2019 年 15 巻 p. 1-11
本稿の目的は、ノルウェーと日本の育児政策の変遷を概観することで、その背後にある両国の「男女平等」を理解することである。ノルウェーと日本は共に「母親」の役割を強調しながら、女性に対する権利拡充が進んできた国であった。そのため公的保育サービスの普及は遅れたものの、ノルウェーでは1960 年代の福祉国家拡大による労働力不足、日本では1990 年代の少子化に対する危機から、育児の社会化が意識された。共通するのは、労働力不足や少子化という、「男女平等」とは直接的には関係のない外在的な社会変化によって、公的保育サービスの必要性が認識されたという点である。しかし、市場や家族にとってすぐ保育園を整備することが合理的である労働力不足と違い、少子化という直ちに社会に大きな影響を与えない問題から育児政策を充実しようとした日本では、高齢化対応が優先され、未だに待機児童問題さえ解決の目処が立っていない。