日本看護科学会誌
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原著
看護ケア発展に向けたキュアとケアを融合した看護実践の内的構造の分析
荒川 祐貴 井上 智子
著者情報
キーワード: 看護実践, ケア, キュア
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2015 年 35 巻 p. 72-81

詳細
Abstract

目的:我が国における,キュアとケアの融合に関する看護実践の内的構造を明らかにすること.

方法:看護師として役割を拡大しキュアを含む実践を行っている専門看護師を対象に半構成面接を実施し,得られたデータを修正版グラウンデッドセオリー・アプローチにて分析した.

結果:12名の専門看護師に対する面接から10のカテゴリーが得られ,それらの持つ性質ごとに分類した結果,キュアとケアの融合に動き出すきっかけとなる「動因」,キュアとケアを融合した看護実践を支えていく「支軸」,キュアとケアの融合を進める「中核要素」,キュアとケアを融合した看護実践により起こる「効果」の4つの側面から成るケアとキュアの融合の内的構造が明らかとなった.

結論:看護師がキュアの領域に役割を拡大したことにより,キュアを看護の視点で見つめケアと合わさることで,従来とは異なる治療や療養生活の形を生み出していた.以上の結果より,ケアとキュアの融合の内的構造が示された.

Ⅰ.はじめに

医療技術の進歩と疾患構造の変化という時代の流れに伴い,人々の健康問題は複雑化しヘルスケアニーズは多様化してきている.このような状況の中,チーム医療の重要性が注目され,その推進の1つとして看護師の役割拡大・専門性の向上に焦点を当てた検討が行われている(厚生労働省,2003厚生労働省医政局長通知,2007).2008年の日本学術会議においては療養上の世話と診療の補助を統合する看護職は,人々のQuality Of Life(以下QOL)を向上させ,業務や裁量の拡大により医療危機などの諸問題緩和に貢献できるとされている(日本学術会議,2008a, b).医師との協働関係の中で“グレーゾーン”ともいえる侵襲度の高い医行為を行っている現状も明らかとなっており,先駆的な看護師の役割拡大に関する報告(南,2010太田,2009小池,2010日本看護系学会協議会,2011)では,看護師の役割拡大は医師の代行ではなく,キュアとケアが融合・統合した新たな医療サービスを提供できる(南,2010)とされている.この「キュアとケアの融合」という概念は,看護師の役割拡大もしくは専門性について論じる際に,近年広く使用され(田中,2012法橋ら,2012),現在,急速に汎用されつつある.さらに,2011年の日本学術協議会の提言に記された高度実践看護師の定義(日本学術会議,2011)においてもキュアとケアの融合が記載されており,看護師の役割機能を考える上での重要なキーワードとなっている.

しかし,看護実践におけるキュアとケアの融合の明確な定義はなく,様々な意味を持って用いられることが多い.加えて,日本の看護師の役割を定めた保健師助産師看護師法において看護師独自の機能として“診療の補助”と“療養上の世話”という2つの役割が規定されている背景から,昨今議論となっている看護師の役割拡大の対象として今後候補に挙がることが想定される医療処置や医療行為等のキュアと,病気を抱える人々の療養上の世話を行うケアとを分けて考えがちである.そのためキュアもしくはケアに関する研究はあるものの,キュアとケアの融合は学問的に検討される機会は少なく,先行研究は認められない.しかしながら,求められる医療の形が変化している今,どちらか一方のみに集中するのではなく,病気を治すためのキュアと,病気を抱える人を全人的にとらえるケアとを融合することで初めて,人々の尊厳を守ることのできるバランスのとれた医療が可能になる.

そこで本研究では,看護師の中でもキュアを含む部分に役割拡大を果たしている専門看護師の実践に着目し,その実践内容および周囲の変化や影響を分析することで,我が国におけるキュアとケアの融合に関する看護実践の内的構造を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ.本研究における用語の定義

キュア:診療の補助行為の中で,現時点では臨床看護師のほとんどが行っていないが,今後,役割拡大の対象となることが想定される医行為を示す.なお診断や手術などの絶対的医行為は除外する.

