医学検査
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症例報告
過粘稠度症候群による血清粘稠度上昇が生化学自動分析装置のサンプル吸引エラーの原因となった1例
木村 依利愛, 河野 克海, 栁 政希, 山田 明輝, 緒方 良一, 猪﨑 みさき, 唐澤 賢祥, 梅北 邦彦
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2026 年 75 巻 4 号 p. 917-922

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Abstract

過粘稠度症候群は血液粘稠度の上昇により出血傾向や視覚障害を呈し,検査値に影響を及ぼすことがある。今回,血清粘稠度の上昇により生化学自動分析装置でサンプル吸引エラーを生じた症例を経験したので報告する。症例は80歳代男性。持続する口腔内出血のため入院し,初回生化学検査で再遠心後も吸引エラーが反復したがフィブリン析出は認めなかった。検体観察で血清の粘稠性を認めたため主治医と協議しNa,K,Cl以外の項目で生理食塩水による希釈測定を行ったところ,測定可能となった。大部分の項目では2倍および4倍希釈で直線性の確認を行い,高値であったIgAは8倍希釈で測定して報告した。一方,血球数算定検査および凝固検査では吸引エラーを認めなかった。高蛋白血症とIgG,IgAの著明な増加を認めシェーグレン症候群と診断され,免疫グロブリン増加による過粘稠度が吸引エラーの原因と考えられた。治療として血漿交換療法が施行され,総蛋白および免疫グロブリン値の低下とともに臨床症状が改善した。このことから,本症例における血清粘稠度の上昇は免疫グロブリンの増加に関連していたと考えられた。サンプル吸引エラー発生時にはフィブリン析出のみならず検体粘稠度の異常を考慮し,検体観察と希釈測定を行うことが重要である。

Translated Abstract

Hyperviscosity syndrome, characterized by increased blood viscosity, can cause bleeding, visual disturbances, and neurological symptoms. Although most commonly associated with lymphoproliferative disorders, it may also occur in autoimmune diseases. Herein, we report a case in which elevated serum viscosity caused repeated sample aspiration errors in an automated biochemical analyzer. An 80-year-old man was admitted with persistent oral bleeding. During routine laboratory testing, repeated aspiration errors occurred despite re-centrifugation. No fibrin clots were observed; however, visual inspection revealed increased serum viscosity. After consultation with the attending physician, the specimen was diluted with saline, enabling measurement of all biochemical parameters except sodium, potassium, and chloride. Linearity was confirmed for most parameters using 2x and 4x dilutions, and IgA, which showed high values, was measured and reported using an 8x dilution. In contrast, complete blood count and coagulation tests were performed without any aspiration errors. Laboratory findings showed marked hyperproteinemia with elevated IgG and IgA levels, and the patient was subsequently diagnosed with Sjögren’s syndrome. Plasma exchange therapy was performed as treatment, and clinical symptoms improved along with a decrease in total protein and immunoglobulin levels. Therefore, it was considered that the elevated serum viscosity in this case was related to the increase in immunoglobulins. When sample aspiration errors occur, abnormal specimen viscosity should be considered alongside fibrin-related issues. Careful visual inspection and appropriate dilution can be effective strategies to obtain reliable laboratory results.

I  はじめに

生化学検査において,検体性状の異常は測定誤差や分析エラーの原因となることが知られている。特にサンプル吸引エラーは凝固不十分による血清のフィブリン析出により発生することが多いが1),2),血清粘稠度の上昇によって生じる場合もある。しかし,粘稠度の異常による分析装置の吸引エラーに対する検査室での具体的対応についての報告は多くない。過粘稠度症候群は免疫グロブリンの増加などにより血液粘稠度が上昇し,出血傾向や視力障害などを呈する病態であり3),4),血清性状の変化を伴うことがある。

今回,生化学自動分析装置でサンプル吸引エラーを認め,検体観察により血清粘稠度の上昇を疑い,希釈測定により対応した症例を経験したので,検査室での対応と分析装置における吸引エラー発生の要因について考察し報告する。

II  症例

患者:80歳代,男性。

主訴:止血困難,視力低下。

嗜好:飲酒,喫煙なし。

家族歴:妹 関節リウマチ。

既往歴:近医にて貧血の精査歴があったが,確定診断には至っていなかった。

現病歴:入院15日前に転倒し顔面打撲により口元を受傷し近医歯科を受診した。止血困難のため近医内科を受診したところ,血液検査で総蛋白高値および赤血球連銭形成を指摘された。また,同時期から視力低下を自覚し,眼底出血を認めたため精査加療目的で当院血液内科に入院となった。

