医学検査
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症例報告
胆石性急性膵炎の患者で,抗生物質中のNMTT基の関与が疑われたビタミンK欠乏症の1例
中山 智史山本 由貴子伏見 真也野口 明音緒方 衝穂苅 量太松熊 晋
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2026 年 75 巻 2 号 p. 453-457

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Abstract

内視鏡的経鼻胆道ドレナージチューブ留置および感染症予防のためセフェム系抗生物質を投与した急性膵炎患者において,ビタミンK欠乏症を発症した症例を経験した。胆石性急性膵炎に対しドレナージチューブでの胆汁排泄,セフェム系抗生物質の投与を開始したところ,入院10日目にプロトロンビン時間(prothrombin time; PT)と活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)の急激な延長を認めたため,クロスミキシング試験,各種凝固因子・凝固阻止因子活性などの検査を施行し,ビタミンK欠乏症が判明した。凝固障害の判明からビタミンKの投与およびニューキノロン系抗生物質への変更を行ったところ,翌日にPTおよびAPTTは速やかに改善した。今回のビタミンK欠乏の原因は食事由来のビタミンK不足,胆汁体外排泄によるビタミンK吸収能の低下,投与した抗生物質に含まれるN-methyl tetrazole thiol基によるビタミンK代謝障害が考えられた。疾患の機序や薬剤の作用に関する知識を得ることにより,周術期での早期の診断や治療に寄与出来るものと考えられた。

Translated Abstract

We encountered a case of vitamin K deficiency in a patient with biliary pancreatitis had treated by endoscopic nasobiliary drainage tube placement and cephalosporin antibiotics. A marked prolongation of prothrombin time (PT) and activated partial thromboplastin time (APTT) was noted. Along the result of the cross-mixing tests, decrease in the vitamin K-associated, coagulation factors and anticoagulant factor activities, and presence of protein induced by Vitamin K absence or antagonist (PIVKA) were confirmed. PT and APTT had been improved on the day following initiation of vitamin K administration and antibiotic change to fluoroquinolone. The causes of vitamin K deficiency in the present case were considered to be low intake in dietary vitamin K, extracorporeal biliary excretion, and impairment in vitamin K caused by the N-methyl tetrazole thiol base in the antibiotics. Knowledge of the mechanisms of disease or drugs character would contribute supporting early diagnosis and managing patients in the perioperative period.

I  はじめに

ビタミンKは,本来,1日必要量が少なく,複数要因の関与がなければ,その欠乏症状が出現することは稀である1)。しかしながら,消化器外科,産婦人科,口腔外科領域を主体とした手術では,抗菌力が強く,抗菌スペクトルが広いセフェム系抗生物質が多用され2),ビタミンK産生源である腸内細菌叢の抑制によって,その周術期にビタミンK欠乏による血液凝固障害が起こりうる。また,ビタミンKは脂溶性ビタミンであり,その吸収には胆汁の存在が必要となり,腸管内への胆汁供給が障害される閉塞性黄疸ではビタミンKが欠乏することが知られている3)。今回,胆汁体外排泄およびセフェム系抗生物質の使用を契機にビタミンK欠乏症を急激に発症した症例を経験したので,考察を加え,報告する。

II  症例

症例:65歳,男性。

既往歴:常染色体優性多発性嚢胞腎,高尿酸血症,前立腺過形成。

現病歴:前日から腹痛が出現し,徐々に疼痛が強くなったため,近医を受診したのちに当院に入院した。当院での各種検査(Table 1),さらに腹部CTで総胆管結石および軽度の膵管拡張が認められたことから,胆石性急性膵炎が疑われ,入院2日目に実施された内視鏡的逆行性胆管膵管造影では,出血により胆石を除去できず,黄疸軽減のためドレナージチューブを留置した。さらに,術後の逆行性胆管炎予防のためスルバクタムナトリウム・セフォペラゾンナトリウム(SBT/CPZ)の投与が開始された。術前から38℃台の発熱が継続し,SBT/CPZ投与継続中も改善されず,発熱は膵炎によるものと考えられた。入院9日目に再度,内視鏡的に結石除去がなされドレナージチューブも抜去した。翌入院10日目に実施された血液検査(Table 2)においてPT・APTTで異常が認められ,これらのクロスミキシング試験では混和直後・加温後ともに正常血漿で補正される凝固因子低下型(Figure 1)を示し,各種凝固因子などの活性測定では,凝固第II因子26%,第VII因子3%以下,第IX因子25%,第X因子18%,プロテインC活性10%未満,プロテインS 28%といずれも低下していた。また,ビタミンK依存性凝固因子前駆体(protein induced by Vitamin K absence or antagonist; PIVKA)-IIは27,830 mAU/mLであった。