ケア:看護師が自律して必要性を判断し,患者に提供する看護ケア全般を示し,主として“療養上の世話”を中心とするもの.

看護実践(実践):看護師として実施するアセスメントから行為,および評価までのすべてを示す.

Ⅲ.研究方法

1.対象

大学院を修了し,(公社)日本看護協会の認定を受けた専門看護師で,キュアの部分に関して役割拡大を行っており,以下の1)~3)のいずれかの基準に該当する者を対象とし,加えて本研究に同意が得られた者とした.また,研究協力者の領域および人数は,母集団の分布を反映するため(公社)日本看護協会に2013年時点で登録されている専門看護師の人数をもとに決定した.

  • 1) 専門看護師教育に携わっている看護系大学教員もしくは看護管理者より役割拡大を行っていると推薦を受けた者.
  • 2) 役割拡大を含む独自の実践がマスメディアなどを通じて公表されている者.
  • 3) 他の専門看護師より役割拡大を行っていると推薦を受けた者.

2.調査期間

平成24年11月~平成25年9月

3.調査方法

研究協力者が指定する日時にプライバシーが守られる個室で半構成面接を行い,許可を得て録音し,逐語録を作成後,データとした.

4.調査内容

キュアとケアの融合は,看護師の認識に基づいて行われた看護実践として具現化されることで外から観察可能となる.そこで本研究では,キュアとケアの融合の本質を研究協力者から直接聞き取るのではなく,具現化した実践の状況に加え,研究協力者の認識や踏み込んだ実践の過程について聞き取り,それらの分析によってキュアとケアの融合の本質を明らかにすることを意図した.そのため,役割拡大の具体的な実践内容と,そこに至った経緯,その実践を看護師として行う意図や効果,キュアの専門家である医師との関係への影響の4項目についてインタビューガイドを作成し,面接を行った.さらに,実践を行っている中で感じることについても自由に語ってもらった.

5.分析方法

インタビューデータは,行動推移のパターンやシステムの変化など,何らかのプロセスを捉えて構造化していくという特徴を持ち,インタビュー調査の分析に適していることから,木下の提唱する修正版グラウンデッドセオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach: M-GTA)(木下,2003, 2007)の手法を用いて分析を行った.分析テーマを「専門看護師がキュアに踏み込むことにより変化した看護実践の実際」とし,分析焦点者は「組織において役割拡大を行いキュアとケアを融合した看護実践を行っている専門看護師」とした.以下に分析の手順を示す.

  • 1) 分析テーマを意識した上で何度もデータを読み直し,データの中から本研究に関する部分を抽出した.
  • 2) 研究者が注目したデータの塊が分析焦点者にとって何を意味するのかを考え,意味解釈に基づき概念名を付けた.
  • 3) 複数の概念間の相互関係を検討し,複数の概念の関係を示すサブカテゴリーにまとめた後,さらに複数のサブカテゴリーの関係を示し分析のコアとなるカテゴリーを生成した.
  • 4) キュアとケアの融合において各カテゴリーが持つ性質ごとにまとめ,分析結果の構成要素となる側面とした.
  • 5) 各カテゴリーまたは各側面の相互関係から分析結果全体を表す構造図を作成した.

1)~4)の分析過程を繰り返し進めていき,データから新たな概念が生成されなくなったときを理論的飽和とし,分析を終了した.

6.研究の真実性・妥当性の確保

真実性の確保として,提起したテーマと解釈に対応するテクストを繰り返し読み,様々な背景をもつ専門看護師のデータから,分析過程で得られた解釈がデータに基づいたものであるかについて検討を行った.また,解釈の妥当性は全分析過程において質的研究および専門看護師の教育・活動にも詳しい看護学の専門家にスーパービジョンを受け,定期的に,得られたデータとその時点での分析内容の照合を行い,得られたデータと解釈に矛盾が生じていないか,飛躍した解釈がないか等の検討を行った.