入院時検査所見:入院時の生化学検査において生化学自動分析装置TBA-2000FR(キヤノンメディカルシステムズ株式会社)で測定したところ,Na,K,Cl以外の項目でサンプル吸引エラーが発生した。フィブリン析出の可能性を考え確認したが認められず,再遠心後に再測定したが同様のエラーを認めた。検体外観を観察したところ,正常血清と比較して粘稠性を認めた(Figure 1)。このため血清粘稠度の上昇による吸引不良を疑った。主治医へ報告し協議のうえ,Na,K,Cl以外の項目について生理食塩水による2倍希釈測定を実施した。さらに4倍希釈でも測定し直線性を確認した後,希釈測定である旨と希釈倍率を付記して結果を報告した(Table 1,2)。血球数算定検査多項目自動分析装置XN-3000(シスメックス株式会社)および血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社)では吸引エラーは認めず測定可能であった。

Figure 1  患者血清の性状

患者血清は正常血清と比較してやや粘稠性が認められた。

Table 1 入院時検査所見

生化学・免疫学的検査 血液検査
TP 10.10​ g/dL WBC 58​ × 103/μL
Alb 1.99​ g/dL 機械分類
A/G 0.25​  Seg 41.2​%
BUN 23.0​ mg/dL  Lymph 51.7​%
Cre 1.01​ mg/dL  Mono 6.8​%
T-Bil 0.6​ mg/dL  Eos 0.0​%
Glu 157​ mg/dL  Baso 0.3​%
T-cho 71​ mg/dL RBC 3.01​ × 106/μL
Na 132​ mmol/L Hb 9.2​ g/dL
K 4.4​ mmol/L Ht 29​%
Cl 97​ mmol/L MCV 96.3​ fL
Ca 8.3​ mg/dL MCH 30.6​ pg
AST 14​ U/L MCHC 31.7​ g/dL
ALT 11​ U/L Plt 129​ × 103/μL
LD 175​ U/L 凝固検査
γ-GT 12​ U/L PT 19.5​ sec
ALP 59​ U/L PT活性 50​%
ChE 138​ U/L PT-INR 1.60​
CRP 0.32​ mg/dL APTT 43.7​ sec
IgG 3,106​ mg/dL Fib 207​ mg/dL
IgA 4,577​ mg/dL FDP 3.0​ μg/mL
IgM 22​ mg/dL DD 0.94​ μg/mL

※目視では正常リンパ球と鑑別できないother細胞あり。

※生化学・免疫学的検査ではIgAは8倍希釈,その他の項目は2倍希釈補正した結果を報告した。

Table 2 希釈直線性の確認

2倍希釈 4倍希釈 8倍希釈 単位
TP 10.10 9.92 — g/dL
Alb 1.99 1.86 — g/dL
BUN 23.0 21.9 — mg/dL
Cre 1.01 0.97 — mg/dL
T-Bil 0.6 0.6 — mg/dL
Glu 157 153 — mg/dL
T-cho 71 72 — mg/dL
Ca 8.3 8.3 — mg/dL
AST 14 15 — U/L
ALT 11 10 — U/L
LD 175 173 — U/L
γ-GT 12 12 — U/L
ALP 59 58 — U/L
ChE 138 135 — U/L
CRP 0.32 0.38 — mg/dL
IgG 3,106 3,154 — mg/dL
IgA ※3,089 ※4,022 4,577 mg/dL
IgM 22 35 — mg/dL