Table 1 当院救急外来受診時の検査結果

臨床化学検査 血液検査
T-bil 1.9 mg/dL WBC 9.8 × 103/μL
D-bil 1.05 mg/dL RBC 3.83 × 106/μL
AST 404 U/L Hb 11.5 g/dL
ALT 222 U/L Ht 33%
LD 486 U/L MCV 86.2 fL
ALP 185 U/L PLT 212 × 103/μL
γ-GTP 667 U/L Neutro 91.3%
TP 6.9 g/dL Lympho 5.7%
ALB 3.9 g/dL Mono 2.8%
A/G 1.3 Eosino 0.1%
Glu 176 mg/dL Baso 0.1%
AMY 1,342 U/L 凝固検査
UA 9.7 U/L PT 10.3秒
BUN 31 mg/dL PT% 113.4%
Cre 2.32 mg/dL PT-INR 0.94
Na 134 mmol/L APTT 25.9秒
K 4.2 mmol/L Dダイマー 8.3 μg/mL
Cl 101 mmol/L
CRP 0.3 mg/dL
Table 2 入院10日目の凝固検査などの結果

凝固検査 凝固検査(外部委託項目) 臨床化学検査
PT 61.8秒 プロテインC抗原量 49% PIVKA-II 27,830 mAU/mL
PT% 5.1% プロテインC活性 10未満%
PT-INR 6.63 プロテインS 28%
APTT 42.9秒 凝固第II因子 26%
Fbg 568 mg/dL 凝固第V因子 127%
AT 87% 凝固第VII因子 3以下%
SF 3.0以下μg/mL 凝固第VIII因子 200以上%
FDP 13 μg/mL 凝固第IX因子 25%
Dダイマー 8.0 μg/mL 凝固第X因子 18%
TAT 9.3 ng/mL 凝固第XI因子 120%
PIC 0.9 μg/mL 凝固第XII因子 52%
凝固XIII因子 77%
ループスアンチコアグラント 0.9
Figure 1  クロスミキシング試験(PT・APTT)

PT,APTTのクロスミキシング試験は混和直後・加温後ともに正常血漿で補正される凝固因子低下型であった。

臨床経過および凝固検査結果から,胆汁体外排泄による取り込み減少とセフェム系抗生物質の投与によるビタミンK欠乏症が考えられた。前日にドレナージチューブは抜去されていたため,対応としてニューキノロン系抗生物質のレボフロキサシン水和物への変更とビタミンK投与が開始され,投与翌日にはPT-INR 1.11まで回復が認められた。

III  考察

ビタミンKは脂溶性ビタミンの一種であり,主なものは食物由来のビタミンK1(フィロキナン)と細菌に存在するビタミンK2(メナキノン)の2種類である。健常人において胆汁は肝臓で一日500~1,000 mL程度作られるが,生体内へのビタミンKの吸収には膵液と胆汁を必要とし,ほとんどが小腸上部で吸収される4)。また,本症例のようなドレナージチューブ留置時には,食事摂取量を考慮した補液などによって胆汁排泄量の増加による脱水という誘因を予防するなど胆汁排泄量の管理が必要となり5),6),本症例ではこれが留意され,7日間の胆汁排泄量は250~840 mLを推移していた。患者は食事摂取量も少ない中で,胆汁が体外に排泄される状況であった。胆汁排泄が継続されていた期間は,主膵管拡張もあることから,これらを契機にビタミンK吸収能の低下が起きた可能性もある。

