医学検査
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症例報告
クロスミキシングテストの希釈系列追加が有用であった自己免疫性後天性凝固第V因子欠乏症の一例
山本 由貴子中山 智史伏見 真也野口 明音曽根 岳大緒方 衝小林 真一松熊 晋
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2026 年 75 巻 2 号 p. 465-470

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Abstract

自己免疫性後天性第V因子欠乏症は,第V因子に対する自己抗体が関与する疾患で,多彩な症状を示すことが多い。今回我々は,血栓症の臨床症状を示し,従来法のクロスミキシングテスト(cross mixing test; CMT)ではインヒビター型が判断できなかったものの,希釈系列を追加測定する工夫を加えたCMTによりインヒビター型と推測しやすくなり,自己免疫性後天性第V因子欠乏症の確定診断に至った症例を経験した。Lupus anticoagulantを含め,精査を過不足なく行うためにも,PT・APTTの延長例のスクリーニング段階でCMTを速やかに院内で実施することが望ましいが,正しく結果判定することが必須となる。数値指標の導入と場合により測定する希釈系列を追加することで,精度の高い検査を診療に反映でき,結果的には検査担当者の経験に影響されにくく,同時に客観性も担保できたものと考えられた。

Translated Abstract

Autoimmune-acquired coagulation factor V deficiency (AiFVD), which is associated with autoantibodies against factor V, presents with a wide range of symptoms. We have encountered a unique case of AiFVD exhibiting thrombosis. Conventional cross mixing test (CMT) could not reveal the presence of “inhibitor pattern”. However, the modified CMT, in which we added increased dilution ratio series, indicated the “inhibitor pattern” more clearly, and suggested a diagnosis of AiFVD. To exam adequately (avoiding conducting tests for lupus anticoagulant for all suspected cases), we should perform CMT on the patient with prolonged PT or APTT within the day within the hospital. In the present case, numerization of the data with adding another dilution series can take us to the accurate diagnosis. Such approach offers the additional benefit of being less dependent on laboratories skills or experience, and of simultaneously enhancing objectivity in the data obtained.

I  序文

自己免疫性後天性第V因子欠乏症(autoimmune-acquired coagulation factor V deficiency; AiFVD)は,厚生労働省指定難病1)の稀な疾患であるが,後天性インヒビター性疾患のなかでは,後天性血友病を惹起する第VIII因子インヒビターに次いで多く,疾患認知度の高まりにより近年報告が増えている2)。自覚症状がなく検査値の異常を示すだけの症例から,軽症の例,重篤な出血症状を示す例など多彩な症状を呈し2),稀に血栓症3),4)の報告もある。過去には,ウシ由来のフィブリン糊(現在国内では未流通)使用による発症例が多く報告され3),他には,感染症,悪性腫瘍,自己免疫性疾患,透析患者に発生した症例5),6)や薬剤誘発例(抗菌薬3),抗凝固薬7)など)が報告されているが,原因疾患や薬剤も広範囲で,特定も困難である8)。今回我々は,プロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が急激に延長した例で,院内でクロスミキシングテスト(cross mixing test; CMT)を実施するも診断に苦慮し,希釈系列追加の工夫を加えたCMT結果から,AiFVDの診断確定に寄与できた症例を経験したので報告する。

II  症例

66歳男性。

既往歴:高血圧,2型糖尿病,アルコール性肝障害。

主訴:凝固検査値異常。

現病歴:某年3月,回腸末端静脈からの出血によるショックで当院に救急搬送された。入院翌日に内視鏡硬化療法,第16病日に部分脾動脈塞栓術が施行され,経過良好で第22病日に退院した。その後はChild-Pugh分類A~B相当のアルコール性肝硬変と静脈瘤に対し,外来で経過フォローとなった。しかし,初回退院8日後の採血にてPT・APTTの著明な延長を認めたため,同日再入院となった。