※測定範囲上限オーバー

検査結果ではTP 10.10 g/dL,Alb 1.99 g/dL,A/G比0.25と高蛋白血症を認め,IgG 3,106 mg/dL,IgA 4,577 mg/dLと免疫グロブリンの著明な増加を認めた(Table 1)。末梢血標本では赤血球連銭形成を認め,凝固検査ではPTおよびAPTT延長を認めたが,クロスミキシングテストでは凝固因子欠乏パターンを示し測定は可能であった(Figure 2)。眼底検査では眼底に全周性のしみ状出血多発や静脈蛇行を認めた。これらの高蛋白血症やIgG,IgA高値,赤血球連銭形成や,眼底出血などの眼底症状により過粘稠度症候群と診断された。過粘稠度症候群の原疾患として悪性リンパ腫などの血液疾患やシェーグレン症候群などの自己免疫性疾患が疑われ,追加検査が実施されることとなった。追加検査では低補体血症,抗核抗体speckled型陽性,抗SS-A/Ro抗体陽性,口唇小唾液腺生検陽性,シルマー試験陽性などを認め(Table 3),シェーグレン症候群と診断された。免疫固定法ではIgG-κ型およびIgA-λ型M蛋白を認めた。M蛋白血症(IgG-κおよびIgA-λ)を認めたことから,骨髄腫およびリンパ系腫瘍の合併も考えられたが,M蛋白血症の原因となる血液疾患の特定には至らなかった。第19病日に血漿交換療法が施行されたが,濾過膜が閉塞し失敗した。第23病日に抗凝固剤や濾過膜を変更することで血漿交換療法が可能となり,総蛋白および免疫グロブリン値の低下とともに臨床症状は改善した(Figure 3)。このことから,本症例における血清粘稠度の上昇は免疫グロブリン増加に関連していたと考えられた。

Figure 2  APTTとPTによるクロスミキシングテスト

即時反応(青線),遅延反応(赤線)ともに下に凸であり,凝固因子欠乏パターンであった。

Table 3 追加検査所見

CH50 24​ CH50/mL PIVKA-II 11​ mAU/mL
C3 43​ mg/dL 第II因子活性 44​%
C4 21​ mg/dL 第V因子活性 53​%
Free light chain κ 42.3​ mg/L 第VII因子活性 49​%
Free light chain λ 38.5​ mg/L 第VIII因子活性 34​%
κ/λ ratio 1.1​ 第IX因子活性 41​%
Anti SS-A/Ro antibody (+) 第X因子活性 43​%
Anti SS-B/La antibody (−) 第XI因子活性 41​%
クリオグロブリン (−) 第XII因子活性 34​%
寒冷凝集反応 (−)
口唇小唾液腺生検 (+)
シルマー試験 (+)
ガム試験 (+)
Figure 3  単純血漿交換による総蛋白と免疫グロブリンの変化

血漿交換前後の総蛋白および免疫グロブリン値の変化。血漿交換後,総蛋白および免疫グロブリン値の低下とともに臨床症状の改善を認めた。免疫グロブリン増加が過粘稠に関与していたことが示唆された。

III  考察

本症例では生化学自動分析装置においてサンプル吸引エラーが発生した。フィブリン析出は認めず,再遠心後も同様のエラーを認めたことから検体性状の異常が原因と考えられた。検体観察で血清の粘稠性を認め,生理食塩水による希釈により測定可能となったことから,血清粘稠度の上昇が吸引不良に関与した可能性が高いと考えられた。なお,本症例では血清粘稠度や血漿粘稠度の測定は実施していない。しかしながら,末梢血標本における赤血球連銭形成や過粘稠度症候群に特徴的な眼底所見,および血漿交換時の濾過膜の閉塞,血漿交換による免疫グロブリン低下に伴う一連の臨床症状の改善(Figure 3)や,生化学自動分析装置でのサンプル吸引エラーの改善所見から,本症例では血清・血漿粘稠度の上昇が関与していた可能性が高いと考えられた。生化学検査ではNa,K,Clのみ測定可能であったが,本症例における測定項目間の測定可否については,明確な理由を特定するには至らなかった。このため,本症例では電解質のみ測定可能であったが,他機種・他施設へ直接一般化することには注意を要する。一方で,高粘稠検体によるサンプリング時の空吸引や吸引不良は,分析装置の種類にかかわらず生じ得る物理的要因である。また,本症例では生理食塩水による希釈によって粘稠度を低下させることで測定エラーを回避し得たことから,高粘稠検体に対する希釈による対応が測定エラー回避に有効であることを示す既存の知見と整合する所見であった5),6)。これまでに過粘稠度による測定異常の報告は散見されるが,本症例のようにサンプル吸引エラーとして顕在化し,希釈測定により対応可能であったことを具体的に示した報告は限られている。例えば,シェーグレン症候群による高IgG血症にIgA-λ型多発性骨髄腫を合併した症例5)やシェーグレン症候群疑いおよびMGUSを背景にIgGとIgAが異常高値を示した症例6)において,生化学自動分析装置でのサンプル吸引エラーが報告されている。前者では希釈によって測定可能となり,後者においては希釈または42℃加温によって測定可能となった。また,クリオグロブリンが原因で過粘稠度症候群を呈した症例7)では,42℃加温により測定可能となったことが報告されている。本症例では42℃加温による測定は検討しておらず,希釈測定のみで対応した。一方,血球数算定検査および凝固検査では吸引エラーは認めなかった。過粘稠度症候群では血清・血漿粘稠度は上昇するが,貧血の影響により全血粘稠度は低下する場合があり8),本症例でも全血を用いる血球計数検査は測定可能であったと考えられた。また凝固検査では3.2%クエン酸ナトリウムによる血漿の希釈により血漿粘稠度の影響が軽減されたと推測された。また,測定装置においての吸引エラー検知の原理の違いやサンプル吸引量の違いなども要因として挙げられる。

