医学検査
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原著
黄色ブドウ球菌菌血症におけるyoung colonyを用いたPBP2’検出試薬によるメチシリン耐性早期判定の有用性評価
中嶋 理子成田 和也遠藤 謙太郎齊藤 匠吾畠山 裕司藤原 亨仲村 究
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2026 年 75 巻 3 号 p. 497-502

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Abstract

黄色ブドウ球菌菌血症(Staphylococcus aureus bacteremia; SAB)は死亡率の高い感染症であり,分離菌がメチシリン感性か耐性であるかを早期に鑑別することは重要である。そこで,penicillin-binding protein 2’(PBP2’)を検出するイムノクロマト法試薬であるQライン極東PBP2’(以下,Qライン)を使用し,血液培養陽性から約6時間後に形成されたyoung colony 37検体(methicillin-susceptible S. aureus;MSSA 24件,methicillin-resistant S. aureus;MRSA 13件)のPBP2’判定を行い,薬剤感受性試験結果との一致率を検討した。Young colonyを用いたQライン測定結果は,感度100%,特異度95.8%であった。偽陽性の1例は,MSSAとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性Staphylococcus sp.(MR-CNS)の同時検出例であり,MR-CNS由来のPBP2’の検出が考えられた。Young colonyを使用した本試薬の測定は良好な感度・特異度を示したが,MR-CNSの混在による偽陽性に注意して運用する必要がある。PBP2’の有無を早期に報告することで,SABにおいてより迅速かつ適切な抗菌薬選択に繋がる可能性があり,今後さらに症例数を増やしながらその有用性について検討したい。

Translated Abstract

Staphylococcus aureus bacteremia (SAB) has a high mortality rate. Early detection of methicillin resistance is crucial for appropriate antibiotic treatment. This study evaluated the diagnostic accuracy of the Q-Line penicillin-binding protein 2’ (PBP2’) rapid immunochromatographic assay (Kyokuto Pharmaceutical Industrial Co. Ltd., Japan) for differentiating methicillin-resistant S. aureus (MRSA) from methicillin-susceptible S. aureus (MSSA) using young colonies. The Q-Line assay was performed on 37 clinical isolates (13 MRSA and 24 MSSA) from patients with SAB using young colonies of S. aureus formed on blood agar plates approximately 6 hours after inoculation from positive blood culture bottles. The Q-Line assay correctly identified all 13 cases of MRSA (100% sensitivity) and 23 of 24 cases of MSSA (95.8% specificity). One MSSA isolate tested false positive because of simultaneous detection of MSSA and methicillin-resistant coagulase-negative Staphylococcus sp. (MR-CNS) with PBP2’. The Q-Line assay demonstrated good sensitivity and specificity using young colonies; however, caution is required during operation to avoid false-positive results due to MR-CNS contamination. Although further research is required, these results suggest that the Q-line assay facilitates early detection of PBP2’ in cases of SAB and could contribute to early selection of appropriate antibiotics and promotion of antimicrobial stewardship.

I  はじめに

黄色ブドウ球菌菌血症(Staphylococcus aureus bacteremia; SAB)は重症例が多く,中でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant S. aureus; MRSA)菌血症は死亡率の高い感染症である1)。そのため,SABが疑われる場合の経験的治療として抗MRSA薬の投与が推奨され,通常の第一選択薬はバンコマイシン(vancomycin; VCM)である2)。一方,メチシリン感性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible S. aureus; MSSA)菌血症治療における第一選択薬は,第一世代セファロスポリン系薬のセファゾリン(cefazolin; CEZ)である3)。MSSAによるSAB症例に対してVCMで治療を行った場合,CEZで治療を行った場合と比較して予後が悪いことが報告されている3)。したがって,SAB症例において,MRSAかMSSAかを早期に鑑別することは抗菌薬治療を奏功させるうえで重要となる。

血液培養検査の所要時間として,まず陽転するまでに約10時間前後を要するとされている4)。血液培養陽性検体を培地に塗布し24時間培養し単独コロニーを形成させ,得られた単独コロニーを用いて薬剤感受性試験を実施するため,さらに18時間後に結果が判明する。このため,主治医へMRSAであると最終報告するまでに約3日を要する。当院には遺伝子検査機器が存在し,短時間で耐性遺伝子mecAあるいはmecCの有無の判定が可能であるが,コストの観点から全例での実施は困難である。また,耐性菌の遺伝子検査機器を保有していない施設も多い。このような背景から本研究では,血液培養で検出された黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性の有無について,低コストかつ,より早期に主治医へ伝える方法について検討した。MRSAの迅速診断検査として,mecAの翻訳産物であるpenicillin-binding protein 2’(PBP2’)を検出するイムノクロマト法を測定原理とした「Qライン極東PBP2’(極東製薬工業株式会社:以下,Qライン)」が存在する。本試薬は通常,約24時間分離培養されたコロニーを用いる。既報5)において,分離培養されたコロニーからのQライン検出結果は分離培養後の薬剤感受性試験結果と100%一致したことが報告されている。今回の検討ではQライン新規導入を目的に,培養開始から約6時間後に発育したコロニー(以下,young colony)を用いてQライン測定を行い,早期診断が可能であるかを評価した。