検査所見;初回入院の退院時はPT 10.8秒,APTT 32.2秒と基準範囲内であったが,退院から8日後の時点でPT 79.8秒,APTT 170秒以上と延長を認めたため,再入院となった。同日の追加検査にてフィブリン・フィブリノゲン分解産物(fibrin and fibrinogen degradation products; FDP),D-dimer,トロンビン・アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex; TAT)も高値であり,凝固機能異常と凝固・線溶亢進が示唆された(Table 1)。再入院翌日にPT・APTTでのCMT(Figure 1)を実施した。その数値指標評価では,Rosner index(index of circulation anticoagulant; ICA)9),Was-ALD5010)は同一試薬で検討されたカットオフ値を用い,CMT index11),1:1% correction12),4:1% correction12)もそれぞれ既報に従い評価した。PTの目視判定では,即時型は基線近似型,遅延型は判定不能であった。APTTにおいては,被検血漿:正常血漿の混合比(以下,混合比)1:0で報告範囲を超えたものの,報告上限の170秒と仮定した上で,即時型は「下に凸:被検血漿の秒数と正常血漿の秒数を結ぶ直線よりグラフが下にある」,遅延型は基線近似型と推定した。結果的に,先天性の凝固因子欠乏型も否定できないため,インヒビター型とも断定することができなかった。再入院9日目にはAPTTのみ再検査し,このときは,希釈系列で混合比4:1と9:1での測定を追加して同様に数値判定も併用したところ,結果的に即時型は「下に凸」型,遅延型は基線近似型のインヒビターパターンと判定できた。

Table 1 入院時検査所見

生化学 血算 凝固
T-Bil 0.57 mg/dL WBC 7.3 × 103/μL PT 94.6秒
AST 28 U/L RBC 3.17 × 106/μL PT% 測定不可
ALT 15 U/L HGB 10.0 g/dL APTT 170秒以上
LD 403 U/L HCT 31.3% Fbg 426 mg/dL
TP 7.6 g/dL MCV 98.7 fL AT 82%
ALB 3.2 g/dL MCHC 31.9% FDP 16 μg/mL
BUN 18 mg/dL PLT 280 × 103/μL DD 14.1 μg/mL
CREA 1.11 mg/dL 可溶性フィブリン 3.0 μg/mL以下
Na 143 mmol/L PIC 0.634 μg/mL
K 4.2 mmol/L TAT 4.8 ng/mL
CL 109 mmol/L
アンモニア 34 μg/dL
Figure 1  クロスミキシングテスト

それらの結果を基に凝固因子活性・インヒビターおよびループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)関連の追加検査(一部,保存検体での精査)を実施した(Table 2)。再入院1日目に第V因子(FV)活性3%以下,第X因子(FX)活性60%。再入院1日目に希釈ラッセル蛇毒時間(diluted Russell’s viper venom time; dRVVT)法,再入院6日目にリン脂質中和法で実施したLA測定はどちらも凝固点が得られず判定不能であった。PIVKA-2 60 mAU/mL。再入院5日目にFVインヒビター(FVINH)8 BU/mL。再入院6日目に抗カルジオリピン(cardiolipin; CL)/抗β2-グリコプロテインI(β2-glycoprotein I; β2-GPI)複合体抗体0.8 U/mL,抗CL IgM抗体3.4 U/mL,再入院12日前の残余血清検体で提出した抗リン脂質抗体パネル検査(抗CL IgG抗体,抗CL IgM抗体,抗β2-GPI IgG抗体,抗β2-GPI IgM抗体)はすべて参考基準値以下であった。再入院中に検索したところ,凝固第XIII因子活性は正常であったが,第VII,IX,X,XI,XII因子活性はすべて参考基準値未満,第II因子・第VIII因子活性は測定不能であった。再入院14日目に再検査したFV活性は24%であり,Bethesda法でFVインヒビターの存在を確認できた。他の複数の凝固因子活性も低下していたが,凝固一段法で測定したことによる偽低値の可能性が考えられ,またインヒビターの力価が高いため他因子の測定に影響を及ぼしている可能性もあることから,FVインヒビター陽性の結果が重視され,AiFVDと考えられた。

