医学検査
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症例報告
Fluorescence in situ hybridizationで非典型的な融合シグナルパターンを示したe14a3(b3a3)BCR::ABL1を有する急性リンパ性白血病の一症例
上條 途夢, 根岸 達哉, 重藤 翔平, 宮﨑 あかり, 紺野 沙織, 伊波 若葉, 仁科 さやか, 松田 和之
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2026 年 75 巻 3 号 p. 664-670

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Abstract

BCR::ABL1は9番染色体と22番染色体の転座によって生じる融合遺伝子であり,慢性骨髄性白血病(CML)や急性リンパ性白血病(ALL)で検出される。本症例では,骨髄穿刺液のFISHでBCR,ABL1,BCR::ABL1融合シグナルを各1個ずつ有する細胞を76.4%に認めた。通常使用しているRT-PCRではMajor,minor,micro BCR::ABL1 mRNAは検出されなかった。しかし,ABL1遺伝子のexon 3内にプライマーが設計されたMajor BCR::ABL1 RT-PCRでは増幅が認められ,ダイレクトシーケンス解析にてe14a3 BCR::ABL1と同定された。G分染法では複雑核型であったが,フィラデルフィア染色体を疑う派生染色体を認めた。BCR::ABL1の遺伝子型は,CMLではe13a2とe14a2,ALLではe13a2,e14a2,e1a2の検出頻度が高く,その他の遺伝子型は稀である。本症例は非典型的ではあったがFISHの所見からBCR::ABL1の存在を疑い,最終的にダイレクトシーケンスでe14a3(b3a3)BCR::ABL1を同定した。稀な遺伝子型の場合,RT-PCRに使用するプライマーの設計位置によっては検出できない場合がある。RT-PCRが陰性の場合でも,FISHやG分染法などの染色体検査の結果を踏まえ,総合的に考察することが重要であると考えられた。

Translated Abstract

BCR::ABL1 is a fusion gene arising from a translocation between chromosomes 9 and 22 and mainly detected in chronic myelogenous leukemia (CML) and acute lymphoblastic leukemia (ALL). In this case, fluorescence in situ hybridization (FISH) of bone marrow detected 76.4% atypical cells expressing one each of BCR, ABL1, and BCR::ABL1 fusion signals. Conventional reverse transcription polymerase chain reaction (RT-PCR) did not detect Major, minor, or micro BCR::ABL1 mRNA. However, Major BCR::ABL1 was detected by RT-PCR using primers designed for exon 3 of the ABL1 gene, and direct sequencing analysis identified it as e14a3 BCR::ABL1. Although G-banding revealed a complex karyotype, a derivative chromosome suggestive of Philadelphia was observed. The BCR::ABL1 genotypes detected most frequently are e13a2 and e14a2 in CML and e13a2, e14a2, and e1a2 in ALL, whereas other genotypes were rare. Here, we suspected BCR::ABL1 based on the atypical signal pattern of FISH findings and identified e14a3 (b3a3) BCR::ABL1 by direct sequencing. In the case of rare BCR::ABL1 genotypes, detecting variant genes may not be possible, depending on the design of the primers used in RT-PCR. Although RT-PCR results are negative, the results of chromosomal analyses, such as FISH or G-banding, must be evaluated comprehensively.

I  はじめに

BCR::ABL1遺伝子は,9番染色体と22番染色体の相互転座,t(9;22)(q34.1;q11.2)によって,9番染色体上のABL1遺伝子と22番染色体上のBCR遺伝子が融合することによって形成される。BCR::ABL1遺伝子から産生されるチロシンキナーゼが恒常的に活性化することで白血病細胞が過剰に増殖する1)。BCR::ABL1遺伝子が生じる派生22番染色体はフィラデルフィア(Philadelphia; Ph)染色体として知られており,慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia; CML)の90%以上で認められる2),3)。また,急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia; ALL)では加齢とともにPh染色体が陽性になる頻度が増加し,成人では15~30%が陽性であると報告されている2),3)。