II  材料と方法

1. 対象

2023年4月から2024年2月までの11カ月間に提出された血液培養検体6,830件について23F好気レズンボトル,22F嫌気レズンボトルならびに小児用レズンボトル(いずれも日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用いて血液培養を実施した。測定にはBACTEC FX(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を使用し,そのうちS. aureusが検出された37症例を解析対象とした。

2. 当院における血液培養陽性検出時の通常の検査手順

当院では血液培養の陽性シグナルを確認後,ボトル内の血液を用いてグラム染色を実施し,5%CO2,35℃の培養条件でM58/馬チョコレート培地(栄研化学株式会社)にサブカルチャーを行った。当院では血液培養陽性検体に限り,より早期に検出菌の菌名同定と薬剤感受性試験の結果を報告するために培養開始から約6時間後に発育したコロニー(young colony)を用いて,MALDIバイオタイパー(ブルカージャパン株式会社)による菌種同定,および薬剤感受性試験を実施している。薬剤感受性試験はMicroScan WalkAway DxM 1096:Pos MIC 1J(ベックマン・コールター株式会社)を用いて基準濁度法で測定し,薬剤感受性パネルで18時間培養後CLSI M100-30th edの基準に従って判定した6),7)。MRSAあるいはMSSAであるかの判定は,オキサシリン(oxacillin; MPIPC)のminimum inhibitory concentra­tion(MIC)が ≥ 4 μg/mLまたはセフォキシチン(cefoxitin; CFX)のMICが ≥ 8 μg/mLの場合MRSAと判定する。また,複数菌の混在があった場合は,24時間分離培養し得られたS. aureus単独コロニー(以下,単独コロニー)を用いて,再度薬剤感受性試験を実施したのち最終報告を行っている。

3. Young colonyおよび単独コロニーを用いた際の検出感度の評価

質量分析計にてS. aureusと菌種同定されたコロニーを対象に,young colony,あるいは,単独コロニーを用いて(Figure 1),Qラインでの測定を行った。Qライン測定では,メーカーの添付文書に従い,付属のテストチューブに抽出液Aを5滴(約125 μL)加え,young colony 1白金耳相当を掻きとって懸濁し,室温で5分静置したのち,抽出液Bを5滴(約125 μL)加えて混和したものを試料とした。試料をテストプレートに60 μL滴下し,15分反応させた後,目視にて赤紫色のテストライン,コントロールラインを確認し判定を行った(Figure 2)。MPIPCまたはCFXの薬剤感受性試験結果に基づきMRSAまたはMSSAと判定された結果を比較対照として,young colonyおよび単独コロニーによるQライン測定結果の感度・特異度・陽性的中率および陰性的中率を算出した。

Figure 1  血液寒天培地上のコロニーの外観

a.24時間培養後のS. aureus単独コロニーでは各コロニーの辺縁が明瞭に観察される。b.培養約6時間後のS. aureus young colonyでは各コロニーの辺縁が不明瞭である。

Figure 2  PBP2’迅速検査キットを用いた測定例

a.MSSAの場合。b.MRSAの場合。C:コントロールライン,T:テストライン(PBP2’陽性ライン)を示す。

III  結果

Young colonyを用いて質量分析計による菌種同定を行った結果,37症例由来の血液培養ボトルがS. aureusと同定された。このyoung colonyに対してQライン測定を行ったところ,陽性14例,陰性23例であった。一方,対照法では,MPIPCまたはCFXの薬剤感受性試験結果からMRSA 13例,MSSA 24例と判定された。Young colonyを用いたQライン測定では,対照法でMRSAと判定された13例は,全て陽性となった。対照法でMSSAと判定された24例のうち,23例がQライン陰性であったが,残りの1例は陽性となった(Table 1)。対照法と異なり,young colonyでのみQライン陽性となった1例はMSSAとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistant coagulase-negative Staphylococcus sp.; MR-CNS)の同時検出例であった。本症例で分離されたMR-CNS純培養コロニーを用いてQライン測定を行ったところ陽性となった。以上より,young colonyを用いたQラインの感度,特異度は,100%(13/13),95.8%(23/24)であった。一方,単独コロニーを用いたQラインでの測定は,対照法と同一の結果が得られ,感度,特異度ともに100%であった(Table 2)。

Table 1 S. aureusのyoung colonyを用いたQライン測定結果

Qライン測定結果
+ 検査精度
MRSA 13 0 感度100% 陽性的中率92.9%
MSSA 1 23 特異度95.8% 陰性的中率100%
Table 2 24時間培養後のS. aureus単独コロニーを用いたQライン測定結果