過粘稠度症候群は免疫グロブリン増加などにより血液粘稠度が上昇して生じる。過粘稠度症候群の基礎疾患として原発性マクログロブリン血症,多発性骨髄腫が多いが,自己免疫疾患であるシェーグレン症候群や全身性エリテマトーデスでも起こることが知られている3)。過粘稠度症候群は免疫グロブリンでは特に分子量の大きいIgMが原因で引き起こることが多いが,IgAやIgGによって引き起こることもある9)~12)。シェーグレン症候群で過粘稠度症候群を引き起こす場合,顕著なポリクローナル高グロブリン血症と強く関連している13),14)。また,クリオグロブリンが原因で過粘稠度症候群を呈した症例7)があるが,本症例のクリオグロブリン検査では陰性であったため(Table 3),クリオグロブリンによって過粘稠度症候群を引き起こした可能性は低いと考えられた。本症例ではシェーグレン症候群によるIgGおよびIgAの著明な増加を認め,血漿交換後に免疫グロブリン値の低下とともに症状が改善したことから,免疫グロブリン増加が血清粘稠度の上昇に関与していたと考えられた。

本症例では口元の受傷時に止血困難であり,PTとAPTTの延長が認められ,クロスミキシングテストではPT,APTTの両方で凝固因子欠乏パターンであった(Figure 2)。FDP,Dダイマーが高くないこと,肝臓の機能や蛋白合成能に問題がないこと,PIVKA-IIが高くないことから生体内での凝固による凝固因子の消費,凝固因子の産生低下,ビタミンK欠乏症は否定的であったため,凝固因子に対するクリアランス抗体が存在する可能性が考えられた。本症例では,ほとんどの凝固因子活性が低下しており(Table 3),クリアランス抗体のような凝固因子に対する抗体が複数の凝固因子に対して影響を及ぼしていたと考えられたが,クリアランス抗体についての精査はできていない。

本症例を報告する意義は,日常的に遭遇するサンプル吸引エラーの背景として,フィブリン析出だけでなく検体粘稠度の異常の可能性も考慮すべきであることを再認識させた点にある。また,検体の肉眼観察により粘稠度の異常を疑い,希釈測定によって測定可能となったことが,過粘稠度症候群の診断につながる重要な契機となり得ることを示した。さらに,本症例は,検査室における異常検体への適切な対応が過粘稠度症候群の早期認識につながり,検査部門が病態把握に重要な役割を果たし得ることを示した症例である。

一方,本症例にはいくつかの限界がある。まず,測定項目間で測定可否に差が生じた明確な理由やその機序を特定するには至らなかった。また,血清粘稠度を粘度計などにより定量的に評価しておらず,客観的な粘稠度の指標を提示できていない。さらに,増加したIgAおよびIgGのサブクラスの同定や,高分子重合体あるいは他物質との複合体形成の有無など,過粘稠度を引き起こした詳細な機序については十分な解析を行えていない。今後は,これらの点を含めたさらなる検討が必要である。

IV  結語

本症例では,免疫グロブリン増加に伴う血清粘稠度の上昇がサンプル吸引エラーの一因と考えられた。サンプル吸引エラー発生時には検体粘稠度の異常も考慮し,検体の肉眼観察および適切な希釈測定が,原因の推定と測定結果の取得に有用である。

なお,本症例の報告について患者本人より同意を得ている。また,所属機関より倫理審査不要であることを確認した。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

文献
 
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