現在のCMLおよびALL治療のキードラッグはチロシンキナーゼ阻害薬(Tyrosine kinase inhibitor; TKI)である。慢性期CMLの場合はTKIの投与が推奨され,寛解を維持することを目指す1)。一方,ALLはPh染色体の有無によって治療が異なり,Ph染色体陽性の場合はTKIを含む化学療法が推奨される1)。Ph染色体陽性ALLはTKI治療により予後が改善されることから4),Ph染色体やBCR::ABL1遺伝子の検出はTKI治療を行えるかの判断に直結し,臨床的に重要な意味を持つ。Ph染色体の検出にはfluorescence in situ hybridization(FISH)やG分染法,BCR::ABL1遺伝子の検出にはreverse transcription polymerase chain reaction(RT-PCR)などの検査が用いられる。

BCR::ABL1はBCR遺伝子の切断点の違いによって3種類に分類される。BCR遺伝子がexon 12~16で切断された場合はMajor,exon 1付近で切断された場合はminor,exon 19付近で切断された場合はmicroと分類される5)。一方,ABL1遺伝子側の融合は多くの場合exon 2(a2)で起こるが,e13a3やe14a3のようにexon 3(a3)を介するケースも存在する6),7)。CMLではMajorのe13a2やe14a2,Ph染色体陽性ALLではminorのe1a2やMajorのe13a2やe14a2の検出率が高い。これらのABL1遺伝子の切断点はすべてexon 2であり,その他の遺伝子型の検出は稀である。

今回我々は,FISHで非典型的なBCR::ABL1融合シグナルパターンを認めたものの,RT-PCRでのBCR::ABL1遺伝子検出に苦慮し,ダイレクトシーケンスによりe14a3(b3a3)BCR::ABL1と確定したALL症例を経験したため報告する。

II  症例

患者:50代女性。

現病歴:前医で血小板数の低下と末梢血液中の芽球を認め,ALLと診断された。造血幹細胞移植を見据えた治療のため,当院へ紹介された。

臨床経過:入院時の末梢血液検査は,赤血球387万/μL,白血球4,250/μL(分葉核球12.0%,桿状核球4.0%,単球2.0%,リンパ球33.0%,後骨髄球1.0%,骨髄球2.0%,芽球46.0%),血小板2.6万/μLであった。入院2病日目の骨髄穿刺検査では有核細胞数が6,800/μLであり,核網繊細,核形不整,核小体を認める細胞を芽球に分類し,52.2%認めた(Figure 1)。芽球のミエロペルオキシダーゼ染色は陰性,細胞表面マーカーはCD10,CD19,CD33,CD34,TdT陽性,CD13,CD20,CD117陰性であった。また,入院2病日目の骨髄穿刺液を用いて遺伝子・染色体検査を含む各種検査が提出された。白血病関連キメラスクリーニングPCRが陰性であったため,Ph染色体陰性ALLとして11病日目に寛解導入療法が実施されたが,精査の結果,BCR::ABL1が同定されたため,Ph染色体陽性ALLとして16病日目にTKI(ダサチニブ)による治療が開始された。CMLの急性転化か否かは不明であった。59病日目に地固め療法を開始し,180病日目に造血幹細胞移植が実施された。3年経過後も再発は認めていない。

Figure 1  骨髄像(May-Giemsa染色,×1,000)

III  遺伝子・染色体検査

1. FISH

入院2病日目に採取された骨髄液を用いてFISHを実施した。骨髄液を低張処理後,カルノア固定し,スライドグラスに滴下した。乾燥後,65℃ 2時間,乾熱滅菌機を用いてエージングを行い,0.1%NP-40/2 × SSCで37℃ 20分間インキュベーションした。脱水,乾燥後,Vysis LSI BCR/ABL Dual Color, Dual Fusion Translocation Probe Kit(Abbott)のプローブ溶液を滴下し,カバーグラスで覆い,ペーパーボンドでシールした。これをThermobrite(Leica)を用いて,変性73℃ 2分,ハイブリダイゼーション37℃一晩として反応を実施した。洗浄操作後,DAPI II(Abbott)による核染色とVECTASHIELD(Vector Laboratories)を用いた封入を行い,観察を行った8)。その結果,BCRシグナル(green signal; G),ABL1シグナル(red signal; R),BCR::ABL1融合シグナル(fusion signal; F)を各1個ずつ有する非典型的な細胞(1G1R1F)を500細胞中382細胞(76.4%)に認めた。また,分裂期核では融合シグナルが小型の染色体上に位置していることが確認された(Figure 2)。

Figure 2  FISHによるBCR::ABL1融合シグナルの所見

緑色:BCR(22q11.2),赤色:ABL1(9q34.1)