Table 2 凝固因子活性・インヒビター検査・抗リン脂質抗体症候群関連検査

凝固因子活性・インヒビター 抗リン脂質抗体症候群関連検査
項目 結果 採血日 項目 結果 採血日
第V因子 3%以下 day 1 LA(dRVVT) 測定不能 day 1
第X因子 63% day 1 抗CL/β2GPI複合体抗体 0.8 U/mL day 6
第II因子 判定不能 day 2 抗CL IgM抗体 3.4 U/mL day 6
凝固抑制第V因子 8ベセスダU/mL day 5 LA(リン脂質中和法) 測定不能 day 6
第VII因子 58% day 9 【抗リン脂質抗体パネル】
第VIII因子 判定不能 day 9 抗CL IgM 10.2 U/mL –day 12
第IX因子 62% day 9 抗CL IgG 3.6 U/mL –day 12
第XI因子 42% day 9 抗β2GPI IgG 9.5 U/mL –day 12
第XII因子 30% day 9 抗β2GPI IgM 1.1 U/mL未満 –day 12
第XIII因子 97% day 9

採血日:再入院からの日数

治療介入後の経過:再入院10日目にプレゾニドロン(PSL)30 mg/dL内服が開始されると,PT・APTTは速やかに短縮した。再入院3日目の造影CTで回腸静脈から上腸間膜静脈内に血栓を認めていたが,再入院15日目の造影CTではおおむね消失していた。PT・APTTは再入院16日目以降正常範囲内となり,再入院23日目にPSL 25 mg/dLに減量しても変動を認めなかったため経過良好と判断され,再入院から27日後に退院となった。2回目退院後の外来フォローを続けているが,約3年が経過する現在まで,PT・APTTの再延長は認めていない。

III  考察

AiFVDが疑われる例を経験した。PT・APTTが延長しており,Bethesda法でFVインヒビターが検出されたことから本症と診断できた。

本症例では,凝固因子インヒビター保有にもかかわらず,出血症状はなく血栓症として発見された。これは,FVが生体内で持つ役割の複雑さを反映していると考えられている。FVは向凝固,抗凝固の相反する作用にかかわる因子であるため,2つの作用の抑制される度合いによって,無症状,出血症状,血栓症と多彩な症状を示すと考えられている3)。またインヒビターが認識するエピトープの違いによっても症状が異なる可能性が指摘されている2)

一方,AiFVDの検査と診断の際に注意すべき点として,LAの存在・鑑別が挙げられる。リン脂質依存性の凝固反応を阻害するLA保有例では,APTTを原理とする凝固因子活性や凝固因子インヒビター測定に影響を与えることがある。FV活性測定やBethesda法によるFVインヒビター測定も例外ではなく,保有していないのにもかかわらず,FV活性の偽低値やインヒビター偽陽性の結果から,結果的に誤診となった報告もある13)。厚生労働省の診断基準でも1),鑑別診断として抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS)などを除外しなければ,「Possible」のカテゴリーとなり,確定診断とはならない。本症例ではdRVVT系LAとリン脂質中和法によるAPTT系LAはどちらも判定不能であるものの,その他実施したAPS関連検査はすべて陰性であることから,APSは否定的と判断している。

さらに診断基準で確定診断用検査として3種類の検査が示されており1),そのなかで最も確定診断に近い検査に位置付けられているのが,免疫学的手法で抗FV自己抗体が検出されることである。しかしながら,このELISAによる検査は研究室レベルを出ず,一般的な病院ではAiFVDの確定診断は困難ともいえるため,本症例では院内で実施可能なCMTと外部委託検査で実施可能なベセスダ法による凝固抑制物質の検査の結果で評価した。