Qライン測定結果
+ 検査精度
MRSA 13 0 感度100% 陽性的中率100%
MSSA 0 24 特異度100% 陰性的中率100%

IV  考察

本研究では,検査材料としてyoung colonyおよび単独コロニーを用いて,PBP2’を検出可能であるイムノクロマト法試薬を使用して検討を行った。単独コロニーを用いたPBP2’迅速検査の測定では薬剤感受性試験結果との乖離は認めず,感度,特異度ともに100%であった。一方,young colonyを用いた場合は,PBP2’迅速検査が陽性,薬剤感受性試験結果がMSSAと,PBP2’迅速検査結果が偽陽性を示した症例が1例あった。これは,MSSAとMR-CNSの同時検出例であった。PBP2’迅速検査試薬の添付文書8)には,交差反応性について「MR-CNSはPBP2’を産生するため陽性となることがある」と記されている。PBP2’迅速検査試薬の測定対象はS. aureusであるため,CNSにおける検査精度は保証されていないがMR-CNS由来のPBP2’を検出したことが推察される。Young colonyの段階では複数菌の混在が目視で確認できないため,質量分析計ではS. aureusと良好なスコアで同定されたが少量のMR-CNSが混在していたため,MR-CNS由来のPBP2’を検出し,PBP2’迅速検査結果は偽陽性を示したものと考えられた。

本研究の制限事項として,いくつかの点が考えられる。初めに,今回検出されたMRSAは,薬剤感受性試験結果が全てMPIPCおよびCFXともに耐性と判定される株であった。今回は検出されなかったが,MPIPCが感性,CFXが耐性と判定されるmecCを保有するMRSAなどでは,イムノクロマト法でPBP2’を検出できない可能性もあるため,注意する必要がある。また,今回の検討では質量分析計を使用してS. aureusと同定を行ったが,質量分析計および遺伝子検査機器,試薬を有さない施設も多い。同定機器,試薬を有さない場合においても,S. aureusを推定するためにラテックス凝集法を原理とした結合コアグラーゼ試験を用いることが可能である。ただし,S. aureus以外にもStaphylococcus lugdunensisなど結合コアグラーゼ試験陽性となる菌が含まれる可能性に留意する必要がある。一部留意点はあるが,結合コアグラーゼ試験にてS. aureusを推定し,同時にPBP2’迅速検査の結果を組み合わせることでMSSAまたはMRSAをより早期に推定することも可能であると考える。今回の検討結果から,一例として,young colonyを用いたPBP2’迅速検査フロー案を考案したので,これを図示する(Figure 3)。

Figure 3  PBP2’迅速検査キットを用いた抗菌薬使用適正化への活用例

抗菌薬耐性遺伝子検査機器を使用せず,通常の検査フローの中にyoung colonyを用いてPBP2’迅速検査キットでの判定を行う過程を追加し,適切な抗菌薬選択に結び付けることを目的としている。

既報では,SAB症例に対して,耐性遺伝子のmecAを遺伝子検査機器にて検出し,早期介入を行うことにより,標的治療開始までの時間が有意に短くなったとする報告9)や,早期介入による入院期間の短縮などにつながったとする報告がある10),11)。一方で,イムノクロマト法を用いたPBP2’迅速検査導入前後での抗菌薬適正使用についての報告は少ない。SAB症例においてyoung colonyを用いたPBP2’迅速検査の結果を臨床医に報告することで,MSSAではCEZ投与,MRSAでは抗MRSA薬の投与が,より早期に実施される可能性がある。このため,PBP2’迅速検査の導入前後における,SAB症例での抗菌薬投与状況および第一選択薬投与までに要した時間,患者予後改善の有無などについて今後の検討課題としたい。また,既報5)では,血液培養液を使用して本試薬によるPBP2’迅速検査を実施した場合,感度,特異度はそれぞれ98.2%,100%と高い有用性が示されており,血液培養液から直接PBP2’迅速検査を行えば,メチシリン耐性か否かをさらに早期に鑑別することができる可能性がある。しかし,血液培養陽性となった直後の段階では,S. aureusであるかCNSであるか菌種が不明である。血液培養陽性検体を使用して質量分析計での菌種同定を行うことも可能とされるが12),当院では実施しておらず,今回は血液培養陽性検体を用いた検討は行われなかった。これらについても今後の検討事項としたい。

V  結語

今回の研究結果の結論として,young colonyを使用したPBP2’迅速検査は,単独コロニーを使用したPBP2’迅速検査と比較しても良好な感度・特異度を示した。Young colonyを用いる場合,MR-CNSの混在例では偽陽性となる場合があることには注意を要するが,当院では実際に本試薬を用いてSAB症例におけるメチシリン耐性の有無について報告を行っている。今後さらに症例数を重ねその有効性を評価しながら,より迅速かつ適切な抗菌薬選択に貢献したい。

本検討は岩手医科大学倫理審査委員会の承認を受けている(承認番号:MH2024-079)。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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