(A)正常細胞:緑色のBCRシグナルが2つと赤色のABL1シグナルが2つ観察される(2G2R)。(B)典型的なBCR::ABL1融合パターンを示す細胞:BCRシグナルを1つ,ABL1シグナルを1つ,融合シグナルを2つ認める細胞が観察される(1G1R2F)。(C)本症例:BCRシグナルを1つ,ABL1シグナルを1つ,融合シグナルを1つ認める細胞が76.4%に観察された(1G1R1F)。

2. RT-PCR

入院2病日目に採取された骨髄液を用いて,外注検査で白血病関連キメラスクリーニングPCRが実施されたが,Major BCR::ABL1 mRNAとminor BCR::ABL1 mRNAは検出されなかった。追加でmicro BCR::ABL1 mRNA定性PCRが外注検査で実施されたが陰性であった。精査のため,骨髄液からQIAamp RNA Blood Mini Kit(QIAGEN)で抽出したRNAを,M-MLV Reverse Transcriptase(Thermo Fisher Scientific)を用いて42℃で1時間逆転写反応し,得られたcDNAを用いてnested PCRを実施した。1st PCRには1st BCR(5'-C​G​G​G​A​G​C​A​G​C​A​G​A​A​G​A​A​G​T​G-3')と1st ABL(5'-T​G​T​G​A​T​T​A​T​A​G​C​C​T​A​A​G​A​C​C​C​G​G​A​G-3'),2nd PCRには2nd BCR(5'-G​T​G​A​A​A​C​T​C​C​A​G​A​C​T​G​T​C​C​A​C​A​G​C​A-3')と2nd ABL(5'-T​C​C​A​C​T​G​G​C​C​A​C​A​A​A​A​T​C​A​T​A​C​A​G​T-3')を使用した9)。PCR試薬はAmpliTaq DNA Polymerase(Applied Biosystems)を使用し,PCR反応液量は25 μL,プライマー最終濃度は1 μM,PCR反応条件は,1st PCRが96℃ 1分-(95℃ 20秒-60℃ 15秒-72℃ 1分)× 40 – 72℃ 2分,2nd PCRが96℃ 1分-(95℃ 20秒-60℃ 15秒-72℃ 1分)× 30 – 72℃ 2分とした。増幅産物をアガロースゲル電気泳動したところ,1st PCRの増幅産物はバンドとして検出されたが,2nd PCRの増幅産物は検出されなかった。1st PCRで得られた増幅産物はダイレクトシーケンスで配列の確認を行った。

3. ダイレクトシーケンス

nested PCRの1st PCR増幅産物を,アガロースゲルからQIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN)で精製した。1st BCRと1st ABLをシークエンスプライマーとして,BigDye Terminator v3.1(Applied Biosystems)を用いたシークエンス反応を行った。3500 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で塩基配列を決定し,得られた配列をBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast)で検索した。その結果,BCR遺伝子exon 14とABL1遺伝子exon 3の結合が確認され,e14a3 BCR::ABL1であると同定した(Figure 3)。

Figure 3  ダイレクトシーケンスによるe14a3 BCR::ABL1の同定

4. G分染法

入院2病日目の骨髄液を用いたG分染法が外注検査にて実施された。結果は45,X,-X,?t(7;9;22)(q22;q34.1;q11.2),add(12)(p11.2)[16]/46,XX[4]であり,Ph染色体を疑う派生染色体を含む複雑核型を呈した(Figure 4)。

Figure 4  カリオグラム

45,X,-X,?t(7;9;22)(q22;q34.1;q11.2),add(12)(p11.2)[16]/46,XX[4]

IV  考察

本症例では,白血病関連キメラスクリーニングPCRでのMajor BCR::ABL1 mRNAとminor BCR::ABL1 mRNAが陰性であったが,FISHで非典型的な融合シグナルを示す細胞を認めた。白血病関連キメラスクリーニングPCR では検出できないmicro BCR::ABL1の存在を疑い,micro BCR::ABL1 mRNA定性PCRの追加検査を臨床に依頼したが,これも陰性であった。そこで,他の非典型的なBCR::ABL1を疑い,ダイレクトシーケンスで解析したところ,稀な遺伝子型のe14a3 BCR::ABL1であることが判明し,TKIの使用につながった。