LAを検出する検査のひとつにCMTがある。LAは即時型インヒビターであり,CMTを実施することで遅延型インヒビターと鑑別可能である。AiFVD症例は即時型インヒビターによるものが多いと言われるが2),目視判定では,即時型インヒビターの典型的パターンである「上に凸:被検血漿の秒数と正常血漿の秒数を結ぶ直線よりグラフが上にある」以外に,本症例と同様の基線近似型5),7),さらに「下に凸」14)など多様な波形パターンを示す2)。この下に凸であった天野らの報告14)では,中和抗体でなくクリアランス抗体の存在によってFV濃度が低下し,凝固因子欠乏パターンをとったと推察されている。厚生労働省の診断基準にもあるように1),判断に迷う場合は時間をおいて複数回検査することが望ましく,目視判定が非典型的でないときにどのように対処するかは重要と思われる。本症例において,目視判定のみで判定した場合でも,「1:1の混合血漿で凝固時間が補正されていない」という点と,「加温後に上にシフトしている」という点に着目できていれば,混合比1:0のポイントが測定範囲外でも,インヒビター型と判断ができ,臨床医へ適切なコメントが可能であった可能性もある。また徳永らの報告11)では,数値判定法との検討で,波形の目視判定で「上に凸」,「下に凸」のみで判定よりも,基線近似型をインヒビター型とみなすことで識別の感度が良くなると報告されている。この方法を採用すると,本症例でもインヒビター型と判定するのは容易となる。また即時型と遅延型の波形パターンの変化に着目することも有用と思われる。

CMTは,特別な装置や試薬が不要で,凝固検査を施行している施設であれば実施可能である。しかしながら用いる試薬の特性は様々で,正常血漿,判定法など標準化はされていない15)。当院は,混合比を0:1,1:9,1:4,1:1,1:0の5ポイントとしていたが,本症例では混合比4:1,9:1を追加したところ,波形パターンがより明確に判定できた。

ここで,「凝固時間が補正された」と判断する基準となりうるものとして,数値指標がある。主な数値指標は,混合比1:0の凝固時間に着目するため,本症例において算出できなかったものの,測定値が報告限界を超えた値について,報告値上限値に等しいと仮定する(再入院翌日),または混合比9:1の測定値に等しいと仮定する(再入院8日目)方法で同様に数値指標を算出した。その結果,再入院8日目のWas-ALD50と混和直後の1:1% correctionを除き,インヒビター保有の判定となった(Figure 1)。数値指標は,自施設でカットオフ値を設定する必要がある場合や,指標によって病態に対する感度や特異度が異なることがある点で注意が必要である。しかしながら,波形パターンにとらわれることなく,また検査担当者の経験に左右されず同一基準で判定ができるというメリットは大きい。「凝固時間が補正された/補正されない」という判定を,数値で表現することで,臨床側への説明も説得力のあるものとなる。グラフの波形は,混合比ごとの凝固時間の変化を直感的に捉えられる利点があり,そこに客観的な数値指標を合わせることで,病態の推定や追加検査の選択に寄与できるものと考えられる。さらに,CMT indexと4:1% correctionでは混合比4:1での測定値が必要となる。数値指標を有効活用するためにも,検体量の許す限りこの混合比を追加することが望ましいと考えられる。

本症例のようにPT・APTTの著明な延長がみられた場合,共通系凝固因子の異常を疑い,フィブリノゲン,PIVKA測定,肝蛋白合成能評価などと併せて凝固因子活性・インヒビター検査などが必要である。しかしながら当院を含め多くの施設で,インヒビター検査と因子活性検査を外部委託していると思われる。その場合,それらの結果が返却される前に院内でCMTを適切に実施することは,早期診断・治療選択に繋げるために重要である。また後藤ら16)は,診断後も定期的なCMT実施が臨床経過の把握に有用であったと報告している。AiFVDの診断とその後の経過観察において,外部委託検査や抗FV抗体検査は省略できないが,CMTの結果から精査の内容を検討することで,より効率的かつ速やかに病態を評価できるものと考えられた。

IV  結語

AiFVDの例を経験した際に,そのCMTでは,波形パターンに着目した目視判定において苦慮したが,数値判定と希釈混合比の追加でインヒビター型と判定できた。このような手法を用いれば,院内でも精度の高いCMTを即日実施でき,早期診断に繋げることが可能となる。また検査担当者間差も克服しやすく,同時に,データの客観性の担保にも繋がるものと考えられた。

本論文の要旨は第60回日臨技関甲信支部・首都圏支部医学検査学会(2024年10月,長野)で報告した。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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