量線を作成した結果,コルヒチンはy = −0.000096348x2 + 0.0461711x − 0.00585913,R2 = 0.9999,デメコルシンは y = 0.0961903x − 0.00498251,R2 = 0.9997と良好な直線性が認められた(Figure 4)。

コルヒチン添加血液5 ng/mLで99.2%,10 ng/mLで97.9%の回収率であった。デメコルシン添加血液5 ng/mLで98.9%,10 ng/mLで98.5%の回収率であった。両者ともに良好な回収率を得られた(Table 1)。
| 添加後濃度 (ng/mL) |
測定値(ng/mL) | 回収率 (%) |
|
|---|---|---|---|
| 固相抽出前 IS添加 |
固相抽出後 IS添加 |
||
| 0 | ― | N.D. | ― |
| 5 | 4.90 | 4.86 | 99.2 |
| 10 | 9.70 | 9.50 | 97.9 |
| 添加後濃度 (ng/mL) |
測定値(ng/mL) | 回収率 (%) |
|
|---|---|---|---|
| 固相抽出前 IS添加 |
固相抽出後 IS添加 |
||
| 0 | ― | N.D. | ― |
| 5 | 4.88 | 4.82 | 98.8 |
| 10 | 9.78 | 9.63 | 98.5 |
測定結果はTable 2に一覧で示す通り,80代男性,50代男性ともに血液から8.1~13.9 ng/mL,胃内容から16.0~20.9 ng/mLのコルヒチンを検出した。同様にデメコルシンについても血液で8.4~23.0 ng/mL,胃内容からは20.9~32.2 ng/mLの濃度で検出された。採取が可能であった80代男性の尿からは32.2 ng/mLのコルヒチンおよび194.1 ng/mLのデメコルシンを検出した。また,調理・摂取したと思われる鍋内残液から,非常に高濃度のコルヒチン・デメコルシンを検出した(Table 2)。
| 80代男性 | コルヒチン | デメコルシン |
|---|---|---|
| 右心血 | 13.7 | 22.2 |
| 左心血 | 11.4 | 8.4 |
| 胃内容 | 16.0 | 38.1 |
| 尿 | 32.2 | 194.1 |
| 50代男性 | コルヒチン | デメコルシン |
|---|---|---|
| 右心血 | 8.1 | 21.4 |
| 左心血 | 13.9 | 23.0 |
| 胃内容 | 20.9 | 36.1 |
| コルヒチン | デメコルシン | |
|---|---|---|
| 鍋内残液 | 20,772 | 6,476 |
(ng/mL)
コルヒチンにはよく似た化学構造をもつデメコルシンが存在するが,コルヒチンと比較してデメコルシンは毒性が低く,両者の区別が必要である。臨床検査において血中薬物濃度測定には抗原抗体反応を原理とする試薬が多く用いられる。現在,コルヒチンについては免疫学的原理に基づく臨床検査試薬は市販されていないが,一般的に薬物のような低分子を対象とする場合,抗原抗体反応ではよく似た構造を持つ物質との交差反応が生じる10)。今回の検討において,LC-MS/MSによって検出されたコルヒチンとデメコルシンは保持時間およびイオンピークが明確に異なっており,両者は完全に区別することが可能であったことから高い特異性を持つと考えられる。また,0.2 ng/mLから100 ng/mLの範囲で作成した検量線ではコルヒチンの決定係数(R2)が0.9999,デメコルシンは0.9997となり,優れた定量性が示された。さらに添加回収試験では固相抽出法で97.9~99.2%の良好な回収率が得られた。これは前処理の過程において,目的物質の損失がほとんどないことを意味する。以上の結果から,今回検討した前処理を含めた分析方法は,コルヒチンの測定に適しているといえる。さらに,本方法は血液や尿を対象としても実施できるため,現在多く報告されている植物や調理物からの検出2),3)に加え,ヒト体液からのコルヒチン検出が可能である。
検討した方法を用い,実際の中毒事例検体を測定した結果,死者2名の血液から文献における血中致死濃度(9 ng/mL)7)を超えたコルヒチンを検出した。また,調理・摂取したと思われる鍋内に残された液体からも,20 μg/mLを超える高濃度のコルヒチンが検出された。コルヒチンの体重50 kgにおける最小致死接種量は4.3 mgと報告されていることから11),今回の鍋内液の場合,215 mLの摂取で4.3 mgに相当する計算になる。鍋内に残された液体は味噌汁であったと思われることから,お椀に1杯半程度摂取した場合,最小致死接種量に相当するコルヒチンの摂取で死に至る可能性がある。これにより本事例はイヌサフランを調理し,誤って摂取したことによるコルヒチン中毒が直接の死因であることが示された。
本研究には一定のLimitationsが存在する。対象となった中毒症例は2例と少数であり,さらなる症例の蓄積が必要である。また,測定に際して実施した検体前処理に使用したカラムはC18固相抽出カラムのみであり,他の固相抽出剤や,分散固相抽出法(QuEChERS法)などとの比較は実施していない。今後,これらの検討を追加することにより,本法の適用範囲や汎用性をより明確にできると考えられる。
イヌサフランの毒性は非常に強く,少量の誤食であっても,高度骨髄抑制や代謝障害,敗血症を引き起こし死に至ることがある3)。加えて有毒植物誤食による食中毒としては比較的事例数が多いこともあり,発生疑い時には迅速な原因特定と対処が必要となる。今回の分析方法は入院後に容易に入手可能な血清や尿を対象とし,正確なコルヒチン分析が可能であり,患者救命に貢献できる可能性がある。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。