2018年のQinらの報告6)では,Ph染色体陽性のCML 4,750例のうち,e13a2とe14a2以外の非典型的な遺伝子型を示したのは83例(1.7%)であり,そのうちe14a3は11例(0.2%)検出されている。また,2007年のBurmeisterらの報告7)では,Ph染色体陽性のALL 416例のうち,e1a2,e13a2,e14a2以外の非典型的な遺伝子型を示したのは8例(1.9%)であり,e14a3は検出されていない。本邦のe14a3 BCR::ABL1症例は論文検索上,CML 2例10),11),ALL 2例12),13),急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia; AML)1例14)の5例であった。このように,e14a3 BCR::ABL1の報告は散見されるが頻度は低い。本症例はCMLからALLに急性転化したか否か不明であったが,CMLがALL発症以前にあった場合,CMLの段階からe14a3 BCR::ABL1が存在していた可能性も考えられる。

臨床で検出されるMajor BCR::ABL1のほとんどがe13a2またはe14a2であるため,Major BCR::ABL1検出用のPCRではABL1遺伝子のexon 2をターゲットとしてプライマーを設計している場合がある(Figure 5)。本症例で認められたe14a3 BCR::ABL1はABL1遺伝子がexon 3で切断されておりexon 2を含まないため,白血病関連キメラスクリーニングPCRで陰性を示したと考えられる。院内で実施したMajor BCR::ABL1 mRNA nested PCRにおいても,2nd PCR用のプライマーがABL1遺伝子のexon 2に設計されていたため,2nd PCRでは増幅産物が得られなかった。一方,1st PCR用のプライマーはABL1遺伝子のexon 3をターゲットとしていたため,e14a3 BCR::ABL1を増幅することができ,ダイレクトシーケンスを実施することができた。

Figure 5  BCR::ABL1検出用プライマーの設計位置

Vysis LSI BCR/ABL Dual Color, Dual Fusion Translocation Probe Kit を用いたFISHの場合,正常細胞では2G2R,典型的なt(9;22)(q34.1;q11.2)では1G1R2Fのシグナルパターンを示す。これまでに報告されているe14a3 BCR::ABL1症例の中には1G1R2Fの典型的なシグナル所見を呈した症例もあるが15),16),本症例では1G1R1Fを呈した。1G1R1Fが少数のみ観察された場合は,BCRシグナルとABL1シグナルが偶然重なった正常細胞であることがほとんどであるが,1G1R1Fの細胞割合が高い場合はBCR::ABL1を含む,非典型的な染色体の再構成を疑う必要がある。例えば,派生9番染色体のBCR遺伝子とABL1遺伝子の融合部に部分的な欠失が生じると1G1R1Fを呈する場合がある。派生9番染色体の部分欠失はBCR::ABL1陽性CMLの15~20%で認められ17),18),ALLにおいてもCMLと同等の割合で認められたという報告がある2),19)。また,Reddyら20)は,バリアントタイプの転座と多様なBCR::ABL1 FISHの所見について報告している。この報告では,単純な三点転座もしくは四点転座の症例の多くが2G2R1Fの所見であったのに対し,1G1R1Fのシグナルパターンを呈した三点転座の症例も1例認められている。今回の症例においても,G分染法の結果から7番染色体,9番染色体,22番染色体を含む三点転座の可能性が考えられたが,派生7番あるいは派生9番染色体に存在するBCR遺伝子とABL1遺伝子を含む領域が部分的に欠失したなどの理由で1G1R1Fのシグナルパターンとなった可能性が考えられた。今回の症例のように非典型的なシグナルパターンを呈する場合も存在するため,必要に応じて間期核のみの観察ではなく分裂期核の細胞を観察し,1つの染色体上に融合シグナルが生じていないかを確認することが重要である。

V  結語

今回,我々は通常のRT-PCRで検出が難しく,かつ,FISHで非典型的なシグナルパターンを呈するe14a3 BCR::ABL1症例を経験した。非典型的なシグナルパターンではあったが,FISHの所見からBCR::ABL1の存在を強く疑い,micro BCR::ABL1 mRNA定性PCRの追加検査を臨床に提案し,最終的にはダイレクトシーケンスでe14a3 BCR::ABL1を同定することができた。稀な遺伝子型のBCR::ABL1の存在を検査者が知識として持っていること,そして,RT-PCRの偽陰性が疑われる場合にプライマーの配列や設計位置を複合的に考察することが重要であると考えられた。

本研究は信州大学生命科学・医学系研究倫理委員会の承認を得て実施した(試験番号CR2025-002)。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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