7.研究協力者への倫理的配慮

東京医科歯科大学医学部倫理審査委員会の承認(承認番号1193号)を受けて実施した.研究協力者には,研究趣旨・個人情報の保護・自由意思での参加の決定・途中辞退の権利・参加により今後の活動に不利益が生じないこと・個人データの取り扱いには十分注意することを口頭と書面にて説明し承諾を得た.

Ⅳ.結果

1.研究協力者の概要

9領域の専門看護師,女性11名,男性1名の合計12名に依頼し,全員から承諾を得た.研究協力者の臨床経験年数は12~27年(平均20.4年)であり,専門看護師経験年数は1~15年(平均6.6年)であった.研究協力者の概要を表1に示す.

表1 対象者概要

2.面接の概要

研究協力者1人につき1回のインタビューを実施し,総インタビュー時間は877.4分,1人あたりの平均インタビュー時間は73.1分であった.

3.研究協力者の実践内容

12名の研究協力者のインタビューより得られた研究協力者の実践内容の詳細とその効果について,主たるものを抽出し,まとめたものが表2である.全研究協力者が複数のキュアに踏み込んだ実践を行っており,「時間をかけた日々の症状や経過,検査結果の説明」が12名中11名と最も多く挙げられた.これは,医師が説明を行った後に,その内容を看護師が補足説明するといったものではなく,看護師が主体となり,患者や家族に経過や検査結果の説明を行うものであった.そのほかにも「他職種・他機関介入の必要性の判断と依頼」としては,心臓血管外科患者の術前評価を行い,歯科受診の必要性を判断し依頼するといったことが行われていた.また,これらの実践による効果としては,患者が治療や療養に対する理解を深め,医師に一任することなく自ら選択・判断ができるといった,患者の主体性の維持と向上や患者の個別性を加味した治療の提案ができるなどが挙げられた.

表2 対象者の実践内容とその効果

4.分析結果

1)専門看護師がキュアに踏み込むことにより変化したキュアとケアを融合した看護実践

研究協力者のインタビューから85の概念を生成し26のサブカテゴリーに統合後,意味内容の類似するものを整理し10のカテゴリーにまとめた.さらに,それらが持つ性質ごとに分類した結果,キュアとケアの融合に動き出すきっかけとなる「動因」,キュアとケアを融合した看護実践を支えていく「支軸」,キュアとケアの融合を進める「中核要素」,キュアとケアを融合した看護実践により起こる「効果」の4つの側面が得られた(表3).以下,各側面にそってカテゴリー【 】,サブカテゴリー〈 〉,インタビューデータ『 』を用いて説明する.

表3 専門看護師がキュアに踏み込むことにより変化したキュアとケアを融合した看護実践の実際

(1)動因

動因としては2つのカテゴリーが抽出された.患者から,生活する上での注意点や対処方法といった治療・療養上の問題を解消するために看護師の力が求められ〈治療と生活のバランスをとる手段として患者に活用される〉ことや,マンパワー不足や効率性の問題から看護師に発熱外来の運営や退院支援を任せたいという動きを受け,キュアを含む実践に【看護の力を各方面から求められていると自覚する】姿がみられた.加えて,『私がする方が患者さんのQOLが高くなると決まった時にしか動かず,そこの見極めは十分にした』というように看護師がその実践に踏み出すことでどのような効果が得られるのかなどを検討し,【看護の向上につながるキュアを選択する】ことで,ケアとの融合にふさわしいキュアを選別していた.この2つは研究協力者の大部分のデータから双方共に抽出されており,2つがそろうことでキュアとケアの融合に動き出していた.