しかし,本症例は周術期から使用を開始したセフェム系抗生物質の関与が疑われる。ビタミンKはキノン型で体内に吸収されたのち,ビタミンKレダクターゼとビタミンKエポキシドレダクターゼによりヒドロキノン型とのビタミンK還元サイクルを形成している。このサイクルの補酵素作用によりPIVKAからビタミンK依存性凝固因子(第II・VII・IX・X因子)および2種類の凝固制御因子(プロテインC・プロテインS)が生成されており,経口抗凝固薬であるワルファリンは,このビタミンK還元サイクルの一部を直接的に阻害することで抗凝固作用を発揮している7)。セフェム系抗生物質の一部に組み込まれたN-methyl tetrazole thiol(NMTT)基は,ビタミンKエポキシドレダクターゼを直接的に阻害し,ワルファリン同様の作用を来す。これにはラタモキセフ・セフォチタン・セフメタゾンなどがあり8),今回使用されたSBT/CPZも含まれている。一方で,NMTT基をもたないセフェム系およびセフェム系以外の抗生物質については,このような肝での直接的な作用はみられないが,腸内細菌叢に影響を及ぼし間接的なビタミンK欠乏症に至ることが知られている9)~12)。ビタミンKの直接測定を行っていない本症例については,抗生物質投与による腸内細菌叢の減少でのビタミンK吸収障害の可能性を完全には除外できていない。しかし,安岡らの報告13)ではNMTT基を含むセフェム系抗生物質を使用した群とNMTT基を含まない群を比較するとPT悪化(活性値80%以下,投与前より10%以上低下)は前者で8.7%,後者は2.1%であった。投与前と投与後の入院10日目を比較したところ,本症例のPT活性値は95.5%もの低下がみられた。SBT/CPZ投与開始9日目の凝固検査値の急激な変動およびビタミンK依存性凝固因子・凝固抑制因子の活性低下,PIVKA-IIの異常高値があり,ビタミンK投与およびセフェム系からニューキノロン系抗生物質の変更を実施した後,凝固検査値(凝固時間)は速やかに回復した。森らの報告9)では抗生剤投与中にビタミンK欠乏性凝固障害示した13例中,NMTT基をもつセフェム系抗生物質を使用した4例は食事摂取量の低下,下痢の有無にかかわらず凝固障害がみられ,NMTT基をもたないセフェム系抗生物質などその他の9例で食事摂取量の低下や下痢がみられる症例が多くあった。本症例については患者の食事摂取量の低下は認めるものの,下痢症状については確認できなかった。これらのことから本症例のビタミンK欠乏の要因としては,腸内細菌叢への影響によるビタミンK吸収能の低下より,SBT/CPZの保つNMTT基によるワルファリン様副作用による代謝障害の可能性が高いと考えられた。PT,すなわち外因系の凝固機能異常は特に半減期が4–6時間と短い凝固第VII因子の影響を受けると思われ,その半減期は4–6時間とされる。10%の活性を下回ることからは出血も危惧される状況で,APTTの延長も併せると,DICなど膵炎に伴う障害の可能性も除外する必要があり,凝固各因子の測定も必要な状況となっている14)

薬剤による副作用の発現を考える際には,患者側因子と薬剤側因子の両面を留意して判断しなければならない。本症例の周術期における血液凝固障害の原因は,患者側因子として,患者の食事摂取量の減少によるビタミンK摂取不足の環境下で,胆汁体外排泄によるビタミンKの腸管吸収能の低下も重なったこと,さらに薬剤側因子として,セフェム系抗生物質の有するNMTT基による直接的なビタミンK欠乏状態が促進されたことにより,肝におけるビタミンK依存性凝固因子などの産生低下に繋がったことが考えられた。

IV  結語

胆汁体外排泄およびセフェム系抗生物質の使用によりNMTT基での直接的に肝でのビタミンK欠乏を来し,急激な凝固異常を呈した症例を経験した。単独の要因でビタミンK欠乏症に至ることは稀と考えると,患者背景(食事歴・服用薬剤・処置など)を注意して確認する必要性を改めて感じる症例であった。迅速なビタミンK投与が可能となるように,疾患や薬剤に対する知識を増やすとともに,適切な追加検査の提案を積極的に行うことが診療に寄与する検査の在り方と思われた。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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