(2)支軸

支軸としては3つのカテゴリーが抽出された.1つ目は,【キュアを担うために自己研鑽を続ける】であり,キュアを行う看護師が,常に最新の薬理学の知識を得て薬剤調整を行うなど,〈明確な根拠を示すことでキュアの実践者として認知される〉ことを意識して活動していた.また,抗がん剤の投与ルート確保の技術の精度を保つために一定の穿刺回数が維持できるよう自らの環境を調整するなど〈実践の精度維持のために研鑽を続ける〉姿がみられた.2つ目は【単なる技術屋となる危険性を認識する】であり,『私が抗がん剤の静脈穿刺をしていることは化学療法ではなく,人として人生に付き合っていくことだ』や,『ご本人が「前よりも元気になった」という言葉が出るような結果を引き出すのが大事.一部分に酸素導入やIVHの滴下数を判断しているだけ』というように〈処置や判断は働きかけの一部でしかない〉という認識を持ち,周囲に取り沙汰されることの多い“処置ができる”ことへの執着や,処方権を獲得し治療のすべてを担うといった希望はなく,〈権限を持つことにこだわらない〉という姿勢でキュアを行っていた.3つ目は【医師の抵抗感を共感へと変化させる】であり,看護師がキュアを行うことに反対する医師との協働において,看護師がキュアを行うとともに患者の細かな疑問にまで対応する姿をみることや,看護師がキュアを行うことにより起こる患者の変化を感じ,『アンケート調査では9割以上の医師が今後も続けて欲しいという評価だった』『医師達から「自分のことが否定されると思っていたが,そうじゃなくてプラスアルファだとわかった」と言われた』という〈医師にとっての脅威ではなくプラスになると理解される〉ことで信頼関係を構築していた.加えて,医師との信頼関係が築かれたことにより,キュアの専門家である医師からスーパービジョンを得て,実践の精度をさらに向上させていた.以上の3つは,キュアとケアを融合した看護実践を継続し高めていくために不可欠な支軸として存在していた.

(3)中核要素

中核要素としては4つのカテゴリーが抽出された.1つ目は,【患者に合わせた治療を創り出す】であり,『病気の説明だけでなく,正常な時の説明や人が死んでいく仕組みとかを砕いて説明する』『看護師が話をすれば,その人らしくどう生きていくかっていう目で医学的診断に基づいて話をすることができる』というように医学的な切り口で伝えられる病状説明を,日常生活への影響などを絡めて説明するといった〈相手に合わせた言葉で医療・処置の内容を伝える〉ことで,患者自身が療養生活を具体的にイメージできるようサポートしていた.また,長い点滴時間に苦痛を感じる患者に対して,点滴の内容に合わせて投与速度を考慮し投与時間を短縮するなど,患者の希望が最大限叶えられ,治療も確実に行える形を〈患者の要望と治療をすり合わせる〉ことで創り出し,さらには患者が治療・療養を続けていく上で必要となるヘルパーやデイサービスといった資源を活用する時期を事前に見極め〈患者に合わせてチームを調整する〉姿がみられた.2つ目は,【治療を生活と結びつける】であり,『医師は科ごとの専門性で動いてしまうが一番大事なのは生活者で,どういうふうに生活ができるかというところまで考える』というように,医師が力を注ぐ治療に加え,今後患者がたどる病の経過と身体の変化による生活への影響を考え,下肢切断後の患者の傷の状態だけでなく,今後どのように社会復帰し義足で生活していくことができるのかといった〈治療の先にある患者の人生を見据えて動く〉姿がみられた.また,食生活が不規則なために食後1日3回の血糖降下薬の内服ではコントロール不良である糖尿病患者の内服薬を,1日1回の長時間作用型の薬剤に変更するといった,治療・療養行動が継続できるよう〈患者の生活に合わせた視点で治療を調整する〉役割を担っていた.3つ目は,【キュアを起点とした新たなケアを生む】であり,『神経障害がわかると血流障害がわかる.血流がわかると,心臓・頭・全身の血流がわかる』というように,キュアを含んだ実践を行う上で前提となるフィジカルアセスメントや薬剤に関する知識・技術に精通することにより,局所だけでなく患者の全身に意識が向き,〈キュアを起点として患者の全体像を把握する〉ことにつながっていた.さらに,『医師は科ごとの専門分野のことしか診ないが,全身をみると認知機能の状態や本人の一番理解しやすいコミュニケーション手段や,行動の癖から生じる身体の不調といったいろんなことがわかる』というように様々な情報を統合し,心不全の患者個々の心機能に応じた最適な運動量や休憩のタイミングを伝え,患者のセルフケア能力の獲得を促すなど〈キュアの知識・技術を患者教育につなげる〉姿がみられた.4つ目は,【従来のキュアの形を変化させる】であり,患者の身体に対する関心の高まりや,セルフケア行動の確立の状況を評価するといった看護独自の視点があるため,『医師は数字しか見ていないけれど,6ヶ月間で患者さんのHbA1cは変わらなくとも,心と態度が変わった』というように〈検査値には表れない部分でも治療を評価できることが強みになる〉ことで,医師とは異なる視点から患者の状態を捉え,広い視点で治療を評価することにつながっていた.さらに,治療に関する意思決定がなかなか行えない患者や,必要な療養行動を習得できない患者を,看護の視点からアセスメントし,『医師ではカバーしきれない部分を私たちがケアをしていく中で上手く道筋をつけていく』というように治療への納得の度合いや不安といった困難が生じている箇所に,時間をかけて丁寧に働きかけることで〈医学とは異なる角度から患者の変化を促す〉という働きもみられた.加えて『悪化させない予防であったり,家族が疲労しない予防であったり,すごく予防を注視しています』というように,長年多くの患者の傍に寄り添い,共にその病の軌跡を歩んできた経験と知識を活かし,予防的介入に力を入れていた.その結果,『医局の壁が邪魔をしてタイムリーに診療に結びついていなかったが,チームを組むことで悪化する前に介入できるようになった』というように患者の変化を見越し,状態の悪化の兆候を察知し〈予防医学の視点で介入ができる〉ようになり,今までは患者の状態が悪化してから治療を開始または変更していた従来のキュアのあり方に変化を起こしていた.これら4つは,キュアとケアをつなげるための中核要素であり,キュアの形を変え,ケアにさらなる広がりを生み出していた.

(4)効果

効果としては,【今までにない新たな看護の役割を担う】が抽出された.専門看護師は,キュアを含む実践に踏み出したことで,共に働く医師の個々の患者に対する思いや診療スタイルに対する理解を深めていた.さらには抗がん剤によるアナフィラキシーショックといった一刻を争う急変時では,ステロイド投与など医師が行う処置を予測し,医師の到着後ただちに治療を開始できるよう準備しておくことや,『患者さんが痛いと言う時には,その意味を医学的に共通した判断ができるところまで私の方で情報を収集します』というように看護師としてできる範囲の限界まで先回りをして行動し,〈自らの行動で“診療の補助”としてできることを広げる〉姿がみられた.それだけでなく,今までは通常,看護師が行うことのなかったキュアを含む役割を担ったことで,『「貴方だからやれるのでしょ」って言われるのは良くないので一般化していかないといけない』というように,看護師の役割として院内の全看護師が実践できるよう,その〈新たな取り組みを看護として定着させる〉ため,マニュアル化などに取り組む姿がみられた.それにより院内の看護師の役割が広がり,協働する他職種の意識に変化を生み出すなど組織を動かす存在となっていた.これは,看護師がキュアを獲得しケアと融合した実践を行うことによる効果といえる.

2)キュアとケアを融合した看護実践の内的構造

カテゴリー,各側面の相互関係から分析結果をまとめ,構造図(図1)を作成した.2つがそろうことでキュアとケアの融合に動き出し,キュアとケアを融合した看護実践の発端となる動因の2つをまとめて底辺に配置した.動因の上に,キュアとケアの融合が進んでいくために不可欠となる中核要素を中心に配置し,キュアとケアを融合した看護実践を継続し高めていくことを示すため,中核要素の周囲に支軸を配置した.さらに,キュアとケアの融合による効果を,全体を囲む四角で表現した.それにより,中核要素を中心として動因と支軸に支えられキュアとケアの融合は進み,各側面がそろうことにより,キュアとケアの融合が成立し,効果がもたらされるという内的構造が明らかとなった.

図1 キュアとケアを融合した看護実践の内的構造

Ⅴ.考察

1.キュアとケアの融合の内的構造

これまで看護師が役割拡大を行い,キュアを含んだ実践を行っている事実や効果は報告(井上,2011前原,2011)にとどまっていた.しかし今回,本研究の結果からキュアとケアを融合した看護実践における中核要素と,キュアとケアの融合を進め,維持していく要素が明らかとなった.

1)キュアとケアが結びつくことにより生まれた中核4要素

キュアとケアを融合した看護実践の中核にある4要素は,常に4つが同じ比重ではなく,実施する医療行為の種類や場面,対象に合わせて,重点が置かれる要素は変化していくと考えられる.例えば,病院から在宅に移行し,治療を続ける患者においては,ライフスタイルに合わせて点滴の種類や時間を調整し【患者に合わせた治療を創り出す】ことに,まず重点が置かれるが,在宅療養が軌道に乗った後はその人らしく在宅で療養を続けていくために,病気の進行やそれに伴う身体機能の変化を見越して医療処置実施のタイミングや生活環境の調整を行い【治療を生活と結びつける】ことが患者のQOL向上につながる.このように,中核要素1つ1つが異なる性質を持ち,補完し合うことで,患者一人一人に合わせた治療や療養生活の形を創り出していくことが可能となるのである.

また,看護師は生活支援者であり,キュアを行うにあたっては患者の抱える疾患だけでなく,病を抱えて生きる患者の人生や生活にまで目を向ける.そのため,看護師が診療の補助行為としてのキュアの実施に踏み出すことにより,治療や療養生活における患者の苦痛や困難が生じる前に先回りして調整することを可能にした.患者の生活スタイルに合わせて薬剤の服用方法を変えることや,下肢の潰瘍処置を行う際にその後の自宅でのセルフケア方法について指導することなどにより,生活と治療をつなげ,キュアをケアの一部として提供していた.これにより,同じキュアでも看護師と医師では異なる実施形態となり,従来の医療に変革を起こし,医療の幅を広げていくことにつながっていた.さらには,新たに踏み出したキュアに関する知識や技術をケアに応用することで,看護のさらなる可能性を見出し,看護のあり方にまで変化を生み出していた.

2)キュアとケアの融合を進め,維持していく要素

本研究の結果では,2つの動因と3つの支軸,さらにキュアとケアの融合によって起こる効果が明らかとなった.特に,周囲のニーズを自覚することに加えて自らがキュアを選択する点や,常に最新の知識と技術を提供できるよう自己研鑽を積む点,さらには院内で看護師の役割として定着させるために動き,組織に変化を生み出していくという点は,キュアとケアの融合以外の場面でも看護師が新たな領域に踏み出す際に,主体性を失わず実践を続けていくために不可欠であると考える.

また,効果として抽出された【今までにない新たな看護の役割を担う】は,急変時に医師の処置を予測し先回りをして準備をすることや,医師と看護師に共通したものである医学的知識に基づき情報を収集し医師の診断につなげるといった,今まではケアの範囲として認識されていなかった部分を,キュアとケアを融合した看護実践を組織の中で展開することにより可視化し,看護として確立していくという動きであった.これにより,早期に患者に適切な対応がなされ,医療を受ける患者の安全の確保や,チーム医療の推進の一助となる.こうした連携が展開されることは医師とお互いの役割を理解しあった関係の構築などにもつながっていくと考える.また,患者にとっての利点は医療安全の点からだけでなく,中核要素として抽出されている結果にもあるように,看護師が患者をみる際に医師とは異なる視点が含まれていることで,患者一人一人に合わせた治療や療養生活の形を創り出すことも大きい.さらに,今回の研究では裏付けとなるデータはないものの,効果はその他の各側面に影響を与え,循環している可能性があり,これによりキュアとケアの融合はさらなる広がりをみせ,深みを増し,看護ケアのさらなる発展につながるという流れを内的構造の中に生み出しているといえる.

2.看護師が新たな領域(キュア)に踏み出すこと

看護師がキュアを行うことに対しては,単なる医師の肩代わりとしてみられがち(日下,2012)であるが,本研究で明らかになったように,キュアを提供する専門看護師は単なる技術屋となる危険性を十分認識しており,インタビューの中でも,看護師としてキュアを含む実践を行うことの意義を自らに問い続け,活動している姿が垣間見えた.欧米においては医師が行う医行為と,看護師が行う医行為は明確に区別されている(Royal College of Nursing & Department of Health, 2005).同じく本研究の研究協力者も4つの中核要素により,キュアを単なる処置として終わらせず,付加価値を生み出しケアへとつなげることで,医師の行う医行為とは異なるものとしていた.これは,病と共に生きる人々の苦しみを知り,少しでもその負担を軽くしたいと願う看護師独自の視点があるからこそといえる.

3.キュアとケアを融合した看護実践の意義と発展

看護師にとって,新たなキュアを担うことは,単なる業務の追加ではなく,本研究で明らかとなった中核要素を用いて,医療行為の手段や形態を看護の視点で見直し,患者に合わせて治療や療養生活の形を再構築することであった.

本研究の研究協力者はすべて専門看護師であり,限られた裁量権の中から看護のさらなる可能性を見出し,キュアとケアを融合した看護実践を展開していくことには,大学院での教育や,実践を積み重ねていることが影響していたといえる.しかし,キュアとケアを融合した看護実践は,専門看護師にのみ限定されたものではなく,キュアとケアの両者を扱う看護師全体に関わるものである.本研究でキュアとケアの融合の内的構造が明らかとなったことにより,看護師全体がキュアとの融合を意識したケアの提供を行うことや,本研究で取り上げた以外のキュアに踏み込む際に応用することが可能といえる.それにより看護師として患者と関わる場面が増え,より多様な看護を行うことができるといえる.すでに,病院内に限らず,あらゆる年齢層にわたる多くの人々が,継続的なケアを必要としている.医療を看護師の視点から患者の生活に合わせて再構築していくことにより,現在行われている個別性を踏まえた看護を超える,患者の要望と治療をすり合わせ,一人ひとりのライフスタイルや思いに合わせたオーダーメイドの医療を創り出し,看護師がより多くの人々の生活を支えていくことが期待される.

Ⅵ.おわりに

キュアとケアを融合した看護実践は,“診療の補助”と“療養上の世話”の両者の役割を担う看護師独自の視点を活かした4つの中核要素を中心とした内的構造を持ち,それにより,患者の人生・生活を踏まえた治療や療養の形を生み出していた.さらにキュアとケアを融合することにより,看護の役割は広がりをみせ,看護師としてより多くの人々の生活を支えていく可能性が示唆された.

Ⅶ.研究の限界と今後の課題

本研究は限られた人数から得られたデータに基づく分析である.今後はより詳細な要素を明らかにするため,研究協力者数を増やし,様々な場で活動する看護師を対象とした検討が必要である.

Acknowledgment

本研究に快くご協力してくださいました研究協力者の皆様に謹んで御礼申し上げます.

本研究は,平成25年度東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士前期課程に提出した修士論文の一部を加筆・修正したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:AYは研究の着想からデータ入手・分析の実施および草稿の作成:ITは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.両著者共に最終原稿を読み,承認した.

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